※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

228名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 22:14:00ID:fGunE2WE
 朝靄

 千にも届きそうな星達が瞬く深い夜が終幕に近づき、東の空の端が僅かに白み始めた頃……
「ん…… 」
 美浜ちよは目を覚ました。
 何度か瞬きを繰り返し、小さな身体を引き起こすが、時計の針はまだ暗くて見えない。
 目を凝らしてあたりを見渡すと、幾つかの布団の端から足や手がはみ出していて、それとともに
寝息が耳朶を叩いている。
 数度首を振って眠気を追い出すと、布団からゆっくりと起き上がり窓に向かって歩いていく。
 美浜家が所有する別荘の窓からは大海原を望むことができるが、まだ周囲は暗い。
 近海を行き交う幾つかの船舶の先端から瞬く光が見え ――
 すぐ傍で、セミロングの少女がぼんやりと海を眺めていた。

「大阪さん…… 」
「あーちよちゃん。おはようさん」
 大阪とよばれている少女は静かに微笑む。

 どくん……
 ちよの心臓が小さく動いた。いつもと変わらない穏やかな笑顔なのに。
「もう、起きたんですか」
 問いかける声が何故か掠れてしまう。

229名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 22:15:07ID:fGunE2WE
 ちよは、吸い寄せられるように大阪の脇に座る。
「あはは、なんか眠れーへんくってなあ。あ、でもこれは早起きかもしれへん。早起きは
三文の得ってゆうねんで。ほんでも三文くらい貰ってもしょーがあらへんなあ」
 いつもどおりの、のんびりして不思議な親友の口調だったけど、ちよは顔を赤らめてうつむいて
しまった。
(どうしてなんだろう)
 心の中に生じた疑問に回答を見出そうと思考をめぐらし、豊富な知性はすぐに答えを出した。
脳裏には、昨夜の黒沢先生の話が鮮明に蘇っていた。
 したたかにお酒に酔って、はしゃいでいる先生はいつもの冷静で優しい先生ではなかったが、
彼女の刺激に満ちた話が、ちよのちょっとした好奇心と誘惑を芽生えさせて、瞬く間に押さえ
切れなくなってしまう。
「大阪さん。あの、その」
「なんや。ちよちゃん」
 こんな事言っていいのだろうか。心の中で激しく葛藤する。もしかしたら変に思われてしまう
かもしれない。でも、たぶん『大阪さん』なら許してくれると思う。

「あのっ、キスってどんな感じなんですか」
 言ってしまった。ちよは、飾り気の無いTシャツにプリントされた、にんじんの上に手を
下ろして、ため息をついた。

230名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 22:16:21ID:fGunE2WE
 しばらくの間。大阪は、大きく瞼を見開きながら、二回りも小さい少女を見つめていたが、
やがて、ゆっくりとちよの頭の後ろに手を回す。
「大阪さん? 」
 優しい手付きに心地よさを覚えながらも、あたふたした声をあげた少女に、大阪は漆黒の
瞳を輝かせて、悪戯そうに耳元で呟く。
「ちよちゃんは、子供やからちょっと早いかもしれへんけどなあ。どないするん? 」
 子供という言葉に、無性に反発を感じて頬を膨らましながら、強い口調で言い放つ。
「私、子供なんかじゃありません」
「ほんなら経験してみる? 」
 大阪との距離はいつの間にか既に数センチ。ちよは小さく頷いた。

「ん……」
 前触れも無く唇が塞がれて、少しだけ湿ったやわらかい感触が届く。
「んんっ……」
 少しずつ周囲が明るくなり、闇が光に追い払われる中、二人の少女の喘ぎ声が部屋の端から
漏れる。そして、可愛らしい二つの唇が重ね合わせてから、きっかり1分後 ――

「ぷはっ」
 息をとめることに耐え切れなくなり、ちよは唇を離して大きく息を吐き出した。
 今までキスをしていた、目の前の同級生を見上げると、先程と同じ柔らかい微笑が
視界に映っている。

231名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/15(日) 22:17:36ID:fGunE2WE
 大阪は、ちよのお下げを興味深そうな瞳を浮かべたままいじっていたが、やがて小さく
ため息をついて感想を漏らした。
「今日は、私がタチでちよちゃんがネコやったなあ」

 華奢な腕を組みながら何度か頷く。
 言葉の意味が分からずに、ちよは首をひねって尋ねる。
「あの。タチって何ですか」
「あれえ、にゃも先生が昨日言ってたねんで」
「でも、大阪さんが大人になったら分かるって」
 少し頬を膨らましたちよに向かって、大阪は短い舌をほんの少しだけ出した。
「ちよちゃんはもう大人だから。もう、にゃも先生に聞いてもええねんで」

(終わり)