12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/07(木) 03:00:20.60 ID:S7Lwfq2T0
「それでは少しお待ちください」
ベイダー卿の出した条件を自分ひとりでは判断しかねたのだろう、村長はルイズに向かって
軽く会釈すると、村人の輪の中に戻り、協議を始めた。
話し合いの中心は、村長とシエスタの父親であった。

取り立てて有力者にも見えないシエスタの父がどうして場の中心的役割を果たしているのか、
とルイズがいぶかしんでいると、シエスタが寄ってきて二人にそっと耳打ちした。
「竜の羽衣は、わたしの家の所有物なんです」
その一言に、ルイズだけでなくベイダー卿も驚いた様子で、シエスタの顔を覗きこんだ。

「昨夜ご馳走したシチュー、『ヨシェナヴェ』をこの村に伝えたおじいちゃんは、四十年近く前に
竜の羽衣で空を飛んでここにやって来たそうです」
「すごいじゃないの」
「でも、誰も信じなかったんです。おじいちゃんは頭がおかしかったんだって、皆言ってます」
「どうして?」
「誰かが言ったんです。じゃあその『竜の羽衣』で飛んでみろって。でも、おじいちゃんは飛べ
なくって。なんかいろいろ言い訳したみたいんなんですけど、そんなの誰も信じるわけなくて。
おまけに、もう飛べない、とか言ってこの村に住み着いちゃって。一生懸命働いてお金を作っ
て、そのお金で貴族にお願いして、竜の羽衣に『固定化』の呪文までかけてもらって、大事に
大事にしてました」

亡くなったのは、シエスタが十歳になるかならないかの頃だったという。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 03:06:23.73 ID:S7Lwfq2T0
「でも、竜の羽衣はあんたの村の名物なんでしょ? いいの?」
シエスタは頷いた。
「どのみち、管理にも困ってたみたいですし、ベイダーさんが欲しいって言うのであれば……」

そうこうする内に、話し合いは終わったようだ。
思ったよりも早かった。おそらく、最初から結論は出ていたのだろう。
シエスタの父が村長に代わって一同の前に進み出た。
「現金で報酬を支払うよう言われたら正直難しいところでしたが、あんなものでよろしければ
是非引き取ってください。それで村が救われるのならば、父もきっと喜ぶでしょう」

「ほら」とベイダー卿にだけ聞こえるように囁きながら、シエスタは彼の腰の辺りを肘でつついた。
「コーホー」
それに対して格別の反応は示さなかったものの、ベイダー卿にはある種の予感があった。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 03:11:16.60 ID:S7Lwfq2T0
「ただ……」
そこでシエスタの父はいったん言葉を切り、ちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「お求めの竜の羽衣は、一応この村の名物ということで、村外れに簡単な寺院を造営して
祀っているわけですが……、このたびオーク鬼たちが根城にしているのが、その寺院なの
です。ですから、オーク鬼を退治していただいてからでないと、ご覧に入れることができま
せんが、よろしいでしょうか」

ルイズは横目でベイダーの顔を見上げた。それを受けて、ベイダーは小さく頷いた。
ルイズも頷き返してから、シエスタの父に向き直った。

「それでいいわ」
契約は交わされた。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/07(木) 03:16:18.96 ID:S7Lwfq2T0
ルイズたち一行は、シエスタの案内で早速村外れの草原に向かった。
竜の羽衣を祀る寺院は、村の西にある草原の片隅にあるのだ。

オーク鬼たちは、日中は大体この寺院に籠もっているらしい。
彼らの生態は際立った夜行性を示すわけではないが、夜目の利かない人間は、暗闇の中
では彼らにとって格好の餌である。
ゆえにルイズたちは、昼間の内に襲撃することを選んだのだ。

村人たちはシエスタの同行にこぞって反対したが、彼女はそれを押し切った。
「いざとなったら、ベイ……貴族の皆さんに守っていただきますから」
そう言われると、村人も両親も頷かざるをえない。
何しろ、一行には四人のメイジがいるのである。彼らが大丈夫だと胸を張る以上、それに異を
唱えることは貴族の力を侮ることになりかねないからだ。
……残る一人の不気味な巨人については、判断の下しようがなかったが。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 03:17:39.00 ID:S7Lwfq2T0
「どうですか、この草原? とっても綺麗でしょう」
これから人食い鬼の巣窟に向かうというのに、どこかしらのどかな口調で、シエスタは言った。

なるほど、シエスタが見せたいと言ったとおり、綺麗な草原だった。
遥か彼方の山々まで草の絨毯が続き、所々に野花が咲いている。
初夏の爽やかな風が吹き抜けると、その形を写し取るかのように草花が揺れた。
ベイダー卿は、パドメと彼が秘密の結婚式を挙げたナブーの景色を思い出して、わずかの間
感傷に浸った。

そして、そんな風景の一角にぽつんと取り残されているかのような、飾り気のない建物に視線を
向けた。
鉄材の代わりに木が使われていることを除けば、寺院というよりはほとんど格納庫のような見た
目だった。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 03:22:14.45 ID:S7Lwfq2T0
「ベイダー、どう?」
身をかがめ草の陰に隠れながら、ルイズはベイダーに尋ねた。
「いるな。中に十五、六匹。村の周辺には感じられない。おそらく全員があの中だ」
「下手に突っ込むのは危険だし、何より竜の羽衣が損傷するかもしれないわよ」
と、キュルケ。タバサもこくこくと首を縦に振り、賛意を示した。

「囮を立てておびき出すしかないだろ……う?」
そう口にしてから、ギーシュはうかつなことを言ってしまったことに気づいた。その場の全員が、
彼に視線を注いでいた。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 03:27:08.74 ID:S7Lwfq2T0
一応の作戦を聞かされた後、ギーシュは三体のワルキューレを呼び出した。
三体とも、キュルケの炎の魔法で点火した松明を携えている。

「行くぞ」
ベイダー卿が合図をする。次の瞬間、その巨体は目にも止まらぬスピードで駆け出した。
「き、君たち、くれぐれもよろしく頼むよ……?」
それを見届けてから、蒼白な顔をしたギーシュがワルキューレを進ませた。ワルキューレと
一定の距離を取りつつ、ギーシュもその後を追う。距離が開くほど、ゴーレムに対する指令の
伝達効率は低下するのだ。

建物の入り口から二十歩の距離まで近づくと、ギーシュはワルキューレに松明を投げさせた。
寺院に延焼しないよう、注意して。

寺院からやや離れた場所に松明が落ち、その先端に灯る魔法の炎が生い茂った草に燃え移る。
建物の中から、ごそごそと不快な気配が伝わってきた。
「ぷぎぃ! ぴぎっ! んぐぃぃいいいっ!」
次いで、豚そっくりの鳴き声が聞こえてくる。
ギーシュは身をすくませた。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/07(木) 03:32:20.83 ID:S7Lwfq2T0
扉が失われ開きっぱなしの入り口をくぐって、三体のオーク鬼が姿を現した。
身の丈は二メイル、体重は、標準の人間の優に五倍はあるだろう。醜く太った体躯を、獣から
剥いだ皮に包んでいる。燃え盛る火を指差して、口々にわめき立てる。
火がある。つまり近くに人間がいる。敵であり、餌である。

早速ワルキューレとギーシュを見つけ、いきり立って襲いかかってきた。
狼狽したギーシュがワルキューレを突っ込ませるが、人間と同じくらいの大きさの棍棒を振り
回すオーク鬼に、あっという間に砕かれる。

「う、うひいいぃぃぃッ!」
ギーシュは踵を返し、マントを翻して走り出した。残り四体のワルキューレを呼び出す余裕も
ない。
必死で逃げるその背に、巨体に似合わぬ敏捷さでオーク鬼が追いすがる。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/07(木) 03:35:57.45 ID:S7Lwfq2T0
「行くわよ、ルイズ、タバサ」
キュルケの号令に、ルイズとタバサが同時に頷き、口々に呪文の詠唱を開始する。

キュルケの呪文が最初に完成した。お得意の、『火』と『火』の二乗、『フレイム・ボール』だ。
自分を目がけて飛んでくる大きな火の玉に気づいたオーク鬼は、驚くべき反射神経でそれを
かわそうとした。
しかし炎の塊は、あたかも糸で繋がれているかのように、オーク鬼をホーミングする。
咆哮を上げる口の中に飛び込んだ火球が、一瞬でその頭を燃やし尽くした。

続いて、タバサの『ウィンディ・アイシクル』が発動した。
『水』、『風』、『風』と、三つの系統を重ねた分だけ、やや呪文の詠唱時間が長い。
空気中の水蒸気が凍りつき、何十本もの氷柱の矢となり、四方八方からオーク鬼を串刺しに
した。
攻撃を受けたオーク鬼は、瞬時に絶命した。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/07(木) 03:40:54.68 ID:S7Lwfq2T0
「ルイズ、早くしてくれ!」
残る一体から追いかけられるギーシュが情けない声を上げた。
その懇請に応えるかのように、ルイズが杖を振り下ろす。

ルイズが唱えたのは何の変哲もない『ファイヤーボール』の呪文だったのだが、絶対に失敗
しないようゆっくりと集中して詠唱した結果、完成が一番遅くなってしまったのだった。
そして……、ギーシュもキュルケもタバサも半ば予想済みではあったが、眼前で爆発を起こ
されたオーク鬼が勢いよく後方に吹っ飛んだ。
ルイズの魔法は、また失敗したのであった。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/07(木) 03:45:35.09 ID:S7Lwfq2T0
三匹の仲間が倒されるのを目の当たりにした残りのオーク鬼たちは、口々に悲鳴とも怒号とも
つかぬ雄叫びを上げ、我先に建物の入り口から飛び出してきた。

囮を使う戦術と魔法の発動する頻度から、敵は数人のメイジと判断された。
メイジとの戦いは一瞬で決まることを、オーク鬼たちは長い人間との戦いを通じて、覚えていた。
敵はまだこちらの正確な数を把握できてはいないはずである。
ならば最大戦力で一気に片をつけるのが最も確実である――そう彼らは考えた。

草原の中ではなく、寺院の屋根の上にこそ最大の脅威が存在することに、オーク鬼たちはまっ
たく気づいていなかった。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 03:48:11.30 ID:S7Lwfq2T0
最後の一匹が入り口から出たのを確認すると、ベイダー卿はあらかじめ飛び移っていた寺院
の屋根から勢いよく跳躍した。
空中で軽やかに身を翻し、ひとかたまりになってルイズたちの方に突撃しようとするオーク鬼
の真っ只中に舞い降りる。

まず、突然目の前に降り立った影に立ちすくんだ一匹が、ライトセイバーの一振りで首を刎
ねられた。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 03:52:24.37 ID:S7Lwfq2T0
最初に犠牲になったオーク鬼が断末魔に上げた悲鳴が、先行しかけた数匹の注意を背後に
引き戻した。
彼らが振り向けば、いつの間にか群の真ん中に黒い人影が出現していた。

その手には赤く輝く光の刃。
背丈は彼らと同程度に高いが、体躯はずいぶん見劣りする。
見慣れぬ不気味な姿ではあったが、人間の戦士の膂力など、彼らにとってみれば問題外で
ある。
細身の剣ではこの一撃を受けきることはできまい――そう判断して、まず一匹のオーク鬼が
巨大な棍棒を振り上げようとした。

そして、自分の右手が付け根から失われていることに気づいた。


その一匹が上げた悲鳴と共に、一方的な殺戮が開始された。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[>>33ガクブルなんだぜ] 投稿日:2007/06/07(木) 03:57:09.24 ID:S7Lwfq2T0
手柄を立てようとしたギーシュがワルキューレを突撃させたものの、その到着よりも早く決着は
ついていた。
オーク鬼は文字通り瞬く間に掃討された。

「十二匹のオーク鬼が三分足らずで……。すごいです、ベイダーさん!」
シエスタが興奮で顔を赤らめてベイダー卿のもとに駆け寄った。

「三分っていうか、三十秒? やっぱ強さだけは大したものね、あなたの使い魔は」
ルイズに向かってそう言い、キュルケが肩をすくめた。
タバサは無言で歩き出す。
ルイズの失敗魔法では仕留め切れなかった一匹に、ギーシュが四体のワルキューレの一斉
攻撃で止めを刺した。

全員がまとまってから、一行は寺院の入り口を目指して歩き出した。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 04:03:40.16 ID:S7Lwfq2T0
初夏の日差しに慣れた目には、窓のない建物の中は実際以上に薄暗く感じられた。
もっとも、光学センサー越しにしかものを見られないベイダー卿にはあまり関係がない。
ベイダー卿は竜の羽衣を一目見るなり、自分の予感が半ば当たっていて、半ば外れていた
ことに気づかされた。

「これが竜の羽衣ぉ? 見た目はなかなか立派だけど、こんなものが飛ぶわけないじゃない」
ようやく目が慣れたキュルケが、竜の羽衣を眺めながら言う。ギーシュも頷いた。
「まったくだ。これは鳥か何かを模したおもちゃだろう? 大体見ろ、この翼を。どう見たって
羽ばたけるようにはできていない。それにこの大きさ、ドラゴン並じゃないか。ドラゴンだって、
ワイバーンだって、羽ばたくからこそ空に浮かぶことができるんだ。なにが『竜の羽衣』だ」
ギーシュは竜の羽衣を指差して、もっともらしい講釈を垂れた。
そしてそれは、多かれ少なかれ、その場にいた全員の共通見解でもあった。

……ただ一人、ベイダー卿を除いては。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 04:08:57.77 ID:S7Lwfq2T0
「ふむ……」
そのベイダー卿も、珍しく戸惑った様子で竜の羽衣の周りを歩いていた。
そして時折、ライトグレーの塗装を施されたその形姿を見上げる。

数日の間オーク鬼たちの暴虐にさらされていたせいで、だいぶ破損が見られた。
とりわけ翼の損害は致命的で、全体にわたって相当の修理を施さなければ飛べそうにはない。

この『竜の羽衣』が、ハルケギニアの技術を遥かに超越したものであることは一目瞭然だった
が、同様にその設計思想がベイダー卿の知る銀河系のものとも異なっていることも、すぐに
わかった。
一言で表現すれば、竜の羽衣の製造に使われた技術は、まだまだ原始的なものと言って差し
支えなかった。

まず、どう見てもリパルサーリフトが搭載されていない。
離陸も推進も、後部に取り付けられたノズルの推進力と、翼が生み出す揚力に頼るようである。
ベイダー卿にしてみれば、ずいぶん非効率的な飛行方法と言えた。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/07(木) 04:19:01.84 ID:S7Lwfq2T0
ベイダー卿は竜の羽衣の表面に触れてみた。すると、左手の甲のルーンが輝き出す。
なるほど、こいつも『武器』には違いない。胴体下部に装備された機関砲の砲身を見つめて、
ベイダーは思った。

ルーンが光ると、中の構造、操縦法が、ベイダー卿の頭の中に鮮明なシステムとして流れ
込んでくる。もちろん、大まかな性能も把握することができた。

(最高速度は亜音速。大気圏内で飛ぶのには十分か。エンジンは……燃料と酸素の混合物
を燃焼する方式……、宇宙空間の飛行は無理だな)
ベイダー卿は少しだけ落胆した。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/07(木) 04:25:05.00 ID:S7Lwfq2T0
ただ、離着陸の方式が独特なのが幸いだった。

もし純粋に揚力だけで離陸するのであれば、滑走路を整備するのにずいぶん手間がかかり、
現実的な運用はほぼ不可能であろう。
その点、この竜の羽衣は、エンジンノズルの向きを調節して、垂直に離陸することも可能で
あるらしかった。

(なるほど、そのおかげでこの草地に着陸できたわけだな。飛べなくなった理由は、燃料の
不足と、未整地に着陸した際のエンジンの破損か。これは僕が多少手を加えればなんとか
なるな)

失望は小さくなかったが、喜悦と期待がそれを上回った。何はともあれ、これで飛ぶ目処は
立ったのだ。

「コーホー」
『竜の羽衣』に触れるなり黙り込んでしまったベイダー卿をどう扱っていいかわからずに、
ルイズたちはただただ硬直していた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年06月07日 07:53