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187名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 01:52:25ID:Ao7TvjXZ
かなり軽めのよみ×さかを。



「あ、榊じゃん。どした?」
彼女と積極的に話そうとしたきっかけは、決して良いものではなかった。
「君は……何をする、つもりなんだ」
「え、私?んー、なにって言われても」
私がよく知る五人の中でも二番目に常識的、もちろん一番はちよちゃんだが、
と思われた彼女、水原暦。
方向性が意外と似通っていて、逆に親交が薄かったのは仕方がないことかもしれない。
自分の性格上、そんなに多くの人とは関わっていられないのだ。
「面白いからやっちゃうのよね」
話は昼休みにまでさかのぼる。
しゃっくりをしていた春日さんに神楽が殴打を仕掛けたところからは直接見ていた。
結局ちよちゃんに移ったというべきかそうでないか、当然感染症でもないものが
人から人へ移ることはないのだが、放課後も心配で心配でたまらなかった。
比較的早くに治まったので経緯を聞いてみたところ、私の前にいる人が
原因だと知り、帰り際に聴取しに来た次第だ。
「で、何?言ってみな」
「いや、だから。あんまり、ああいう、事を、するのは」
やや高圧的な彼女の話し振りに対し、自分自身のゆっくりとした途切れ途切れの口調。
「それはともに言ってくれよ」
確かにそれはそうなのだが、神楽や滝野さんには明確な悪意が感じられない。
多少やり方や人付き合いが荒いからというようにだけ見えるのだ。
それに対して、
「別に中学校とかじゃ、こんなの普通だったし」
今回の行動には、意図や計略というものが感じられたのだ。
たとえそれが一時の思いつきだったとしても。



188名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 01:54:06ID:Ao7TvjXZ


「わざわざ言いに来るほどでもないんじゃないの?」
「でも、あの、前も……吊り下げて」
「ん?あー、てるてるちよちゃんか。あれもともじゃん」
「隣にいるんだったら、止め」
私の言葉はここで意図せず中断された。
肩に両手を乗せてきて、目の前10cm以内に近づいた彼女の不敵な笑みにたじろいだからだ。
「へっへー。それで?あなたも止められなかったでしょう。知ってるよ」
「うっ」
痛いところを突かれた。あの時はどうしていいのか分からなかったのだ。
「まあでも、そういうところも好きだよ、榊」
顔を近づけたまま、一転して口調を変える彼女。何を言っているのだろうか。
「とりあえず、ありがと。榊さん」
呼び方が変わったことの意味も、感謝される理由も分からないでいた。
「こんなことだけど、話に来てくれて。ちょっと私からは話しかけづらくてさ」
位置関係が元に戻る。
理解しきれていない私に、彼女は別の話題を切り出した。
「動物とかが好きだって、本当?」
「うん」
「熊とかは?」
「好き」
「じゃあ今度、北海道に行けるようになったら土産に買っといてやるよ。いつかは分からないけど」
北海道、たしかにあの場所はキタキツネやエゾシカ、ヒグマのような
本州と違う形態のかわいい動物たちがいる。それもいいかもしれない。
「気長に待っててくれ」
それにしても、この人と私の接点は正直あまりないのだが。




189名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 01:54:38ID:Ao7TvjXZ


「会話する機会がめったにないから、今のうちに一つ」
次は何が始まるのか。
「私は、『榊さん』に近づきたいと思っている。
 でも、『榊』が私に近づいてほしい、とも思っているんだ」
突拍子もない宣言に、ただただあっけに取られているしかなかった。
「ダイエット、始めてるんだ。成功してないけど」
いや、今の彼女は十分均整の取れたスタイルをしている。
「え、あんまり、適正以上に……減らしたら、だめだ」
「そう?でもね、適正じゃないのよ。もっと榊さんに近づかないと」
そう言っていた彼女の顔は、確かに本気だった。
「榊にはわからないかもしれないけれど、私は『榊さん』だけじゃなくて『榊』も好きになりたいんだ。
 だから、もう少し一緒に話そう」
両目を眼鏡越しに見つめながら語りかけている。
「今日最後だけど、これは冗談って思ってもいいよ。
 あんたが本気にしてくれるだなんて思ってないから」
「き、君は」
再び言葉が断ち切られたのは、唇に一瞬軽い圧力を感じたから。
「君はどうして」
「今ので分かるでしょ」
私に触れたのは、間違いなく同じ彼女の唇だった。
「じゃあね。予定あるから」
謎を残したまま、彼女は颯爽と去っていった。

それ以来私の見る目はある程度変わり、彼女とも多少は打ち解けて会話するようになったが、
ここで交わされた土産の約束が不本意な形で実現したあの日まで、発言の真意はわからないでいた。

〈とりあえず終〉

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