「644」(2007/06/07 (木) 22:48:18) の最新版変更点
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<p><dt><a href="menu:644" target="_top" name="644"><font color="#0000ff">644</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:56:22 ID:lf5k8FxE </dt><dd>薄暗い部屋の原因は、閉めきったカーテンのせいだろうか。 <br />
昨日までの暑さが嘘のような涼しい土曜日。 <br />
風だけが通り抜ける昼過ぎの静かな空間は、二人で占領するには少し広すぎるのだろう。 <br />
彼女達は、モノクロの部屋に彩りを加えるかのように、寄り添って座っていた。 <br />
「水原?」 <br />
肩にもたれかかって目を閉じる少女は、呼ばれた方を向かずに瞼を上げる。 <br />
「…何?」 <br />
「あの花は…?初めて見た」 <br />
視線の先には、黒い小さな花瓶にささった桃色の花があった。 <br />
小さな花が集まって、丸い、可愛らしい花房をつくっている。 <br />
無機質な家具に囲まれ、棚の上で異彩を放つその花を見て、部屋の主は不思議そうな顔をしていた。 <br />
「誕生日にもらったんだ。…何ていったかな?」 <br />
何か他に気になることがあるのか、それとも本気で忘れてしまったのか…。 <br />
少女の瞳はどこか宙を見ている。 <br />
「忘れちゃった……。それより、」 <br />
ぐっと腕を引くと、何かを思い出したように不機嫌そうな顔を上に向ける。 <br />
「水原じゃなくて…」 <br />
「こよみ」 <br />
遮るように言い直すところをみると、今までも何度か同じことを言われたのだろう。 <br />
こよみと呼ばれた少女は、訂正に満足したのか、再び目を閉じてゆっくりと息をはいた。 <br />
<br />
背中を覆う黒と栗色の長髪は、二人が近付くにつれ絡み合い、その境界線を曖昧にする。 <br />
交わりあった部分は、どちらのものともとれない、淡い、優しい色をしていた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:645" target="_top" name="645"><font color="#0000ff">645</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:57:10 ID:lf5k8FxE </dt><dd>彼女達は、暇さえあればお互いの部屋でこうして過ごしている。 <br />
外で遊ぶことを嫌がっているわけではないが、今はこうして体温を感じ合うことが喜びだった。 <br />
「榊」 <br />
自分を姓で呼ばれることに抗議した少女は、それを忘れたのだろうか。 <br />
違和感なく彼女に名字で呼び掛けた。 <br />
…ただ、言われた榊も不満を見せるそぶりは無い。 <br />
暦に抱きつかれているのとは反対側の手で彼女の頬をそっと覆う。 <br />
薄赤く染まった少女の肌に、細く長い指が触れた瞬間、二人の間を青い風が通り抜けた。 <br />
桃色の花房は首を傾げるように揺れ、それを横目で見る榊の前髪もふわりと乱れる。 <br />
「…髪」 <br />
暦はなびいたカーテンから射す光に、少し眩しそうに目を細めると、榊の額にかかる髪を指先で撫でた。 <br />
一方は額へ、一方は頬へ…、少女達の間でお互いの白い腕が交差している。 <br />
「よそ見してんじゃねぇよ」 <br />
花へと向けられた視線に冗談ぽく囁きかけると、少女はその腕を榊の首の後ろへと回した。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:646" target="_top" name="646"><font color="#0000ff">646</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:58:03 ID:lf5k8FxE </dt><dd>暦は榊と二人でいるときの、そのうっとりとするようなお洒落な雰囲気が好きだった。 <br />
彼女が自分のことをどう思っているか、口に出すことはほとんどない。 <br />
ただ、好きという言葉に乗せることができる愛情などたかがしれている… <br />
彼女の笑顔が、指先が、唇が、自分に向いているだけで充分… <br />
そんな歯が浮くような台詞さえも、今の暦には物足りない。 <br />
愛しい人と肌が触れているという事実が、彼女にとって全てだった。 <br />
<br />
そよ風の中で、二人の少女は寄り添ったまま動かない。 <br />
なびく髪の先だけが、この部屋の時が止まってはいないことを知らせていた。 <br />
<br />
「あ、思い出した」 <br />
肩越しに囁いた暦は、やけに嬉しそうな顔をしている。 <br />
「花の名前?」 <br />
「ううん…花言葉」 <br />
榊を抱き締める腕の力を緩め、うふっと笑う。 <br />
「いや、やっぱ教えない!」 <br />
擦り寄せた頬に幸せの色を浮かべる少女の隣で、小さな花が揺れている。 <br />
<br />
《おわり》 <br />
</dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:644" name="644"><font color="#0000ff">644</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:56:22 ID:lf5k8FxE</dt><dd>薄暗い部屋の原因は、閉めきったカーテンのせいだろうか。<br />
昨日までの暑さが嘘のような涼しい土曜日。<br />
風だけが通り抜ける昼過ぎの静かな空間は、二人で占領するには少し広すぎるのだろう。<br />
彼女達は、モノクロの部屋に彩りを加えるかのように、寄り添って座っていた。<br />
「水原?」<br />
肩にもたれかかって目を閉じる少女は、呼ばれた方を向かずに瞼を上げる。<br />
「…何?」<br />
「あの花は…?初めて見た」<br />
視線の先には、黒い小さな花瓶にささった桃色の花があった。<br />
小さな花が集まって、丸い、可愛らしい花房をつくっている。<br />
無機質な家具に囲まれ、棚の上で異彩を放つその花を見て、部屋の主は不思議そうな顔をしていた。<br />
「誕生日にもらったんだ。…何ていったかな?」<br />
何か他に気になることがあるのか、それとも本気で忘れてしまったのか…。<br />
少女の瞳はどこか宙を見ている。<br />
「忘れちゃった……。それより、」<br />
ぐっと腕を引くと、何かを思い出したように不機嫌そうな顔を上に向ける。<br />
「水原じゃなくて…」<br />
「こよみ」<br />
遮るように言い直すところをみると、今までも何度か同じことを言われたのだろう。<br />
こよみと呼ばれた少女は、訂正に満足したのか、再び目を閉じてゆっくりと息をはいた。<br />
<br />
背中を覆う黒と栗色の長髪は、二人が近付くにつれ絡み合い、その境界線を曖昧にする。<br />
交わりあった部分は、どちらのものともとれない、淡い、優しい色をしていた。<br />
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</dd><dt><a target="_top" href="menu:645" name="645"><font color="#0000ff">645</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:57:10 ID:lf5k8FxE</dt><dd>彼女達は、暇さえあればお互いの部屋でこうして過ごしている。<br />
外で遊ぶことを嫌がっているわけではないが、今はこうして体温を感じ合うことが喜びだった。<br />
「榊」<br />
自分を姓で呼ばれることに抗議した少女は、それを忘れたのだろうか。<br />
違和感なく彼女に名字で呼び掛けた。<br />
…ただ、言われた榊も不満を見せるそぶりは無い。<br />
暦に抱きつかれているのとは反対側の手で彼女の頬をそっと覆う。<br />
薄赤く染まった少女の肌に、細く長い指が触れた瞬間、二人の間を青い風が通り抜けた。<br />
桃色の花房は首を傾げるように揺れ、それを横目で見る榊の前髪もふわりと乱れる。<br />
「…髪」<br />
暦はなびいたカーテンから射す光に、少し眩しそうに目を細めると、榊の額にかかる髪を指先で撫でた。<br />
一方は額へ、一方は頬へ…、少女達の間でお互いの白い腕が交差している。<br />
「よそ見してんじゃねぇよ」<br />
花へと向けられた視線に冗談ぽく囁きかけると、少女はその腕を榊の首の後ろへと回した。<br />
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</dd><dt><a target="_top" href="menu:646" name="646"><font color="#0000ff">646</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:58:03 ID:lf5k8FxE</dt><dd>暦は榊と二人でいるときの、そのうっとりとするようなお洒落な雰囲気が好きだった。<br />
彼女が自分のことをどう思っているか、口に出すことはほとんどない。<br />
ただ、好きという言葉に乗せることができる愛情などたかがしれている…<br />
彼女の笑顔が、指先が、唇が、自分に向いているだけで充分…<br />
そんな歯が浮くような台詞さえも、今の暦には物足りない。<br />
愛しい人と肌が触れているという事実が、彼女にとって全てだった。<br />
<br />
そよ風の中で、二人の少女は寄り添ったまま動かない。<br />
なびく髪の先だけが、この部屋の時が止まってはいないことを知らせていた。<br />
<br />
「あ、思い出した」<br />
肩越しに囁いた暦は、やけに嬉しそうな顔をしている。<br />
「花の名前?」<br />
「ううん…花言葉」<br />
榊を抱き締める腕の力を緩め、うふっと笑う。<br />
「いや、やっぱ教えない!」<br />
擦り寄せた頬に幸せの色を浮かべる少女の隣で、小さな花が揺れている。<br />
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《おわり》<br />
</dd></dl>
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