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526名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:45:58 ID:k4Li5m8g
その日の教室は、いつもより少し静かだった。
「あれ?智は?」
騒ぎの中心にいるはずの姿が見えない。
「あ、今日は熱でお休みだって先生が言ってましたよ」
「熱?」

暦が驚くにはわけがある。
小学校から今まで、彼女の病欠は数えるほどしかない。
だいたい、少しくらいの病気は元気でカバーするような人間だ。
風邪をひいたくらいでは、なかなか学校を休んだりはしない。

・・・しかし、それだけに、彼女が欠席するときは相当ひどいときでもある。
「帰りにお見舞いに行きましょうか」
「いや、大丈夫だろ。ズル休みかもしれないしな」
今すぐにでも行って看病してやりたい気持ちを抑えて、暦はつぶやいた。



放課後、暦は誰よりも先に教室を飛び出していた。
今日は一日がひどく長く感じられた。
授業中は、智のことが心配で何も頭に入らなかったような気がする。
校門を出ると、暦の足は自然と智の家へ向いた。
(大丈夫かな・・・智)


夕方、日が沈むまでにはまだ早い。
彼女の家が少し遠くに見えた頃、暦は走り出していた。

527名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:46:47 ID:k4Li5m8g
「智。大丈夫か?」
彼女の部屋は、閉め切ったカーテンで真っ暗だった。
「よみ・・・?来てくれたの?」
智が起きている事を確認してから明かりをつける。
「ん~・・・まぶしいよ」
蛍光灯に照らされた彼女の顔色は、案の定普段のものとは全く違う。
青い顔とぼさぼさままの髪が、病人らしさをより一層際立てていた。
「熱、まだだいぶあるの?」
ベッドに腰掛け、智の額に手を当てる。
当てられた手がひんやりと気持ちよかったのか、うつろな目はゆっくり閉じられた。
「朝よりは下がったと思う・・・」
けだるそうに言う彼女のおでこから手が離れ、今度は固いものが当たる。
少し驚いて目を開けると、智の目の前には眼鏡をかけた少女の顔がいっぱいに広がっていた。
「うーん・・・あんまわかんないや」
額をあわせたまま笑う。
「風邪、うつっちゃうよ」
呆れたように笑う智は、それでも少し嬉しそうだった。
「うつせよ」
頭をずらし、耳元で囁く。
「うつせば治るって言うじゃん。智のつらいのが治るなら、変わってあげてもいいよ」
暦はそのまま肩に頭を預けると、左腕を智の首の下に回した。
「よみのほっぺ、冷たくて気持ちいい・・・」
声は力ないが、頬をぐっと暦の方へ摺り寄せてくる。
暦は彼女の背中に右腕を回すと、いつもより強い力で抱きしめた。

528名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:47:54 ID:k4Li5m8g
「よみ、そこのタオル取ってくれない?おでこにのせるから」
ベッドの横には、洗面器につけられたハンドタオルが何枚かあった。
暦はそれをしぼり、一度綺麗にたたむ。
「汗、拭いてやるよ。暑いだろ?」
覆いかぶさって掛け布団を取ろうとすると、智は少したじろいだ。
シーツの端をぎゅっと握って布団がめくれないようにしている。
「どうしたんだよ?べたべたのままじゃ気持ち悪いだろ」
暦は既に額や頬の汗を拭き始めている。
「・・・お風呂、入ってないから。昨日。・・・だるくて」
目をそらしながら小さな声で言う。
「いいよ別に。今更何恥ずかしがってんだよ」
軽く笑いながら、暦の手は首元まで下がってきていた。
「ほら、布団離して」
強引に引っ張ろうとするが、智は手を離そうとしない。
暦はふうとため息をついて、智の額を包むように優しくなでた。
「・・・バカ。こういうときは、甘えればいいんだよ」
言い終わると同時に、柔らかく噛み付くようなキスをする。
握った手のひらに軽く触れてやると、彼女はシーツから手を離した。

529名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:49:00 ID:k4Li5m8g
「ボタンはずすよ」
「・・・あんまり顔近づけないでよ」
露になった上半身は、予想以上に熱く湿っていた。
熱は多少引いたとはいえ、かなりつらそうである。
暦は左手を彼女の額に置き、右手で汗を拭ってやった。
今水に浸けたタオルがすぐに熱を帯びてくるのがわかる。
「どう?マシになった?」
智はよほど気持ちよかったのか、目を閉じて動かなくなってしまった。
深めの息だけが聞こえる。
「ほらね。やっぱ気持ち悪かったんだろ?」
返答の無い彼女の額を、暦は優しくなでてやる。
その表情は、看病されている智よりずっと幸せそうだった。

「お大事に」
なでていた手をそっと離すと、暦は智の額に軽くキスをした。
本当なら付きっ切りで彼女を看病したいところだが、そうもいかない。
眠ってしまった智を起こさないように、新しいタオルをのせる。
「じゃあな」
暦が名残惜しそうに出て行った後の部屋には、幸せそうな寝顔の少女だけが残されていた。


「おっはよー!」
「あ、智ちゃん。治ったんですね」
「ん?あぁ。まだちょっとだるいけどね。・・・あれ?よみは?」
「今度はよみさんがダウンしちゃったんですよー。最近風邪が流行ってるみたいで・・・」
智は、心配そうなちよちゃんをよそに、ため息混じりに笑っていた。
「帰りにお見舞いに行きましょうか・・・」

「いや、大丈夫だろ。ズル休みかもしれないしな」

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