石原 純 いしわら じゅん
1881-1947(1881.1.15-1947.1.19)
理論物理学者・歌人。東京生れ。東大卒。東北大教授。相対性理論および古典量子論の研究、自然科学知識の普及啓蒙に努める。著「自然科学概論」、歌集「靉日」など。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。


もくじ 
電気物語(五)総索引


※ 製作環境
 ・Macintosh iBook、Mac OS 9.2.2、T-Time 2.3.1
 ・ポメラ DM100、ソニー Reader PRS-T2
 ・ソーラーパネル GOAL ZERO NOMAD 7
  (ガイド10プラス)
※ 週刊ミルクティー*は、JIS X 0213 文字を使用しています。
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*凡例〔現代表記版〕
  • ( ):小書き。 〈 〉:割り注。
  • 〔 〕:底本の編集者もしくは、しだによる注。
  • 一、漢字、かなづかい、漢字の送り、読みは現代表記に改めました。
  •    例、云う  → いう / 言う
  •      処   → ところ / 所
  •      有つ  → 持つ
  •      這入る → 入る
  •      円い  → 丸い
  •      室   → 部屋
  •      大いさ → 大きさ
  •      たれ  → だれ
  •      週期  → 周期
  • 一、同音異義の一部のひらがなを、便宜、漢字に改めました。
  •    例、いった → 行った / 言った
  •      きいた → 聞いた / 効いた
  • 一、英語読みのカタカナ語は一部、一般的な原音読みに改めました。
  •    例、ホーマー  → ホメロス
  •      プトレミー → プトレマイオス
  •      ケプレル  → ケプラー
  • 一、若干の句読点を改めました。適宜、ルビや中黒や感嘆・疑問符・かぎ括弧をおぎないました。一部、改行と行頭の字下げを改めました。
  • 一、漢数字の表記を一部、改めました。
  •    例、七百二戸   → 七〇二戸
  •      二萬六千十一 → 二万六〇一一
  • 一、ひらがなに傍点は、一部カタカナに改めました。
  • 一、カタカナ漢字混用文は、ひらがな漢字混用文に改めました。濁点・半濁点のない仮名は、濁点・半濁点をおぎないました。
  • 一、和暦にはカッコ書きで西暦をおぎないました。年次のみのばあいは単純な置き換えにとどめ、月日のわかるばあいには陰暦・陽暦の補正をおこないました。
  • 一、和歌・俳句・短歌は、音節ごとに半角スペースで句切りました。
  • 一、表や図版キャプションなどの組版は、便宜、改めました。
  • 一、書名・雑誌名・映画などの作品名は『 』、論文・記事名および会話文・強調文は「 」で示しました。
  • 一、「今から○○年前」のような経過年数の表記や、時価金額の表記、郡域・国域など地域の帰属、法人・企業など組織の名称は、底本当時のままにしました。
  • 一、差別的表現・好ましくない表現はそのままとしました。

*底本

底本:『電氣物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1429.html

NDC 分類:427(物理学/電磁気学)
http://yozora.kazumi386.org/4/2/ndc427.html





語句索引


  •    【あ】
  • アーク灯 アークとう
  • アーク溶接 アークようせつ
  • 亜鉛 あえん
  • アクチニウム actinium
  • アクチニウム系列 アクチニウム けいれつ
  • α線 アルファせん
  • アンチモン Antimon
  • アンテナ antenna
  • アンペア ampere
  • アンペアメーター
  •    【い】
  • イエズス会 イエズスかい → ジェスイト派
  • イオン ion
  • イオン化 イオンか
  • イオン解離説 イオン かいりせつ
  • 位相 いそう
  • 一流体仮説 いちりゅうたい かせつ
  • 一価 いっか
  • 一価イオン いっか イオン
  • 陰極 いんきょく
  • 陰極線 いんきょくせん
  • 陰電気 いんでんき
  • 引力 いんりょく
  •    【う】
  • ウェストン・カドミウム電池 ウェストン・カドミウムでんち
  • 渦 うず
  • 宇宙線 うちゅうせん
  • ウラニウム uranium
  • ウラニウム塩類 ウラニウム えんるい
  • ウラニウム・ラジウム系列 ウラニウム・ラジウム けいれつ
  • ウラン Uran → ウラニウム
  • 雲母膜 うんもまく
  •    【え】
  • エーテル ether
  • X線 エックスせん
  • X線管 エックスせんかん
  • エディソン式蓄電池 エディソンしき ちくでんち
  • エネルギー保存の原理 エネルギー ほぞんのげんり
  • エネルギー Energie
  • エボナイト ebonite
  • エマナチオン Emanation
  • エルグ erg
  • エレキ
  • エレキテル
  • 遠隔作用 えんかく さよう
  • 塩基 えんき
  • 鉛丹 えんたん
  • 塩類 えんるい
  •    【お】
  • オートグラフ
  • オームの法則 オームのほうそく
  • オーロラ aurora → 極光
  • 黄鉄鉱 おうてっこう
  • 黄銅鉱 おうどうこう
  • オシログラフ oscillograph
  • オスミウム電球 オスミウム でんきゅう
  • オスミウム osmium
  • 親時計 おやどけい
  • 音波 おんぱ
  •    【か】
  • カーボランダム Carborundum
  • 外観荷電 がいかん かでん?
  • ガイスラー管 ガイスラーかん
  • 回折 かいせつ
  • 回折格子 かいせつ こうし
  • 海底電線 かいてい でんせん
  • 回転鏡 かいてんきょう
  • 回路 かいろ
  • 化学作用 かがく さよう
  • 化学当量 かがく とうりょう
  • 鏡電流計 かがみ でんりゅうけい?
  • 角運動量 かくうんどうりょう
  • 過酸化 かさんか
  • ガス入電球 ガスいり でんきゅう
  • ガス管球 ガスかんきゅう?
  • 苛性カリ かせい カリ → 水酸化カリウム
  • 滑走火花 かっそう ひばな?
  • 滑走放電 かっそう ほうでん
  • ガッタ・ペルチャ(グッタペルカ)か
  • 荷電 かでん
  • 渦動 かどう
  • カドミウム cadmium
  • カナル線 カナルせん?
  • カナル線管 カナルせんかん?
  • 硝子鐘 ガラス しょう
  • 火力発電 かりょく はつでん
  • ガルヴァニ電流 ガルヴァニ でんりゅう
  • ガルバノメーター galvanometer
  • 感光紙 かんこうし
  • 環鎖 かんさ?
  • 癌腫 がんしゅ
  • 乾電池 かんでんち
  • 感応 かんのう
  • 感応起電機 かんのう きでんき?
  • 感応起電力 かんのう きでんりょく
  • 感応コイル かんのう コイル
  • 感応電気 かんのう でんき
  • 感応電流 かんのう でんりゅう
  • 感応動電力 かんのう どうでんりょく?
  • 乾板 かんぱん
  • γ線 ガンマせん
  •    【き】
  • 幾何光学 きか こうがく
  • 輝線スペクトル きせん スペクトル
  • 基電位 きでんい?
  • 起電機 きでんき
  • 起電力 きでんりょく
  • 夾在 きょうざい?
  • 共鳴 きょうめい
  • 共鳴器 きょうめいき
  • 局部電池 きょくぶ でんち
  • 極光 きょっこう
  • キリスト教会 キリストきょうかい
  • 近接作用 きんせつ さよう
  • 金箔験電器 きんぱく けんでんき
  •    【く】
  • クーリッジ管 クーリッジかん
  • クーロン coulomb
  • 空気ポンプ くうきポンプ
  • グッタペルカ gutta-percha
  • クラーク電池 クラーク でんち
  • グリッド grid
  • クロミウム chromium
  • クロム Chrom
  •    【け】
  • ケーブル cable
  • 蛍光板 けいこうばん
  • 継続装置 けいぞく そうち
  • 継電器 けいでんき
  • 減極剤 げんきょくざい
  • 原子価 げんしか
  • 原子核物理学 げんしかく ぶつりがく
  • 原子熱 げんしねつ
  • 原子量 げんしりょう
  • 懸垂 けんすい
  • 検電器 けんでんき
  • 幻灯 げんとう
  • 検波器 けんぱき
  • 検流計 けんりゅうけい → ガルバノメーター
  •    【こ】
  • コイル coil
  • 紅亜鉛鉱 こうあえんこう?
  • 高圧 こうあつ
  • 高圧感応電流 こうあつ かんのう でんりゅう?
  • 高温度計 こうおんどけい
  • 光学 こうがく
  • 合金 ごうきん
  • 高所線 こうしょせん?
  • 鉱石検波器 こうせき けんぱき
  • 光電気効果 こうでんき こうか?
  • 光波 こうは
  • 光芒 こうぼう
  • 交流 こうりゅう
  • 交流発電機 こうりゅう はつでんき
  • 黒体輻射 こくたい ふくしゃ
  • 黒点 こくてん
  • 弧灯 ことう
  • 子時計 こどけい
  • 琥珀 こはく
  • コヒーラー coherer
  • 固有振動 こゆう しんどう
  • 混合巻 こんごうまき?
  • 混信 こんしん
  • コンスタンタン Constantan
  • コンデンサー condenser
  •    【さ】
  • 作用量 さようりょう
  • 酸 さん
  • 酸化ウラニウム さんか ウラニウム
  • 酸化マグネシウム さんか マグネシウム
  • 三極真空管 さんきょく しんくうかん
  • 三極熱電子管 さんきょく ねつでんしかん?
  • 三相交流 さんそう こうりゅう
  •    【し】
  • シーメンス型電気炉 シーメンスがた でんきろ
  • 侍医 じい
  • ジェスイト派 ジェスイトは
  • シェラック shellac
  • 磁化 じか
  • 紫外線 しがいせん
  • 磁気 じき
  • 磁気感応 じき かんのう → 磁気誘導
  • 磁気指力線 じき しりょくせん?
  • 磁気分布図 じき ぶんぷず
  • 磁気誘導 じき ゆうどう
  • 磁気嵐 じきあらし
  • 磁気学 じきがく
  • 磁気の感応現象 じきの かんのう げんしょう?
  • 磁気量 じきりょう
  • 磁気力 じきりょく
  • 自己感応 じこ かんのう
  • 自己誘導 じこ ゆうどう
  • 子午面 しごめん
  • 磁針 じしん
  • 四槽浴 しそうよく?
  • 七厘・七輪 しちりん
  • 実効値 じっこうち
  • 実物幻灯 じつぶつ げんとう?
  • 実用単位 じつよう たんい
  • 質量 しつりょう
  • 磁鉄鉱 じてっこう
  • 指頭 しとう
  • 指南車 しなんしゃ
  • 磁場 じば
  • しびれえい
  • 写真乾板 しゃしん かんぱん
  • 写真電送 しゃしん でんそう
  • ジュールの法則 ジュールの ほうそく
  • 自由荷電 じゆう かでん
  • 自由電子 じゆう でんし
  • 臭化 しゅうか
  • 臭化リチウム しゅうか リチウム
  • 臭化物 しゅうかぶつ
  • 重クロム酸カリ じゅうクロムさんカリ
  • 十字軍 じゅうじぐん
  • 充電 じゅうでん
  • 酒精 しゅせい
  • シュタルク効果 シュタルク こうか
  • 受話器 じゅわき
  • 消極剤 しょうきょくざい
  • 燭 しょく
  • 燭光 しょっこう
  • 磁力 じりょく
  • 指力管 しりょくかん?
  • 指力線 しりょくせん
  • 磁力線 じりょくせん
  • 真荷電 しんかでん?
  • 真空放電 しんくう ほうでん
  • 真空管 しんくうかん
  • 真空球検波器 しんくうきゅう けんぱき?
  • 真空球 しんくうきゅう?
  • 振動位相 しんどう いそう?
  • 振動図示器 しんどう ずしき?
  • 振動電気力 しんどう でんきりょく
  • 振動数 しんどうすう
  •    【す】
  • 水銀温度計 すいぎん おんどけい
  • 水銀寒暖計 すいぎん かんだんけい
  • 水銀柱 すいぎんちゅう
  • 水酸化カリウム すいさんか カリウム
  • 水車 すいしゃ
  • 水素イオン すいそ イオン
  • 水平磁力 すいへい じりょく
  • 水平分力 すいへい ぶんりょく
  • 水力タービン すいりょく タービン
  • 水力電気 すいりょく でんき
  • スピンタリスコープ spinthariscope
  • スペクトル spectre
  •    【せ】
  • ゼーマン効果 ゼーマン こうか
  • 静質量 せいしつりょう?
  • 静電単位 せいでん たんい
  • 静電誘導 せいでん ゆうどう
  • 静電気 せいでんき
  • 静電気感応 せいでんき かんのう
  • 静電気学 せいでんきがく
  • 析出 せきしゅつ
  • 石墨 せきぼく
  • 斥力 せきりょく
  • 絶縁 ぜつえん
  • セレニウム selenium
  • セレン Selen → セレニウム
  • 繊条 せんじょう
  •    【そ】
  • 蒼鉛 そうえん
  • 相互感応 そうご かんのう
  • 相互誘導 そうご ゆうどう
  • 相対性理論 そうたいせい りろん
  • 送電線 そうでんせん
  • 送話器 そうわき
  • 束縛電子 そくばく でんし
  •    【た】
  • 対陰極 たいいんきょく?
  • 帯磁 たいじ
  • 代数学 だいすうがく
  • 代数和 だいすうわ
  • 帯電体 たいでんたい
  • タイプライター typewriter
  • 太陽黒点 たいよう こくてん
  • ダイン dyne
  • 多極発電機 たきょく はつでんき
  • 多相交流 たそう こうりゅう
  • 縦質量 たてしつりょう?
  • ダニエル電池 ダニエル でんち
  • 単位電気量 たんい でんきりょう
  • タングステン電球 タングステン でんきゅう
  • タングステン tungsten
  • 探照灯 たんしょうとう
  • 弾性 だんせい
  • タンタル電球 タンタル でんきゅう
  • タンタル Tantal
  • 短波 たんぱ
  •    【ち】
  • 地下電線 ちか でんせん
  • 地球磁気 ちきゅう じき
  • 地球磁気感応 ちきゅう じき かんのう?
  • 蓄電器 ちくでんき
  • 蓄電池 ちくでんち
  • 地磁気 ちじき
  • 中性粒子線 ちゅうせい りゅうしせん?
  • 中性子 ちゅうせいし
  • 中和放電 ちゅうわ ほうでん?
  • 超γ線 ちょうガンマーせん?
  • 超短波 ちょうたんぱ
  • 直巻 ちょくまき? → モーター
  • 直流 ちょくりゅう
  • 直流発電機 ちょくりゅう はつでんき
  • 直列 ちょくれつ
  • 直列接続 ちょくれつ せつぞく
  •    【つ】
  •    【て】
  • 抵抗器 ていこうき
  • 抵抗炉 ていこうろ
  • 鉄道省 てつどうしょう
  • テレオートグラフ
  • テレグラフォン
  • テレビジョン television
  • テレフンケン
  • 電圧 でんあつ
  • 電圧計 でんあつけい
  • 電位 でんい
  • 電位差 でんいさ
  • 電化 でんか
  • 電荷 でんか
  • 電荷密度 でんか みつど
  • 電解質 でんかいしつ
  • 電解槽 でんかいそう
  • 電気 でんき
  • 電気機関車 でんき きかんしゃ
  • 電気指力線 でんき しりょくせん?
  • 電気振動 でんき しんどう
  • 電気ストーブ でんき ストーブ
  • 電気素量 でんき そりょう
  • 電気タイプライター でんき タイプライター
  • 電気鋳造 でんき ちゅうぞう
  • 電気通路 でんき つうろ
  • 電気抵抗 でんき ていこう
  • 電気抵抗率 でんき ていこうりつ
  • 電気時計 でんき どけい
  • 電気分解 でんき ぶんかい
  • 電気変位 でんき へんい
  • 電気密度 でんき みつど
  • 電気鍍金 でんき めっき
  • 電気冶金 でんき やきん
  • 電気容量 でんき ようりょう
  • 電気魚 でんきうお
  • 電気学 でんきがく
  • 電機子 でんきし
  • 電気石 でんきせき
  • 電気盆 でんきぼん
  • 電気力学 でんきりきがく
  • 電気量 でんきりょう
  • 電気力 でんきりょく
  • 電気炉 でんきろ
  • 電鍵 でんけん
  • 電弧 でんこ
  • 電光 でんこう
  • 電子 でんし
  • 電磁感応 でんじ かんのう
  • 電磁質量 でんじ しつりょう
  • 電磁誘導 でんじ ゆうどう
  • 電子管 でんしかん
  • 電磁気学 でんじきがく
  • 電磁石 でんじしゃく
  • 電磁的質量 でんじてき しつりょう?
  • 電磁波 でんじは
  • 電子論 でんしろん
  • 電信 でんしん
  • 電信器 でんしんき
  • 電線 でんせん
  • 電槽 でんそう
  • 電束密度 でんそく みつど
  • 電堆(パイル) でんたい?
  • 電池 でんち
  • 電鋳 でんちゅう
  • 電灯 でんとう
  • 電動機 でんどうき
  • 電灯球 でんとうきゅう?
  • 伝導体 でんどうたい
  • 電熱 でんねつ
  • 電場 でんば
  • 電波 でんぱ
  • 電媒常数 でんばい じょうすう
  • 電媒質 でんばいしつ
  • 電流 でんりゅう
  • 電流計 でんりゅうけい → アンペアメーター
  • 電鈴 でんれい
  • 電話交換 でんわ こうかん
  • 電話器 でんわき
  •    【と】
  • 同位元素 どうい げんそ
  • 同位体 どういたい
  • 等位面 とういめん
  • 灯光 とうこう
  • 同性体 どうせいたい?
  • 導体 どうたい
  • 等電位 とうでんい
  • 動物電気 どうぶつ でんき
  • 特別高圧 とくべつ こうあつ
  • ドップラー効果 ドップラー こうか
  • 度盛り どもり
  • トリウム化合物 トリウム かごうぶつ
  • トリウム系列 トリウム けいれつ
  • トリウム thorium
  • トリウム・エマナチオン
  •    【な】
  • 鉛 なまり
  • 軟鉄 なんてつ
  •    【に】
  • 二極真空管 にきょく しんくうかん → 二極電子管
  • 二極電子管 にきょく でんしかん?
  • ニクロム nichrome
  • 二クロム酸カリウム にクロムさんカリウム → 重クロム酸カリ
  • ニッケル nickel
  • 二流体仮説 にりゅうたい かせつ
  •    【ぬ】
  •    【ね】
  • ネオン neon
  • ネオン管 ネオンかん
  • 捩り秤 ねじり ばかり
  • 熱電子 ねつでんし
  • 熱電子管 ねつでんしかん
  • 熱電堆 ねつでんたい
  • 熱電池 ねつでんち
  • 熱電対 ねつでんつい
  • 熱伝導 ねつでんどう
  • 熱伝導度 ねつでんどうど
  • 熱電流 ねつでんりゅう
  • 熱の仕事当量 ねつの しごととうりょう
  • 熱量 ねつりょう
  • 熱量計 ねつりょうけい
  •    【の】
  •    【は】
  • 排気鐘 はいきしょう
  • 媒質 ばいしつ
  • 媒質電流 ばいしつ でんりゅう
  • 媒質論 ばいしつろん?
  • 背髄 はいずい?
  • 配電盤 はいでんばん
  • パイル pile
  • 白熱電灯 はくねつ でんとう
  • 場磁石 ばじしゃく
  • 波長 はちょう
  • 発音体 はつおんたい
  • 白金青酸バリウム はっきん せいさん バリウム?
  • 白金耳 はっきんじ → 白金線
  • 白金線 はっきんせん?
  • 発電機 はつでんき
  • 発電魚 はつでんぎょ
  • 発電子 はつでんし
  • 波動 はどう
  • 波動光学 はどう こうがく
  • 波動力学 はどう りきがく
  • パラフィン蝋 パラフィンろう
  • バルマー公式 バルマー こうしき
  • ハロ halo
  • 半減時間 はんげん じかん
  • 反磁性 はんじせい
  • 斑銅鉱 はんどうこう
  • 万有引力 ばんゆう いんりょく
  •    【ひ】
  • ビスマス bismuth
  • ピッチブレンド pitchblende
  • 比抵抗 ひていこう
  • 火熨斗 ひのし
  • 火花放電 ひばな ほうでん
  • ヒューズ fuse
  • 標識灯 ひょうしきとう
  • 標準電池 ひょうじゅん でんち
  •    【ふ】
  • ファラッド farad
  • ファラデーの法則 ファラデーのほうそく
  • 封蝋 ふうろう
  • 輻射 ふくしゃ
  • 輻射熱 ふくしゃねつ
  • 伏角 ふっかく
  • ブラシ brush
  • フランシスカン派 フランシスカンは
  • フランシスコ修道会 フランシスコ しゅうどうかい → フランシスカン派
  • フランネル flannel
  • フレミング真空球 フレミング しんくうきゅう
  • 分極 ぶんきょく
  • 分極電流 ぶんきょく でんりゅう
  • 文芸復興 ぶんげい ふっこう
  • 分光器 ぶんこうき
  • 分子電流 ぶんし でんりゅう
  • ブンゼン電池 ブンゼン でんち
  • 分巻 ぶんまき?
  •    【へ】
  • β線 ベーターせん
  • 並列接続 へいれつ せつぞく
  • ベクレル線 ベクレル せん
  • ヘッス線 ヘッス せん
  • ヘリウム helium
  • ベリリウム beryllium
  • ヘルー型電気炉 ヘルーがた でんきろ
  • 変圧器 へんあつき
  • 変圧所 へんあつしょ
  • 偏倚 へんい
  • 変位電流 へんい でんりゅう
  • 偏角 へんかく
  • 偏極 へんきょく
  • 偏差 へんさ
  • 変脱理論 へんだつ りろん?
  •    【ほ】
  • 方位角 ほういかく
  • 放射 ほうしゃ
  • 放射性物質 ほうしゃせい ぶっしつ
  • 放射線 ほうしゃせん
  • 放射熱 ほうしゃねつ
  • 放射能 ほうしゃのう
  • 放送 ほうそう
  • 放電 ほうでん
  • 放電叉 ほうでんさ?
  • 北極光 ほっきょくこう
  • ボルト volt
  • ボルトメーター voltmeter → 電圧計
  • ポロニウム polonium
  •    【ま】
  • マイクロフォン microphone
  • マクスウェルの電磁理論 マクスウェルの でんじりろん
  • マグデブルグの半球 マグデブルグのはんきゅう
  • マグネシア magnesia
  • 摩擦電気 まさつ でんき
  • マンガニン Manganin
  •    【み】
  •    【む】
  • 無線操縦 むせん そうじゅう
  • 無線電信 むせん でんしん
  • 無線電話 むせん でんわ
  •    【め】
  • メッキ紙 メッキがみ?
  •    【も】
  • モーター motor
  • モールス受信器 モールス じゅしんき
  • モールス符号 モールス ふごう
  • 文字印刷式受信器 もじ いんさつしき じゅしんき
  •    【や】
  •    【ゆ】
  • 融解 ゆうかい
  • 融着 ゆうちゃく?
  • 誘電体 ゆうでんたい
  • 誘電率 ゆうでんりつ
  • 誘導 ゆうどう
  • 誘導コイル ゆうどうコイル
  •    【よ】
  • 陽極 ようきょく
  • 洋銀 ようぎん
  • 陽子 ようし
  • 陽電気 ようでんき
  • 陽放射線分析 ようほうしゃせん ぶんせき?
  • 陽放射線 ようほうしゃせん?
  • 横質量 よこしつりょう? transverse mass
  •    【ら】
  • 雷獣 らいじゅう
  • ライデン瓶 ライデン びん
  • ラジウム radium
  • 羅針盤 らしんばん
  •    【り】
  • リウマチ rheumatisch → ロイマチス
  • 力管 りきかん?
  • リサジュー図形 リサジュー ずけい
  • リチャードソン効果 リチャードソン こうか
  • リヒテンベルグ図形 リヒテンベルグ ずけい
  • 硫化亜鉛 りゅうか あえん
  • 硫酸 りゅうさん
  • 硫酸鉛 りゅうさん なまり
  • 硫酸根イオン りゅうさんこん イオン?
  • 量子 りょうし
  • 量子力学 りょうし りきがく
  • 量子論 りょうしろん
  • 輪道 りんどう
  •    【る】
  • ルクランシェ電池 ルクランシェ でんち
  •    【れ】
  • レジオン・ドヌール Legion d'honneur
  • レナード線 レナードせん
  • レンツの法則 レンツのほうそく
  • レントゲン管 レントゲンかん
  • レントゲン線 レントゲンせん → X線
  •    【ろ】
  • ロイマチス
  •    【わ】
  • 湾曲度 わんきょくど?






人名索引


  • 尾形光琳 おがた こうりん → 光琳
  • 菊池正士 きくち せいし
  • 黄帝 こうてい
  • 光琳 こうりん
  • 酒井抱一 さかい ほういつ
  • 宗達 そうたつ
  •  
  •    【あ】
  • アインシュタイン Albert Einstein
  • アウグスティヌス Aurelius Augustinus → セント・オーギュスティン
  • アストン,フランシス Francis William Aston
  • アブラハム,マックス Abraham, Max
  • アラマンド
  • アリストテレス Aristotele
  • アルコ Arco, Georg, Graf von
  • アレキサンダーソン Alexanderson, Ernst Frederick Werner
  • アンペール Andre Marie Ampere
  •    【い】
  •    【う】
  • ヴァンダ
  • ウィーヘルト Wiechert, Emil
  • ウィーン Wilhelm Wien
  • ウィーン,ウィリ
  • ウィムズハースト,ジェイムズ Wimshurst, James
  • ウィルケ
  • ウィルソン Charles Thomson Rees Wilson
  • ウィンクラー
  • ヴェーバー,ヴィルヘルム Weber, Wilhelm Eduard
  • ウェルスバッハ,アウエル・フォン Auer Carl, Freiherr von Welsbach
  • ヴォルタ Alessandro Volta
  • ヴラジミル
  •    【え】
  • エールステッド,ハンス・クリスチアン Hans Christian Oersted
  • エディソン,トーマス Thomas Alva Edison
  • エピヌス Aepinus, Franz Ulrich Theodosius
  • エプシュタイン P. S. Epstein
  • エリザベス Elizabeth
  • エルー Heoult, Paul Louis Toussaint → ヘルー
  • エルスター Elster, Julius
  •    【お】
  • オーム,ゲオルグ・シモン Georg Simon Ohm
  •    【か】
  • ガイガー,ハンス Hans G.
  • ガイスラー,ハインリッヒ Geissler, Heinrich
  • ガイテル Geitel, Hans Friedrich
  • カヴァルロ
  • ガウス Karl Friedrich Gauss
  • ガウトロー
  • カウフマン Kaufmann, Walter
  • ガッサンディ Gassandi' (Gassand) , Pierre → ギャッサンディ
  • ガリレイ Galileo Galilei
  • ガルヴァーニ Luigi Galvani
  •    【き】
  • ギーゼル Giesel, Friedrich Otto Fritz
  • キール,ジェームス
  • キャヴェンディッシュ,ヘンリー Henry Cavendish
  • ギャッサンディ
  • キュネウス
  • キュリー,ピエール Pierre Curie
  • キュリー,マリー Marie Curie
  • ギルバート,ウィリアム William Gilbert
  •    【く】
  • クーリッジ Coolidge, William David
  • クーロン Charles Augustin de Coulomb
  • クルツァンナ,グスターフ
  • クルックス,ウィリアム Crookes, Sir William
  • グレイ,ステフェン Stephen Gray
  • グロートゥス Grothuss (Grotthuss), Christian Theodor, Freiherr von
  •    【け】
  • ゲーリケ,オットー・フォン Gue'ricke, Otto von
  • ケプラー Johannes Kepler
  • ゲリブランド Gellibrand, Henry
  • ケルヴィン Lord Kelvin → トムソン,ウィリアム
  •    【こ】
  • ゴールドシェミット
  • ゴールドシュタイン
  • コールヘルスター W. Kolhorster
  • コッククロフト John Douglas Cockcroft
  • ゴルトシュタイン,オイゲン Goldstein, Eugen → ゴールドシュタイン
  • ゴルトシュミット,ルードルフ Goldschmidt, Rudolf → ゴールドシェミット
  • コルン,アルツール Korn, Arthur
  • コロンブス Christopher Columbus
  •    【さ】
  • サルピ,ピエトロ Sar'pi, Paolo (Pietro)
  • サンレク
  •    【し】
  • ジーメンス,ヴェルナー Siemens, Ernst Werner von
  • ジェームズ一世 James
  • ジャーマー
  • ジュール,ジェームス・プレスコット James Prescott Joule
  • シュヴァルツシルト,カール Karl Schwarzschild → シュワルツシルド
  • シュタルク,ヨハネス Stark, Johannes
  • シュネー
  • ジュピター Jupiter
  • シュレーディンガー Erwin Schrodinger
  • シュワイドラー
  • シュワルツシルド
  • ジョーンズ,レナード Lennard-Jones, Sir John Edward → レナード
  • シンマー,ロバート Symmer, Robert
  •    【す】
  • スタージョン,ウィリアム William Sturgeon
  • ストークス,ジョージ・ガブリエル Stokes, Sir George Gabriel
  • ストーニー,ジョンストン Sto'ney, George Johnstone
  •    【せ】
  • ゼーベック,トーマス Thomas Johann Seebeck
  • ゼーマン,ピーター Pieter Zeeman
  • セヴェルス
  • セント・オーギュスティン
  • ゼンメリング Sommering, Samuel Thomas von
  •    【そ】
  • ソッディー Soddy, Frederic
  • ゾンマーフェルド Sommerfeld, Arnold
  •    【た】
  • ダーセン,フェツ
  • タウンゼンド Townsend, Sir John Sealy Edward
  • ダニエル John Frederic Daniell
  • タレス Thales
  •    【ち】
  • チャディック
  • チルドレン,ジョン・ジョージ
  •    【つ】
  •    【て】
  • デヴィー,ハンフリー Davy, Sir Humphry
  • デヴィソン Davisson, Clinton Joseph
  • テオフラスタス Theophrastos
  • デカーツ
  • デカルト Rene Descartes → デカーツ
  • デサイヌ
  • テプラー Toepler, August
  • デュ・フェイ Du Fay, Charles Francois de Cisternay
  • デュッヘル,ハンス
  • デリュー
  •    【と】
  • ドップラー Christian Johann Doppler
  • トムソン,ウィリアム
  • トムソン,ジョージ・パジェット George Paget Thomson
  • トムソン,ジョセフ・ジョン Joseph John Thomson
  • ドルーデ,パウル Paul Karl Ludwig Drude
  • ドルン Dorn, Friedrich Ernst
  •    【な】
  • ナポレオン Napoleon
  •    【に】
  • ニコラウス・カペウス
  • ニュートン Isaac Newton
  •    【ぬ】
  •    【ね】
  • ネッカム,アレキサンダー Nekam, Alexander
  •    【の】
  • ノーマン Norman, Robert
  • ノイマン,フランツ・エルンスト Franz Ernst Neumann
  •    【は】
  • ハイゼンベルク,ヴェルナー・カール Werner Karl Heisenberg
  • バタナリウス
  • ハリー Edmund Halley
  • ハルバクス Hallwachs, Wilhelm → ハルワックス
  • バルマー Baimer, Johann Jakob
  • ハルワックス
  • バンクロフト
  •    【ひ】
  • ヒットルフ,ヴィルヘルム Hittorf, Johann Wilhelm
  • ヒューズ Hughes, David Edward
  •    【ふ】
  • ブーヘラー Bucherer, Alfred → ブッヘレル
  • プールゼン,ワルデマール
  • ファラデー,マイクル Michael Faraday
  • ファン・ヘルモント Jan Baptista van Hel'mont
  • ファン・ムッシェンブレーク → ミュッセンブルーク
  • フォール
  • フォン・クライスト Kleist, Ewald Georg von
  • フォン・ボルトン
  • ブッヘレル
  • プトレマイオス Ptolemaios Klaudios
  • フプカ
  • フラヴィオギオ
  • ブラウン,トマス Thomas Browne
  • ブラウン,フェルディナント Karl Ferdinand Braun
  • ブラッグ William Henry Bragg
  • ブラッグ William Lawrence Bragg
  • プランク,マックス Max Planck
  • フランクリン,ベンジャミン Benjamin Franklin
  • プランテ Plante Raimond Louis Gaston
  • ブランリー,エドアール Branly, Edouard
  • プリーストリー Joseph Priestley
  • プリュカー,ユリウス Plucker, Julius
  • フレミング John Ambrose Fleming
  • ブロイ,ルイ・ド Louis Victor de Broglie
  • ブンゼン Robert Wilhelm Bunsen
  •    【へ】
  • ベーコン,フランシス Francis Bacon
  • ベーコン,ロジャー Roger Bacon
  • ベアード John Logie Baird
  • ヘヴィサイド,オリヴァー Heaviside, Oliver
  • ベクレル,アンリ Antoine Henri Becquerel
  • ヘス,ヴィクトール・フランツ Victor Franz Hess → ヘッス
  • ベステルマイヤー
  • ベタンクール Betancourt
  • ヘッス
  • ペテノー
  • ベネット A. Bennet
  • ベル,グラハム Alexander Graham Bell
  • ヘルー
  • ヘルツ,ハインリッヒ Heinrich Rudolph Hertz
  • ヘルムホルツ Hermann von Helmholtz
  • ペレグリヌス,ペトルス Petrus Peregrinus
  • ヘンリー,ジョセフ Joseph Henry
  •    【ほ】
  • ボーア,ニールス Niels Bohr
  • ホークスビー Hauksbee, Francis
  • ボーテ,ワルサー Walther Wilhelm Georg Bothe
  • ホーマー Homer
  • ボイル,ロバート Robert Boyle
  • ポッゲンドルフ Pog'gendorff, Johann Christof
  • ホメロス Homeros → ホーマー
  • ホルツ
  • ホワイト
  •    【ま】
  • マイヤー,ステファン
  • マイヤー,ロバート Julius Robert von Mayer
  • マイランド,ジョン
  • マクスウェル,クラーク James Clerk Maxwell
  • マグネス
  • マルコーニ,ギレルモ Guglielmo Marconi
  •    【み】
  • ミュッセンブルーク,ピーテル・ファン Musschenbroek, Pieter van
  • ミリカン,ロバート Millikan, Robert Andrews
  •    【む】
  •    【め】
  •    【も】
  • モールス Samuel Finley Breese Morse
  •    【や】
  •    【ゆ】
  •    【よ】
  •    【ら】
  • ライス,フィリップ Reis, Johann Philipp
  • ラウエ,マックス Laue, Max von
  • ラザフォード Ernest Rutherford
  • ラツール
  • ラムスデン,ジェッス Ramsden, Jesse
  • ラムゼー,ウィリアム William Ramsay
  • ランジュバン,ポール Paul Langevin
  •    【り】
  • リサジュー Lissajous, Joules Antoine
  • リチャードソン,オーエン Richardson, Sir Owen Willans
  • リッター,ヨハン・ヴィルヘルム Johann Wilhelm Ritter
  • リヒテンベルク Lichtenberg, Georg Christph
  • リュンコルフ
  •    【る】
  • ルクランシェ Leclanche, Georges
  • ルクレティウス Titus Lucretius Carus
  • ルモンニエー
  •    【れ】
  • レナード
  • レンツ,ハインリヒ Heinrich Friedrich Emil Lenz
  • レントゲン,ウィルヘルム・コンラード Wilhelm Konrad Rontgen
  •    【ろ】
  • ローレンツ Hendrik Antoon Lorentz
  • ロマニオシ
  •    【わ】
  • ワットソン






地名一覧


  • [イギリス]
  • ウェストミンスター Westminster
  • ウェストミンスター橋
  • シューターの丘陵
  • 大英国王立協会
  • テームス河
  • テムズ Thames → テームス河
  • ロイヤル‐ソサイエティー Royal Society → 大英国王立協会
  • ロンドン London
  • 英仏海峡 えいふつ かいきょう
  • ドーヴァー海峡 ドーヴァー かいきょう → 英仏海峡
  • [フランス]
  • アカデミー‐フランセーズ → フランスのアカデミー
  • フランスのアカデミー
  • [ドイツ]
  • ヴュルツブルク Wurzburg
  • ヴュルツブルク大学
  • 科学博物館 かがく はくぶつかん?
  • カミン
  • ニュルンベルク Nurnberg
  • ベルリン Berlin
  • ポメラニア Pomerania
  • ボン Bonn
  • マクデブルク Magdeburg
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  • [イタリア]
  • [オランダ]
  • ライデン Leiden
  • ライデン大学
  • [デンマーク]
  • 工科大学
  • コペンハーゲン Copenhagen
  • [イタリア]
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  • ボローニャ大学
  • [ギリシャ]
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  • ミレヴィス
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  • ローマ Roma
  • [イスラエル]
  • エルサレム Jerusalem
  • [ロシア]
  • 大西洋
  • [アメリカ]
  • フィラデルフィア Philadelphia
  • ボルチモア Baltimore
  • ロスアンゼルス Los Angeles
  • ワシントン Washington
  • [カナダ]
  • ニューファンドランド Newfoundland
  • [中国]
  • シナ
  • ---------------------
  • [福島県]
  • 猪苗代発電所 いなわしろ はつでんしょ
  • 猪苗代湖 いなわしろこ
  • [栃木県]
  • 鬼怒川 きぬがわ
  • 鬼怒川電気
  • 下滝発電所 しもたき はつでんしょ
  • 東京芝浦製作所 株式会社東芝か。
  • 東京電灯 とうきょうでんとう
  • [神奈川県]
  • 川崎発電所
  • 川崎 かわさき
  • 鶴見 つるみ
  • [岐阜県]
  • 木曽川 きそがわ
  • 大井ダム おおいダム





    電氣物語(全)

    石原純

    -------------------------------------------------------
    【テキスト中に現れる記号について】

    《》:ルビ
    (例)X《エツキス》線

    [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
       (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
    (例)辛ひ[#「辛ひ」は底本のまま]

    /\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
    (例)まだ/\
    *濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
    -------------------------------------------------------


    [#図版(kuchie_01.png)、大雷光]

    [#図版(kuchie_02.png)、原子模型で.電球の點滅によつて電子の運行状態を説明してゐる處]

    [#図版(kuchie_03.png)、昨年オリンピツク競技が行はれたロスアンゼルス大競技場における夜の照明]

    [#図版(kuchie_04.png)、イギリスのベーアドの最近のテレヴイジヨン實驗]

    [#図版(kuchie_05.png)、スタヂオにおけるヴアンダ及びヴラヂミルの舞踊を右側の器械で電映せる光景]


    電氣物語
     目次
       緒言
     一 電氣及び磁氣に關する古代の知識
     二 電氣學及び磁氣學研究の曙光
     三 電氣に關する最初の假説
     四 電氣の重要なる基本現象
     五 電池の發明
     六 電流の法則
     七 電流の化學作用
     八 電流による熱と光、熱電流
     九 電流の磁氣作用(一)
    一〇 電流の磁氣作用(二)
    一一 磁氣及び電氣の場、地球磁氣
    一二 媒質論の發展
    一三 感應電氣
    一四 電氣の自己感應及び交流
    一五 放電
    一六 電氣振動、電波
    一七 眞空放電、陰極線
    一八 陽放射線
    一九 X線及び放射能
    二〇 光電氣効果、リチャードソン効果
    二一 電氣素量、電子の性質
    二二 物質の電子論及び其發展
    二三 電子の波動性
    二四 宇宙線

     目次了



    電氣物語
    理學博士 石原純

       緒言

     今日の世のなかは『電氣の世界』であると云つてもよい程に、我々は日常の生活で電氣を取り扱ひ、始終之に接觸するやうになつてゐる。誰でも電燈のスウィッチをひねらないものは無いだらうし、電話器を手に取らないものも稀である。家のなかや往來でラヂオの發聲を聞くのも普通であるし、電車の走ることなどはもうどんな子供でも不思議がらない。大きなビルディングへゆくと、何處でもエレベーターが我々を運んでくれるし、電熱を利用した暖爐や煮沸器などもだんだん行はれて來る。電氣は全く我々人間に取つて便利な必需品になつてしまつた。だが、電氣がどうして斯んな作用をもつのであらうか、電氣とは抑も何であるか又どうして之等の應用が發明されるやうになつたか、さう云ふ疑問に對して一般の人々はまだ/\それ程明瞭には答へることができないであらう。私はこゝで電氣の性質について出來るだけ解り易く物語つて見たいと思ふ。電氣の一切の取り扱ひを學者や技術者だけに任せ切りにした時代は既に過ぎ去つてゐるので、我々の家庭のなかにまで電氣器械が入り込んでくるやうになると、誰でも之に對する一と通りの知識を具へて、少し位の故障は自分でなほしたり、漏電などの災害に對する豫防にも注意することが必要になるのである。又既に電氣について學んだ人々にしても、その知識を一層正確にして自然の不思議な本質について十分の理解を得るやうにすることは甚だ望ましい次第である。この物語が之等の意味で何等かの役に立てば辛ひ[#「辛ひ」は底本のまま]であると私は思つてゐる。

       一、電氣及び磁氣に關する古代の知識

     電氣と磁氣とは互ひに密接な關係を持つてゐることが今日では明らかになつてゐるが、古い時代にはそれが只不思議な現象として別々に知られてゐたに過ぎなかつた。第一には夏の天空に見る雷電の現象はそれが屡々起る地方の人民には無論開闢以來常に經驗せられた處のものであつた。だが、雷電がどうして起るかと云ふことについてはその他の自然現象と共に到底解釋が出來なかつたので、只恐ろしい神祕的のものとして種々の想像説を生んだ。西洋では之をジュピターの神と結びつけて、多くの神話傳説が物語られた。我が國などでは近代になつて西洋科學の輸入せられるまではまだ一般にそれらの神祕説が行はれ、雷神を祭つたり雷獸の如き怪異を恐れ信じたりして怪まなかつた程である。第二に磁石が鐵を吸ひつける現象も亦一種の不思議な力のあらはれとして古くから人々の注意を惹いた。
    [#図版(001.png)、第一圖 文化文政頃に酒井抱一の筆になる雷神]
    [#ここからキャプション]
    この外に光琳.宗達の風神雷神の繪亦有名である
    [#キャプションここまで]
     ギリシャのお伽話に、斯んなのがある。マグネスと云ふ人が或る山に登つたら、ふとその靴が地面に吸ひついてしまつて、どうしても離れない。そこで手に持つてゐた杖を力に足を揚げようとしたら、今度は杖が亦地面に吸ひつけられてしまつた。マグネスは一生懸命になつてやつとそこを離れてなぜこんな事が起つたのだらうと思つて探して見ると、鐵を吸ひつける不思議な石のあることがわかつたと云ふのである。自然に存在するものは今日磁鐵鑛と名づけてゐるものであるが、之は諸處で發見されたらしい。支那では隨分古くから知られてゐて、既に黄帝の時代に軍勢が濃霧のなかで方角を失つた場合に、いつも南を向く人形を用ひて地理を悟つたと云ふやうな記録がある。之は磁石を應用したものであらうと推察せられてゐるが、ともかく磁石の性質は雷電のやうな恐ろしい災害を及ぼすものと異つて、單に珍らしく且つ面白く感ぜられるだけに、夙くから研究せられたらしい。
     支那ではいつも磁針が南を指すと解せられ、その後も指南車と云ふ名で屡々歴史に載つてゐる。之は針を水上に浮ばせて、その運動を小さな人形に傳へ、人形の手が南に向くやうに作られたのである。磁針が西洋に傳はつたのは、紀元前千年頃であるらしく、當時のギリシャの大詩人ホーマーの有名な詩『オディッセー』のなかに磁石が航海に用ひられることを歌つた言葉が見出される。ずつと降つて紀元前六十年頃にローマの詩人ルクレチウスの作つた『物の性質』(De Rerum Natura)と云ふ詩のなかには、磁針が互ひに環鎖につながる事が記されて居り、又それより二百年前にプトレミーはファロスの寺院内に鐵の立像を置く際に、天井裏に澤山の磁鐵鑛を具へて何も支へることなく、立像を空中に懸垂させたと傳へられてゐる。
    [#図版(002.png)、第二圖]
    [#ここからキャプション]
    しびれゑひの頭部の皮をむき取つて示した寫眞で龜甲形の集つた部分が電氣器官.中央黒い所に電氣神經がある
    [#キャプションここまで]
     第三にギリシャの七大哲學者の最初の人と云はれてゐるミレトスのターレスは、紀元前六百年頃に始めて琥珀が摩擦されたときに、藁や枯葉のやうな輕い物體を吸引することを發見した。これが摩擦電氣の觀察された最初であるが、その後三百年許り經て、テオフラスタスは電氣石も同樣の性質を帶びてゐることを見出した。この作用は磁石ほどに強くはないけれども、やはり不思議な現象として珍らしがられたのであつた。それから第四に一種の電氣魚として知られてゐる『しびれゑひ』(Torped)と云ふ魚類は之を手に觸れると、しびれるやうな刺戟を感ずることもギリシャ時代に知られて居り、有名な哲學者アリストテレスなどもこの事實を記してゐる。
     之等のものが自然に存在する電氣及び磁氣の現象として我々に觀察された最初のものである。このうちで、既に述べたやうに、雷電は餘りに激しく我々の力を超絶してゐるために之に手を下すことができなかつたが、磁石の力はいかにも我々の驚異をそゝる對象物であつた。
     ローマの高僧セント・オーギュスティン(紀元四二六年)が磁石の實驗について書いてゐる文章を左に抄録して見よう。
    『私は最初それ(磁石の引力)を見て實に驚嘆した。鐵の環が引きつけられて石についてしまつたからである。しかもそれは自分の性質を鐵にまで傳へて又次のものを近づけると之を引揚げる。そして第一の環が磁石に引付いたやうに、第二の環は第一のものに吸ひ付く。第三、第四も同樣に加はつて、磁石から一種の環の鎖が下がり、しかも環は組み合はずに表面だけで繋がつてゐる。磁石の力がそれ自身ばかりでなくて、澤山の環に傳はり、見えない組み合せで連絡してゐるのを見て誰か[#「誰か」は底本のまま]興がらないだらうか。だが、もつと/\驚くべき事柄は、基督教會に於ける私の兄弟たるミレヴィスの僧正セヴェルスから磁石について私が聞いた話である。その話によると、僧正がアフリカの貴族バタナリウスの處で一緒に食事をしてゐたときに、彼は銀の板の上に鐵の一片を置き、その下で磁石を手に持つて動かすと、板の上の鐵はそれに伴れて動き出し、中間の銀板は少しも之を妨げることなく、前後左右に引かれてゆくと云ふことである。私は自分で實驗したことを話したのだ。否、自分の眼を信用すると同じく信用する人の語つたのを話したのだ』
     之でもわかるやうに始めて磁石の力について觀察した當時の人々がいかに不思議を感じたかを知ることができるであらう。自然の事實の詳細な觀察がすべて科學を生むものである事を我々は忘れてはならない。だが、之等の事實は一般の人々には一種の魔術のやうに解せられた。十三世紀時代のイギリス、フランシスカン派の僧侶ロージャー・ベーコンは當時種々の物理現象を觀測して科學的知識を大いに進めた人であつたが、世間からはその實驗を見て魔術師の樣に思はれた。我が國でも徳川時代に屡々キリシタン僧侶が、謂はゆる『エレキ』の實驗を行つて魔術視せられたことがあるのもこゝに想ひ起される。
     十三世紀は西洋では謂はゆる文藝復興の運動の起つた當初である。種々の學問の新らしい萠芽がそこに育てられたなかに、實驗科學の基礎が上記のロージャー・ベーコンやペレグリヌスによつて置かれたのであつた。ペレグリヌスはオランダの十字軍戰士として從軍した人であるが、磁石の性質に關する最初の學術的記録を殘したのも彼である。そのなかには、磁石に北及び南に向ふ極即ち謂はゆる北極と南極とが一定してゐる事、二つの磁石の間では北極と南極とが互ひに引き合ひ、同名の極は互ひに斥け合ふ事、棒状の磁石を切るとその各々に兩極を生ずること、その他磁石に關する種々の實驗が記されてゐる。
    [#図版(003.png)、第三圖 ペレグリヌスの書物に記された羅針盤の圖]
    [#図版(004.png)、第四圖 今日の船舶用羅針盤]
    [#図版(005.png)、第五圖 簡單なる磁針]
     磁石の研究がかやうにして始まると共に、一方では方角を知る器械即ち羅針盤としての應用が益々重要な役目を果すやうになつた。なぜなら當時造船術の進歩に伴つて漸時[#「漸時」は底本のまま]遠洋航海が行はれるに至り、このために羅針盤が一層必要となつて來たからである。有名なコロンブスのアメリカ發見は一四九二年であるが、之によつても當時の情勢を覗ふことができるであらう。この時代に航海用羅針盤に貢獻した人々としてイギリスのアレキサンダー・ネッカム(一二〇七年)や、上記のペレグリヌス(一二六九年)や、イタリーのフラヴィオギオ(一三〇二年)などの名が記されてゐる。

       二、電氣學及び磁氣學研究の曙光

     十六世紀の終から十七世紀にかけた時代は今日の我々の科學が始めて眞の生長を促した最も大切な時期であつて、イタリーのガリレイやドイツのケプレルが天體の運動を研究して後のニウトンの力學の基礎を形作り、又イギリスのウィリアム・ギルバートが電氣及び磁氣の實驗的研究を行つて後の發展に資したことはここに特筆せらるべきものである。
    [#図版(006.png)、第六圖 ギルバートがエリザベス女皇の前で電氣實驗を行つてゐる有樣]
     ギルバートは晩年にエリザベス女皇並びにジェームス一世の侍醫となつた醫者であるが、電氣と磁氣とに就ての研究は實に深く、宮廷に於て女皇の面前でそれらの實驗を行ひ當時の人々を驚かしたと云ふことである。一六〇〇年に公けにした彼の著書には十七年間に亘る研究の結果が集められてゐるが、之によつてポッゲンドルフは彼を『磁氣のガリレオ』と稱し、プリーストレーは『近代電氣學の父』と讃した。
     電氣については、彼は先づ琥珀の系統的研究を行ひ、又摩擦によつて帶電する物質の表をつくり、帶電しない物質と區別した。琥珀の外に、金剛石や青玉や水晶や、硝子、硫黄、松脂などが電氣を起す物質として數へられた。又摩擦電氣は乾いた空氣中で能く起り、特に寒い冬季の晴れた日には最もよく觀察せられるのを見た。吸引せられる物質としては金屬、木、葉、石、土などの殆んどすべての固體の外に、水や油でもよいことを見出した。尚ほこの外種々の實驗を行ひ、電氣の力と磁氣の力との性質の相違をも研究した。
    [#図版(007.png)、第七圖 銀枠に篏めた自然磁石]
    [#第七図とそのキャプション内容は、食い違いか]
     磁氣に關しては、先づ磁石の強さとその形状とについて、又兩極と之を結びつける軸とについて研究し、磁石からの感應によつて鐵がいかにして磁石となるかについて詳細の實驗を行つた。磁針を強い磁石で摩すると磁性を増すことなどもそこに示されてゐる。彼の一大發見とも稱すべきは、地球が一大磁石であることを明かにしたことである。磁針が常に南北を指すのはその兩極が地球磁石の兩極に引かれるからであつて、之が丁度地理上の南北方向と一致するのである。けれどもこの一致は決して完全ではなくて多少の外づれを示し、且つそれが地球上の塲所によつて異なることが明らかにせられた。尤も磁針の方向が正しく北を指さずに、北極星の方向と多少異なると云ふ事實は、既に當時の航海者には知られてゐたので、その最初の發見者はコロンブスであるとも傳へられてゐる。又磁針を上下に傾き得るやうに裝置すると北極が水平線よりも下を向くことも少し以前に、即ち一五七六年に、イギリスの磁針製作者ノーマンによつて見出だされてゐた。
     之はギルバートの説に從つて地球磁石の極が地球内部に存在することを考へれば當然の結果であつて、この場合に磁針が水平に對して傾く角度即ち伏角を測る器械もギルバートによつて記されてゐる。鐵を子午線の方向に据ゑ置き、之を熱しながら槌で叩くと磁石になると云ふ實驗などもなされた。
     ギルバートの後に暫らくの間は多くの學者によつて磁石の研究が盛んに行はれた。歴史上に知られた程の當時の科學者で、この問題を取り扱はないものは殆んどなかつたと云つてもいゝであらう。例へば、イギリスのフランシス・ベーコンとかベルギーのファン・ヘルモンとか、イタリーのピエトロ・サルピとか、その外澤山に擧げることができる。またフランスのギャッサンディ(一六二一年)が北極光を觀測し、イギリスのゲリプランド[#「ゲリプランド」は底本のまま](一六三五年)が磁針方位角の永年的變化を見出だしたのもこの時代に屬する。イギリスの有名な天文學者ハリーが地球磁石の極の位置を推定したのに對し、一六九八年、一六九九年、一七〇二年の三回に亘りて政府から觀測隊を派遣して各地に於ける方位角を測定し、始めて正確な磁氣分布圖を作つたのは、この種類の學術觀測事業の最初のものであつた。
     磁石研究の流行時代がその頂點を過ぎてから、漸く摩擦電氣の新らしい研究が起つた。と云ふのは單に個々の物質を手に掴んで摩擦したゞけでは、それ程強力の電氣を起すことができないので、ギルバートの實驗した以上に幾らの知識を増すこともなかつたわけであるが、一六六〇年になつて例のマグデブルグ半球の實驗で我々に能く知られてゐるドイツのオットー・フォン・ゲーリケが始めて新らしい有力な起電機を作つたからである。それは硝子球で鑄型をとつた硫黄の球を廻轉軸に取り付けたものであつて、之を布で擦つて電氣を起させるのである。
     ゲーリケはこの起電機の硫黄の球に手を觸れると響と光とを發することを始めて實驗した。又輕い物體は電氣に吸引せられるけれども一度帶電體に觸れた後にはすぐに反撥せられ、更に他の物體に觸れるまではもはや吸引せられないことを見出だした。尚ほ輕い物體を帶電せる球の内部につるすと、物體自身にも電氣状態を起すことをも實驗した。
    [#図版(008.png)、第八圖 一七四四年頃の起電機と其實驗]
    [#ここからキャプション]
    右方で手の摩擦により電氣を起し.左方で絶縁臺の上に立つてゐる人體(E)を通して放電の火花を生ぜしめ匙(F)に盛つた酒精に點火するを示す
    [#キャプションここまで]
     この起電機は間もなくイギリスに傳へられて、そこで多くの實驗がなされた。ロバート・ボイル(一六七一年)は摩擦された物體が他の摩擦されない物體を吸收するばかりでなく、前者を絹絲でつるすと後者から引かれることを確め、又吸引現象は空氣中ばかりでなく、空氣ポンプの排氣鐘内でもあらはれることを觀察した。ニゥトンはゲーリケの硫黄の球の代りに硝子球を用ひた起電機による實驗を一六七六年にイギリスのローヤル・ソサイティで行つた。硝子球は摩擦された面ばかりでなく、その反對の面も吸引作用を有することをそこで示した。次いでホークスビーは一七〇五年に同じくローヤル・ソサイティーで一層強力な起電機を用ひ、眞空中で琥珀又は硝子を擦ると光を發することを實驗した。硝子から發する光は最初紫色から青白くなり、又鹽やアルコールを塗つた毛布からは一種の強い閃光が出ると彼は述べてゐる。
     電氣に關する斷片的の事實がかやうにして漸次知られた後に、十八世紀に入つて始めて電氣學が一つの科學の體裁を作るやうになつた。そして之に對して主として貢献したのはイギリスのステフェン・グレイであつた。彼は摩擦によつて電氣を起さない物體には總て起電體から電氣を傳へることのできることを發見した。即ち絹絲で麻の線を支へると、電氣を數百呎の遠方にまで導くことができるが、絹絲の代りに荷造繩を用ひた場合には失敗した。彼はこの方法で種々の物質を檢して、麻や荷造繩や針金は電氣を傳導するのに反し、毛髮や樹脂や絹絲のやうな物質は之を傳へないで却つて絶縁することを見出だした。彼はこの外液體や人體にも電氣を傳へて傳導を實驗し、又電氣力の強さは物質の量によらないで、その表面の大いさに關することを示した。
    [#図版(009.png)、第九圖]
    [#ここからキャプション]
    イギリスのジエツス・ラムスデンの作つた摩擦起電機(一七六八年)。これは硝子球の代りに始めて硝子板を用ひたもの
    [#キャプションここまで]
     電氣實驗に於ける劃時代的の進歩は我々が今日ライデン壜と稱へてゐる一種の蓄電器の發見によつて遂げられたのである。この發見は一七四五年にポメラニアのカミンと云ふ場處の寺院の僧侶のフォン・クライストによつてなされた。その記す處によれば、釘又は太い眞鍮の針金を火でよく乾かした小さな藥壜に入れて之に電氣を與へ、釘に手を觸れると著しい電撃を受けると云ふのである。壜のなかに少量の水銀又は酒精を注ぐと、もつと能く成功することも述べられてゐる。ライデン壜の名はこのクライストの發見と獨立にその翌年オランダのライデンで同じ發見が偶然になされたことから由來してゐる。即ちライデン大學の教授ファン・ムッシェンブレークがその同僚キュネウス及びアラマンドと共に實驗してゐた際に、物體から電氣を逃げ去らないやうにするためには、電氣を導かないもので之を圍んでおけばよからうと云ふ考へで、この目的のために水を選び之を硝子瓶に入れてみた。併しその目的の效果が達せられないうちに、偶まこの瓶を片手に持つてゐたキュネウスが一方に強い起電機の導體と連絡された針金を引き拔かうとした處が、腕と胸に激しい衝撃を受けたので、他の人々も之を試みたら同樣であつたと云ふことである。ムッシェンブレークはそのときの樣子を人に語つて『フランスの全王國を賭けても、私は二度と電撃を受けたくない』と話したさうである。
    [#図版(010.png)、第十圖 ライデン壜の外形(A)と縱斷面(B)]
    [#ここからキャプション]
    硝子瓶の内※[#一字不明]兩面に錫箔を貼りつけ.絶縁體の蓋を貫いて金屬棒を立て.棒の下端に鎖を垂らして底に達せしめる
    [#キャプションここまで]
     ともかくもこの時代に於ては、起電機の構造が漸次改良せられて來たと共に、このライデン壜の發見によつて多量の電氣を集め蓄へることができたので電氣に關するすべての實驗が面目を一新するやうになつたことは容易に想像せられるであらう。我々は茲に始めて電氣の理論に進むことができるのである。

       三、電氣に關する最初の假説

     電氣とは何であるか。之は抑も電氣の現象が發見せられた最初の瞬時からの宿題であつた。尢も今日我々が同じく電氣の作用として解してゐる種々の事柄が最初は互ひに獨立に知られて、その間に何等の連絡も考へられなかつたことは、既に第一節に述べた通りであるが、そのうちで最も早く問題にせられたのは、摩擦された物體が輕い物を引きつける性質であつた。日本語でこそ電氣と云ふのは雷電から取られたものであることは勿論であるが、之は西洋科學の輸入後につくられた新らしい言葉に外ならない。之に反して英語の electricity と云ふのは、ギリシャ時代に琥珀を electron と名づけてゐた處から、之を語源として抽象したものである。形容詞として electric と云ふ言葉を用ひた最初の人はギルバートであると云はれてゐるが、その後名詞としてはベルギーのファン・ヘルモン(一六二一年)イギリスのトーマス・ブラウン(一六四六年)等の著書にあらはれてゐる。
     さて言葉の用ひ方はともかくとして、電氣の正體即ち琥珀や電氣石が摩擦によつて輕い物を引くと云ふのは何によるかと云ふことについては、いろ/\の説明が試みられた。ギリシャ時代には引力とか斥力とか云ふものを愛と憎との作用によるものとして考へてゐたが、十七世紀頃になつて漸く物體の力に對してさう云ふ主觀的意味を離れて客觀的状態を歸するやうになつた。當時のジェスイト派の學者ニコラウス・カペウスと云ふ人は、ギルバートに次いで電氣及び磁氣に關する書物を著はしたが(一六二九年)、その中で琥珀が輕い物を引くのは、その周圍に一種の蒸氣を噴出し、渦動を起して空氣を押し退けるからだと述べてゐる。又前記のブラウンなどは、琥珀が油質の蒸氣を流出し、周圍の空氣で冷やされると蒸氣が凝結して琥珀に戻る際に輕い物を一緒に引きつけてくるのだと考へた。又フランスの有名な哲學者デカーツは細い紐の形をした中間物が互ひに引き合ふ兩者の間に存在することを想像した。
     併し之等の假説はいづれも事實を離れた單なる想像に過ぎなかつた。が、之に反して科學の理論はいつも事實の上に立たねばならないことは今日の我々のよく知つてゐる通りであつて、電氣に關してもだん/\に種々の事實が經驗觀測せられるに從つて、漸くその本當の理論的解釋が萠芽するに至つた。一七三三年にフランスのデュ・フェイが稱へたところのものは即ちその最初のものである。
     デュ・フェイの理論の基礎となつた電氣の根本性質は既にそれ以前にステフェン・グレイと一緒に研究に從事したホワイトによつて發見されたと云はれてゐるが、ともかくもデュ・フェイ自身も之を一々實驗的に試めした上で、そこに自分の假説を立てたのであつた。彼は摩擦した硝子球がその傍に垂下した絲を吸引して、絲が球に觸れた後に、絲に球を近づけると却つて反撥するのを見た。絲の代りに金箔を垂下した場合にも全く同じ事柄が經驗された。ところが硝子球を近づける代りに、摩擦した樹脂片を近づけると、前記の絲又は金箔は再び之に烈しく吸引される。この關係を審かに考察して、デュ・フェイは硝子に起る電氣と樹脂に起る電氣とが異なつたものであると解し、それ/″\硝子電氣及び樹脂電氣と名づけた。今日我々が陽電氣及び陰電氣と稱するものは之等に相當するものであつて、前者は硝子の外に岩鹽、貴金屬、毛髮などに起り、後者は琥珀、ゴム、絹布、紙などにあらはれる。
     デュ・フェイは之等兩種の電氣に對して、同種類の電氣は互ひに反撥し、異種類のものは互ひに吸引すると云ふ特質を假定して、すべての實驗的事實を説明することに成功した。即ち上述の實驗で、一度摩擦した硝子球に觸れた絲や金箔は硝子球にある硝子電氣即ち陽電氣を傳導によつて得てゐるから、球を之に近づけると反撥するのであり、之に反して樹脂片にある樹脂電氣即ち陰電氣に對しては互ひに吸引するのである。又絲や金箔が最初にはいづれの電氣にも吸引されるのは、感應と云ふ現象によつて帶電體に近い部分にいつも異種の電氣が喚び起されたるためである。
     デュ・フェイの考へた處では、之等兩種の電氣はいづれにしても力に關して異つた性質をもつてゐると云ふのであつた。當時はそれ以上に兩種の電氣の性質を比較する事實的材料も知られてゐなかつたが、その後アメリカのフランクリンなどの研究によつて互ひに摩擦し合つた二つの物體には常に互ひに異種の電氣が發生することや、逆に異種の電氣が同じ物體に導かれると中和して消えてしまふことが見出だされた。つまり陽陰兩種の電氣の量は之等の場合に常に、丁度代數學で取り扱ふ正負の二つの量と同樣に考へられることがわかつた。そこでフランクリンは兩種の電氣を假定する代りに、物質に於けるかやうな兩種の帶電状態は同一の、電氣の正及び負と名づくべき異つた状態によつて起されるものであると解釋した。之は後に電氣の一流體假説と稱へられたものであつて、同時代の學者として知られてゐるストックホルムのウィルケ(一七五七年)や、ドイツのエピヌス(一七五九年)などによつて尚ほ明瞭に云ひあらはされた。即ち電氣は一種の流體のやうに傳導體のなかを流れることができるのであつて、それが物體の或る自然状態に於けるよりも増す場合には物體は正の帶電状態を呈し、反對に減少する塲合には負の帶電状態となるのであると説明された。
     この一流體假説は兩種の電氣を單に正負状態の相違に歸してしまふ點で思考を簡單にする利益があるけれども、併し同時に自然状態がどんなものであるかを想像するに苦まされる。そこで之に對立してイギリスのロバート・シンマー(一七五九年)は再びデュ・フェイの假定を繼承して謂はゆる二流體假説を立てた。之によれば、電氣には判然と異つた、併し同時に存在し得る二つの流體があつて、之等が等しい量だけあれば互ひに作用を消し合つて物體の自然状態を呈する。又一方の量が多ければその流體の種類に應じて、正又は負に帶電すると云ふのである。從つて少くとも自然状態に關してはこの方が一流體説よりも考へ易くなるであらう。併しそれは思考上の問題に止まつて、實際に事實の上でどちらが正しいかはまだ之だけの範圍で判斷することはできない。更に抑もこゝで流體と名づけるものは何であるか、即ち通常の物質以外のどんなものであるかと云ふやうな疑問に進むと、一向にわからない。
     こゝで私は一足飛びに今日我々の有してゐる見解をちよつと比較のために附加しておかう。今日の電子論では、物質を構成してゐる究極的要素は陽及び陰電氣を有する粒子即ち陽子(プロトン)及び電子(エレクトロン)と稱せられるものである。すべての電氣的状態は結局之によるのであるから、謂はゆる電氣は物質以外の何ものでもなくて、寧ろ物質それ自身なのである。但し二種の異なつた要素が存在して、自然状態では之等を同時に含んでゐると云ふ點は二流體説に相當する。併し電子に比べて陽子は非常に大きな質量をもつて居り、從つて容易に動き難いのであるから、固體内部などで電氣の傳導に與かるものは單に原子から離れた電子だけであると見做されるのであつて、電氣の實際の流動關係から云へば一流體説に近似すると云はねばならない。
     何れにしても電氣の本質に關する理論は、フランクリンやシンマーの流體假説の當時に比べて、今はまるで雲泥の差違よりももつと甚だしく異つて來てゐる。その間には電氣に關する實に多くの事實が發見され、我々の知識を驚くべく増してゐるのである。我々の科學の理論はさうした事實の上に立てられなければならないのであつた。

       四、電氣の重要な基本現象

     電氣に陽陰二種類が存することと、その間の力の關係については既に上に述べた通りに十八世紀の半ば頃までに一通り知られるやうになつたが、更に進んでこの力がどんな法則に從つてはたらくかを明らかにするには、之を數量的に測るための精密な實驗が必要であつた。そして之はフランスのクーロム(一七八五年)によつて始めて成功された。
     普通に摩擦によつて起された電氣の間にはたらく力は甚だ小さいから、その大いさを測るにはよほど鋭敏な器械によらねばならない。クーロムはこの目的のために捩り秤と稱するものを作り絹絲でつるされた水平の棒が捩られる角度で電氣力の大いさを測つた。彼はこの實驗の結果からすべて、電氣力は、引力の場合にも斥力の塲合にも、帶電體の中心間の距離の二乘に逆比例することを見出だした。この法則は實に靜電氣學の基礎を形作る重要なものとして今日に於ても認められてゐる。
    [#図版(011.png)、第十一圖 クーロムの捩秤]
     我々はこのクーロムの實驗から亦電氣の分量を測ることができる。即ち二つの帶電體が一定の距離ではたらく電氣力の大いさは電氣の分量に比例すると考へることができるから、一方の電氣を一定に保つて置いて他方の電氣量を變へたとすると、その場合の力を上述の捩秤で測ることによつて電氣量の大小を知ることができる。この電氣量に對しては後に次のやうな絶對單位が導き入れられた。即ち互ひに等しい二つの電氣量が一センチメートルの距離を隔てゝ一ダインの力ではたらくときに、このやうな電氣量を一靜電單位と定めるのである。但しこの量は我々が實際に取り扱ふ程度の電氣量に比べて非常に小さいものであるから、實用上の單位としては之の三十億倍を取り、クーロムの名を借用して之を一クーロンと名づけてゐる。
    [#図版(012.png)、第十二圖 金箔驗電器]
     クーロムの捩秤はこのやうにして電氣量の精密な測定に役立つ一つの器械と見做されるが、單に物體に電氣が存するかどうかを驗し、又その電氣量の大小を最も簡單に推知するだけの目的のためにはクーロムと同時代にイギリスのベンネット(一七八七年)が始めて考案した金箔驗電器を用ひるのがよい。今日では金箔の代りにアルミニウム箔が多く用ひられてゐるが、二枚の小さな箔を金屬棒の下に垂れ、棒の上端に金屬圓板を取りつけたものを、硝子瓶の口栓に押し込んで他と絶縁したものである。之に電氣を與へると、二枚の箔は互ひに反撥して開き電氣量の多い程開き方も大きくなるから、之によつて容易にその量の多寡を見ることができる。
    [#図版(013.png)、第十三圖]
    [#ここからキャプション]
    感應によつて驗電器の箔が開く
    [#キャプションここまで]
     ベンネットはこの驗電器を用ひて種々の實驗を試みた。こゝで我々に取つて最も重要な事實は、或る帶電體を驗電器の金屬圓板に近づけると、箔が漸次に開き始めることである。之は既にステフェン・グレイによつても觀察された靜電氣感應の現象によるのであつて、一般に一つの又は連絡せる導體が帶電體の傍に置かれると、その電氣に感應して之に近い導體の部分に異種の電氣が、又遠い部分には同種の電氣が分離してあらはれることは、デュ・フェイによつて二種の電氣の存在説と共に假定せられた處である。
     さてこの驗電器を用ひて我々は尚ほ次の實驗を行ふことができる。例へば摩擦したエボナイト棒を驗電器の圓板に近づけて箔の開くのを見た後に、その儘圓板に他方の手を觸れると箔が閉ぢるけれども、手を離すと共にエボナイト棒をも遠ざけると箔は再び開くやうになる。之は圓板に手を觸れることによつて驗電器の導體は人體を通じて地面にまで連絡されることになるから、最初箔にあらはれた陰電氣はこの連絡によつて遠方に追ひやられ、單にエボナイト棒にある陰電氣と反對の陽電氣だけが驗電器の圓板に殘されることゝなり、手を離し且つエボナイト棒を遠ざけた後は之が再び箔にまで擴がるためである。
    [#図版(014.png)、第十四圖 電氣盆]
    [#図版(015.png)、第十五圖 感應起電機]
     この方法は簡便に電氣を得るのに利用することができる。イタリーのヴォルタは既に之より以前に(一七六九年)謂はゆる電氣盆を發明したが、その原理はこゝに説明したのと全く同一である。電氣盆と云ふのは封蝋(又はエボナイト)で出來た圓い盆と絶縁體の柄を有する金屬圓板とを綜合して名づけたもので、先づ盆を猫の皮などで敲いて電氣を起させて置いた後に、金屬圓板をその上に重ね上面に手を觸れてから持ち上げると、この圓板に感應によつて生じた電氣が殘される。盆の電氣が失はれない限りはこの手續を幾度も繰り返すだけで、電氣が幾らでも得られるわけである。現在用ひられてゐる多くの感應起電機も亦この理を應用して取り扱ひに便利のやうに工夫せられたものに外ならない。テプラー(一八六五年)、ホルツ(一八六九年)などの型から漸次改良せられたウィムズハースト(一八八三年)の起電機が普通に行はれるやうになつたが、之は二枚の硝子又はエボナイト圓板の周邊に小さな扇形の錫箔が並列して張りつけられたものが同一の軸のまはりに互ひに反對の向きに迴轉するやうになつて居り、この際錫箔に擦れ合ふ金屬刷毛の上に二種の電氣が感應によつて起され、之等がそれ/″\刷毛と連絡せられた二つの金屬球に集められるのである。
     電氣が導體のなかを傳はる現象は既にステフェン・グレイによつて實驗せられ、針金を通じて八百呎の遠方まで導くことができたと云はれてゐるが、その後デュフェイ[#「デュフェイ」の中黒なしは底本のまま]などによつてもこの實驗が繰り返された。之等の塲合に距離が非常に遠くなるに從つて、電氣がどんな速さで達するかと云ふ疑問が當然起つて來る。之に關する最初の大仕掛の實驗を試みたのはイギリスのワットソンである。彼は當時の多くの有力者の援助を得て、一七四七年の七月十四日及び十八日にロンドンのテームス河に架せるウェストミンスター橋に沿うて針金を引き、水中の長さ八百呎、陸上の長さ二千呎を隔てゝ、ライデン壜の衝撃を送り、續いて更にその長さを増大して數回の實驗を行ひ、又翌年の八月五日にはシューターの丘陵で 12276 呎の距離で之を試みたが、何れも電氣が通過するに要する時間は勘定に入らない程短いことが示された。
    [#図版(016.png)、第十六圖 電氣の傳はる速さを測るワツトソンの實驗]
    [#ここからキャプション]
    絶縁して吊された金屬棒ADをライデン罎の内側Cと繋ぎ.他方で其外側Eから針金を經て球Hに至る。中間のFに人間を挾むと.FとHとの間が一萬二千呎を隔てゝもFにゐる觀測者の感ずる衝撃はHに於ける火花と殆ど同時に起る
    [#キャプションここまで]
     ワットソンの實驗に引き續いて一、二年の間に、アメリカのフランクリン、フランスのデリュー及びルモンニエー、ドイツのウィンクラー等が同樣の實驗を行ひ、又一七九五年にフランスのベタンクールは二十六哩の距離で之を行つたと云ふ話であるが、當時全世界でこの問題が注目の焦點をなしてゐた樣子が覗はれるであらう。今日我々は實際に電氣の傳導の速さが光の速さに近い程大きいことを知つてゐる。
     それ故或る導體に電氣が與へられると、一瞬時の間に全體に擴がつてしまつて一定の有樣に落ちつくのである。之は丁度或る器のなかに水が注ざ[#「注ざ」は底本のまま]入れられると表面が水平になつて落ちつくのと同樣である。この場合に併し導體の内部に電氣がどんな風に分布せられるかは、實驗によつて見出だされなくてはならない。之に關しては先づイギリスのキャヴェンディッシュやフランスのクーロムによつて研究せられ、導體はいつも表面だけに帶電してその内部には電氣の存在しないことや、又表面の電氣密度は面の彎曲度の大きい場處に於て大きくなることなどが漸次知られるやうになつた。金屬で全く取り圍んでしまつた内部の空間では、外側の電氣作用を殆んど感じないと云ふことや、又導體が鋭く尖つた端をもつてゐると、そこから絶えず放電すると云ふことなどは、上述の電氣分布の影響によつて解釋される。
    [#図版(017.png)、第十七圖 導體で圍まれた内部には電氣がない]
     帶電した二つの導體を針金で連絡した際に電氣がどちらに向つて流動するかと云ふ問題は丁度水を盛つた二つの器を管でつないだとき水がどちらに流れるかと云ふのと同樣に考へられる。我々は水の場合には表面の水平が高い方からそれの低い方へ流れるのを能く知つてゐる。そして前者の水位が後者より高いと云ふ言葉を用ひてゐる。そこで電氣の場合にも之に傚つて電氣の流動する方向に從つて二つの導體の電位なるものゝ高低を區別することができるであらう。さうすれば一つの導體のなかで電氣が一定の平衡の有樣に分布されることに對しても、それは導體各部の電位を同じに保つための結果であると解しても差支ない。
     この電位の高低は物體に電氣を多量に與へようとする場合に重要な關係をもつことがわかる。即ち或る物體に幾ら多くの電氣を他から導かうとしても、前者の電位が既に後者よりも高くなつてゐれば、電氣を前者の方に移動させることが不可能にせられるからである。從つてこの目的を達しようとするには何等かの方法で前者の電位を低くしなければならない。水の塲合ならば簡單に容器を大きくすることによつて水位を低下させることができる。之と同樣に電氣に關しても物體の電氣容量と云ふものを大きくすればよいのである。この電氣容量と云ふのはつまり物體を一定の電位に高めるためにどれだけの電氣量を與へればよいかと云ふ數量で測られるのであつて、丁度海洋に河川が注ぎ込んでもその水位が殆んど變らない點から見て水容量を無限と考へられると同樣に、地球のやうな大きな物體の電氣容量は無限大と見做しても差支へないのである。又この意味で地球の電位を標準に選び、地球上の普通の物體の電位を之に比較して云ひあらはすことも多い。
    [#図版(018.png)、第十八圖]
    [#図版(019.png)、第十九圖 蓄電器]
     物體の電氣容量を大きくするのにどうしたらよいかと云ふことは、次の簡單な實驗から推知される。驗電器の圓板に金屬板Aを針金で連絡し、之に例へば陽電氣を與へて箔を開かせ、次にAに平行に他の金屬板Bを對立させて、針金で地面と連絡すると感應によつてBには陰電氣があらはれる(第十八圖)。この陰電氣は驗電器の箔に擴がつてゐた陽電氣をAの方に引き寄せるから、このために箔の開き方の減少するのが見られる。云ひ換へれば、驗電器の箔並びに板AはBの對立によつて電位を低下し、從つて電氣容量を増したのであつて、之が以前の電位に到達するまでにはもつと多くの陽電氣を含むことができる。
     このやうにして一般に多量の電氣を集めるためにつくられた裝置を蓄電器と名づける。ライデン壜もその一種と見ることができるが、一七七五年にイタリーのカヴァルロは始めて鍍金紙を張つた木の枠の間に絶縁した錫板を置いた一種の蓄電器を作つた。パラフィン蝋を浸み込ませた紙と錫箔とを幾枚も重ね合せ、錫箔を一つおきに導線で連絡して、その一方を地面と連絡したものは、簡便な蓄電器として今日用ひられてゐる。
     理論上で電位差をあらはすのには、單位電氣量をその間に持ち運ぶのにどれだけの仕事を要するかと云ふ大いさを以てする。それ故電位差の靜電單位としては一靜電單位の電氣量を運ぶのに要する仕事が一エルグに相當するものを用ひる。又實用單位としてはこの三百分の一を採り、電池の發明者ヴォルタの名を借りて之を一ボルト(ヴォルト)と稱する。工業上では電位差の代りに電壓と云ふ言葉を多く用ひてゐる。次に電氣容量の靜電單位は一靜電單位の陽電氣量を與へたとき電位が一靜電單位だけ高まるやうなものである。之の九千億倍、即ち一クーロンの陽電氣によつて一ボルトだけ電位が高まる場合にその電氣容量を一ファラッドと名づけ、又その百萬分の一を一ミクロ・ファラッドと云ふ。之は電氣容量の實用單位であつて、電磁氣學に大功のあつたファラデイの名を取つたのである。

       五、電池の發明

     電氣が金屬體を通して流動することは既にグレイ以後能く知られ、殊にライデン瓶の發見によつて多量の電氣が集められるやうになつてからは、之を非常に遠方までも針金によつて傳へることができたし、又フランクリンの有名な實驗では雷電の際に空中に生じたものを實驗室までも導いて來て電氣の作用を起させることに成功した程である。併しながらそれらの塲合には電氣の流動が繼續する時間は非常に短く、一旦電位の高い方から低い方へ或る電氣量が移つてしまへば、すぐに電位の差が消滅してしまつて、從つて電氣の流動も止むのである。つまりそこには電位の差を始終保たせておく樣な特殊の條件が存しなかつたからである。丁度水を或る限られた器に濺ぎ入れると、瞬時の後には一定の水平面を形作つて靜止するのと似てゐる。ところで之に反して、いつも高い處から低い方へ河川のやうに絶えず水を流すのには、流動するだけの水量を絶えず供給しなければならない。電氣の場合にも之と同樣な不斷な電流を得る簡單な裝置の發明が或る偶然の發見から結果するやうになつた。
    [#図版(020.png)、第二十圖 ガルヴァニ]
     それは一七八〇年にイタリーのボロニヤの大學の解剖學の教授であつたガルヴァニが電氣によつて蛙の筋肉の收縮するのを實驗してゐた際であつた。彼の妻君もその助手を勤めてゐたが、或る日一人の學生に命じて新たに電氣を起させた起電機の導體のすぐ傍に置かれた蛙の脚と背髓の一部とに對して解剖用のナイフを當てようとしたところが、このナイフが筋肉に觸れると、それが激しく痙攣するのを見て、大いに驚いてガルヴァニに知らせた。そこで彼も之を不思議に思つて、度々繰り返して行つて見たが、丁度この有樣は別に針金から電氣を通じてやると、やはり同じやうに現はれることがわかつた。それで尚ほ最初の事實をよく調べた上で、遂に蛙が鐵棒に懸つてゐる銅の鈎につり下げられてゐたことにその原因があるのを悟り、新たに鐵と銅とをつないだものを作つて、實際に起電機を用ひたのと同じ結果が得られるのを實驗的に確めた。
    [#図版(021.png)、第二十一圖 蛙の脚によるガルヴアニの實驗]
    [#ここからキャプション]
    ガルヴアニの原論文中にある※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]圖
    [#キャプションここまで]
     つまりこゝで我々は始めて從來の起電機の外に、電氣を生ずる新らしい一つの方法を發見したわけである。尤もガルヴァニの考へた處では、それは蛙のやうな動物體のなかに特殊の電氣が起つて神經と筋肉とがそれぞれ陽及び陰に荷電されること、丁度ライデン瓶の内外兩面に於けると同じ有樣であつて、之等を金屬でつなぐと、そこに電氣が傳はつて中和放電するのであると解釋したのであつた。かやうな動物體のうちでは、既に前に述べた通り古代からしびれゑひ[#「しびれゑひ」に傍点]が一種の衝撃を與へる事實は知られてゐたが、ライデン瓶による電氣衝撃の感じが經驗されるやうになつてから、しびれゑひの與へるものもそれと同じものに相違ないと云ふ意見が始めてギニアの醫者であつたバンクロフト(一七六九年)によつて主張せられ、その後多くの醫學者によつてその研究が行はれてゐた次第であつて、抑もガルヴァニの蛙に關する研究の動機も亦之等に關聯しないわけではなかつた。それ故彼が觀察した上の事實を一種の動物電氣に歸したのも決して無理ではなかつた。
    [#図版(022.png)、第二十二圖 ヴォルタ]
     ところが、ガルヴァニの發見が非常に特異な興味をもつて當時の歐洲全般に傳はり、動物電氣に對する盛んな研究が行はれるに至つた間に、同じくイタリーのパヴィア大學の教授であつたアレキサンドロ・ヴォルタによつて新たに優れた物理學的の發見が成就されたのであつた。彼は先づガルヴァニの實驗に於て、銅と鐵とのやうな二種の金屬の中間に或る物質の夾在するために電氣の發生すると云ふ事實から推して、後者が必らずしも動物體でなくとも、何等かの他の物質であつても同樣の現象が起りはしないかと考へ、種々の實驗を行つた。そして一七九六年に至つて、遂に電流を發生する裝置としての所謂電池の最初の形式のものをつくつた。それは亞鉛と銅との圓板を交互に重ね合せ、その間毎に食鹽水又は酸を滲潤させた紙又は布を挾んたものである。この亞鉛と銅とを針金でつなぐと、そのなかに電流の通ずるのが實驗せられる。之はヴォルタの電堆(パイル)と云ふ名で知られてゐるものであつて、之から得られる電流はそれ以來ガルヴァニ電流と呼び慣らされてゐた。
    [#図版(023.png)、第二十三圖 ヴォルタの電堆]
     ヴオルタは次いでこの裝置を改良して普通の電池の形式のものとなした。それは圓筒形の器内に稀硫酸を入れ、そのなかに亞鉛と銀の棒を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]入したものであつた。彼はかやうな電池を數多く列べ、順次に一つの電池の亞鉛棒の上端と次の電池の銀棒の上端とをそれぞれ針金でつないで、實驗に用ひた。二十箇の電池をつないで水の分解を行ひ、三十箇で強い電氣衝撃を起したと云ふことである。又一八〇〇年の十一月に彼はイタリー政府の許可を得てパリに赴き、ナポレオン第一世の面前で講義と實驗とを行つて大いに賞讃を博し、レジオン・ド・ノールの勳章並びに六千フランの賞金を贈られたと云ふ話である。
     上に述べた通りに、起電機によつて得られる電氣は瞬時の間だけしか電流を繼續させ得ないのに反して、電池の電流は非常に長い時間絶えず續くことができるし、且つ必要に應じていつでも自由に斷續させられると云ふことは、取り扱ひにこの上なく便利である。只起電機の兩端の間の電位差、即ち起電力と稱せられるものは、通常非常に大きく數千ボルトの大いさにまでも達せしめることができ、從つて強大な火花などを出させることのできるのに反して、一つの電池の兩極間の電位差は普通に一又は二ボルトの程度でしかないことは止むを得ない。それでもその電流のお蔭で種々の新らしい實驗が行はれ、電氣に關する我々の知識を大いに増した點で、我々はその發見者に深く感謝しなければならない。實際にヴォルタ以後に電池の使用は急に盛んになり、十九世紀になつてから之が構造についても種々な改良が企てられた。そのうち主要なものは、ダニエル電池(一八三六年)、ブンゼン電池(一八四一年)、ルクランシェ電池(一八六七年)、クラーク電池(一八七三年)などであるが、何れも二種の金屬、例へば亞鉛と銅、亞鉛と炭の如きものを兩極となし、之等を酸のなかに浸したものである。又特に携帶取扱ひに便利にする目的で液を或る物質に浸み込ませて練物となし、全體を密閉して金屬の端だけを外部にあらはした乾電池と稱せられるものもある。
    [#図版(024.png)、第二十四圖 (1)ブンゼン電池 (2)ダニエル電池 (3)ルクランシエ電池 (4)重クロム酸電池]
    [#図版(025.png)、第二十五圖 クラーク電池の斷面]
     電池に用ひる二種の金屬のうちで、銅又は炭を陽極、亞鉛の方を陰極と名づける。之は前者が常に陽に帶電し、後者が陰に帶電してその間に電位差をつくるからである。この電位差は兩極を針金でつないで電流を生じてゐる間も消滅することなく、ほゞ一定の値を保つてゐる。この事實は後に説明するやうに電池の内部に或る化學作用が絶えず起つて、エネルギーを供給してゐることを示すものである。この作用を出來るだけ一定に續けさせるやうに特に工夫した塲合には、電池の起電力も一定になり、謂はゆる標準電池として用ひられる。クラーク電池やウェストン・カドミウム電池と云ふのはこの目的に作られたものである。

       六、電流の法則

     電池から電流を得るのには、單に兩極の金屬を針金でつなげばよいのである。この際電流の通つてゐる針金をその回路(又は輪道)と名づけ、針金をつないで電流を通すことを稱して、回路を閉ぢると云ふ。
     電流に對しては我々はその方向と強さとを差別する。電流は電氣が導體内を流動する現象であると解釋するならば、電流の方向と云ふのは即ち電氣の流動する方向を指し示すことになるわけであるが、普通に水の流れるやうな場合と異なつて電氣の場合には事柄が稍々複雜になるを免れない。なぜなら、電氣には陽陰の兩種があつて、しかもそれらは同じ電氣力にはたらかれて互に反對の方向に動くものであるからである。即ち電池の陽極と陰極とでは前者が後者よりも電位が高いのであつて、從つて陽電氣は電氣力にはたらかれて陽極から陰極に向つて流動し、陰電氣はこれと反對の方向に流動する。若し我々がデュフヱ[#「ヱ」は小書き]イやシンマーの二流體假説に從つて、金屬内部に實際に之等兩種の電氣流體が存在すると假定するならば、同じ針金のなかで之等が出遇つてどの場所で互ひに中和するかと云ふやうな疑問が生じてくる。そこでこの困難を避けると云ふ點では、寧ろフランクリンの一流體假説を採用した方が都合がよいかも知れない。さうすれば單に一種の電氣流體が針金のなかを流動すること、丁度水の流動の場合と同樣になるからである。そして若し我々がこの電氣流體を陽電氣に相當するものであると假定するならば、我々が通常電流の方向と稱へてゐるものは即ちこの電氣流體の流動の方向に外ならない。但し後の電子論に從ふと、實際に導體の内部を移動するのは反對に陰電氣を有する電子であると云ふことになるが、その塲合にも我々は暫らく電流の方向を示す規約だけは變へないでおく方が都合がいゝから、やはり前のやうに、假想された陽電氣の流動方向をもつて之をあらはすのである。要するに電流の方向と云ふのは一種の規約に過ぎないのであるから、實際に電流がどんなものであるかと云ふ理論には必らずしも立ち入らずともよいのである。
    [#図版(026.png)、第二十六圖 ゲオルグ・シモン・オーム]
     さて次に電流の強さと云ふのは針金の斷面を通つて單位時間にどれだけの電氣量が流動するかと云ふ分量で測られるわけである。この塲合にも水の流動の分量によつて水流の強さが測られるのとその儘比較されるためには、單に一種の電氣流體が一方向に流れると考へた方が勿論簡單である。思考の上ではそれでよいが併し實際に我々は針金を外部から見たゞけでは電流が通つてゐるかどうかさへわからないのであるから、况してその分量に至つては全く知られない。そこで之を測るには、電流から結果する何等かの作用によるより外はないが、先づこの作用を測定した上で我々は逆にそれからどれたけの電氣量が流動するかを計算によつて導き出すことはできるのである。電流の強さは畢竟かやうな手續きで決定されると考へればよいであらう。それで理論上では一秒間に一靜電單位の電氣量が流れるやうな電流の強さを一靜電單位に等しいと云ひ、この三十億倍即ち一クーロンの電氣量が一秒間に流れるものを實用單位として採用し、電流の研究に多大の貢献をなしたフランスの學者アンペールの名に因んで、之を一アンペアと名づける。
    [#図版(027.png)、第二十七圖 オームの實驗に用ひた器械]
    [#ここからキャプション]
    ドイツ・ミユンヘンの [#全角アキは底本のまま]學博物館に保存されてゐる
    [#キャプションここまで]
     電流の強さに關する法則は、一八二六年にドイツのオームの實驗的研究によつて見出だされた。先づ簡單に、同じ電池に針金をつないで見ると、針金の種類やその太さや長さによつて電流の強さが異なることは容易に知られる。オームはその關係を一般に押し擴めて、すべての塲合に、
    [#ここから2字下げ]
    電流の強さは之が流れる針金の兩端の電位差に比例する
    [#ここで字下げ終わり]
    と云ふ法則を立てた。之はオームの法則と名づけられてゐるが、之によると電位差と電流の強さとの割合は同じ針金については常に一定してゐるわけであつて、この割合をこの針金の電氣抵抗と名づけてゐる。
     尚ほこの關係を言ひ換へると、同じ電位差がある塲合にも電氣抵抗の大小によつて電流の強さが變ることになる。抵抗の大きい針金を用ひれば電流が弱くなり抵抗が小さければ電流が強くなる。それで抵抗を測る單位として、單位電位差のもとに單位電流を通ずるやうな針金の抵抗を用ひ、すべて靜電單位で之等をあらはせばよい。實用單位としてはそれの九千億分の一を採り、之を一オームと名づけてゐる。
     同じ物質については抵抗は針金の長さに比例し、太さに逆比例する。どんな物質の抵抗が大きいか小さいかを比較するには、それ故長さ一センチメートル、斷面積一平方センチメートルの形のものを取つて互ひに比較すればよい。之を物質の比抵抗と名づげる。比抵抗の最も小さいものは銀及び銅であつて、タングステン、亞鉛、ニッケル、鐵、白金などが之に次ぐものである。金屬のうちでも、水銀や蒼鉛などは銀や銅に比べて百倍程も大きい。又抵抗は温度によつても多少は變つてくる。斷面積一平方ミリメートル、長さ 106.30 センチメートルの水銀柱の温度零度に於ける抵抗は一オームであつて、實用上之を抵抗の標準にする。
     針金で電流の囘路をつくるに當つて、その全體又は一部の抵抗がどうなるかを常に考慮する必要がある。數本の針金を單に順次につなぎ合はした塲合には、全體の抵抗は、各々の針金の抵抗の和に等しくなるが、之に反して數本の針金の一方の端を互ひに結び合はせ、又他方の端を別に結び合はせたものを電流の回路に入れると、電流は各々の抵抗に逆比例するやうに、それ/″\の針金のなかに分岐して流れる。之等の二種のつなぎ方のうち前者を直列につなぐと云ひ、後者を並列につなぐと云ふ。
    [#図版(028.png)、第二十八圖 直列と並列のつなぎ方]
    [#図版(029.png)、第二十九圖 抵抗箱と其内部の針金の配置を示す]
     電流の強さを加減するには適宜の抵抗を回路中につなげはよい[#「つなげはよい」は底本のまま]ので、この目的につくられた裝置を抵抗器と云ふ。回路に入れる針金の長さを適當に變へるやうになつてゐるのが普通で、時には多數の炭素板を並べ合はせてその接觸の度合を變へるやうなものもある。精密な抵抗器では温度によつて抵抗を變ずることの少ない金屬の針金を用ひる必要がある。マンガニン(銅、ニツケル及び亞鉛の合金)、並びにコンスタンタン(銅とニツケルとの合金)は特にこの目的を達するためにつくられた合金である。併し逆にまた或る金屬が温度によつて電氣抵抗を如何に變ずるかを豫め精密に測つておけば、この關係を利用して、電流の強さの變化によつて温度を知ることができる。通常の寒暖計が使用に堪へないやうな高温度を測るのに、白金線の電氣抵抗の變化を利用した高温度計が實際につくられてゐる。

       七、電流の化學作用

     針金に電流が通つてゐるかどうかは、火花の出ることや、又人體や動物體に對する刺戟によつても知られるが、その外の作用の中で最初に見出だされたのは化學作用である。既にヴォルタが電池をつくつた際に、水の電氣分解の實驗を行つたことは上に記した通りである。簡單に之を行ふには、稀硫酸のなかに二枚の白金板を浸し、之を電池の兩極に結びつけて電流を通せばよい。電池の陽極につながれた白金板に沿うては酸素、又陰極につながれた方には水素の氣泡が發生し、液面に上るのが見られる。この際電流は稀硫酸中の水を酸素と水素とに分解したのであつて、同樣の現象は稀硫酸の外、種々の酸、鹽基及び鹽類の水溶液を用ひても見られる。一般に電流によつて分解せられるやうな溶液を電解質と名づけ、之に電流が導き入れられ、又は流出するための金屬板をそれ/″\陽極及び陰極と云ふ。
    [#図版(030.png)、第三十圖 水の電氣分解]
    [#図版(031.png)、第三十一圖 マイクル・フアラデイ]
     電氣分解の現象は、最初ドイツのグローツス(一八〇五年)によつて、恰度磁石の極が鐵に力を及ぼすと同樣に、分解せられる各成分が兩極から引力及び斥力を受ける爲であると解せられ、又イギリスのハンフリー・デヴィーによつて同樣の解釋が與へられたが、成分が何故に電氣力にはたらかれるかについて十分明らかでなかつた。ところが一八三三年に至つてファラデイが始めて、溶液内では電解質の分子成分が最初から解離して存在して居り、即ち各々陽及び陰電氣を有する二種のイオンを形作つてゐることを假定し、之等が電流の通過に伴ふ電位差のためにそれ/″\陰極及び陽極に運ばれるのであると説明してから、今日までこのイオン解離説が信ぜられてゐる。稀硫酸の例で云へば、硫酸分子は水素イオンと硫酸根イオンとに解離し、前者は陽電氣、後者は陰電氣をもつてゐるから、之等は電流によつて兩極に運ばれ、前者はその儘遊離してあらはれるが、後者は更に水に作用して酸素を遊離させ、その結果水の分解をなすことになるのである。解離の際に、溶液の成分のうち金屬又は水素イオンは常に陽電氣を帶び、從つて陰極に集まり、他の成分のイオンは之に反してゐる。
     ファラデイは更に電氣分解について精密な實驗を行つた結果、重要な法則を見出だした。即ち電氣分解の際に兩極に析出せられる物質の量は電流の強さとその通ずる時間との相乘積、從つて針金から流れ入つた全電氣量に比例し、又一定の電氣量によつて析出せられる物質の量は、それの化學當量に比例すると云ふのである。精密の測定によれば、一アンペアの電流によつて銀は毎秒 0.001118 グラムを析出するから、一般に或る電流によつて毎秒析出せられる銀の量を測るならば、右の量と比較して電流の強さを計算することができる。それ故今日では一アンペアの電流の標準としてこの銀の析出量を用ひてゐる。又銀の原子量は 107.88 であり、原子價は1であるから、一化學當量を析出するに必要な電氣量は
    [#ここから2字下げ]
    107.88/0.0001118=9.649×104 クーロン[#「0.0001118」は底本のまま]
    [#ここで字下げ終わり]
    となる。上のファラデイの法則によつて、この値は一價イオンの有する電氣量をあらはすものであるが、之がどんな物質から計算しても常に同一になると云ふことは、電氣の理論にとつて非常に大切な事柄であつて、後に明らかになつた通りに、電氣が原子的構成を有する、即ち電子から成ると云ふことの一つの確實な根據となるのである。
     電流によつて化學作用が起ると云ふ事實と、逆に電池に於いて見るやうに、化學作用によつて電流を生ずると云ふ事實との間には密接の關係がなければならない。稀硫酸のなかに亞鉛と銅とを浸した簡單な電池について考へると、この塲合には亞鉛が漸次硫酸にはたらかれて硫酸亞鉛として溶液中に溶けてゆく。その結果硫酸中の水素陽イオンが他方の銅板を高壓電位に保つて電流の源泉とすると考へられる。併し電流を通ずるに從つてこの作用が活溌に起ると、遂には遊離せられた水素が氣泡の儘で銅板に附着したり、又硫酸根イオンが過剩に亞鉛板に集まつたりすることによつて、電池の内部にも又銅板から亞鉛板に向ふやうな電位差が生ずることを免がれない。そして之は電池の外部起電力と反對にはたらくものであるから、之がために電池の電流は弱まる結果を來す。この現象は最初イギリスの化學者ジェームス・キールによつて見出だされたものであつて、通常電池の分極と名づけられてゐる。分極を避けるには、重クロム酸カリのやうな消極劑と稱するものを溶液中に入れ、その化學作用によつて陽極に集まる水素を取り除くやうにする。
    [#図版(032.png)、第三十二圖 電氣分解に於てイオンの移動する有樣]
    [#行頭あきなしは底本のまま]電池の分極は電池本來の作用を妨げるものであるが、併し之を都合よく利用すると、別に電流の源として役立たせることができる。例へば稀硫酸のなかに二枚の白金板を浸したやうな電氣分解器では、暫く電流を通じた後でこの電流を斷ち、新たに針金で白金板をつなぐと、分極のために生じた電位差のためにもと通じた電流とは反對の向きの電流即ち分極電流が得られる。この事實は一八〇一年にフランスのガウトローによつて見出だされ、次いで一八〇三年にドイツのリッターによつて之を利用して電流を得る特殊の裝置、即ち蓄電池が考案せられた。之は丸い鉛板の間に稀硫酸を滲ませた綿布又はフランネルを挾んだものであつた。
    [#図版(033.png)、第三十三圖 蓄電池の電槽]
    [#図版(034.png)、第三十四圖 蓄電池室]
     電流によつて分極を起させることを蓄電池の充電と云ひ、之を針金でつないで電流を得るのを放電と稱してゐるが、最初に充電並びに放電を幾度も繰り返すと二枚の鉛板の面が、それ/″\漸次過酸化鉛及び硫酸鉛をもつて蔽はれて凹凸を生じ、却つて分極に對する有效表面を増すことが、一八五九年プランテによつて觀察せられ、之によつて普通の電池よりも起電力の大きな蓄電池を作ることができた。其後一八八一年フォールによつて改良せられ、最初から格子型の鉛板に酸化鉛を填めたものを極板として用ひるやうになつた。之を稀硫酸に浸して外部から電流を通ずると、陽極は過酸化鉛[#読点なしは底本のまま]陰極は海綿状の鉛となるので、通常かやうな板數枚宛を組み合はせて電槽に入れ、蓄電池とする。一對の鉛板の間の起電力は凡そ2ボルト程であるが、大きな起電力を得るためには多數の蓄電池を直列につないで一室に備へる。又据置用の外に自動車などに備へる移動用のものとしては別にエディソン式蓄電池と云ふのがある。陽極板に水酸化ニッケル、陰極板に水酸化鐵、電解液に苛性カリ溶液を用ひたものである。
    [#図版(035.png)、第三十五圖 電氣鍍金裝置]
     電氣分解は種々の實用に應用せられる。硫酸銅、硝酸銀、鹽化金などの溶液を分解すると、それ/″\銅、銀、金などの金屬が陰極に集まるから、陰極導體の表面は之等の金屬で鍍金せられる。この塲合に陽極としては鍍金する金屬の板を用ひて溶液から費消せられる金屬を補ふやうにする。又電鑄術では蝋や石膏で木板又は彫刻などの型を取り、その表面に石墨を塗つて導體としたものを陰極とし、電氣鍍金と同樣にしてその表面に銅を厚く附着させ、電氣銅版や銅像などをつくる。更に電氣冶金としては金屬化合物の溶液から電氣分解によつて金屬を陰極に析出させ、之を精製する目的に用ひられ、又この方法で種々の物質の純粹結晶をつくることもできる。

       八、電流による熱と光、※[#「執/れんが」、p.73-5]電流

     電池が發明された當時には、之によつて得られる電流がもの珍らしかつたために、その性質を究める目的で、電池のすばらしく大きなものが競つて作られた。イギリスのジョン・ジョージ・チルドレンは一八一三年に長さ六フィート、幅二フィート八インチの銅板と、亞鉛板とを二十枚づつ重ねて電池を作つたと云ふことである。この電池からの電流を直徑 11/100 インチの白金線に通じたところが、赤熱して強い日光のもとでも赤く光るのが見られた。又八分の一平方インチの太さで二インチ四分の一の長さの白金棒は容易に赤熱されて、その端が融着した。いろ/\の金屬線について實驗した結果は、抵抗の大きいものほどよく熱せられることをも見出だした。次いでハンフリー・デヴイーも一八二一年に同樣の實驗を行つたが、その後一八四一年に至つてジェームス・プレスコット・ジュールは熱量計を用ひて電流から生ずる熱量を極めて精密に測り、次の法則を立てた。「電流によつて針金の一定部分に生ずる熱量はその電氣抵抗に比例し、又電流の強さの二乘に比例する。
    [#図版(036.png)、第三十六圖 ヘルー型電氣爐]
     これは今日ジュールの法則として知られてゐる大切な關係であつて、電流も亦エネルギーの一態であることを證するものである。一體エネルギーが種々の樣態を取ることは、最初物體の運動のエネルギーと位置のエネルギーとの間に知られてゐたのであるが、その後運動のエネルギーが※[#「執/れんが」、p.75-4]に變化することが確證せられ、且つ前者によつてなされる機械的の仕事と、之によつて生ずる熱量との間に一定の關係のあることがロバート・マイヤーによつて示されるに及んで、熱も亦エネルギーの一態であることが明らかになつた。ジュールは電流の熱作用を研究すると共に、次いで※[#「執/れんが」、p.75-8]の仕事當量の精密な測定をも行つたのであるが、結局之等の實驗的事實に基づいて、一八四七年にドイツのヘルムホルツに至つて有名なエネルギー保存の原理が完成されたわけである。
     實用單位で云へば、一アンペアの電流が抵抗一オームの針金を通るとき一秒間に生ずる※[#「執/れんが」、p.75]量は恰度 1/4.19 カロリーになるのであつて、之は仕事の量で云ひあらはすと一ジュールに等しい。つまりアンペアとかオームとか云ふ電氣の實用單位は實はこのやうな簡單な關係が保たれるやうに特に選ばれたものに外ならない。
    [#図版(037.png)、第三十七圖 種々の電熱器]
    [#ここからキャプション]
    上右から 牛乳沸し.パン燒器[#「牛乳沸し.パン燒器」の順序は底本のまま].コーヒー沸し.中右丸形七輪
    左角型七輪.下右角型反射暖房器.左萬能七輪
    [#キャプションここまで]
     電流による熱は上記のやうに抵抗の多い部分に特に多く發生するから、長い間電流を通してゐると抵抗器やその他の電氣器具などに於て著しく熱くなる塲合が屡々ある。從つて時には取り扱ひ上之を避けるために、水で冷やすと云ふやうな必要の起ることもある。又反對にこの熱を利用する目的で多くの器具も作られるのである。近頃は電熱を利用した便利な用具が續々と出來て、家庭や厨房の仕事の一切が電化されてゆくやうな有樣になつた。電氣ストーブは云ふ迄もないし、炬燵や熨斗や座蒲團や煮沸用の七輪や殆んど數ふるに遑ない程である。之等を用ひると、從前のやうにガスや煙を伴ふ炭火や薪油を使ふのと違つて、少しも部屋を汚すこともなく、且つスウィッチ一つ捻つて電流を通じさへすればすむと云ふ非常な簡便さに於て遙かに勝つてゐる。この外に實驗用に供する目的で抵抗爐と稱するものがつくられてゐるが、之によつて高温度に於ける物質の諸性質が研究せられるやうになつた。之等の裝置には近時多くはニクロームと稱する鐵、ニッケル及びクロミウムの合金の針金を用ひる。之は銅に比べて66倍程大きな抵抗を有し容易に熱を發生する。
    [#図版(038.png)、第三十八圖 料理用電熱器]
     電流によつて熱せられた針金が高温度に上ると光を發するやうになることは既にチルドレンの實驗でも見られた處であるが、之を適當に利用して燈光の目的に供したものが謂はゆる白熱電燈である。今日では電燈の普及は實に著しく、どんな僻村閑地に行つても之を見ない處がない程になつたが、石油ランプや瓦斯燈の行はれた時代を過ぎて、電燈の使用がこれ程盛んになる迄に我々の近代文明生活の進歩が如何に目醒ましかつたかは恐らく誰も能く知つてゐる處であらう。
    [#図版(039.png)、第三十九圖 トーマス・エディソン]
    [#図版(040.png)、第四十圖 白熱電燈]
     さてかやうな電燈の始めて作られたのは一八七八年であつて、アメリカの發明王と稱せられるエディソンの手によつて、細い白金線を光らせる裝置が考案せられたのがその最初である。併し白金線では廣く使用する材料として稍々高價に過ぎるので、他のものを求めたうちで竹の線條を燒いた炭素線の都合がよいことを見出だした。但し炭素線では空氣中で強く熱すると燃燒してしまふから、之を硝子球内に入れて内部の空氣を拔いた。之が即ち電燈球の由來である。その後、炭素線の代りに融解温度の高い種々の金屬線を、用ひた電球が種々の人によつて作られた。即ち一八九八年にはドイツのアウエル・フォン・ウェルスバッハがオスミウム電球を、又一九〇五年にはフォン・ボルトンがタンタル電球を作つたし、更に一九一一年になつてアメリカのクーリッヂはタングステン電球を完成したが、この最後のものが近來一般に用ひられてゐる。
    [#図版(040_2.png)、電弧熔接の實况(東京芝浦製作所)]
    [#図版(040_3.png)、ネオン管標識燈]
     尚ほ近頃は電球内に窒素やアルゴンのやうな氣體を入れたガス入り電球と云ふのも多く見られるやうになつたが、之は電流が金屬線を長く通ずるに從つて線條の酸化してゆくのや、又分子飛散のために線條の實質の破壞するのを妨げる目的で作られたのである。
    [#図版(041.png)、第四十一圖 ガス入電球]
     電燈は室内を照らすために適當な光源であるが、之よりももつと強大な光を得る裝置としては謂はゆる電氣弧燈(アーク燈)がある。それは或る間隙を隔てゝ對立する二本の炭素棒の間に電流を通ずるものであつて、最初この間隙を小さくして電流の回路を閉ぢると、この部分に火花を生じ、續いてこの間隙を稍々大きくすると、そこに生ずる蒸氣を通じて電流が流れ、弧状の強い光を發するやうになる。電流の出る方の炭素棒即ち陽極には漸次窪みを生じ、非常に高温度となつて強く光る。温度は3500度位にも達し、數千燭光の明るさを出すこともできるから、照明用として甚だ大切なものであり、探照燈や活動寫眞、實物幻燈、その他多くの實驗用にも供せられる。
    [#図版(042.png)、第四十二圖 電氣弧燈]
     弧燈と同樣の裝置は照明用に止まらず別に電氣爐として高熱を得るためにも用ひられる。之は始めてドイツの大工業を興したシーメンスによつてつくられたものであつて、弧燈用炭素棒と石灰の器のなかに裝置したものである。器内には通常マグネシアと炭素の粒とを入れて石灰の炭化を防ぐやうにしてある。此電氣爐は近時種々の工業や化學、物理學等の實驗に用ひられて非常に重要なものとなつたので、それ/″\の目的に應じて種々の型式のものが作られてゐる。物質を熔融するための電氣爐では熔かす材料を直接に一方の電極として用ひる塲合が多い。
    [#図版(043.png)、第四十三圖 シーメンス型電氣爐]
     電流によつて回路の一部分に熱を發生する塲合に可燃物が之に接觸してゐると高熱となつて往々にして發火する危險がある。從つて電燈、電熱器、その他の電氣器具を用ひるための屋内配線に對しては常に火災誘發を豫防することに注意しなくてはならない。通常この豫防手段としては回路の一部に融解温度の低いフューズと稱する合金の短い針金を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]入した安全器を具へおき、電流が一定の強さを超えると之によつて生ずる熱のためにフューズが融解して回路を切斷するやうに裝置する。
     さて、電流を起す裝置としては電池が最も古く且つ廣く知られてゐるが、この外にも種々の方法が發見された。近時電流の使用が盛んになるに從つて大規模に之を供給する方法が講ぜられてゐるわけであるが、之は尚ほ後に述べることにして、こゝでは主として實驗用に供せられるところのもう一つの簡單な方法を記さう。
    [#図版(044.png)、第四十四圖 フューズ]
     それは單に二つの異なつた物質の針金を密結して一つの閉ぢた回路をつくり、二箇所の連結點の一方を熱しさへすればよいのである。さうすればこの回路のなかに電池がなくても電流があらはれる。この現象は熱電流と稱せられるものであるが、一八一五年に始めてフランスのデサイヌによつて見出だされ、一八二一年ドイツのゼーベツクによつても獨立に觀測された。熱電流を起すための裝置は熱電池又は熱電對と名づけられてゐる。
    [#図版(045.png)、第四十五圖 熱電對]
     熱電流の向きは接續する兩物質の種類によつて大體一定してゐる。例へぼ[#「例へぼ」は底本のまま]鐵と銅とをつなぐと、電流は通常熱した接續點に於て銅から鐵に向ふやうに起る。併し全體が高温度に保たれると、この電流の向きが逆になることもあつて、現に銅と鐵との塲合にも550度以上の温度では逆になる。
     熱電流の強さは一般に二つの接續點の温度の差に關係するものであるから、豫めこの法則に對する比例常數を知つてゐるならば、之を利用して温度を測ることができる。通常の水銀寒暖計は非常に高い温度や低い温度では役に立たないこと勿論であるから、それらの塲合に熱電對を代用して容易に目的を達することができる。高温度用としては一方に白金、他方に白金・ロヂウムの合金を互ひに接續したものが普通である。
    [#図版(046.png)、第四十六圖 熱電堆][#第四十六圖の図版は底本のまま]
     又特に輻射熱を測るために熱電流を應用した裝置を熱電堆と名づける。通常の形式としては、アンチモンと蒼鉛との一對の金屬棒を交互に澤山に接續し、一方の接續點を一つの面に集めて油煙を塗つたものが多い。この面に輻射熱をあてると、油煙のために吸收された熱が上述の接續點を温めるから之によつて熱電流が起る。依つて此電流の強さを測つて吸収熱量を知るのである。輻射熱の全體の量や又之をスペクトルに分けた各部分の熱量等が之によつて實驗せられる。

       九、電流の磁氣作用(一)

    [#行頭あきなしは底本のまま]電氣と磁氣とは最初互ひに獨立に發見せられたものであつて、兩者とも物質の特別な現象として不思議に感ぜられては來たものゝ、その間に何等かの關係があるかどうかは永く疑問とせられてゐた。クーロムによつて電氣の間にはたらく力の法則が距離の二乘に逆比例するものであることが見出だされ、同時に磁氣の間の力も亦同じ法則に從ふことが明らかにせられたけれども、之だけではまだ直接の關係には達しない。電氣、磁氣の外に萬有引力も亦法則の上では同樣の形をもつてゐるのであつて、單にそれだけで互ひに關係があるとは斷ぜられない。ところが電流の發見の後になつて、之が磁針を動かす作用をもつことが一八〇二年にイタリーのロマニオシによつて見られた。併しそれが果して本當であるかどうかは一八二〇年にデンマークの學者エールステッドによつて同樣の事實が觀測される迄は確かでなかつた。
     エールステッドは當時コーペンハーゲンの工科大學の教授であつたが、或る日講義の折に電流の性質に關する彼の一つの理論を試めさうと思つて、針金の下に磁針を置いて實驗を行つたところが、意外にも磁針が針金に對して垂直に向くやうに曲げられることを見出だした。そこで之について種々の實驗を重ねて見たが、電流の通る針金が南北に置かれ、且つ電流が南から北に向つて流れるときには、その下に置かれた磁針の北極は西に向けられ、又電流が逆の方向に流れるか、若くは磁針が針金の上方に置かれると、その北極は逆に東に向ふことが觀測された。
    [#図版(047.png)、第四十七圖 エールステッドの實驗]
    [#図版(048.png)、第四十八圖 ハンス・クリスチアンーエルステット[#「ーエルステット」は底本のまま]像]
     この重要な發見は同年の七月に發表せられ、更に九月十一日にフランスのアカデミーで講演せられたが、僅かにその一週後には同じアカデミーの會合席上で、アンペールによつてその數學的の理論が示されたばかりでなく、更に進んで電流の通ずる螺旋状の針金はその作用に於て全く一つの磁石と同等でなければならないことが説明せられ、且つ實驗的にさへ證明された。これこそ電氣と磁氣との密接な關係を明らかにした最初の事實である。次いでアンペールは之に基づいて、磁石をつくる分子内には磁極を結びつける線に垂直の面のなかに小さな圓形に廻轉する電流があつて、そのために磁石としての作用があらはれると云ふ理論を提出したが、之は分子電流の理論と稱せられ、磁石の根本理論として當時の人々を驚かしたところのものである。今日の電子論では、各々の物質の原子内に電子の廻轉を認めてゐる點で、それは大體に於てアンペールの分子電流に相當してゐるといつてもよいであらう。
    [#図版(049.png)、第四十九圖 アンペールの實驗]
    [#ここからキャプション]
    アンペールの實驗器械は現にドイツ・ミユンヘンの科學博物館に保存されてゐる
    [#キャプションここまで]
    [#図版(050.png)、第五十圖 アンペール]
     針金を螺旋状に捲いたものはコイルと稱せられてゐるが、之を一方の端から眺めて電流が左廻りするやうに流れてゐれば、その端に北極、反對の端に南極をもつ磁石と其作用が等しく、又電流の方向が逆になれば磁石としての極も逆になるのである。更にコイルの心棒として鐵を入れると磁氣作用が非常に強まるので、實際には多くかやうなものが用ひられ、電磁石と名づけられてゐる。
    [#図版(051.png)、第五十一圖]
    [#ここからキャプション]
    大英國王立協會に保存されてゐるフアラデイの大電磁石でこれでフイアラデーはいろいろの大切な發見をした
    [#キャプションここまで]
    [#図版(052.png)、第五十二圖 大電磁石]
     電磁石を始めて製作して實用に供したのはイギリスのウィリアム・スタージョン並びにアメリカのジョセフ・ヘンリーであるが、其後になつて實に多大の應用を見るやうになり、殆んどそのお蔭で大多數の電氣利用が成就されたと云つてもよい位である。なぜと云ふに、電磁石は決してそれが磁石と同等の作用を呈すると云ふだけの效能に止まらないで、却つて磁石よりも遙かに便利の性質をもつからである。即ち電磁石に通ずる電流を加※[#「冫+咸」、u+51CF]すれば、隨意に磁氣作用をも増減せしめることができるので、從つて電流の強いときは通常の永久磁石よりも遙かに強力な磁石を得るし、又電流を斷つと磁石の性質を失はしめる事もできるし、更に電流の方向を逆にすると磁極も亦反對になると云ふやうに、目的に應じて勝手な變化が與へられるためである。
    [#図版(053.png)、第五十三圖 アンペアメーター]
    [#図版(054.png)、第五十四圖 ケルヴインの鏡電流計]
     電流の磁氣作用の利用の第一は、之によつて簡單に電流の強さを測ることのできることである。電流計はこの目的でつくられたものであるが、その型は今日まで非常に多數に上つてゐる。併し之等を大別すると、固定したコイルに電流を通じて磁針を動かすものと固定した馬蹄形磁石又は電磁石の兩極の間に自由に廻轉する小さなコイルを裝置して、電流によつてその方向の變るのを見るものとの二種となる。前者は主として精密實驗用に供せられ、特にケルヴインの鏡電流計(ガルバノメーター)では小磁針の極めて僅かの方向變化が之に取り付けた小さな鏡の面から反射する光線の方向の變化によつて非常に鋭敏に觀測される樣にしてある。又後者に屬するものゝうちにも同樣の光學的裝置によつてコイルの廻轉を甚だ精密に測り得るものもある。
    [#図版(055.png)、第五十五圖]
     併し通常の簡便を主としたものではコイルの廻轉を直接に指針によつて示させ、指針の各位置に之に相當した電流の強さを度盛りしてある。かやうなものをアンペアメーター又はアンメーターと名づける。若し此裝置Vを電流回路の一部に第五十五圖のやうに並列に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]入すると、Vを通る傍回路に流れる電流の強さと抵抗との相乘積は之が接續せるA、B二點間の電位差を與へる。それ故この方法で電位差を測るのに便利であるやうに指針の示す各位置に電位差をボルトであらはした數を度盛りしたものをボルトメーターと名づける。
     電磁石が鐵を吸ひつける力を利用して鐵材を運搬したり、海中に沈んだ鐵製の物體を引き上げたりするために、強力な物揚げ電磁石がつくられてゐる。中央に鐵の輪に針金を捲きつけたコイルがあつて、之をマンガン銅の蔽ひでかぶせたものである。鐵工業では作業上甚だ重寶なものとせられてゐる。
    [#図版(056.png)、第五十六圖 物揚げ電磁石で鐵材を吸上げ之を運ぶ有樣]
     次に電磁石が磁氣作用の強さを自由に變へることは既に述べた通りそれの利用の主體をなすものであつて、電鈴や電信器やその他種々の塲合に應用せられ多大の便宜を我々に與へてゐる。
     電鈴はイギリスのジョン・マイランドが一八五〇年に發明したものであつて、圖に示すやうに馬蹄形電磁石Mを取り捲くコイルの導線の一端がその極の前方に置かれた軟鐵片Sに連絡し、更に之と接觸してゐるネヂTを經て別に備へつけた電池につながれて一つの回路をつくる樣に裝置される。この回路中に豫め※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]入された押釦を押して回路を閉ぢると、電流が流れてMが磁氣作用を起すから、Sは之に吸ひつけられ、ネヂTの尖端を離れて電流をその點で斷つことになる。さうすれば電磁石Mは再びその作用を失つて、Sを元の位置に戻し、Tとの接觸を回復させるから、之によつて電流の回路が再び閉ぢられ以前の過程を繰返す。かやうにして自働的にSは電磁石に吸ひつけられ、又離され、斷えず往復運動を續けるので、之に輕い把手を取りつけて鈴を鳴らすことができるのである。
    [#図版(057.png)、第五十七圖 ジヨン・マイランドの造つた電鈴]

       一〇、電流の磁氣作用(二)

     電流の磁氣作用の應用のうちで最初にその效用の顯著なものとして世人を驚かしたのは電信である。
     電信は云ふ迄もなく遠方に信號を傳へるための電氣裝置であるが、昔から我々はかやうな目的を達しようとして苦心してゐたことは事實であり、そしてそのために先づ音響や光の使用が普通に考へられてゐた。併し電氣や電流に關する知識が漸やく擴まるに及んで、十九世紀に入つてからはそれの利用が工夫せられるやうになつた。之に屬する最初の試みと云ふのは、一八〇九年にドイツのゼンメリングが水の電氣分解によつて氣泡の上るのを信號として役立たせようとするものであつた。その後一八三三年にガウス及びウェーベルは電流による磁針の偏倚を利用して一種の電信裝置をつくつたが、次いで一八三五年にアメリカの畫家モールスによつて始めて電磁石を利用した電信器が發明せられ、電信記號の考案と共に今日實用に供せられるものゝ基礎を形作つた。かくして一八四四年にはアメリカのワシントン及びバルチモアの間に商業用電信が開始せられ、又一八五七年には大西洋の海底電線が敷設せられて、始めて英米兩國間に海を隔てゝ最初の直接の通信が行はれるに至つた。
    [#図版(058.png)、第五十八圖 電信の發明者モールス]
    [#図版(059.png)、第五十九圖 モールス受信器]
    [#図版(060.png)、第六十圖 モールス受信器と繼電器との連絡を示す]
    [#ここからキャプション]
    Mは受信器の電磁石.Aは軟鐵片でMに引かれると之に取りつけた臂WがPから時計仕掛で繰り出される紙片を押す。Rは繼電器の電磁石で.之に送信器からの電流が通るとtの一端を引きつけてその他端をネヂaに觸接させMの囘路を閉ぢさせる
    [#キャプションここまで]
     電信器には一般に送信裝置と受信裝置とがあつて、その間を導線で連絡して信號を傳へるのである。送信裝置としては適當の電池と、受信所に達する受信回路を閉ぢる爲の鍵とを備へればよい。受信裝置ではこの電流によつて電磁石をはたらかせるのであるが、遠距離になると電流のエネルギーが途中の針金のなかで熱となつて失はれるために、その強さが著しく弱まるから、直接に目的の電磁石をはたらかせる代りに先づ繼電器(リレー)と稱するものに作用させる。繼電器には同樣に電磁石を具へてゐるので、これによつて別に受信所に置かれてゐる局部電池の回路を閉ぢるだけの役目を果せばよいのである。受信器はこの局部電池の回路中に置かれ、電流の通ずるに從つて電磁石がはたらき、軟鐵片を引つけることにより、之に沿うて時計仕掛で一方に動いてゐる細い紙片の上に連續した線を押し印すやうになつてゐる。それ故電流の斷續を適當に起すと紙片には長短隨意の線が記されるから、之等の線を適宜に組み合はせたものを豫め文字の符號として選んでおけば、之によつて意味を傳へることができる。新式のものでは多く紙片を用ひずに、單に鐵片が受信器の電磁石を打つ音響によつて之を判斷するやうにした音響受信器が用ひられてゐる。併し送信及び受信の正確を期するためには、その後ヒューズの發明した文字印刷式受信器、及び更に之を改良した電氣タイプライターが勝つてゐる。
    [#図版(061.png)、第六十一圖 繼電器を取り去つて内部の電磁石を示す]
    [#図版(062.png)、第六十二圖 電信器の送信並びに受信裝置の連結]
    [#ここからキャプション]
    B電池 E地面 I磁電石[#「磁電石」は底本のまま] K電鍵 BL局部電池 R繼電器
    [#キャプションここまで]
    [#図版(063.png)、第六十三圖 音響受信器]
     送信及び受信の兩裝置を連絡する導線は通常只一本を用ひ、他は地面につないで之を回路の一部に利用する。又同一裝置で送信及び受信を兼用することのできるやうな連絡が選ばれてゐる。
     電流が針金のなかを傳はる速さの非常に速いことは既に述べたが、之は精密に測ると殆んど光の眞空中の速さに近いものである。從つて電信による遠隔地間の通信は一瞬時に果すことができると云つてよい。但し電流の強さの制限のために非常に遠い際には適當の中繼所を必要とするけれども、之によつて世界各地の出來事を極めて短時間に知ることのできるやうになつたのは著しい事實である。
    [#図版(064.png)、第六十四圖 ライスの電話器]
    [#図版(065.png)、第六十五圖 グラハム・ベル]
    [#図版(065_2.png)、水力發電所全景(鬼怒川電氣下瀧發電所)]
    [#図版(065_3.png)、木曾川 大井ダムと發電所]
    [#図版(065_4.png)、東洋一の火力發電所.鐵道省の川崎發電所の配電盤室]
    [#図版(065_5.png)、神奈川縣鶴見附近の送電線]
     電話も亦大體に於て電信と同樣に遠隔地間の通信交換を目的とするものであるが、符號又は文字の代りに直接に音聲を傳達する事ができるだけに、一層の便利をもつてゐる。即ち音波を電流に變へて之を遠方に送り、そこで再び以前の音波に戻すのが電話の働らきであるが、かやうな試みは始めて一八六一年にドイツのフィリップ・ライスによつて企てられ、次いで一八七六年にアメリカのグラハム・ベルによつて大成せられた。現時用ひられてゐる送話器は更にその後(一八七八年)ヒューズによつて發明せられたマイクロフォンと稱せられるものである。圖に示すやうな構造を有し、二枚の炭素板の間にゆるく詰めた炭素粒が音波の振動を感ずる振動板のために動かされ、個々の粒子の接觸を變ずるから從つて電流に對する抵抗を變化し、之を回路の一部とする電流の強さも亦相應した微妙の變化を呈するようになる。受話器にはコイルを捲いた棒磁石又は馬蹄形磁石があつて之に送話器からの電流が通ずると、磁極の強さも亦電流の強さの變化に應じて變化し、依つてその前方に張られた薄い鐵板を振動させ、之によつて音波を再現せしめるのである。但し送話器と受話器との實際の連結については後に述べるやうな裝置を必要とする。
    [#図版(066.png)、第六十六圖 送話器の斷面]
    [#ここからキャプション]
    Dは振動板 Cは炭素粒
    [#キャプションここまで]
    [#図版(067.png)、第六十七圖 受話器の斷面]
     電信や電話を通ずる電線を地中又は海底に設置する場合には、周圍との絶縁を完全になし、且つ外部からの障害に對して十分の保護を加へなげればならない。之がためには電線を厚いガッタ・ペルチ[#「チ」は小書き]ヤで蔽ひ、又は鋼鐵の被蔽を具へてその内部に銅線の束を入れる。かやうなものを一般にケーブルと名づける。
    [#図版(068.png)、第六十八圖 一八五一年英佛海峽に用ひたケーブル]
    [#ここからキャプション]
    外部のは鋼鐵の被蔽,最内部が銅線
    [#キャプションここまで]
    [#図版(069.png)、第六十九圖 地下電線の斷面]
     電信及び電話の外に尚ほ電流による種々の傳達裝置が用ひられてゐる。電氣時計はその最も簡單な一例であつて、親時計の指針の運動をその儘直接に電流によつて各所に据ゑつけられた子時計に傳へるものである。
     又デンマークのワルデマール・プールゼンのつくつたテレグラフォンと稱するものは通常の電話と蓄音器とを兼ねたものであり、電話器で受け取つた電磁石の變化に應じて長い鋼鐵の針金を磁化せしめ、之を必要に從つて再び音波として取り出すことのできる裝置である。
    [#図版(070.png)、第七十圖 電氣時計]
    [#図版(071.png)、第七十一圖 コルンの區劃方法で電送した寫眞]
    [#図版(072.png)、第七十二圖 コルンのオートグラフ式寫眞電送の裝置]
     この外に近頃實用に供せられ出した文字、又は寫眞の電送も同樣の種類に屬する。文字の電送は始めてドイツのグスターフ・クルツァンナによつて成功したもので、紙面を縱横の線で細かく區劃し、ペンを縱に動かすのと横に動かすのとに相當して二つの異なつた電氣抵抗を感ずるやうにし、この組み合はせを受信所に於て再び二つの小磁針の運動としてあらはし、之に取りつけた鏡から反射する光で感光紙の上に文字を再現する樣に裝置したのである。寫眞電送に對しては種々の方法が企てられたが、一八七七年にフランスのサンレクはセレニウムと云ふ金屬が、光によつて電氣抵抗を變化する性質を利用して寫眞の各點に於ける反射光をその強さに應じて變化する電流によつて遠方に傳達することを試み、又ドイツのアルツール・コルン(一八八六年)は寫眞を縱横の線で細かく區劃した各部分の濃淡を、之を透過する光の強さの變化によつて電流に感ぜしめ、依つて遠方に電送する方法を創案し、更に一九〇二年に彼の改良したテレオートグラフ式と稱せられるものではセレニウムから來る電流を磁極の間に張られた細い金屬線に導き、之が磁極からの力で一方に引き寄せられる大いさに應じて光を遮ぎつて濃淡を生ぜしめるやうに裝置してある。その後今日までこの寫眞電送は漸次の改良を加へられてゐる。

       一一、磁氣及び電氣の塲、地球磁氣

     磁氣や電氣の現象が澤山に知られて來たに拘はらず、抑も磁氣や電氣が何であるかと云ふ問題の解決は遂に捉へることができなかつた。以前に人々は磁氣や電氣の作用の根源を之等を保持する物體に求めて、その内部に例へば電氣流體の如きものゝ存在を假定して之に關する現象を説明しようとしたけれども、外部に及ぼす磁氣力や電氣力の有樣は之から導き出すことは遂に不可能であつた。この方法に反して、始めて眼を力の及ぼす外部空間に轉じ、その性質や有樣を研究することをより大切であるとなすに至つたのは、實にイギリスのファラデイの卓越せる頭腦の賜であつた。彼の研究は先づ磁石のまはりに於ける力の作用の説明に始まつた。
    [#図版(073.png)、第七十三圖 馬蹄形磁石の周りの鐵片の整列]
     磁石の上に紙とか硝子板とかを置いて、その上に細かい鐵粉を一樣に振り撒き輕く叩くと、鐵粉は一定の線に沿うて並ぶ。之は磁石のために各々の鐵粉がそれ/″\小さな磁石となり、之等の小磁石の反對の極が互ひに吸引するからである。一般に磁石に近づけられた鐵片が一時的に磁石の性質をもつことは、磁氣の感應現象として知られてゐるが、この場合に磁石の一定の極に近い鐵片の端には之と反對の極を生じ、遠い端に同じ極を生ずること、丁度靜電氣感應に於けると同樣である。上述の鐵粉の整列は即ちこの感應によるのであつて、整列によつて形作られた線は各處に於ける磁氣力の方向を示すものでなければならない。電流のまはりにどんな方向の磁氣力が作用するかも同樣の實驗で示される。即ち電流の通ずる針金に垂直に厚紙又は硝子板を置いて鐵粉を振り撒くと、針金が之を貫く點のまはりに圓形の整列をなすこと第七十四圖の通りである。之と全く同樣の實驗は電氣についても行ふことができる。即ち帶電體の上に硝子板を置き、之に石膏の粉を振り撒くと、同じく感應によつて力の方向を示す曲線(第七十五圖)を得るのである。
    [#図版(074.png)、第七十四圖 電流の周りの磁力線]
    [#図版(075.png)、第七十五圖 電氣指力線を示す石膏粒の配列]
     さてファラデイは、電氣並びに磁氣の場合にかやうな力の方向を示す曲線に注目し、之を指力線と名づけ、又指力線の通ずる場處を電氣力及び磁氣力の場(簡單に電場及び磁塲とも云ふ)となし、その性質について獨自の研究を進めた。指力線の通ずる有樣を見ると、之は常に陽電氣と陰電氣、又は磁石の北極と南極とを相連絡してゐる。若し我々がこの指力線を一定の電氣又磁氣量から一定の數だけ出るやうに、即ちそれらの密度に應じて引くならば、指力線の集中離散の有樣によつて各々の塲處に於ける力の強さを見ることができる。又指力線に對して到る處で垂直に交はるやうな面をつくつて見ると、之は恰度重力の方向に垂直に置かれた水平面に相當するものである。導體内の電氣の運動に關してはかやうな水平面の高低に相當するやうな量を既に電位として云ひあらはしたが、導體以外の空間に於ても、即ち一般に電場内に於ても、そこに或る電氣量が置かれたとすれば、之が電氣力にはたらかれて運動する有樣はやはりこの水平面によつて規定される。この意味で指力線に垂直な面を等位面と名づける。之は磁氣の場に關しても全く同樣である。
    [#図版(076.png)、第七十六圖 指力線及び等位面]
    [#ここからキャプション]
    指力線及び等位面
    (1)陽または陰電氣が孤立せる場合
    (2)二つの等しい異種電氣
    (3)大いさの異つた同種電氣
    (4)大いさの異つた異種電氣
    (5)二つの等しい同種磁氣(又は電氣)が一樣の場におかれた場合
    (6)2枚の導體に異種電氣のある場合
    [#キャプションここまで]
    [#図版(077.png)、第七十七圖 力管]
     一つの等位面から他の等位面に電氣又は磁氣を運ぶには、その向きが力の方向にあるか、又は之と反對になつてゐるかに從つて或る仕事が得られ又は費されるわけである。それ故我々は二つの離れた等位面の間隔を、恰度單位電氣量又は磁氣量の移動に對する仕事が一ダインに等しくなるやうに定めたとすれば、等位面の疎密の程度によつても塲の有樣を知ることができるのである。
     ファラデイはかやうな電塲及び磁場が空間に於ける或る媒質の状態によつて結果するとなし、指力線で圍まれた管、即ち指力管なるものを考へるとそれが恰もゴム紐を引張つたやうに自ら收縮しようとして張力を生じ、之と同時に横に脹れようとして互ひに押し合ふものであることを假定した。之によつて電氣及び磁氣の間に引力や斥力のはたらくことを能く説明することができるばかりでなく、抑も之等の力が空間的に遠隔の場處にはたらくのは何故であるかと云ふ、所謂遠隔作用に對する形而上學的疑問を除去するに與かつて效があつた。之れ以來力の遠隔作用と云ふことは漸次疎んぜられて、すべて彈性による力のやうに媒質に於ける近接作用として之を解釋しようとする傾向が一般を支配するやうになつた。ニゥトンの萬有引力の如きも從來は遠隔作用として假定せられてゐたけれども、最近のアインシュタインの相對性理論に於ては全く近接作用として見做されるに至つたのはその著しい例である。
     地球上の空間は重力の塲であると同時に、地球磁氣の塲である。磁針が南北の方向を指すのは、この磁場の指力線が大體に於て子午面内に横はるからである。但し磁針の指す方向が正しく北でないこと、即ち北極星の方向とは異なつてゐること、又之との外づれは地球上の各々の塲處によつて異なることは、既に早く見出だされた(一五頁)。磁針が地理上の子午線となす方位角(偏角)並びに水平面に對して傾く伏角を測定すれば、之によつて地球磁塲の指力線を決定することができ、從つて多くの指力線の集中する地球磁極の位置を推定することができる。この磁極が地理上の南北極と稍々外づれた或る地點に存在し、しかも何等かの原因で多少の變化を行ふことは上述の觀測事實から結論される。
    [#図版(078.png)、第七十八圖 一九〇九年ハンス・デユッヘルの作つた羅針盤]
    [#図版(079.png)、第七十九圖 本邦磁氣偏角]
    [#ここからキャプション]
    實測値の外に之等を平均して局部的異常を消出したものを示す。圖中の度數は何れも西方への偏角の大きさである。
    [#キャプションここまで]
     地球磁氣の數理的研究は一八三六年から數年に亘つてドイツのガウス及びウェーベルによつて行はれたが、その物理的原因が果して何であるかは今日迄尚ほ確定されてゐない。ガウスの理論によれば地球磁氣の主要部分は地球の内部に存しその他の小部分が地球以外にあると云ふ結果になる。後者は恐らく大氣中を流れてゐる電流のために起される磁場として解せられるが、前者に對してはやはり地球表面及び大氣中の電氣によるものとすべきか、又はその他の原因による地球の帶磁に歸すべきか未だ明らかでない。又地球磁氣力の方向の變化のうちには年々に規則立つて起るのもあるし、日々繰返されるものもある。この外に時を定めないで急激に起る不規則の變化もあるので、この最後のものを特に磁氣嵐と名づけてゐる。磁氣嵐は多く太陽黒點の出現と伴ふので、黒點が氣體の烈しい渦卷であり、そこに強い磁氣作用をあらはし、兩磁極に相當するものを太陽面に生ぜしめることゝ、何等かの關係があるやうに考へられる。

       一二、媒質論の發展

    [#図版(080.png)、第八十圖 王立協會の講義室に於けるフアラデイ]
     ファラデイが電氣及び磁氣力の作用を媒質の状態に歸したことは上に述べたがこの媒質論を斷じて確實にしたところの事實は一八三八年更に彼自身によつて見出だされた次の現象である。即ち蓄電器の電氣容量は二枚の導體間の空間が種々の物質で置き換へられたときに異なると云ふことである。例へばパラフィンを導體間に入れゝば電氣容量は2倍になり、シェラックでは3倍、硝子では6倍、水では80倍に増すのである。この數は物質の電媒常數と名づけられるものであるが、之によつて電氣容量が變ると云ふことは導體上の電氣の間の力が單に電氣量そのものによるだけではなく、却つてこの間を充たす媒質の如何によるものであることを明らかに示してゐる。ファラデイは導體表面に電氣のあらはれるのは指力管に沿うて到る處微少な範圍内に陽陰兩電氣が分離移動し、指力管の中途では互ひに相接觸せる反對の電氣の存在のために作用が打ち消されてゐるのに反し、導體表面に於て指力管の始まり又は終る處では一方の電氣だけが殘存するようになるためであると考へた。之によれば電氣は導體それ自身にあるのでなく、却つて媒質そのものゝなかに存するのであつて、之が事情に應じて導體表面に現はれるのに過ぎない。この媒質は一般には所謂エーテルとしてすべての空間、即ち眞空及び物質内部を通じて之を充たすものであるが、若しそこに物質が存在するならば、エーテルの各部分以外に亦物質分子内にある電氣も同樣に分離して上の作用を強めることゝなる。エーテル並びに物質内に於けるがような電氣の分離を一般に電氣變位と名づけ、そのうちで特に物質がこの電氣變位の有樣にあることを偏極と云ふ。
     こゝに電氣に關して述べたことは大體に於て磁氣の塲合にも成り立つこと勿論である。但し磁氣に對しては電氣の導體に相當する物質が存在しないので、磁氣指力線はすべての物質内部を通つて續いてゆく。即ちそれらは電氣の絶縁體に相當するのであつて、そのなかに起された磁氣偏極を特に磁化と名づけてゐる。
     偏極によつてあらはれた電氣や磁氣が、物質分子内に閉ぢ込められてゐる限りはそこに一定の電氣又は磁氣の場を生ずるのであるが、只獨り電氣に對する導體にあつては、之と異なつた特殊の事情があらはれるわけである。即ちその内部に於て電氣の移動が自由であるために、偏極を起すやうに分離移動した陽陰電氣はその儘分子内に止まつて偏極を維持することなく、力の平衡を保つ塲處まで移動を續け、結局導體の表面に集まるのである。靜電氣の場合に導體の内部に電氣がないと云ふのはこのためである。一般に變位によつて物體の境界面にあらはれる電氣と、導體に於ける自由移動によつてその表面にあらはれる電氣とを互ひに區別して、後者を自由荷電、前者を外觀荷電と名づけることがある。導體表面に於ける全體の電氣は實は内部の自由荷電と、外部の媒質の變位による外觀荷電との代數和であつて、之を眞荷電と名づける。
     このやうに見てくると、電場及び磁場に置かれた物體がなぜ感應の現象を起すかと云ふことも自然にわかるであらう。それは絶縁體では物體の偏極によつて起る外觀荷電のためであり、導體では電氣の自由移動による自由荷電の爲である。又既に述べたやうに絶縁體や磁性體の内部には一定の電場及び磁場が存することができ、從つて指力線が之等を通つてゐるのに反し、導體の内部は少なくとも電氣平衡の状態では全體が等電位にあつて指力線が存在しない。つまり導體は指力線を斷つと云はなければならない。導體で取り圍んだ空間が外部の電氣力の影響を受けなくなるのはこのためである。從つてこの意味では電氣力を傳へるものは導體でなくて却つて眞空空間又は絶縁體に限られるのであつて、それ故之等を電媒質と稱するのである。
    [#図版(081.png)、第八十一圖 クラーク・マクスウエル]
    [#図版(082.png)、第八十二圖 變位電流]
     之等の思考に對する完全な數學的理論は、ファラデイの後にその仕事を繼承したマクスウェル(一八六一年)によつて與へられた。ファラデイの卓見を稱すると共に、我々はその言葉を數學的に一層正確に飜譯しなほしたマクスウェルの偉大な功績をも讃美しなければならない。特にマクスウェルが所謂電氣力學の基礎法則を立てた際に、理論的に重要な役目をなしたものは媒質電流若くは變位電流と名づけられるものである。

       一三、感應電流

     前に述べた通り電氣と磁氣との密接な關係は、電流が磁針に作用すると云ふエールステッドの發見によつて始めて事實的に示されたが、之を逆にした兩者の關係、即ち磁氣によつて電流を生ずることはその後一八三一年になつてファラデイによつて見出だされた。之はファラデイの電磁氣に關する大研究の最初のものであり、且つ理論に於ても亦應用に於ても多大の發展を持ち來した重要な端緒であつた。
     ファラデイは靜電氣が他の導體に感應するやうに電流も亦他の導線に感應しはせぬかと云ふ考へで種々の實驗を行つたが、遂に次の實驗によつて磁石の作用で電流を發生させることに成功した。即ちコイルの兩端を豫め電流計につないで置き、そのコイルの軸に沿うて棒磁石を突入れると、コイルの導線に電流が起り、又磁石をコイルから引き拔くと再び反對の方向の電流が電流計に流れるのが見られる。この事實は今日電磁感應として知られてゐるものである。次いでファラデイは、一つの電流回路を閉ぢたり切つたりする瞬間に、すぐ傍に置かれた針金に電流の起ることを見出だし、又後者を前の電流回路から遠ざけたり近づけたりしても同樣であることを見た。若し後者に最初から電流が存在してゐたならば、それが右の影響によつて同じく増減すること勿論である。之は電流の相互感應と稱すべき現象である。
     一般に云つて、之等の感應電流は一つの導線回路を縁邊として考へられた面を通過する磁氣指力線の數が變る場合に常に起るものであつて、例へばコイルを地球磁氣の場で回轉するやうな場合にもコイルの導線には交互に方向を變ずる電流が感應されることは、後にドイツのウィルヘルム・ウェーベルによつて實驗された。この實驗で感應電流の強さを測ることによつて地球磁氣の鉛直並びに水平分力を知ることができる。
    [#図版(083.png)、第八十三圖 ウェーベルの地球磁氣感應の實驗]
     感應電流の方向に關しては一八三四年ロシヤのレンツが次の法則によつて之を一般に云ひあらはした。感應電流は之に伴ふ反作用がもとの磁石又は電流回路の運動を妨げるやうに起る。但しその運動によらないで、磁石や電流の強さの變化による場合には強さを増すのが近づく運動に相應し、強さを弱めるのは之に反する。
     このレンツの法則はエネルギー保存の原理から見れば寧ろ當然の歸結であつて一八四五年フランツ・ノイマンによつて數學的に完全に説明された。磁石をコイルに對して近づけ又は遠ざける場合の感應電流の方向は第八十四圖に示す通りである。
    [#図版(084.png)、第八十四圖 磁石の運動と感應電流の方向]
    [#ここからキャプション]
    Nは磁石の北極.Sは南極.n及びsはコイルが電流のために磁石の作用をなす場合の北極及び南極
    [#キャプションここまで]
     感應電流はその後電流を得るための重要な手段として用ひられるやうになつた。電池によつて起される電流では、動電力(電壓)に一定の制限があるけれども、感應電流によるものでは適當な裝置とその動力の如何によつては之を任意の大いさに達せしめることができるからであつて、このお蔭で電氣工業の發達したことは實に著しいと云はねばならない。
     第八十五圖に示すような裝置で下部の馬蹄形電磁石を固定し、上部の電磁石を中央の軸の周りに廻轉すると、之に捲いた針金のなかに感應電流を得られる。併しこの電流の方向は半廻轉毎に逆になること、前に述べたウェーベルの地球磁氣感應器と全く同樣である。
    [#図版(085.png)、第八十五圖 發電機を説明する圖]
    [#図版(086.png)、第八十六圖 發電子]
     かやうな交互に方向を變ずる電流即ち交流を、方向の變らない電流即ち直流として外部に取り出すことは、次のような特殊の裝置によつて、容易に成功される。即ち廻轉コイルの端が半廻轉毎に異なつた刷子に接觸し、之から電流を外部に導くようにすればよい。實際の發電機では固定した電磁石を場磁石、廻轉するものを發電子と稱する。場磁石は通常發電子を取り圍む大きな兩極(N・S)を備へ、發電子から取り出された電流又はその一部が場磁石の作用を強めるやうに針金を捲いてある。第八十七圖はかやうな發電機の模型を示したもので、場磁石に捲く針金の連結の仕方によつて、直捲(a)、分捲(b)、及び混合捲(c)を區別する。
    [#図版(087.png)、第八十七圖 發電氣の模型]
     發電機からの電流は直流として取り出す外に、目的によつては交流の儘で取り出す場合も多い。之等に應じて種々の形式の直流又は交流發電機が形作られてゐる。通常水力電氣と稱へてゐるのは、發電機を廻すための原動力として水力を用ひるものであつて、發電子を水力タービンと直結してその廻轉を起させる。
    [#図版(088.png)、第八十八圖 發電機と電動機との連結]
     發電機を逆に使用し、電流を發電子に供給すると之に廻轉を起させることができる。この目的に使用するものを電動機(電氣發動機又は電氣モーター)と名づける。之を發電機と直結して動力を得るために用ひられる。
    [#図版(089.png)、第八十九圖 ウエルナー・ジーメンス]
    [#図版(090.png)、第九十圖 世界最初の電車]
     かやうな電動機の原理は一八六七年始めてドイツのウェルナー・ジーメンスによつて述べられたものであつたが、其後種々の方面に於て盛んに實用に供せられ、我々の生活に多大の利益を與へるやうになつた。我々が日常見慣れてゐる電車の如きは即ち電動機を具へた機關車に外ならないが、それは一八八一年に始めてジーメンスの手によつてドイツのベルリン郊外に敷設せられて以來、漸次一般的となり今日では既に蒸氣機關車を凌ぐ程の交通機關として重要のものとなつてゐることは驚くべきばかりである。又自動車や扇風機や水ポンプや昇降機などにも用ひられ、諸工場の動力供給のためにも必要にして缺くことのできないものとせられてゐる。
    [#図版(091.png)、第九十一圖 本邦製最大の電氣機關車EF五二四型]

       一四、電流の自己感應及び交流

     電流の強さが變る場合には、その回路で取り圍む面を通る自身の磁氣指力線の數が變るから之が自身の回路に感應電流を生ずるようになる。この感應電流の方向はレンツの法則によれば磁氣指力線の數の増減を少なくするように向ふわけであつて、從つてもとの電流の強さが増すときには感應電流は之と反對の方向に起つて強さの増加を弱め、之に反して前者が減ずるときには感應電流は同じ方向に起つて前者の減少を妨げる。かような現象を電流の自己感應と名づける。電流を電氣の運動と見做し、電流の強さをその運動の速さと解するならば、自己感應の現象は恰度この運動に對する惰性を云ひあらはすことになる。
     電流の回路を閉ぢたり切つたりする場合に、單にそれだけの過程を考へに取るならば、その瞬時に電流の強さは、零から急に或る値に増すとか、又は逆に或る値から零に減ずる筈であるが、實際には自己感應の影響によつてその變化が遲くされること第九十二圖に示す通りである。電流の方向が或る週期を隔てゝ逆になる場合即ち通常の交流に於ても同樣であつて、電流の強さの時間的變化をあらはす曲線は常に連續的な波状を呈するやうになる。
    [#図版(092.png)、第九十二圖]
    [#ここからキャプション]
    時刻aに電路を閉ぢbに之を切つた際電流の強さは點線の如く變化せず自己感應によつて實線のやうになる
    [#キャプションここまで]
    [#図版(093.png)、第九十三圖 交流に於ける電流の強さの變化]
     交流は常にその値を變化してゐるばかりでなく一定の方向の電流の強さを正にとれば、その方向の變化のために、交流では正負の値が交互にあらはれる。それ故交流の強さ(實效値)を云ひあらはすのには、之が運ぶエネルギーの量をもつてする。電流が針金のなかに生ずる熱は即ち之に相當するものであつて、從つて例へば一アンペアの直流が生ずるのと等しい熱量を同時間に發生するやうな交流を名づけて、やはり一アンペアの強さをもつと云ふのである。電位差即ち電壓についても同樣で、強さの實效値との關係がオームの法則に從ふやうに電壓の實效値を決める。普通に交流の電壓を幾ボルトとして云ひあらはすのはこの實效値を指すのである。白熱電燈用として供給されてゐる電流は大概交流であつて毎秒50乃至60回の振動(サイクル)をなすものが多い。之に對して電球が100ボルト、16燭光などと指定されてゐるのは、交流の電壓實效値が100ボルトである塲合に丁度16燭光を出すと云ふ意味である。
    [#図版(094.png)、第九十四圖 電燈の明滅を證據立てる方法]
    [#ここからキャプション]
    上圖の模樣を蓄音器の圓板台に載せて電燈の下で廻轉して見ると廻轉の速さが適當に加減された時黒線が少しも動かない樣に見える。之は電燈が明滅する毎に順次隣の黒線が同じ場所に來るからである。右圖は毎秒五十回(關東地方)左圖は六十回(關西地方)の場合に用ひる
    [#キャプションここまで]
    [#図版(095.png)、第九十五圖 變壓器の理]
     直流と交流とでは、少なくともその熱效果に於ては同等であること上述の通りであるから、電燈又は電氣爐の如きものにあつては交流を使用しても差支へないわけである。この外に交流を使用することの利である理由は、その目的に應じて容易に電壓を變へることができるからである。之をなす裝置は變壓器と稱へるものであつて、同じ鐵心に捲かれた二つのコイルp、sから成つてゐる。一方のコイルpは細い針金を密接して數多く捲いたものであり、他方sは之に比べて捲數のずつと少ないものである。この二つのコイルのどちらかに交流を供給すると、他方に感應して週期を等しくする交流を生ずるわけであるが、一般に同じ磁氣指力線の變化によつて起る感應動電力ともとの交流電壓との割合はそれ/″\のコイルの捲數に比例するから、捲數の差によつて交流の電壓を増し又は減ずることができる。
    [#図版(096.png)、第九十六圖 大きな變壓器]
     今日では多くの市街地に於ける電車や電燈や又は諸工場の動力として大規模に電力を供給するためには、天然に存在する水力を最初の動力源とするのが經濟的に最も有利であるとせられてゐる。併し多大の水力を直接に利用し得られる塲處は、一般に繁華な市街地を離れた山間であるから、さう云ふ塲處で起された電力を都市まで輸送するために電線を通じて電流を流さなければならない。ところが電線が長くなればなる程その途中で多量の電流エネルギーは熱となつて無益に減損してしまふのを免かれない。それでこの損失をなるべく少なくするにはできるだけ抵抗の小さい導線を用ひるか、又は電流の強さを小さくするより外はない。現在では設備上の費用を考へた上で、さう勝手な導線を用ひる事ができないから專ら電流を弱くするやうな方法を採り、從つて一定の電流エネルギーに對してできるだけ電壓を高くするやうになされてゐる。この目的で多くの水力發電所では先づ交流發電機によつて交流を起した後、之を變壓器によつて數萬ボルト以上の高電壓に變へて輸送し、電力使用の際に再び變壓器で低壓に降下させるようにしてある。通常3000ボルト以上を特別高壓、300ボルト以上を高壓と名づけてゐるが、かやうな高壓電流の流れてゐる導線は之に觸れると非常に危險であるから嚴重に警戒を要する。市街地内ではかやうな高壓電流の通過を絶對に禁じてゐる場合が多い。それ故之を市街地に引き入れる前に、相當な變壓所で數段に低壓に變ずるのが常である。
    [#図版(097.png)、第九十七圖 東京電燈猪苗代發電所内部]
    [#図版(098.png)、第九十八圖 東京電燈猪苗代第一發電所全景]
     交流發電機では、塲磁石の極及び發電子のコイルの數を多くしたものを用ひると、發電子の一廻轉のうちに既に數回の振動をなす交流が得られる。かようなものを多極發電機と云ふ。若しこの際各々のコイルに發電した電流をそれ/″\異なつた導線に取り出すならば、順次振動位相を異にした交流が同時に得られるわけである。場磁石の極及びコイルが四つあれば、之等を二組の針金に取り出して、一方の位相が他方に對し振動週期の 1/4 だけ遲れるやうな二組の交流を得るし、磁極及びコイルが六つあれば位相が週期の 1/6 宛遲れた三組の交流を得る。この樣に位相の異なつた交流が同時に存在するものを一般に多相交流と云ひ、交流の數に應じて二相交流、三相交流などの名が呼ばれる。
    [#図版(099.png)、第九十九圖]
     三相交流の特色は、その強さをあらはす第九十九圖の曲線で見る通りに、中央の横線即ち電流の零であることを示す線の上下にすべての時間に常に互ひに等しい大いさの電流が存在することである。それ故三相交流を通ずる導線を一點につなぎ合はせると互ひに反對の向きの電流が重なつて全體としては零になつてしまふ。從つて三相交流を導くにはこのやうな連結によつて歸路の導線が不
    [#以下、底本一四五・一四六ページ欠損]
    [#図版(100.png)、第百圖 一九〇三年にドイツのニユルンベルグに最初に設けれらた[#「れらた」は底本のまま]電話交換局]
    [#図版(103.png)、第百三圖 自働式電話交換局の内部設備(ドイツ・ミユンヘン)]
    [#これより底本一四八ページ開始]
    ような電氣の運動現象に外ならないものであるが、この外に電氣は不導體によつて隔てられてゐても、一定の距離に對する電位差が餘りに大きくなると火花及び音を發して中和するやうになる。之は靜電氣の實驗に於て常に見られる處であつて、帶電體の傍に指頭を近づけ、又は他の物體を接觸させると帶電體との間に小さな火花及び音の出るのが常である。感應起電機の兩極に電氣を蓄へておいて、之等を互ひに近寄せると火花や音が稍々火きく、又ライデン壜の外箔と上部の金屬球とを放電叉と稱する開閉自由の叉形の金屬棒で連結させる時も同樣である。
     すべてこのように不導體の内部を通じて電氣が中和する現象を放電と云ひ、火花を發して中和するのを特に火花放電と名づける。火花が稍々大きいときには、帶電兩極の間に挾んだ厚紙や硝子片などに孔を開けることができる。
     大氣中に起る雷電は古代から驚異の自然現象と見られてゐたが、之も亦大規模の放電に外ならないことは、始めてアメリカの有名な政治家であり科學者であつたベンジャミン・フランクリンによつて一七五二年に實驗的に證明された。彼は最初高い處から空氣中の電氣を導くつもりで、當時恰もフィラデルフィヤに於て或る高塔の建築されるのを待つてゐたが、その完成が遲れたので他の方法を考へ、尖端のある鐵棒を附した布製の紙鳶を飛揚させて雷雲の電氣を導き寄せようとした。フランクリンは彼の子息と共に同年七月の雷鳴の際この實驗を行ひ、ライデン壜を帶電せしめて通常の電氣と全く同樣の衝撃をあらはすことを確めた。
    [#図版(104.png)、第百四圖 電光]
    [#図版(105.png)、第百五圖 ベンジヤミン・フランクリン]
     電光は直線的に起らないで屈曲した經路を取ることはその寫眞によつてよく示される(第百四圖)。又尖端のある金屬導線がよく空中の電氣を導くことのできるのは既にフランクリンの實驗でも明らかであるが、之は感應によつて金屬導線に生じた電氣が尖端の塲處に於て特に大きな蜜度[#「蜜度」は底本のまま]をもつて集中するから、空氣中の塵埃などを盛んにその部分に吸引し、接觸によつて之等を帶電させては反撥し、從つてこの結果一種の放電となつて其部分の感應電氣を中和させ、反對の電氣を導線の他端に殘留させるやうになるからである。第百六圖のやうに金屬を曲げたものを軸に載せて自由に廻轉し得るやうにし、之に帶電させると尖端放電の際空氣中の塵埃を尖端の方向に追ひやるから、その反作用で矢の向きに廻るのが見られる。
    [#図版(106.png)、第百六圖 尖端火花の實驗]
     尖端放電は絶えず徐々に起るから之によつて過激な放電作用を避けることができる。古代イェルサレムの大伽藍は數千年間に亘つて落雷の記録を殘さないとせられてゐるが、之は屋上に數多の尖つた黄金の裝飾を有し、鍍金された建物の外側にある管で地面まで連絡してゐたためであると考へられてゐる。フランクリンは實際にこの理を利用して避雷針をつくつた。
    [#図版(107.png)、第百七圖 感應コイルの構造]
     放電現象は不導體を通じて起るから電流の強さは比較的小さいけれども、之に反して電壓は非常に大きいのである。それ故電流を用ひて實驗的に強大な放電を得るためには、感應コイルと稱する一種の變壓器によつて電壓を高める必要がある。之は第百七圖のやうに軟鐵の線條を束ねた心棒の上に太い針金を捲いて第一コイル(p)とし、更にその外部に細い針金を非常に密に捲いて第二コイル(s)としたものである。第一コイルの回路に電鈴に於けると同樣な繼續裝置(D、a、I)を入れて電流を通すと、その繼續毎に第二コイルに高壓感應電流を生ずることができる。之は第一コイルの電流の繼續に應じて方向を逆にする交流であるが、自己感應の影響によつて回路が閉ぢられるときよりも斷たれるときの方が遙かに大きな感應起電力をもつから、第二コイルの兩極を(E、E)適當の距離に保つて置くと、回路切斷に應ずる方向にのみその間に火花の飛ぶのを見ることができる。
    [#図版(108.png)、第百八圖 火花放電の壯觀]
    [#ここからキャプション]
    上は九フイート宛離れた三つ 電極間の火花.中は百五十萬ボルトの火花放電.下は磁場に於ける火花放電
    [#キャプションここまで]
     火花は亦硝子管やその他の絶縁體の表面に沿うて特殊の有樣に起る事がある。之を滑走火花と名づけるが、樹枝状又は根状の美くしい模樣がそこにあらはれる。
    [#図版(109.png)、第百九圖 滑走放電]
    [#ここからキャプション]
    上と中はレントゲン管に沿つて起つたもの
    下は硝子板に沿つて起る普通の火花放電
    [#キャプションここまで]
    [#図版(110.png)、第百十圖 リヒテンベルグ圖形(陽)(=電極)]
    [#図版(111.png)、第百十一圖 リヒテンベルグ圖形(陰)]
    [#ここからキャプション]
    陽・陰はライデン罎の内部箔が陽又は陰に帶電せる塲合を示す
    [#キャプションここまで]
     この外一七七七年にリヒテンベルグによつて見出だされたもので、滑走火花に類似した一種の現象がある。強く帶電したライデン壜の頭で絶縁體の表面に觸れ、この塲處に硫黄又は鉛丹の細かい粉を振り撒き、餘分のものを吹き去つてしまふと、特有な圖形をつくることができる。布を摩擦した鉛丹は陽に、硫黄は陰に帶電するので、之等はそれ/″\絶縁體の表面の之と反對に帶電する場處に附着するのである。細粉を振り撒く代りに絶縁體の表面の上に寫眞乾板を重ねて置けば、同樣に之に見ごとな電氣通路を印すことができる。

       一六、電氣振動、電波

     ライデン罎の放電やその外の火花放電を肉眼で見ると、一瞬時の間しか續かないで、その短い時間に電氣が一と飛びに中和してしまふ樣に思はれるけれども、之を非常に早く廻轉する廻轉鏡に映して見ると、兩極の間に多くの往復振動をなして漸次に減衰するものであることがわかる。
    [#図版(112.png)、第百十二圖 ライデン罎の放電を廻轉鏡に映した有樣]
    [#ここからキャプション]
    左から始好つて[#「始好つて」は底本のまま]右に終る
    [#キャプションここまで]
    [#図版(113.png)、第百十三圖 交流の減衰する有樣]
     この事實は一八四二年にアメリカのジョセフ・ヘンリーが始めて鋼鐵針の不規則な磁化によつて明らかにしたのであり、その後一八五三年イギリスのケルビン卿によつて理論的に研究せられ一八五八年ドイツのフェツ・ダーセンによつて廻轉鏡による實驗が工夫せられたのであつた。之は恰度振子の球を鉛直から外づして離す場合に直接に靜止の位置に達することなく、却つて數回の往復振動を繰り返して漸次に止まるのと全く同樣の現象であり、振子の球と等しく電氣の運動に對しても一種の惰性の存在するためであることが確められる。電流の自己感應も亦かやうな惰性のために起ることは既に述べた處であるが、交流を斷絶した際に電流が同樣の減衰振動をなして後に零に達することも實驗的に示される。
     電流を電氣の運動と見るならば、その周圍には電氣の場が一緒に持ち運ばれてゐるのであり、又之と同時に電流の周圍には磁塲が起されてゐるのである。それ故に上述の電氣振動に際しては周圍の電氣及び磁氣の塲も亦振動的に變化すべきことは勿論である。ところでマクスウェルの理論によれば、一般に媒質内に於て塲の或る變化があらはれる塲合には之が常に一定の速さをもつて擴がることが數學的に證明せられる。この現象は理論上から云へば、恰度導體内に於ける傳導電流に相應すべきところの、媒質内に於ける一種の電流とも見做さるべきものであつて、マクスウェルは之に媒質電流若くは變位電流なる名を與へた。例へば蓄電器ABをCなる針金で連絡して放電させる塲合には、陽陰兩電氣は針金のなかを傳はつて傳導電流を形づくると同時にA、Bの間隙をなす空間内には塲の變化による媒質電流があらはれ、この兩者によつて始めて完全に閉ぢられた電流回路が成り立つのである。
    [#図版(114.png)、第百十四圖 變位電流]
     媒質電流はかやうにして理論上極めて重要な意味をもつのであるが、實際上にも亦決して度外視さるべきものでなく、今日に至つては特に顯著な應用が之に基づいてなされるやうになつた。媒質電流の特質は電氣及び磁氣の塲が擴がる限りの空間のどんな塲所にも到達することであつて、上記の電氣振動の場合には之が振動的に到る處の空間に傳播するわけであるから、こゝに一種の波動が形成される。この全體を通常電磁波と名づけ、そのうち電氣の場の振動だけを考へるときには單に電波とも名づける。
     マクスウェルは一八七三年に彼の理論からの歸結として、かやうな波動の眞空中に於ける傳播の速さが光の速さと數値的に同一であるばかりでなく、その他のすべての性質が光波と一致することを見出だし、從つて光波は電磁波の一種に外ならないと云ふ光の電磁説を主張したのであつたが、一八八八年に至り、ドイツのヘルツは始めて電氣振動によつて實際に電波を發生させ、マクスウェルの理論を完全に實驗的に確かめることに成功した。爾後電波が我々の實驗並びに應用の對象となることができたわけである。
    [#図版(115.png)、第百十五圖 ハインリツヒ・ヘルツ]
     ヘルツの實驗裝置は第百十六圖に示す通りの簡單のものであつた。感應コイルKの兩極に金屬板AB及び之に取りつけた棒をつなぎ、その尖端に附した小さな金屬球を或る間隙をもつて向ひ合はせたもの、及び同樣の間隙を具へた針金の環から成り立つてゐる。感應コイルをはたらかせてCDの間に火花を飛ばし、環を適當の距離に置くと、後者に感應電流を生じて間隙に小さな火花があらはれる。之は發音體が音波を出して他の發音體に共鳴するのと同樣の現象であつて、電氣振動の塲合にも各々の回路の電氣抵抗や自己感應の大いさによる固有振動が一定し、兩者の振動週期が一致する塲合に共鳴を起すのである。この意味で前者を振動器、後者を共鳴器と名づける。
    [#図版(116.png)、第百十六圖 ヘルツの實驗裝置]
    [#図版(117.png)、第百十七圖 ギレルモ・マルコニー]
     電波はすべての空間を非常に大きな速さで傳はるから、之を通信用に供して最も理想的に近いものである。最初之によつて實際の通信が成功するに至つたのは、コヒーラーと稱する電波檢出器を發明したフランスのブランリー、並びに之による通信裝置を作つたイタリーのマルコニーの苦心のお蔭であると云はなければならない。一八九七年にマルコニーは始めて數キロメートルの距離に送信することができたが、火花を強大にすること並びにアンテナと稱する空中導線を高く張ることによつて漸次通信距離を大きくし、一九〇一年十二月に至つて始めて大西洋を越えてイギリスからカナダのニューファウンドランドにS字に相當するモールス電信符號を送ることができた。
    [#図版(118.png)、第百十八圖 マルコニー式電波發生器]
     マルコニーの用ひた送信及び受信裝置は、大體第百十九圖の通りであつて、ヘルツの振動器と同樣にして電氣振動を起し之を高壓に變じてアンテナから四方に輻射させ、同樣の受信アンテナによつて受け取つた電流を檢波器によつて適當に變化し電話用の受話器に通じて音響符號を聞のである[#「聞のである」は底本のまま]。
    [#図版(119.png)、第百十九圖 無線電信裝置]
    [#ここからキャプション]
    (A)送信裝置 Aアンテナ B電池 C畜電器 E地面 I感應コイル K電鍵 L變壓器
    (B)受信裝置 Aアンテナ C畜電器 D檢波器 R受話器
    [#キャプションここまで]
     檢波器としては最初に用ひられたコヒーラーに次いで、鑛石檢波器なるものが一九〇一年ブラウンによつて創案された。之は特殊の二種類の結晶鑛石の一方を尖らせて他方の面に接觸させたもので、之を回路中に置くと、一方向の電流に對しては抵抗が多いので交流の一方だけが殘され、受話器に感ずるやうになるのである。通常黄銅鑛と鐵又は洋銀、斑銅鑛と紅亞鉛鑛、カーボランダムと黄鐵鑛と云ふやうな組み合はせが用ひられてゐる。その後更に熱電子の作用を利用した眞空球檢波器なるものが發明せられて、非常に遠距離までも鋭敏に電波を受け取ることができるやうになつた。無線電信が船舶などの通信用として極めて有用であることは勿論であり、又學術上にも種々の役目を果してゐる。特定の塲所から時刻信號を全世界に送つて正確の時間を知らしめる如きはその著しい一例である。
    [#図版(120.png)、第百二十圖 テレフンケンの受信裝置]
     無線電信に比べて無線電話にはその遂行に種々の困難な事情が横たはつてゐたために、その發達完成も著しく遲れてゐた。その主要な困難は、火花放電による電氣振動が上に述べた通り減衰振動であるに反し、無線電話では專ら非減衰振動を必要としたからである。即ち非減衰振動を起す回路に於て音聲による電流變化を伴はしめ之を電波として送り出し、受信裝置に於ける檢波器を經て再び音聲に戻すのがその目的とする處なのであつた。ところがかやうな非減衰振動は一方で眞空球を振動器として用ひることにより、又他方では謂はゆる高周波交流發電機なるものがアメリカのアンキサンダーソン[#「アンキサンダーソン」は底本のまま]、ドイツのアルコ、及びゴールドシェミット、フランスのペテノー及びラツール等によつて作られたことにより、漸く實現せられるに至り、こゝに無線電話の成功が見られた。特に歐洲大戰中軍事上の必要に迫られた結果、急激の發達を遂げ、休戰後一九二一年に至つてはアメリカで遂に公衆に對する無線電話放送が行はれ始め、爾後僅かに數年の間にこの放送事業は世界各國に普及するやうになつた。
     無線電話に伴つて、印刷又は寫眞の無線電送や、艦船等の無線操縱裝置の如きものが種々企圖せられ、又活動せる映像を寫し出すテレヴィジョンの如きが考案せられ、既に近き將來に於て謂はゆる電波の世界が現ぜられようとしてゐる。
     電波の波長はその裝置の如何によつて數ミリメートルの大きさから數キロメートルに迄及ぶことができる。實際の放送に於ては相互の混信を避けるために各國に於て使用波長を協定し、それぞれ異なつたものを用ひてゐる。我國の放送には現に 360 乃至 385 メートル、又短波長として 215 乃至 235 メートルを用ひる事になつてゐる。電波の速さは毎秒 3×10^8 メートルであるから、毎秒の振動數即ち周波數と稱へられるものは、例へば 360 メートルの波長に對して 3×10^8/360=8,3×104[#「8,3」は底本の通り] 即ち八十三萬ばかりになる。
     又最近では之等より遙かに波長の短い電波、所謂超短波長を用ひる方法が盛んに試みられてゐる。この塲合には電波が光線のやうに直進するから、適當な裝置で一定の方向にだけ強大なエネルギーを送ることの出來る特徴がある。

       一七、眞空放電、陰極線

     通常の空氣中では電氣の兩極に十分の電位差を與へると激しい火花を發して放電を起すけれども、空氣を拔いた硝子器内で之を行ふと薄い光芒が擴がつた特異の放電現象を呈する。之は一八三八年に書かれたファラデイの論文中に始めて記されたものであるが、一八五〇年頃にフランスのリュンコルフによつて感應コイルが發明されて、強い電氣火花を得るやうになつてから急に一般の興味を喚び起した。彼は最初卵形の硝子器内の空氣を拔いて電氣を通したところが、陰極の周りに黄色の光の層があらはれ、その外部に暗い層を隔てゝ青い光のあるのを見出だした。その頃ドイツのボンに硝子細工に堪能なガイスレルと云ふ人があつて種々な形の硝子管を巧みにつくつたので、ボン大學の教授であつたプリュッカーは之を用ひていろ/\の實驗を行つた。爾後この實驗に用ひられる硝子管をガイスレル管と呼ぶのはこのためである。
    [#図版(121.png)、第百二十一圖 眞空放電の有樣・上からABCD]
     この現象は一般に眞空放電と名づけられ、當時その珍奇の有樣に人々の眼を驚かしたものである。硝子管内の眞空度を漸次高めるに從つてその樣子を異にすることも續いて實驗せられた。最初空氣を拔いた際には第百二十一圖(A、B、C、D)のAのように火花が紐のように兩極間に擴がるけれども、管内の氣壓が小さくなると光芒が淡く擴がり、遂には多くの層に分れて恰度鱗片を並べたようになる。之等の光を分光器で檢すると硝子管内に殘つてゐる氣體に固有のスペクトルを示すのであつて、空氣の代りに他の種々の氣體を管内に入れて之を實驗することができる。
     ブリュッカー[#「ブリュッカー」は底本のまま]の見出だした最も注目すべき事實は、陰極に近い硝子管の壁が緑色の螢光を發する一種の放射線の作用に歸したが、その後一八六九年にドイツのヒットルフは陰極の前に固體をおくと放射線を遮ぎつて後方の硝子管壁に影を生ずることを見出たした[#「見出たした」は底本のまま]。之等の現象は同じくドイツのゴールドシュタインによつても確められ、彼によつてこの放射線に陰極線と云ふ名が始めて與へられた。
    [#図版(122.png)、第百二十二圖 眞空管による實驗]
    [#ここからキャプション]
    上眞空管内に十字形の金屬板をおくとその影が映る 下陰極線が車にあたると之が廻り出す
    [#キャプションここまで]
     陰極線が物體の影を投ずることは、之が光線と同樣に直進することを示すものであつて、このためにヒットルフやゴールドシュタインは之を光に似た一種の波動として考へたけれども、之に反して一八八三年にイギリスのクルックスは陰極線が輕い物體に衝きあたつて之を動かすやうな機械的作用をすることや、金屬にあたつて熱を生ぜしめる事などを實驗し、陰極から微粒子の放射する現象に外ならないことを結論した。又陰極線に磁石の棒を近づけると曲ることは以前からも注目せられてゐたが、クルックスはこの曲る向きを吟味して、この微粒子は陰電氣をもつてゐなければならないことを結論し、同樣に電場を加へた塲合の屈曲の事實によつても之を證明し、更に之等の屈曲の大いさを測ることによつて微粒子の質量は管内にある氣體の種類には無關係であり、且つ水素原子の質量に比べて數千分の一に相當する程小さいものであることを見出だした。
     之は實に發見者自身に取つても驚くべき意想外の事柄であつた。クルックスは物質が固態、液態、氣態以外の特異な状態にある時このやうな粒子として存在するのであらうと想像し、之を物質の第四態として云ひあらはした。併し粒子の大いさが物質の種類に關係なく一定してゐることが漸次確實となるに從ひ、これこそすべての物質の一元的構成要素であると解せられるやうになり、一八九一年ジョンストン・ストーニーは之に始めて電子(エレクトロン)なる名を與へた。
    [#図版(123.png)、第百二十三圖 ウイリアム・クルツクス]
    [#図版(124.png)、第百二十四圖 ブラウン管で撮影した振動電流の美しい寫眞]
     陰極線は物體によつて影を生ずるけれども、物體が薄い層をなす塲合には之を透過することができる。之は一八九二年にヘルツによつて實驗せられ、金箔やアルミニウム箔で遮ぎられた後方に尚ほ螢光作用を生ずることによつて確められた。次いで一八九四年にレナードは陰極に對立する硝子管壁に薄いアルミニウム箔で張つた窓をつくり、之を透して管外に放射線を取り出すことができた。レナード線と稱せられてゐるものは之である。之等の事實は最初陰極線の粒子説に反對する證據として見做されてゐたが、その後實は粒子が非常な高速度で飛んでゐるために、物質の分子間隙を通り拔ける事のできる結果であることが明らかにせられた。
     一八九七年にブラウンは磁塲内での陰極線の經路を研究するために特殊の眞空管をつくつた。これは第百二十五圖に示すような構造をもつてゐる。管の細い部分の陰極線の通路にはたらくやうに電磁石を具へ、之によつて曲げられた陰極線は管の他端におかれた螢光板に當つて之を光らせる。この管をブラウン管と名づけてゐる。
    [#図版(125.png)、第百二十五圖 ブラウン管]
     ブラウン管は交流即ち振動電流の振動形を檢知するために利用せられる。即ち一方の電磁石に交流を通ずると之に應じて螢光板上の光點が動いて振動形を示すからである。この振動變化は電子の質量の小さいために非常に鋭敏に感ずるので、極めて速い高周波電流に對しても之を謂はゆるオッシログラフ(振動圖示器)として用ひることができる。又互ひに垂直な二つの電磁石を具へて各々に異なつた交流を通ずると二つの垂直な振動が重なり合つて螢光板にあらはれ、リサージュの圖形を示すことができる。
    [#図版(126.png)、第百二十六圖 ブラウン管で示されるリサージユの圖形]

       一八、陽放射線

    [#図版(127.png)、百二十七圖 カナル線管]
     百三十七圖[#「百三十七圖」は底本のまま]のやうな眞空管内の陰極をなす金屬板Kにたくさんの小さな孔(カナル)をあけて放電を起すと、その後方即ち陽極と反對の側に一種の放射線があらはれて管内の氣體が光るのを見る。之は一八八六年にゴールドシュタインによつて見出だされたものであつて、カナル線の名で知られてゐる。管内に空氣があれば光は稍黄色を帶び、水素を入れると赤くなるのであつて、そのスペクトルはそれぞれの氣體に固有の輝線を示す。陰極線と同樣に、カナル線も亦電氣又は磁氣の塲を加へると曲げられることは、一八九六年に至つてドイツのウィリ・ウィーンによつて實驗的に示されたが、併しその屈曲の程度はずつと小さく、陰極線の塲合に比べてその二パーセント以下であつた。ウィーンはこの實驗からカナル線を形づくる粒子は陽電氣を帶び、その質量は水素原子と同程度以上のものであることを明らかにした。之によつてカナル線の生成を考へるならば、管内の氣體原子が先づ陰極線に衝突せられて陽イオンとなり、陰極附近の電氣の塲によつて加速せられてその後方に飛ぶのに外ならない。ドイツのシュタルクはカナル線の飛びゆく方向に分光器を置いてそのスペクトルを撮影し、通常のスペクトル線の外に赤色の方に少しく移動した線の並んでゐるのを見出だした。後者は運動してゐる陽イオンから發するものであつて、ドップレル原理に從つてその波長を變じてゐるのである。
    [#図版(128.png)、第百二十八圖 ジヨセフ・J・タムソン]
     カナル線の研究は一九〇六年以後特にイギリスのジョセフ・ジョン・タムソンによつて進められた。彼は第百二十九圖に示す裝置を用ひてカナル線に電氣及び磁氣の塲を加へその經路の屈曲を實驗した。圖に於てAは放電を起す眞空球、Bは陰極で之に穿たれた細い孔を通つてカナル線が左方に出る[#句点なしは底本のまま]こゝに電塲を起すための蓄電器板P、P′及び磁塲を起すための電磁石の極M、M′がある。之等によつて曲げられたカナル線が左端の寫眞板Hに達するようになつてゐる。この塲合にカナル線は電氣の塲によつては上下の方向に又磁氣の塲によつては圖面に垂直の方向に曲げられ、その大いさは第一に粒子の電氣量eと質量mとの比に關係し、第二に速度に關係する[#句点なしは底本のまま]ところがカナル線粒子のなかには種々の速度の物を含むからたとへば、e/m は同じであつても速度の異なるに從つて之等は屈曲の程度を異にし、最初の放射の方向に垂直におかれた寫眞の上に抛物線状に並んだ影を印象する。又粒子の e/m の異なるに從つてそれぞれ異なつた抛物線を印すから、種々の事情を考慮することによつて各々の抛物線がどんな粒子に相應するかを推知することがきでる[#「きでる」は底本のまま]。タムソンはこの方法で、化學分析によつては到底檢知することのできない極めて微量の氣體の存在をも示すことができたばかりでなく、更に粒子のイオン化の状態、即ち各粒子がどれだけの電氣量をもつかをも明らかにする事ができた。之は陽放射線分析と稱せられてその後極めて重要視せられるやうになつた。即ち一九一二年の實驗に於てタムソンは始めて、原子量20に相當するネオンの線の附近に原子量22に相當する線のあるのを發見し、種々の考察の結果、ネオンと類似した元素が存在するのではないかと推察した。一九一九年にイギリスのアストンは再び之を檢して、その存在を確めた。
    [#図版(129.png)、第百二十九圖 陽放射線分折の裝置][#「分折」は底本のまま]
     この事實は我々の從來考へてゐた化學的元素の概念に對して重大な變更を持ち來す結果を生んだ。既に之れ以前に放射性物質では原子量を異にして、しかも化學的性質を同じうする元素の存在を經驗し、之等を互ひに同性體又は同位元素として云ひあらはしてゐたが、こゝにネオンの如き普通の元素に於ても、化學的には同一に見えても、實は原子量を異にする二樣の原子がそのなかに含まれてゐるのであらうと想像せられた。アストンはそれ故に陽放射線分析の寫眞(第百三十圖)の上で、原子量20及び22の線の強さを測定して、之等が凡そ 9:1 の割合であることを見出だし、之と同じ割合の分量をもつて兩者が混合した塲合に混合物の原子量を計算すれば、恰度從來化學的にネオンの原子量として知られてゐる値、20.20 と全く符號するのを示した。
    [#図版(130.png)、第百三十圖 ネオン管の陽放射線分析]
     アストンは續いて多くの元素について同樣の實驗を行ひ、その多數のものが原子量を異にした數個の同性體の混合物であることを證明した。

       一九、X線及び放射能

     十九世紀の終末から二十世紀の始に至る數年間は實に電氣に關する新現象の發見によつて一般科學界に異常な衝動を與へたところの重要な時期であつた。そして多くの發見のうちの最も顯著なものとして、我々はX線及び放射能の現象を何よりも先に擧げることができる。
    [#図版(131.png)、第百三十一圖 ウイルヘルム・コンラード・レントゲン]
    [#図版(132.png)、第百三十二圖 X線で撮つた寫眞(ケルウイン卿の手)]
     X線は一八九五年の十一月にドイツのヴュルツブルヒ大學の教授レントゲンによつて見出だされた。
     彼は最初レナード線の實驗的研究を行つてゐた際に、眞空管を黒いボール紙で包んでおいたに拘はらず、その近傍にあつた白金青酸バリウムの紙の上に或る放射線を感ずることを見出だし、その性質を檢して之が種々の物質を透過することを明らかにした。紙や木や布類などは之に關して殆んど透明であり、その他の物質も凡そその密度に比例して透過する。又能く寫眞乾板に感ずるので、例へば手をその上に載せてこの放射線をあてると骨の形が明瞭に現はれる。レントゲンは當時この不思議な放射線が物理學的にどんなものであるかを未だ審らかにしなかつたが、ともかくも事實的に示されたこの放射線に對してX《エツキス》線なる名を與へた。後に發見者の名を借りて屡々レントゲン線とも呼ばれてゐる。
    [#図版(133.png)、第百三十三圖 普通のX線管]
     X線が物質を透過する著しい性質は直ちに種々の方面に利用せられて多くの實驗的價値を發揮した。特に醫學上では外面から直接に見ることのできない人體機構を、その儘X線によつて寫眞に撮影することができるので、その異常状態や病患や又は金屬介在物の所在の如きを容易に覗ひ知り、之を醫學的研究又は診療手段に用ひて甚だしく有效であることが一般に認められた。
    [#図版(134.png)、第百三十四圖 クーリツヂ管]
     X線を發する眞空管は眞空度の非常に高いものでなければならない。普通に陰極に對立して斜に置かれた對陰極と稱する金屬が具へられてゐる。この構造から見ても、陰極から發した陰極線が對陰極に衝突してそこからX線が發せられるのであらうと云ふことは容易に想像せられる。近頃ではアメリカのクーリッヂが一九一三年に發明したクーリッヂ管と云ふのが一般に用ひられてゐる。之は陰極線電子を利用する代りに、電流で熱せられた金屬から放出する電子を對陰極に衝突させるやうにしたものであつて、之によつて非常に強大なX線が得られる。
     X線も陰極線や陽放射線と同樣に眞直ぐに進むが、電氣や磁氣の場によつて曲げられない點が之等と異なつてゐる。又X線が氣體の分子をイオン化することは一八九六年にイギリスのタムソンによつて明らかにされた。感應コイルの兩極の距離を加減して火花が僅かに飛ばない程度にしておいてX線をその間に送ると、火花が飛ぶやうになるのは、空氣がイオン化されて傳導體になるからである。
     X線が果して何であるかと云ふ問題は、その後多くの學者の頭を惱ました。イギリスのストークスやドイツのウィーヘルトなどは陰極線の電子が對陰極に衝突してそこで急激に止められるために、一種の電磁的脈動が之から出るのであつてそれがX線に外ならないと論じた。又イギリスのブラッグはX線を中性微粒子の放射であるとして種々の現象を解釋しようとした。併し一九一二年にドイツのラウエがX線の干渉を結晶體に於て發見し、之が光と全く同樣の電磁波であることを證明するに至つて、始めてX線の本體が確實に知られるやうになつた。
     X線の發見に引き續いて、從來未だ曾つて知られなかつた物質の不思議な性質として放射能の現象が世を驚かした。
    [#図版(135.png)、第三十五圖 アンリ・ベクレル][#「第三十五圖」は底本のまま]
    [#図版(136.png)、第百三十六圖 キユーリー夫人]
     一八九六年にフランスのアンリ・ベクレルはX線が眞空管の螢光を發する場所から起りはしないかと云ふ推察のもとに螢光を發する物質として知られてゐたウラニウム鹽類の結晶を黒紙に包んだ寫眞乾板に載せておいたところが結晶と寫眞板との間に挾んだ銀の小片が黒い影を寫眞に印することを見出だした。彼は最初之をウラニウムの螢光のために發せられるX線に依るものと解したが、更に實驗を重ねてゐるうちに、ウラニウムは常にこのやうな作用を有することを明らかにし、之を自然的に存在する一種の放射線に歸した。この放射線はその後發見者の名を取つてベクレル線と呼ばれた。その性質については種々の薄い物質を透過し、寫眞板に感じ、又氣體をイオン化すること、X線と同樣であつた。
    [#図版(137.png)、第百三十七圖 臭化ラヂウムで撮つた寫眞]
    [#図版(137_2.png)、左はガス管球(胸部レントゲン寫眞用)右はクーリツヂ管球]
    [#ここからキャプション]
    (癌腫等の治療に用ひ二〇萬ヴオルトを通ずる)
    [#キャプションここまで]
    [#図版(137_3.png)、ロイマチスの電氣療法(シユネー氏四槽浴)]
     ところが一八九八年にフランスのキュリー及び同夫人は、ウラニウムの外にトリウム化合物が同樣の性質をもつことを見出だし、更にピッチブレンドと稱する酸化ウラニウムを含む鑛石を研究してゐる際に之が純粹のウラニウムよりも遙かに強い作用をもつ放射線を出すことを發見し、遂にキュリー夫人の手によつてこの鑛石中からその極めて著しい放射作用を有する未知の物質だけを化學的に分析抽出することに成功し、微量ではあつたが二種の物質を得て、之等をラヂウム及びポロニウムと名づげた。爾後この作用は放射能と稱せられて種々の新奇な事實の發見に導いた。放射性物質が常に原子量の大きな元素及び化合物に限られるのは最も注目すべき特徴である。
     ベクレル線については、その後イギリスのラザフォードの研究によつて、之が三種の異なつた放射線から成り立つてゐることが見出だされた。三つの放射線への分析は主として物質透過の程度の相違によつて可能にされるのであつて、第一にα《アルフア》線と名づげられたものは厚さ0.05ミリメートル程のアルミニウム箔によつて既に全く吸收されてしまふものであり、次にβ《ベーター》線と名づけられたものは數ミリメートルの厚さのアルミニウム箔を十分に透過してその後方に達することのできる部分である。又第三にγ《ガンマ》線と稱せられるものは透過能最大の部分であつて、透過の程度はX線をも超え、アルミニウム板の厚さが50センチメートル程に達し始めて吸收され盡すに至る。
     之等の放射線がどんなものであるかに關しては、一八九九年から一九〇〇年に亘つてギーゼルやステファン・マイヤー及びシュワイドラーが先づβ線が磁場によつて陰極線と同樣に曲げられるのを見出だしたこと、次いで一九〇三年にラザフォードがα線の電場及び磁場による屈曲を實驗し得たことから漸次明らかになつた。即ちβ線は陰電氣を帶びた粒子から成り、且つその電氣量と質量との割合に於ても全く陰極線電子と同一であることが知られ、又α線はカナル線と同樣に陽電氣を帶びた粒子から成るけれども、その電氣量と質量との割合は水素陽イオンの半分であることが見出だされた。
    [#図版(138.png)、第百三十八圖]
     之によつてβ線は電子そのものに外ならないことが容易に結論されたけれども、更にα線が何であるかについては立ち入つた研究を必要としたのであつた。α線は硫化亞鉛のやうな螢光性の物質を塗つた螢光板に衝突して之を能く光らせる。スピンタリスコープと云ふのはその有樣を蟲眼鏡で覗くやうにした裝置であつて、之を視ると無數の閃光が燦爛として星の輝きを見るやうである。ラザフォード及びガイガーは一九〇八年に更にα粒子の數を電氣的に記録し得るやうな裝置(第百三十八圖)をつくつた。半球形の金屬器の頂點Bに小さな孔があつて雲母の薄い板を張つてある。之からα線を入れると内部の氣體をイオン化し、電極Aにつないだ電氣計に各粒子毎に衝動を感ぜしめる。それ故電氣計の針の動きを一定の速さで動かした寫眞フィルムの上に撮影すると、第百三十九圖のやうな記録を得るから、之によつて一分間にどれ程の數のα粒子が到着するかを明らかに算へることができる[#句点なしは底本のまま]ラザフォード等は一方でα線が直接に電氣計に與へた電氣量を測つて個々のα粒子の電氣量が水素イオンのそれの二倍に等しいことを見出だした。この事實と、上に述べた通り電氣量と質量との比が水素イオンの半分であると云ふ事實とからα粒子の質量は水素イオンの四倍でなければならないことが當然結果するのであつて、ヘリウムの原子量が恰度水素の四倍あることを考へ合はせて、α粒子はヘリウム原子が二重にイオン化したものであることが證された。ところで實際に放射性物質からヘリウムが發生すると云ふことは既に一九〇三年にイギリスの化學者ラムゼー及びソッディーによつて化學的に檢出せられ、そのスペクトルによつて完全に確められた。
    [#図版(139.png)、第百三十九圖 A粒子の記録][#「A粒子」は底本のまま]
     α線及びβ線と異なつてγ線は少しも磁場の影響を受けないものであるから、明らかに帶電粒子ではなく寧ろ種々の點でX線に似てゐることが漸次知られた。その本質についてはX線と共に後にラウエの發見によつて始めて示され、それが同じく電磁波の一種に外ならないことが明らかにされた。
    [#図版(140.png)、第百四十圖 アーネスト・ラザフオード]
     キュリー夫妻はラヂウムを發見してから間もなく、ラヂウムと一緒に置かれた物體が放射性を感應してそれ自身放射能を有するやうになることを見出だした。この現象はラザフォードによつてトリウムの場合に詳細に研究せられ、この場合に感應する反射能[#「反射能」は底本のまま]はトリウムから絶えず發生してゐる放射性の氣體であるところのトリウム・エマナチオンなるものに歸せられると云ふ驚くべき事實が知られた。そればかりでなくこのエマナチオンはトリウムと分離するとすぐ消滅してしまつて、その代りにエマナチオンの接觸してゐたどの物體の表面にも、肉眼では見えないが非常に細かい放射性の沈澱物を生ずることがわかつた。なほこの後ですぐドイツのドルンはラヂウムからも全く同樣の性質のエマナチオンを見出だした。
     一九〇二年にラザフォード及びソッディーは之等の事實に基づいて、放射性物質の變脱理論を提出し、物質元素に關する從來の化學上の見解に對して全く新らしい變革を與へた。即ち放射性物質の原子は放射線を放出すると共に異なつた原子に崩壞變脱してゆくものであると云ふのである。この理論は實際にかやうな變脱によつて生成せられてゆく多くの物質が實驗的に確定せられ、その原子量や化學的性質や光のスペクトルなどが明らかにせられるに從つて漸次動かすことのできないものとなつた。今日我々は變脱系列として、ウラニウム・ラヂウム系列、トリウム系列、アクチニウム系列の三つを知り、それらのなかにそれぞれ十數個の元素を見出たす[#「見出たす」は底本のまま]に至つた。そして變脱の最後に於て之等の系列の何れもが鉛を生ずることは一つの注目すべき事實である。
    [#図版(141.png)、第百四十一圖 一種の花崗岩中に見られるウラニウムハロ]
     變脱の過程は各々の原子が一個のα粒子若くは一個のβ粒子を放出することによつて起るのであるが、そのうちα線放出によるものでは原子は原子量4を減じ、β線放出によるものでは原子量を増減しない。之はα粒子が原子量なる4[#「原子量なる4」は底本のまま]ヘリウム・イオンであり、β粒子が質量の非常に小さい電子であることを考へるならば、當然の結果と見ることができる。又之等の變脱は常に一定の時間内に一定の割合で起るのであつて、その遲速は一樣でなく、その原子の半數が崩壞するに要する時間即ち半減時間なるものは、例へばウラニウムでは數十億年に及び、ラヂウムでは1700年、ラヂウム・エマナチオンでは四日であり、その他僅かに數分若くは數秒に足らないものさへある。このやうに長短の差はあるが、原子がそれぞれの壽命をもつことは實に驚くべき事實と云はなければならない。
    [#図版(142.png)、第百四十二圖 寫眞乾板上に印したアルフア粒子の痕跡]
    [#図版(143.png)、第百四十三圖 棒の先端に附着するラヂウムからアルフア線が四方に放射される有樣]
     α線やβ線の速さは非常に大きい。前者は光の速さの5乃至7パーセント、後者は80乃至99パーセントにも達する。一方では前者の質量は後者の數千倍も大きいから、兩者とも多大のエネルギーを放射されることがわかる。それ故之等の放射線が吸收されるとそこにはかなりの多大の熱量が生ずる。一グラムのラヂウムはそれ自身からの數段の變脱のために一時間に凡そ132カロリーの熱を發生することが計算される。だからラヂウムと對量の水があるなら前者は後者を僅かに四分の三時間程で氷點から沸騰點まで熱することができるわけである。太陽や地球内部に若し少量の放射性物質が含まれてゐるとすれば、既にその現在の熱を供給するに足りるのであらうことも屡々想像された。又地球上の多くの岩石中にはウラニウムとトリウムとが殆ど同樣の割合で含まれてゐることが見出だされてゐる。この事實は最初地球が混沌たる有樣にあつた時代に、之等の岩石の生成起原の同一であることを物語るものであつて之から地球の年齡を推算することができる。又種々の岩石中には放射能現象のためにあらはれるハロと稱する圓形の極めて小さな顯微鏡的斑點が見える事がある(第百四十一圖)。之は以前には微生物と考へられたこともあるが、放射性物質が含有せられて之から發するα線のために或る化學的變化が起されるのである。寫眞乾板の上に放射性物質の微量をおくと、その周圍に發するα粒子のために上述のハロと同樣な現象を呈することは第百四十二圖に示す通りである。この寫眞の上でα粒子の經過した痕跡が明らかにわかる。

       二〇、光電氣効果、リチャードソン効果

     能く磨いた金屬の裏面に特に紫外線に富んだ光をあてると、金屬が陽に帶電するやうになることは之を電氣計につないで實驗的に知ることができる。この現象は一八八七年に始めてハインリッヒ・ヘルツによつて發見せられ、次いで翌年ハルワックスによつて確められたものである。その後一八九九年にレナードは眞空中でこの實驗を行ひ、金屬の面から陰極線に於けると全く同一の電子が放出することを示した。之を光電氣效果と云ふ。金屬面を陰に帶電すれば電子の速さが増し、陽に帶電すれば之に反して電子の速さを※[#「冫+咸」、u+51CF]じ遂には表面から飛び出ないようになる。この事實は金屬内部に自由に遊動する電子が存在して居り之が紫外線にはたらかれて放出のエネルギーを獲得するのであると考へられる。
    [#図版(144.png)、第百四十四圖 X線による第二次ベーター線の痕跡]
     金屬内部にかやうな電子の存在することは單に之を熱するときに電子の放出する事實からも證明される。金屬が白熱されたときにその近傍の空氣が電氣に對して絶縁性を失ふと云ふ事實が十八世紀時代から知られてゐたが、一八八〇年にエエルスター及びガイテルは針金に電流を通じて之を熱し、一定の距離を隔てゝおかれた電極の電位の變化を測定した。この現象はその後多くの人々によつて研究せられ、金屬から放出される電子のために空氣がイオン化せられるものであることが確められた。周圍の空氣が取り除かれると電子の放射が著しくなる。この現象に關しては主としてイギリスのリチャードソンが種々の研究を行つたので、之をリチャードソン效果と名づける。又この場合に放出される電子を屡々熱電子(又は熱イオン)として云ひあらはす。
    [#図版(145.png)、第百四十五圖 フレミング眞空球]
     熱電子の現象は近時種々の重要な應用を見るに至つた。前節に述べたX線を發するクーリッヂ管もその一つであるが、電波の檢波器並びに發生器として用ひられる眞空球の發明は無線電話をして今日の實用に至らしめた最も大切の應用である。
     この眞空球は一九〇四年に始めてフレミングによつてつくられたもので、空氣を拔いた硝子球のなかに纎條(フィラメント)と之に對立する金屬板プレートとを具へてゐる。纎條を電流で熱すると、之から發する熱電子の流れは金屬板の電位が纎條よりも高いか低いかによつて板の方向に向ひ又は止められる。從つて金屬板の電位が電波から生ずる高周波交流によつて交互に變化する塲合に、或る基電位より高くなれば熱電子電流を通じ、低くなれば之を中絶するやうに裝置することができるのであつて、之によつて眞空球を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]んだ電流回路に於ては電波に感應して、しかも一方のみの電流を得ること、恰度鑛石檢波器の場合と同樣になる。
    [#図版(146.png)、第百四十六圖 三極眞空管]
     眞空球の金屬板を圓柱状にし、之と纎條との中間にグリッドと稱する螺旋状又は網目状の導體を入れたものを三極熱電子管と名づける。(之に對して上述のフレミングの眞空球を二極電子管とも云ふ)。グリッドの役目はその電位を纎條よりも僅かに高くするか低くするかによつて、纎條から金屬板に流れる熱電子電流を増加させるか又は※[#「冫+咸」、u+51CF]少せしめるためである。この作用は極めて鋭敏であつて、グリッドの非常に僅かの變化が、電流のかなり大きな變化を結果することができるから、單に檢波作用ばかりでなく振動を増大せしめるための増幅裝置としても適當である。又三極管を變壓器に接續すれば、金屬板に於ける電流の或る振動的變化が一次及び二次コイルを經てグリッドに感應するから、その電壓の變化に相應して熱電子電流も變化し、之が再び同週期の變化を金屬板に補ひ與へ、依つて最初にそこに起つたものを非減衰振動とすることができる。之が無線電話の送話裝置としても三極管の適切なる所以である。

       二一、電氣素量、電子の性質

     電子が以上述べたやうな種々の現象に於て見出だされるに從ひ、之が果して物質の根本的要素として見做さるべきものであるか、又實際にどんな場合にも單一的の電氣量をもつてあらはれるかと云ふやうな重要な問題が先づ確實に決せられなければならなかつた。ところが之がためには、抑も我々の取り扱ふ電氣量なるものにさう云ふ性質が存在するのであらうかと云ふ疑問が起されなければならない。云ひ換へれば、すべての電氣的現象が電子の如き一定の要素によつて生ずるものであるならば、電氣量として測られるものは常に電子の有する電氣量の整數倍になつてゐなければならない筈であるから、果してさう云ふ事實が存在するかどうかと云ふ疑問である。
     事實上の確證が見出だされるよりもずつと以前に、併しそれは一つの自然的な思想としてもあらはれたことが無いではなかつた。即ち電氣に對する最初の理論として、デュフェイが電氣を二種の流體から成ると説いたのに對して、フランクリンが一種流體説を稱へたときに、彼はこの電氣流體が粒子から成り立つてゐて導體のなかを自由に通り拔けるやうに考へたのであつた。けれども當時の是等の説は固より單なる想像を云ひあらはしたのに過ぎなかつたので、何等の事實的根據にも基づいたものではなかつた。
     だが、我々の科學はどこまでも事實に據らなければならない。しかも事實は意外な處に微妙な關係を隱してゐる。電氣量に分割されない一定の單位があると云ふことも、實際偶然に、ファラデイが一八三三年に發見した電氣分解の法則のなかに既に秘められてあつたのである。前に説明した通り、この法則は、すべての物質の一化學當量を析出するに要する電氣量が一定であつて、丁度 9,649×10^1[#この式、底本のまま] に等しいことを要求するのである。ところで電氣分解の現象は物質のイオンが電氣を運んでそれぞれ兩極に達するために起るのであるから、上の電氣量は即ち一化學當量に相當するイオンの有するものでなければならない。一化學當量と云ふのは物質の一グラム中に含まれた原子の數を原子價で除したものである。それ故之はすべての一價原子が電解質中でイオンとなるとき一定の電氣量をもつことを示すのであり、又二價、三價の原子の場合にはそれ/″\二倍三倍等の電氣量をもつことを意味するのである。つまりこゝで考へられてゐる一定の電氣量は、少なくとも電氣分解の現象に於て常に單位的にあらはれるものであつて、今日我々は之を電氣素量として呼んでゐる。
    [#図版(147.png)、第百四十七圖 ミリカンの電氣素量實驗裝置]
     この電氣素量の値を正確に見出だすためには、原子又はイオンの數を精密に知らなければならない。併し之に對しては種々の困難があつたけれども、その大體の程度を知ることができさへすれば電氣素量の値も略ぼ計算することができるわけである。かやうな計算は始めてジョンストン・ストーニー(一八七四年)によつて試みられた。その後電子の發見と共に電氣素量なるものも極めて重要な意味をもつやうになつたので、種々の場合にあらはれる個々のイオンの電氣量を直接に測つて、電氣素量の値を見出ださうとする多くの實驗が企てられた。イギリスのタムソン、タウンセンド、ウィルソンなどはX線のために生ずる氣體イオンについて之を測定したが、同樣の目的で最も精密に行はれた實驗は、一九〇九年以後引き續いてアメリカのミリカンによつてなされたものであつた。彼は帶電せる微小な超顯微鏡的油粒を電塲に持ち來し、電氣力によつて之を上下に動かすと共に、重力の作用や空氣の抵抗をも考慮に入れ、その運動の速さを觀測して、之から油粒の電氣量を計算し、實際に常に電氣素量の整數倍に等しいことを證明した。ミリカンが一九一三年並びに一九一六年にこの方法で見出だした電氣素量の値は e=4,774×10-10 靜電單位である。
    [#図版(148.png)、第百四十八圖 ミリカンの裝置の説明圖]
    [#ここからキャプション]
    Aは霧吹で之から油を吹き出させる。M.Nは二枚の金屬板で之に電位差を與へ.Mの中央の孔を通つてこの間に落下する油粒を左方から照して觀測するのである。油粒は吹き出される際多少共帶電してゐるが尚ほ右方にあるX線管からX線を送つてイオン化される
    [#キャプションここまで]
     種々の塲合にあらはれる電子は常にこの電氣素量に等しいだけの陰電氣をもつてゐると考へられてゐる。又電氣量と共にそれが一定の質量を有してゐることも考へられる。この質量を見出だすためには運動してゐる電子に或る力を作用させて運動の變化を見ればよい。例へば陰極線粒子が眞直ぐに運動してゐるとき之に垂直に電氣の塲を加へれば、運動經路は塲の方向と反對に曲げられるし、又電塲の代りに磁塲をはたらかせると、塲と垂直に彎曲させられる。電塲や磁塲によつて電子にはたらく力は電氣量eに比例するものであり、一方で徑路の彎曲の度は電子の惰性的質量mに逆比例するから、實際に彎曲のための軌道偏倚を測定した結果から、我々は電氣量と質量との比 e/m を見出だすことができるわけである[#句点なしは底本のまま]この實驗は一八九七年に始めてタムソンによつて行はれた。その後多くの人々が同樣の方法で、陰極線の外に放射性物質から發するβ線や、光電氣效果及びリチャードソン效果などに於ける放出電子について之を測定し、すべて之等の場合に e/m が同一の値を有することを證明した。今日知られてゐるそれの最も精密な値は、靜電單位及びグラムの單位を用ひて e/m =5,30×1017 である。從つて前に掲げた電氣素量の値を之に入れると、電子の質量は m=9,0×10^-28 グラムとして見出たされる[#「見出たされる」は底本のまま]。之を水素原子の質量 mH[#「H」は下付]=1,650×10-24 グラムに比べれば、僅かに 1/1832 に過ぎない。放射性物質がβ線を放出してもその原子量を變へないのは、是等の數値を見て當然であることが判るであらう。
     電子の性質と關聯して、一般に帶電粒子の運動に關する理論は、最初イギリスのタムソン(一八八一年)及びヘヴィサイド(一八八九年)等によつて發展された。その塲合に帶電體には通常の力學に從ふ一定の質量が假定されたけれども、之に電氣力がはたらくに際しては電氣を有するための一種の惰性が相伴はねばならないことが始めて明らかに主張せられた。この電氣の惰性は、電氣の運動に伴つてその周圍に起される磁場を一緒に運ばねばならないことに依るのであつて、丁度導體内部を流れる電流に對する自己感應の現象は之と同一のものであると解せられる。かやうな惰性によつて帶電體に歸せられねばならない一種の質量を假現的又は電磁的質量と名づけたのであつた。電子の研究が盛んになるに從ひ、この問題は多大の理論的興味を惹起し、特に理論上からはこの電磁的質量が運動速度と共に著しく増さねばならないことが結論されたために、果して實際に電子の場合にこの事實が見出だされるかどうか、更に亦電子の全質量のうちで力學的に一定であると考へられる質量と、運動によつて變化する電磁的質量とがどんな割合で存在してゐるかと云ふやうなことが、根本的に重要な問題として提出された。
     この問題を精密に理論的に解いて、且つ實驗と比較するがためには、電子の形態について立ち入つた假定を必要とするのであつた。そこでドイツのアブラハムは最も簡單な合理的假定として、電子を剛體的球體であるとし、且つその表面又は實質全體に電氣が一樣に分布せられてゐるとして、理論的歸結を導き出した。
    [#図版(149.png)、第百四十九圖 質量が速度に從つて増す有樣]
     この結果は大體に於て一九〇二年にドイツのカウフマンの實驗によつて確められ、少なくとも電子の質量が速度と共に變ると云ふことは疑ひもない事實として認められるやうになつた。そればかりでなくアブラハムは更に實驗との詳細の比較によつて電子の全質量はすべて電磁的でなければならないと云ふことを結論して、當時の學界に異常なる衝動を與へた。只電子の形態に關する假定としてはアブラハムの採用した處のものは一見最も簡單のやうではあつたが、別に運動物體の光學上の研究からして之と異なつた假定の必要が論ぜられるに至つた。それは即ちオランダのローレンツの提議したものであつて、彼は運動せる地球上に於ける光の速度に關する實驗が少しも地球の運動の影響を受けないと云ふ事實から、之を矛盾なしに説明するためにすべての物體が運動の方向に短縮すると云ふ假定を導き、從つて電子も亦この性質を所有しなければならないとたした[#「たした」は底本のまま]。
     この假定は、その後(一九〇五年)アインシュタインによつて有名な相對性理論が同じ實驗的事實の上に基礎づけられるに及び、その當然の歸結として論ぜられたのであつて、それ以前に(一九〇四年)ドイツのブッヘレルが同樣の短縮と同時に之と垂直の方向への膨張を假定して電子に一定體積を保たしめやうとしたのは、却つて理論的根據を缺くと云はなければならなかつた。そして是等の研究の一方に、電子の質量の速度による變化に對する實驗は更にカウフマン(一九〇六年)によつて精密に繰返された外に、ベステルマイヤー(一九〇七年)ブッヘレル(一九〇八年)フプカ(一九一〇年)ノイマン(一九一四年)などによつて相次いで實驗せられその殆んどすべての結果はローレンツ及びアインシュタインの理論と一致することを示した。
    [#図版(150.png)、第百五十圖 ベーター線が磁場で屈曲する有樣]
     併しながら電子の質量のかやうな變化はそれが抑も電磁的起原のものであるための特殊な性質ではなくて、相對性理論によればすべての物體の質量がさうでなければならないのであつた。即ち一般に質量及びエネルギーは速度と共に増し、光速度に至つて常に無限大に達するのである。只通常の力學に於て取り扱ふやうな速さの程度ではその變化が餘りに小さいので、我々は從來力學的質量を一定と見做してゐたに過ぎない。そして陰極線に於ける電子のような非常に速いものに於てのみ質量の變化が實驗せられたと云ふまでである。尚ほ理論に從へば、一般に力が運動の方向にはたらくか、又は之と垂直の方向にはたらくかによつて、惰性を異にするので、是等に相當する質量をそれ/″\縱質量及び横質量と名づける。速度零の極限に於ては是等兩質量は勿論一致した値を取るから、之を靜質量と名づける。
    [#図版(151.png)、第百五十一圖 ブツヘレルの實驗裝置]

       二二 [#読点なしは底本のまま]物質の電子論及び其發展

     電子の發見は物質がその最後の要素として電子を含んでゐることを想像せしめ遂に物質の電子的構成を假定して種々の現象を説明しようとする理論の發展を促がした。之に關して最初に最も多く貢献した學者は實にオランダのローレンツであつた。一八九五年に發表した彼の論文には運動體の光學と共に今日の電子論の基礎をなす重要な研究を網羅してゐる。
     先づ第一に彼は金屬が電氣の導體である所以を、原子間の空隙を自由に遊動することのできる自由電子なるものゝ存在に歸した。自由電子の運動は全く氣體分子の運動と同樣であつて、只物質原子と衝突してその運動方向を變へる。その平均の運動エネルギーは氣體分子の塲合と同じく温度によつて一定する。若し外部から電氣力がはたらくならば、全體として電氣力の反對の方向に陰電氣を有する電子がより多數に流動するから、之が電流現象としてあらはれる。電流の傳導度は電子の數や遊動の自由さによつて定まるのである。ローレンツはこの假定に基づいて物質の電氣抵抗が温度と共に變ることや、之が熱傳導度と一定の關係を保つことや、異なつた金屬が接觸すると起電力のあらはれることや、熱電氣の現象などを説明した。
    [#図版(152.png)、第百五十二圖 ヘンドリツク・アントーン・ローレンツ]
     ローレンツは次に物質原子内に一定の平衡位置に結びつけられた束縛電子の存在することを假定し、種々の現象を説明した。束縛電子はその平衡位置から外づれると、距離に比例する力即ち準彈性的の力によつて舊の位置に戻らせられる性質をもつてゐると考へられる。若し外部から電氣力がはたらくならば、之と準彈性的の力と釣り合ふ位置まで電子が移動するから、之によつて絶縁體に於ても靜電氣感應が起り、又それが電媒質として作用するのである。光が物質にあたると光波の振動電氣力のためにこの束縛電子も平衡位置のまはりに振動させられる。之が光を吸収したり又は分散を起したりする原因である。逆にこの電子が自分で振動を起すならば、物質が光源となつて光を輻射する。各々の物質から出る光は物質に固有な一定のスペクトル線を示すことは能く知られた處であるが、之を磁塲に置くと、スペクトル線が二本若しくは三本に分岐すると云ふ現象が、丁度一八九八年にオランダのゼーマンによつて發見された。ローレンツはその發見後直ちに之に對して上の理論を應用し、實驗的事實を完全に説明し得たばかりでなく電子が實際に陰電氣を有することを證明し、又數量的に電氣量と質量との比を計算して前節に述べた結果と全く一致することをも示した。
     第三にローレンツは、物體の磁氣現象を原子内に圓形軌道を描いて運動する電子の存在するのに歸した。之は以前にアンペールの假定した分子電流なるものと略ぼ同樣の效果をもつものであつて、このために原子のまはりに磁塲の起ることが容易に解せられる。只各々の原子内に於ける磁塲の方向が種々異なつてゐるから通常の物質では全體として磁性を示さないけれども、鐵の如き強磁性體と稱せられるものでは、原子の配列上是等が一定の方向に向けられ得るためにその性質を呈するのであると解せられる。尚ほこの電子の圓形運動そのものは圓形の針金を流れる電流と異なつて、實は反磁性を示すものであり、多くの物質に於て之が實際にあらはれることは後に、フランスのランジュパン[#「ランジュパン」は底本のまま]によつて證明された。
     ローレンツの後に電子論は多くの人々によつて發展されたが、そのうちドイツのドルーデは之に對し著しい貢献をなした。併し近時に至つて謂はゆる量子の發見と共に原子構造の理論が全く新らしい見地に立つ必要に迫られたので、上述のローレンツ及びドルーデの理論も多少の變更を餘儀なくされるようになつた。
     量子論に關しては、もはや電氣學の範圍を超えるからこゝではその詳細を述べてゐられない。只それがどこから起つたかについて云へば、黒體輻射の法則が熱力學の理論と實驗的事實とに基づいて確立されるに當つて、エネルギーの輻射並びに吸收が連續的に行はれるとしたのでは、いかにしても事實との矛盾を免がれないことが見出たされ[#「見出たされ」は底本のまま]、一九〇〇年に始めてドイツのプランクによつて或る一定の單位量の整數倍によつてのみあらはれることが假定せられ、之にエネルギー量子なる名を與へるに至つたのである。その後かような量子の存在は光の種々の現象や原子熱や、その他の物質の諸性質に於て續々と確められ、特に低温度に於ける状態はこの假定なしには殆んど滿足に解せられないやうに見えた。この間に量子の意味はエネルギーに對してよりもより根本的には寧ろ作用量に歸せらるべきことが明らかにせられ、次いで一九一三年にデンマークのボールによつて始めて原子構造論に應用せられて一つの輝かしい結果に到達したのであつた。それは水素原子のスペクトルに關する問題であるが、彼は先づイギリスのラザフォード等の考察に從つて、水素原子は一つの原子核の周圍に一個の電子が周廻するものであると假定し、周廻運動の角運動量が一定の作用量の整數倍に等しいやうな軌道だけを定常的に許されるものとし、そして電子が是等の軌道間に移轉を行ふに當つてスペクトル線の輻射が結果すると解した。かやうにしてボールは理論的に殆んど完全に水素のスペクトルに對する謂はゆるバルマー公式を導き出すことに成功した。
    [#図版(153.png)、第百五十三圖 ニールス・ボール]
     次いでドイツのゾンマーフェルド、シュワルツシルド、エプシュタイン等の諸學者はボールの假定を更に一般的に擴張してそこに理論的基礎を置き、水素原子に關しては、それが通常の状態に於て發するスペクトルばかりでなく、磁塲に於て示すゼーマン效果や、電塲に於て複雜に分岐するシュタルク效果(一九一三年にドイツのシュタルクによつて發見されたもの)までを殆んど遺憾なく説明することができるようになつた。
    [#図版(154.png)、第百五十四圖 水素原子内の電子軌道]
     之等の塲合に原子内部に於ける電子の軌道は一般には單に一つの作用量子の數によつてではなく、二つ若くは三つの量子の各異なつた數によつて規定されるのであつて、我々は是等の量子數を與へることによつて、原子の状態を云ひあらはすことができるのである。從つて原子が光を發する状態に置かれない塲合でも、即ちその通常の状態をも電子に歸せらるべき量子數によつてあらはすことができる。ボールはこの見地から、水素以外の複雜な原子に於ても、之に含まれる多くの電子に對して適當な量子數を假定することによつて、その原子の光學的及び化學的諸性質を極めて巧みに説明した。こゝに原子構造論は一躍して我々の前にすばらしい光明を輝かすに至つた。

       二三 [#読点なしは底本のまま]電子の波動性

     私は最後にもう一つこの方面に於ける最近の發展について附言しておかなければならないことを感ずる。なぜなら、それはたとへ茲に述べようとする電氣學の範圍からは一層遠く離れるとは言へ、以上に説いたそれの發展の繼續に外ならないのであり、且つ之によつて我々は電氣の構成的要素たる電子の本質について始めて明確なる知識を獲得するに至つたと思はれるからである。即ち電子に關してはアブラハムやローレンツの假定によつて之に簡單な形態が與へられ、又原子内部に於てはボール及びゾンマーフェルドの假定によつて之に一定の軌道が歸せられたけれども、さて飜つて是等の假定が果して實驗的に確められる事實であるかどうかを追究して見ると、そこに重大な疑ひがかけられねばならないのであつた。我々は原子から發する光や、電子の質量やエネルギーや電氣量などを實驗的に觀測することはできる。併しその形態や軌道上の位置などに至つては、どんな手段方法を用ひても之を知ることはできないのであつて、しかもそれは我々が觀測に用ひる機械裝置の不完全によるのではなく、全く原理的に觀測方法を缺くために外ならない。さうである限り我々は電子の形態や位置について云ふ代りにそれの量子状態だけを決定するやうな法則をもつて眞實のものとしなければならない。この見地に於て實にドイツのハイゼンベルグの量子力學なるものが起つたのであつた。
    [#行頭あきなしは底本のまま]更にもう一つの見地がフランスのド・ブローイーによつて始まり、ドイツのシュレーディンゲルによつて完成せられた波動力學に於て採擇された。光線の徑路だけを取り扱ふ幾何光學が光の微細な現象を論ずるにはもはや役立たなくなり、波動光學によつて置き換へられなければならなかつたやうに、通常の物體の運動を論ずる力學は原子内部に於ける電子の運動の如きものに對しては、もはやその儘では應用せられないのであつて、そこでは之に代へるに電子並びに輻射エネルギーを共に波動として取り扱ふところの波動力學が成り立つのであると考へられた。電子の量子状態は之によればかような波動群の一種の干渉の結果として現はれるのに外ならない。
    [#図版(155.png)、第百五十五圖 ウエルネル・ハイゼンベルグ]
    [#図版(156.png)、第百五十六圖 ルイ・ド・ブローイー]
     是等の理論は共に始めて一九二五年にあらはれた劃期的のものであつて、兩者が全く異なつた見地に立つやうに見えたにも拘らず、多くの歸結は不思議にも全く相一致し、且つ之によつて量子的現象に關する種々の事實がいかにもよく説明せられたことは我々を驚嘆せしめるに餘りがあつた。今日では兩者の方法が數學的に同一に歸することが證明せられるに至り、從つてその物理的解釋が兩立し得ることが認められてゐる。
    [#図版(157.png)、第百五十七圖 エルウイン・シユレーデインゲル]
    [#図版(158.png)、第百五十八圖 陰極線電子の廻折 金箔による廻折]
     この新しい解釋に相當して、電子が實際に波動の性質を示し得る事はその後一九二七年にデヴィソン及びジャーマーによつて實驗的に證明せられた。即ち電子を結晶體の面で反射させると、X線の反射の場合と全く同樣に結晶を構成する各原子が廻折格子としての役目をなし電子波動を廻折させて、一定の方向に於て強い反射を見る事ができる。又G・Pタムソンは一九二九年に種々の金屬箔を透る電子線の廻折を實驗し、菊池正士は雲母膜を用ひて電子の特殊な廻折現象を見出だした。
    [#図版(159.png)、第百五十九圖 電子の廻折像 1CC瓦斯に依る廻折]

       二四、宇宙線

     電磁波の中で最も波長の短いものはX線及びγ線であるが、更に之等よりも小なる波長を有するものとして、宇宙線なるものの存在が見出だされた。之は一九一二年にオーストリーのヘッスの氣球による觀測によつて地上五粁程の高さに於いて始めて發見されたので、ヘッス線とも、又高處線とも稱せられた。その後コールヘルスター及びミリカンによつて多く研究せられ、それが宇宙空間の何れかの塲處から到達するものとして考へられて、宇宙線の名が與へられた。ミリカンの觀測によれば、その波長は凡そ四種の異なつたものを含んでゐるが、之等はすべての向方[#「向方」は底本のまま]から一樣に地球に到達する點から見て、直接に或る天體から發生するものでなく、宇宙空間の隨處に於いて種々の物質原子がその要素たる陽子及び電子の結合によつて生成せられる際に、その過程として生ずるものであると論じた。
    [#図版(160.png)、第百六十圖 ロバートアンドリウス・ミリカン][#「ロバートアンドリウス」の中黒なしは底本のまま]
     例へばヘリウム原子核は四個の陽子と二個の電子とから成るから、陽子の質量を一、〇〇七二、電子の質量を〇、〇〇〇六として表はすと(酸素原子の質量を一六とする單位を用ひる)、全質量は4.0300となる。然るに實際上は4.0011であるから、0.0289はヘリウムの生成の際に放出せられるエネルギーの質量に相當するものである。依つて之に相當する波長を計算すれば、今日知られたγ線の最短波長に比べて凡そ 1/16 になり、又ミリカンが測定した宇宙線の四種の波長の中の最大のものと略々一致する。ミリカンはその他のものを酸素、珪素及び鐵の原子核の生成によつて生ずるものと推定した。
     之等の宇宙線のエネルギーは凡そ數億ボルトの電位差で加速せられた電子の有するエネルギーに等しい。近時實驗上の設備の進歩により數千萬ボルトの電位差によつて人工的に之に相當するものを發生せしめる研究が盛に行はれてゐる。
    [#図版(161.png)、第百六十一圖 コツククロフトの原子破壞の實驗裝置]
     又ボーテは最近α線によつてベリリウム及びその他の元素の原子を爆撃せしめて、同じく超γ線を得ることに成功した。この場合にベリリウム原子核とα粒子との結合によつて炭素原子核が合成されると同時に超γ線が發生されるのである[#句点なしは底本のまま]
     宇宙線が果して短波長の輻射線であるか、または中性粒子線であるかに就いては尚ほ異論を存してゐるがこれと同時にボーテの爆撃實驗に於て、ベリリウムから發生するものは超γ線がなくて質量1電氣量0なる粒子、即ち中性子(neutron)であるとする説が、イギリスのチャディックによつて提起せられた。しかしこれ等に關する研究は尚ほ多く今後に待たねばならない。

     電氣學及びそれの發展について以上述べた處は極めて大要に過ぎないけれども電氣なるものがそれの應用に於て、亦その理論に於ていかに大切のものであるかは、之によつて推察することができるであらう。要するに電氣の現象は古代に於ては極めて特殊な、或る物質にのみ限つてあらはれるものと解せられてゐたのに反して、今日ではあらゆる物質の最も根本的な不變的な性質として見做されねばならぬようになつた。電氣について知らないでは我々は物質に對する根本的の知識を缺くと云はねばならない。只誤解のないやうに注意すべきことは抑も電氣と云ふ何物かゞ物質以外に存在するのではないと云ふことである。電氣の現象は物質の一つの性質なのである。即ち電子は互ひに電氣力を及ぼし合ふと云ふ關係に於て之等が電氣量を有するとして、我々が云ひあらはすのであつて、それは同時に互ひに萬有引力を及ぼし合ふと云ふ關係に於て是等が質量を有するとするのと同じ意味である。質量を有するのが物質であつて、そこに他に電氣と云ふ何物かゞ加はると考へた昔の解釋は捨てなければならない。

      電氣物語  完



    ※ 効と效、回と囘、場と塲、減と※[#「冫+咸」、u+51CF]の混用は底本のとおり。
    ※ 写真や図版の著作権者は不明。
    底本:『電氣物語』新光社
       1933(昭和8)年3月28日発行
    入力:しだひろし
    校正:
    xxxx年xx月xx日作成
    青空文庫作成ファイル:
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    *後記(工作員スリーパーズ日記)


     宇佐美龍夫『東京地震地図』(新潮選書、1983.7)読了。ちょっと長くなるが目についたところを引用。

    「さて、被服廠跡では四万四〇三〇人が焼死した。これは東京市の死者・行方不明者の七三パーセントに当る。これだけの人々が一ヶ所で亡くなったのである。しかし、この他にも一ヶ所で一〇〇人以上の人が焼死した所が一〇ヶ所ある。浅草の田中小学校では一〇八一人の人が焼死した。その他の九ヶ所は死者数の順に横川橋北詰・錦糸町駅・吉原公園・森下町一〇九番地先・伊予橋際・枕橋際・竪川河岸・丈六原(深川区東大工町)・神田駅である。これによると死者数が集中した所は橋とか広場が多く、人が集る所である。こういう所に人が集り、身動き出来ない所で火に囲まれたためと考えられる。中村清二はこの事実から、こういうことを避けるためには集っている人々が状況を判断して火を消すこと、火が近づいてこないように協力すること、一ヶ所に滞在せずにどこまでも逃げるという意気で行進することが大切であると云っている。そのためには、人々が停りやすいような広場を作るよりは、道路を広くして状況に応じ、どこまでも避難しつづけることが出来るような都市づくりを提起している。現在の東京に当てはめて一考の価値がある意見だと思う。




    *次週予告


    第五巻 第四三号 
    森林と樹木と動物(一)本多静六


    第五巻 第四三号は、
    二〇一三年五月一八日(土)発行予定です。
    定価:200円


    T-Time マガジン 週刊ミルクティー 第五巻 第四二号
    電気物語(五)総索引 石原 純
    発行:二〇一三年五月一一日(土)
    編集:しだひろし / PoorBook G3'99
     http://www33.atwiki.jp/asterisk99/
    出版:*99 出版
     〒994-0024 山形県天童市鎌田2丁目
     アパートメント山口A−202
    販売:DL-MARKET
    ※ T-Timeは(株)ボイジャーの商標・製品です。