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<p><dt><a href="menu:644" target="_top" name="644"><font color="#0000ff">644</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:56:22 ID:lf5k8FxE </dt><dd>薄暗い部屋の原因は、閉めきったカーテンのせいだろうか。 <br /> 昨日までの暑さが嘘のような涼しい土曜日。 <br /> 風だけが通り抜ける昼過ぎの静かな空間は、二人で占領するには少し広すぎるのだろう。 <br /> 彼女達は、モノクロの部屋に彩りを加えるかのように、寄り添って座っていた。 <br /> 「水原?」 <br /> 肩にもたれかかって目を閉じる少女は、呼ばれた方を向かずに瞼を上げる。 <br /> 「&hellip;何?」 <br /> 「あの花は&hellip;?初めて見た」 <br /> 視線の先には、黒い小さな花瓶にささった桃色の花があった。 <br /> 小さな花が集まって、丸い、可愛らしい花房をつくっている。 <br /> 無機質な家具に囲まれ、棚の上で異彩を放つその花を見て、部屋の主は不思議そうな顔をしていた。 <br /> 「誕生日にもらったんだ。&hellip;何ていったかな?」 <br /> 何か他に気になることがあるのか、それとも本気で忘れてしまったのか&hellip;。 <br /> 少女の瞳はどこか宙を見ている。 <br /> 「忘れちゃった&hellip;&hellip;。それより、」 <br /> ぐっと腕を引くと、何かを思い出したように不機嫌そうな顔を上に向ける。 <br /> 「水原じゃなくて&hellip;」 <br /> 「こよみ」 <br /> 遮るように言い直すところをみると、今までも何度か同じことを言われたのだろう。 <br /> こよみと呼ばれた少女は、訂正に満足したのか、再び目を閉じてゆっくりと息をはいた。 <br /> <br /> 背中を覆う黒と栗色の長髪は、二人が近付くにつれ絡み合い、その境界線を曖昧にする。 <br /> 交わりあった部分は、どちらのものともとれない、淡い、優しい色をしていた。 <br /> <br /> </dd><dt><a href="menu:645" target="_top" name="645"><font color="#0000ff">645</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:57:10 ID:lf5k8FxE </dt><dd>彼女達は、暇さえあればお互いの部屋でこうして過ごしている。 <br /> 外で遊ぶことを嫌がっているわけではないが、今はこうして体温を感じ合うことが喜びだった。 <br /> 「榊」 <br /> 自分を姓で呼ばれることに抗議した少女は、それを忘れたのだろうか。 <br /> 違和感なく彼女に名字で呼び掛けた。 <br /> &hellip;ただ、言われた榊も不満を見せるそぶりは無い。 <br /> 暦に抱きつかれているのとは反対側の手で彼女の頬をそっと覆う。 <br /> 薄赤く染まった少女の肌に、細く長い指が触れた瞬間、二人の間を青い風が通り抜けた。 <br /> 桃色の花房は首を傾げるように揺れ、それを横目で見る榊の前髪もふわりと乱れる。 <br /> 「&hellip;髪」 <br /> 暦はなびいたカーテンから射す光に、少し眩しそうに目を細めると、榊の額にかかる髪を指先で撫でた。 <br /> 一方は額へ、一方は頬へ&hellip;、少女達の間でお互いの白い腕が交差している。 <br /> 「よそ見してんじゃねぇよ」 <br /> 花へと向けられた視線に冗談ぽく囁きかけると、少女はその腕を榊の首の後ろへと回した。 <br /> <br /> </dd><dt><a href="menu:646" target="_top" name="646"><font color="#0000ff">646</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:58:03 ID:lf5k8FxE </dt><dd>暦は榊と二人でいるときの、そのうっとりとするようなお洒落な雰囲気が好きだった。 <br /> 彼女が自分のことをどう思っているか、口に出すことはほとんどない。 <br /> ただ、好きという言葉に乗せることができる愛情などたかがしれている&hellip; <br /> 彼女の笑顔が、指先が、唇が、自分に向いているだけで充分&hellip; <br /> そんな歯が浮くような台詞さえも、今の暦には物足りない。 <br /> 愛しい人と肌が触れているという事実が、彼女にとって全てだった。 <br /> <br /> そよ風の中で、二人の少女は寄り添ったまま動かない。 <br /> なびく髪の先だけが、この部屋の時が止まってはいないことを知らせていた。 <br /> <br /> 「あ、思い出した」 <br /> 肩越しに囁いた暦は、やけに嬉しそうな顔をしている。 <br /> 「花の名前?」 <br /> 「ううん&hellip;花言葉」 <br /> 榊を抱き締める腕の力を緩め、うふっと笑う。 <br /> 「いや、やっぱ教えない!」 <br /> 擦り寄せた頬に幸せの色を浮かべる少女の隣で、小さな花が揺れている。 <br /> <br /> 《おわり》 <br /> </dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:644" name="644"><font color="#0000ff">644</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:56:22 ID:lf5k8FxE</dt><dd>薄暗い部屋の原因は、閉めきったカーテンのせいだろうか。<br /> 昨日までの暑さが嘘のような涼しい土曜日。<br /> 風だけが通り抜ける昼過ぎの静かな空間は、二人で占領するには少し広すぎるのだろう。<br /> 彼女達は、モノクロの部屋に彩りを加えるかのように、寄り添って座っていた。<br /> 「水原?」<br /> 肩にもたれかかって目を閉じる少女は、呼ばれた方を向かずに瞼を上げる。<br /> 「&hellip;何?」<br /> 「あの花は&hellip;?初めて見た」<br /> 視線の先には、黒い小さな花瓶にささった桃色の花があった。<br /> 小さな花が集まって、丸い、可愛らしい花房をつくっている。<br /> 無機質な家具に囲まれ、棚の上で異彩を放つその花を見て、部屋の主は不思議そうな顔をしていた。<br /> 「誕生日にもらったんだ。&hellip;何ていったかな?」<br /> 何か他に気になることがあるのか、それとも本気で忘れてしまったのか&hellip;。<br /> 少女の瞳はどこか宙を見ている。<br /> 「忘れちゃった&hellip;&hellip;。それより、」<br /> ぐっと腕を引くと、何かを思い出したように不機嫌そうな顔を上に向ける。<br /> 「水原じゃなくて&hellip;」<br /> 「こよみ」<br /> 遮るように言い直すところをみると、今までも何度か同じことを言われたのだろう。<br /> こよみと呼ばれた少女は、訂正に満足したのか、再び目を閉じてゆっくりと息をはいた。<br /> <br /> 背中を覆う黒と栗色の長髪は、二人が近付くにつれ絡み合い、その境界線を曖昧にする。<br /> 交わりあった部分は、どちらのものともとれない、淡い、優しい色をしていた。<br /> <br /> </dd><dt><a target="_top" href="menu:645" name="645"><font color="#0000ff">645</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:57:10 ID:lf5k8FxE</dt><dd>彼女達は、暇さえあればお互いの部屋でこうして過ごしている。<br /> 外で遊ぶことを嫌がっているわけではないが、今はこうして体温を感じ合うことが喜びだった。<br /> 「榊」<br /> 自分を姓で呼ばれることに抗議した少女は、それを忘れたのだろうか。<br /> 違和感なく彼女に名字で呼び掛けた。<br /> &hellip;ただ、言われた榊も不満を見せるそぶりは無い。<br /> 暦に抱きつかれているのとは反対側の手で彼女の頬をそっと覆う。<br /> 薄赤く染まった少女の肌に、細く長い指が触れた瞬間、二人の間を青い風が通り抜けた。<br /> 桃色の花房は首を傾げるように揺れ、それを横目で見る榊の前髪もふわりと乱れる。<br /> 「&hellip;髪」<br /> 暦はなびいたカーテンから射す光に、少し眩しそうに目を細めると、榊の額にかかる髪を指先で撫でた。<br /> 一方は額へ、一方は頬へ&hellip;、少女達の間でお互いの白い腕が交差している。<br /> 「よそ見してんじゃねぇよ」<br /> 花へと向けられた視線に冗談ぽく囁きかけると、少女はその腕を榊の首の後ろへと回した。<br /> <br /> </dd><dt><a target="_top" href="menu:646" name="646"><font color="#0000ff">646</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>プリムラ・ポリアンサ</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/03(日) 21:58:03 ID:lf5k8FxE</dt><dd>暦は榊と二人でいるときの、そのうっとりとするようなお洒落な雰囲気が好きだった。<br /> 彼女が自分のことをどう思っているか、口に出すことはほとんどない。<br /> ただ、好きという言葉に乗せることができる愛情などたかがしれている&hellip;<br /> 彼女の笑顔が、指先が、唇が、自分に向いているだけで充分&hellip;<br /> そんな歯が浮くような台詞さえも、今の暦には物足りない。<br /> 愛しい人と肌が触れているという事実が、彼女にとって全てだった。<br /> <br /> そよ風の中で、二人の少女は寄り添ったまま動かない。<br /> なびく髪の先だけが、この部屋の時が止まってはいないことを知らせていた。<br /> <br /> 「あ、思い出した」<br /> 肩越しに囁いた暦は、やけに嬉しそうな顔をしている。<br /> 「花の名前?」<br /> 「ううん&hellip;花言葉」<br /> 榊を抱き締める腕の力を緩め、うふっと笑う。<br /> 「いや、やっぱ教えない!」<br /> 擦り寄せた頬に幸せの色を浮かべる少女の隣で、小さな花が揺れている。<br /> <br /> 《おわり》<br /> </dd></dl>

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