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<p><dt><a href="menu:155" target="_top" name="155"><font color="#0000ff">155</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>※142氏とは別の者です</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:24:40 <a href="id:155" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz </dt><dd><br /> 「ちよちゃん」 <br /> 「なーんですか」 <br /> 「……高い高い、していい?」 <br /> 帰り道、後ろからあいつらの姿をじっと見て歩いていた。 <br /> ただののんびりとした風景のはずなのに、私の心は熱くなりっぱなしだ。 <br /> 榊、顔が赤いのはどうしてなんだ。 <br /> 子供のちよちゃんを持ち上げることくらい、恥ずかしくないだろ? <br /> 「はい。お願いします」 <br /> 最初は普通にかわいいと思っていたこの笑顔も、今ではなあ。 <br /> いや、ちよちゃんが嫌いなんてことはないんだ。むしろ大好きだ。 <br /> 「怖く、ないか」 <br /> 「ええっ?そんなことないですよ」 <br /> 「滝野さんの時」 <br /> 「あ、ともちゃんはね、そういう人ですから」 <br /> 修学旅行の話か。 <br /> 智のアレも、きっとちよちゃんがかわいいからやってるんだと思うんだ。 <br /> いつも猫やぬいぐるみばっかり求めている榊にとってももちろん同じだろう。 <br /> 「ともちゃんより高いです!榊さん、さすがですね」 <br /> 当たり前だよなあ……二人とも楽しそうだ。 <br /> 私は友達だから、いつも触れ合っているから、ここで声を掛けてもいいはずだよな。 <br /> だけど、声が出ない。少しも近づけない。 <br /> 榊の顔と同じくらい、自分の顔も今赤くなっているのかもしれない。 <br /> きっと、智に胸のことを言われたときの何倍も何十倍も。 <br /> 「やっぱり、かっこいいです」 <br /> ……だめだよ、ちよちゃん。 <br /> ずっと見てきたけど、あいつは「かっこいい」よりも…… <br /> <br /> <br /> </dd><dt><a href="menu:156" target="_top" name="156"><font color="#0000ff">156</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:25:20 <a href="id:156" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz </dt><dd><br /> 「でも、ちよちゃんは」 <br /> ほら、やっぱり。かわいい方が好きなんだろ。 <br /> 私なんか、かわいさなんてちっともない私なんかより。 <br /> 「あれ、神楽さんどうしたんですか?」 <br /> 「え、あわわわ、いや、あの」 <br /> 何考えてるんだ、私!ここはいつもの帰り道だぞ。 <br /> 最近、榊と一緒に帰るとこんなことばっかり。 <br /> 「事故には気をつけてくださいよー?」 <br /> え、そんなに危ない動きをしてたかな。 <br /> 「顔が、赤い」 <br /> いや、それはお前だっておんなじ、って。 <br /> ちょっと待て!なんで手を乗せてくるんだ? <br /> 「あ、熱も」 <br /> 「熱ですか?た、体調にも気をつけなきゃですね」 <br /> ――だめだ。 <br /> 誰もまだ私の気持ちを知らない。 <br /> 誰にもまだ、私の気持ちを知らせられない。 <br /> ああ、早くその手をどけてくれ。もう限界だ。 <br /> これ以上榊に近づいていると、おかしくなっちまう―― <br /> 「さ、さかき」 <br /> いつも通り話しかければよかったのに。 <br /> 不思議そうに私を見るお前の視線が痛い。 <br /> 「あのさっ。ち、ちよちゃんが、ちよちゃんの番が終わったら、私も」 <br /> 高い高いなんて、女子高生二人でやるもんじゃないぜ。 <br /> なのに、私ってば。 <br /> 「そうですか。たまにはこういうのも楽しいですよ」 <br /> 本当はそんなもんじゃだめなんだ。 <br /> もっと、ぎゅっと抱きしめてほしかったり……何考えてんだ、自分。 <br /> <br /> <br /> </dd><dt><a href="menu:157" target="_top" name="157"><font color="#0000ff">157</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:26:29 <a href="id:157" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz </dt><dd><br /> それでも榊は言うとおりにしてくれた。 <br /> 足を抱えて持ち上げられると、青空が少し近くなった。 <br /> でも、見上げている余裕なんてなかった。 <br /> 自分の体を軽く支えている榊の顔が気になって気になって。 <br /> ちょっと前までこういう時はいつも「勝負だ」なんて言ってたし、 <br /> 今でも逆にあいつを持ち上げて驚かせてやろうか、なんてちょっと考えている私だけど。 <br /> それは、止められない心の裏返しでしかないんだろうな。 <br /> ――わかった。止めているからだめなんだ。思い切って伝えてみよう―― <br /> 「ちょっと降ろしてくれ」 <br /> 地面に足を着けて、私は榊の目をじっと見る。 <br /> ちよちゃんを上げていたときの赤い顔はもうない。 <br /> ただ見つめ返す黒い瞳があるだけ。 <br /> たった一つの言葉で、どんな結果になっても全部が済むんだ。 <br /> 「好きだ」と言いさえすれば……。 <br /> ――――気づいたら、私が榊を抱きしめていた。 <br /> 恥ずかしいくらいに大きい自分の胸が、体格にちゃんと合った榊のと合わさってる。 <br /> 「分かるか?榊、私は」 <br /> もうこのまま全部口に出してしまいそうな時に。 <br /> 「神楽さん」 <br /> ちよちゃん!どうして泣いてるのさ。悔しいことでもあったのかよ? <br /> 「なんで、なんで早く言わないですかっ」 <br /> はやく、何を? <br /> 「『大人になりたくない』って、どういうことだったんですか! <br />  神楽さんは『就職とか結婚とかは考えてない』って言ってましたよね?」 <br /> 「え、ああ、あんまり考えてないけど、それが」 <br /> 「けっこん、とか……そういうことなんですね」 <br /> 涙がぼろぼろと流れてる。もしかして、私が悪いのか? <br /> 「榊さんを好きな人がいるんですね」 <br /> いきなりの質問に答えられなかったけど、ちよちゃんはもう一度言ったんだ。 <br /> 「好きな人がいるんですね」 <br /> <br /> <br /> </dd><dt><a href="menu:158" target="_top" name="158"><font color="#0000ff">158</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:27:42 <a href="id:158" target="_top"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz </dt><dd><br /> いきなりの質問に答えられなかったけど、ちよちゃんはもう一度言ったんだ。 <br /> 「好きな人がいるんですね」 <br /> それでも、私はまだ本当のことをみんな言えなくて。 <br /> 「いや、まあ。確か、かおりんとかが好きみたいな感じだけど」 <br /> 「違います!神楽さんはどうなんですか」 <br /> お願いだ、頼む、泣きやんでくれ。 <br /> これ以上私に向かって叫ぶのはやめてくれ。 <br /> 「かぐらさん!」 <br /> 「ああ、好きだよ、好きなんだよ!私は榊が好きで好きでたまらないんだ!」 <br /> 「……そうですか」 <br /> ちよちゃんが静かになった。 <br /> あれ、目が……プールを泳いでる時みたいだ。 <br /> 塩素がしみてるのかな、違う、でもちょっとおかしい。 <br /> 地面に水がぽたぽたと落ちてる。さっきのちよちゃんみたいに―― <br /> ――涙、か? <br /> 「私も榊さんが好きなんですよ」 <br /> 今度は笑顔だ。ちよちゃんはきっと、ふっ切れたんだ。 <br /> 私の気持ちを聞いてくれてありがとう。 <br /> 今までずっと悩んできたことが全部よくなりそうだ。 <br /> ――もっと早く、言えばよかった―― <br /> 「私は……どうすればいい」 <br /> 声だ。私のでもちよちゃんのでもない声。 <br /> いつもは無表情のあいつの顔が変わっている。 <br /> 私ももうふっ切れているんだ。堂々と口に出せばいいんだ。 <br /> 「そうだ、とりあえず歩こうぜ。またちよちゃん家まで行くか?」 <br /> 「いいですよ。行きましょうか」 <br /> 「……うん」 <br /> 三人が一緒に歩く。 <br /> 二人が笑ってる。 <br /> 一人は、そう、榊は――――。 <br /> </dd></p>
<dl><dt><a target="_top" href="menu:155" name="155"><font color="#0000ff">155</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>※142氏とは別の者です</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:24:40<a target="_top" href="id:155"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz</dt><dd><br /> 「ちよちゃん」<br /> 「なーんですか」<br /> 「……高い高い、していい?」<br /> 帰り道、後ろからあいつらの姿をじっと見て歩いていた。<br /> ただののんびりとした風景のはずなのに、私の心は熱くなりっぱなしだ。<br /> 榊、顔が赤いのはどうしてなんだ。<br /> 子供のちよちゃんを持ち上げることくらい、恥ずかしくないだろ?<br /> 「はい。お願いします」<br /> 最初は普通にかわいいと思っていたこの笑顔も、今ではなあ。<br /> いや、ちよちゃんが嫌いなんてことはないんだ。むしろ大好きだ。<br /> 「怖く、ないか」<br /> 「ええっ?そんなことないですよ」<br /> 「滝野さんの時」<br /> 「あ、ともちゃんはね、そういう人ですから」<br /> 修学旅行の話か。<br /> 智のアレも、きっとちよちゃんがかわいいからやってるんだと思うんだ。<br /> いつも猫やぬいぐるみばっかり求めている榊にとってももちろん同じだろう。<br /> 「ともちゃんより高いです!榊さん、さすがですね」<br /> 当たり前だよなあ……二人とも楽しそうだ。<br /> 私は友達だから、いつも触れ合っているから、ここで声を掛けてもいいはずだよな。<br /> だけど、声が出ない。少しも近づけない。<br /> 榊の顔と同じくらい、自分の顔も今赤くなっているのかもしれない。<br /> きっと、智に胸のことを言われたときの何倍も何十倍も。<br /> 「やっぱり、かっこいいです」<br /> ……だめだよ、ちよちゃん。<br /> ずっと見てきたけど、あいつは「かっこいい」よりも……<br /> <br /> <br /> </dd><dt><a target="_top" href="menu:156" name="156"><font color="#0000ff">156</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:25:20<a target="_top" href="id:156"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz</dt><dd><br /> 「でも、ちよちゃんは」<br /> ほら、やっぱり。かわいい方が好きなんだろ。<br /> 私なんか、かわいさなんてちっともない私なんかより。<br /> 「あれ、神楽さんどうしたんですか?」<br /> 「え、あわわわ、いや、あの」<br /> 何考えてるんだ、私!ここはいつもの帰り道だぞ。<br /> 最近、榊と一緒に帰るとこんなことばっかり。<br /> 「事故には気をつけてくださいよー?」<br /> え、そんなに危ない動きをしてたかな。<br /> 「顔が、赤い」<br /> いや、それはお前だっておんなじ、って。<br /> ちょっと待て!なんで手を乗せてくるんだ?<br /> 「あ、熱も」<br /> 「熱ですか?た、体調にも気をつけなきゃですね」<br /> ――だめだ。<br /> 誰もまだ私の気持ちを知らない。<br /> 誰にもまだ、私の気持ちを知らせられない。<br /> ああ、早くその手をどけてくれ。もう限界だ。<br /> これ以上榊に近づいていると、おかしくなっちまう――<br /> 「さ、さかき」<br /> いつも通り話しかければよかったのに。<br /> 不思議そうに私を見るお前の視線が痛い。<br /> 「あのさっ。ち、ちよちゃんが、ちよちゃんの番が終わったら、私も」<br /> 高い高いなんて、女子高生二人でやるもんじゃないぜ。<br /> なのに、私ってば。<br /> 「そうですか。たまにはこういうのも楽しいですよ」<br /> 本当はそんなもんじゃだめなんだ。<br /> もっと、ぎゅっと抱きしめてほしかったり……何考えてんだ、自分。<br /> <br /> <br /> </dd><dt><a target="_top" href="menu:157" name="157"><font color="#0000ff">157</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:26:29<a target="_top" href="id:157"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz</dt><dd><br /> それでも榊は言うとおりにしてくれた。<br /> 足を抱えて持ち上げられると、青空が少し近くなった。<br /> でも、見上げている余裕なんてなかった。<br /> 自分の体を軽く支えている榊の顔が気になって気になって。<br /> ちょっと前までこういう時はいつも「勝負だ」なんて言ってたし、<br /> 今でも逆にあいつを持ち上げて驚かせてやろうか、なんてちょっと考えている私だけど。<br /> それは、止められない心の裏返しでしかないんだろうな。<br /> ――わかった。止めているからだめなんだ。思い切って伝えてみよう――<br /> 「ちょっと降ろしてくれ」<br /> 地面に足を着けて、私は榊の目をじっと見る。<br /> ちよちゃんを上げていたときの赤い顔はもうない。<br /> ただ見つめ返す黒い瞳があるだけ。<br /> たった一つの言葉で、どんな結果になっても全部が済むんだ。<br /> 「好きだ」と言いさえすれば……。<br /> ――――気づいたら、私が榊を抱きしめていた。<br /> 恥ずかしいくらいに大きい自分の胸が、体格にちゃんと合った榊のと合わさってる。<br /> 「分かるか?榊、私は」<br /> もうこのまま全部口に出してしまいそうな時に。<br /> 「神楽さん」<br /> ちよちゃん!どうして泣いてるのさ。悔しいことでもあったのかよ?<br /> 「なんで、なんで早く言わないですかっ」<br /> はやく、何を?<br /> 「『大人になりたくない』って、どういうことだったんですか!<br />  神楽さんは『就職とか結婚とかは考えてない』って言ってましたよね?」<br /> 「え、ああ、あんまり考えてないけど、それが」<br /> 「けっこん、とか……そういうことなんですね」<br /> 涙がぼろぼろと流れてる。もしかして、私が悪いのか?<br /> 「榊さんを好きな人がいるんですね」<br /> いきなりの質問に答えられなかったけど、ちよちゃんはもう一度言ったんだ。<br /> 「好きな人がいるんですね」<br /> <br /> <br /> </dd><dt><a target="_top" href="menu:158" name="158"><font color="#0000ff">158</font></a>名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/04/01(日) 03:27:42<a target="_top" href="id:158"><font color="#0000ff">ID:</font></a>n6AZb/Vz</dt><dd><br /> いきなりの質問に答えられなかったけど、ちよちゃんはもう一度言ったんだ。<br /> 「好きな人がいるんですね」<br /> それでも、私はまだ本当のことをみんな言えなくて。<br /> 「いや、まあ。確か、かおりんとかが好きみたいな感じだけど」<br /> 「違います!神楽さんはどうなんですか」<br /> お願いだ、頼む、泣きやんでくれ。<br /> これ以上私に向かって叫ぶのはやめてくれ。<br /> 「かぐらさん!」<br /> 「ああ、好きだよ、好きなんだよ!私は榊が好きで好きでたまらないんだ!」<br /> 「……そうですか」<br /> ちよちゃんが静かになった。<br /> あれ、目が……プールを泳いでる時みたいだ。<br /> 塩素がしみてるのかな、違う、でもちょっとおかしい。<br /> 地面に水がぽたぽたと落ちてる。さっきのちよちゃんみたいに――<br /> ――涙、か?<br /> 「私も榊さんが好きなんですよ」<br /> 今度は笑顔だ。ちよちゃんはきっと、ふっ切れたんだ。<br /> 私の気持ちを聞いてくれてありがとう。<br /> 今までずっと悩んできたことが全部よくなりそうだ。<br /> ――もっと早く、言えばよかった――<br /> 「私は……どうすればいい」<br /> 声だ。私のでもちよちゃんのでもない声。<br /> いつもは無表情のあいつの顔が変わっている。<br /> 私ももうふっ切れているんだ。堂々と口に出せばいいんだ。<br /> 「そうだ、とりあえず歩こうぜ。またちよちゃん家まで行くか?」<br /> 「いいですよ。行きましょうか」<br /> 「……うん」<br /> 三人が一緒に歩く。<br /> 二人が笑ってる。<br /> 一人は、そう、榊は――――。<br /> </dd></dl>

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