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<p><dt><a href="menu:633" target="_top" name="633"><font color="#0000ff">633</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/01(金) 22:39:49 ID:wCj4BDlK </dt><dd>「あつー」 <br /> まだ七月だというのにこの暑さは何だろう。 <br /> 「クーラーないの?」 <br /> 「ない」 <br /> 学生用の狭いアパートに人が二人もいればそれだけで気温が上がるわけだが&hellip;。 <br /> 唯一の涼みは、小さめの扇風機から送られる生暖かい風だけだ。 <br /> 氷でも舐めていたほうがよっぽどマシな気がする。 <br /> 「うぇ~&hellip;」 <br /> 壊れたクーラー、風通しの悪い窓、地球温暖化。 <br /> 暑苦しい原因はいろいろあるにせよ、一番問題なのは&hellip;。 <br /> 「お前がくっついてるからだろ」 <br /> 「え?」 <br /> 私の太股の上に座り、べったりともたれかかった智は、とくに悪びれる様子もなさそうに振り向いた。 <br /> 「なんだよ、どっかいけって言うのか?」 <br /> 明らかに不満そうな彼女の顔には、汗が粒になって流れている。 <br /> 「そうじゃないけどさ&hellip;。ほら、顔拭けよ」 <br /> さっきしぼってきた濡れタオルは、既にその心地よい冷たさを失っている。 <br /> 智はむすっとした表情を崩さずに、無言でそれを受け取った。 <br /> ぐしぐしと顔や腕を拭いて、水分が飽和したタオルを私によこすと、 <br /> 「じゃあさ、私が離れたら涼しくなんの?」 <br /> 少しぶっきらぼうに言い放った。 <br /> 「そりゃまぁ&hellip;」 <br /> 彼女の不満の矛先がどこに向いているかわからない。 <br /> よし、と言って立ち上がる智を、私はぽかんと見上げることしかできなかった。 <br /> <br /> </dd><dt><a href="menu:634" target="_top" name="634"><font color="#0000ff">634</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/01(金) 22:40:59 ID:wCj4BDlK </dt><dd>外からは蝉の鳴き声が聞こえる。 <br /> 鳴りやまない騒音が、蒸し暑さに拍車をかけていた。 <br /> 蝉って夕方には鳴きやむんだっけ&hellip;? <br /> えと&hellip;アブラゼミ? <br /> <br /> 智が離れたことで、私はだいぶ涼しくなった。 <br /> 彼女はフローリングの上で、麦茶を飲みながら携帯をいじっている。 <br /> この隙にシャワーでも浴びようかな。 <br /> 「智、夕飯何がいい?」 <br /> 「そーめん」 <br /> 振り向かずに即答したところを見ると、反論は受け付けてくれなさそうだ。 <br /> まぁいいか、茹でるだけだし。 <br /> 麺は前もらったやつがあったはずだし&hellip;、麺つゆは&hellip;あったと思うけど一応確認しとくか。 <br /> <br /> 扉を開け放っているとはいえ、人がいない分台所は少し涼しかった。 <br /> 特に床がひやっとして気持ちいい。 <br /> 独り暮らし用の冷蔵庫を開けると、たくさんの飲み物と一緒に新品のめんつゆが一本。 <br /> よし、じゃあ今日はそうめんで決定っと。 <br /> 「めんつゆあったよ」 <br /> リビングに戻ると、智は大の字になってフローリングに寝そべっていた。 <br /> <br /> </dd><dt><a href="menu:635" target="_top" name="635"><font color="#0000ff">635</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/01(金) 22:42:44 ID:wCj4BDlK </dt><dd>「寒い」 <br /> がばと体を起こすと、智はこちらを向いてつぶやいた。 <br /> 「え?」 <br /> 「寒い寒い!」 <br /> さっき拭いたばかりの額に汗をにじませながら、唇を尖らせている。 <br /> 「なんだよ・・・?寒い?」 <br /> 再びベッドにもたれる私を首で追いながら、彼女は続けた。 <br /> 「よみと離れても体は暑いままだけどさ&hellip;、寂しくなった」 <br /> 反転させた体にあわせて四つんばいになると、じりじりとこちらに擦り寄ってくる。 <br /> 胸元から下着が見えそうで、私は少し視線を外した。 <br /> 「だから、心が寒い」 <br /> 不服そうな顔を真っ赤に染めてつぶやくと、この暑い部屋には似つかぬロマンチックな雰囲気が私を包む。 <br /> いつもは大雑把な彼女がこんなことをいう時、 <br /> 「しゃーない。&hellip;おいで」 <br /> 私は淡白に答えることしかできない。 <br /> ずるずると太股の上に乗る彼女に、私は後ろから思いっきり体重を預けた。 <br /> 腕を回して抱きしめると&hellip;、智の言うとおり。 <br /> 暑いじゃなくて、温かい。 <br /> 「よみ、ちゅー。しろ」 <br /> 生暖かい吐息を重ねると、智の体が一瞬だけぶるっと震えた。 <br /> <br /> ムードを知らないアブラゼミが、まだ窓の外で鳴いている。 <br /> 《おわり》 <br /> </dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:633" name="633"><font color="#0000ff">633</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/01(金) 22:39:49 ID:wCj4BDlK</dt><dd>「あつー」<br /> まだ七月だというのにこの暑さは何だろう。<br /> 「クーラーないの?」<br /> 「ない」<br /> 学生用の狭いアパートに人が二人もいればそれだけで気温が上がるわけだが&hellip;。<br /> 唯一の涼みは、小さめの扇風機から送られる生暖かい風だけだ。<br /> 氷でも舐めていたほうがよっぽどマシな気がする。<br /> 「うぇ~&hellip;」<br /> 壊れたクーラー、風通しの悪い窓、地球温暖化。<br /> 暑苦しい原因はいろいろあるにせよ、一番問題なのは&hellip;。<br /> 「お前がくっついてるからだろ」<br /> 「え?」<br /> 私の太股の上に座り、べったりともたれかかった智は、とくに悪びれる様子もなさそうに振り向いた。<br /> 「なんだよ、どっかいけって言うのか?」<br /> 明らかに不満そうな彼女の顔には、汗が粒になって流れている。<br /> 「そうじゃないけどさ&hellip;。ほら、顔拭けよ」<br /> さっきしぼってきた濡れタオルは、既にその心地よい冷たさを失っている。<br /> 智はむすっとした表情を崩さずに、無言でそれを受け取った。<br /> ぐしぐしと顔や腕を拭いて、水分が飽和したタオルを私によこすと、<br /> 「じゃあさ、私が離れたら涼しくなんの?」<br /> 少しぶっきらぼうに言い放った。<br /> 「そりゃまぁ&hellip;」<br /> 彼女の不満の矛先がどこに向いているかわからない。<br /> よし、と言って立ち上がる智を、私はぽかんと見上げることしかできなかった。<br /> <br /> </dd><dt><a target="_top" href="menu:634" name="634"><font color="#0000ff">634</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/01(金) 22:40:59 ID:wCj4BDlK</dt><dd>外からは蝉の鳴き声が聞こえる。<br /> 鳴りやまない騒音が、蒸し暑さに拍車をかけていた。<br /> 蝉って夕方には鳴きやむんだっけ&hellip;?<br /> えと&hellip;アブラゼミ?<br /> <br /> 智が離れたことで、私はだいぶ涼しくなった。<br /> 彼女はフローリングの上で、麦茶を飲みながら携帯をいじっている。<br /> この隙にシャワーでも浴びようかな。<br /> 「智、夕飯何がいい?」<br /> 「そーめん」<br /> 振り向かずに即答したところを見ると、反論は受け付けてくれなさそうだ。<br /> まぁいいか、茹でるだけだし。<br /> 麺は前もらったやつがあったはずだし&hellip;、麺つゆは&hellip;あったと思うけど一応確認しとくか。<br /> <br /> 扉を開け放っているとはいえ、人がいない分台所は少し涼しかった。<br /> 特に床がひやっとして気持ちいい。<br /> 独り暮らし用の冷蔵庫を開けると、たくさんの飲み物と一緒に新品のめんつゆが一本。<br /> よし、じゃあ今日はそうめんで決定っと。<br /> 「めんつゆあったよ」<br /> リビングに戻ると、智は大の字になってフローリングに寝そべっていた。<br /> <br /> </dd><dt><a target="_top" href="menu:635" name="635"><font color="#0000ff">635</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/06/01(金) 22:42:44 ID:wCj4BDlK</dt><dd>「寒い」<br /> がばと体を起こすと、智はこちらを向いてつぶやいた。<br /> 「え?」<br /> 「寒い寒い!」<br /> さっき拭いたばかりの額に汗をにじませながら、唇を尖らせている。<br /> 「なんだよ・・・?寒い?」<br /> 再びベッドにもたれる私を首で追いながら、彼女は続けた。<br /> 「よみと離れても体は暑いままだけどさ&hellip;、寂しくなった」<br /> 反転させた体にあわせて四つんばいになると、じりじりとこちらに擦り寄ってくる。<br /> 胸元から下着が見えそうで、私は少し視線を外した。<br /> 「だから、心が寒い」<br /> 不服そうな顔を真っ赤に染めてつぶやくと、この暑い部屋には似つかぬロマンチックな雰囲気が私を包む。<br /> いつもは大雑把な彼女がこんなことをいう時、<br /> 「しゃーない。&hellip;おいで」<br /> 私は淡白に答えることしかできない。<br /> ずるずると太股の上に乗る彼女に、私は後ろから思いっきり体重を預けた。<br /> 腕を回して抱きしめると&hellip;、智の言うとおり。<br /> 暑いじゃなくて、温かい。<br /> 「よみ、ちゅー。しろ」<br /> 生暖かい吐息を重ねると、智の体が一瞬だけぶるっと震えた。<br /> <br /> ムードを知らないアブラゼミが、まだ窓の外で鳴いている。<br /> 《おわり》<br /> </dd></dl>

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