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471名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:51:23ID:hiwjenlM
3月も終わりに近づいたある日。
「…来てくれたんだ」
通勤ラッシュの終わりかけた駅前に、二人の少女が立っていた。

「我慢できなくて…迷惑だったかな?」
「…ううん。すごく嬉しい」
春休みとあって、平日にしては人通りが多い。
皆、この陽気にじっとしていられなかったのだろう。
「誰にも教えてないなんて水臭いぜ」
少女は不機嫌そうな顔をする。
「…みんな忙しいと思って。独り暮らしの準備とか」
「私は実家だっつーの」
そっぽを向いてふくれてしまった少女に、彼女はごめんと小さく呟いた。

472名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:52:05ID:hiwjenlM
出発まではまだまだある。
まだまだあるが…。
その時が来てしまえば、電車は彼女を乗せて遠くへ行ってしまうのだろう。
週末だからって簡単には訪れることのできない、田舎の大学。
次に会えるのはいつかわからない。

二人の時間が少しずつ減っていっている…そんな雰囲気が少女に口を開かせた。
「いつ帰ってこれるんだよ」
遠くを見たまま尋ねる。
「落ち着けば」
答える彼女は穏やかに微笑んでいた。

「…そうか」
少し呆れたようなため息をついて、少女はうつ向いてしまった。

こんな晴れた日に、こんな湿った空気を帯びた場所があるだろうか。
旅立ちを祝うためにここに来たはずなのに。
会えなくなるわけじゃないとわかってるのに。
こんなに寂しいのは、彼女を信じていないから…?
…いいえ、きっと大切に思うから。

473名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:52:51ID:hiwjenlM
「榊…」
顔をあげた少女の目に映った世界は、涙でぼやけていただろう。
「寂しいよぅ…」
言うつもりではなかった言葉が口をつく。
昨日出尽くしたはずの涙も、どこからか、あふれてくる。
「嫌だよ…榊…」
愛しい人に向かってふらふらと歩きだした少女を、長く白い腕が抱きとめた。

「うぇ・・・榊…さか…きぃ…」
「よしよし・・・」
「私のこと・・・うっ、忘れんなよ・・・」

少女は自分で、馬鹿なこと言っているな、と思った。

「・・・行かないでよ・・・。榊ぃ・・・。」

でも、今日は感情的になりたかった。

「マヤーが・・・羨ましいよぅ。・・・私も、榊と、・・・一緒にいたい・・・う・・・ひくっ」
「大丈夫・・・。すぐ戻ってくる」
「嫌だ!明日も・・・榊と・・・うあ・・・うぅ・・・」

泣きじゃくって甘えたかった。

「好きだから・・・さがき・・・ずぎだよ・・・あうぅ・・・」
「・・・わかってる。私も大好きだよ」

嗚咽と涙でぐちゃぐちゃになった少女は、もう何を言っているのか自分でもわからなかった。
もうすぐ来るであろう別れに備えて、大好きな人を両腕で固く抱くのが精一杯だった。

474名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/04(金) 23:53:49ID:hiwjenlM
長身の彼女は、人目を気にしながらも…確実な幸せと、切ない感傷に浸っていた。
「ありがとう…。こんなに可愛い子に待たれてちゃあ…」
真っ赤な目が見上げる。
「早く帰ってこないとな」
穏やかな日の光の射す春先の駅前で。
涙を流す二人の表情は、やっと季節に見合うものになっていた。


「もう行かなくちゃ」
向けられた笑顔に、少女も最後ばかりは涙を見せるべきでないと判断したのだろう。
「・・・帰ってくるときは連絡しろよ」
笑ってみせる。
彼女はうん、と頷くと、もう一度顔を近づけた。
「じゃあまた!」
「ああ」
いつもの笑顔に戻った少女は、小さくなる後姿をずっと見つめていた。

彼女の匂いと唇の感触だけが、まだ少し残っていた。