石原 純 いしわら じゅん
1881-1947(1881.1.15-1947.1.19)
理論物理学者・歌人。東京生れ。東大卒。東北大教授。相対性理論および古典量子論の研究、自然科学知識の普及啓蒙に努める。著「自然科学概論」、歌集「靉日」など。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。


もくじ 
電気物語(四)石原 純


※ 製作環境
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  (ガイド10プラス)
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*凡例〔現代表記版〕
  • ( ):小書き。 〈 〉:割り注。
  • 〔 〕:底本の編集者もしくは、しだによる注。
  • 一、漢字、かなづかい、漢字の送り、読みは現代表記に改めました。
  •    例、云う  → いう / 言う
  •      処   → ところ / 所
  •      有つ  → 持つ
  •      這入る → 入る
  •      円い  → 丸い
  •      室   → 部屋
  •      大いさ → 大きさ
  •      たれ  → だれ
  •      週期  → 周期
  • 一、同音異義の一部のひらがなを、便宜、漢字に改めました。
  •    例、いった → 行った / 言った
  •      きいた → 聞いた / 効いた
  • 一、英語読みのカタカナ語は一部、一般的な原音読みに改めました。
  •    例、ホーマー  → ホメロス
  •      プトレミー → プトレマイオス
  •      ケプレル  → ケプラー
  • 一、若干の句読点を改めました。適宜、ルビや中黒や感嘆・疑問符・かぎ括弧をおぎないました。一部、改行と行頭の字下げを改めました。
  • 一、漢数字の表記を一部、改めました。
  •    例、七百二戸   → 七〇二戸
  •      二萬六千十一 → 二万六〇一一
  • 一、ひらがなに傍点は、一部カタカナに改めました。
  • 一、カタカナ漢字混用文は、ひらがな漢字混用文に改めました。濁点・半濁点のない仮名は、濁点・半濁点をおぎないました。
  • 一、和暦にはカッコ書きで西暦をおぎないました。年次のみのばあいは単純な置き換えにとどめ、月日のわかるばあいには陰暦・陽暦の補正をおこないました。
  • 一、和歌・俳句・短歌は、音節ごとに半角スペースで句切りました。
  • 一、表や図版キャプションなどの組版は、便宜、改めました。
  • 一、書名・雑誌名・映画などの作品名は『 』、論文・記事名および会話文・強調文は「 」で示しました。
  • 一、「今から○○年前」のような経過年数の表記や、時価金額の表記、郡域・国域など地域の帰属、法人・企業など組織の名称は、底本当時のままにしました。
  • 一、差別的表現・好ましくない表現はそのままとしました。

*尺貫・度量衡の一覧
  • [長さ]
  • 寸 すん  一寸=約3cm。
  • 尺 しゃく 一尺=約30cm。
  • 丈 じょう (1) 一丈=約3m。尺の10倍。(2) 周尺で、約1.7m。成人男子の身長。
  • 丈六 じょうろく 一丈六尺=4.85m。
  • 歩 ぶ   左右の足を一度ずつ前に出した長さ。6尺。
  • 間 けん  一間=約1.8m。6尺。
  • 町 ちょう (「丁」とも書く) 一町=約109m強。60間。
  • 里 り   一里=約4km(36町)。昔は300歩、今の6町。
  • 尋 ひろ (1) (「広(ひろ)」の意)両手を左右にひろげた時の両手先の間の距離。(2) 縄・水深などをはかる長さの単位。一尋は5尺(1.5m)または6尺(1.8m)で、漁業・釣りでは1.5mとしている。
  • 海里・浬 かいり 一海里=1852m。
  • [面積]
  • 坪 つぼ  一坪=約3.3平方m。歩(ぶ)。6尺四方。
  • 歩 ぶ   一歩は普通、曲尺6尺平方で、一坪に同じ。
  • 町 ちょう 一町=10段(約100アール=1ヘクタール)。令制では3600歩、太閤検地以後は3000歩。
  • 町歩 ちょうぶ 田畑や山林の面積を計算するのに町(ちよう)を単位としていう語。一町=一町歩=約1ヘクタール。
  • [体積]
  • 合 ごう  一合=約180立方cm。
  • 升 しょう 一升=約1.8リットル。
  • 斗 と   一斗=約18リットル。
  • [重量]
  • 厘 りん  一厘=37.5ミリグラム。貫の10万分の1。1/100匁。
  • 匁 もんめ 一匁=3.75グラム。貫の1000分の1。
  • 銭 せん  古代から近世まで、貫の1000分の1。文(もん)。
  • 貫 かん  一貫=3.75キログラム。
  • [貨幣]
  • 厘 りん 円の1000分の1。銭の10分の1。
  • 銭 せん 円の100分の1。
  • 文 もん 一文=金貨1/4000両、銀貨0.015匁。元禄一三年(1700)のレート。1/1000貫(貫文)(Wikipedia)
  • 一文銭 いちもんせん 1個1文の価の穴明銭。明治時代、10枚を1銭とした。
  • [ヤード‐ポンド法]
  • インチ  inch 一フィートの12分の1。一インチ=2.54cm。
  • フィート feet 一フィート=12インチ=30.48cm。
  • マイル  mile 一マイル=約1.6km。
  • 平方フィート=929.03cm2
  • 平方インチ=6.4516cm2
  • 平方マイル=2.5900km2 =2.6km2
  • 平方メートル=約1,550.38平方インチ。
  • 平方メートル=約10.764平方フィート。
  • 容積トン=100立方フィート=2.832m3
  • 立方尺=0.02782m3=0.98立方フィート(歴史手帳)
  • [温度]
  • 華氏 かし 水の氷点を32度、沸点を212度とする。
  • カ氏温度F=(9/5)セ氏温度C+32
  • 0 = 32
  • 100 = 212
  • 0 = -17.78
  • 100 = 37.78


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『歴史手帳』(吉川弘文館)『理科年表』(丸善、2012)。


*底本

底本:『電氣物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1429.html

NDC 分類:427(物理学/電磁気学)
http://yozora.kazumi386.org/4/2/ndc427.html





電気物語(四)

理学博士 石原 純

   一九、X線および放射能


 十九世紀の終末から二十世紀のはじめに至る数年間は、じつに電気に関する新現象の発見によって一般科学界に異常な衝動をあたえたところの重要な時期であった。そして、多くの発見のうちのもっとも顕著なものとして、われわれはX線および放射能の現象を何よりも先にあげることができる。
 X線は一八九五年の十一月に、ドイツのヴュルツブルク大学の教授レントゲンによって見い出された。


 彼は最初、レナード線の実験的研究をおこなっていた際に、真空管を黒いボール紙で包んでおいたにかかわらず、その近傍にあった白金青酸バリウムの紙の上にある放射線を感ずることを見い出し、その性質を検して、これが種々の物質を透過することをあきらかにした。紙や木や布類などはこれに関してほとんど透明であり、その他の物質もおよそその密度に比例して透過する。また、よく写真乾板に感ずるので、たとえば手をその上にのせてこの放射線をあてると、骨の形が明瞭に現われる。レントゲンは当時、この不思議な放射線が物理学的にどんなものであるかを、いまだつまびらかにしなかったが、ともかくも事実的に示されたこの放射線に対してエックス線なる名をあたえた。後に発見者の名を借りて、しばしばレントゲン線ともよばれている。
 X線が物質を透過する著しい性質は、ただちに種々の方面に利用せられて多くの実験的価値を発揮した。とくに医学上では、外面から直接に見ることのできない人体機構を、そのままX線によって写真に撮影することができるので、その異常状態や病患びょうかんや、または金属介在物の所在のごときを容易にうかがい知り、これを医学的研究または診療手段にもちいてはなはだしく有効であることが一般に認められた。
 X線を発する真空管は、真空度の非常に高いものでなければならない。ふつうに陰極に対立して斜めに置かれた対陰極と称する金属がそなえられている。この構造から見ても、陰極から発した陰極線が対陰極に衝突してそこからX線が発せられるのであろうということは容易に想像せられる。近ごろでは、アメリカのクーリッジが一九一三年に発明したクーリッジ管というのが一般にもちいられている。これは陰極線電子を利用するかわりに、電流で熱せられた金属から放出する電子を対陰極に衝突させるようにしたものであって、これによって非常に強大なX線が得られる。
 X線も陰極線や陽放射線と同様にまっすぐに進むが、電気や磁気の場によって曲げられない点がこれらと異なっている。また、X線が気体の分子をイオン化することは、一八九六年にイギリスのトムソンによって明らかにされた。感応コイルの両極の距離を加減かげんして、火花がわずかに飛ばない程度にしておいてX線をその間に送ると火花が飛ぶようになるのは、空気がイオン化されて伝導体になるからである。
 X線がはたして何であるかという問題は、その後多くの学者の頭を悩ました。イギリスのストークスやドイツのウィーヘルトなどは、陰極線の電子が対陰極に衝突してそこで急激に止められるために、一種の電磁的脈動がこれから出るのであってそれがX線にほかならないと論じた。またイギリスのブラッグ〔ウィリアム・ヘンリー・ブラッグか〕は、X線を中性微粒子の放射であるとして種々の現象を解釈しようとした。ただし、一九一二年にドイツのラウエ〔マックス・フォン・ラウエか〕がX線の干渉を結晶体において発見し、これが光とまったく同様の電磁波であることを証明するにいたって、はじめてX線の本体が確実に知られるようになった。
 X線の発見に引き続いて、従来いまだかつて知られなかった物質の不思議な性質として、放射能の現象が世をおどろかした。

 一八九六年にフランスのアンリ・ベクレルは、X線が真空管の蛍光を発する場所からおこりはしないかという推察のもとに、蛍光を発する物質として知られていたウラニウム〔ウラン〕塩類の結晶を黒紙につつんだ写真乾板にのせておいたところが、結晶と写真板との間にはさんだ銀の小片が黒い影を写真にしるすることを見い出した。彼は最初、これをウラニウムの蛍光のために発せられるX線によるものと解したが、さらに実験を重ねているうちに、ウラニウムはつねにこのような作用を有することを明らかにし、これを自然的に存在する一種の放射線に帰した。この放射線はその後、発見者の名をとってベクレル線とよばれた。その性質については、種々の薄い物質を透過し、写真板に感じ、また気体をイオン化することX線と同様であった。
 ところが、一八九八年にフランスのキュリー〔ピエール・キュリー〕および同夫人〔マリ・キュリー〕は、ウラニウムのほかにトリウム化合物が同様の性質を持つことを見い出し、さらにピッチブレンドと称する酸化ウラニウムを含む鉱石を研究している際に、これが純粋のウラニウムよりもはるかに強い作用を持つ放射線を出すことを発見し、ついにキュリー夫人の手によって、この鉱石中からそのきわめて著しい放射作用を有する未知の物質だけを化学的に分析抽出することに成功し、微量ではあったが二種の物質を得て、これらをラジウムおよびポロニウムと名づげた。爾後じごこの作用は放射能と称せられて、種々の新奇な事実の発見にみちびいた。放射性物質がつねに原子量の大きな元素および化合物にかぎられるのは、もっとも注目すべき特徴である。

 ベクレル線については、その後イギリスのラザフォードの研究によって、これが三種の異なった放射線からなりたっていることが見い出された。三つの放射線への分析は、主として物質透過の程度の相違によって可能にされるのであって、第一にαアルファ線と名づげられたものは厚さ〇.〇五ミリメートルほどのアルミニウム箔によってすでにまったく吸収されてしまうものであり、つぎにβベーター線と名づけられたものは数ミリメートルの厚さのアルミニウム箔を十分に透過してその後方に達することのできる部分である。また第三にγガンマ線と称せられるものは透過能最大の部分であって、透過の程度はX線をも超え、アルミニウム板の厚さが五〇センチメートルほどに達しはじめて吸収されつくすにいたる。
 これらの放射線がどんなものであるかに関しては、一八九九年から一九〇〇年にわたって、ギーゼルやステファン・マイヤーおよびシュワイドラーが、まずβ線が磁場によって陰極線と同様に曲げられるのを見い出したこと、ついで一九〇三年にラザフォードが、α線の電場および磁場による屈曲を実験し得たことから漸次ぜんじあきらかになった。すなわち、β線は陰電気をおびた粒子からなり、かつ、その電気量と質量との割合においてもまったく陰極線電子と同一であることが知られ、また、α線はカナル線と同様に陽電気をおびた粒子からなるけれども、その電気量と質量との割合は水素陽イオンの半分であることが見い出された。
 これによってβ線は、電子そのものにほかならないことが容易に結論されたけれども、さらにα線が何であるかについては立ち入った研究を必要としたのであった。α線は、硫化亜鉛のような蛍光性の物質を塗った蛍光板に衝突してこれをよく光らせる。スピンタリスコープというのはそのありさまを虫メガネでのぞくようにした装置であって、これを見ると無数の閃光せんこう燦爛さんらんとして星の輝きを見るようである。ラザフォードおよびガイガー〔ハンス・ガイガー〕は一九〇八年にさらに、α粒子の数を電気的に記録し得るような装置(第百三十八図)をつくった。半球形の金属器の頂点Bに小さな穴があって、雲母うんもの薄い板をはってある。これからα線を入れると内部の気体をイオン化し、電極Aにつないだ電気計に各粒子ごとに衝動を感ぜしめる。それゆえ電気計の針の動きを一定の速さで動かした写真フィルムの上に撮影すると、第百三十九図のような記録を得るから、これによって一分間にどれほどの数のα粒子が到着するかをあきらかにかぞえることができる。ラザフォードらは、一方でα線が直接に電気計にあたえた電気量を測って、個々のα粒子の電気量が水素イオンのそれの二倍に等しいことを見い出した。この事実と、上に述べたとおり電気量と質量との比が水素イオンの半分であるという事実とから、α粒子の質量は水素イオンの四倍でなければならないことが当然結果するのであって、ヘリウムの原子量がちょうど水素の四倍あることを考えあわせて、α粒子はヘリウム原子が二重にイオン化したものであることが証された。ところで、実際に放射性物質からヘリウムが発生するということは、すでに一九〇三年にイギリスの化学者ラムゼー〔ウィリアム・ラムゼー〕およびソッディーによって化学的に検出せられ、そのスペクトルによって完全に確かめられた。
 α線およびβ線と異なって、γ線はすこしも磁場の影響を受けないものであるから、あきらかに帯電粒子ではなく、むしろ種々の点でX線に似ていることが漸次ぜんじ知られた。その本質についてはX線とともに後にラウエの発見によってはじめて示され、それが同じく電磁波の一種にほかならないことが明らかにされた。
 キュリー夫妻はラジウムを発見してからまもなく、ラジウムといっしょに置かれた物体が放射性を感応して、それ自身放射能を有するようになることを見い出した。この現象はラザフォードによってトリウムのばあいに詳細に研究せられ、このばあいに感応する放射能は、トリウムからたえず発生している放射性の気体であるところのトリウム・エマナチオンなるものに帰せられるという驚くべき事実が知られた。そればかりでなく、このエマナチオンはトリウムと分離するとすぐ消滅してしまって、そのかわりにエマナチオンの接触していたどの物体の表面にも、肉眼では見えないが非常に細かい放射性の沈殿物を生ずることがわかった。なおこの後ですぐドイツのドルンは、ラジウムからもまったく同様の性質のエマナチオンを見い出した。

 一九〇二年に、ラザフォードおよびソッディーはこれらの事実にもとづいて、放射性物質の変脱理論を提出し、物質元素に関する従来の化学上の見解に対してまったく新しい変革をあたえた。すなわち放射性物質の原子は、放射線を放出するとともに異なった原子に崩壊変脱してゆくものであるというのである。この理論は実際に、かような変脱によって生成せられてゆく多くの物質が実験的に確定せられ、その原子量や化学的性質や光のスペクトルなどがあきらかにせられるにしたがって漸次ぜんじ、動かすことのできないものとなった。今日われわれは変脱系列として、ウラニウム・ラジウム系列、トリウム系列、アクチニウム系列の三つを知り、それらの中にそれぞれ十数個の元素を見い出すにいたった。そして変脱の最後において、これらの系列のいずれもがなまりを生ずることは一つの注目すべき事実である。
 変脱の過程は、おのおのの原子が一個のα粒子もしくは一個のβ粒子を放出することによっておこるのであるが、そのうちα線放出によるものでは原子は原子量四を減じ、β線放出によるものでは原子量を増減しない。これはα粒子が原子量四なるヘリウム・イオンであり、β粒子が質量の非常に小さい電子であることを考えるならば、当然の結果と見ることができる。またこれらの変脱はつねに一定の時間内に一定の割合でおこるのであって、その遅速は一様でなく、その原子の半数が崩壊するに要する時間すなわち半減時間なるものは、たとえばウラニウムでは数十億年〔四五億年〕におよび、ラジウムでは一七〇〇年〔一六〇〇年〕、ラジウム・エマナチオンでは四日であり、その他わずかに数分もしくは数秒にたらないものさえある。このように長短の差はあるが、原子がそれぞれの寿命を持つことはじつに驚くべき事実といわなければならない。

 α線やβ線の速さは非常に大きい。前者は光の速さの五ないし七パーセント、後者は八〇ないし九九パーセントにも達する。一方では、前者の質量は後者の数千倍も大きいから、両者とも多大のエネルギーを放射されることがわかる。それゆえこれらの放射線が吸収されると、そこにはかなりの多大の熱量が生ずる。一グラムのラジウムは、それ自身からの数段の変脱のために一時間におよそ一三二カロリーの熱を発生することが計算される。だからラジウムと対量の水があるなら、前者は後者をわずかに四分の三時間ほどで氷点から沸騰点まで熱することができるわけである。太陽や地球内部にもし少量の放射性物質が含まれているとすれば、すでにその現在の熱を供給するにたりるのであろうこともしばしば想像された。また地球上の多くの岩石中には、ウラニウムとトリウムとがほとんど同様の割合で含まれていることが見い出されている。この事実は、最初地球が混沌たるありさまにあった時代に、これらの岩石の生成起原の同一であることを物語るものであって、これから地球の年齢を推算することができる。また種々の岩石中には、放射能現象のために現われるハロと称する円形のきわめて小さな顕微鏡的斑点はんてんが見えることがある(第百四十一図)。これは、以前には微生物と考えられたこともあるが、放射性物質が含有せられてこれから発するα線のために、ある化学的変化がおこされるのである。写真乾板の上に放射性物質の微量をおくと、その周囲に発するα粒子のために上述のハロと同様な現象を呈することは、第百四十二図に示すとおりである。この写真の上でα粒子の経過した痕跡があきらかにわかる。

   二〇、光電気効果、リチャードソン効果


 よくみがいた金属の裏面に、とくに紫外線に富んだ光をあてると、金属が陽に帯電するようになることは、これを電気計につないで実験的に知ることができる。この現象は、一八八七年にはじめてハインリッヒ・ヘルツによって発見せられ、ついで翌年ハルワックス〔ハルバクスか〕によって確かめられたものである。その後、一八九九年にレナードは真空中でこの実験をおこない、金属の面から陰極線におけるとまったく同一の電子が放出することを示した。これを光電気効果という。金属面を陰に帯電すれば電子の速さが増し、陽に帯電すればこれに反して電子の速さを減じ、ついには表面から飛び出ないようになる。この事実は、金属内部に自由に遊動する電子が存在しており、これが紫外線にはたらかれて放出のエネルギーを獲得するのであると考えられる。
 金属内部にかような電子の存在することは、単にこれを熱するときに電子の放出する事実からも証明される。金属が白熱されたときに、その近傍の空気が電気に対して絶縁性を失うという事実が十八世紀時代から知られていたが、一八八〇年にエルスターおよびガイテルは針金に電流を通じてこれを熱し、一定の距離をへだてておかれた電極の電位の変化を測定した。この現象はその後多くの人々によって研究せられ、金属から放出される電子のために空気がイオン化せられるものであることが確かめられた。周囲の空気が取り除かれると電子の放射が著しくなる。この現象に関しては主として、イギリスのリチャードソンが種々の研究をおこなったので、これをリチャードソン効果と名づける。また、このばあいに放出される電子をしばしば、熱電子ねつでんし(または熱イオン)として言いあらわす。
 熱電子の現象は近時、種々の重要な応用を見るにいたった。前節に述べたX線を発するクーリッジ管もそのひとつであるが、電波の検波器ならびに発生器としてもちいられる真空球〔真空管〕の発明は、無線電話をして今日の実用に至らしめたもっとも大切の応用である。
 この真空球は、一九〇四年にはじめてフレミングによって作られたもので、空気をぬいたガラス球の中に繊条せんじょう(フィラメント)とこれに対立する金属板プレートとをそなえている。繊条を電流で熱すると、これから発する熱電子の流れは金属板の電位が繊条よりも高いか低いかによって板の方向に向かい、または止められる。したがって、金属板の電位が電波から生ずる高周波交流によって交互に変化するばあいに、ある基電位より高くなれば熱電子電流を通じ、低くなればこれを中絶するように装置することができるのであって、これによって真空球をはさんだ電流回路においては電波に感応して、しかも一方のみの電流を得ること、ちょうど鉱石検波器のばあいと同様になる。
 真空球の金属板を円柱状にし、これと繊条との中間にグリッドと称する螺旋らせん状または網目状の導体を入れたものを三極熱電子管と名づける。(これに対して上述のフレミングの真空球を二極電子管ともいう)。グリッドの役目は、その電位を繊条よりもわずかに高くするか低くするかによって、繊条から金属板に流れる熱電子電流を増加させるかまたは減少せしめるためである。この作用はきわめて鋭敏であって、グリッドの非常にわずかの変化が電流のかなり大きな変化を結果することができるから、単に検波作用ばかりでなく、振動を増大せしめるための増幅装置としても適当である。また三極管を変圧器に接続すれば、金属板における電流のある振動的変化が一次および二次コイルをへてグリッドに感応するから、その電圧の変化に相応そうおうして熱電子電流も変化し、これがふたたび同周期の変化を金属板におぎないあたえ、よって最初にそこにおこったものを非減衰振動とすることができる。これが無線電話の送話装置としても三極管の適切なる所以ゆえんである。

   二一、電気素量、電子の性質


 電子が以上述べたような種々の現象において見い出されるにしたがい、これがはたして物質の根本的要素としてみなさるべきものであるか、また実際に、どんなばあいにも単一的の電気量をもって現われるかというような重要な問題がまず確実に決せられなければならなかった。ところがこれがためには、そもそもわれわれの取り扱う電気量なるものに、そういう性質が存在するのであろうかという疑問がおこされなければならない。言いかえれば、すべての電気的現象が電子のごとき一定の要素によって生ずるものであるならば、電気量として測られるものは常に電子の有する電気量の整数倍になっていなければならないはずであるから、はたしてそういう事実が存在するかどうかという疑問である。
 事実上の確証が見い出されるよりもずっと以前に、ただし、それは一つの自然的な思想としても現われたことがないではなかった。すなわち電気に対する最初の理論として、デュ・フェイが電気を二種の流体からなると説いたのに対して、フランクリン〔ベンジャミン・フランクリン〕が一種流体説をとなえたときに、彼はこの電気流体が粒子から成り立っていて導体の中を自由に通りぬけるように考えたのであった。けれども、当時のこれらの説はもとより単なる想像をいいあらわしたのにすぎなかったので、なんらの事実的根拠にももとづいたものではなかった。
 だが、われわれの科学はどこまでも事実によらなければならない。しかも事実は、意外なところに微妙な関係を隠している。電気量に分割されない一定の単位があるということも、実際偶然に、ファラデーが一八三三年に発見した電気分解の法則の中にすでにめられてあったのである。前に説明したとおりこの法則は、すべての物質の一化学当量を析出するに要する電気量が一定であって、ちょうど 9,649×101 〔この式、底本のまま〕に等しいことを要求するのである。ところで電気分解の現象は、物質のイオンが電気を運んでそれぞれ両極に達するためにおこるのであるから、上の電気量はすなわち一化学当量に相当するイオンの有するものでなければならない。一化学当量というのは、物質の一グラム中に含まれた原子の数を原子価で除したものである。それゆえこれは、すべての一価原子が電解質中でイオンとなるとき一定の電気量を持つことを示すのであり、また二価、三価の原子のばあいにはそれぞれ二倍、三倍などの電気量を持つことを意味するのである。つまり、ここで考えられている一定の電気量は、少なくとも電気分解の現象において常に単位的に現われるものであって、今日われわれは、これを電気でんき素量そりょうとして呼んでいる。
 この電気素量の値を正確に見い出すためには、原子またはイオンの数を精密に知らなければならない。ただしこれに対しては種々の困難があったけれども、そのだいたいの程度を知ることができさえすれば電気素量の値もほぼ計算することができるわけである。かような計算ははじめてジョンストン・ストーニー(一八七四年)によって試みられた。その後、電子の発見とともに電気素量なるものもきわめて重要な意味を持つようになったので、種々のばあいに現われる個々のイオンの電気量を直接に測って、電気素量の値を見い出そうとする多くの実験がくわだてられた。イギリスのトムソン、タウンゼンド、ウィルソンなどはX線のために生ずる気体イオンについてこれを測定したが、同様の目的でもっとも精密におこなわれた実験は、一九〇九年以後、ひきつづいてアメリカのミリカン〔ロバート・ミリカン〕によってなされたものであった。彼は、帯電せる微小な超顕微鏡的油粒を電場に持ち来たし、電気力によってこれを上下に動かすとともに、重力の作用や空気の抵抗をも考慮に入れ、その運動の速さを観測して、これから油粒の電気量を計算し、実際につねに電気素量の整数倍に等しいことを証明した。ミリカンが一九一三年ならびに一九一六年にこの方法で見い出した電気素量の値は、e=4,774×10-10 静電単位である。
 種々のばあいに現われる電子は、つねにこの電気素量に等しいだけの陰電気を持っていると考えられている。また電気量とともに、それが一定の質量を有していることも考えられる。この質量を見い出すためには、運動している電子にある力を作用させて運動の変化を見ればよい。たとえば、陰極線粒子がまっすぐに運動しているときこれに垂直に電気の場を加えれば、運動経路は場の方向と反対にまげられるし、また電場のかわりに磁場をはたらかせると、場と垂直に湾曲させられる。電場や磁場によって電子にはたらく力は電気量eに比例するものであり、一方で径路の湾曲の度は電子の惰性だせい的質量mに逆比例するから、実際に湾曲のための軌道偏倚へんいを測定した結果から、われわれは電気量と質量との比 e/m を見い出すことができるわけである。この実験は一八九七年にはじめてトムソンによっておこなわれた。その後多くの人々が同様の方法で、陰極線のほかに放射性物質から発するβ線や、光電気効果およびリチャードソン効果などにおける放出電子についてこれを測定し、すべてこれらのばあいに e/m が同一の値を有することを証明した。今日知られているそれのもっとも精密な値は、静電単位およびグラムの単位をもちいて e/m =5,30×1017 である。したがって前に掲げた電気素量の値をこれに入れると、電子の質量は m=9,0×1028 グラムとして見い出される。これを水素原子の質量 mH=1,650×10-24 グラムにくらべれば、わずかに 1/1832 にすぎない。放射性物質がβ線を放出してもその原子量を変えないのは、これらの数値を見て当然であることがわかるであろう。
 電子の性質と関連して、一般に帯電粒子の運動に関する理論は、最初イギリスのトムソン(一八八一年)およびヘヴィサイド〔オリヴァー・ヘヴィサイドか〕(一八八九年)らによって発展された。そのばあいに、帯電体には通常の力学にしたがう一定の質量が仮定されたけれども、これに電気力がはたらくに際しては、電気を有するための一種の惰性だせいあいともなわねばならないことがはじめて明らかに主張せられた。この電気の惰性は、電気の運動にともなってその周囲におこされる磁場をいっしょに運ばねばならないことによるのであって、ちょうど、導体内部を流れる電流に対する自己感応の現象はこれと同一のものであると解せられる。かような惰性によって帯電体に帰せられねばならない一種の質量を、仮現的かげんてきまたは電磁的質量と名づけたのであった。電子の研究がさかんになるにしたがい、この問題は多大の理論的興味を惹起じゃっきし、とくに理論上からはこの電磁的質量が運動速度とともに著しく増さねばならないことが結論されたために、はたして実際に電子のばあいにこの事実が見い出されるかどうか、さらにまた、電子の全質量のうちで力学的に一定であると考えられる質量と、運動によって変化する電磁的質量とがどんな割合で存在しているかというようなことが、根本的に重要な問題として提出された。
 この問題を精密に理論的に解いて、かつ実験と比較するがためには、電子の形態について立ち入った仮定を必要とするのであった。そこでドイツのアブラハム〔マックス・アブラハム〕はもっとも簡単な合理的仮定として、電子を剛体的球体であるとし、かつその表面または実質全体に電気が一様に分布せられているとして、理論的帰結を導き出した。

 この結果はだいたいにおいて、一九〇二年にドイツのカウフマンの実験によって確かめられ、少なくとも電子の質量が速度とともに変わるということは疑いもない事実として認められるようになった。そればかりでなくアブラハムはさらに、実験との詳細の比較によって電子の全質量はすべて電磁的でなければならないということを結論して、当時の学界に異常なる衝動をあたえた。ただ、電子の形態に関する仮定としてはアブラハムの採用したところのものは一見もっとも簡単のようではあったが、別に運動物体の光学上の研究からしてこれと異なった仮定の必要が論ぜられるにいたった。それはすなわちオランダのローレンツ〔ヘンドリック・ローレンツ〕の提議したものであって、彼は、運動せる地球上における光の速度に関する実験がすこしも地球の運動の影響を受けないという事実から、これを矛盾なしに説明するために、すべての物体が運動の方向に短縮するという仮定をみちびき、したがって電子もまたこの性質を所有しなければならないとなした。
 この仮定は、その後(一九〇五年)アインシュタインによって有名な相対性理論が同じ実験的事実の上に基礎づけられるにおよび、その当然の帰結として論ぜられたのであって、それ以前に(一九〇四年)ドイツのブッヘレル〔ブーヘラーか〕が同様の短縮と同時に、これと垂直の方向への膨張を仮定して電子に一定体積を保たしめようとしたのは、かえって理論的根拠を欠くといわなければならなかった。そしてこれらの研究の一方に、電子の質量の速度による変化に対する実験はさらにカウフマン(一九〇六年)によって精密にくり返されたほかに、ベステルマイヤー(一九〇七年)・ブッヘレル(一九〇八年)・フプカ(一九一〇年)・ノイマン〔フランツ・エルンスト・ノイマンか〕(一九一四年)などによってあいついで実験せられ、そのほとんどすべての結果はローレンツおよびアインシュタインの理論と一致することを示した。
 しかしながら電子の質量のかような変化は、それがそもそも電磁的起原のものであるための特殊な性質ではなくて、相対性理論によれば、すべての物体の質量がそうでなければならないのであった。すなわち一般に質量およびエネルギーは速度とともに増し、光速度にいたって常に無限大に達するのである。ただ、通常の力学において取り扱うような速さの程度ではその変化があまりに小さいので、われわれは従来、力学的質量を一定とみなしていたにすぎない。そして陰極線における電子のような非常に速いものにおいてのみ質量の変化が実験せられたというまでである。なお理論にしたがえば、一般に力が運動の方向にはたらくか、またはこれと垂直の方向にはたらくかによって惰性だせいを異にするので、これらに相当する質量をそれぞれ縦質量および横質量と名づける。速度ゼロの極限においてはこれら両質量はもちろん一致した値を取るから、これを静質量〔静止質量か〕と名づける。

   二二、物質の電子論およびその発展


 電子の発見は、物質がその最後の要素として電子を含んでいることを想像せしめ、ついに物質の電子的構成を仮定して種々の現象を説明しようとする理論の発展を促がした。これに関して、最初にもっとも多く貢献した学者はじつにオランダのローレンツであった。一八九五年に発表した彼の論文には、運動体の光学とともに今日の電子論の基礎をなす重要な研究を網羅もうらしている。
 まず第一に彼は、金属が電気の導体である所以ゆえんを、原子間の空隙くうげきを自由に遊動することのできる自由電子なるものの存在に帰した。自由電子の運動はまったく気体分子の運動と同様であって、ただ物質原子と衝突してその運動方向を変える。その平均の運動エネルギーは、気体分子のばあいと同じく温度によって一定する。もし外部から電気力がはたらくならば、全体として電気力の反対の方向に陰電気を有する電子がより多数に流動するから、これが電流現象として現われる。電流の伝導度は電子の数や遊動の自由さによって定まるのである。ローレンツはこの仮定にもとづいて物質の電気抵抗が温度とともに変わることや、これが熱伝導度〔熱伝導率〕と一定の関係を保つことや、異なった金属が接触すると起電力の現われることや、熱電気の現象などを説明した。

 ローレンツはつぎに、物質原子内に一定の平衡位置に結びつけられた束縛そくばく電子の存在することを仮定し、種々の現象を説明した。束縛電子はその平衡位置からはずれると、距離に比例する力すなわち準弾性的の力によって旧の位置にもどらせられる性質を持っていると考えられる。もし外部から電気力がはたらくならば、これと準弾性的の力とつりあう位置まで電子が移動するから、これによって絶縁体においても静電気感応がおこり、またそれが電媒質でんばいしつ〔誘電体〕として作用するのである。光が物質にあたると、光波の振動電気力のためにこの束縛電子も平衡位置のまわりに振動させられる。これが光を吸収したり、または分散をおこしたりする原因である。逆にこの電子が自分で振動をおこすならば、物質が光源となって光を輻射ふくしゃする。おのおのの物質から出る光は物質に固有な一定のスペクトル線を示すことはよく知られたところであるが、これを磁場におくと、スペクトル線が二本もしくは三本に分岐ぶんきするという現象が、ちょうど一八九八年にオランダのゼーマンによって発見された。ローレンツはその発見後ただちにこれに対して上の理論を応用し、実験的事実を完全に説明し得たばかりでなく、電子が実際に陰電気を有することを証明し、また数量的に電気量と質量との比を計算して前節に述べた結果とまったく一致することをも示した。
 第三にローレンツは、物体の磁気現象を原子内に円形軌道を描いて運動する電子の存在するのに帰した。これは以前にアンペールの仮定した分子電流なるものとほぼ同様の効果を持つものであって、このために原子のまわりに磁場のおこることが容易に解せられる。ただ、おのおのの原子内における磁場の方向が種々異なっているから、通常の物質では全体として磁性を示さないけれども、鉄のごとき強磁性体と称せられるものでは、原子の配列上これらが一定の方向に向けられ得るためにその性質を呈するのであると解せられる。なお、この電子の円形運動そのものは円形の針金を流れる電流と異なって、じつは反磁性はんじせいを示すものであり、多くの物質においてこれが実際に現われることは後に、フランスのランジュバン〔ポール・ランジュバン〕によって証明された。
 ローレンツの後に電子論は多くの人々によって発展されたが、そのうちドイツのドルーデ〔パウル・ドルーデか〕はこれに対し著しい貢献をなした。ただし近時にいたって、いわゆる量子の発見とともに原子構造の理論がまったく新しい見地に立つ必要に迫られたので、上述のローレンツおよびドルーデの理論も多少の変更を余儀なくされるようになった。
 量子論に関しては、もはや電気学の範囲を超えるから、ここではその詳細を述べていられない。ただ、それがどこからおこったかについていえば、黒体輻射ふくしゃの法則が熱力学の理論と実験的事実とにもとづいて確立されるにあたって、エネルギーの輻射ならびに吸収が連続的におこなわれるとしたのでは、いかにしても事実との矛盾を免がれないことが見い出され、一九〇〇年にはじめてドイツのプランク〔マックス・プランク〕によって、ある一定の単位量の整数倍によってのみ現われることが仮定せられ、これにエネルギー量子なる名を与えるにいたったのである。その後かような量子の存在は、光の種々の現象や原子熱やその他の物質の諸性質において続々と確かめられ、とくに低温度における状態はこの仮定なしにはほとんど満足に解せられないように見えた。この間に量子の意味は、エネルギーに対してよりもより根本的にはむしろ作用量に帰せらるべきことがあきらかにせられ、ついで一九一三年にデンマークのボーア〔ニールス・ボーア〕によってはじめて原子構造論に応用せられて、一つの輝かしい結果に到達したのであった。それは水素原子のスペクトルに関する問題であるが、彼はまずイギリスのラザフォードらの考察にしたがって、水素原子は一つの原子核の周囲に一個の電子が周回するものであると仮定し、周回運動のかく運動量が一定の作用量の整数倍に等しいような軌道だけを定常的にゆるされるものとし、そして電子がこれらの軌道間に移転をおこなうにあたって、スペクトル線の輻射ふくしゃが結果すると解した。かようにしてボーアは理論的にほとんど完全に、水素のスペクトルに対するいわゆるバルマー公式を導き出すことに成功した。
 ついでドイツのゾンマーフェルド、シュワルツシルド〔カール・シュヴァルツシルトか〕、エプシュタインらの諸学者は、ボーアの仮定をさらに一般的に拡張してそこに理論的基礎をおき、水素原子に関してはそれが通常の状態において発するスペクトルばかりでなく、磁場において示すゼーマン効果や、電場において複雑に分岐するシュタルク効果(一九一三年にドイツのシュタルク〔ヨハネス・シュタルク〕によって発見されたもの)までをほとんど遺憾いかんなく説明することができるようになった。
 これらのばあいに原子内部における電子の軌道は、一般には単に一つの作用量子の数によってではなく、二つもしくは三つの量子の各異なった数によって規定されるのであって、われわれはこれらの量子数を与えることによって、原子の状態を言いあらわすことができるのである。したがって、原子が光を発する状態におかれないばあいでも、すなわちその通常の状態をも電子に帰せらるべき量子数によって現わすことができる。ボーアはこの見地から、水素以外の複雑な原子においても、これに含まれる多くの電子に対して適当な量子数を仮定することによって、その原子の光学的および化学的諸性質をきわめて巧みに説明した。ここに原子構造論は一躍してわれわれの前にすばらしい光明を輝かすにいたった。

   二三、電子の波動性


 わたしは最後にもう一つ、この方面における最近の発展について付言しておかなければならないことを感ずる。なぜなら、それはたとえここに述べようとする電気学の範囲からはいっそう遠く離れるとはいえ、以上に説いたそれの発展の継続にほかならないのであり、かつこれによってわれわれは、電気の構成的要素たる電子の本質についてはじめて明確なる知識を獲得するにいたったと思われるからである。すなわち、電子に関してはアブラハムやローレンツの仮定によってこれに簡単な形態が与えられ、また原子内部においてはボーアおよびゾンマーフェルドの仮定によってこれに一定の軌道が帰せられたけれども、さて、ひるがえってこれらの仮定がはたして実験的に確かめられる事実であるかどうかを追究してみると、そこに重大な疑いがかけられねばならないのであった。われわれは原子から発する光や、電子の質量やエネルギーや電気量などを実験的に観測することはできる。ただし、その形態や軌道上の位置などにいたっては、どんな手段方法をもちいてもこれを知ることはできないのであって、しかもそれはわれわれが観測にもちいる機械装置の不完全によるのではなく、まったく原理的に観測方法を欠くためにほかならない。そうであるかぎりわれわれは、電子の形態や位置についていうかわりに、それの量子状態だけを決定するような法則をもって真実のものとしなければならない。この見地において、じつにドイツのハイゼンベルク〔ヴェルナー・ハイゼンベルク〕の量子力学なるものがおこったのであった。
 さらにもう一つの見地がフランスのド・ブローイー〔ルイ・ド・ブロイ〕によって始まり、ドイツのシュレーディンガーによって完成せられた波動はどう力学りきがくにおいて採択された。光線の径路だけを取り扱う幾何きか光学こうがくが光の微細な現象を論ずるにはもはや役立たなくなり、波動光学によっておきかえられなければならなかったように、通常の物体の運動を論ずる力学は原子内部における電子の運動のごときものに対しては、もはやそのままでは応用せられないのであって、そこではこれにえるに電子ならびに輻射ふくしゃエネルギーをともに波動として取り扱うところの波動力学がなりたつのであると考えられた。電子の量子状態はこれによれば、かような波動群の一種の干渉の結果として現われるのにほかならない。


 これらの理論はともにはじめて一九二五年に現われた画期的のものであって、両者がまったく異なった見地に立つように見えたにもかかわらず、多くの帰結は不思議にもまったく相一致し、かつこれによって量子的現象に関する種々の事実がいかにもよく説明せられたことは、われわれを驚嘆せしめるにあまりがあった。今日では両者の方法が数学的に同一に帰することが証明せられるにいたり、したがってその物理的解釈が両立しうることが認められている。

 この新しい解釈に相当して、電子が実際に波動の性質を示し得ることは、その後一九二七年にデヴィソン〔クリントン・ディヴィソン〕およびジャーマーによって実験的に証明せられた。すなわち電子を結晶体の面で反射させると、X線の反射のばあいとまったく同様に結晶を構成する各原子が回折かいせつ格子こうしとしての役目をなし、電子波動を回折させて、一定の方向において強い反射を見ることができる。また G. P. トムソン〔ジョージ・パジェット・トムソン〕は一九二九年に、種々の金属箔をとおる電子線の回折を実験し、菊池きくち正士せいし雲母膜うんもまくをもちいて電子の特殊な回折現象を見い出した。

   二四、宇宙線


 電磁波の中でもっとも波長の短いものはX線およびγ線であるが、さらにこれらよりも小なる波長を有するものとして、宇宙線なるものの存在が見い出された。これは一九一二年にオーストリアのヘッス〔ヴィクトール・フランツ・ヘス〕の気球による観測によって地上五キロメートルほどの高さにおいてはじめて発見されたので、ヘッス線とも、また高所線とも称せられた。その後コールヘルスターおよびミリカン〔ロバート・ミリカン〕によって多く研究せられ、それが宇宙空間のいずれかの場所から到達するものとして考えられて、宇宙線の名があたえられた。ミリカンの観測によれば、その波長はおよそ四種の異なったものを含んでいるが、これらはすべての向方から一様に地球に到達する点からみて、直接にある天体から発生するものでなく、宇宙空間の随所において種々の物質原子がその要素たる陽子および電子の結合によって生成せられる際に、その過程として生ずるものであると論じた。
 たとえばヘリウム原子核は四個の陽子と二個の電子とからなるから、陽子の質量を 1.0072、電子の質量を 0.0006 としてあらわすと(酸素原子の質量を一六とする単位をもちいる)、全質量は4.0300となる。しかるに実際上は4.0011であるから、0.0289はヘリウムの生成のさいに放出せられるエネルギーの質量に相当するものである。よってこれに相当する波長を計算すれば、今日知られたγ線の最短波長にくらべておよそ 1/16 になり、また、ミリカンが測定した宇宙線の四種の波長の中の最大のものとほぼ一致する。ミリカンはその他のものを酸素、珪素および鉄の原子核の生成によって生ずるものと推定した。
 これらの宇宙線のエネルギーは、およそ数億ボルトの電位差で加速せられた電子の有するエネルギーに等しい。近時、実験上の設備の進歩により数千万ボルトの電位差によって人工的にこれに相当するものを発生せしめる研究がさかんにおこなわれている。

 またボーテ〔ワルサー・ボーテ〕は最近、α線によってベリリウムおよびその他の元素の原子を爆撃せしめて、同じく超γ線を得ることに成功した。このばあいに、ベリリウム原子核とα粒子との結合によって炭素原子核が合成されると同時に、超γ線が発生されるのである。
 宇宙線がはたして短波長の輻射線ふくしゃせんであるか、または中性粒子線〔中性子線か〕であるかについてはなお異論を存しているが、これと同時にボーテの爆撃実験において、ベリリウムから発生するものは超γ線がなくて質量一・電気量ゼロなる粒子、すなわち中性子(neutron)であるとする説が、イギリスのチャディックによって提起せられた。しかし、これらに関する研究はなお多く今後に待たねばならない。

 電気学および、それの発展について以上述べたところはきわめて大要にすぎないけれども、電気なるものがそれの応用において、またその理論においていかに大切のものであるかは、これによって推察することができるであろう。要するに電気の現象は古代においてはきわめて特殊な、ある物質にのみかぎって現われるものと解せられていたのに反して、今日ではあらゆる物質のもっとも根本的な不変的な性質としてみなされねばならぬようになった。電気について知らないでは、われわれは物質に対する根本的の知識を欠くといわねばならない。ただ誤解のないように注意すべきことは、そもそも電気という何物かが物質以外に存在するのではないということである。電気の現象は、物質の一つの性質なのである。すなわち、電子はたがいに電気力をおよぼしあうという関係においてこれらが電気量を有するとして、われわれが言いあらわすのであって、それは同時にたがいに万有引力をおよぼしあうという関係において、これらが質量を有するとするのと同じ意味である。質量を有するのが物質であって、そこに、他に電気という何物かが加わると考えたむかしの解釈は捨てなければならない。

  電気物語  完



底本:『電気物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
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電氣物語(四)

石原純

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(例)X《エツキス》線

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*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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   一九、X線及び放射能

 十九世紀の終末から二十世紀の始に至る數年間は實に電氣に關する新現象の發見によつて一般科學界に異常な衝動を與へたところの重要な時期であつた。そして多くの發見のうちの最も顯著なものとして、我々はX線及び放射能の現象を何よりも先に擧げることができる。
[#図版(131.png)、第百三十一圖 ウイルヘルム・コンラード・レントゲン]
[#図版(132.png)、第百三十二圖 X線で撮つた寫眞(ケルウイン卿の手)]
 X線は一八九五年の十一月にドイツのヴュルツブルヒ大學の教授レントゲンによつて見出だされた。
 彼は最初レナード線の實驗的研究を行つてゐた際に、眞空管を黒いボール紙で包んでおいたに拘はらず、その近傍にあつた白金青酸バリウムの紙の上に或る放射線を感ずることを見出だし、その性質を檢して之が種々の物質を透過することを明らかにした。紙や木や布類などは之に關して殆んど透明であり、その他の物質も凡そその密度に比例して透過する。又能く寫眞乾板に感ずるので、例へば手をその上に載せてこの放射線をあてると骨の形が明瞭に現はれる。レントゲンは當時この不思議な放射線が物理學的にどんなものであるかを未だ審らかにしなかつたが、ともかくも事實的に示されたこの放射線に對してX《エツキス》線なる名を與へた。後に發見者の名を借りて屡々レントゲン線とも呼ばれてゐる。
[#図版(133.png)、第百三十三圖 普通のX線管]
 X線が物質を透過する著しい性質は直ちに種々の方面に利用せられて多くの實驗的價値を發揮した。特に醫學上では外面から直接に見ることのできない人體機構を、その儘X線によつて寫眞に撮影することができるので、その異常状態や病患や又は金屬介在物の所在の如きを容易に覗ひ知り、之を醫學的研究又は診療手段に用ひて甚だしく有效であることが一般に認められた。
[#図版(134.png)、第百三十四圖 クーリツヂ管]
 X線を發する眞空管は眞空度の非常に高いものでなければならない。普通に陰極に對立して斜に置かれた對陰極と稱する金屬が具へられてゐる。この構造から見ても、陰極から發した陰極線が對陰極に衝突してそこからX線が發せられるのであらうと云ふことは容易に想像せられる。近頃ではアメリカのクーリッヂが一九一三年に發明したクーリッヂ管と云ふのが一般に用ひられてゐる。之は陰極線電子を利用する代りに、電流で熱せられた金屬から放出する電子を對陰極に衝突させるやうにしたものであつて、之によつて非常に強大なX線が得られる。
 X線も陰極線や陽放射線と同樣に眞直ぐに進むが、電氣や磁氣の場によつて曲げられない點が之等と異なつてゐる。又X線が氣體の分子をイオン化することは一八九六年にイギリスのタムソンによつて明らかにされた。感應コイルの兩極の距離を加減して火花が僅かに飛ばない程度にしておいてX線をその間に送ると、火花が飛ぶやうになるのは、空氣がイオン化されて傳導體になるからである。
 X線が果して何であるかと云ふ問題は、その後多くの學者の頭を惱ました。イギリスのストークスやドイツのウィーヘルトなどは陰極線の電子が對陰極に衝突してそこで急激に止められるために、一種の電磁的脈動が之から出るのであつてそれがX線に外ならないと論じた。又イギリスのブラッグはX線を中性微粒子の放射であるとして種々の現象を解釋しようとした。併し一九一二年にドイツのラウエがX線の干渉を結晶體に於て發見し、之が光と全く同樣の電磁波であることを證明するに至つて、始めてX線の本體が確實に知られるやうになつた。
 X線の發見に引き續いて、從來未だ曾つて知られなかつた物質の不思議な性質として放射能の現象が世を驚かした。
[#図版(135.png)、第三十五圖 アンリ・ベクレル][#「第三十五圖」は底本のまま]
[#図版(136.png)、第百三十六圖 キユーリー夫人]
 一八九六年にフランスのアンリ・ベクレルはX線が眞空管の螢光を發する場所から起りはしないかと云ふ推察のもとに螢光を發する物質として知られてゐたウラニウム鹽類の結晶を黒紙に包んだ寫眞乾板に載せておいたところが結晶と寫眞板との間に挾んだ銀の小片が黒い影を寫眞に印することを見出だした。彼は最初之をウラニウムの螢光のために發せられるX線に依るものと解したが、更に實驗を重ねてゐるうちに、ウラニウムは常にこのやうな作用を有することを明らかにし、之を自然的に存在する一種の放射線に歸した。この放射線はその後發見者の名を取つてベクレル線と呼ばれた。その性質については種々の薄い物質を透過し、寫眞板に感じ、又氣體をイオン化すること、X線と同樣であつた。
[#図版(137.png)、第百三十七圖 臭化ラヂウムで撮つた寫眞]
[#図版(137_2.png)、左はガス管球(胸部レントゲン寫眞用)右はクーリツヂ管球]
[#ここからキャプション]
(癌腫等の治療に用ひ二〇萬ヴオルトを通ずる)
[#キャプションここまで]
[#図版(137_3.png)、ロイマチスの電氣療法(シユネー氏四槽浴)]
 ところが一八九八年にフランスのキュリー及び同夫人は、ウラニウムの外にトリウム化合物が同樣の性質をもつことを見出だし、更にピッチブレンドと稱する酸化ウラニウムを含む鑛石を研究してゐる際に之が純粹のウラニウムよりも遙かに強い作用をもつ放射線を出すことを發見し、遂にキュリー夫人の手によつてこの鑛石中からその極めて著しい放射作用を有する未知の物質だけを化學的に分析抽出することに成功し、微量ではあつたが二種の物質を得て、之等をラヂウム及びポロニウムと名づげた。爾後この作用は放射能と稱せられて種々の新奇な事實の發見に導いた。放射性物質が常に原子量の大きな元素及び化合物に限られるのは最も注目すべき特徴である。
 ベクレル線については、その後イギリスのラザフォードの研究によつて、之が三種の異なつた放射線から成り立つてゐることが見出だされた。三つの放射線への分析は主として物質透過の程度の相違によつて可能にされるのであつて、第一にα《アルフア》線と名づげられたものは厚さ0.05ミリメートル程のアルミニウム箔によつて既に全く吸收されてしまふものであり、次にβ《ベーター》線と名づけられたものは數ミリメートルの厚さのアルミニウム箔を十分に透過してその後方に達することのできる部分である。又第三にγ《ガンマ》線と稱せられるものは透過能最大の部分であつて、透過の程度はX線をも超え、アルミニウム板の厚さが50センチメートル程に達し始めて吸收され盡すに至る。
 之等の放射線がどんなものであるかに關しては、一八九九年から一九〇〇年に亘つてギーゼルやステファン・マイヤー及びシュワイドラーが先づβ線が磁場によつて陰極線と同樣に曲げられるのを見出だしたこと、次いで一九〇三年にラザフォードがα線の電場及び磁場による屈曲を實驗し得たことから漸次明らかになつた。即ちβ線は陰電氣を帶びた粒子から成り、且つその電氣量と質量との割合に於ても全く陰極線電子と同一であることが知られ、又α線はカナル線と同樣に陽電氣を帶びた粒子から成るけれども、その電氣量と質量との割合は水素陽イオンの半分であることが見出だされた。
[#図版(138.png)、第百三十八圖]
 之によつてβ線は電子そのものに外ならないことが容易に結論されたけれども、更にα線が何であるかについては立ち入つた研究を必要としたのであつた。α線は硫化亞鉛のやうな螢光性の物質を塗つた螢光板に衝突して之を能く光らせる。スピンタリスコープと云ふのはその有樣を蟲眼鏡で覗くやうにした裝置であつて、之を視ると無數の閃光が燦爛として星の輝きを見るやうである。ラザフォード及びガイガーは一九〇八年に更にα粒子の數を電氣的に記録し得るやうな裝置(第百三十八圖)をつくつた。半球形の金屬器の頂點Bに小さな孔があつて雲母の薄い板を張つてある。之からα線を入れると内部の氣體をイオン化し、電極Aにつないだ電氣計に各粒子毎に衝動を感ぜしめる。それ故電氣計の針の動きを一定の速さで動かした寫眞フィルムの上に撮影すると、第百三十九圖のやうな記録を得るから、之によつて一分間にどれ程の數のα粒子が到着するかを明らかに算へることができる[#句点なしは底本のまま]ラザフォード等は一方でα線が直接に電氣計に與へた電氣量を測つて個々のα粒子の電氣量が水素イオンのそれの二倍に等しいことを見出だした。この事實と、上に述べた通り電氣量と質量との比が水素イオンの半分であると云ふ事實とからα粒子の質量は水素イオンの四倍でなければならないことが當然結果するのであつて、ヘリウムの原子量が恰度水素の四倍あることを考へ合はせて、α粒子はヘリウム原子が二重にイオン化したものであることが證された。ところで實際に放射性物質からヘリウムが發生すると云ふことは既に一九〇三年にイギリスの化學者ラムゼー及びソッディーによつて化學的に檢出せられ、そのスペクトルによつて完全に確められた。
[#図版(139.png)、第百三十九圖 A粒子の記録][#「A粒子」は底本のまま]
 α線及びβ線と異なつてγ線は少しも磁場の影響を受けないものであるから、明らかに帶電粒子ではなく寧ろ種々の點でX線に似てゐることが漸次知られた。その本質についてはX線と共に後にラウエの發見によつて始めて示され、それが同じく電磁波の一種に外ならないことが明らかにされた。
[#図版(140.png)、第百四十圖 アーネスト・ラザフオード]
 キュリー夫妻はラヂウムを發見してから間もなく、ラヂウムと一緒に置かれた物體が放射性を感應してそれ自身放射能を有するやうになることを見出だした。この現象はラザフォードによつてトリウムの場合に詳細に研究せられ、この場合に感應する反射能[#「反射能」は底本のまま]はトリウムから絶えず發生してゐる放射性の氣體であるところのトリウム・エマナチオンなるものに歸せられると云ふ驚くべき事實が知られた。そればかりでなくこのエマナチオンはトリウムと分離するとすぐ消滅してしまつて、その代りにエマナチオンの接觸してゐたどの物體の表面にも、肉眼では見えないが非常に細かい放射性の沈澱物を生ずることがわかつた。なほこの後ですぐドイツのドルンはラヂウムからも全く同樣の性質のエマナチオンを見出だした。
 一九〇二年にラザフォード及びソッディーは之等の事實に基づいて、放射性物質の變脱理論を提出し、物質元素に關する從來の化學上の見解に對して全く新らしい變革を與へた。即ち放射性物質の原子は放射線を放出すると共に異なつた原子に崩壞變脱してゆくものであると云ふのである。この理論は實際にかやうな變脱によつて生成せられてゆく多くの物質が實驗的に確定せられ、その原子量や化學的性質や光のスペクトルなどが明らかにせられるに從つて漸次動かすことのできないものとなつた。今日我々は變脱系列として、ウラニウム・ラヂウム系列、トリウム系列、アクチニウム系列の三つを知り、それらのなかにそれぞれ十數個の元素を見出たす[#「見出たす」は底本のまま]に至つた。そして變脱の最後に於て之等の系列の何れもが鉛を生ずることは一つの注目すべき事實である。
[#図版(141.png)、第百四十一圖 一種の花崗岩中に見られるウラニウムハロ]
 變脱の過程は各々の原子が一個のα粒子若くは一個のβ粒子を放出することによつて起るのであるが、そのうちα線放出によるものでは原子は原子量4を減じ、β線放出によるものでは原子量を増減しない。之はα粒子が原子量なる4[#「原子量なる4」は底本のまま]ヘリウム・イオンであり、β粒子が質量の非常に小さい電子であることを考へるならば、當然の結果と見ることができる。又之等の變脱は常に一定の時間内に一定の割合で起るのであつて、その遲速は一樣でなく、その原子の半數が崩壞するに要する時間即ち半減時間なるものは、例へばウラニウムでは數十億年に及び、ラヂウムでは1700年、ラヂウム・エマナチオンでは四日であり、その他僅かに數分若くは數秒に足らないものさへある。このやうに長短の差はあるが、原子がそれぞれの壽命をもつことは實に驚くべき事實と云はなければならない。
[#図版(142.png)、第百四十二圖 寫眞乾板上に印したアルフア粒子の痕跡]
[#図版(143.png)、第百四十三圖 棒の先端に附着するラヂウムからアルフア線が四方に放射される有樣]
 α線やβ線の速さは非常に大きい。前者は光の速さの5乃至7パーセント、後者は80乃至99パーセントにも達する。一方では前者の質量は後者の數千倍も大きいから、兩者とも多大のエネルギーを放射されることがわかる。それ故之等の放射線が吸收されるとそこにはかなりの多大の熱量が生ずる。一グラムのラヂウムはそれ自身からの數段の變脱のために一時間に凡そ132カロリーの熱を發生することが計算される。だからラヂウムと對量の水があるなら前者は後者を僅かに四分の三時間程で氷點から沸騰點まで熱することができるわけである。太陽や地球内部に若し少量の放射性物質が含まれてゐるとすれば、既にその現在の熱を供給するに足りるのであらうことも屡々想像された。又地球上の多くの岩石中にはウラニウムとトリウムとが殆ど同樣の割合で含まれてゐることが見出だされてゐる。この事實は最初地球が混沌たる有樣にあつた時代に、之等の岩石の生成起原の同一であることを物語るものであつて之から地球の年齡を推算することができる。又種々の岩石中には放射能現象のためにあらはれるハロと稱する圓形の極めて小さな顯微鏡的斑點が見える事がある(第百四十一圖)。之は以前には微生物と考へられたこともあるが、放射性物質が含有せられて之から發するα線のために或る化學的變化が起されるのである。寫眞乾板の上に放射性物質の微量をおくと、その周圍に發するα粒子のために上述のハロと同樣な現象を呈することは第百四十二圖に示す通りである。この寫眞の上でα粒子の經過した痕跡が明らかにわかる。

   二〇、光電氣効果、リチャードソン効果

 能く磨いた金屬の裏面に特に紫外線に富んだ光をあてると、金屬が陽に帶電するやうになることは之を電氣計につないで實驗的に知ることができる。この現象は一八八七年に始めてハインリッヒ・ヘルツによつて發見せられ、次いで翌年ハルワックスによつて確められたものである。その後一八九九年にレナードは眞空中でこの實驗を行ひ、金屬の面から陰極線に於けると全く同一の電子が放出することを示した。之を光電氣效果と云ふ。金屬面を陰に帶電すれば電子の速さが増し、陽に帶電すれば之に反して電子の速さを※[#「冫+咸」、u+51CF]じ遂には表面から飛び出ないようになる。この事實は金屬内部に自由に遊動する電子が存在して居り之が紫外線にはたらかれて放出のエネルギーを獲得するのであると考へられる。
[#図版(144.png)、第百四十四圖 X線による第二次ベーター線の痕跡]
 金屬内部にかやうな電子の存在することは單に之を熱するときに電子の放出する事實からも證明される。金屬が白熱されたときにその近傍の空氣が電氣に對して絶縁性を失ふと云ふ事實が十八世紀時代から知られてゐたが、一八八〇年にエエルスター及びガイテルは針金に電流を通じて之を熱し、一定の距離を隔てゝおかれた電極の電位の變化を測定した。この現象はその後多くの人々によつて研究せられ、金屬から放出される電子のために空氣がイオン化せられるものであることが確められた。周圍の空氣が取り除かれると電子の放射が著しくなる。この現象に關しては主としてイギリスのリチャードソンが種々の研究を行つたので、之をリチャードソン效果と名づける。又この場合に放出される電子を屡々熱電子(又は熱イオン)として云ひあらはす。
[#図版(145.png)、第百四十五圖 フレミング眞空球]
 熱電子の現象は近時種々の重要な應用を見るに至つた。前節に述べたX線を發するクーリッヂ管もその一つであるが、電波の檢波器並びに發生器として用ひられる眞空球の發明は無線電話をして今日の實用に至らしめた最も大切の應用である。
 この眞空球は一九〇四年に始めてフレミングによつてつくられたもので、空氣を拔いた硝子球のなかに纎條(フィラメント)と之に對立する金屬板プレートとを具へてゐる。纎條を電流で熱すると、之から發する熱電子の流れは金屬板の電位が纎條よりも高いか低いかによつて板の方向に向ひ又は止められる。從つて金屬板の電位が電波から生ずる高周波交流によつて交互に變化する塲合に、或る基電位より高くなれば熱電子電流を通じ、低くなれば之を中絶するやうに裝置することができるのであつて、之によつて眞空球を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]んだ電流回路に於ては電波に感應して、しかも一方のみの電流を得ること、恰度鑛石檢波器の場合と同樣になる。
[#図版(146.png)、第百四十六圖 三極眞空管]
 眞空球の金屬板を圓柱状にし、之と纎條との中間にグリッドと稱する螺旋状又は網目状の導體を入れたものを三極熱電子管と名づける。(之に對して上述のフレミングの眞空球を二極電子管とも云ふ)。グリッドの役目はその電位を纎條よりも僅かに高くするか低くするかによつて、纎條から金屬板に流れる熱電子電流を増加させるか又は※[#「冫+咸」、u+51CF]少せしめるためである。この作用は極めて鋭敏であつて、グリッドの非常に僅かの變化が、電流のかなり大きな變化を結果することができるから、單に檢波作用ばかりでなく振動を増大せしめるための増幅裝置としても適當である。又三極管を變壓器に接續すれば、金屬板に於ける電流の或る振動的變化が一次及び二次コイルを經てグリッドに感應するから、その電壓の變化に相應して熱電子電流も變化し、之が再び同週期の變化を金屬板に補ひ與へ、依つて最初にそこに起つたものを非減衰振動とすることができる。之が無線電話の送話裝置としても三極管の適切なる所以である。

   二一、電氣素量、電子の性質

 電子が以上述べたやうな種々の現象に於て見出だされるに從ひ、之が果して物質の根本的要素として見做さるべきものであるか、又實際にどんな場合にも單一的の電氣量をもつてあらはれるかと云ふやうな重要な問題が先づ確實に決せられなければならなかつた。ところが之がためには、抑も我々の取り扱ふ電氣量なるものにさう云ふ性質が存在するのであらうかと云ふ疑問が起されなければならない。云ひ換へれば、すべての電氣的現象が電子の如き一定の要素によつて生ずるものであるならば、電氣量として測られるものは常に電子の有する電氣量の整數倍になつてゐなければならない筈であるから、果してさう云ふ事實が存在するかどうかと云ふ疑問である。
 事實上の確證が見出だされるよりもずつと以前に、併しそれは一つの自然的な思想としてもあらはれたことが無いではなかつた。即ち電氣に對する最初の理論として、デュフェイが電氣を二種の流體から成ると説いたのに對して、フランクリンが一種流體説を稱へたときに、彼はこの電氣流體が粒子から成り立つてゐて導體のなかを自由に通り拔けるやうに考へたのであつた。けれども當時の是等の説は固より單なる想像を云ひあらはしたのに過ぎなかつたので、何等の事實的根據にも基づいたものではなかつた。
 だが、我々の科學はどこまでも事實に據らなければならない。しかも事實は意外な處に微妙な關係を隱してゐる。電氣量に分割されない一定の單位があると云ふことも、實際偶然に、ファラデイが一八三三年に發見した電氣分解の法則のなかに既に秘められてあつたのである。前に説明した通り、この法則は、すべての物質の一化學當量を析出するに要する電氣量が一定であつて、丁度 9,649×10^1[#この式、底本のまま] に等しいことを要求するのである。ところで電氣分解の現象は物質のイオンが電氣を運んでそれぞれ兩極に達するために起るのであるから、上の電氣量は即ち一化學當量に相當するイオンの有するものでなければならない。一化學當量と云ふのは物質の一グラム中に含まれた原子の數を原子價で除したものである。それ故之はすべての一價原子が電解質中でイオンとなるとき一定の電氣量をもつことを示すのであり、又二價、三價の原子の場合にはそれ/″\二倍三倍等の電氣量をもつことを意味するのである。つまりこゝで考へられてゐる一定の電氣量は、少なくとも電氣分解の現象に於て常に單位的にあらはれるものであつて、今日我々は之を電氣素量として呼んでゐる。
[#図版(147.png)、第百四十七圖 ミリカンの電氣素量實驗裝置]
 この電氣素量の値を正確に見出だすためには、原子又はイオンの數を精密に知らなければならない。併し之に對しては種々の困難があつたけれども、その大體の程度を知ることができさへすれば電氣素量の値も略ぼ計算することができるわけである。かやうな計算は始めてジョンストン・ストーニー(一八七四年)によつて試みられた。その後電子の發見と共に電氣素量なるものも極めて重要な意味をもつやうになつたので、種々の場合にあらはれる個々のイオンの電氣量を直接に測つて、電氣素量の値を見出ださうとする多くの實驗が企てられた。イギリスのタムソン、タウンセンド、ウィルソンなどはX線のために生ずる氣體イオンについて之を測定したが、同樣の目的で最も精密に行はれた實驗は、一九〇九年以後引き續いてアメリカのミリカンによつてなされたものであつた。彼は帶電せる微小な超顯微鏡的油粒を電塲に持ち來し、電氣力によつて之を上下に動かすと共に、重力の作用や空氣の抵抗をも考慮に入れ、その運動の速さを觀測して、之から油粒の電氣量を計算し、實際に常に電氣素量の整數倍に等しいことを證明した。ミリカンが一九一三年並びに一九一六年にこの方法で見出だした電氣素量の値は e=4,774×10^-10 靜電單位である。
[#図版(148.png)、第百四十八圖 ミリカンの裝置の説明圖]
[#ここからキャプション]
Aは霧吹で之から油を吹き出させる。M.Nは二枚の金屬板で之に電位差を與へ.Mの中央の孔を通つてこの間に落下する油粒を左方から照して觀測するのである。油粒は吹き出される際多少共帶電してゐるが尚ほ右方にあるX線管からX線を送つてイオン化される
[#キャプションここまで]
 種々の塲合にあらはれる電子は常にこの電氣素量に等しいだけの陰電氣をもつてゐると考へられてゐる。又電氣量と共にそれが一定の質量を有してゐることも考へられる。この質量を見出だすためには運動してゐる電子に或る力を作用させて運動の變化を見ればよい。例へば陰極線粒子が眞直ぐに運動してゐるとき之に垂直に電氣の塲を加へれば、運動經路は塲の方向と反對に曲げられるし、又電塲の代りに磁塲をはたらかせると、塲と垂直に彎曲させられる。電塲や磁塲によつて電子にはたらく力は電氣量eに比例するものであり、一方で徑路の彎曲の度は電子の惰性的質量mに逆比例するから、實際に彎曲のための軌道偏倚を測定した結果から、我々は電氣量と質量との比 e/m を見出だすことができるわけである[#句点なしは底本のまま]この實驗は一八九七年に始めてタムソンによつて行はれた。その後多くの人々が同樣の方法で、陰極線の外に放射性物質から發するβ線や、光電氣效果及びリチャードソン效果などに於ける放出電子について之を測定し、すべて之等の場合に e/m が同一の値を有することを證明した。今日知られてゐるそれの最も精密な値は、靜電單位及びグラムの單位を用ひて e/m =5,30×10^17 である。從つて前に掲げた電氣素量の値を之に入れると、電子の質量は m=9,0×10^-28 グラムとして見出たされる[#「見出たされる」は底本のまま]。之を水素原子の質量 mH[#「H」は下付]=1,650×10^-24 グラムに比べれば、僅かに 1/1832 に過ぎない。放射性物質がβ線を放出してもその原子量を變へないのは、是等の數値を見て當然であることが判るであらう。
 電子の性質と關聯して、一般に帶電粒子の運動に關する理論は、最初イギリスのタムソン(一八八一年)及びヘヴィサイド(一八八九年)等によつて發展された。その塲合に帶電體には通常の力學に從ふ一定の質量が假定されたけれども、之に電氣力がはたらくに際しては電氣を有するための一種の惰性が相伴はねばならないことが始めて明らかに主張せられた。この電氣の惰性は、電氣の運動に伴つてその周圍に起される磁場を一緒に運ばねばならないことに依るのであつて、丁度導體内部を流れる電流に對する自己感應の現象は之と同一のものであると解せられる。かやうな惰性によつて帶電體に歸せられねばならない一種の質量を假現的又は電磁的質量と名づけたのであつた。電子の研究が盛んになるに從ひ、この問題は多大の理論的興味を惹起し、特に理論上からはこの電磁的質量が運動速度と共に著しく増さねばならないことが結論されたために、果して實際に電子の場合にこの事實が見出だされるかどうか、更に亦電子の全質量のうちで力學的に一定であると考へられる質量と、運動によつて變化する電磁的質量とがどんな割合で存在してゐるかと云ふやうなことが、根本的に重要な問題として提出された。
 この問題を精密に理論的に解いて、且つ實驗と比較するがためには、電子の形態について立ち入つた假定を必要とするのであつた。そこでドイツのアブラハムは最も簡單な合理的假定として、電子を剛體的球體であるとし、且つその表面又は實質全體に電氣が一樣に分布せられてゐるとして、理論的歸結を導き出した。
[#図版(149.png)、第百四十九圖 質量が速度に從つて増す有樣]
 この結果は大體に於て一九〇二年にドイツのカウフマンの實驗によつて確められ、少なくとも電子の質量が速度と共に變ると云ふことは疑ひもない事實として認められるやうになつた。そればかりでなくアブラハムは更に實驗との詳細の比較によつて電子の全質量はすべて電磁的でなければならないと云ふことを結論して、當時の學界に異常なる衝動を與へた。只電子の形態に關する假定としてはアブラハムの採用した處のものは一見最も簡單のやうではあつたが、別に運動物體の光學上の研究からして之と異なつた假定の必要が論ぜられるに至つた。それは即ちオランダのローレンツの提議したものであつて、彼は運動せる地球上に於ける光の速度に關する實驗が少しも地球の運動の影響を受けないと云ふ事實から、之を矛盾なしに説明するためにすべての物體が運動の方向に短縮すると云ふ假定を導き、從つて電子も亦この性質を所有しなければならないとたした[#「たした」は底本のまま]。
 この假定は、その後(一九〇五年)アインシュタインによつて有名な相對性理論が同じ實驗的事實の上に基礎づけられるに及び、その當然の歸結として論ぜられたのであつて、それ以前に(一九〇四年)ドイツのブッヘレルが同樣の短縮と同時に之と垂直の方向への膨張を假定して電子に一定體積を保たしめやうとしたのは、却つて理論的根據を缺くと云はなければならなかつた。そして是等の研究の一方に、電子の質量の速度による變化に對する實驗は更にカウフマン(一九〇六年)によつて精密に繰返された外に、ベステルマイヤー(一九〇七年)ブッヘレル(一九〇八年)フプカ(一九一〇年)ノイマン(一九一四年)などによつて相次いで實驗せられその殆んどすべての結果はローレンツ及びアインシュタインの理論と一致することを示した。
[#図版(150.png)、第百五十圖 ベーター線が磁場で屈曲する有樣]
 併しながら電子の質量のかやうな變化はそれが抑も電磁的起原のものであるための特殊な性質ではなくて、相對性理論によればすべての物體の質量がさうでなければならないのであつた。即ち一般に質量及びエネルギーは速度と共に増し、光速度に至つて常に無限大に達するのである。只通常の力學に於て取り扱ふやうな速さの程度ではその變化が餘りに小さいので、我々は從來力學的質量を一定と見做してゐたに過ぎない。そして陰極線に於ける電子のような非常に速いものに於てのみ質量の變化が實驗せられたと云ふまでである。尚ほ理論に從へば、一般に力が運動の方向にはたらくか、又は之と垂直の方向にはたらくかによつて、惰性を異にするので、是等に相當する質量をそれ/″\縱質量及び横質量と名づける。速度零の極限に於ては是等兩質量は勿論一致した値を取るから、之を靜質量と名づける。
[#図版(151.png)、第百五十一圖 ブツヘレルの實驗裝置]

   二二 [#読点なしは底本のまま]物質の電子論及び其發展

 電子の發見は物質がその最後の要素として電子を含んでゐることを想像せしめ遂に物質の電子的構成を假定して種々の現象を説明しようとする理論の發展を促がした。之に關して最初に最も多く貢献した學者は實にオランダのローレンツであつた。一八九五年に發表した彼の論文には運動體の光學と共に今日の電子論の基礎をなす重要な研究を網羅してゐる。
 先づ第一に彼は金屬が電氣の導體である所以を、原子間の空隙を自由に遊動することのできる自由電子なるものゝ存在に歸した。自由電子の運動は全く氣體分子の運動と同樣であつて、只物質原子と衝突してその運動方向を變へる。その平均の運動エネルギーは氣體分子の塲合と同じく温度によつて一定する。若し外部から電氣力がはたらくならば、全體として電氣力の反對の方向に陰電氣を有する電子がより多數に流動するから、之が電流現象としてあらはれる。電流の傳導度は電子の數や遊動の自由さによつて定まるのである。ローレンツはこの假定に基づいて物質の電氣抵抗が温度と共に變ることや、之が熱傳導度と一定の關係を保つことや、異なつた金屬が接觸すると起電力のあらはれることや、熱電氣の現象などを説明した。
[#図版(152.png)、第百五十二圖 ヘンドリツク・アントーン・ローレンツ]
 ローレンツは次に物質原子内に一定の平衡位置に結びつけられた束縛電子の存在することを假定し、種々の現象を説明した。束縛電子はその平衡位置から外づれると、距離に比例する力即ち準彈性的の力によつて舊の位置に戻らせられる性質をもつてゐると考へられる。若し外部から電氣力がはたらくならば、之と準彈性的の力と釣り合ふ位置まで電子が移動するから、之によつて絶縁體に於ても靜電氣感應が起り、又それが電媒質として作用するのである。光が物質にあたると光波の振動電氣力のためにこの束縛電子も平衡位置のまはりに振動させられる。之が光を吸収したり又は分散を起したりする原因である。逆にこの電子が自分で振動を起すならば、物質が光源となつて光を輻射する。各々の物質から出る光は物質に固有な一定のスペクトル線を示すことは能く知られた處であるが、之を磁塲に置くと、スペクトル線が二本若しくは三本に分岐すると云ふ現象が、丁度一八九八年にオランダのゼーマンによつて發見された。ローレンツはその發見後直ちに之に對して上の理論を應用し、實驗的事實を完全に説明し得たばかりでなく電子が實際に陰電氣を有することを證明し、又數量的に電氣量と質量との比を計算して前節に述べた結果と全く一致することをも示した。
 第三にローレンツは、物體の磁氣現象を原子内に圓形軌道を描いて運動する電子の存在するのに歸した。之は以前にアンペールの假定した分子電流なるものと略ぼ同樣の效果をもつものであつて、このために原子のまはりに磁塲の起ることが容易に解せられる。只各々の原子内に於ける磁塲の方向が種々異なつてゐるから通常の物質では全體として磁性を示さないけれども、鐵の如き強磁性體と稱せられるものでは、原子の配列上是等が一定の方向に向けられ得るためにその性質を呈するのであると解せられる。尚ほこの電子の圓形運動そのものは圓形の針金を流れる電流と異なつて、實は反磁性を示すものであり、多くの物質に於て之が實際にあらはれることは後に、フランスのランジュパン[#「ランジュパン」は底本のまま]によつて證明された。
 ローレンツの後に電子論は多くの人々によつて發展されたが、そのうちドイツのドルーデは之に對し著しい貢献をなした。併し近時に至つて謂はゆる量子の發見と共に原子構造の理論が全く新らしい見地に立つ必要に迫られたので、上述のローレンツ及びドルーデの理論も多少の變更を餘儀なくされるようになつた。
 量子論に關しては、もはや電氣學の範圍を超えるからこゝではその詳細を述べてゐられない。只それがどこから起つたかについて云へば、黒體輻射の法則が熱力學の理論と實驗的事實とに基づいて確立されるに當つて、エネルギーの輻射並びに吸收が連續的に行はれるとしたのでは、いかにしても事實との矛盾を免がれないことが見出たされ[#「見出たされ」は底本のまま]、一九〇〇年に始めてドイツのプランクによつて或る一定の單位量の整數倍によつてのみあらはれることが假定せられ、之にエネルギー量子なる名を與へるに至つたのである。その後かような量子の存在は光の種々の現象や原子熱や、その他の物質の諸性質に於て續々と確められ、特に低温度に於ける状態はこの假定なしには殆んど滿足に解せられないやうに見えた。この間に量子の意味はエネルギーに對してよりもより根本的には寧ろ作用量に歸せらるべきことが明らかにせられ、次いで一九一三年にデンマークのボールによつて始めて原子構造論に應用せられて一つの輝かしい結果に到達したのであつた。それは水素原子のスペクトルに關する問題であるが、彼は先づイギリスのラザフォード等の考察に從つて、水素原子は一つの原子核の周圍に一個の電子が周廻するものであると假定し、周廻運動の角運動量が一定の作用量の整數倍に等しいやうな軌道だけを定常的に許されるものとし、そして電子が是等の軌道間に移轉を行ふに當つてスペクトル線の輻射が結果すると解した。かやうにしてボールは理論的に殆んど完全に水素のスペクトルに對する謂はゆるバルマー公式を導き出すことに成功した。
[#図版(153.png)、第百五十三圖 ニールス・ボール]
 次いでドイツのゾンマーフェルド、シュワルツシルド、エプシュタイン等の諸學者はボールの假定を更に一般的に擴張してそこに理論的基礎を置き、水素原子に關しては、それが通常の状態に於て發するスペクトルばかりでなく、磁塲に於て示すゼーマン效果や、電塲に於て複雜に分岐するシュタルク效果(一九一三年にドイツのシュタルクによつて發見されたもの)までを殆んど遺憾なく説明することができるようになつた。
[#図版(154.png)、第百五十四圖 水素原子内の電子軌道]
 之等の塲合に原子内部に於ける電子の軌道は一般には單に一つの作用量子の數によつてではなく、二つ若くは三つの量子の各異なつた數によつて規定されるのであつて、我々は是等の量子數を與へることによつて、原子の状態を云ひあらはすことができるのである。從つて原子が光を發する状態に置かれない塲合でも、即ちその通常の状態をも電子に歸せらるべき量子數によつてあらはすことができる。ボールはこの見地から、水素以外の複雜な原子に於ても、之に含まれる多くの電子に對して適當な量子數を假定することによつて、その原子の光學的及び化學的諸性質を極めて巧みに説明した。こゝに原子構造論は一躍して我々の前にすばらしい光明を輝かすに至つた。

   二三 [#読点なしは底本のまま]電子の波動性

 私は最後にもう一つこの方面に於ける最近の發展について附言しておかなければならないことを感ずる。なぜなら、それはたとへ茲に述べようとする電氣學の範圍からは一層遠く離れるとは言へ、以上に説いたそれの發展の繼續に外ならないのであり、且つ之によつて我々は電氣の構成的要素たる電子の本質について始めて明確なる知識を獲得するに至つたと思はれるからである。即ち電子に關してはアブラハムやローレンツの假定によつて之に簡單な形態が與へられ、又原子内部に於てはボール及びゾンマーフェルドの假定によつて之に一定の軌道が歸せられたけれども、さて飜つて是等の假定が果して實驗的に確められる事實であるかどうかを追究して見ると、そこに重大な疑ひがかけられねばならないのであつた。我々は原子から發する光や、電子の質量やエネルギーや電氣量などを實驗的に觀測することはできる。併しその形態や軌道上の位置などに至つては、どんな手段方法を用ひても之を知ることはできないのであつて、しかもそれは我々が觀測に用ひる機械裝置の不完全によるのではなく、全く原理的に觀測方法を缺くために外ならない。さうである限り我々は電子の形態や位置について云ふ代りにそれの量子状態だけを決定するやうな法則をもつて眞實のものとしなければならない。この見地に於て實にドイツのハイゼンベルグの量子力學なるものが起つたのであつた。
[#行頭あきなしは底本のまま]更にもう一つの見地がフランスのド・ブローイーによつて始まり、ドイツのシュレーディンゲルによつて完成せられた波動力學に於て採擇された。光線の徑路だけを取り扱ふ幾何光學が光の微細な現象を論ずるにはもはや役立たなくなり、波動光學によつて置き換へられなければならなかつたやうに、通常の物體の運動を論ずる力學は原子内部に於ける電子の運動の如きものに對しては、もはやその儘では應用せられないのであつて、そこでは之に代へるに電子並びに輻射エネルギーを共に波動として取り扱ふところの波動力學が成り立つのであると考へられた。電子の量子状態は之によればかような波動群の一種の干渉の結果として現はれるのに外ならない。
[#図版(155.png)、第百五十五圖 ウエルネル・ハイゼンベルグ]
[#図版(156.png)、第百五十六圖 ルイ・ド・ブローイー]
 是等の理論は共に始めて一九二五年にあらはれた劃期的のものであつて、兩者が全く異なつた見地に立つやうに見えたにも拘らず、多くの歸結は不思議にも全く相一致し、且つ之によつて量子的現象に關する種々の事實がいかにもよく説明せられたことは我々を驚嘆せしめるに餘りがあつた。今日では兩者の方法が數學的に同一に歸することが證明せられるに至り、從つてその物理的解釋が兩立し得ることが認められてゐる。
[#図版(157.png)、第百五十七圖 エルウイン・シユレーデインゲル]
[#図版(158.png)、第百五十八圖 陰極線電子の廻折 金箔による廻折]
 この新しい解釋に相當して、電子が實際に波動の性質を示し得る事はその後一九二七年にデヴィソン及びジャーマーによつて實驗的に證明せられた。即ち電子を結晶體の面で反射させると、X線の反射の場合と全く同樣に結晶を構成する各原子が廻折格子としての役目をなし電子波動を廻折させて、一定の方向に於て強い反射を見る事ができる。又G・Pタムソンは一九二九年に種々の金屬箔を透る電子線の廻折を實驗し、菊池正士は雲母膜を用ひて電子の特殊な廻折現象を見出だした。
[#図版(159.png)、第百五十九圖 電子の廻折像 1CC瓦斯に依る廻折]

   二四、宇宙線

 電磁波の中で最も波長の短いものはX線及びγ線であるが、更に之等よりも小なる波長を有するものとして、宇宙線なるものの存在が見出だされた。之は一九一二年にオーストリーのヘッスの氣球による觀測によつて地上五粁程の高さに於いて始めて發見されたので、ヘッス線とも、又高處線とも稱せられた。その後コールヘルスター及びミリカンによつて多く研究せられ、それが宇宙空間の何れかの塲處から到達するものとして考へられて、宇宙線の名が與へられた。ミリカンの觀測によれば、その波長は凡そ四種の異なつたものを含んでゐるが、之等はすべての向方[#「向方」は底本のまま]から一樣に地球に到達する點から見て、直接に或る天體から發生するものでなく、宇宙空間の隨處に於いて種々の物質原子がその要素たる陽子及び電子の結合によつて生成せられる際に、その過程として生ずるものであると論じた。
[#図版(160.png)、第百六十圖 ロバートアンドリウス・ミリカン][#「ロバートアンドリウス」の中黒なしは底本のまま]
 例へばヘリウム原子核は四個の陽子と二個の電子とから成るから、陽子の質量を一、〇〇七二、電子の質量を〇、〇〇〇六として表はすと(酸素原子の質量を一六とする單位を用ひる)、全質量は4.0300となる。然るに實際上は4.0011であるから、0.0289はヘリウムの生成の際に放出せられるエネルギーの質量に相當するものである。依つて之に相當する波長を計算すれば、今日知られたγ線の最短波長に比べて凡そ 1/16 になり、又ミリカンが測定した宇宙線の四種の波長の中の最大のものと略々一致する。ミリカンはその他のものを酸素、珪素及び鐵の原子核の生成によつて生ずるものと推定した。
 之等の宇宙線のエネルギーは凡そ數億ボルトの電位差で加速せられた電子の有するエネルギーに等しい。近時實驗上の設備の進歩により數千萬ボルトの電位差によつて人工的に之に相當するものを發生せしめる研究が盛に行はれてゐる。
[#図版(161.png)、第百六十一圖 コツククロフトの原子破壞の實驗裝置]
 又ボーテは最近α線によつてベリリウム及びその他の元素の原子を爆撃せしめて、同じく超γ線を得ることに成功した。この場合にベリリウム原子核とα粒子との結合によつて炭素原子核が合成されると同時に超γ線が發生されるのである[#句点なしは底本のまま]
 宇宙線が果して短波長の輻射線であるか、または中性粒子線であるかに就いては尚ほ異論を存してゐるがこれと同時にボーテの爆撃實驗に於て、ベリリウムから發生するものは超γ線がなくて質量1電氣量0なる粒子、即ち中性子(neutron)であるとする説が、イギリスのチャディックによつて提起せられた。しかしこれ等に關する研究は尚ほ多く今後に待たねばならない。

 電氣學及びそれの發展について以上述べた處は極めて大要に過ぎないけれども電氣なるものがそれの應用に於て、亦その理論に於ていかに大切のものであるかは、之によつて推察することができるであらう。要するに電氣の現象は古代に於ては極めて特殊な、或る物質にのみ限つてあらはれるものと解せられてゐたのに反して、今日ではあらゆる物質の最も根本的な不變的な性質として見做されねばならぬようになつた。電氣について知らないでは我々は物質に對する根本的の知識を缺くと云はねばならない。只誤解のないやうに注意すべきことは抑も電氣と云ふ何物かゞ物質以外に存在するのではないと云ふことである。電氣の現象は物質の一つの性質なのである。即ち電子は互ひに電氣力を及ぼし合ふと云ふ關係に於て之等が電氣量を有するとして、我々が云ひあらはすのであつて、それは同時に互ひに萬有引力を及ぼし合ふと云ふ關係に於て是等が質量を有するとするのと同じ意味である。質量を有するのが物質であつて、そこに他に電氣と云ふ何物かゞ加はると考へた昔の解釋は捨てなければならない。

  電氣物語  完



※ 効と效、回と囘、場と塲、減と※[#「冫+咸」、u+51CF]の混用は底本のとおり。
※ 写真や図版の著作権者は不明。
底本:『電氣物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
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*地名

(※ 市町村名は、平成の大合併以前の表記のまま。一般的な国名・地名などは解説省略。
  • [ドイツ]
  • ヴュルツブルク Wurzburg ビュルツブルク。ドイツ南部、バイエルン州北西部の都市。マイン川沿岸に位置。ブドウ酒取引の中心地。741年以来司教区の所在地。11〜13世紀のドーム、その他多くの中世の教会、バロック様式の建築物がある。ロマンティシェ街道の北の起点。1582年創立の総合大学の所在地。(コン外国地名)
  • ヴュルツブルヒ大学 → ヴュルツブルク大学
  • ヴュルツブルク大学 ドイツ・バイエルン州ヴュルツブルクにある総合大学。1402年に創立された。主要なキャンパスはヴュルツブルク旧市街の東側に位置する。(Wikipedia)


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本歴史地名大系』(平凡社)。




*年表

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  • 電磁気学の年表
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  • 一二六九 ペトロス・ペレグリヌスが、磁石に2つの極があることなど、磁石の性質についての著書を著わした。
  • 一六〇〇 ウィリアム・ギルバートが、古来より摩擦電気現象が知られていた琥珀以外に、硫黄や樹脂、ガラスなどにも摩擦電気が発生することが確認。
  • 一六六三 オットー・フォン・ゲーリケが、硫黄球を回転させて摩擦電気を作り出す摩擦起電機を発明。
  • 一七二九 スティーヴン・グレイが、導体と不導体の区別を発見。これによって、電気は動くものであることが確認された。
  • 一七三三 シャルル・フランソワ・デュ・フェが、金属にも摩擦電気が発生することを発見し、さらに電気はガラス電気(プラス)と樹脂電気(マイナス)の2種類があることを提唱。
  • 一七四六 ピーテル・ファン・ミュッセンブルーク (Pieter van Musschenbroek)が、電気を蓄えるライデン瓶を発明。ゲーリケの摩擦起電機とともに、後の電気研究に貢献した。
  • 一七五〇 ベンジャミン・フランクリンが、電気は1種類で、物質ではない荷電流体であるという一流体説を提唱。
  • 一七五二 フランクリンが、凧揚げの実験から、雷が電気現象であることを証明。
  • 一七五三 ジョン・キャントン(John Canton)が、帯電体に金属を近づけたときに発生する静電誘導を発見。
  • 一七六七 ジョゼフ・プリーストリーが、電気的な逆二乗則を提案する。
  • 一七八〇 ルイージ・ガルヴァーニが、「動物電気」を発見し、動物の体内に電気があるのではないかという仮説を立てる。
  • 一七八五 シャルル・ド・クーロンが、2つの電荷間で作用する力は、距離の2乗に反比例するというクーロンの法則を発見。
  • 一八〇〇 アレッサンドロ・ボルタが、電気は異種金属の接触によって発生することを発見。最初の電池(ボルタ電池)を作成。
  • 一八〇七 ハンフリー・デーヴィが、ボルタの発明した電池を電源としたアーク放電灯を完成。
  • 一八二〇 ハンス・クリスティアン・エルステッドが、電気を通した導線の近くに置いた磁針が振れる実験で、電流の磁気作用を発見。
  • 一八二〇 ジャン=バティスト・ビオ/フェリックス・サバールが、導線の周辺に発生する磁界の大きさを計算するビオ・サバールの法則を発見。
  • 一八二〇 フランソワ・アラゴが、鉄心に巻きつけた導線に電流を流すと磁石になる電磁石の原理を発見。
  • 一八二〇 ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックが、電流を流した導線が1つの磁石になることを発見。
  • 一八二〇 アンドレ・マリー・アンペールが、電流を流した2本の導線が互いに反発・吸引する相互作用と、電流の方向に対して右ねじの回転方向に磁界が生じるというアンペールの法則を発見。
  • 一八二一 マイケル・ファラデーが、電流を流した導線と磁石の間に相互作用があることを確認。
  • 一八二二 トーマス・ゼーベックが、異なる金属を接合させて閉じた回路にしたとき、両者の接点に温度差があると電流が発生するというゼーベック効果を発見。
  • 一八二二 アンペールが、電流を流した2本の導線間に働く力が、電流の積に比例し、距離に反比例することを確認。
  • 一八二三 ウィリアム・スタージャンが、最初の電磁石を発明。
  • 一八二四 アラゴが、円板の周辺に沿って磁石を回転させると、円板も同じ方向に回転するというアラゴーの回転板の原理を発見。
  • 一八二六 ゲオルク・オームが、電圧と電流、電気抵抗の関係を表したオームの法則を発見。
  • 一八三一 ファラデーが、導線を通り抜ける磁力線の数が時間的に変化すると、導線に誘導起電力発生するというファラデーの電磁誘導の法則を発見。
  • 一八三四 ハインリヒ・レンツが、電磁誘導による誘導電流は、それを生み出す磁石の動きを妨げる方向に流れるというレンツの法則を発見。
  • 一八三七 ファラデーが、電磁場は、近接する媒体に伝わって周囲に影響を及ぼすという近接媒体電磁場説を提唱。
  • 一八四〇 ジェームズ・プレスコット・ジュールが、電気が熱に変わるとき、その発熱量と電力、時間の関係を表したジュールの法則を発見。
  • 一八四二 ジョセフ・ヘンリーが、コンデンサの電荷をコイルで放電させると、電気振動が発生することを発見。
  • 一八五六 ジェームズ・クラーク・マクスウェルが、電磁気の第1の論文「ファラデーの力線について」を発表。これによって、電気現象を数学的に表現。
  • 一八五九 ガストン・プランテが、充電ができる鉛蓄電池(二次電池)を発明。
  • 一八六一 マクスウェルが、第2の論文「物理的力線について」を発表。電磁場理論を発表。
  • 一八六四 マクスウェルが、第3の論文「電磁場の動力学的理論」で、電磁波の存在を予言。
  • 一八七〇 ゼノブ・グラムが長時間運転可能な発電機を実用化。
  • 一八七三 マクスウェルが、電磁気に関する研究の集大成として「電磁気学」を発表。光が電磁気学的現象であることを明言する。
  • 一八七五 ジョン・カーが、いくつかの液体で電気的に引き起こされる複屈折を発見する。
  • 一八七六 アレクサンダー・グラハム・ベルが、電話機を発明。人の声を電流に変換して初めて送信。
  • 一八七九 デイビッド・エドワード・ヒューズが、炭素粉末の接触抵抗が、音波によって変化する現象を発見。後の検波器の実現に貢献した。
  • 一八八三 ウィリアム・スタンレーが、変圧器の原理の基礎となる逆起電力理論を提唱。
  • 一八八五 ジョン・フレミングが、フレミングの右手の法則(発電機の原理)を発表。後に左手の法則(モーターの原理)も。
  • 一八八八 ハインリヒ・ヘルツが、マクスウェルの予言した電磁波説を、火花発生装置と火花検出器を用いた実験で証明。
  • 一八八九 エドアール・ブランリーが、無線電信の受信用検波器を発明。
  • 一八九五 アレクサンドル・ポポフが、ブランリーが発明した検波器を改良して実用化。
  • 一八九五 ヴィルヘルム・レントゲンが、X線を発見。
  • 一九〇一 グリエルモ・マルコーニが、火花放電による電磁波の大西洋横断通信に成功。


◇参照:Wikipedia「電磁気学の年表」より。



*人物一覧

(人名、および組織・団体名・神名)
  • -----------------------------------
  •    一九、X線および放射能
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  • ウィルヘルム・コンラード・レントゲン Wilhelm Konrad Rontgen 1845-1923 ドイツの実験物理学者。1895年X線を発見。第1回ノーベル賞。レンチェン。
  • ケルウィン卿 → ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)か
  • ケルビン卿 Lord Kelvin 1824-1907 ケルヴィン。イギリスの物理学者。本名、ウィリアム=トムソン。熱力学の第2法則を研究し、絶対温度目盛を導入。海底電信の敷設を指導し、多くの電気計器を作り、また航海術、潮汐その他の地球物理学の研究も多い。
  • ウィリアム・トムソン → ケルビン卿
  • レナード → レナード・ジヨーンズか
  • レナード・ジヨーンズ Lennard-Jones, Sir John Edward 1894-1954 イギリスの化学者、物理学者。ブリストル大学理論物理学教授。同理学部長。ケンブリジ大学理論化学教授、ノース・スタフォード州のユニヴァシティ・カレッジ学長。分子構造の量子理論、液体構造の分子理論、分子間力の理論などの分野に多くの業績がある。第二次大戦は、戦中戦後を通じ供給省の顧問となる。のち同省科学諮問会議議長を勤めた。(岩波西洋)
  • クーリッジ Coolidge, William David 1873-1975 アメリカの実験物理学者。マサチューセッツ工業大学物理化学助教授、翌年ジェネラル・エレクトリック会社に入社し、のち研究所長となる。タングステン線の作製に成功して(1910)、タングステン電球を実用化し、また従来のガス入X線管に変わるものとして熱陰極X線管を発明した(1913)。これはガラス入管に比してはなはだ便利であり、X線の研究および応用を大いに促進した。以後、熱陰極X線管は〈クーリッジ管〉と総称されている。連合軍総司令部の依嘱により工業技術再編成のため来日した(1947)。(岩波西洋)
  • トムソン → ジョセフ・ジョン・トムソンか
  • ジョセフ・ジョン・トムソン Joseph John Thomson 1856-1940 イギリスの物理学者。キャヴェンディシュ研究所にあって真空放電現象などを研究、電子の存在を確認し、原子物理学の端緒をひらいた。ノーベル賞。
  • ストークス → ジョージ・ガブリエル・ストークスか
  • ジョージ・ガブリエル・ストークス 1819-1903 Stokes, Sir George Gabriel イギリスの数理物理学者。ゲンブリジ大学教授となる。王立協会会長(1885-90)。X線の起因に関する研究をおこない、これが波長の短い電磁波であることを主張し、また蛍光スペクトルの研究により〈ストークスの法則〉とよばれる波長の規則を見出した。また球体が粘性流体中を落下する時の速度に関して〈ストークスの公式〉をたて、粘性係数測定の基礎を与えた。更に太陽および星の化学組成をその光のスペクトルより決定することを提唱した。(岩波西洋)
  • ウィーヘルト Wiechert, Emil 1861-1928 ヴィーヘルト。ドイツの地球物理学者。ケーニヒスベルク大学物理学教授として電気力学、弾性余効を研究。ゲッティンゲン大学教授となり、地球物理学研究所を設けて地震学を研究するかたわら電気に関する理論的研究をおこなった。地震計の数学的理論を発展させ、またヴィーヘルト式地震計を作った。地殻および地球内部構造に関する数多の地震学的研究をなし、また人工地震の実験を試み、弟子のブレスラウ大学教授ミントロープ(Ludger Mintrop 1880-1956)が現在の地震探鉱法にまで発展させた。なお最後の10年間は、音の伝播による上層大気の研究をした。(岩波西洋)
  • ブラッグ William Henry Bragg 1862-1942 イギリスの物理学者。X線分光器を考案。W.L.ブラッグとともにX線を用いて結晶の構造を解析。ノーベル賞。
  • ブラッグ William Lawrence Bragg 1890-1971 イギリスの物理学者。W.H.ブラッグの長男。結晶によるX線の回折が現れる方向を決める条件(ブラッグの条件)を提出。ノーベル賞。
  • ラウエ,マックス Laue, Max von 1879-1960 ドイツの理論物理学者。フランクフルト(マイン河畔の)、ベルリンの各大学教授。X線の結晶体による回折現象の理論および実験に成功し(1912)、X線の本体が極めて波長の短い電磁波であることを確認し、この回折線の一線に、〈ラウエ斑点〉の名が与えられた。その他相対性理論。超電導現象に関する研究がある。ノーベル物理学賞を受く(1914)。(岩波西洋)
  • アンリ・ベクレル Antoine Henri Becquerel 1852-1908 フランスの物理学者。1896年ウランの硫酸塩から放射線の出ていることを発見。放射線のことをベクレル線と呼ぶことがある。ノーベル賞。
  • キューリー夫人 → マリー・キュリー
  • マリー・キュリー Marie Curie 1867-1934 フランスの物理学者・化学者。ポーランド生れ。夫はピエール。夫の死後、ラジウムの分離に成功。1903年、夫とともにノーベル物理学賞、11年化学賞。
  • ピエール・キュリー Pierre Curie 1859-1906 フランスの物理学者。妻マリーとともにラジウム、またポロニウムを発見。また、磁性に関するキュリーの法則を発見。
  • シュネー
  • ラザフォード Ernest Rutherford 1871-1937 イギリスの化学者・物理学者。ニュー‐ジーランド生れ。放射能および原子核を実験的に研究、アルファ線による窒素原子核の人工破壊に成功。原子核物理学の父といわれる。ノーベル賞。
  • ギーゼル Giesel, Friedrich Otto Fritz 1852-1927 ドイツの化学者。放射性鉱物からラジウムを製造し、世界中の研究者に供給。新元素アクチニウムの発見などの業績がある。(日外西洋)
  • ステファン・マイヤー
  • シュワイドラー
  • ハンス・ガイガー ドイツの物理学者ガイガー(Hans G.1882〜1945 (広辞苑)/ガイガー=ミュラー計数管の発明や、原子核の発見につながったガイガー・マースデンの実験で知られる。(Wikipedia)
  • ウィリアム・ラムゼー William Ramsay 1852-1916 イギリスの化学者。空気中の希ガスであるアルゴン・ヘリウム・ネオン・クリプトン・キセノンを発見し、周期表に新しい族を加えた。ノーベル賞。
  • ソッディー Soddy, Frederic 1877-1956 ソディ。イギリスの化学者。マギル大学で E. ラザフォードと共同で放射性元素の研究をし、ロンドン大学で W. ラムジに指導を受けた。アバディーン、オクスフォードの各大学教授。ラムジと共に、ラジウムからヘリウムの出ることを実験的にあきらかにし(1904)、また放射性の鉱物中に原子量の異なる鉛のあることを発見(1913)、それらに初めて同位元素(アイソトープ)の名を与えた。ファヤンズと共に、放射性元素の変脱するときの変化の法則(ソディ・ファヤンズの変位則)を発表。同位原素の研究によりノーベル化学賞を受く(1921)。(岩波西洋)
  • ドルン Dorn, Friedrich Ernst 1848-1916 ドイツの物理学者。キュリー夫人の発見のあとを追って、放射能の研究を始め、1900年にラジウムが放射線のほかに、放射能をもつ気体を放出していることを発見した。この気体はラドンと命名された。(日外西洋)
  • -----------------------------------
  •    二〇、光電気効果、リチャードソン効果
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  • リチャードソン → オーエン・リチャードソンか
  • オーエン・リチャードソン 1879-1959 Richardson, Sir Owen Willans イギリスの物理学者。プリンストン大学教授、ついでロンドン大学教授として王立協会教授を兼ねた。熱電子放射を研究し、電子流と放射体の温度との関係について〈リチャードソンの効果〉を発見し、熱電子管の基礎を確立した。他に熱輻射および極端紫外部のスペクトルの研究がある。ノーベル物理学賞を受く(1928)。(岩波西洋)
  • ハインリッヒ・ヘルツ Heinrich Rudolph Hertz 1857-1894 ドイツの物理学者。電磁波の存在を初めて実験的にたしかめ、光がこれと同性質のものであるというマクスウェルの予言を実証した。
  • ハルワックス → ハルバクスか
  • ハルバクス Hallwachs, Wilhelm 1859-1922 ドイツの物理学者。光の照射によって金属の表面から電子が放出されるという〈光電効果(ハルバクス効果)〉を発見した(1888)。これはのちの量子理論発展の重要な基礎となった。ハルヴァックス。ハルヴァクス。(日外西洋)
  • エルスター Elster, Julius 1854-1920 ドイツの実験物理学者。生涯を通じて、常にガイテルと共同研究をおこなった。ヴォルフェンビュッテル高等学校の教師をしながら、放射性物質、光電作用、気象電気などの研究に従事し、大気イオンの発見、鋭敏な光電池の作成によって知られている。(岩波西洋)
  • ガイテル Geitel, Hans Friedrich 1855-1923 ドイツの物理学者。ブラウンシュヴァイク工業大学教授。J. エルスターと共に光電効果に関する多くの研究をおこない、特にアルカリ金属に偏光をあて、選択光電効果を発見した。(岩波西洋)
  • フレミング John Ambrose Fleming 1849-1945 イギリスの電気工学者。電流と磁場に関するフレミングの左手・右手の法則を発見。また二極真空管を発明し、電気通信技術に貢献。
  • -----------------------------------
  •    二一、電気素量、電子の性質
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  • デュフェイ → デュ・フェイ
  • デュ・フェイ Du Fay, Charles Francois de Cisternay 1698-1739 フランスの化学者、物理学者。電気に陰陽の2種があり、それに反撥および吸引の作用のあることを発見した。また、燐光、複屈折、磁針等に関する研究もある。(岩波西洋)
  • フランクリン Benjamin Franklin 1706-1790 アメリカの政治家・文筆家・科学者。印刷事業を営み、公共事業に尽くした。理化学に興味を持ち、雷と電気とが同一であることを立証し、避雷針を発明。また、独立宣言起草委員の一人で、合衆国憲法制定会議にも参与。自叙伝は有名。
  • ファラデー Michael Faraday 1791-1867 イギリスの化学者・物理学者。塩素の液化、ベンゼンの発見、電磁誘導の法則、電気分解のファラデーの法則、ファラデー効果および反磁性物質などを発見。電磁気現象を媒質による近接作用として、場の概念を導入、マクスウェルの電磁論の先駆をなす。主著「電気学の実験的研究」
  • ロバート・ミリカン Millikan, Robert Andrews 1868-1953 アメリカの物理学者。シカゴ大学で教え、ついでカリフォルニア理工科大学理事長兼同ノーマン・ブリジ物理学研究所長。気体中のブラウン運動を実験し、ついで油滴実験法を考案して電子電荷の大きさの精密測定に成功した(1909)。イオン化度の大きいイオンから発する紫外部スペクトルを研究して極めて波長の短い〈ミリカン線〉を発見(1918)、また光電効果を用いるプランク定数の計算、宇宙線の研究等をおこなった。ノーベル物理学賞を受く(1923)。(岩波西洋)
  • ジョンストン・ストーニー Sto'ney, George Johnstone 1826-1911 イギリス(アイルランド)の物理学者。ゴールウェー(アイルランド)のクイーンズ・カレッジ教授、クイーンズ大学教授。物理光学、分子物理学、気体の運動論に関する研究があり、また〈電子 electron〉の命名者で、その電荷の近似計算をおこなった(1874)。(岩波西洋)
  • タウンセンド → タウンゼンド
  • タウンゼンド Townsend, Sir John Sealy Edward 1868-1957 イギリスの物理学者。電気素量の確立に貢献。(日外西洋)
  • ウィルソン Charles Thomson Rees Wilson 1869-1959 イギリスの物理学者。気体の電離や気象電気について研究、ウィルソン霧箱を発明。ノーベル賞。
  • オリヴァー・ヘヴィサイド Heaviside, Oliver 1850-1925 イギリスの電気工学者、物理学者。電気通信の研究で知られ、大気上層に電波を反射するイオン気体の層が存在することを予想し(1902頃)、同じ頃同様の提案をしたケネリと両名の名を冠し、このイオン層(電離層)を〈ケネリ・ヘヴィサイド層〉とよんでいる。また二重通信の可能性を提案(1876頃)、更に電磁気学に新しい単位(ヘヴィサイド単位)を提唱したほか、運動物体の電気力学において旧時の質量恒存則の成立しないことを論じた(1889)。なお数学的研究では、ベクトル解析、演算子解析(ヘヴィサイド演算子法)にも寄与した。(岩波西洋)
  • アブラハム → マックス・アブラハム
  • マックス・アブラハム Abraham, Max 1875-1922 ドイツの理論物理学者、ミラノ大学教授。電子を剛体球とみなして、これに理論的解明を与え、電子の全質量はすべて運動速度の函数たる電磁質量であり、そのほかに不変な力学的質量は存しないとした。それが彼の〈剛体性電子論〉で、H. A. ローレンツ電子論と対立する。また一般相対性理論における光速度可変の仮定が、万有引力論に関してはなはだしい困難に当面するところから、旧来の絶対論を支持した。(岩波西洋)
  • カウフマン Kaufmann, Walter 1871-1947 ドイツの物理学者。電子が光速度に近い速度で運動する際に、その質量が急激に増大することを実験した。(日外西洋)
  • ローレンツ Hendrik Antoon Lorentz 1853-1928 オランダの理論物理学者。電子理論および相対性理論の先駆者。マクスウェルの電磁理論を発展させ、光の媒質としてエーテルを仮定。また、ローレンツ収縮・ローレンツ変換の式などを見出した。ノーベル賞。
  • アインシュタイン Albert Einstein 1879-1955 理論物理学者。光量子説・ブラウン運動の理論・特殊相対性理論・一般相対性理論などの首唱者。ユダヤ系ドイツ人。ナチスに追われて渡米。プリンストン高等研究所で相対性理論の一般化を研究。また、世界政府を提唱。ノーベル賞。
  • ブッヘレル → ブーヘラーか?
  • ブーヘラー Bucherer, Alfred 1863-1927 ドイツの物理学者。電子論に関する研究がある。(日外西洋)
  • ベステルマイヤー
  • フプカ
  • フランツ・エルンスト・ノイマン Franz Ernst Neumann 1798-1895 ドイツの鉱物学者、物理学者、数学者である。電磁気学の誘導電流に関するノイマンの法則(ファラディ=ノイマンの法則)、固体のモル比熱に関するノイマン=コップの法則などに名前が残っている。(Wikipedia)
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  •    二二、物質の電子論及びその発展
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  • ポール・ランジュバン Paul Langevin 1872-1946 ランジュヴァン。フランスの理論物理学者。コレジュ・ド・フランスの教授、パリ大学物理化学研究所長。諸物質の磁性を研究し、特に W.E. ヴェーバーの分子電流の考察に基づき、常磁性体の帯磁の際の磁気能率の温度変化に関する〈キュリーの法則〉を統計力学を用い立証した(1905)。他にブラウン運動の理論、二次X線、相対理論の研究がある。第二次大戦中はナチスに捕われたが、スイスに逃れ反ナチス抵抗運動に参加した。(岩波西洋)
  • パウル・ドルーデ Paul Karl Ludwig Drude 1863-1906 ドイツの物理学者。金属の電気伝導に自由電子のモデルを摘要した。(Wikipedia)/ドイツの理論物理学者。ライプチヒ大学助教授、ギーセン、ベルリンの各大学教授。光学現象と電気現象との関連を研究して光学に寄与し、また電子論の立場から金属物理学を発展させた。その他電波に関する諸問題をも研究した。(岩波西洋)
  • マックス・プランク Max Planck 1858-1947 ドイツの理論物理学者。熱放射の理論的研究を行い、量子力学への道を拓いた。ノーベル賞。
  • ニールス・ボーア Niels Bohr 1885-1962 デンマークの理論物理学者。量子論の立場からはじめて原子構造を解明し、相補性原理を提唱、量子力学建設の指導者。第二次大戦中イギリスへ亡命、アメリカの原爆開発計画に協力。戦後、原子力の国際的管理に努力した。門下から、物理学・化学から分子生物学に至るノーベル賞学者を輩出。ノーベル賞。
  • バルマー Baimer, Johann Jakob 1825-1898 スイスの物理学者、数学者。バーゼル大学教授。水素原子のスペクトル線中に一つのスペクトル系列〈バルマー系列〉の存在を発見した。(岩波西洋)
  • ゾンマーフェルド Sommerfeld, Arnold 1868-1951 ゾンメルフェルト。ドイツの理論物理学者。数理物理学者。アーヘン工業大学教授、ベルリン大学理論物理学教授。はじめ独楽(こま)の理論、ついで無線工学における電波の伝播について研究した。さらに N. ボーアの原子構造論に数学的形式を与え、ついでスペクトルの微細構造の理論、X線スペクトルの理論を発表した。また〈フェルミ・ディラックの統計法〉を基礎とする〈ゾンメルフェルトの金属電子論〉を発展させるなど物理的問題の数学的処理に大きな寄与をした。(岩波西洋)
  • シュワルツシルド → カール・シュヴァルツシルト
  • カール・シュヴァルツシルト Karl Schwarzschild 1873-1916 シュワルツシルト。ドイツの天文学者・数理物理学者。一般相対性理論に基づいてブラック‐ホールの限界をきめるシュワルツシルト半径を導くなど、業績は多方面にわたる。第一次大戦に志願従軍し戦病死。
  • エプシュタイン P. S. Epstein 1883-1966 ゾンマーフェルトは1915-16年、電子が円軌道を描くボーアの水素原子の理論を拡張し、量子条件の一般化の定式化をおこない、相対論的効果によってスペクトルの微細構造を説明した。ゾンマーフェルトの量子条件はさらにエプシュタイン、シュヴァルツシルトらによって拡張、精密化され、ゼーマン効果やシュタルク効果の説明が試みられた。(科学史「前期量子論」p.570r)
  • ピーター・ゼーマン Pieter Zeeman 1865-1943 オランダの実験物理学者。アムステルダム大学教授。磁場内にある発光体の発するスペクトル線は数本に分れて偏光現象を呈するという〈ゼーマン効果〉を発見(1896)、ローレンツの電子論に実験的確証を与え、原子構造の理論的発展に寄与した。ローレンツと共にノーベル物理学賞を受く(1902)。(岩波西洋)
  • ヨハネス・シュタルク Johannes Stark 1874-1957 ドイツの物理学者。シュタルク効果の提唱者。1905年:カナル線におけるドップラー効果の発見。1913年:水素スペクトル線のシュタルク効果を発見。1919年:ノーベル物理学賞受賞。(Wikipedia)
  • ウエルネル・ハイゼンベルグ → ヴェルナー・カール・ハイゼンベルク
  • ヴェルナー・カール・ハイゼンベルク Werner Karl Heisenberg 1901-1976 ドイツの理論物理学者。父(August H. 1869-1930)はミュンヘン大学言語学教授でビザンティン学者。ミュンヘン大学でゾンメルフェルトに学び、ついでゲッティンゲン大学、コペンハーゲン大学で、それぞれ M. ボルンおよびボーアの指導を受けた。ライプチヒ大学、ベルリン大学の理論物理学教授、マックス・プランク研究所長、ゲッティンゲン大学教授。はじめボーアの原子構造理論の展開に協力し、今日の量子力学の最初の着想を発表(1925)。この理論とシュレーディンガーの波動力学とにより量子力学の基礎が確立した。さらに不確定性原理を述べてこの分野に新解釈を導入し、パウリと共同して量子電磁気学を展開し(1929)、また原子核が中性子と陽子とからなるという理論を発表し(1932)、なお宇宙線の理論的分析、場の理論の限界を論述するなど量子力学の基礎的諸問題の研究に指導的な役割を演じ、更にまた素粒子論の最も基礎的な問題の研究をおこなった。ディラックと共に来日(1929)、東京および京都で講演した。研究指導にもすぐれ、彼の門から F. ブロッホ、パイエルス等の逸材を出した。ノーベル物理学賞を受けた(1932)。(岩波西洋)
  • ルイ・ド・ブロイ Louis Victor de Broglie 1892-1987 ブローイー。フランスの理論物理学者。波動力学の先駆者。物質における波動性を主張し、粒子性と波動性とを融合させた。ノーベル賞。
  • エルウィーン・シユレーデインゲル → エルヴィン・シュレーディンガー
  • シュレーディンガー Erwin Schrodinger 1887-1961 オーストリアの理論物理学者。波動力学の理論を発表。量子力学で波動関数の時間的・空間的発展を記述する基礎方程式(シュレーディンガー方程式)を導く。のち生物物理学を先導。ノーベル賞。
  • デヴィソン Davisson, Clinton Joseph 1881-1958 デーヴィソン。アメリカの実験物理学者。ベル研究所研究員。同僚ガーマー(Lester Halbert Germer 1896-)と共に、電子線をニッケル単結晶の表面に当て、電子波の回折に関する実験をおこない(1927)、電子の波動性を実証した。G.P. トムソンと共にノーベル物理学賞を受く(1937)。(岩波西洋)
  • ジャーマー
  • ジョージ・パジェット・トムソン George Paget Thomson 1892-1975 イギリスの原子物理学者。J.J.トムソンの息子。電子の波動性を実証。ノーベル賞。
  • 菊池正士 きくち せいし 1902-1974 原子物理学者。東京生れ。大麓の子。理化学研究所時代、雲母の単結晶薄片を用いて電子線回折像を研究。日本の原子核研究・原子力開発の指導者。文化勲章。
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  •    二四、宇宙線
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  • ヘッス → ヴィクトール・フランツ・ヘス
  • ヴィクトール・フランツ・ヘス Victor Franz Hess 1883-1964 オーストリア生まれで、後にアメリカ合衆国に移住した物理学者。1936年、宇宙線を発見した功績でノーベル物理学賞を受賞した。/アメリカ(オーストリア生まれ)の物理学者。グラーツ、インスブルックの各大学教授。アメリカに亡命し(1938)、カーネギー研究所所員。アメリカに帰化(1944)。主として放射性現象を研究し、気球で高空観測をおこない、宇宙線の諸性質を初めて精確に検査した。宇宙線の発見とその研究によりノーベル物理学賞を受く(1936)。なおラジウムから放射されるα粒子数を決定した(1918)。(岩波西洋)
  • コールヘルスター W. Kolhorster ?-? 1929年、ボーテと共に、ガイガー=ミュラー計数管を用いて宇宙線は荷電粒子であると考えられることを示し、宇宙線が地球の磁場で曲げられるとした。(科学史「宇宙線」p.96r)
  • ミリカン → ロバート・ミリカン
  • コッククロフト John Douglas Cockcroft 1897-1967 イギリスの物理学者。英原子力研究所長。ウォルトンと共に直流高電圧の加速器をつくり、加速した陽子を原子核に当てて原子の人工破壊に成功。ノーベル賞。
  • ワルサー・ボーテ Walther Wilhelm Georg Bothe 1891-1957 ドイツの物理学者。ベルリン大学で M.プランクに師事。ベルリン、ギーセン、ハイデルベルクの各大学教授を歴任してカイザー・ヴィルヘルム研究所物理学部長、のちナチスに協力して原子力研究に従事した(1939-45)。原子物理学および原子核物理学の実験的研究をおこない、特にX線が電子によって散乱される時、X線と電子が同時に散乱されることを確かめた実験(エネルギー保存則の個別的成立の確認)、α線の衝撃でベリリウム原子が質量13の炭素原子に変わる実験や(1931)、リチウムを高速プロトンで衝撃した際に発生する高エネルギーのγ線を用いて原子核の人工転換をおこなった実験は著名。M.ボルンと共にノーベル物理学賞を受く(1954)。(岩波西洋)
  • チャディック イギリス。


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『岩波西洋人名辞典増補版』、『科学史技術史事典』(弘文堂、1983.3)、『西洋人物レファレンス事典』(日外アソシエーツ、1984.2)。



*難字、求めよ

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  •    一九、X線および放射能
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  • X線 エックスせん (X-rays) 電磁波の一種。ふつう波長が0.01〜10ナノmの間。1895年レントゲンが発見、未知の線という意味でX線と命名。物質透過能力・電離作用・写真感光作用・化学作用・生理作用などが強く、干渉・回折などの現象を生じるので、結晶構造の研究、スペクトル分析、医療などに応用。レントゲン線。
  • 放射能 ほうしゃのう (radioactivity) 放射性物質が放射線を出す現象または性質。
  • 放射線 ほうしゃせん (radiation) (1) 放射性元素の崩壊に伴って放出される粒子線または電磁波。アルファ線・ベータ線・ガンマ線の3種をいうが、それらと同じ程度のエネルギーをもつ粒子線・宇宙線も含める。アルファ線はヘリウムの原子核、ベータ線は電子または陽電子から成る粒子線、ガンマ線は非常に波長が短い電磁波。いずれも気体を電離し、写真作用・蛍光作用を示す。1896年ベクレルにより、ウラン化合物から発見された。(2) 広義には種々の粒子線および電磁波の総称。輻射線。あるいは単に放射・輻射ともいう。
  • レナード線
  • 白金青酸バリウム
  • レントゲン線 (→)X線に同じ。
  • X線管 エックスせんかん X線を発生させるための真空管。陰極から放出される電子を高電圧で加速し、これをタングステン・銅などの陽極(対陰極)に衝突させて、そこから発生させる。
  • クーリッジ管 クーリッジかん (Coolidge tube) X線管の一つ。加熱した陰極から放出される電子を高電圧で加速し、陽極に衝突させてX線を発生させる。アメリカの物理学者クーリッジ(W. D. Coolidge1873〜1975)が開発。
  • 病患 びょうかん やまい。わずらい。病気。
  • 対陰極
  • 陰極線 いんきょくせん 真空放電の際、陰極から陽極に向かって発する高速の電子の流れ。また一般に、熱陰極から発する高速電子流。
  • 陽放射線
  • 磁気 じき (magnetism) 磁石の相互作用および磁石と電流の相互作用などの根元となるもの。また、磁極を指すこともある。
  • 感応コイル かんのうコイル 誘導コイルに同じ。
  • 誘導コイル ゆうどうコイル (コイルは coil)(1) 電気エネルギーを磁気エネルギーに変え、さらに、火花などの熱エネルギーに変えるために用いられる一次コイルだけを持ったコイル。自動車などの点火火花発生器に用いられる。誘導線輪。インダクションコイル。(2) 一次コイルと二次コイルを持ち、一次コイルに流れる電流を断続して二次コイルに高電圧を発生させるようにした装置。誘導線輪。感応コイル。インダクションコイル。
  • イオン化 イオンか (ionization) 原子または分子が電子を得るか失うかしてイオンになる現象。電離。
  • 伝導体
  • 電磁波 でんじは 電磁場の周期的な変化が真空中や物質中を伝わる横波。マクスウェルの電磁理論によって、光やX線が電磁波にほかならないことが示された。
  • ウラニウム塩類
  • ウラニウム uranium (→)ウランに同じ。
  • ウラン Uran (天王星Uranusに因む) 放射性元素の一種。元素記号U原子番号92。原子量238.0。ピッチブレンド・カルノー石などを原料とする。天然ウランは質量数238の同位体を99.3%、235の同位体を0.7%、234の同位体を極少量含む。ウラン235は中性子を衝突させると核分裂を起こし、莫大なエネルギーと同時に平均2.5個の中性子を出すので、臨界量以上あつめれば連鎖反応すなわち核爆発を起こす。また、天然ウランやウラン235の濃度を高めた濃縮ウランを原子炉中に置き、減速材を用いることによって、ウラン235の核分裂を持続的に行わせ、発電その他のエネルギー源とする。ウラニウム。
  • ベクレル線 -せん 放射性元素から出る放射線の総称。1896年、アンリ=ベクレルがウランにおいて初めて発見した。ベックレル線。
  • 臭化リチウム
  • 臭化 しゅうか 〔化〕臭化物であることを示す語。
  • 臭化物 しゅうかぶつ (bromide) 臭素と他の元素または原子団との化合物。臭化水素・臭化カリウムの類。
  • ガス管球
  • 癌腫 がんしゅ 上皮性の悪性腫瘍。組織を破壊して増殖し、しばしば転移をおこす。壊死・潰瘍形成・出血などを伴い、進行すると全身の栄養障害(悪液質)を招く。胃癌・食道癌・舌癌・子宮癌・乳癌・肺癌の類。
  • ロイマチス → リウマチ
  • リウマチ rheumatisch 運動器に疼痛を生ずる疾患の総称。筋肉や関節に痛みと炎症が多発し、それが身体の各部に流れていく(ギリシア語rheuma)ように感じられるところから名づけられた。現在ではリウマチ熱、慢性関節リウマチおよびリウマチ性多発性筋肉痛に限ってその名称を用い、殊に前2者を指すことが多い。リューマチ。リョーマチ。ロイマチス。
  • 四槽浴
  • 原子核物理学 げんしかく ぶつりがく 原子核の構造と性質に関連する核反応・核分裂・放射能などの研究をする物理学。核物理学。
  • トリウム化合物
  • トリウム thorium (スカンディナヴィア神話の雷神Thorから) 放射性元素の一種。元素記号Th 原子番号90。原子量232.0。灰色の重い金属で、空気中で強熱すれば燃焼して酸化物となり、また、高温において塩素・硫黄・窒素などと化合する。
  • ピッチブレンド pitchblende 閃ウラン鉱のうち、特に塊状で結晶度の低いもの。瀝青ウラン鉱。
  • 酸化ウラニウム
  • ラジウム radium (ラテン語で光線の意のradiusから) アルカリ土類金属元素の一種。元素記号Ra 原子番号88。ピッチブレンド中にウランと共存する。1898年キュリー夫妻が発見。銀白色の金属。天然に産する最長寿命の同位体は質量数226、アルファ線を放射して半減期1602年でラドンに変化する。医療などに用いる。
  • ポロニウム polonium (発見者キュリー夫人の生国ポーランドのラテン語名ポロニアに因む) 放射性元素の一種。元素記号Po 原子番号84。銀白色の金属。ウラン鉱石などの鉱物中に含まれる。
  • 放射性物質 ほうしゃせい ぶっしつ 放射性元素を含む物質の総称。
  • 原子量 げんしりょう 天然の元素の原子の相対的な質量を一定の基準に基づいて表したもの。以前は天然の酸素を基準にとり、その原子量を16とした。1961年以降は質量数12の炭素原子を基準にとり、その原子質量を12として他の元素の原子の質量を表す。
  • α線 アルファせん ラジウムなどの放射性物質から出る放射線の一種。アルファ粒子の流れで、透過力は小さいが電離作用が強い。
  • β線 ベーターせん ベータ線。放射線の一種。高速度の電子または陽電子から成る。透過力・電離作用は、アルファ線とガンマ線の中間。
  • γ線 ガンマせん 放射線の一種。極めて波長の短い電磁波(波長10-11m程度以下、エネルギー1メガ電子ボルト以上をいうが、X線との境界は不明確)で、物質を透過する能力が非常に強い。医療・工業、物性研究用に使われている。
  • カナル線
  • 電子 でんし (electron) 素粒子の一つ。原子・分子の構成要素の一つ。19世紀末、真空放電中に初めてその実在が確認された。静止質量は9.1094×10-31キログラム。電荷は−1.602×10-19クーロンで、その絶対値を電気素量という。スピンは1/2。記号eまたはe- エレクトロン。
  • 硫化亜鉛 りゅうか あえん 化学式ZnS 硫黄と亜鉛との化合物。白色の固体。亜鉛塩水溶液に硫化水素を通したとき沈殿として得られる。白色顔料として用いる。天然には閃亜鉛鉱、稀にウルツ鉱として産する。両者は結晶構造を異にする。
  • スピンタリスコープ → スピンサリスコープか
  • スピンサリスコープ spinthariscope 放射線源から出るα粒子が蛍光板にあたって生じるきらめきを拡大して見る器械。(カタカナコン)
  • 燦爛 さんらん きらめき輝くさま。
  • イオン化 イオンか (ionization) 原子または分子が電子を得るか失うかしてイオンになる現象。電離。
  • ヘリウム helium (ギリシア語で太陽の意のheliosに因む) 希ガス元素の一種。元素記号He 原子番号2。原子量4.003。1868年皆既日食のときの太陽紅炎のスペクトル観測から太陽に存在すると推定され、地上では1894年クレーベ石から得た気体中に発見された。空気中にごく少量含まれているが、工業的には天然ガスより分離する。無色・無臭。化学的に不活性で、水素に次いで軽い気体。液体ヘリウムは極低温物性研究に不可欠。
  • スペクトル spectre (1) 光を分光器にかけて得られる、波長とその波長における強さを示したもの。その形によって、連続スペクトル・線スペクトル・帯スペクトルに分ける。
  • トリウム・エマナチオン
  • エマナチオン Emanation (流出、発散の意)エマナチオンはドイツ語読み。英語ではエマネーション。放射性希ガス類元素。天然にはアクチノン、トロン、ラドンという3種の同位体として存在し、ラジウムが崩壊する時などに生まれる。記号Em。医療に利用される。(カタカナコン)
  • 変脱理論 → 核の崩壊か
  • 崩壊 ほうかい (2) 〔理〕放射性元素が放射線を出して他の元素に変化する現象。また不安定な素粒子が2個以上の他の粒子に分裂する現象。壊変。
  • 核の崩壊 nuclear disintegration (物理学)
  • ウラニウム・ラジウム系列 -けいれつ ウラン系列。天然の放射性核種の壊変系列の一つ。ウラン同位元素ウラン238からα崩壊、β崩壊によりラジウムを経て、鉛の安定同位元素ラジウムGに到る。ウラン・ラジウム系列。
  • トリウム系列 トリウム けいれつ トリウム232から始まり鉛208で終わる放射性核種の崩壊系列。この系列の核種の質量はすべて4n(nは整数)となるので、4n系列ともいう。
  • アクチニウム系列 -けいれつ 天然放射性元素の壊変形列の一つ。七回のα崩壊、四回のβ崩壊により、ウラン235から、アクチニウムを経て、鉛の安定同位元素アクチニウムDになって、放射能を失う。アクチノウラン系列。
  • アクチニウム actinium (放射線を出すので、ギリシア語のaktis(光線)から) 放射性元素の一種。元素記号Ac 原子番号89。1899年、瀝青ウラン鉱(ピッチ‐ブレンド)中に発見。天然のものは質量数227で、半減期22年。
  • 鉛 なまり (lead) 金属元素の一種。元素記号Pb 原子番号82。原子量207.2。青みを帯びた灰色の金属。方鉛鉱などから採取。重く(比重11.3)、かつ軟らかい。展性に富み、極めて薄い板に製しうるが、延性に乏しく、細線とすることはできない。湿った空気中では酸化されて表面が薄くくもる。そのまま、または合金および化合物として、鉛管・鉛板および蓄電池極板・活字合金・半田鑞などに用いる。
  • ハロ halo ハロー。(1) 暈(かさ)。(2) 光輪。
  • 半減時間 → 半減期
  • 半減期 はんげんき 放射性元素の原子数が崩壊により半分に減るまでの時間。ウラン238は45億年、プルトニウム239は2万4000年。
  • 対量
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  •    二〇、光電気効果、リチャードソン効果
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  • 紫外線 しがいせん (ultraviolet radiation) スペクトルが紫色の外側に現れる電磁波。波長は可視光線より短く、X線より長い1〜400ナノmの間。太陽光中にあるが、眼には感じない。日焼けの原因となり、癌を誘発する。化学線。菫外線。UV
  • 光電気効果 → 光電効果か
  • 光電効果 こうでん こうか 金属または半導体を真空中に封入し、光を照射すると、その表面から電子が放出される現象。光量子説の実験的根拠になった。光電管、テレビジョンの撮像管などに利用されている。光によって物質的に起電力が生ずる内部光電効果に対し、外部光電効果ともいう。光起電力効果。
  • リチャードソン効果 -こうか Richardson effect 金属を熱すると熱電子が飛び出す現象。エジソン効果とも。1884年、エジソンが発見。イギリスの物理学者O.W. リチャードソンが理論的に研究した。(カタカナコン)
  • 熱電子 ねつでんし 高温度にある金属や半導体の表面から放出される電子。
  • フレミング真空球
  • 真空球
  • 真空管 しんくうかん 内部を高度に真空にし、電極を封入した中空の管球。陰極から陽極に流れる電子流を制御することによって増幅・検波・整流・発振などに幅広く用いたが、現在はトランジスター・ICなどの半導体にその座を譲り、一般用にはほとんど使われない。マイクロ波管・X線管など、特殊用途のものだけが残っている。
  • 検波器 けんぱき 無線受信装置内にあって、高周波電流の検波をおこなう装置。整流作用をもつダイオード、トランジスタ、真空管などを用いる。
  • 無線電話 むせん でんわ 電線の媒介によらず、電波を利用した電話。
  • 繊条 せんじょう (1) 細い線。(2) (「線条」とも書く)(→)フィラメントのこと。
  • 基電位
  • 感応 かんのう (3) 〔電〕(→)誘導 (2) に同じ。
  • 誘導 ゆうどう (2) 〔理〕電気・磁気がその電場・磁場内にある物に及ぼす作用。静電誘導・電磁誘導の類。感応。
  • 鉱石検波器 こうせき けんぱき 鉱物と金属針との接触面の整流作用を利用した検波器。初期のラジオ受信に用いた。
  • 三極真空管 さんきょく しんくうかん 陽極と陰極の間に格子状または網状の第三の極、グリッドを入れた真空管。グリッドに正・負の小さな電圧をかけても、それに応じて陽極へ流れる電流を大きく変化させることができるので整流、増幅、検波、発振などに使用。
  • 三極熱電子管
  • 電子管 でんしかん electron tube ガラス・金属・セラミックスなどの容器中の空間に電子流をつくって利用する装置。真空管・放電管など。(広辞苑)/真空管と同義であるが、電気信号増幅用のものを真空管とよぶ場合が多い。1904年に J.A. Fleming が熱陰極の二極管検波器を発明し、安定な検波をおこなった。これが電子管の実用化第一歩。1907年、L.De.Forest が三極管を発明、1913年、A.Meissner は三極管を使って発振を持続させることに成功。(物理学)
  • 熱電子管 ねつでんしかん 熱電子放出を応用した真空管や放電管、ブラウン管など。
  • 二極電子管 → 二極真空管
  • 二極真空管 にきょく しんくうかん 陰極にあたるフィラメントと陽極にあたるプレートを封入した真空管。陽極が正電位のときだけ陰極から熱電子が放出されて電流が流れるので、整流や検波に用いられる。
  • グリッド grid (1) 電子管の電極の一つ。カソード(陰極)とプレート(陽極)との間に置いて、その電位の高低によって主に電子流を制御する作用をさせる。目的によって制御グリッド・遮蔽グリッド・抑制グリッドなどに分かれる。格子。
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  •    二一、電気素量、電子の性質
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  • 電気量 でんきりょう 物質のもつ電荷の量。単位はクーロン(C)。電気量の総量が不変であるという電気量保存則は、物理学の根本法則の一つ。
  • 電気分解 でんき ぶんかい 化合物を水溶液または溶融状態として、これに電極を入れて電流を通じ、両電極で化学変化を起こさせること。電解。
  • 化学当量 かがく とうりょう 化学反応性に基づいて定められた元素・化合物の一定量。水素原子の1モルまたは酸素原子の2分の1モルと化合または置換し得る他の元素の量をグラムで表し、元素の1当量とする。酸・塩基では、酸として作用する1当量の水素を含む酸の量およびこれを中和する塩基の量を、1当量とする。
  • 電解質 でんかいしつ (electrolyte) 水などの溶媒に溶かしたとき、陽イオンと陰イオンとに解離し、その溶液が電気を導くようになる物質。酸・塩基・塩の類。
  • 電気素量 でんき そりょう 電子の有する電気量の絶対値(すべての電気量はこの整数倍)。1.602177×10-19クーロン。荷電粒子と電磁場との相互作用の強さの尺度であり、基礎定数の一つ。素電荷。記号e
  • 静電単位 せいでん たんい 電磁気に関する単位系の一つ。静電気に関するクーロンの法則を利用して電気量の単位を定め、これと、長さ・時間などの諸単位とを組み合わせて電磁気諸量の単位を導いたもの。基礎理論で用いられることが多い。記号esu
  • 仮現 かげん 神仏などが、かりにこの世に身をあらわすこと。化身。
  • 電磁的質量 でんじてき しつりょう? → 電磁質量
  • 電磁質量 でんじ しつりょう 古典電子論において、電子など電荷をもった粒子の運動を決める質量を、この粒子に伴う電磁場(これを自己場という)のエネルギー、運動量から説明しようとして、これを電磁質量とよんだ。電子の慣性質量のすべて、または一部が電子の自己場によると解釈できる。また、H.A. Lorentz によるローレンツ収縮をおこす電子のモデルに対しても、同様に電磁質量を求めることができる。しかし、電磁場のエネルギーと運動量はそれだけでは四元ベクトルの成分とはならないので、電子の質量全部を電磁質量とみなすことはできない。(物理学)
  • 相対性理論 そうたいせい りろん (theory of relativity) アインシュタインが創唱した特殊相対性理論と一般相対性理論との総称。特殊相対性理論は1905年に提出され、光の媒質としてのエーテルの存在を否定、光速度がすべての観測者に対して同じ値をもつとし、また自然法則は互いに一様に運動する観測者に対して同じ形式を保つという原理をもとに組み立てられた。一般相対性理論は1915年に提出され、前者を一般化して、すべての観測者にとって法則が同形になるという要請から万有引力現象を説明。この理論によれば、時間と空間は互いに密接に結びつけられて、4次元のリーマン空間を構成する。相対論。
  • 質量 しつりょう 〔理〕(mass) 物体が有する固有の量。物体の重量とは区別される。力が物体を動かそうとする時に物体の慣性によって生じる抵抗の度合を示す量(慣性質量)として定義され、他方万有引力の法則から2物体間に働く引力がおのおのの質量(重力質量)の積に比例するとして定義される。実験によれば、両質量は同等である。単位はキログラム、またはグラム。
  • 縦質量
  • 横質量 よこしつりょう? transverse mass → 横運動量
  • 静質量 → 静止質量か
  • 静止質量 せいし しつりょう 静止した粒子のもつ質量。すなわち、その粒子に固有の質量。素粒子では運動に伴う質量の変化が顕著なので、それと区別していう。
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  •    二二、物質の電子論およびその発展
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  • 光学 こうがく 光の性質を研究・応用する物理学の諸部門の総称。光の諸側面に応じて、幾何光学・物理光学・分光学などがある。メーザー・レーザーの発明によって発展した量子光学を含める。
  • 電子論 でんしろん (1) ローレンツの電子論。物質を電子および陽イオンの集合と見なし、物質の光学的・電磁気的・熱的性質をローレンツ力による電子の運動として説明。(2) ディラックの電子論。量子力学に相対性理論を取り入れ、新しく電子の波動方程式(ディラック方程式)を導き、これを基礎として、電子のスピンや陽電子の存在を説明。
  • 自由電子 じゆう でんし 真空中や物質中を自由に運動する電子。金属が電気や熱の良導体であることがこれによって説明される。原子の外殻電子のうち、原子からの束縛力の最小のものが自由電子になりうる。
  • 電気抵抗 でんき ていこう 電流の通りにくさを表す値。両端に与えた電位差の値をその間に流れる電流の値で割ったもの。この値は温度が一定ならば、電位差の大小に無関係。単位はオーム(Ω)。
  • 熱伝導 ねつでんどう 熱が物体の高温部から低温部へ物体中を伝わって移動する現象。主に、金属での熱の伝わり方。
  • 熱伝導度 → 熱伝導率
  • 熱伝導率 ねつでんどうりつ 熱の伝わりやすさを表す物質定数の一つ。熱の流れに垂直な単位面積を通り、1秒間に流れる熱量を単位温度勾配(単位長さ当りの温度差)で割った値。金属は熱伝導率が大きい。
  • 起電力 きでんりょく 回路の抵抗に抗して電流を生じさせる原因となる力。動電力。単位はボルト(V)。
  • 束縛電子 そくばく でんし 原子内のきまった軌道から自由に移動できない電子。←→自由電子。
  • 静電気感応
  • 電媒質 でんばいしつ 誘電体に同じ。
  • 誘電体 ゆうでんたい 電場の中におくと分極するが、直流電流を生じない物質。電気的絶縁体に同じ。電媒質。
  • 光波 こうは 光の波動。
  • 振動電気力
  • 輻射 ふくしゃ (2) 〔理〕(radiation)(→)放射に同じ。
  • 放射 ほうしゃ (2) 〔理〕(radiation)熱線・電磁波などが物体から四方八方に放出される現象。あるいは放出された電磁波や粒子線の総称。輻射。
  • 反磁性 はんじせい 加えた磁場と反対の向きに磁化がおこる性質。通常、磁化の程度は極めて微弱。
  • 量子 りょうし 〔理〕(quantum) 不連続な値だけを持つ物理量の最小の単位。物体の発する放射エネルギーについてまず発見され、エネルギー量子と呼ばれた。
  • 量子論 りょうしろん (1) (→)量子力学に同じ。(2) 一つの物理系を量子力学を基礎に研究することを、その物理系の量子論という。これに対して、古典物理学の方法による研究をその物理系の古典論という。
  • 量子力学 りょうし りきがく 分子・原子・原子核・素粒子などの微視的物理系を支配する物理法則を中心とした理論体系。1920年代に完成。物理系の状態には線型空間内のベクトルを対応させ、物理量にはその上の演算子を対応させるという抽象的構造を持つ。不確定性原理を基本とし、観測値の予言は一般に確率的に与えられるが、状態の時間的変化を記述するシュレーディンガー方程式は因果的である。
  • 黒体輻射 こくたい ふくしゃ → 黒体放射
  • 黒体放射 こくたい ほうしゃ すべての波長の放射を完全に吸収すると仮想された物体(黒体)から放出される熱放射。黒体輻射。空洞放射。
  • 原子熱 げんしねつ 1モルの物質の温度を1度上げるのに必要な熱量。その元素の比熱に原子量を掛けたものに等しい。
  • 作用量 さようりょう エネルギーと時間との積の次元をもつ物理量。狭義にはラグランジアンを時間に関して積分したもの。
  • 角運動量 かくうんどうりょう 〔理〕1定点に関する運動量のモーメント。剛体では、その大きさは回転軸のまわりの慣性モーメントと角速度の積。
  • バルマー公式 -こうしき (各元素の)スペクトル線の並び方に規則性を見出そうとする試みがなされ、1885年にバルマー(J.J. Balmer、1825-98)は水素スペクトルの4本の輝線の波長が今日バルマーの公式と呼ばれている数式によって表されていることを発見した。その後、すべての元素にあてはまるような公式がリュードベリ、リッツらによって研究された。(科学史「スペクトル分析」p533r)
  • ゼーマン効果 -こうか 光を発する原子を磁界の中におくと、線スペクトルが数本に分かれる現象。1896年、オランダの物理学者ゼーマンが発見した。磁界内で原子の磁気モーメントが、不連続ないくつかの向きしかとり得ないことに起因する。
  • シュタルク効果 シュタルク こうか 光源を強い電場に置くと、その光のスペクトル線のおのおのが数本の線に分かれる現象。ドイツの物理学者シュタルク(Johannes Stark1874〜1957)が1913年に発見。
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  •    二三、電子の波動性
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  • 波動力学 はどう りきがく ド=ブロイの物質波の考えを発展させて、1926年シュレーディンガーが確立した力学。のちハイゼンベルクの行列力学と同等のものであることが明らかにされ、量子力学として統一された。
  • 幾何光学 きか こうがく 物理学の一部門。光の道筋を線としてとらえ、反射と屈折の法則を基礎として、レンズや鏡からなる光学系を通る光線の性質を幾何学的に研究する。光の波長が光学系の大きさに比べて十分に小さい時に成り立つ法則を扱う。
  • 波動光学 はどう こうがく 光を波動として扱う光学の一部門。光を光線として扱う幾何光学に対し、光の干渉・回折・偏り・分散などを主として扱う。光の弾性波説から光の電磁波説へと変わり、光波の伝播は空間の性質に帰せられている。物理光学。
  • 回折 かいせつ 〔理〕(diffraction) 波動に特有な現象で、波動が障害物の端を通過して伝播する時に、その後方の影の部分に回り込む現象。
  • 回折格子 かいせつ こうし (diffraction grating) 光を回折させて、スペクトルを得るのに用いる装置。ふつう、ガラス板や金属板に1mm当り数千本の平行な溝を等間隔につけた平面格子を用いる。
  • 雲母膜
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  •    二四、宇宙線
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  • 宇宙線 うちゅうせん (cosmic rays) 宇宙空間に存在する高エネルギーの放射線、およびそれらが地球大気に入射してできる放射線。前者は、大部分が陽子で、他はヘリウム・炭素・窒素などの原子核。後者は陽子・中性子・中間子などの透過力の大きい硬成分と、電子・ガンマ線などの透過力の小さい軟成分とから成る。宇宙線の起源は超新星の爆発によると考えられている。
  • ヘッス線
  • 高所線
  • ベリリウム beryllium (緑柱石のギリシア語beryllosから) 金属元素の一種。元素記号Be 原子番号4。原子量9.012。緑柱石として産出。銀白色の金属で、展性・延性に富み、セ氏1280度で融解。硫酸・塩酸に容易に溶解して水素を発生。性質はマグネシウム・アルミニウムに似る。軽合金に利用。
  • 超γ線
  • 中性粒子線
  • 中性子 ちゅうせいし 〔理〕(neutron) 素粒子の一つ。陽子よりわずかに大きい質量を有し、電荷をもたず、物質中の透過性が強い。陽子とともに原子核を構成する。1932年、チャドウィックがアルファ粒子をベリリウムにぶつけたとき発見。ニュートロン。
  • 万有引力 ばんゆう いんりょく (universal gravitation) 質量を有するすべての物体間に作用する引力。二つの物体の間に働く万有引力は、両物体の質量の積に比例し、距離の平方に逆比例する。ニュートンが導入し、これによって天体の運行を説明した。


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本国語大辞典 第二版』(小学館、2001.5)『物理学辞典』三訂版(培風館、2005.9)。



*後記(工作員スリーパーズ日記)


書きかえメモ。
ヴュルツブルヒ → ヴュルツブルク
タムソン → トムソン
キューリー → キュリー
孔 → 穴
デュフェイ → デュ・フェイ
ファラディ → ファラデー
タウンセンド → タウンゼンド
ニールス・ボール → ニールス・ボーア
ウエルネル・ハイゼンベルグ → ヴェルナー・ハイゼンベルク
エルウィーン・シユレーデインゲル → エルヴィン・シュレーディンガー

 やっとのこと、ウィンドウズでの本文フォントを「MS明朝」にすることができた。半角の「MS」にしてみたり、縦書きフォントを意味する「@」をつけてみたりと試行錯誤が長くつづいた。まさか「MS」と「明朝」の間に半角スペースが必要なんて……。
 プロポーションは悪くないけれど、やっぱり細い。背景色とフォントの色のコントラストを最大にしないと、ヘアラインやルビが読みにくいだろうなと思う。まあ、これで問題がひとつ解決。
 あとは、画像サイズの問題と、指数表示、欧文記号、外字表記。
 欧文記号や外字表記は、極力、画像埋め込み仕様にしてしまうのがよさそうに思う。




*次週予告


第五巻 第四二号 
電気物語 索引 石原 純


第五巻 第四二号は、
二〇一三年五月一一日(土)発行予定です。
定価:200円


T-Time マガジン 週刊ミルクティー 第五巻 第四一号
電気物語(三)石原 純
発行:二〇一三年五月四日(四)
編集:しだひろし / PoorBook G3'99
 http://www33.atwiki.jp/asterisk99/
出版:*99 出版
 〒994-0024 山形県天童市鎌田2丁目
 アパートメント山口A−202
販売:DL-MARKET
※ T-Timeは(株)ボイジャーの商標・製品です。