石原 純 いしわら じゅん
1881-1947(1881.1.15-1947.1.19)
理論物理学者・歌人。東京生れ。東大卒。東北大教授。相対性理論および古典量子論の研究、自然科学知識の普及啓蒙に努める。著「自然科学概論」、歌集「靉日」など。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。


もくじ 
電気物語(三)石原 純


※ 製作環境
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  (ガイド10プラス)
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*凡例〔現代表記版〕
  • ( ):小書き。 〈 〉:割り注。
  • 〔 〕:底本の編集者もしくは、しだによる注。
  • 一、漢字、かなづかい、漢字の送り、読みは現代表記に改めました。
  •    例、云う  → いう / 言う
  •      処   → ところ / 所
  •      有つ  → 持つ
  •      這入る → 入る
  •      円い  → 丸い
  •      室   → 部屋
  •      大いさ → 大きさ
  •      たれ  → だれ
  •      週期  → 周期
  • 一、同音異義の一部のひらがなを、便宜、漢字に改めました。
  •    例、いった → 行った / 言った
  •      きいた → 聞いた / 効いた
  • 一、英語読みのカタカナ語は一部、一般的な原音読みに改めました。
  •    例、ホーマー  → ホメロス
  •      プトレミー → プトレマイオス
  •      ケプレル  → ケプラー
  • 一、若干の句読点を改めました。適宜、ルビや中黒や感嘆・疑問符・かぎ括弧をおぎないました。一部、改行と行頭の字下げを改めました。
  • 一、漢数字の表記を一部、改めました。
  •    例、七百二戸   → 七〇二戸
  •      二萬六千十一 → 二万六〇一一
  • 一、ひらがなに傍点は、一部カタカナに改めました。
  • 一、カタカナ漢字混用文は、ひらがな漢字混用文に改めました。濁点・半濁点のない仮名は、濁点・半濁点をおぎないました。
  • 一、和暦にはカッコ書きで西暦をおぎないました。年次のみのばあいは単純な置き換えにとどめ、月日のわかるばあいには陰暦・陽暦の補正をおこないました。
  • 一、和歌・俳句・短歌は、音節ごとに半角スペースで句切りました。
  • 一、表や図版キャプションなどの組版は、便宜、改めました。
  • 一、書名・雑誌名・映画などの作品名は『 』、論文・記事名および会話文・強調文は「 」で示しました。
  • 一、「今から○○年前」のような経過年数の表記や、時価金額の表記、郡域・国域など地域の帰属、法人・企業など組織の名称は、底本当時のままにしました。
  • 一、差別的表現・好ましくない表現はそのままとしました。

*尺貫・度量衡の一覧
  • [長さ]
  • 寸 すん  一寸=約3cm。
  • 尺 しゃく 一尺=約30cm。
  • 丈 じょう (1) 一丈=約3m。尺の10倍。(2) 周尺で、約1.7m。成人男子の身長。
  • 丈六 じょうろく 一丈六尺=4.85m。
  • 歩 ぶ   左右の足を一度ずつ前に出した長さ。6尺。
  • 間 けん  一間=約1.8m。6尺。
  • 町 ちょう (「丁」とも書く) 一町=約109m強。60間。
  • 里 り   一里=約4km(36町)。昔は300歩、今の6町。
  • 尋 ひろ (1) (「広(ひろ)」の意)両手を左右にひろげた時の両手先の間の距離。(2) 縄・水深などをはかる長さの単位。一尋は5尺(1.5m)または6尺(1.8m)で、漁業・釣りでは1.5mとしている。
  • 海里・浬 かいり 一海里=1852m。
  • [面積]
  • 坪 つぼ  一坪=約3.3平方m。歩(ぶ)。6尺四方。
  • 歩 ぶ   一歩は普通、曲尺6尺平方で、一坪に同じ。
  • 町 ちょう 一町=10段(約100アール=1ヘクタール)。令制では3600歩、太閤検地以後は3000歩。
  • 町歩 ちょうぶ 田畑や山林の面積を計算するのに町(ちよう)を単位としていう語。一町=一町歩=約1ヘクタール。
  • [体積]
  • 合 ごう  一合=約180立方cm。
  • 升 しょう 一升=約1.8リットル。
  • 斗 と   一斗=約18リットル。
  • [重量]
  • 厘 りん  一厘=37.5ミリグラム。貫の10万分の1。1/100匁。
  • 匁 もんめ 一匁=3.75グラム。貫の1000分の1。
  • 銭 せん  古代から近世まで、貫の1000分の1。文(もん)。
  • 貫 かん  一貫=3.75キログラム。
  • [貨幣]
  • 厘 りん 円の1000分の1。銭の10分の1。
  • 銭 せん 円の100分の1。
  • 文 もん 一文=金貨1/4000両、銀貨0.015匁。元禄一三年(1700)のレート。1/1000貫(貫文)(Wikipedia)
  • 一文銭 いちもんせん 1個1文の価の穴明銭。明治時代、10枚を1銭とした。
  • [ヤード‐ポンド法]
  • インチ  inch 一フィートの12分の1。一インチ=2.54cm。
  • フィート feet 一フィート=12インチ=30.48cm。
  • マイル  mile 一マイル=約1.6km。
  • 平方フィート=929.03cm2
  • 平方インチ=6.4516cm2
  • 平方マイル=2.5900km2 =2.6km2
  • 平方メートル=約1,550.38平方インチ。
  • 平方メートル=約10.764平方フィート。
  • 容積トン=100立方フィート=2.832m3
  • 立方尺=0.02782m3=0.98立方フィート(歴史手帳)
  • [温度]
  • 華氏 かし 水の氷点を32度、沸点を212度とする。
  • カ氏温度F=(9/5)セ氏温度C+32
  • 0°C = 32°F
  • 100°C = 212°F
  • 0°F = -17.78°C
  • 100°F = 37.78°C


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『歴史手帳』(吉川弘文館)『理科年表』(丸善、2012)。


*底本

底本:『電氣物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
http://www.aozora.gr.jpindex_pages/person1429.html

NDC 分類:427(物理学/電磁気学)
http://yozora.kazumi386.org/4/2/ndc427.html





電気物語(三)

理学博士 石原 純

   一一、磁気および電気の場、地球磁気


 磁気や電気の現象がたくさんに知られてきたにかかわらず、そもそも磁気や電気が何であるかという問題の解決は、ついにとらえることができなかった。以前に人々は、磁気や電気の作用の根源をこれらを保持する物体に求めて、その内部にたとえば電気流体のごときものの存在を仮定してこれに関する現象を説明しようとしたけれども、外部におよぼす磁気力や電気力のありさまはこれから導き出すことはついに不可能であった。この方法に反して、はじめて眼を力のおよぼす外部空間に転じ、その性質やありさまを研究することをより大切であるとなすに至ったのは、じつにイギリスのファラデーの卓越せる頭脳のたまものであった。彼の研究はまず、磁石のまわりにおける力の作用の説明にはじまった。

 磁石の上に紙とかガラス板とかをおいて、その上に細かい鉄粉を一様にふりまき軽くたたくと、鉄粉は一定の線に沿うてならぶ。これは、磁石のためにおのおのの鉄粉がそれぞれ小さな磁石となり、これらの小磁石の反対の極が互いに吸引するからである。一般に、磁石に近づけられた鉄片が一時的に磁石の性質を持つことは磁気の感応現象として知られているが、このばあいに、磁石の一定の極に近い鉄片のはしにはこれと反対の極を生じ、遠い端に同じ極を生ずること、ちょうど静電気感応におけると同様である。上述の鉄粉の整列はすなわちこの感応によるのであって、整列によって形づくられた線は各所における磁気力の方向を示すものでなければならない。電流のまわりにどんな方向の磁気力が作用するかも同様の実験で示される。すなわち、電流の通ずる針金に垂直に厚紙またはガラス板をおいて鉄粉をふりまくと、針金がこれをつらぬく点のまわりに円形の整列をなすこと第七十四図のとおりである。これとまったく同様の実験は、電気についてもおこなうことができる。すなわち帯電体の上にガラス板をおき、これに石膏せっこうの粉をふりまくと、同じく感応によって力の方向を示す曲線(第七十五図)を得るのである。
 さてファラデーは、電気ならびに磁気のばあいにかような力の方向を示す曲線に注目し、これを指力線と名づけ、また指力線の通ずる場所を電気力および磁気力の場(簡単に電場および磁場ともいう)となし、その性質について独自の研究を進めた。指力線の通ずるありさまを見ると、これは常に陽電気と陰電気、または磁石の北極と南極とを相連絡している。もし、われわれがこの指力線を一定の電気また磁気量から一定の数だけ出るように、すなわちそれらの密度に応じて引くならば、指力線の集中・離散のありさまによっておのおのの場所における力の強さを見ることができる。また、指力線に対していたるところで垂直に交わるような面をつくってみると、これはちょうど、重力の方向に垂直におかれた水平面に相当するものである。導体内の電気の運動に関しては、かような水平面の高低に相当するような量をすでに電位として言いあらわしたが、導体以外の空間においても、すなわち一般に電場内においても、そこにある電気量がおかれたとすれば、これが電気力に働かれて運動するありさまはやはり、この水平面によって規定される。この意味で、指力線に垂直な面を等位面と名づける。これは、磁気の場に関してもまったく同様である。

  • 指力線および等位面
  • (1)陽または陰電気が孤立せるばあい
  • (2)二つの等しい異種電気
  • (3)大きさの異なった同種電気
  • (4)大きさの異なった異種電気
  • (5)二つの等しい同種磁気(または電気)が一様の場におかれたばあい
  • (6)二枚の導体に異種電気のあるばあい

 一つの等位面から他の等位面に電気または磁気を運ぶには、その向きが力の方向にあるか、またはこれと反対になっているかに従って、ある仕事が得られまたは費されるわけである。それゆえわれわれは、二つの離れた等位面の間隔をちょうど単位電気量または磁気量〔磁荷〕の移動に対する仕事が一ダイン〔一〇万分の一ニュートン〕に等しくなるように定めたとすれば、等位面の疎密の程度によっても場のありさまを知ることができるのである。
 ファラデーはかような電場および磁場が、空間におけるある媒質ばいしつの状態によって結果するとなし、指力線でかこまれた管、すなわち指力管なるものを考えるとそれがあたかもゴムひもをひっぱったようにみずから収縮しようとして張力を生じ、これと同時に横にふくれようとして互いに押しあうものであることを仮定した。これによって電気および磁気のあいだに引力や斥力せきりょくの働くことをよく説明することができるばかりでなく、そもそもこれらの力が空間的に遠隔の場所に働くのはなぜであるかという、いわゆる遠隔作用に対する形而上学的疑問を除去するにあずかって効があった。これ以来、力の遠隔作用ということは漸次ぜんじうとんぜられて、すべて弾性による力のように、媒質における近接作用としてこれを解釈しようとする傾向が一般を支配するようになった。ニュートンの万有引力のごときも従来は遠隔作用として仮定せられていたけれども、最近のアインシュタインの相対性理論においてはまったく近接作用としてみなされるに至ったのは、その著しい例である。
 地球上の空間は重力の場であると同時に、地球磁気の場である。磁針が南北の方向をさすのは、この磁場の指力線がだいたいにおいて子午面しごめん内に横たわるからである。ただし、磁針のさす方向が正しく北でないこと、すなわち北極星の方向とは異なっていること、また、これとの外ずれは地球上のおのおのの場所によって異なることは、すでに早く見い出された〔底本一五ページ「二、電気学および磁気学研究の曙光」。磁針が地理上の子午線となす方位角偏角へんかくならびに水平面に対して傾く伏角ふっかくを測定すれば、これによって地球磁場の指力線を決定することができ、したがって多くの指力線の集中する地球磁極の位置を推定することができる。この磁極が地理上の南北極とややはずれたある地点に存在し、しかも、なんらかの原因で多少の変化をおこなうことは上述の観測事実から結論される。
 地球磁気の数理的研究は、一八三六年から数年にわたってドイツのガウスおよびヴェーバー〔ヴィルヘルム・ヴェーバー〕によっておこなわれたが、その物理的原因がはたして何であるかは今日までなお確定されていない。ガウスの理論によれば、地球磁気の主要部分は地球の内部に存し、その他の小部分が地球以外にあるという結果になる。後者はおそらく大気中を流れている電流のためにおこされる磁場として解せられるが、前者に対してはやはり地球表面および大気中の電気によるものとすべきか、またはその他の原因による地球の帯磁たいじに帰すべきか、いまだ明らかでない。また、地球磁気力の方向の変化のうちには年々に規則立っておこるのもあるし、日々くり返されるものもある。このほかに時を定めないで急激におこる不規則の変化もあるので、この最後のものをとくに磁気嵐じきあらしと名づけている。磁気嵐は、多く太陽黒点の出現とともなうので、黒点が気体の激しいうずまきであり、そこに強い磁気作用を現わし、両磁極に相当するものを太陽面に生ぜしめることと、何らかの関係があるように考えられる。

   一二、媒質論の発展


 ファラデーが電気および磁気力の作用を媒質ばいしつの状態に帰したことは上に述べたが、この媒質論を断じて確実にしたところの事実は、一八三八年さらに彼自身によって見い出されたつぎの現象である。すなわち蓄電器の電気容量は、二枚の導体間の空間が種々の物質でおきかえられたときに異なるということである。たとえばパラフィンを導体間に入れれば電気容量は二倍になり、シェラックでは三倍、ガラスでは六倍、水では八〇倍に増すのである。この数は物質の電媒常数と名づけられるものであるが、これによって電気容量が変わるということは導体上の電気の間の力が単に電気量そのものによるだけではなく、かえってこの間をたす媒質の如何いかんによるものであることを明らかに示している。ファラデーは、導体表面に電気の現われるのは、指力管に沿うていたるところ微少な範囲内に陽陰両電気が分離移動し、指力管の中途ではたがいに相接触せる反対の電気の存在のために作用が打ち消されているのに反し、導体表面において指力管の始まり、または終わるところでは一方の電気だけが残存するようになるためであると考えた。これによれば、電気は導体それ自身にあるのでなく、かえって媒質そのものの中に存するのであって、これが事情に応じて導体表面に現われるのにすぎない。この媒質は一般にはいわゆるエーテルとして、すべての空間すなわち真空および物質内部を通じてこれをたすものであるが、もしそこに物質が存在するならば、エーテルの各部分以外にまた物質分子内にある電気も同様に分離して上の作用を強めることとなる〔エーテルは、光や電磁波の伝播を媒介する媒質と仮定された物質だが、現在では存在が否定されている〕。エーテルならびに物質内におけるかような電気の分離を一般に電気変位〔電束密度〕と名づけ、そのうちでとくに、物質がこの電気変位のありさまにあることを偏極という。
 ここに電気に関して述べたことは、だいたいにおいて磁気のばあいにも成り立つこともちろんである。ただし、磁気に対しては電気の導体に相当する物質が存在しないので、磁気指力線はすべての物質内部を通って続いてゆく。すなわち、それらは電気の絶縁体に相当するのであって、その中におこされた磁気偏極をとくに磁化じかと名づけている。
 偏極によって現われた電気や磁気が物質分子内に閉じこめられているかぎりは、そこに一定の電気または磁気の場を生ずるのであるが、ただひとり電気に対する導体にあっては、これと異なった特殊の事情が現われるわけである。すなわち、その内部において電気の移動が自由であるために、偏極をおこすように分離移動した陽陰電気はそのまま分子内に止まって偏極を維持することなく、力の平衡へいこうを保つ場所まで移動を続け、結局、導体の表面に集まるのである。静電気のばあいに導体の内部に電気がないというのはこのためである。一般に、変位によって物体の境界面に現われる電気と、導体における自由移動によってその表面に現われる電気とをたがいに区別して、後者を自由荷電かでん、前者を外観荷電と名づけることがある。導体表面における全体の電気はじつは内部の自由荷電と、外部の媒質の変位による外観荷電との代数和であって、これを真荷電と名づける。
 このように見てくると、電場および磁場におかれた物体がなぜ感応の現象をおこすかということも自然にわかるであろう。それは、絶縁体では物体の偏極によっておこる外観荷電のためであり、導体では電気の自由移動による自由荷電のためである。またすでに述べたように、絶縁体や磁性体の内部には一定の電場および磁場が存することができ、したがって指力線がこれらを通っているのに反し、導体の内部は少なくとも電気平衡の状態では全体が等電位にあって指力線が存在しない。つまり、導体は指力線を断つといわなければならない。導体で取りかこんだ空間が、外部の電気力の影響を受けなくなるのはこのためである。したがってこの意味では、電気力を伝えるものは導体でなくてかえって真空空間または絶縁体にかぎられるのであって、それゆえこれらを電媒質と称するのである。
 これらの思考に対する完全な数学的理論は、ファラデーの後にその仕事を継承したマクスウェル(一八六一年)によってあたえられた。ファラデーの卓見たっけんを称するとともに、われわれはその言葉を数学的にいっそう正確に翻訳しなおしたマクスウェルの偉大な功績をも賛美しなければならない。とくにマクスウェルがいわゆる電気力学の基礎法則を立てたさいに、理論的に重要な役目をなしたものは、媒質電流もしくは変位電流と名づけられるものである。

   一三、感応電流


 前に述べたとおり電気と磁気との密接な関係は、電流が磁針に作用するというエールステッド〔ハンス・クリスティアン・エルステッド〕の発見によってはじめて事実的に示されたが、これを逆にした両者の関係、すなわち磁気によって電流を生ずることは、その後、一八三一年になってファラデーによって見い出された。これはファラデーの電磁気に関する大研究の最初のものであり、かつ理論においてもまた応用においても多大の発展を持ち来たした重要な端緒であった。
 ファラデーは、静電気が他の導体に感応するように、電流もまた他の導線に感応しはせぬかという考えで種々の実験をおこなったが、ついにつぎの実験によって磁石の作用で電流を発生させることに成功した。すなわち、コイルの両端をあらかじめ電流計につないでおき、そのコイルの軸に沿うて棒磁石を突き入れると、コイルの導線に電流がおこり、また磁石をコイルからひきぬくとふたたび反対の方向の電流が電流計に流れるのが見られる。この事実は今日、電磁感応〔電磁誘導〕として知られているものである。ついでファラデーは、一つの電流回路を閉じたり切ったりする瞬間に、すぐそばにおかれた針金に電流のおこることを見い出し、また後者を前の電流回路から遠ざけたり近づけたりしても同様であることを見た。もし後者に最初から電流が存在していたならば、それが右の影響によって同じく増減することもちろんである。これは電流の相互感応と称すべき現象である。
 一般にいってこれらの感応電流は、一つの導線回路を縁辺として考えられた面を通過する磁気指力線の数が変わるばあいに常におこるものであって、たとえばコイルを地球磁気の場で回転するようなばあいにもコイルの導線には交互に方向を変ずる電流が感応されることは、後にドイツのヴィルヘルム・ヴェーバーによって実験された。この実験で感応電流の強さを測ることによって、地球磁気の鉛直えんちょくならびに水平分力ぶんりょくを知ることができる。
 感応電流の方向に関しては、一八三四年ロシアのレンツ〔ハインリヒ・レンツ〕が、つぎの法則によってこれを一般に言いあらわした。感応電流はこれにともなう反作用が、もとの磁石または電流回路の運動を妨げるようにおこる。ただしその運動によらないで、磁石や電流の強さの変化によるばあいには強さを増すのが近づく運動に相応そうおうし、強さを弱めるのはこれに反する。
 このレンツの法則はエネルギー保存の原理からみればむしろ当然の帰結であって、一八四五年フランツ・ノイマンによって数学的に完全に説明された。磁石をコイルに対して近づけ、または遠ざけるばあいの感応電流の方向は、第八十四図に示すとおりである。

 感応電流はその後、電流を得るための重要な手段としてもちいられるようになった。電池によっておこされる電流では、動電力(電圧)に一定の制限があるけれども、感応電流によるものでは適当な装置とその動力の如何いかんによってはこれを任意の大きさに達せしめることができるからであって、このおかげで電気工業の発達したことはじつに著しいといわねばならない。
 第八十五図に示すような装置で下部の馬蹄形電磁石を固定し、上部の電磁石を中央の軸のまわりに回転すると、これにまいた針金の中に感応電流を得られる。ただし、この電流の方向は半回転ごとに逆になること、前に述べたヴェーバーの地球磁気感応器とまったく同様である。
 
 かような交互に方向を変ずる電流すなわち交流を、方向の変わらない電流すなわち直流として外部に取り出すことは、つぎのような特殊の装置によって容易に成功される。すなわち、回転コイルのはしが半回転ごとに異なったブラシに接触し、これから電流を外部に導くようにすればよい。実際の発電機では、固定した電磁石を場磁石、回転するものを発電子と称する。場磁石は通常、発電子を取りかこむ大きな両極(N・S)をそなえ、発電子から取り出された電流またはその一部が場磁石の作用を強めるように針金を巻いてある。第八十七図はかような発電機の模型を示したもので、場磁石に巻く針金の連結のしかたによって、直巻(a)・分巻(b)および混合巻(c)を区別する。
 発電機からの電流は直流として取り出すほかに、目的によっては交流のままで取り出すばあいも多い。これらに応じて、種々の形式の直流または交流発電機が形づくられている。通常、水力電気ととなえているのは、発電機をまわすための原動力として水力をもちいるものであって、発電子を水力タービンと直結してその回転をおこさせる。
 発電機を逆に使用し、電流を発電子に供給するとこれに回転をおこさせることができる。この目的に使用するものを電動機(電気発動機または電気モーター)と名づける。これを発電機と直結して動力を得るためにもちいられる。

 かような電動機の原理は、一八六七年はじめてドイツのウェルナー・ジーメンスによって述べられたものであったが、そののち種々の方面においてさかんに実用に供せられ、われわれの生活に多大の利益を与えるようになった。われわれが日常見慣みなれている電車のごときは、すなわち電動機をそなえた機関車にほかならないが、それは一八八一年にはじめてジーメンスの手によってドイツのベルリン郊外に敷設せられて以来、漸次ぜんじ一般的となり、今日ではすでに蒸気機関車をしのぐほどの交通機関として重要のものとなっていることは驚くべきばかりである。また、自動車や扇風機や水ポンプや昇降機〔エレベーター〕などにももちいられ、諸工場の動力供給のためにも必要にして欠くことのできないものとせられている。

   一四、電流の自己感応および交流


 電流の強さが変わるばあいには、その回路で取りかこむ面を通る自身の磁気指力線の数が変わるから、これが自身の回路に感応電流を生ずるようになる。この感応電流の方向は、レンツの法則によれば磁気指力線の数の増減を少なくするように向かうわけであって、したがってもとの電流の強さが増すときには感応電流はこれと反対の方向におこって強さの増加を弱め、これに反して、前者が減ずるときには感応電流は同じ方向におこって前者の減少を妨げる。かような現象を電流の自己感応〔自己誘導〕と名づける。電流を電気の運動とみなし、電流の強さをその運動の速さと解するならば、自己感応の現象はちょうどこの運動に対する惰性せいを言いあらわすことになる。
 電流の回路を閉じたり切ったりするばあいに、単にそれだけの過程を考えに取るならば、その瞬時に電流の強さはゼロから急にある値に増すとか、または逆にある値からゼロに減ずるはずであるが、実際には、自己感応の影響によってその変化がおそくされること第九十二図に示すとおりである。電流の方向がある周期をへだてて逆になるばあい、すなわち通常の交流においても同様であって、電流の強さの時間的変化をあらわす曲線は、つねに連続的な波状を呈するようになる。
  
 交流はつねにその値を変化しているばかりでなく、一定の方向の電流の強さを正にとれば、その方向の変化のために、交流では正負の値が交互に現われる。それゆえ交流の強さ(実効値)を言いあらわすのには、これが運ぶエネルギーの量をもってする。電流が針金の中に生ずる熱はすなわちこれに相当するものであって、したがって、たとえば一アンペアの直流が生ずるのと等しい熱量を同時間に発生するような交流を名づけて、やはり一アンペアの強さを持つというのである。電位差すなわち電圧についても同様で、強さの実効値との関係がオームの法則に従うように電圧の実効値を決める。ふつうに交流の電圧を幾ボルトとして言いあらわすのは、この実効値をさすのである。白熱電灯用として供給されている電流はたいがい交流であって、毎秒五〇ないし六〇回の振動(サイクル)をなすものが多い。これに対して電球が一〇〇ボルト、一六燭光しょっこうなどと指定されているのは、交流の電圧実効値が一〇〇ボルトである場合にちょうど一六燭光を出すという意味である。
   直流と交流とでは、少なくともその熱効果においては同等であること上述のとおりであるから、電灯または電気炉のごときものにあっては交流を使用してもさしつかえないわけである。このほかに交流を使用することの利である理由は、その目的に応じて容易に電圧を変えることができるからである。これをなす装置は変圧器ととなえるものであって、同じ鉄心にまかれた二つのコイルP、Sからなっている。一方のコイルPは細い針金を密接して数多くいたものであり、他方Sはこれにくらべて巻数のずっと少ないものである。この二つのコイルのどちらかに交流を供給すると、他方に感応して周期を等しくする交流を生ずるわけであるが、一般に同じ磁気指力線の変化によっておこる感応動電力ともとの交流電圧との割合はそれぞれのコイルの巻数に比例するから、巻数の差によって交流の電圧を増し、または減ずることができる。

 今日では多くの市街地における電車や電灯や、または諸工場の動力として大規模に電力を供給するためには、天然に存在する水力を最初の動力源とするのが経済的にもっとも有利であるとせられている。ただし、多大の水力を直接に利用し得られる場所は、一般に繁華な市街地を離れた山間であるから、そういう場所でおこされた電力を都市まで輸送するために電線を通じて電流を流さなければならない。ところが電線が長くなればなるほど、その途中で多量の電流エネルギーは熱となって無益に減損してしまうのをまぬかれない。それでこの損失をなるべく少なくするには、できるだけ抵抗の小さい導線をもちいるか、または電流の強さを小さくするよりほかはない。現在では設備上の費用を考えたうえで、そう勝手な導線をもちいることができないからもっぱら電流を弱くするような方法をとり、したがって一定の電流エネルギーに対してできるだけ電圧を高くするようになされている。この目的で多くの水力発電所ではまず交流発電機によって交流をおこしたのち、これを変圧器によって数万ボルト以上の高電圧に変えて輸送し、電力使用のさいにふたたび変圧器で低圧に降下させるようにしてある。通常三〇〇〇ボルト以上を特別高圧〔現在は七〇〇〇ボルト超〕、三〇〇ボルト以上を高圧〔現在は直流七五〇ボルト超、交流六〇〇ボルト超〕と名づけているが、かような高圧電流の流れている導線はこれに触れると非常に危険であるから、厳重に警戒を要する。市街地内では、かような高圧電流の通過を絶対に禁じているばあいが多い。それゆえ、これを市街地に引き入れる前に、相当な変圧所で数段に低圧に変ずるのが常である。
 交流発電機では、場磁石の極および発電子のコイルの数を多くしたものをもちいると、発電子の一回転のうちにすでに数回の振動をなす交流が得られる。かようなものを多極発電機という。もしこの際、おのおののコイルに発電した電流をそれぞれ異なった導線に取り出すならば、順次、振動位相いそうを異にした交流が同時に得られるわけである。場磁石の極およびコイルが四つあれば、これらを二組の針金に取り出して、一方の位相いそうが他方に対し振動周期の 1/4 だけおくれるような二組の交流を得るし、磁極およびコイルが六つあれば位相が周期の 1/6 ずつおくれた三組の交流を得る。このように位相の異なった交流が同時に存在するものを一般に多相交流といい、交流の数に応じて二相交流・三相交流などの名がよばれる。
 三相交流の特色は、その強さをあらわす第九十九図の曲線で見るとおりに、中央の横線すなわち電流のゼロであることを示す線の上下に、すべての時間に常にたがいに等しい大きさの電流が存在することである。それゆえ、三相交流を通ずる導線を一点につなぎあわせると、たがいに反対の向きの電流が重なって全体としてはゼロになってしまう。したがって、三相交流を導くにはこのような連結によって帰路の導線が不〔以下、底本一四五・一四六ページ欠損〕
〔これより底本一四八ページ開始〕
ような電気の運動現象にほかならないものであるが、このほかに電気は不導体によってへだてられていても、一定の距離に対する電位差があまりに大きくなると火花および音を発して中和するようになる。これは静電気の実験において常に見られるところであって、帯電体のそばに指頭しとう〔ゆびさき〕を近づけ、または他の物体を接触させると、帯電体とのあいだに小さな火花および音の出るのが常である。感応起電機の両極に電気をたくわえておいて、これらを互いに近寄ちかよせると火花や音がやや火きく、またライデンびんの外箔と上部の金属球とを放電叉と称する開閉自由の叉形の金属棒で連結させるときも同様である。
 すべてこのように不導体の内部を通じて電気が中和する現象を放電といい、火花を発して中和するのをとくに火花ひばな放電ほうでんと名づける。火花がやや大きいときには、帯電両極の間にはさんだ厚紙やガラス片などに穴を開けることができる。
 大気中におこる雷電は古代から驚異の自然現象と見られていたが、これもまた大規模の放電にほかならないことは、はじめてアメリカの有名な政治家であり科学者であったベンジャミン・フランクリンによって一七五二年に実験的に証明された。彼は最初、高い所から空気中の電気を導くつもりで、当時あたかもフィラデルフィアにおいてある高塔の建築されるのを待っていたが、その完成がおくれたので他の方法を考え、尖端せんたんのある鉄棒を付した布製のタコを飛揚ひようさせて雷雲の電気を導きせようとした。フランクリンは彼の子息とともに同年七月の雷鳴のさい、この実験をおこない、ライデンびんを帯電せしめて通常の電気とまったく同様の衝撃をあらわすことを確かめた。
 電光は、直線的におこらないで屈曲した経路を取ることはその写真によってよく示される(第百四図)。また尖端のある金属導線が、よく空中の電気を導くことのできるのはすでにフランクリンの実験でもあきらかであるが、これは、感応によって金属導線に生じた電気が尖端の場所において特に大きな密度をもって集中するから、空気中の塵埃じんあいなどをさかんにその部分に吸引し、接触によってこれらを帯電させては反発し、したがってこの結果、一種の放電となってその部分の感応電気を中和させ、反対の電気を導線の他端に残留させるようになるからである。第百六図のように、金属を曲げたものを軸にせて自由に回転しうるようにし、これに帯電させると、尖端放電のさい、空気中の塵埃を尖端の方向に追いやるから、その反作用で矢の向きにまわるのが見られる。

 尖端放電はたえず徐々におこるから、これによって過激な放電作用をけることができる。古代エルサレムの大伽藍だいがらんは数千年間にわたって落雷の記録を残さないとせられているが、これは屋上に数多あまたのとがった黄金の装飾を有し、メッキされた建物の外側にある管で地面まで連絡していたためであると考えられている。フランクリンは実際に、この理を利用して避雷針をつくった。
 放電現象は不導体を通じておこるから、電流の強さは比較的小さいけれども、これに反して電圧は非常に大きいのである。それゆえ電流をもちいて実験的に強大な放電を得るためには、感応コイルと称する一種の変圧器によって電圧を高める必要がある。これは第百七図のように、軟鉄の線条をたばねた心棒しんぼうの上に太い針金をまいて第一コイル(P)とし、さらにその外部に細い針金を非常に密にまいて第二コイル(S)としたものである。第一コイルの回路に電鈴でんれいにおけると同様な継続装置(D、a、I)を入れて電流をとおすと、その継続ごとに第二コイルに高圧感応電流を生ずることができる。これは第一コイルの電流の継続に応じて方向を逆にする交流であるが、自己感応の影響によって、回路が閉じられるときよりもたれるときのほうがはるかに大きな感応起電力を持つから、第二コイルの両極を(E、E)適当の距離にたもっておくと、回路切断に応ずる方向にのみその間に火花の飛ぶのを見ることができる。

上は九フィート〔およそ二.七メートル〕ずつ離れた三つ 電極間の火花。中は一五〇万ボルトの火花放電。下は磁場における火花放電。
 火花はまた、ガラス管やその他の絶縁体の表面に沿うて特殊のありさまにおこることがある。これを滑走火花と名づけるが、樹枝じゅし状または根状の美しい模様がそこに現われる。

上と中はレントゲン管に沿っておこったもの。
下はガラス板に沿っておこるふつうの火花放電。

 このほか、一七七七年にリヒテンベルクによって見い出されたもので、滑走火花に類似した一種の現象がある。強く帯電したライデンびんの頭で絶縁体の表面に触れ、この場所に硫黄または鉛丹えんたんの細かい粉をふりまき、余分のものを吹き去ってしまうと、特有な図形をつくることができる。布を摩擦まさつした鉛丹は陽に、硫黄は陰に帯電するので、これらはそれぞれ絶縁体の表面のこれと反対に帯電する場所に付着するのである。細粉をふりまくかわりに絶縁体の表面の上に写真乾板を重ねておけば、同様にこれにみごとな電気通路をしるすことができる。

   一六、電気振動、電波


 ライデンびんの放電やそのほかの火花放電を肉眼で見ると、一瞬時のあいだしか続かないで、その短い時間に電気がひと飛びに中和してしまうように思われるけれども、これを非常に早く回転する回転鏡にうつしてみると、両極のあいだに多くの往復振動をなして漸次ぜんじに減衰するものであることがわかる。
 この事実は、一八四二年にアメリカのジョセフ・ヘンリーがはじめて鋼鉄針の不規則な磁化によってあきらかにしたのであり、その後、一八五三年イギリスのケルビン卿〔ウィリアム・トムソン〕によって理論的に研究せられ、一八五八年ドイツのフェツ・ダーセンによって回転鏡による実験が工夫せられたのであった。これはちょうど、振子ふりこの球を鉛直からはずして離すばあいに直接に静止の位置に達することなく、かえって数回の往復振動をくり返して漸次ぜんじに止まるのとまったく同様の現象であり、振子の球と等しく電気の運動に対しても一種の惰性だせいの存在するためであることが確かめられる。電流の自己感応もまた、かような惰性のためにおこることはすでに述べたところであるが、交流を断絶したさいに電流が同様の減衰振動をなして後にゼロに達することも実験的に示される。
 電流を電気の運動と見るならば、その周囲には電気の場がいっしょに持ち運ばれているのであり、またこれと同時に、電流の周囲には磁場がおこされているのである。それゆえに上述の電気振動に際しては、周囲の電気および磁気の場もまた振動的に変化すべきことはもちろんである。ところでマクスウェルの理論によれば、一般に媒質内において場のある変化が現われるばあいには、これが常に一定の速さをもって拡がることが数学的に証明せられる。この現象は理論上からいえば、ちょうど導体内における伝導電流に相応すべきところの、媒質内における一種の電流ともみなさるべきものであって、マクスウェルはこれに、媒質電流もしくは変位電流なる名をあたえた。たとえば、蓄電器ABをCなる針金で連絡して放電させるばあいには、陽陰両電気は針金の中を伝わって伝導電流を形づくると同時に、A・Bの間隙かんげきをなす空間内には場の変化による媒質電流が現われ、この両者によってはじめて完全に閉じられた電流回路が成り立つのである。

 媒質電流は、かようにして理論上きわめて重要な意味を持つのであるが、実際上にもまた決して度外視どがいしさるべきものでなく、今日にいたってはとくに顕著な応用がこれにもとづいてなされるようになった。媒質電流の特質は、電気および磁気の場が拡がるかぎりの空間のどんな場所にも到達することであって、上記の電気振動のばあいにはこれが振動的にいたるところの空間に伝播でんぱするわけであるから、ここに一種の波動はどうが形成される。この全体を通常、電磁波でんじはと名づけ、そのうち電気の場の振動だけを考えるときには単に電波とも名づける。
 マクスウェルは、一八七三年に彼の理論からの帰結として、かような波動の真空中における伝播の速さが光の速さと数値的に同一であるばかりでなく、その他のすべての性質が光波と一致することを見い出し、したがって光波は電磁波の一種にほかならないという光の電磁説を主張したのであったが、一八八八年に至り、ドイツのヘルツははじめて電気振動によって実際に電波を発生させ、マクスウェルの理論を完全に実験的に確かめることに成功した。爾後じご、電波がわれわれの実験ならびに応用の対象となることができたわけである。
 ヘルツの実験装置は、第百十六図に示すとおりの簡単のものであった。感応コイルKの両極に、金属板ABおよびこれに取りつけた棒をつなぎ、その尖端に付した小さな金属球をある間隙かんげきをもって向かいあわせたもの、および同様の間隙をそなえた針金の環から成り立っている。感応コイルを働かせてCDの間に火花を飛ばし、環を適当の距離におくと、後者に感応電流を生じて間隙に小さな火花が現われる。これは発音体が音波を出して他の発音体に共鳴するのと同様の現象であって、電気振動のばあいにも、おのおのの回路の電気抵抗や自己感応の大きさによる固有振動が一定し、両者の振動周期が一致するばあいに共鳴をおこすのである。この意味で前者を振動器、後者を共鳴器と名づける。

 電波はすべての空間を非常に大きな速さで伝わるから、これを通信用に供してもっとも理想的に近いものである。最初、これによって実際の通信が成功するに至ったのは、コヒーラーと称する電波検出器を発明したフランスのブランリー〔エドアール・ブランリー〕、ならびにこれによる通信装置を作ったイタリアのマルコーニの苦心のおかげであるといわなければならない。一八九七年にマルコーニははじめて数キロメートルの距離に送信することができたが、火花を強大にすることならびにアンテナと称する空中導線を高く張ることによって漸次ぜんじ、通信距離を大きくし、一九〇一年十二月に至ってはじめて、大西洋を越えてイギリスからカナダのニューファンドランドにS字に相当するモールス電信符号を送ることができた。

 マルコーニのもちいた送信および受信装置は、だいたい第百十九図のとおりであって、ヘルツの振動器と同様にして電気振動をおこし、これを高圧に変じてアンテナから四方に輻射ふくしゃさせ、同様の受信アンテナによって受け取った電流を検波器によって適当に変化し、電話用の受話器に通じて音響符号を聞くのである。

 検波器としては、最初にもちいられたコヒーラーについで、鉱石こうせき検波器けんぱきなるものが一九〇一年ブラウン〔フェルディナント・ブラウンか〕によって創案された。これは、特殊の二種類の結晶鉱石の一方をとがらせて他方の面に接触させたもので、これを回路中におくと、一方向の電流に対しては抵抗が多いので交流の一方だけが残され、受話器に感ずるようになるのである。通常、黄銅鉱おうどうこうと鉄または洋銀ようぎん斑銅鉱はんどうこうと紅亜鉛鉱、カーボランダム〔炭化ケイ素〕黄鉄鉱おうてっこうというような組み合わせがもちいられている。その後さらに、熱電子の作用を利用した真空球検波器なるものが発明せられて、非常に遠距離までも鋭敏に電波を受け取ることができるようになった。無線電信が船舶などの通信用としてきわめて有用であることはもちろんであり、また学術上にも種々の役目をはたしている。特定の場所から時刻信号を全世界に送って正確の時間を知らしめるごときは、その著しい一例である。
 無線電信にくらべて無線電話には、その遂行に種々の困難な事情が横たわっていたために、その発達完成も著しくおくれていた。その主要な困難は、火花放電による電気振動が上に述べたとおり減衰振動であるに反し、無線電話ではもっぱら非減衰振動を必要としたからである。すなわち、非減衰振動をおこす回路において音声による電流変化をともなわしめ、これを電波として送り出し、受信装置における検波器をへてふたたび音声にもどすのがその目的とするところなのであった。ところがかような非減衰振動は、一方で真空球を振動器としてもちいることにより、また他方ではいわゆる高周波交流発電機なるものが、アメリカのアレキサンダーソン、ドイツのアルコ、およびゴルトシュミット〔ルードルフ・ゴルトシュミット〕、フランスのペテノーおよびラツールらによって作られたことにより、ようやく実現せられるにいたり、ここに無線電話の成功が見られた。とくに欧州大戦中軍事上の必要にせまられた結果、急激の発達をとげ、休戦後一九二一年に至ってはアメリカでついに公衆に対する無線電話放送がおこなわれはじめ、爾後じご、わずかに数年の間にこの放送事業は世界各国に普及するようになった。
 無線電話にともなって、印刷または写真の無線電送や、艦船などの無線操縦装置のごときものが種々企図せられ、また活動せる映像を写し出すテレヴィジョンのごときが考案せられ、すでに近き将来において、いわゆる電波の世界が現ぜられようとしている。
 電波の波長はその装置の如何いかんによって、数ミリメートルの大きさから数キロメートルにまでおよぶことができる。実際の放送においては、相互の混信をけるために各国において使用波長を協定し、それぞれ異なったものをもちいている。わが国の放送には、現に三六〇ないし三八五メートル、また短波長として二一五ないし二三五メートルをもちいることになっている。電波の速さは毎秒 3×108 メートルであるから、毎秒の振動数すなわち周波数ととなえられるものは、たとえば三六〇メートルの波長に対して 3×108/360=8,3×104〔この式、底本のまま〕 すなわち八十三万ばかりになる。
 また最近では、これらよりはるかに波長の短い電波、いわゆる超短波長をもちいる方法がさかんに試みられている。このばあいには電波が光線のように直進するから、適当な装置で一定の方向にだけ強大なエネルギーを送ることのできる特徴がある。

   一七、真空放電、陰極線


 通常の空気中では、電気の両極に十分の電位差をあたえると激しい火花を発して放電をおこすけれども、空気をぬいたガラス器内でこれをおこなうと、薄い光芒こうぼうがひろがった特異の放電現象を呈する。これは、一八三八年に書かれたファラデーの論文中にはじめて記されたものであるが、一八五〇年ごろにフランスのリュンコルフによって感応コイルが発明されて、強い電気火花を得るようになってから急に一般の興味をよびおこした。彼は最初、卵形のガラス器内の空気をぬいて電気を通したところが、陰極のまわりに黄色の光の層が現われ、その外部に暗い層をへだてて青い光のあるのを見い出した。そのころドイツのボンに、ガラス細工に堪能なガイスラー〔ハインリッヒ・ガイスラー〕という人があって種々な形のガラス管を巧みにつくったので、ボン大学の教授であったプリュッカー〔ユリウス・プリュカー〕はこれをもちいていろいろの実験をおこなった。爾後、この実験にもちいられるガラス管をガイスラー管と呼ぶのはこのためである。
 この現象は一般に真空放電と名づけられ、当時、その珍奇のありさまに人々の眼をおどろかしたものである。ガラス管内の真空度を漸次ぜんじ高めるにしたがって、その様子を異にすることもつづいて実験せられた。最初、空気を抜いたさいには、第百二十一図(A、B、C、D)のAのように火花がひものように両極間にひろがるけれども、管内の気圧が小さくなると光芒こうぼうあわく拡がり、ついには多くの層に分かれてちょうど鱗片りんぺんを並べたようになる。これらの光を分光器で検すると、ガラス管内に残っている気体に固有のスペクトルを示すのであって、空気のかわりに他の種々の気体を管内に入れてこれを実験することができる。
 プリュッカーの見い出した最も注目すべき事実は、陰極に近いガラス管の壁が緑色の蛍光を発する一種の放射線の作用に帰したが、その後、一八六九年にドイツのヒットルフ〔ヴィルヘルム・ヒットルフ〕は、陰極の前に固体をおくと放射線をさえぎって後方のガラス管壁に影を生ずることを見い出した。これらの現象は同じくドイツのゴールドシュタインによっても確かめられ、彼によってこの放射線に陰極線いんきょくせんという名がはじめて与えられた。
 陰極線が物体の影を投ずることは、これが光線と同様に直進することを示すものであって、このためにヒットルフやゴールドシュタインはこれを光に似た一種の波動として考えたけれども、これに反して一八八三年にイギリスのクルックス〔ウィリアム・クルックス〕は、陰極線が軽い物体につきあたってこれを動かすような機械的作用をすることや、金属にあたって熱を生ぜしめることなどを実験し、陰極から微粒子の放射する現象にほかならないことを結論した。また、陰極線に磁石の棒を近づけると曲がることは以前からも注目せられていたが、クルックスはこの曲がる向きを吟味ぎんみして、この微粒子は陰電気を持っていなければならないことを結論し、同様に、電場を加えたばあいの屈曲の事実によってもこれを証明し、さらにこれらの屈曲の大きさを測ることによって、微粒子の質量は管内にある気体の種類には無関係であり、かつ水素原子の質量にくらべて数千分の一に相当するほど小さいものであることを見い出した。
 これは、じつに発見者自身にとっても驚くべき意想外そうがいの事柄であった。クルックスは、物質が固体・液体・気体以外の特異な状態にあるとき、このような粒子として存在するのであろうと想像し、これを物質の第四態として言いあらわした。ただし、粒子の大きさが物質の種類に関係なく一定していることが漸次ぜんじ確実となるにしたがい、これこそすべての物質の一元的構成要素であると解せられるようになり、一八九一年、ジョンストン・ストーニーはこれにはじめて電子(エレクトロン)なる名をあたえた。


 陰極線は物体によって影を生ずるけれども、物体が薄い層をなすばあいにはこれを透過することができる。これは一八九二年にヘルツによって実験せられ、金箔やアルミニウム箔でさえぎられた後方になお蛍光作用を生ずることによって確かめられた。ついで一八九四年にレナードは、陰極に対立するガラス管壁に薄いアルミニウム箔ではった窓をつくり、これを透して管外に放射線を取り出すことができた。レナード線と称せられているものはこれである。これらの事実は最初、陰極線の粒子説に反対する証拠としてみなされていたが、その後じつは、粒子が非常な高速度で飛んでいるために、物質の分子間隙かんげきを通りぬけることのできる結果であることがあきらかにせられた。
 一八九七年にブラウンは、磁場内での陰極線の経路を研究するために特殊の真空管をつくった。これは第百二十五図に示すような構造を持っている。管の細い部分の陰極線の通路に働くように電磁石をそなえ、これによって曲げられた陰極線は管の他端におかれた蛍光板にあたってこれを光らせる。この管をブラウン管と名づけている。

 ブラウン管は、交流すなわち振動電流の振動形を検知するために利用せられる。すなわち、一方の電磁石に交流を通ずると、これに応じて蛍光板上の光点が動いて振動形を示すからである。この振動変化は、電子の質量の小さいために非常に鋭敏に感ずるので、きわめて速い高周波電流に対してもこれをいわゆるオシログラフ(振動図示器)としてもちいることができる。また、互いに垂直な二つの電磁石をそなえて、おのおのに異なった交流を通ずると二つの垂直な振動が重なりあって蛍光板に現われ、リサジューの図形を示すことができる。

   一八、陽放射線



 百二十七図のような真空管内の陰極をなす金属板Kに、たくさんの小さな孔(カナル)をあけて放電をおこすと、その後方すなわち陽極と反対の側に一種の放射線があらわれて管内の気体が光るのを見る。これは一八八六年にゴールドシュタインによって見い出されたものであって、カナル線の名で知られている。管内に空気があれば光はやや黄色をおび、水素を入れると赤くなるのであって、そのスペクトルはそれぞれの気体に固有の輝線きせんを示す。陰極線と同様に、カナル線もまた電気または磁気の場を加えると曲げられることは、一八九六年に至ってドイツのウィリ・ウィーンによって実験的に示されたが、ただしその屈曲の程度はずっと小さく、陰極線のばあいにくらべてその二パーセント以下であった。ウィーンはこの実験から、カナル線を形づくる粒子は陽電気をおび、その質量は水素原子と同程度以上のものであることをあきらかにした。これによってカナル線の生成を考えるならば、管内の気体原子がまず陰極線に衝突せられて陽イオンとなり、陰極付近の電気の場によって加速せられてその後方に飛ぶのにほかならない。ドイツのシュタルク〔ヨハネス・シュタルクか〕は、カナル線の飛びゆく方向に分光器を置いてそのスペクトルを撮影し、通常のスペクトル線のほかに赤色のほうに少しく移動した線の並んでいるのを見い出した。後者は運動している陽イオンから発するものであって、ドップラー原理にしたがってその波長を変じているのである。
 カナル線の研究は一九〇六年以後、とくにイギリスのジョセフ・ジョン・トムソンによって進められた。彼は第百二十九図に示す装置をもちいて、カナル線に電気および磁気の場を加え、その経路の屈曲を実験した。図においてAは放電をおこす真空球、Bは陰極で、これにうがたれた細い穴をとおってカナル線が左方に出る。ここに電場をおこすための蓄電器板P・P、および磁場をおこすための電磁石の極M・Mがある。これらによって曲げられたカナル線が、左端の写真板Hに達するようになっている。このばあいにカナル線は、電気の場によっては上下の方向に、また磁気の場によっては図面に垂直の方向にまげられ、その大きさは第一に粒子の電気量eと質量mとの比に関係し、第二に速度に関係する。ところがカナル線粒子の中には種々の速度の物を含むから、たとえば、e/m は同じであっても、速度の異なるにしたがってこれらは屈曲の程度を異にし、最初の放射の方向に垂直におかれた写真の上に放物線状にならんだ影を印象する。また、粒子の e/m の異なるにしたがってそれぞれ異なった放物線をしるすから、種々の事情を考慮することによっておのおのの放物線がどんな粒子に相応するかを推知することができる。トムソンはこの方法で、化学分析によってはとうてい検知することのできないきわめて微量の気体の存在をも示すことができたばかりでなく、さらに粒子のイオン化の状態、すなわち、各粒子がどれだけの電気量を持つかをもあきらかにすることができた。これは陽放射線分析と称せられて、その後きわめて重要視せられるようになった。すなわち、一九一二年の実験においてトムソンははじめて、原子量二〇に相当するネオンの線の付近に原子量二二に相当する線のあるのを発見し、種々の考察の結果、ネオンと類似した元素が存在するのではないかと推察した。一九一九年にイギリスのアストン〔フランシス・アストン〕はふたたびこれを検して、その存在を確かめた。
 この事実は、われわれの従来考えていた化学的元素の概念に対して、重大な変更を持ちきたす結果を生んだ。すでにこれ以前に、放射性物質では原子量を異にして、しかも化学的性質を同じうする元素の存在を経験し、これらを互いに同性体または同位どうい元素げんそ同位体どういたいとして言いあらわしていたが、ここにネオンのごときふつうの元素においても、化学的には同一に見えても、じつは原子量を異にする二様の原子がその中に含まれているのであろうと想像せられた。アストンはそれゆえに、陽放射線分析の写真(第百三十図)の上で原子量二〇および二二の線の強さを測定して、これらがおよそ九:一の割合であることを見い出し、これと同じ割合の分量をもって両者が混合したばあいに混合物の原子量を計算すれば、ちょうど従来化学的にネオンの原子量として知られている値、20.20 とまったく符号するのを示した。
 アストンは続いて、多くの元素について同様の実験をおこない、その多数のものが原子量を異にした数個の同性体の混合物であることを証明した。
(つづく)



底本:『電気物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアのみなさんです。



電氣物語(三)

石原純

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   一一、磁氣及び電氣の塲、地球磁氣

 磁氣や電氣の現象が澤山に知られて來たに拘はらず、抑も磁氣や電氣が何であるかと云ふ問題の解決は遂に捉へることができなかつた。以前に人々は磁氣や電氣の作用の根源を之等を保持する物體に求めて、その内部に例へば電氣流體の如きものゝ存在を假定して之に關する現象を説明しようとしたけれども、外部に及ぼす磁氣力や電氣力の有樣は之から導き出すことは遂に不可能であつた。この方法に反して、始めて眼を力の及ぼす外部空間に轉じ、その性質や有樣を研究することをより大切であるとなすに至つたのは、實にイギリスのファラデイの卓越せる頭腦の賜であつた。彼の研究は先づ磁石のまはりに於ける力の作用の説明に始まつた。
[#図版(073.png)、第七十三圖 馬蹄形磁石の周りの鐵片の整列]
 磁石の上に紙とか硝子板とかを置いて、その上に細かい鐵粉を一樣に振り撒き輕く叩くと、鐵粉は一定の線に沿うて並ぶ。之は磁石のために各々の鐵粉がそれ/″\小さな磁石となり、之等の小磁石の反對の極が互ひに吸引するからである。一般に磁石に近づけられた鐵片が一時的に磁石の性質をもつことは、磁氣の感應現象として知られてゐるが、この場合に磁石の一定の極に近い鐵片の端には之と反對の極を生じ、遠い端に同じ極を生ずること、丁度靜電氣感應に於けると同樣である。上述の鐵粉の整列は即ちこの感應によるのであつて、整列によつて形作られた線は各處に於ける磁氣力の方向を示すものでなければならない。電流のまはりにどんな方向の磁氣力が作用するかも同樣の實驗で示される。即ち電流の通ずる針金に垂直に厚紙又は硝子板を置いて鐵粉を振り撒くと、針金が之を貫く點のまはりに圓形の整列をなすこと第七十四圖の通りである。之と全く同樣の實驗は電氣についても行ふことができる。即ち帶電體の上に硝子板を置き、之に石膏の粉を振り撒くと、同じく感應によつて力の方向を示す曲線(第七十五圖)を得るのである。
[#図版(074.png)、第七十四圖 電流の周りの磁力線]
[#図版(075.png)、第七十五圖 電氣指力線を示す石膏粒の配列]
 さてファラデイは、電氣並びに磁氣の場合にかやうな力の方向を示す曲線に注目し、之を指力線と名づけ、又指力線の通ずる場處を電氣力及び磁氣力の場(簡單に電場及び磁塲とも云ふ)となし、その性質について獨自の研究を進めた。指力線の通ずる有樣を見ると、之は常に陽電氣と陰電氣、又は磁石の北極と南極とを相連絡してゐる。若し我々がこの指力線を一定の電氣又磁氣量から一定の數だけ出るやうに、即ちそれらの密度に應じて引くならば、指力線の集中離散の有樣によつて各々の塲處に於ける力の強さを見ることができる。又指力線に對して到る處で垂直に交はるやうな面をつくつて見ると、之は恰度重力の方向に垂直に置かれた水平面に相當するものである。導體内の電氣の運動に關してはかやうな水平面の高低に相當するやうな量を既に電位として云ひあらはしたが、導體以外の空間に於ても、即ち一般に電場内に於ても、そこに或る電氣量が置かれたとすれば、之が電氣力にはたらかれて運動する有樣はやはりこの水平面によつて規定される。この意味で指力線に垂直な面を等位面と名づける。之は磁氣の場に關しても全く同樣である。
[#図版(076.png)、第七十六圖 指力線及び等位面]
[#ここからキャプション]
指力線及び等位面
(1)陽または陰電氣が孤立せる場合
(2)二つの等しい異種電氣
(3)大いさの異つた同種電氣
(4)大いさの異つた異種電氣
(5)二つの等しい同種磁氣(又は電氣)が一樣の場におかれた場合
(6)2枚の導體に異種電氣のある場合
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[#図版(077.png)、第七十七圖 力管]
 一つの等位面から他の等位面に電氣又は磁氣を運ぶには、その向きが力の方向にあるか、又は之と反對になつてゐるかに從つて或る仕事が得られ又は費されるわけである。それ故我々は二つの離れた等位面の間隔を、恰度單位電氣量又は磁氣量の移動に對する仕事が一ダインに等しくなるやうに定めたとすれば、等位面の疎密の程度によつても塲の有樣を知ることができるのである。
 ファラデイはかやうな電塲及び磁場が空間に於ける或る媒質の状態によつて結果するとなし、指力線で圍まれた管、即ち指力管なるものを考へるとそれが恰もゴム紐を引張つたやうに自ら收縮しようとして張力を生じ、之と同時に横に脹れようとして互ひに押し合ふものであることを假定した。之によつて電氣及び磁氣の間に引力や斥力のはたらくことを能く説明することができるばかりでなく、抑も之等の力が空間的に遠隔の場處にはたらくのは何故であるかと云ふ、所謂遠隔作用に對する形而上學的疑問を除去するに與かつて效があつた。之れ以來力の遠隔作用と云ふことは漸次疎んぜられて、すべて彈性による力のやうに媒質に於ける近接作用として之を解釋しようとする傾向が一般を支配するやうになつた。ニゥトンの萬有引力の如きも從來は遠隔作用として假定せられてゐたけれども、最近のアインシュタインの相對性理論に於ては全く近接作用として見做されるに至つたのはその著しい例である。
 地球上の空間は重力の塲であると同時に、地球磁氣の塲である。磁針が南北の方向を指すのは、この磁場の指力線が大體に於て子午面内に横はるからである。但し磁針の指す方向が正しく北でないこと、即ち北極星の方向とは異なつてゐること、又之との外づれは地球上の各々の塲處によつて異なることは、既に早く見出だされた(一五頁)。磁針が地理上の子午線となす方位角(偏角)並びに水平面に對して傾く伏角を測定すれば、之によつて地球磁塲の指力線を決定することができ、從つて多くの指力線の集中する地球磁極の位置を推定することができる。この磁極が地理上の南北極と稍々外づれた或る地點に存在し、しかも何等かの原因で多少の變化を行ふことは上述の觀測事實から結論される。
[#図版(078.png)、第七十八圖 一九〇九年ハンス・デユッヘルの作つた羅針盤]
[#図版(079.png)、第七十九圖 本邦磁氣偏角]
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實測値の外に之等を平均して局部的異常を消出したものを示す。圖中の度數は何れも西方への偏角の大きさである。
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 地球磁氣の數理的研究は一八三六年から數年に亘つてドイツのガウス及びウェーベルによつて行はれたが、その物理的原因が果して何であるかは今日迄尚ほ確定されてゐない。ガウスの理論によれば地球磁氣の主要部分は地球の内部に存しその他の小部分が地球以外にあると云ふ結果になる。後者は恐らく大氣中を流れてゐる電流のために起される磁場として解せられるが、前者に對してはやはり地球表面及び大氣中の電氣によるものとすべきか、又はその他の原因による地球の帶磁に歸すべきか未だ明らかでない。又地球磁氣力の方向の變化のうちには年々に規則立つて起るのもあるし、日々繰返されるものもある。この外に時を定めないで急激に起る不規則の變化もあるので、この最後のものを特に磁氣嵐と名づけてゐる。磁氣嵐は多く太陽黒點の出現と伴ふので、黒點が氣體の烈しい渦卷であり、そこに強い磁氣作用をあらはし、兩磁極に相當するものを太陽面に生ぜしめることゝ、何等かの關係があるやうに考へられる。

   一二、媒質論の發展

[#図版(080.png)、第八十圖 王立協會の講義室に於けるフアラデイ]
 ファラデイが電氣及び磁氣力の作用を媒質の状態に歸したことは上に述べたがこの媒質論を斷じて確實にしたところの事實は一八三八年更に彼自身によつて見出だされた次の現象である。即ち蓄電器の電氣容量は二枚の導體間の空間が種々の物質で置き換へられたときに異なると云ふことである。例へばパラフィンを導體間に入れゝば電氣容量は2倍になり、シェラックでは3倍、硝子では6倍、水では80倍に増すのである。この數は物質の電媒常數と名づけられるものであるが、之によつて電氣容量が變ると云ふことは導體上の電氣の間の力が單に電氣量そのものによるだけではなく、却つてこの間を充たす媒質の如何によるものであることを明らかに示してゐる。ファラデイは導體表面に電氣のあらはれるのは指力管に沿うて到る處微少な範圍内に陽陰兩電氣が分離移動し、指力管の中途では互ひに相接觸せる反對の電氣の存在のために作用が打ち消されてゐるのに反し、導體表面に於て指力管の始まり又は終る處では一方の電氣だけが殘存するようになるためであると考へた。之によれば電氣は導體それ自身にあるのでなく、却つて媒質そのものゝなかに存するのであつて、之が事情に應じて導體表面に現はれるのに過ぎない。この媒質は一般には所謂エーテルとしてすべての空間、即ち眞空及び物質内部を通じて之を充たすものであるが、若しそこに物質が存在するならば、エーテルの各部分以外に亦物質分子内にある電氣も同樣に分離して上の作用を強めることゝなる。エーテル並びに物質内に於けるがような電氣の分離を一般に電氣變位と名づけ、そのうちで特に物質がこの電氣變位の有樣にあることを偏極と云ふ。
 こゝに電氣に關して述べたことは大體に於て磁氣の塲合にも成り立つこと勿論である。但し磁氣に對しては電氣の導體に相當する物質が存在しないので、磁氣指力線はすべての物質内部を通つて續いてゆく。即ちそれらは電氣の絶縁體に相當するのであつて、そのなかに起された磁氣偏極を特に磁化と名づけてゐる。
 偏極によつてあらはれた電氣や磁氣が、物質分子内に閉ぢ込められてゐる限りはそこに一定の電氣又は磁氣の場を生ずるのであるが、只獨り電氣に對する導體にあつては、之と異なつた特殊の事情があらはれるわけである。即ちその内部に於て電氣の移動が自由であるために、偏極を起すやうに分離移動した陽陰電氣はその儘分子内に止まつて偏極を維持することなく、力の平衡を保つ塲處まで移動を續け、結局導體の表面に集まるのである。靜電氣の場合に導體の内部に電氣がないと云ふのはこのためである。一般に變位によつて物體の境界面にあらはれる電氣と、導體に於ける自由移動によつてその表面にあらはれる電氣とを互ひに區別して、後者を自由荷電、前者を外觀荷電と名づけることがある。導體表面に於ける全體の電氣は實は内部の自由荷電と、外部の媒質の變位による外觀荷電との代數和であつて、之を眞荷電と名づける。
 このやうに見てくると、電場及び磁場に置かれた物體がなぜ感應の現象を起すかと云ふことも自然にわかるであらう。それは絶縁體では物體の偏極によつて起る外觀荷電のためであり、導體では電氣の自由移動による自由荷電の爲である。又既に述べたやうに絶縁體や磁性體の内部には一定の電場及び磁場が存することができ、從つて指力線が之等を通つてゐるのに反し、導體の内部は少なくとも電氣平衡の状態では全體が等電位にあつて指力線が存在しない。つまり導體は指力線を斷つと云はなければならない。導體で取り圍んだ空間が外部の電氣力の影響を受けなくなるのはこのためである。從つてこの意味では電氣力を傳へるものは導體でなくて却つて眞空空間又は絶縁體に限られるのであつて、それ故之等を電媒質と稱するのである。
[#図版(081.png)、第八十一圖 クラーク・マクスウエル]
[#図版(082.png)、第八十二圖 變位電流]
 之等の思考に對する完全な數學的理論は、ファラデイの後にその仕事を繼承したマクスウェル(一八六一年)によつて與へられた。ファラデイの卓見を稱すると共に、我々はその言葉を數學的に一層正確に飜譯しなほしたマクスウェルの偉大な功績をも讃美しなければならない。特にマクスウェルが所謂電氣力學の基礎法則を立てた際に、理論的に重要な役目をなしたものは媒質電流若くは變位電流と名づけられるものである。

   一三、感應電流

 前に述べた通り電氣と磁氣との密接な關係は、電流が磁針に作用すると云ふエールステッドの發見によつて始めて事實的に示されたが、之を逆にした兩者の關係、即ち磁氣によつて電流を生ずることはその後一八三一年になつてファラデイによつて見出だされた。之はファラデイの電磁氣に關する大研究の最初のものであり、且つ理論に於ても亦應用に於ても多大の發展を持ち來した重要な端緒であつた。
 ファラデイは靜電氣が他の導體に感應するやうに電流も亦他の導線に感應しはせぬかと云ふ考へで種々の實驗を行つたが、遂に次の實驗によつて磁石の作用で電流を發生させることに成功した。即ちコイルの兩端を豫め電流計につないで置き、そのコイルの軸に沿うて棒磁石を突入れると、コイルの導線に電流が起り、又磁石をコイルから引き拔くと再び反對の方向の電流が電流計に流れるのが見られる。この事實は今日電磁感應として知られてゐるものである。次いでファラデイは、一つの電流回路を閉ぢたり切つたりする瞬間に、すぐ傍に置かれた針金に電流の起ることを見出だし、又後者を前の電流回路から遠ざけたり近づけたりしても同樣であることを見た。若し後者に最初から電流が存在してゐたならば、それが右の影響によつて同じく増減すること勿論である。之は電流の相互感應と稱すべき現象である。
 一般に云つて、之等の感應電流は一つの導線回路を縁邊として考へられた面を通過する磁氣指力線の數が變る場合に常に起るものであつて、例へばコイルを地球磁氣の場で回轉するやうな場合にもコイルの導線には交互に方向を變ずる電流が感應されることは、後にドイツのウィルヘルム・ウェーベルによつて實驗された。この實驗で感應電流の強さを測ることによつて地球磁氣の鉛直並びに水平分力を知ることができる。
[#図版(083.png)、第八十三圖 ウェーベルの地球磁氣感應の實驗]
 感應電流の方向に關しては一八三四年ロシヤのレンツが次の法則によつて之を一般に云ひあらはした。感應電流は之に伴ふ反作用がもとの磁石又は電流回路の運動を妨げるやうに起る。但しその運動によらないで、磁石や電流の強さの變化による場合には強さを増すのが近づく運動に相應し、強さを弱めるのは之に反する。
 このレンツの法則はエネルギー保存の原理から見れば寧ろ當然の歸結であつて一八四五年フランツ・ノイマンによつて數學的に完全に説明された。磁石をコイルに對して近づけ又は遠ざける場合の感應電流の方向は第八十四圖に示す通りである。
[#図版(084.png)、第八十四圖 磁石の運動と感應電流の方向]
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Nは磁石の北極.Sは南極.n及びsはコイルが電流のために磁石の作用をなす場合の北極及び南極
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 感應電流はその後電流を得るための重要な手段として用ひられるやうになつた。電池によつて起される電流では、動電力(電壓)に一定の制限があるけれども、感應電流によるものでは適當な裝置とその動力の如何によつては之を任意の大いさに達せしめることができるからであつて、このお蔭で電氣工業の發達したことは實に著しいと云はねばならない。
 第八十五圖に示すような裝置で下部の馬蹄形電磁石を固定し、上部の電磁石を中央の軸の周りに廻轉すると、之に捲いた針金のなかに感應電流を得られる。併しこの電流の方向は半廻轉毎に逆になること、前に述べたウェーベルの地球磁氣感應器と全く同樣である。
[#図版(085.png)、第八十五圖 發電機を説明する圖]
[#図版(086.png)、第八十六圖 發電子]
 かやうな交互に方向を變ずる電流即ち交流を、方向の變らない電流即ち直流として外部に取り出すことは、次のような特殊の裝置によつて、容易に成功される。即ち廻轉コイルの端が半廻轉毎に異なつた刷子に接觸し、之から電流を外部に導くようにすればよい。實際の發電機では固定した電磁石を場磁石、廻轉するものを發電子と稱する。場磁石は通常發電子を取り圍む大きな兩極(N・S)を備へ、發電子から取り出された電流又はその一部が場磁石の作用を強めるやうに針金を捲いてある。第八十七圖はかやうな發電機の模型を示したもので、場磁石に捲く針金の連結の仕方によつて、直捲(a)、分捲(b)、及び混合捲(c)を區別する。
[#図版(087.png)、第八十七圖 發電氣の模型]
 發電機からの電流は直流として取り出す外に、目的によつては交流の儘で取り出す場合も多い。之等に應じて種々の形式の直流又は交流發電機が形作られてゐる。通常水力電氣と稱へてゐるのは、發電機を廻すための原動力として水力を用ひるものであつて、發電子を水力タービンと直結してその廻轉を起させる。
[#図版(088.png)、第八十八圖 發電機と電動機との連結]
 發電機を逆に使用し、電流を發電子に供給すると之に廻轉を起させることができる。この目的に使用するものを電動機(電氣發動機又は電氣モーター)と名づける。之を發電機と直結して動力を得るために用ひられる。
[#図版(089.png)、第八十九圖 ウエルナー・ジーメンス]
[#図版(090.png)、第九十圖 世界最初の電車]
 かやうな電動機の原理は一八六七年始めてドイツのウェルナー・ジーメンスによつて述べられたものであつたが、其後種々の方面に於て盛んに實用に供せられ、我々の生活に多大の利益を與へるやうになつた。我々が日常見慣れてゐる電車の如きは即ち電動機を具へた機關車に外ならないが、それは一八八一年に始めてジーメンスの手によつてドイツのベルリン郊外に敷設せられて以來、漸次一般的となり今日では既に蒸氣機關車を凌ぐ程の交通機關として重要のものとなつてゐることは驚くべきばかりである。又自動車や扇風機や水ポンプや昇降機などにも用ひられ、諸工場の動力供給のためにも必要にして缺くことのできないものとせられてゐる。
[#図版(091.png)、第九十一圖 本邦製最大の電氣機關車EF五二四型]

   一四、電流の自己感應及び交流

 電流の強さが變る場合には、その回路で取り圍む面を通る自身の磁氣指力線の數が變るから之が自身の回路に感應電流を生ずるようになる。この感應電流の方向はレンツの法則によれば磁氣指力線の數の増減を少なくするように向ふわけであつて、從つてもとの電流の強さが増すときには感應電流は之と反對の方向に起つて強さの増加を弱め、之に反して前者が減ずるときには感應電流は同じ方向に起つて前者の減少を妨げる。かような現象を電流の自己感應と名づける。電流を電氣の運動と見做し、電流の強さをその運動の速さと解するならば、自己感應の現象は恰度この運動に對する惰性を云ひあらはすことになる。
 電流の回路を閉ぢたり切つたりする場合に、單にそれだけの過程を考へに取るならば、その瞬時に電流の強さは、零から急に或る値に増すとか、又は逆に或る値から零に減ずる筈であるが、實際には自己感應の影響によつてその變化が遲くされること第九十二圖に示す通りである。電流の方向が或る週期を隔てゝ逆になる場合即ち通常の交流に於ても同樣であつて、電流の強さの時間的變化をあらはす曲線は常に連續的な波状を呈するやうになる。
[#図版(092.png)、第九十二圖]
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時刻aに電路を閉ぢbに之を切つた際電流の強さは點線の如く變化せず自己感應によつて實線のやうになる
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[#図版(093.png)、第九十三圖 交流に於ける電流の強さの變化]
 交流は常にその値を變化してゐるばかりでなく一定の方向の電流の強さを正にとれば、その方向の變化のために、交流では正負の値が交互にあらはれる。それ故交流の強さ(實效値)を云ひあらはすのには、之が運ぶエネルギーの量をもつてする。電流が針金のなかに生ずる熱は即ち之に相當するものであつて、從つて例へば一アンペアの直流が生ずるのと等しい熱量を同時間に發生するやうな交流を名づけて、やはり一アンペアの強さをもつと云ふのである。電位差即ち電壓についても同樣で、強さの實效値との關係がオームの法則に從ふやうに電壓の實效値を決める。普通に交流の電壓を幾ボルトとして云ひあらはすのはこの實效値を指すのである。白熱電燈用として供給されてゐる電流は大概交流であつて毎秒50乃至60回の振動(サイクル)をなすものが多い。之に對して電球が100ボルト、16燭光などと指定されてゐるのは、交流の電壓實效値が100ボルトである塲合に丁度16燭光を出すと云ふ意味である。
[#図版(094.png)、第九十四圖 電燈の明滅を證據立てる方法]
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上圖の模樣を蓄音器の圓板台に載せて電燈の下で廻轉して見ると廻轉の速さが適當に加減された時黒線が少しも動かない樣に見える。之は電燈が明滅する毎に順次隣の黒線が同じ場所に來るからである。右圖は毎秒五十回(關東地方)左圖は六十回(關西地方)の場合に用ひる
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[#図版(095.png)、第九十五圖 變壓器の理]
 直流と交流とでは、少なくともその熱效果に於ては同等であること上述の通りであるから、電燈又は電氣爐の如きものにあつては交流を使用しても差支へないわけである。この外に交流を使用することの利である理由は、その目的に應じて容易に電壓を變へることができるからである。之をなす裝置は變壓器と稱へるものであつて、同じ鐵心に捲かれた二つのコイルp、sから成つてゐる。一方のコイルpは細い針金を密接して數多く捲いたものであり、他方sは之に比べて捲數のずつと少ないものである。この二つのコイルのどちらかに交流を供給すると、他方に感應して週期を等しくする交流を生ずるわけであるが、一般に同じ磁氣指力線の變化によつて起る感應動電力ともとの交流電壓との割合はそれ/″\のコイルの捲數に比例するから、捲數の差によつて交流の電壓を増し又は減ずることができる。
[#図版(096.png)、第九十六圖 大きな變壓器]
 今日では多くの市街地に於ける電車や電燈や又は諸工場の動力として大規模に電力を供給するためには、天然に存在する水力を最初の動力源とするのが經濟的に最も有利であるとせられてゐる。併し多大の水力を直接に利用し得られる塲處は、一般に繁華な市街地を離れた山間であるから、さう云ふ塲處で起された電力を都市まで輸送するために電線を通じて電流を流さなければならない。ところが電線が長くなればなる程その途中で多量の電流エネルギーは熱となつて無益に減損してしまふのを免かれない。それでこの損失をなるべく少なくするにはできるだけ抵抗の小さい導線を用ひるか、又は電流の強さを小さくするより外はない。現在では設備上の費用を考へた上で、さう勝手な導線を用ひる事ができないから專ら電流を弱くするやうな方法を採り、從つて一定の電流エネルギーに對してできるだけ電壓を高くするやうになされてゐる。この目的で多くの水力發電所では先づ交流發電機によつて交流を起した後、之を變壓器によつて數萬ボルト以上の高電壓に變へて輸送し、電力使用の際に再び變壓器で低壓に降下させるようにしてある。通常3000ボルト以上を特別高壓、300ボルト以上を高壓と名づけてゐるが、かやうな高壓電流の流れてゐる導線は之に觸れると非常に危險であるから嚴重に警戒を要する。市街地内ではかやうな高壓電流の通過を絶對に禁じてゐる場合が多い。それ故之を市街地に引き入れる前に、相當な變壓所で數段に低壓に變ずるのが常である。
[#図版(097.png)、第九十七圖 東京電燈猪苗代發電所内部]
[#図版(098.png)、第九十八圖 東京電燈猪苗代第一發電所全景]
 交流發電機では、塲磁石の極及び發電子のコイルの數を多くしたものを用ひると、發電子の一廻轉のうちに既に數回の振動をなす交流が得られる。かようなものを多極發電機と云ふ。若しこの際各々のコイルに發電した電流をそれ/″\異なつた導線に取り出すならば、順次振動位相を異にした交流が同時に得られるわけである。場磁石の極及びコイルが四つあれば、之等を二組の針金に取り出して、一方の位相が他方に對し振動週期の 1/4 だけ遲れるやうな二組の交流を得るし、磁極及びコイルが六つあれば位相が週期の 1/6 宛遲れた三組の交流を得る。この樣に位相の異なつた交流が同時に存在するものを一般に多相交流と云ひ、交流の數に應じて二相交流、三相交流などの名が呼ばれる。
[#図版(099.png)、第九十九圖]
 三相交流の特色は、その強さをあらはす第九十九圖の曲線で見る通りに、中央の横線即ち電流の零であることを示す線の上下にすべての時間に常に互ひに等しい大いさの電流が存在することである。それ故三相交流を通ずる導線を一點につなぎ合はせると互ひに反對の向きの電流が重なつて全體としては零になつてしまふ。從つて三相交流を導くにはこのやうな連結によつて歸路の導線が不
[#以下、底本一四五・一四六ページ欠損]
[#図版(100.png)、第百圖 一九〇三年にドイツのニユルンベルグに最初に設けれらた[#「れらた」は底本のまま]電話交換局]
[#図版(103.png)、第百三圖 自働式電話交換局の内部設備(ドイツ・ミユンヘン)]
[#これより底本一四八ページ開始]
ような電氣の運動現象に外ならないものであるが、この外に電氣は不導體によつて隔てられてゐても、一定の距離に對する電位差が餘りに大きくなると火花及び音を發して中和するやうになる。之は靜電氣の實驗に於て常に見られる處であつて、帶電體の傍に指頭を近づけ、又は他の物體を接觸させると帶電體との間に小さな火花及び音の出るのが常である。感應起電機の兩極に電氣を蓄へておいて、之等を互ひに近寄せると火花や音が稍々火きく、又ライデン壜の外箔と上部の金屬球とを放電叉と稱する開閉自由の叉形の金屬棒で連結させる時も同樣である。
 すべてこのように不導體の内部を通じて電氣が中和する現象を放電と云ひ、火花を發して中和するのを特に火花放電と名づける。火花が稍々大きいときには、帶電兩極の間に挾んだ厚紙や硝子片などに孔を開けることができる。
 大氣中に起る雷電は古代から驚異の自然現象と見られてゐたが、之も亦大規模の放電に外ならないことは、始めてアメリカの有名な政治家であり科學者であつたベンジャミン・フランクリンによつて一七五二年に實驗的に證明された。彼は最初高い處から空氣中の電氣を導くつもりで、當時恰もフィラデルフィヤに於て或る高塔の建築されるのを待つてゐたが、その完成が遲れたので他の方法を考へ、尖端のある鐵棒を附した布製の紙鳶を飛揚させて雷雲の電氣を導き寄せようとした。フランクリンは彼の子息と共に同年七月の雷鳴の際この實驗を行ひ、ライデン壜を帶電せしめて通常の電氣と全く同樣の衝撃をあらはすことを確めた。
[#図版(104.png)、第百四圖 電光]
[#図版(105.png)、第百五圖 ベンジヤミン・フランクリン]
 電光は直線的に起らないで屈曲した經路を取ることはその寫眞によつてよく示される(第百四圖)。又尖端のある金屬導線がよく空中の電氣を導くことのできるのは既にフランクリンの實驗でも明らかであるが、之は感應によつて金屬導線に生じた電氣が尖端の塲處に於て特に大きな蜜度[#「蜜度」は底本のまま]をもつて集中するから、空氣中の塵埃などを盛んにその部分に吸引し、接觸によつて之等を帶電させては反撥し、從つてこの結果一種の放電となつて其部分の感應電氣を中和させ、反對の電氣を導線の他端に殘留させるやうになるからである。第百六圖のやうに金屬を曲げたものを軸に載せて自由に廻轉し得るやうにし、之に帶電させると尖端放電の際空氣中の塵埃を尖端の方向に追ひやるから、その反作用で矢の向きに廻るのが見られる。
[#図版(106.png)、第百六圖 尖端火花の實驗]
 尖端放電は絶えず徐々に起るから之によつて過激な放電作用を避けることができる。古代イェルサレムの大伽藍は數千年間に亘つて落雷の記録を殘さないとせられてゐるが、之は屋上に數多の尖つた黄金の裝飾を有し、鍍金された建物の外側にある管で地面まで連絡してゐたためであると考へられてゐる。フランクリンは實際にこの理を利用して避雷針をつくつた。
[#図版(107.png)、第百七圖 感應コイルの構造]
 放電現象は不導體を通じて起るから電流の強さは比較的小さいけれども、之に反して電壓は非常に大きいのである。それ故電流を用ひて實驗的に強大な放電を得るためには、感應コイルと稱する一種の變壓器によつて電壓を高める必要がある。之は第百七圖のやうに軟鐵の線條を束ねた心棒の上に太い針金を捲いて第一コイル(p)とし、更にその外部に細い針金を非常に密に捲いて第二コイル(s)としたものである。第一コイルの回路に電鈴に於けると同樣な繼續裝置(D、a、I)を入れて電流を通すと、その繼續毎に第二コイルに高壓感應電流を生ずることができる。之は第一コイルの電流の繼續に應じて方向を逆にする交流であるが、自己感應の影響によつて回路が閉ぢられるときよりも斷たれるときの方が遙かに大きな感應起電力をもつから、第二コイルの兩極を(E、E)適當の距離に保つて置くと、回路切斷に應ずる方向にのみその間に火花の飛ぶのを見ることができる。
[#図版(108.png)、第百八圖 火花放電の壯觀]
[#ここからキャプション]
上は九フイート宛離れた三つ 電極間の火花.中は百五十萬ボルトの火花放電.下は磁場に於ける火花放電
[#キャプションここまで]
 火花は亦硝子管やその他の絶縁體の表面に沿うて特殊の有樣に起る事がある。之を滑走火花と名づけるが、樹枝状又は根状の美くしい模樣がそこにあらはれる。
[#図版(109.png)、第百九圖 滑走放電]
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上と中はレントゲン管に沿つて起つたもの
下は硝子板に沿つて起る普通の火花放電
[#キャプションここまで]
[#図版(110.png)、第百十圖 リヒテンベルグ圖形(陽)(=電極)]
[#図版(111.png)、第百十一圖 リヒテンベルグ圖形(陰)]
[#ここからキャプション]
陽・陰はライデン罎の内部箔が陽又は陰に帶電せる塲合を示す
[#キャプションここまで]
 この外一七七七年にリヒテンベルグによつて見出だされたもので、滑走火花に類似した一種の現象がある。強く帶電したライデン壜の頭で絶縁體の表面に觸れ、この塲處に硫黄又は鉛丹の細かい粉を振り撒き、餘分のものを吹き去つてしまふと、特有な圖形をつくることができる。布を摩擦した鉛丹は陽に、硫黄は陰に帶電するので、之等はそれ/″\絶縁體の表面の之と反對に帶電する場處に附着するのである。細粉を振り撒く代りに絶縁體の表面の上に寫眞乾板を重ねて置けば、同樣に之に見ごとな電氣通路を印すことができる。

   一六、電氣振動、電波

 ライデン罎の放電やその外の火花放電を肉眼で見ると、一瞬時の間しか續かないで、その短い時間に電氣が一と飛びに中和してしまふ樣に思はれるけれども、之を非常に早く廻轉する廻轉鏡に映して見ると、兩極の間に多くの往復振動をなして漸次に減衰するものであることがわかる。
[#図版(112.png)、第百十二圖 ライデン罎の放電を廻轉鏡に映した有樣]
[#ここからキャプション]
左から始好つて[#「始好つて」は底本のまま]右に終る
[#キャプションここまで]
[#図版(113.png)、第百十三圖 交流の減衰する有樣]
 この事實は一八四二年にアメリカのジョセフ・ヘンリーが始めて鋼鐵針の不規則な磁化によつて明らかにしたのであり、その後一八五三年イギリスのケルビン卿によつて理論的に研究せられ一八五八年ドイツのフェツ・ダーセンによつて廻轉鏡による實驗が工夫せられたのであつた。之は恰度振子の球を鉛直から外づして離す場合に直接に靜止の位置に達することなく、却つて數回の往復振動を繰り返して漸次に止まるのと全く同樣の現象であり、振子の球と等しく電氣の運動に對しても一種の惰性の存在するためであることが確められる。電流の自己感應も亦かやうな惰性のために起ることは既に述べた處であるが、交流を斷絶した際に電流が同樣の減衰振動をなして後に零に達することも實驗的に示される。
 電流を電氣の運動と見るならば、その周圍には電氣の場が一緒に持ち運ばれてゐるのであり、又之と同時に電流の周圍には磁塲が起されてゐるのである。それ故に上述の電氣振動に際しては周圍の電氣及び磁氣の塲も亦振動的に變化すべきことは勿論である。ところでマクスウェルの理論によれば、一般に媒質内に於て塲の或る變化があらはれる塲合には之が常に一定の速さをもつて擴がることが數學的に證明せられる。この現象は理論上から云へば、恰度導體内に於ける傳導電流に相應すべきところの、媒質内に於ける一種の電流とも見做さるべきものであつて、マクスウェルは之に媒質電流若くは變位電流なる名を與へた。例へば蓄電器ABをCなる針金で連絡して放電させる塲合には、陽陰兩電氣は針金のなかを傳はつて傳導電流を形づくると同時にA、Bの間隙をなす空間内には塲の變化による媒質電流があらはれ、この兩者によつて始めて完全に閉ぢられた電流回路が成り立つのである。
[#図版(114.png)、第百十四圖 變位電流]
 媒質電流はかやうにして理論上極めて重要な意味をもつのであるが、實際上にも亦決して度外視さるべきものでなく、今日に至つては特に顯著な應用が之に基づいてなされるやうになつた。媒質電流の特質は電氣及び磁氣の塲が擴がる限りの空間のどんな塲所にも到達することであつて、上記の電氣振動の場合には之が振動的に到る處の空間に傳播するわけであるから、こゝに一種の波動が形成される。この全體を通常電磁波と名づけ、そのうち電氣の場の振動だけを考へるときには單に電波とも名づける。
 マクスウェルは一八七三年に彼の理論からの歸結として、かやうな波動の眞空中に於ける傳播の速さが光の速さと數値的に同一であるばかりでなく、その他のすべての性質が光波と一致することを見出だし、從つて光波は電磁波の一種に外ならないと云ふ光の電磁説を主張したのであつたが、一八八八年に至り、ドイツのヘルツは始めて電氣振動によつて實際に電波を發生させ、マクスウェルの理論を完全に實驗的に確かめることに成功した。爾後電波が我々の實驗並びに應用の對象となることができたわけである。
[#図版(115.png)、第百十五圖 ハインリツヒ・ヘルツ]
 ヘルツの實驗裝置は第百十六圖に示す通りの簡單のものであつた。感應コイルKの兩極に金屬板AB及び之に取りつけた棒をつなぎ、その尖端に附した小さな金屬球を或る間隙をもつて向ひ合はせたもの、及び同樣の間隙を具へた針金の環から成り立つてゐる。感應コイルをはたらかせてCDの間に火花を飛ばし、環を適當の距離に置くと、後者に感應電流を生じて間隙に小さな火花があらはれる。之は發音體が音波を出して他の發音體に共鳴するのと同樣の現象であつて、電氣振動の塲合にも各々の回路の電氣抵抗や自己感應の大いさによる固有振動が一定し、兩者の振動週期が一致する塲合に共鳴を起すのである。この意味で前者を振動器、後者を共鳴器と名づける。
[#図版(116.png)、第百十六圖 ヘルツの實驗裝置]
[#図版(117.png)、第百十七圖 ギレルモ・マルコニー]
 電波はすべての空間を非常に大きな速さで傳はるから、之を通信用に供して最も理想的に近いものである。最初之によつて實際の通信が成功するに至つたのは、コヒーラーと稱する電波檢出器を發明したフランスのブランリー、並びに之による通信裝置を作つたイタリーのマルコニーの苦心のお蔭であると云はなければならない。一八九七年にマルコニーは始めて數キロメートルの距離に送信することができたが、火花を強大にすること並びにアンテナと稱する空中導線を高く張ることによつて漸次通信距離を大きくし、一九〇一年十二月に至つて始めて大西洋を越えてイギリスからカナダのニューファウンドランドにS字に相當するモールス電信符號を送ることができた。
[#図版(118.png)、第百十八圖 マルコニー式電波發生器]
 マルコニーの用ひた送信及び受信裝置は、大體第百十九圖の通りであつて、ヘルツの振動器と同樣にして電氣振動を起し之を高壓に變じてアンテナから四方に輻射させ、同樣の受信アンテナによつて受け取つた電流を檢波器によつて適當に變化し電話用の受話器に通じて音響符號を聞のである[#「聞のである」は底本のまま]。
[#図版(119.png)、第百十九圖 無線電信裝置]
[#ここからキャプション]
(A)送信裝置 Aアンテナ B電池 C畜電器 E地面 I感應コイル K電鍵 L變壓器
(B)受信裝置 Aアンテナ C畜電器 D檢波器 R受話器
[#キャプションここまで]
 檢波器としては最初に用ひられたコヒーラーに次いで、鑛石檢波器なるものが一九〇一年ブラウンによつて創案された。之は特殊の二種類の結晶鑛石の一方を尖らせて他方の面に接觸させたもので、之を回路中に置くと、一方向の電流に對しては抵抗が多いので交流の一方だけが殘され、受話器に感ずるやうになるのである。通常黄銅鑛と鐵又は洋銀、斑銅鑛と紅亞鉛鑛、カーボランダムと黄鐵鑛と云ふやうな組み合はせが用ひられてゐる。その後更に熱電子の作用を利用した眞空球檢波器なるものが發明せられて、非常に遠距離までも鋭敏に電波を受け取ることができるやうになつた。無線電信が船舶などの通信用として極めて有用であることは勿論であり、又學術上にも種々の役目を果してゐる。特定の塲所から時刻信號を全世界に送つて正確の時間を知らしめる如きはその著しい一例である。
[#図版(120.png)、第百二十圖 テレフンケンの受信裝置]
 無線電信に比べて無線電話にはその遂行に種々の困難な事情が横たはつてゐたために、その發達完成も著しく遲れてゐた。その主要な困難は、火花放電による電氣振動が上に述べた通り減衰振動であるに反し、無線電話では專ら非減衰振動を必要としたからである。即ち非減衰振動を起す回路に於て音聲による電流變化を伴はしめ之を電波として送り出し、受信裝置に於ける檢波器を經て再び音聲に戻すのがその目的とする處なのであつた。ところがかやうな非減衰振動は一方で眞空球を振動器として用ひることにより、又他方では謂はゆる高周波交流發電機なるものがアメリカのアンキサンダーソン[#「アンキサンダーソン」は底本のまま]、ドイツのアルコ、及びゴールドシェミット、フランスのペテノー及びラツール等によつて作られたことにより、漸く實現せられるに至り、こゝに無線電話の成功が見られた。特に歐洲大戰中軍事上の必要に迫られた結果、急激の發達を遂げ、休戰後一九二一年に至つてはアメリカで遂に公衆に對する無線電話放送が行はれ始め、爾後僅かに數年の間にこの放送事業は世界各國に普及するやうになつた。
 無線電話に伴つて、印刷又は寫眞の無線電送や、艦船等の無線操縱裝置の如きものが種々企圖せられ、又活動せる映像を寫し出すテレヴィジョンの如きが考案せられ、既に近き將來に於て謂はゆる電波の世界が現ぜられようとしてゐる。
 電波の波長はその裝置の如何によつて數ミリメートルの大きさから數キロメートルに迄及ぶことができる。實際の放送に於ては相互の混信を避けるために各國に於て使用波長を協定し、それぞれ異なつたものを用ひてゐる。我國の放送には現に 360 乃至 385 メートル、又短波長として 215 乃至 235 メートルを用ひる事になつてゐる。電波の速さは毎秒 3×10^8 メートルであるから、毎秒の振動數即ち周波數と稱へられるものは、例へば 360 メートルの波長に對して 3×10^8/360=8,3×10^4[#「8,3」は底本の通り] 即ち八十三萬ばかりになる。
 又最近では之等より遙かに波長の短い電波、所謂超短波長を用ひる方法が盛んに試みられてゐる。この塲合には電波が光線のやうに直進するから、適當な裝置で一定の方向にだけ強大なエネルギーを送ることの出來る特徴がある。

   一七、眞空放電、陰極線

 通常の空氣中では電氣の兩極に十分の電位差を與へると激しい火花を發して放電を起すけれども、空氣を拔いた硝子器内で之を行ふと薄い光芒が擴がつた特異の放電現象を呈する。之は一八三八年に書かれたファラデイの論文中に始めて記されたものであるが、一八五〇年頃にフランスのリュンコルフによつて感應コイルが發明されて、強い電氣火花を得るやうになつてから急に一般の興味を喚び起した。彼は最初卵形の硝子器内の空氣を拔いて電氣を通したところが、陰極の周りに黄色の光の層があらはれ、その外部に暗い層を隔てゝ青い光のあるのを見出だした。その頃ドイツのボンに硝子細工に堪能なガイスレルと云ふ人があつて種々な形の硝子管を巧みにつくつたので、ボン大學の教授であつたプリュッカーは之を用ひていろ/\の實驗を行つた。爾後この實驗に用ひられる硝子管をガイスレル管と呼ぶのはこのためである。
[#図版(121.png)、第百二十一圖 眞空放電の有樣・上からABCD]
 この現象は一般に眞空放電と名づけられ、當時その珍奇の有樣に人々の眼を驚かしたものである。硝子管内の眞空度を漸次高めるに從つてその樣子を異にすることも續いて實驗せられた。最初空氣を拔いた際には第百二十一圖(A、B、C、D)のAのように火花が紐のように兩極間に擴がるけれども、管内の氣壓が小さくなると光芒が淡く擴がり、遂には多くの層に分れて恰度鱗片を並べたようになる。之等の光を分光器で檢すると硝子管内に殘つてゐる氣體に固有のスペクトルを示すのであつて、空氣の代りに他の種々の氣體を管内に入れて之を實驗することができる。
 ブリュッカー[#「ブリュッカー」は底本のまま]の見出だした最も注目すべき事實は、陰極に近い硝子管の壁が緑色の螢光を發する一種の放射線の作用に歸したが、その後一八六九年にドイツのヒットルフは陰極の前に固體をおくと放射線を遮ぎつて後方の硝子管壁に影を生ずることを見出たした[#「見出たした」は底本のまま]。之等の現象は同じくドイツのゴールドシュタインによつても確められ、彼によつてこの放射線に陰極線と云ふ名が始めて與へられた。
[#図版(122.png)、第百二十二圖 眞空管による實驗]
[#ここからキャプション]
上眞空管内に十字形の金屬板をおくとその影が映る 下陰極線が車にあたると之が廻り出す
[#キャプションここまで]
 陰極線が物體の影を投ずることは、之が光線と同樣に直進することを示すものであつて、このためにヒットルフやゴールドシュタインは之を光に似た一種の波動として考へたけれども、之に反して一八八三年にイギリスのクルックスは陰極線が輕い物體に衝きあたつて之を動かすやうな機械的作用をすることや、金屬にあたつて熱を生ぜしめる事などを實驗し、陰極から微粒子の放射する現象に外ならないことを結論した。又陰極線に磁石の棒を近づけると曲ることは以前からも注目せられてゐたが、クルックスはこの曲る向きを吟味して、この微粒子は陰電氣をもつてゐなければならないことを結論し、同樣に電場を加へた塲合の屈曲の事實によつても之を證明し、更に之等の屈曲の大いさを測ることによつて微粒子の質量は管内にある氣體の種類には無關係であり、且つ水素原子の質量に比べて數千分の一に相當する程小さいものであることを見出だした。
 之は實に發見者自身に取つても驚くべき意想外の事柄であつた。クルックスは物質が固態、液態、氣態以外の特異な状態にある時このやうな粒子として存在するのであらうと想像し、之を物質の第四態として云ひあらはした。併し粒子の大いさが物質の種類に關係なく一定してゐることが漸次確實となるに從ひ、これこそすべての物質の一元的構成要素であると解せられるやうになり、一八九一年ジョンストン・ストーニーは之に始めて電子(エレクトロン)なる名を與へた。
[#図版(123.png)、第百二十三圖 ウイリアム・クルツクス]
[#図版(124.png)、第百二十四圖 ブラウン管で撮影した振動電流の美しい寫眞]
 陰極線は物體によつて影を生ずるけれども、物體が薄い層をなす塲合には之を透過することができる。之は一八九二年にヘルツによつて實驗せられ、金箔やアルミニウム箔で遮ぎられた後方に尚ほ螢光作用を生ずることによつて確められた。次いで一八九四年にレナードは陰極に對立する硝子管壁に薄いアルミニウム箔で張つた窓をつくり、之を透して管外に放射線を取り出すことができた。レナード線と稱せられてゐるものは之である。之等の事實は最初陰極線の粒子説に反對する證據として見做されてゐたが、その後實は粒子が非常な高速度で飛んでゐるために、物質の分子間隙を通り拔ける事のできる結果であることが明らかにせられた。
 一八九七年にブラウンは磁塲内での陰極線の經路を研究するために特殊の眞空管をつくつた。これは第百二十五圖に示すような構造をもつてゐる。管の細い部分の陰極線の通路にはたらくやうに電磁石を具へ、之によつて曲げられた陰極線は管の他端におかれた螢光板に當つて之を光らせる。この管をブラウン管と名づけてゐる。
[#図版(125.png)、第百二十五圖 ブラウン管]
 ブラウン管は交流即ち振動電流の振動形を檢知するために利用せられる。即ち一方の電磁石に交流を通ずると之に應じて螢光板上の光點が動いて振動形を示すからである。この振動變化は電子の質量の小さいために非常に鋭敏に感ずるので、極めて速い高周波電流に對しても之を謂はゆるオッシログラフ(振動圖示器)として用ひることができる。又互ひに垂直な二つの電磁石を具へて各々に異なつた交流を通ずると二つの垂直な振動が重なり合つて螢光板にあらはれ、リサージュの圖形を示すことができる。
[#図版(126.png)、第百二十六圖 ブラウン管で示されるリサージユの圖形]

   一八、陽放射線

[#図版(127.png)、百二十七圖 カナル線管]
 百三十七圖[#「百三十七圖」は底本のまま]のやうな眞空管内の陰極をなす金屬板Kにたくさんの小さな孔(カナル)をあけて放電を起すと、その後方即ち陽極と反對の側に一種の放射線があらはれて管内の氣體が光るのを見る。之は一八八六年にゴールドシュタインによつて見出だされたものであつて、カナル線の名で知られてゐる。管内に空氣があれば光は稍黄色を帶び、水素を入れると赤くなるのであつて、そのスペクトルはそれぞれの氣體に固有の輝線を示す。陰極線と同樣に、カナル線も亦電氣又は磁氣の塲を加へると曲げられることは、一八九六年に至つてドイツのウィリ・ウィーンによつて實驗的に示されたが、併しその屈曲の程度はずつと小さく、陰極線の塲合に比べてその二パーセント以下であつた。ウィーンはこの實驗からカナル線を形づくる粒子は陽電氣を帶び、その質量は水素原子と同程度以上のものであることを明らかにした。之によつてカナル線の生成を考へるならば、管内の氣體原子が先づ陰極線に衝突せられて陽イオンとなり、陰極附近の電氣の塲によつて加速せられてその後方に飛ぶのに外ならない。ドイツのシュタルクはカナル線の飛びゆく方向に分光器を置いてそのスペクトルを撮影し、通常のスペクトル線の外に赤色の方に少しく移動した線の並んでゐるのを見出だした。後者は運動してゐる陽イオンから發するものであつて、ドップレル原理に從つてその波長を變じてゐるのである。
[#図版(128.png)、第百二十八圖 ジヨセフ・J・タムソン]
 カナル線の研究は一九〇六年以後特にイギリスのジョセフ・ジョン・タムソンによつて進められた。彼は第百二十九圖に示す裝置を用ひてカナル線に電氣及び磁氣の塲を加へその經路の屈曲を實驗した。圖に於てAは放電を起す眞空球、Bは陰極で之に穿たれた細い孔を通つてカナル線が左方に出る[#句点なしは底本のまま]こゝに電塲を起すための蓄電器板P、P′及び磁塲を起すための電磁石の極M、M′がある。之等によつて曲げられたカナル線が左端の寫眞板Hに達するようになつてゐる。この塲合にカナル線は電氣の塲によつては上下の方向に又磁氣の塲によつては圖面に垂直の方向に曲げられ、その大いさは第一に粒子の電氣量eと質量mとの比に關係し、第二に速度に關係する[#句点なしは底本のまま]ところがカナル線粒子のなかには種々の速度の物を含むからたとへば、e/m は同じであつても速度の異なるに從つて之等は屈曲の程度を異にし、最初の放射の方向に垂直におかれた寫眞の上に抛物線状に並んだ影を印象する。又粒子の e/m の異なるに從つてそれぞれ異なつた抛物線を印すから、種々の事情を考慮することによつて各々の抛物線がどんな粒子に相應するかを推知することがきでる[#「きでる」は底本のまま]。タムソンはこの方法で、化學分析によつては到底檢知することのできない極めて微量の氣體の存在をも示すことができたばかりでなく、更に粒子のイオン化の状態、即ち各粒子がどれだけの電氣量をもつかをも明らかにする事ができた。之は陽放射線分析と稱せられてその後極めて重要視せられるやうになつた。即ち一九一二年の實驗に於てタムソンは始めて、原子量20に相當するネオンの線の附近に原子量22に相當する線のあるのを發見し、種々の考察の結果、ネオンと類似した元素が存在するのではないかと推察した。一九一九年にイギリスのアストンは再び之を檢して、その存在を確めた。
[#図版(129.png)、第百二十九圖 陽放射線分折の裝置][#「分折」は底本のまま]
 この事實は我々の從來考へてゐた化學的元素の概念に對して重大な變更を持ち來す結果を生んだ。既に之れ以前に放射性物質では原子量を異にして、しかも化學的性質を同じうする元素の存在を經驗し、之等を互ひに同性體又は同位元素として云ひあらはしてゐたが、こゝにネオンの如き普通の元素に於ても、化學的には同一に見えても、實は原子量を異にする二樣の原子がそのなかに含まれてゐるのであらうと想像せられた。アストンはそれ故に陽放射線分析の寫眞(第百三十圖)の上で、原子量20及び22の線の強さを測定して、之等が凡そ 9:1 の割合であることを見出だし、之と同じ割合の分量をもつて兩者が混合した塲合に混合物の原子量を計算すれば、恰度從來化學的にネオンの原子量として知られてゐる値、20.20 と全く符號するのを示した。
[#図版(130.png)、第百三十圖 ネオン管の陽放射線分析]
 アストンは續いて多くの元素について同樣の實驗を行ひ、その多數のものが原子量を異にした數個の同性體の混合物であることを證明した。
(つづく)



※ 効と效、回と囘の混用は底本のとおり。
※ 写真や図版の著作権者は石原純本人なのか、もしくは石原純以外の人物なのか不明。著作権法の「著作権者不明」「学術研究目的」の項が適用可能と判断した。
底本:『電氣物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。



*地名

(※ 市町村名は、平成の大合併以前の表記のまま。一般的な国名・地名などは解説省略。
  • [イギリス]
  • 王立協会 大英国王立協会。 → ロイヤル‐ソサイエティー
  • ロイヤル‐ソサイエティー Royal Society イギリスの科学アカデミー。1660年に私的機関として発足。
  • [ドイツ]
  • ベルリン Berlin ドイツ北東部の都市。1945年までドイツの首都。第二次大戦後、アメリカ・イギリス・フランス・ソ連4カ国の共同管理下におかれ、1948年以来東部はドイツ民主共和国(東独)の首都、西部は実質上ドイツ連邦共和国(西独)の一部。90年、東西ドイツの統一によりドイツ連邦共和国の首都。人口338万7千(1999)。
  • ニュルンベルグ → ニュルンベルク
  • ニュルンベルク Nrnberg ドイツ南部、バイエルン州の都市。マイン川支流のペグニツ川沿いに位置する交通・商工業の要地。カイザーブルク城をはじめ、中世の建築物が多い。人口48万7千(1999)。
  • ミュンヘン Mnchen ドイツ南部、バイエルン州の州都。ドナウ川の支流イザル川に沿い、南ドイツの経済・文化の中心。宮殿や美術館・国立劇場などを有する。ビールの醸造は有名。人口119万5千(1999)。
  • ライデン Leiden オランダ西部の都市。古ライン川に沿い、運河が縦横に通ずる。ルネサンス時代の建築物を多く残す。大学・博物館は著名。オランダ独立戦争の時、スペインに頑強に抵抗した地。人口11万8千(2003)。オランダ語名レイデン。
  • ボン Bonn ドイツ西部の都市。西ドイツ時代の首都。ノルトライン‐ヴェストファーレン州のライン川沿岸に位置する。ボン大学、ベートーヴェンの生家などがある。人口30万1千(1999)。
  • [ロシア]
  • [イスラエル]
  • イェルサレム → エルサレム
  • エルサレム Jerusalem パレスチナの中心都市。後期青銅器時代から繁栄した町で、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地。1949年ヨルダン・イスラエルにより東西に分割、67年イスラエルは東エルサレムを占領・併合、80年東西エルサレムを首都と宣言(国際的には未承認)。旧市街は世界遺産。人口70万(2004)。
  • [アメリカ]
  • フィラデルフィア Philadelphia アメリカ北東部、ペンシルヴァニア州南東部の都市。1776年の独立宣言が発せられた地。費府。人口114万5千(2000)。
  • 大西洋
  • [カナダ]
  • ニューファウンドランド → ニューファンドランド
  • ニューファンドランド Newfoundland (1) カナダ東海岸セント‐ローレンス湾口にある島。北アメリカで最古のイギリス植民地。1949年カナダに合併。面積11万平方km。南東沖合に大漁場グランド‐バンクがあり、タラ・ニシンの漁獲が多い。(2) カナダ南東部の州。(1) と本土のラブラドル地方とから成る。州都セント‐ジョンズ。ニューファンドランド‐ラブラドル州。
  • 東京電灯 とうきょうでんとう 東京電燈株式会社は、かつて存在した企業の一つ。日本初の電力会社。1886年(明治19)7月5日に企業活動を開始し、1887年11月には東京の日本橋茅場町から電気の送電を開始する。この年の末には、火力発電所を東京5箇所に設置する工事を始めた。1893年(明治26)には200kWの大出力発電所である浅草発電所の建設を始め、3年後に完成させた。
  • [福島県]
  • 猪苗代発電所 いなわしろ はつでんしょ 現、福島県河沼郡日橋川。日橋川は猪苗代湖北西部の銚子ノ口より十六橋を経て、会津盆地に流れ込み、会津坂下町立川の北で阿賀川と合流するまでの約25キロの河川で、耶麻郡と河沼郡の境をなしている。近代になって猪苗代湖面の標高514mから、下流の阿賀川合流点の標高175mまでの落差約340mの急流に着目し、電源開発が進められた。日橋川発電所は中流にあり、明治45年(1912)4月完成、許可出力一万キロワット。猪苗代第一発電所は上流にあり、大正3年(1914)10月完成、許可出力5万3500キロワット。第四発電所までおよび金川発電所がある。
  • 猪苗代湖 いなわしろこ 福島県の中央部、磐梯山の南麓にある堰止湖。阿賀野川の水源。湖面標高514m。最大深度94m。周囲50km。面積103平方km。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本歴史地名大系』(平凡社)。




*年表

  • -----------------------------------
  • 電磁気学の年表
  • -----------------------------------
  • 一二六九 ペトロス・ペレグリヌスが、磁石に2つの極があることなど、磁石の性質についての著書を著わした。
  • 一六〇〇 ウィリアム・ギルバートが、古来より摩擦電気現象が知られていた琥珀以外に、硫黄や樹脂、ガラスなどにも摩擦電気が発生することが確認。
  • 一六六三 オットー・フォン・ゲーリケが、硫黄球を回転させて摩擦電気を作り出す摩擦起電機を発明。
  • 一七二九 スティーヴン・グレイが、導体と不導体の区別を発見。これによって、電気は動くものであることが確認された。
  • 一七三三 シャルル・フランソワ・デュ・フェが、金属にも摩擦電気が発生することを発見し、さらに電気はガラス電気(プラス)と樹脂電気(マイナス)の2種類があることを提唱。
  • 一七四六 ピーテル・ファン・ミュッセンブルーク (Pieter van Musschenbroek)が、電気を蓄えるライデン瓶を発明。ゲーリケの摩擦起電機とともに、後の電気研究に貢献した。
  • 一七五〇 ベンジャミン・フランクリンが、電気は1種類で、物質ではない荷電流体であるという一流体説を提唱。
  • 一七五二 フランクリンが、凧揚げの実験から、雷が電気現象であることを証明。
  • 一七五三 ジョン・キャントン(John Canton)が、帯電体に金属を近づけたときに発生する静電誘導を発見。
  • 一七六七 ジョゼフ・プリーストリーが、電気的な逆二乗則を提案する。
  • 一七八〇 ルイージ・ガルヴァーニが、「動物電気」を発見し、動物の体内に電気があるのではないかという仮説を立てる。
  • 一七八五 シャルル・ド・クーロンが、2つの電荷間で作用する力は、距離の2乗に反比例するというクーロンの法則を発見。
  • 一八〇〇 アレッサンドロ・ボルタが、電気は異種金属の接触によって発生することを発見。最初の電池(ボルタ電池)を作成。
  • 一八〇七 ハンフリー・デーヴィが、ボルタの発明した電池を電源としたアーク放電灯を完成。
  • 一八二〇 ハンス・クリスティアン・エルステッドが、電気を通した導線の近くに置いた磁針が振れる実験で、電流の磁気作用を発見。
  • 一八二〇 ジャン=バティスト・ビオ/フェリックス・サバールが、導線の周辺に発生する磁界の大きさを計算するビオ・サバールの法則を発見。
  • 一八二〇 フランソワ・アラゴが、鉄心に巻きつけた導線に電流を流すと磁石になる電磁石の原理を発見。
  • 一八二〇 ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックが、電流を流した導線が1つの磁石になることを発見。
  • 一八二〇 アンドレ・マリー・アンペールが、電流を流した2本の導線が互いに反発・吸引する相互作用と、電流の方向に対して右ねじの回転方向に磁界が生じるというアンペールの法則を発見。
  • 一八二一 マイケル・ファラデーが、電流を流した導線と磁石の間に相互作用があることを確認。
  • 一八二二 トーマス・ゼーベックが、異なる金属を接合させて閉じた回路にしたとき、両者の接点に温度差があると電流が発生するというゼーベック効果を発見。
  • 一八二二 アンペールが、電流を流した2本の導線間に働く力が、電流の積に比例し、距離に反比例することを確認。
  • 一八二三 ウィリアム・スタージャンが、最初の電磁石を発明。
  • 一八二四 アラゴが、円板の周辺に沿って磁石を回転させると、円板も同じ方向に回転するというアラゴーの回転板の原理を発見。
  • 一八二六 ゲオルク・オームが、電圧と電流、電気抵抗の関係を表したオームの法則を発見。
  • 一八三一 ファラデーが、導線を通り抜ける磁力線の数が時間的に変化すると、導線に誘導起電力発生するというファラデーの電磁誘導の法則を発見。
  • 一八三四 ハインリヒ・レンツが、電磁誘導による誘導電流は、それを生み出す磁石の動きを妨げる方向に流れるというレンツの法則を発見。
  • 一八三七 ファラデーが、電磁場は、近接する媒体に伝わって周囲に影響を及ぼすという近接媒体電磁場説を提唱。
  • 一八四〇 ジェームズ・プレスコット・ジュールが、電気が熱に変わるとき、その発熱量と電力、時間の関係を表したジュールの法則を発見。
  • 一八四二 ジョセフ・ヘンリーが、コンデンサの電荷をコイルで放電させると、電気振動が発生することを発見。
  • 一八五六 ジェームズ・クラーク・マクスウェルが、電磁気の第1の論文「ファラデーの力線について」を発表。これによって、電気現象を数学的に表現。
  • 一八五九 ガストン・プランテが、充電ができる鉛蓄電池(二次電池)を発明。
  • 一八六一 マクスウェルが、第2の論文「物理的力線について」を発表。電磁場理論を発表。
  • 一八六四 マクスウェルが、第3の論文「電磁場の動力学的理論」で、電磁波の存在を予言。
  • 一八七〇 ゼノブ・グラムが長時間運転可能な発電機を実用化。
  • 一八七三 マクスウェルが、電磁気に関する研究の集大成として「電磁気学」を発表。光が電磁気学的現象であることを明言する。
  • 一八七五 ジョン・カーが、いくつかの液体で電気的に引き起こされる複屈折を発見する。
  • 一八七六 アレクサンダー・グラハム・ベルが、電話機を発明。人の声を電流に変換して初めて送信。
  • 一八七九 デイビッド・エドワード・ヒューズが、炭素粉末の接触抵抗が、音波によって変化する現象を発見。後の検波器の実現に貢献した。
  • 一八八三 ウィリアム・スタンレーが、変圧器の原理の基礎となる逆起電力理論を提唱。
  • 一八八五 ジョン・フレミングが、フレミングの右手の法則(発電機の原理)を発表。後に左手の法則(モーターの原理)も。
  • 一八八八 ハインリヒ・ヘルツが、マクスウェルの予言した電磁波説を、火花発生装置と火花検出器を用いた実験で証明。
  • 一八八九 エドアール・ブランリーが、無線電信の受信用検波器を発明。
  • 一八九五 アレクサンドル・ポポフが、ブランリーが発明した検波器を改良して実用化。
  • 一八九五 ヴィルヘルム・レントゲンが、X線を発見。
  • 一九〇一 グリエルモ・マルコーニが、火花放電による電磁波の大西洋横断通信に成功。


◇参照:Wikipedia「電磁気学の年表」より。



*人物一覧

(人名、および組織・団体名・神名)
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  •    一一、磁気および電気の場、地球磁気
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  • ファラデー Michael Faraday 1791-1867 イギリスの化学者・物理学者。塩素の液化、ベンゼンの発見、電磁誘導の法則、電気分解のファラデーの法則、ファラデー効果および反磁性物質などを発見。電磁気現象を媒質による近接作用として、場の概念を導入、マクスウェルの電磁論の先駆をなす。主著「電気学の実験的研究」
  • ニュートン Isaac Newton 1642-1727 イギリスの物理学者・天文学者・数学者。ケンブリッジ大教授。力学体系を建設し、万有引力の原理を導入した。また微積分法を発明し、光のスペクトル分析などの業績がある。1687年「プリンキピア(自然哲学の数学的原理)」を著す。近代科学の建設者。のち、造幣局長官・英国王立協会長を歴任。
  • アインシュタイン Albert Einstein 1879-1955 理論物理学者。光量子説・ブラウン運動の理論・特殊相対性理論・一般相対性理論などの首唱者。ユダヤ系ドイツ人。ナチスに追われて渡米。プリンストン高等研究所で相対性理論の一般化を研究。また、世界政府を提唱。ノーベル賞。
  • ハンス・デュッヘル
  • ガウス Karl Friedrich Gauss 1777-1855 ドイツの数学者。ゲッティンゲン大学教授兼天文台長。18歳で正十七角形の幾何学的作図に成功。最小自乗法・整数論・曲面論・虚数論・方程式論・級数論などを論じたほか、天文学・電磁気学にも精通。数学の王といわれる。
  • ウィルヘルム・ウェーベル → ヴィルヘルム・ヴェーバーか
  • ヴィルヘルム・ヴェーバー We'ber, Wilhelm Eduard 1804-1891 ドイツの物理学者。ハレ大学助教授 K. F. ガウスに招かれてゲッティンゲン大学教授となったが、ハノーヴァー憲法廃止に抗議して罷免され、のちライプチヒ大学教授となり、再びゲッティンゲン大学に復帰した。遠隔作用に基づく電磁気理論の開拓者で、相互に反対方向に等速運動をなす正負の電気粒子を電流中に仮定し、また任意の2電気粒子間にクーロン静電気のほかに相対速度、相対加速度による力の存在を仮定し、かかる電気粒子の運動により、電流間に〈アンペールおよびノイマンの法則〉を発見した(1846)。また分子電流の仮説によって反磁性を解明し(1852)、更にコールラウシュと共に電流の強さの静電単位と電磁単位の比が、真空中の光速度にほとんど等しいことを実験的に証明した(1856)。またガウスと共に電気諸量の絶対単位系を導入したほか、電磁計、電気動力計についても種々な考案がある。なお、磁束の実用単位(108 C. G. S. 電磁単位)に〈Weber〉を用いることがある。(岩波西洋)
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  •    一二、媒質論の発展
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  • クラーク・マクスウェル James Clerk Maxwell 1831-1879 イギリスの物理学者。電磁気の理論を大成しマクスウェルの方程式を導き、光が電磁波であることを唱えた。また、気体分子運動論や熱学に業績を残した。
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  •    一三、感応電流
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  • ハンス・クリスチアン・エールステッド Hans Christian Oersted 1777-1851 エルステッド。デンマークの物理学者。1820年電流の磁気作用を発見。デンマークの学者。
  • ハインリヒ・レンツ Heinrich Friedrich Emil Lenz 1804-1865 ドイツの物理学者。ロシアのペテルブルグ大学教授。電磁誘導の向きに関する〈レンツの法則〉を発見した(1834)ほか、温度による電気的抵抗の変化に関する方式を示した(1835-38)。(岩波西洋)
  • フランツ・ノイマン Neumann, Franz Eanst 1798-1895 ドイツの物理学者。ケーニヒスベルク大学教授。古典物理学の代表者で、誘導電流に対する〈ノイマンの公式〉を発見したほか、光の反射と屈折、熱伝導、結晶等に関する研究がある。(岩波西洋)
  • ウェルナー・ジーメンス Ernst Werner von Siemens 1816-1892 ドイツの電気学者。ジーメンス‐ハルスケ電機会社の創設者。1866年残留磁気利用の自動発電機を発明。また、アーク溶接法や電気炉を発明。
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  •    一四、電流の自己感応および交流
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  • ベンジャミン・フランクリン Benjamin Franklin 1706-1790 アメリカの政治家・文筆家・科学者。印刷事業を営み、公共事業に尽くした。理化学に興味を持ち、雷と電気とが同一であることを立証し、避雷針を発明。また、独立宣言起草委員の一人で、合衆国憲法制定会議にも参与。自叙伝は有名。
  • リヒテンベルク Lichtenberg, Georg Christph 1742-1799 ドイツの物理学者、著述家。ゲッティンゲン大学教授。電場の中に置いた絶縁板の上に軽い粉をまくと、粉が放射状に一様に分布すること(リヒテンベルクの図形)を発見した(1777)。〈ゲッティンゲン袖珍年鑑〉を発行し(1778)、自然科学および通俗哲学に関する評論を発表して、啓蒙的役割をはたし、また箴言(Aphorismus)作家としても知られた。2回イギリスに旅行し、その見聞記に《イギリス便り Brief aus England》がある。(岩波西洋)
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  •    一六、電気振動、電波
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  • ジョセフ・ヘンリー Joseph Henry 1797-1878 アメリカの科学者。イギリスのマイケル・ファラデーとほぼ同時期に電磁誘導を発見した。スミソニアン協会の初代会長として、米国の科学振興に尽くした。電磁誘導(インダクタンス)の単位ヘンリーに、その名をとどめる。(Wikipedia)/19世紀前半のアメリカを代表する物理学者。ニューヨークのオールバニー生まれ。1826年からオールバニー・アカデミーの数学・自然哲学教授となり、スタージョンの電磁石を、絹糸で被覆絶縁した導線を軟鉄心に直角に巻きつけることによって改良した。1830年頃にはこの電磁石を用いて、自己誘導および電磁誘導を発見した(「電流の生成および電気・磁気の電光について」)。1838年には高次誘導電流の研究などをおこない、1846年にスミソニアン研究所の長官に任命された。その後は産業革命期にある科学行政官として、科学研究の普及に努めた。(科学史)
  • ケルビン卿 Lord Kelvin 1824-1907 ケルヴィン。イギリスの物理学者。本名、ウィリアム=トムソン。熱力学の第2法則を研究し、絶対温度目盛を導入。海底電信の敷設を指導し、多くの電気計器を作り、また航海術、潮汐その他の地球物理学の研究も多い。
  • ウィリアム・トムソン → ケルビン卿
  • フェツ・ダーセン ドイツ。
  • ハインリッヒ・ヘルツ Heinrich Rudolph Hertz 1857-1894 ドイツの物理学者。電磁波の存在を初めて実験的にたしかめ、光がこれと同性質のものであるというマクスウェルの予言を実証した。
  • ギレルモ・マルコーニ Guglielmo Marconi 1874-1937 イタリアの電気学者。無線電信の発明者。侯爵。学士院長。ヘルツとロッジ(O. J. Lodge1851〜1940)の発見を初めて実用化し、1901年大西洋を隔てて無線電信を送ることに成功。ノーベル賞。
  • エドアール・ブランリー Branly, Edouard 1844-1940 フランスの物理学者。ソルボンヌ大学研究所次長。パリ大学教授。H.ヘルツの実験した電波を検出するに便利な検波器〈コヒーラー〉を発明し(1890)、無線通信技術の発達に貢献した。(岩波西洋)
  • フェルディナント・ブラウン Karl Ferdinand Braun 1850-1918 ドイツの物理学者。ブラウン管の発明、ル=シャトリエ‐ブラウンの法則で知られる。ノーベル賞。
  • アレキサンダーソン Alexanderson, Ernst Frederick Werner 1878-1975 アレグザンダソン。アメリカ(スウェーデン生まれの)電気・ラジオ技術者。アメリカに渡り(1901)〈ゼネラル・エレクトリック会社〉の研究部門を指導。彼が得た特許は250種にのぼり、その主要なものは10-30キロサイクルのアーク式高周波送信機(1906)、高周波電気炉、広帯域空中線、真空管式電話送信機、同調型ラジオ受信機などでテレビジョンの先駆者でもあり、円板式テレビジョン送信機を製作した(1930)。(岩波西洋)
  • アルコ Arco, Georg, Graf von 1869-1940 ドイツの電気技術者。テレフンケン電気会社の技術部長を勤め(1903-1930)、その間に高周波発振装置を用いる無電送信方法を開拓した。(岩波西洋)
  • ゴールドシェミット → ルードルフ・ゴルトシュミットか
  • ルードルフ・ゴルトシュミット Goldschmidt, Rudolf 1876-1950 ドイツの技術家。高周波発電器を製作して安定した持続振動をおこし、これを無線電信に応用した。(岩波西洋)
  • ペテノー フランス。
  • ラツール
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  •    一七、真空放電、陰極線
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  • リュンコルフ フランス。
  • ガイスレル → ハインリッヒ・ガイスラー
  • ハインリッヒ・ガイスラー Geissler, Heinrich 1815-1879 ドイツのガラス吹工、技術者。諸方の大学でガラス吹工をしたのち、ボンに理化学用ガラス器具の製造工場を設け(1854)、ボン大学にも納品しているうち、ボン大学の物理学教授 J.プリュッカーの指示に従い、初めて水銀真空ポンプおよび真空放電管(ガイスラー管)を製作した。(岩波西洋)
  • プリュッカー → ユリウス・プリュカー
  • ユリウス・プリュカー Plu:cker, Julius 1801-1868 ドイツの物理学者、数学者。ハレ、ボンの各大学教授。種々なガイスラー管(プリュッカーの命名による)を用いて真空放電現象を研究し、陰極に近いガラス壁が淡緑色の蛍光を発する現象を見出し、その原因を陰極から発する一種の放射線に帰した。これは後に、陰極線(電子群)として確認された。また同一物質においても温度の相違により異種のスペクトルを出すことを指摘し、ヒットルフと共にこれを水素、窒素について実証した。また解析幾何学者として、省略記号を用いる高次曲線の研究、双対率の解析的取扱い等により射影幾何学の分野にすぐれた業績をあげた。(岩波西洋)
  • ヴィルヘルム・ヒットルフ Hittorf, Johann Wilhelm 1824-1914 ドイツの物理学者、物理化学者。ミュンスター大学教授。電解質のイオンが異なる速さで電極に向かって移動することを研究して(1853-59)、輸率の概念を初めて確立し、電気化学の基礎を築いた。プリュッカーと共に低圧気体内の放電を研究、その他陰極線の直進や物体が電気の導体、不導体に関係なく、陰極線を遮ること、またそれが磁場によって曲げられることを発見した。(岩波西洋)
  • ゴールドシュタイン → オイゲン・ゴルトシュタイン
  • オイゲン・ゴルトシュタイン Goldstein, Eugen 1850-1930 陰極線を命名。/ドイツの物理学者。ベルリン大学内天文台に勤務、のち自分の研究所で研究した。ガス内の電気現象や陰極線の研究をおこなううち、陰極線の装置内で、陰電気を帯びた粒子のほかに陽電気を帯びた粒子の流れも存在することを発見した(1886)。これは陽極線あるいはカナール線と呼ばれる正イオンの流れである。(岩波西洋)
  • ウィリアム・クルックス Crookes, Sir William 1832-1919 イギリスの物理学者、化学者。オクスフォード大学のラドクリフ研究所員、チェスター・トレーニング・カレッジの化学講師。フラウンホーファー線の研究から元素タリウムを発見(1861)、また高真空内放電現象を研究して〈クルックス管〉を発明し、陰極線が電気的微粒子(電子)の放射であることを確証した。低圧放電の際に陰極付近に生ずる暗黒部分に〈クルックスの暗黒部〉の名がある。ラジオメーター(1875)およびスピンサクスコープを発明。その他ウラニウムXの分離に成功した(1900)。
  • ジョンストン・ストーニー Sto'ney, George Johnstone 1826-1911 イギリス(アイルランド)の物理学者。ゴールウェー(アイルランド)のクイーンズ・カレッジ教授、クイーンズ大学教授。物理光学、分子物理学、気体の運動論に関する研究があり、また〈電子 electron〉の命名者で、その電荷の近似計算をおこなった(1874)。(岩波西洋)
  • レナード レナード線。 → レナード・ジヨーンズか
  • レナード・ジヨーンズ Lennard-Jones, Sir John Edward 1894-1954 イギリスの化学者、物理学者。ブリストル大学理論物理学教授。同理学部長。ケンブリジ大学理論化学教授、ノース・スタフォード州のユニヴァシティ・カレッジ学長。分子構造の量子理論、液体構造の分子理論、分子間力の理論などの分野に多くの業績がある。第二次大戦は、戦中戦後を通じ供給省の顧問となる。のち同省科学諮問会議議長を勤めた。(岩波西洋)
  • リサージュ → リサジュー
  • リサジュー Lissajous, Joules Antoine 1822-1880 リサジュ。フランスの物理学者。聴覚、振動、光学に関する研究をおこない、単振動の合成を実験的に示す装置を創案し(1855)、〈リサジュの図〉を作った。また普仏戦争でパリが包囲されたとき、光学的通信法を発明した(1871)。なお、フーコーの著作の出版に協力した(1875)。(岩波西洋)
  • -----------------------------------
  •    一八、陽放射線
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  • ウィリ・ウィーン ドイツ。
  • ウィーン Wilhelm Wien 1864-1928 ドイツの物理学者。黒体放射に関する「ウィーンの変位法則」「エネルギーの分布則」を発見。プランクの量子論の先駆。ノーベル賞。
  • シュタルク → ヨハネス・シュタルクか
  • ヨハネス・シュタルク Stark, Johannes 1874-1957 ドイツの物理学者。アーヘン工業大学、グライフスヴァルト大学、ヴュルツブルク大学の各教授、国立物理技術研究所長。陽極線における〈ドップラ効果〉を見出し、また陽極線を用いて〈シュタルクの効果〉を発見し(1913)、量子理論の発展に寄与した。ノーベル物理学賞を受く(1919)。(岩波西洋)
  • ドップラー Christian Johann Doppler 1803-1853 オーストリアの物理学者。ウィーン大学実験物理学教授。
  • ジョセフ・ジョン・トムソン Joseph John Thomson 1856-1940 イギリスの物理学者。キャヴェンディシュ研究所にあって真空放電現象などを研究、電子の存在を確認し、原子物理学の端緒をひらいた。ノーベル賞。
  • フランシス・アストン Francis William Aston 1877-1945 イギリスの物理学者。質量分析器を案出。同位元素の発見者。ノーベル賞。


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『岩波西洋人名辞典増補版』、『科学史技術史事典』(弘文堂、1983.3)。



*難字、求めよ

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  •    一一、磁気および電気の場、地球磁気
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  • 磁気 じき (magnetism) 磁石の相互作用および磁石と電流の相互作用などの根元となるもの。また、磁極を指すこともある。
  • 電気 でんき (1) (electricity) 摩擦電気や放電・電流など、広く電気現象を起こさせる原因となるもの。電荷や電気エネルギーを指すことが多い。
  • 磁気力 じきりょく (→)磁力に同じ。
  • 磁力 じりょく 磁極が互いに引き合いあるいは斥け合う力。広い意味では、電流と磁石、電流と電流との間に働く力をもいう。磁気力。
  • 電気力 でんきりょく 帯電体間に作用する電気的な力。
  • 磁気の感応現象
  • 静電気感応
  • 帯電体 たいでんたい 電気を帯びている物体。
  • 磁力線 じりょくせん 磁場内にあって、その上の各点における接線の方向が、その点の磁場の方向と一致している曲線。磁石上の紙片に鉄粉を散布し、軽くたたけば、鉄粉が整列して磁力線を示す。磁気力線。
  • 指力線 しりょくせん 磁力線に同じ(日本国語)。
  • 電気指力線
  • 電場 でんば (electric field) 電荷の周りに存在する力の場。この場の力線は、正電荷に始まるか、負電荷に終わるか、閉曲線となるか(電磁波の場合)である。電界。
  • 磁場 じば (magnetic field) 磁石や電流のまわりに存在する力の場。この場の力線は常に閉曲線となる。電場の電荷に対応するもの(磁気単極子)は発見されていない。単位はアンペア毎メートル(A/m)。磁界。
  • 電位 でんい 電場内の1点に、ある基準の点から単位正電気量を運ぶのに必要な仕事。水が水位の差に従って流れるように、電流は電位の高い所から低い所へ流れる。
  • 等位面
  • 力管
  • 単位電気量
  • 磁気量 じきりょう (→)磁荷に同じ。
  • ダイン dyne 力のCGS単位。質量1グラムの物体に働いて、毎秒毎秒1cmの加速度を生じさせる力の大きさ。1ダインは10万分の1ニュートン。記号dyn
  • 媒質 ばいしつ (medium) (1) 〔理〕物理的作用を一つの場所から他の場所へ伝達する仲介物。音波を伝える空気、弾性波を伝える弾性体など。(2) 〔生〕生物体の周囲を囲んで、その生物の生活の場となる物質。陸生動物では空気、水生生物では水。
  • 指力管
  • 遠隔作用 えんかく さよう 二つの物体の相互作用の一形態。一つの物体の運動状態が空間を隔てて直接的・瞬間的に他の物体に影響を及ぼすという機構。万有引力は遠隔作用とされたが、現代の物理学では、これも近接作用から導かれるとする。←→近接作用。
  • 近接作用 きんせつ さよう 二つの物体の相互作用の一形態。一つの物体が力の場を作りだし、この場が媒質の物理的変化を通して他の物体に到達し、力を及ぼす機構。現代物理学では、すべての相互作用はこの機構によると考える。←→遠隔作用。
  • 弾性 だんせい 〔理〕(elasticity) 外力によって形や体積に変化を生じた物体が、力を取り去ると再び元の状態に回復する性質。体積弾性と形状弾性とがある。
  • 万有引力 ばんゆう いんりょく (universal gravitation) 質量を有するすべての物体間に作用する引力。二つの物体の間に働く万有引力は、両物体の質量の積に比例し、距離の平方に逆比例する。ニュートンが導入し、これによって天体の運行を説明した。
  • 相対性理論 そうたいせい りろん (theory of relativity) アインシュタインが創唱した特殊相対性理論と一般相対性理論との総称。特殊相対性理論は1905年に提出され、光の媒質としてのエーテルの存在を否定、光速度がすべての観測者に対して同じ値をもつとし、また自然法則は互いに一様に運動する観測者に対して同じ形式を保つという原理をもとに組み立てられた。一般相対性理論は1915年に提出され、前者を一般化して、すべての観測者にとって法則が同形になるという要請から万有引力現象を説明。この理論によれば、時間と空間は互いに密接に結びつけられて、4次元のリーマン空間を構成する。相対論。
  • 地球磁気 ちきゅう じき (→)地磁気に同じ。
  • 地磁気 ちじき 地球の持つ磁気と、それによって生じる磁場との総称。磁針が地球のほぼ南北を指す原因。偏角・伏角・水平磁力を地磁気の3要素という。地磁気の発生は、地球の中心部の外核に起因する。地球磁気。
  • 子午面 しごめん 子午線を含む平面。赤道面と直交。
  • 偏角 へんかく 磁気子午線と地理学的子午線とのなす角。すなわち磁針の指す北と真の北との間の角。方位角。
  • 伏角 ふっかく (dip) (1) 観測者が下方の物体を見下ろす場合、視線方向が観測者を通る水平面となす角。俯角。←→仰角。(2) 地球上任意の点に置いた磁針の方向が水平面となす角。傾角。
  • 帯磁 たいじ (→)磁化に同じ。
  • 磁化 じか (1) 磁気を帯びた状態になること。磁場の中で常磁性体は磁場の向きに、反磁性体は逆向きに磁化される。帯磁。(2) 単位体積当りの磁気モーメント。
  • 磁気嵐 じきあらし 地球磁場の不規則変化のうち、ほぼ全地球にわたって同時に起こる大規模なもの。太陽からの荷電粒子流がその原因。
  • 太陽黒点 たいよう こくてん (→)黒点 (2) に同じ。
  • 黒点 こくてん (2) 〔天〕(sun-spot) 太陽面に現れる暗い斑点。中央の暗部と、その周囲の半暗部とから成る。大きさは100kmから地球の直径の数倍に及ぶものがあり、数は約11年を周期として増減する。黒点の暗部の温度は約4000度で、最大1000ガウスほどの磁場を持つ。太陽黒点。
  • -----------------------------------
  •    一二、媒質論の発展
  • -----------------------------------
  • 媒質論
  • 蓄電器 ちくでんき (→)コンデンサー (1) に同じ。
  • コンデンサー condenser (1) 電気の導体に多量の電荷を蓄積させる装置。絶縁した二つの導体(両極)が接近し、正負の電荷を帯びると、その電気間の引力により電荷が蓄えられる。バリコン・ライデン瓶の類。キャパシター。蓄電器。
  • パラフィン paraffin (ラテン語で「乏しい親和性」の意のparum affinisに由来) (1) C(n)H(2n+2)という一般式で表される飽和鎖式炭化水素の総称。化学的に安定で反応性に乏しい。パラフィン炭化水素。メタン系炭化水素。アルカン。(2) 狭義には、パラフィン蝋、すなわち石蝋を指す。高級なパラフィン炭化水素の混合物で、常温では白色半透明蝋状の固体。重油から分離精製され、天然には地蝋として産する。蝋燭の原料、軟膏の基礎剤などにする。(3) (→)パラフィン紙の略。
  • シェラック shellac ラックカイガラムシの分泌物から得られる天然樹脂。黄褐色であるが、漂白して白ラックとする。アルコール・テレビン油などに溶ける。シェラック‐ワニスの製造に用いる。セラック。ラック。
  • 電媒常数 でんばい じょうすう 電媒定数。誘電率に同じ。
  • 誘電率 ゆうでんりつ 誘電分極が生じる程度を表わす。誘電体に固有の定数。電気変位と電界の強さの比。esu単位では真空の誘導率を1とする。MKS有理単位系では、真空の誘電率を107/4πC2(C:光速)とする。電媒定数。
  • エーテル ether (1) 酸素原子に2個の炭化水素基の結合した形の有機化合物の総称。一般に中性で芳香ある液体。固体のものもある。(2) 特にエチル‐エーテルをさす。(3) 初め光の伝播を媒介する媒質としてホイヘンスが仮定し、のち一般に電磁場の媒質とされた物質。相対性理論によってその存在が否定された。
  • 電気変位 でんき へんい (→)電束密度に同じ。
  • 電束密度 でんそく みつど 電場に誘電率を掛けたベクトル量。電場の代りにこれを用いると、ガウスの法則が簡単に表現される。電気変位。
  • 偏極 へんきょく polarization 同種の粒子(または原子、分子や原子核)の集団について、そのスピン(または回転角運動)が特定の方向に偏っている場合、偏極しているという。(物理学)
  • 磁気指力線
  • 静電気 せいでんき 帯電体の表面に静止している電気。
  • 自由荷電
  • 外観荷電
  • 荷電 かでん (1) 電気を帯びていること。帯電。(2) (→)電荷に同じ。
  • 電荷 でんか (electric charge) 電気現象の根元となる実体。陽電気と陰電気に分けられ、電気素量を単位とする電気量によって規定される。また、物体が帯びている静電気の量をいう。
  • 代数和 だいすうわ 正・負の符号をもつ数または式を加え合わせた和。
  • 真荷電
  • 等電位 とうでんい → 等電位面か
  • 等電位面 とうでんいめん 電界中で、電位の等しい所を仮想的につないでできた面。
  • 電媒質
  • 媒質電流
  • 変位電流 へんい でんりゅう マクスウェルが電磁場の理論において、電荷保存則を満足させるために、真空や不導体内に流れるとして導入した、伝導電流とは別の電流。これによって電磁波の存在が予言され、ヘルツが実験で確認。電束電流。
  • 電気力学 でんきりきがく electrodynamics 電磁気学の一分野であり、2つの意味で使われる。(1) 19世紀前半さまざまな電磁現象が次々と発見され、統一的な理論をつくることが、物理学者の大きな関心事になった。彼らは、電流が磁石に及ぼす力などを、電流や磁石などの配置から決める法則を見いだし、これらの法則と、ニュートンの運動法則とから、すべての電磁現象を論じようと試みた。この理論を電気力学という。やがて、直接的には力に関係のない現象を扱うために、電荷を帯びた粒子の存在を仮定するようになり、この仮説はローレンツの電子論へと発展した。(2) 現在では、電磁気学と同義に用いられる。ただし、荷電粒子の運動や電磁波の放射などの時間的に変化する電磁場に関する分野を電気力学といい、静電気学などと区別することがある。(物理学)
  • -----------------------------------
  •    一三、感応電流
  • -----------------------------------
  • コイル coil (1) 円状または螺旋状にぐるぐる巻いたもの。(2) 螺旋状に巻いた電気の導線。インダクタンスをもつ回路素子や磁場の発生に用いる。
  • 電磁感応 でんじ かんのう (→)電磁誘導に同じ。
  • 電磁誘導 でんじ ゆうどう 磁場と導体が相対的に動いている時、導体に起電力が生じる現象。1831年ファラデーが発見。電磁感応。
  • 相互感応 そうご かんのう 相互誘導に同じ。
  • 相互誘導 そうご ゆうどう 二つの回路で、一方の回路の電流が変化するとき、もう一方の回路に交わる磁力線の数が変化して二つの回路に電流が流れる現象をいう。相互感応。←→自己誘導。
  • 水平分力 すいへい ぶんりょく 水平磁力に同じ。
  • 水平磁力 すいへい じりょく 地磁気の強さの水平方向の分力。水平分力。/地球磁場の強さの水平成分。東京付近では約0.3ガウス。水平分力。(広辞苑)
  • 地球磁気感応
  • 磁気感応 じき かんのう → 磁気誘導 (1) に同じ。
  • 磁気誘導 じき ゆうどう (1) 磁石の付近など磁場に置かれた物体が磁気を帯びる現象。磁気感応。
  • 感応電流
  • レンツの法則 レンツのほうそく (ロシアの物理学者H. F. E. Lenz1804〜1865の名に因む) 電磁誘導現象で、誘導起電力の向きは磁束の変化を妨げる向きであるという法則。
  • エネルギー保存則 エネルギー ほぞんそく 「外部からの影響を受けない物理系(孤立系)においては、その内部でどのような物理的あるいは化学的変化が起こっても、全体としてのエネルギーは不変である」という法則。無からエネルギーを創造し得ないことを示す、物理学の根本原理の一つ。1840年代ヘルムホルツ・マイヤー・ジュールらによって確立。エネルギー恒存の原理。
  • 電圧 でんあつ 2点間の電位の差。電位差とほぼ同義であるが、実際面での用語。単位はボルト(V)。
  • 電磁石 でんじしゃく 軟鉄心の周囲に絶縁銅線をまきつけたもの。電流を流している間だけ軟鉄が磁化し、磁石となる。発電機・電動機などに用いられる。
  • 発電機 はつでんき 機械力によって電力を発生する機械。磁界内でコイルを回転させ、電磁誘導により誘導電流を生じさせる装置で、交流発電機と直流発電機とがある。ダイナモ。ジェネレーター。
  • 発電子 はつでんし 「電機子」参照。
  • 電機子 でんきし 発電機内で誘導電流を生ずるためのコイルおよびコイルをまきつけた部分(発電子ともいう)と、電動機内で外部から供給された電流によって回転を起こす同様な部分(電動子ともいう)との総称。アーマチュア。
  • 交流 こうりゅう (1) (alternating current) 一定時間ごとに交互に逆向きに流れる電流。通常の動力源または電灯用には、東日本で周波数50ヘルツ、西日本で60ヘルツの交流を用いる。交流電流。略号AC ←→直流。
  • 直流 ちょくりゅう (2) (direct current) 回路の中を常に一定の向きに流れる電流。または電流の強さと向きとを一定に保って流れる電流。直流電流。略号DC ←→交流。
  • ブラシ brush・刷子 (2) 発電機または電動機の回転部分から外部に電流を伝え、または外部から電流を供給するため、整流子などと接触させる導体。ふつう炭素・黒鉛などを材料とする。
  • 場磁石 ばじしゃく 粒子加速器などに必要な強い磁場を作るための電磁石。また、発電器や電動機で用いられる。強い磁場を作るための電磁石。
  • 直巻 ちょくまき? → モーター
  • 分巻 ぶんまき?
  • 混合巻
  • モーター motor 直巻モーター、分巻モーター、複巻モーター等がある。直巻モーターは電機子コイルと界磁コイルが直接に接続されており、回転速度は一定電圧のもとでは負荷電流に逆比例し、トルクは2乗に比例する特性がある。負荷が大きいときにトルクが大きいので、大型天井走行クレーンや電車などに使用されている。分巻モーターも電機子コイルと界磁コイルが並列に接続されているモーターである。負荷変動に対し回転速度の変化が少なく、定速度運転に適する。扇風機、送風機、工具やクレーンの巻上用動力に使用される。これらの直流モーターは交流でも動作し、交直両用モーターでもある。直巻型と分巻型を組み合わせた複巻モーターは系の目標指令に追従して動作する。(物理学)
  • 直流発電機 ちょくりゅう はつでんき 直流を得るための発電機。直流機。
  • 交流発電機 こうりゅう はつでんき 交流を発生する発電機。
  • 水力電気 → 水力発電
  • 水力発電 すいりょく はつでん 発電の一方式。水力によって発電機を運転し、電力を発生する方式。ダム式・水路式・揚水式などがある。
  • 水力タービン すいりょく タービン (→)水車(1) (イ) に同じ。
  • 水車 すいしゃ (1) 水のエネルギーを機械的エネルギーに変ずる原動機。水流を羽根にあててその反動または衝動力によって羽根車を回転させる。(イ) 水力発電用のもの。ペルトン水車・フランシス水車・プロペラ水車の3種がある。水力タービン。
  • 電動機 でんどうき 電機子コイルに流れる電流と磁界との相互作用によって回転力を発生する機械。直流式と交流式とがある。モーター。
  • モーター motor (1) 動力発生機の通称。蒸気機関・蒸気タービン・水力原動機・内燃機関など。特に電動機をいう。
  • 電気機関車 でんき きかんしゃ 電動機を原動機とする機関車。直流用・交流用・直流交流両用の別がある。
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  •    一四、電流の自己感応および交流
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  • 自己感応 じこ かんのう 〔電〕(→)自己誘導に同じ。
  • 自己誘導 じこ ゆうどう 回路内で電流に変化が生じるときに、この回路に電磁誘導によって起電力を生じる現象。電流の変化を妨げるように起こる。
  • 実効値 じっこうち 〔理〕交流では電圧・電流とも周期的に変化するものであるから、その値を表すのに、瞬時値の2乗を1周期の間で平均し、その平均値の平方根を実効値という。正弦交流の場合には電流・電圧ともにその最大値の各1/√2すなわち約0.7倍にあたる。
  • アンペア ampere (アンペールの名に因む) 電流の単位。国際単位系(SI)・MKSA単位系の基本単位。無視できる面積の円形断面をもつ2本の無限に長い直線状導体を真空中に1mの間隔で平行に置き、各導体に等しい強さの電流を流したとき、導体の長さ1mごとに2×10−7ニュートンの力が働く場合の電流の大きさ。記号A
  • オームの法則 -ほうそく 電流に関する基本法則の一つ。1826年、ドイツ人オームが発見。導線に流れる電流の強さは、導線の両端の電位差に比例し、抵抗に反比例するという法則。
  • 白熱電灯
  • ボルト volt (ヴォルタの名に因む) 電圧・電位・起電力の単位。国際単位系の組立単位。1アンペアの定常電流が流れている抵抗1オームの導線の両端の電位の差。記号V
  • 燭光 しょっこう (1) ともしびの光。(2) (→)燭 (2) に同じ。
  • 燭 しょく (1) 照明用にともす火。ともしび。あかり。(2) 光度の旧単位。1961年廃止。現在はカンデラを使用。1燭は約1カンデラ。燭光。
  • 電気炉 でんきろ 電流によるジュール熱、アーク放電の発生する熱、または高周波による誘導電流などの発生する熱を利用する炉。温度調節が容易、溶解損失が少ないなどの特徴がある。製鉄・製鋼・研磨材製造などに利用。
  • 変圧器 へんあつき 交流電流の電圧を変える装置。トランスフォーマー。トランス。
  • 感応動電力
  • 電線 でんせん 電流を通ずる導体として用いる銅・アルミニウムその他の金属線。多くは絶縁物で被覆。
  • 特別高圧 とくべつ こうあつ 電線相互間または電線と大地間における電位の差が7000ボルトを超過するような送配電線の電圧。
  • 高圧 こうあつ (2) 高電圧の略。高い電圧。今日の電気設備基準では、直流は750〜7000ボルト、交流は600〜7000ボルトの範囲と規定。
  • 変圧所 → 変電所か
  • 変電所 へんでんしょ 発電所から送る交流電力の電圧を昇降させる施設。また、交流を直流に整流したり、周波数を変換したりする。
  • 多極発電機
  • 振動位相
  • 位相 いそう (2) 〔理〕(phase)振動や波動のような周期運動で、1周期内の進行段階を示す量。1周期ごとに同じ値となる。
  • 多相交流 たそう こうりゅう 電源の周波数が等しく位相が異なる多数個の交流電圧や電流が同時に存在する電気回路方式を多相交流回路という。二相交流・三相交流は多相交流の一例である。(物理学)
  • 三相交流 さんそう こうりゅう 〔電〕大きさ及び周期が等しく、位相が順次120度ずつずれた三つの交流。回転磁場をつくりやすいので、動力用・送電用に用いられる。
  • 指頭 しとう 指の先端。ゆびさき。
  • 感応起電機
  • ライデン瓶 ライデンびん (Leiden jar) (ライデン大学の物理学者ミュッセンブルーク(P. van Musschenbroek1692〜1761)が、1746年に放電実験に用いた) コンデンサー (1) の一種。内外壁に導体として錫箔を貼付したガラス瓶。
  • 外箔
  • 放電叉
  • 叉形 さけい ふたまたになった形。
  • 電話交換 でんわ こうかん 加入者の電話線を、通話しようとする相手方の電話線に接続すること。
  • 放電 ほうでん (discharge) (1) 蓄電池・コンデンサーに貯えられた電気を放出すること。←→充電。(2) 気体などで高い電圧の下で絶縁が破れ、両極間に電流が流れること。火花放電・真空放電など。
  • 火花放電 ひばな ほうでん 比較的圧力の高い気体中で相対する電極間に電圧を加え、漸次これを上昇させるとき、気体が急に絶縁の能力を失い、両極間に破裂音と火花とを発して大きな電流の流れる現象。雷放電はこの大規模なもの。
  • 電光 でんこう (1) 帯電した雲と雲との間または雲と地面との間に火花放電が行われる際発する光。肉眼で1本のように見える電光も実は数回の放電(約0.03秒の間隔)から成る。いなずま。いなびかり。
  • 感応電気
  • 感応コイル かんのうコイル 誘導コイルに同じ。
  • 誘導コイル ゆうどうコイル (コイルは coil)(1) 電気エネルギーを磁気エネルギーに変え、さらに、火花などの熱エネルギーに変えるために用いられる一次コイルだけを持ったコイル。自動車などの点火火花発生器に用いられる。誘導線輪。インダクションコイル。(2) 一次コイルと二次コイルを持ち、一次コイルに流れる電流を断続して二次コイルに高電圧を発生させるようにした装置。誘導線輪。感応コイル。インダクションコイル。
  • 電鈴 でんれい 電磁石を利用して鈴をならす装置。
  • 継続装置
  • 高圧感応電流
  • 感応起電力
  • 起電力 きでんりょく 回路の抵抗に抗して電流を生じさせる原因となる力。動電力。単位はボルト(V)。
  • 滑走火花
  • 根状
  • 滑走放電
  • レントゲン管
  • リヒテンベルグ図形 → リヒテンベルク図
  • リヒテンベルク図 リヒテンベルクず Lichtenberg figure 針対平板電極のように非一様な電場のもとで放電させたときの放電の道筋を、写真乾板や、絶縁物の板にまかれた軽い粉末などを用いて電荷分布の形で視覚化したものをいう。(略)乾板上の電極が正の場合と負の場合とで模様は異なり、放電したときにかかっていた電圧によって図形の大きさが決まる。また、さらに印加電圧を上げると沿面火花コロナに移行し、1本あるいは数本の太い道筋が進展し、その先が枝分かれした図形になる。(物理学)
  • 鉛丹 えんたん (minium) 古くから用いられた日本画の赤色顔料。黄みをおびた橙色で、化学的には四酸化三鉛。光明丹。ミニウム。
  • 写真乾板 しゃしん かんぱん (→)乾板に同じ。
  • 乾板 かんぱん ガラスまたは合成樹脂などの透明な板に写真乳剤を塗布した感光材料。写真乾板。←→湿板
  • 電気通路
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  •    一六、電気振動、電波
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  • 回転鏡 かいてんきょう 固定軸のまわりに回転するように作られた鏡。四面鏡や八面鏡があり、光の速度の測定に用いられた。
  • 電気振動 でんき しんどう 一つの回路の中を電流が高速度で往復振動する現象。振動数が大きい場合は電磁波を発生する。
  • 波動 はどう (1) 波。波のような動き。(2) 〔理〕空間的にも時間的にも変動するような場の運動。同じ時刻に場の量が同じ値をとる点から成る面を波面といい、波面が球または平面のとき球面波・平面波という。場の量がベクトル量のとき、このベクトルが波の進行方向に平行ならば縦波、垂直ならば横波と呼ぶ。
  • 電磁波 でんじは 電磁場の周期的な変化が真空中や物質中を伝わる横波。マクスウェルの電磁理論によって、光やX線が電磁波にほかならないことが示された。
  • 電波 でんぱ 電磁波のうち、赤外線以上の波長をもつもの。特に電気通信に用いるものをいう。
  • マクスウェルの電磁理論 マクスウェルの でんじりろん ファラデーの電磁場の概念を数学的に定式化した理論。マクスウェルの方程式に要約される。変位電流を導入して電磁波の存在を予言し、光の本質が電磁波であることを結論した。
  • 発音体 はつおんたい みずから振動し音波の源となる物体。
  • 音波 おんぱ 気体・液体・固体などの音の媒質が、発音体の振動を受けて生ずる弾性波動。ふつう、可聴周波数のものを指す。音波は縦波であるが、固体中の音波には横波も含まれる。
  • 電気抵抗 でんき ていこう 電流の通りにくさを表す値。両端に与えた電位差の値をその間に流れる電流の値で割ったもの。この値は温度が一定ならば、電位差の大小に無関係。単位はオーム(Ω)。
  • 固有振動 こゆう しんどう 振動系に固有な振動。自由振動の際に見られる。
  • 共鳴 きょうめい (1) 〔理〕(resonance) 物理系が外部からの刺激で固有振動を始めること。特に刺激が固有振動数に近い振動数を持つ場合を指す。共振。
  • 共鳴器 きょうめいき (resonator) 共鳴の現象を利用して、振動する物理系から特定の振動数の部分を分離する装置。普通、中空の箱・管。音や電磁波(後者では共振器ということが多い)に用いる。
  • コヒーラー coherer コヒラー。検波器の一つ。ガラス管の二極間にニッケル細粉を入れたもので、初期の無線電信に用いられた。
  • アンテナ antenna (1) 無線通信やラジオ・テレビジョン等の送受信を行うため、電磁波エネルギーを空間に発射し、または空間より受けとる装置。空中線。
  • モールス符号 モールス ふごう 長短2種の符号を種々に組み合わせて文字に代用する電信符号。初期の手送り電信に用いた。S.F.B.モースの考案。トン‐ツー。
  • 輻射 ふくしゃ (1) 車の輻(や)のように一点から周囲に射出すること。放射。(2) 〔理〕(radiation)(→)放射に同じ。
  • 放射 ほうしゃ (1) 中央の1点から四方八方へ放出すること。(2) 〔理〕(radiation)熱線・電磁波などが物体から四方八方に放出される現象。あるいは放出された電磁波や粒子線の総称。輻射。
  • 検波器 けんぱき 無線受信装置内にあって、高周波電流の検波をおこなう装置。整流作用をもつダイオード、トランジスタ、真空管などを用いる。
  • 無線電信 むせん でんしん 電線の媒介によらず、遠隔地間で電波を利用して行う電信。無電。
  • 鉱石検波器 こうせき けんぱき 鉱物と金属針との接触面の整流作用を利用した検波器。初期のラジオ受信に用いた。
  • 黄銅鉱 おうどうこう 銅と鉄と硫黄から成り、銅の重要な鉱石。正方晶系、金属光沢、真鍮様黄色だが、条痕は緑黒色。硬度4。足尾・別子銅山などに産出した。
  • 洋銀 ようぎん(1) 合金の一種。銅50〜70%、ニッケル5〜30%、亜鉛10〜30%を配合した合金。柔軟性・屈曲加工性・耐食性に富み、銀白色の美しい光沢がある。装飾器具・電気抵抗線・バネ材料に用いる。洋白。
  • 斑銅鉱 はんどうこう 銅・鉄の硫化物から成る赤褐色の鉱物。空気中では短時間で紫色に変わる。斜方晶系、ふつう塊状で金属光沢をもつ。銅の原料鉱石。
  • 紅亜鉛鉱
  • カーボランダム Carborundum (→)炭化ケイ素の商品名。
  • 黄鉄鉱 おうてっこう 二硫化鉄から成る鉱物。等軸晶系の結晶。真鍮様淡黄色だが、条痕は緑黒色または褐黒色。硬度6。かつて硫黄・硫酸の製造などに使用。
  • 熱電子 ねつでんし 高温度にある金属や半導体の表面から放出される電子。
  • 真空球検波器
  • テレフンケン 1903年、シーメンスとAEGの合弁会社としてベルリンで設立されたドイツの無線とテレビの会。(Wikipedia)
  • 無線電話 むせん でんわ 電線の媒介によらず、電波を利用した電話。
  • 無線操縦 むせん そうじゅう 機械・車両・航空機・艦船などを電波によって制御・操縦すること。無線制御。
  • テレヴィジョン television テレビジョン。(1) 画像を電気信号に変換し、電波・ケーブルなどで送り、画像に再生する放送・通信の方式。(2) (1) の画像を再生する装置。テレビジョン受像機。テレビジョン受信機。テレビ。
  • 波長 はちょう (1) 〔理〕(wave length)波動のすぐ隣り合った山と山と、または谷と谷との間のように、位相を等しくする2点間の距離。→波形。
  • 放送 ほうそう 一般公衆によって直接受信されることを目的とした無線通信。ラジオ放送・テレビジョン放送など。また、限定された地域で有線により行われるものもいう。
  • 混信 こんしん 通信で、他の送信が混じって受信されること。
  • 短波 たんぱ 一般には波長の短い電波。狭義には波長10〜100mの電波。電離層のF層反射によって遠距離まで伝わるので国際通信・国際放送に用いる。略号HF
  • 振動数 しんどうすう 振動現象で単位時間に同じ状態の繰り返される回数。主に単振動についていう。単位はヘルツ(Hz)、またはサイクル毎秒(c/s)。周波数。
  • 超短波 ちょうたんぱ 波長1〜10mの電波。テレビ放送・FM放送・近距離通信・レーダーなどに利用。メートル波。略号VHF
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  •    一七、真空放電、陰極線
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  • 光芒 こうぼう 光のほさき。すじのように見える光。
  • ガイスラー管 ガイスラーかん 水銀柱数cm〜数mmの気体を入れた真空放電管。スペクトル研究や真空度測定に用いる。ドイツの機械技師ガイスラー(H. Geissler1814〜1879)が物理学者プリュッカー(J. Plcker1801〜1868)の考案に基づき製作。
  • 真空放電 しんくう ほうでん 希薄な気体を通して起こる放電。通常、低圧の気体を容れた密閉ガラス管内に二つの電極を封入し、これらの間に高い電位差を与えて行う。
  • 分光器 ぶんこうき 光をスペクトルに分ける光学装置。プリズム・回折格子などを用いる。
  • スペクトル spectre (1) 光を分光器にかけて得られる、波長とその波長における強さを示したもの。その形によって、連続スペクトル・線スペクトル・帯スペクトルに分ける。(2) 複雑な組成のものを成分に分解し、その成分を特定な量の大小に従って順次配列したもの。
  • 放射線 ほうしゃせん (radiation) (1) 放射性元素の崩壊に伴って放出される粒子線または電磁波。アルファ線・ベータ線・ガンマ線の3種をいうが、それらと同じ程度のエネルギーをもつ粒子線・宇宙線も含める。アルファ線はヘリウムの原子核、ベータ線は電子または陽電子から成る粒子線、ガンマ線は非常に波長が短い電磁波。いずれも気体を電離し、写真作用・蛍光作用を示す。1896年ベクレルにより、ウラン化合物から発見された。(2) 広義には種々の粒子線および電磁波の総称。輻射線。あるいは単に放射・輻射ともいう。
  • 陰極線 いんきょくせん 真空放電の際、陰極から陽極に向かって発する高速の電子の流れ。また一般に、熱陰極から発する高速電子流。
  • 電子 でんし (electron) 素粒子の一つ。原子・分子の構成要素の一つ。19世紀末、真空放電中に初めてその実在が確認された。静止質量は9.1094×10−31キログラム。電荷は−1.602×10−19クーロンで、その絶対値を電気素量という。スピンは1/2。記号eまたはe− エレクトロン。
  • レナード線
  • 蛍光板 けいこうばん 蛍光体を塗布した板。紫外線・X線・放射線・電子線等を照射すれば可視光を発してその存在または像を示す。
  • オシログラフ oscillograph 種々の振動の波形を記録するための器械。観測すべき振動を電流の形に変え、これを磁極間の針金に流し、針金の運動を鏡などを利用して拡大して記録する電磁オシログラフなどの他、陰極線を利用する陰極線オシログラフがある。
  • 振動図示器
  • リサジュー図形 リサジュー ずけい 互いに垂直な方向の単振動を合成して得られる2次元運動の軌道が描く図形。フランスの科学者リサジュー(J. A. Lissajous1822〜1880)が1855年に考案。
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  •    一八、陽放射線
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  • カナル線
  • カナル線管
  • 輝線スペクトル きせん スペクトル 輝いた線だけから成るスペクトル。原子が放射する光のスペクトルは、原子の種類に固有の輝線スペクトルを持つ。
  • ドップラー効果 ドップラー こうか 波動の源と観測者が相対的に運動している時、観測者が測定する振動数が波源の振動数と異なる現象。音波・電磁波(特に光)で見られる。ドップラーが1842年に初めて研究。
  • イオン化 イオンか (ionization) 原子または分子が電子を得るか失うかしてイオンになる現象。電離。
  • 電気量 でんきりょう 物質のもつ電荷の量。単位はクーロン(C)。電気量の総量が不変であるという電気量保存則は、物理学の根本法則の一つ。
  • 陽放射線分析
  • ネオン neon (ギリシア語で「新しい」意のneosから) 希ガス元素の一種。元素記号Ne 原子番号10。原子量20.18。大気中にきわめて微量に存在。無臭・無色・無味の気体。放電管に封入すると美麗な赤色を呈する。ネオンランプ・広告用ネオン管などに利用。
  • 放射性物質 ほうしゃせい ぶっしつ 放射性元素を含む物質の総称。
  • 同性体
  • 同位元素 どうい げんそ (→)同位体に同じ。
  • 同位体 どういたい (isotope) 原子番号が同じで、質量数が異なる元素。すなわち陽子の数が同じで、中性子の数の異なる原子核をもつ原子。水素と重水素の類。同位体は周期表上で同じ場所を占めるので、ギリシア語のisos(同じ)とtopos(場所)を合成して原語が与えられた。アイソトープ。
  • 原子量 げんしりょう 天然の元素の原子の相対的な質量を一定の基準に基づいて表したもの。以前は天然の酸素を基準にとり、その原子量を16とした。1961年以降は質量数12の炭素原子を基準にとり、その原子質量を12として他の元素の原子の質量を表す。


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本国語大辞典 第二版』(小学館、2001.5)『物理学辞典』三訂版(培風館、2005.9)。



*後記(工作員スリーパーズ日記)


書きかえメモ。
大いさ → 大きさ
ファラディ → ファラデー
ウィルヘルム・ウェーベル → ヴィルヘルム・ヴェーバー
ガイスレル → ガイスラー
ドップレル → ドップラー
タムソン → トムソン
イェルサレム → エルサレム
週期 → 周期
リサージュ → リサジュー
リヒテンベルグ → リヒテンベルク
マルコニー → マルコーニ
ゴールドシェミット → ゴルトシュミット

 司馬さんの著作に佐々木只三郎・手代木作右衛門兄弟ものがあるはず。そう思って書店の文庫本を手あたり次第さぐっていくと、新潮文庫の『歴史と視点』の中に「見廻組について」という随筆を見つける。同じ作品が中公文庫『歴史との邂逅』シリーズにも入っている。初出は『小説新潮』一九七二年二月。

・渡辺一郎 見廻組。京都の剣術道場「柳心館」を営む。大正四年死去。
・相模守=蒔田廣孝(まいた ひろたか)。備中浅尾藩主。
・渡辺吉太郎 見廻組肝煎。渡辺一郎と同一人物か。
・竜馬殺害に関しては勝海舟が後年、「命令者は幕府の目付榎本対馬守道章ではないか」と推測。
・見廻組の隊員「四百名」という記録に関して、司馬は懐疑。
・文久三年四月、清河八郎殺害。一説には老中板倉勝静の命令とも。
・速見又四郎 講武所の剣術指南方。浪士組取締。佐々木も速見も清河の旧知。
・浪士組 山岡鉄太郎、松岡萬、速見又四郎が浪士組取締。取締並出役が佐々木唯三郎。

【佐々木唯(只)三郎】
・直参。千石の旗本。浪士組取締並出役。見廻組相模守組与頭。
・会津藩士の出。藩で与力の家柄だった佐々木家(父は源八)の三男にうまれ、会津若松にそだつ。
・江戸へ出て二十七、八のとき旗本の佐々木矢太夫の養子になる。会津の佐々木家とこの幕臣の佐々木家とは縁戚関係にあったらしい。
・講武所の剣術教授方。精武流。
・歌が幾首か残る。「先がけて折れし忠義のふた柱くづれんとせし軒を支へて」。国学を鈴木重嶺〔重胤?〕に学んだという。長野主膳(国学者。井伊直弼の懐ろ刀)とも親しかったらしい。
・手代木直右衛門の娘元枝(唯三郎の姪)の談「かれの兄弟はみな大男だったが、かれだけは中肉中背で、笑うと可愛らしいえくぼができたという。仕事のほかは和歌程度が趣味で、あとのことは、たとえば京都時代、兄の手代木家にきても甥や姪たちの名前さえおぼえなかったという。羽振りは相当よかったらしく、手代木家にくるときは騎馬で、馬丁や下僕を数人つれていた。
・鳥羽・伏見の戦で銃弾による負傷をし、二十人ばかりの従者をひきつれて紀州まで退去し、慶応四年(明治元年)正月十二日、紀三井寺の滝之坊で療養中に死去。滝之坊の位牌には唯三郎となっているが、墓のほうは只三郎。行年三十六歳。

【手代木直右衛門】
・佐々木家の長男。父源八の実家だった手代木家を継ぐ。佐々木家は次男の主馬が継ぐ。
・会津藩京都守護職公用方の主任格。
・直右衛門は教養もあり性格も重厚で、体も大きく、人に重んぜられるようなところがある。江戸留守居役もつとめた経験がある。
・子は幾人もいる。娘に幕末当時幼女だった元枝。
・死ぬ直前に、「あれ(龍馬・慎太郎暗殺)は唯三郎がやったもので、命令は某諸侯から出た」と語ったという。
・明治三十六年没。

◇ 典拠:大正四年八月五日付『朝日新聞』第十一面。大泉荘客『手代木直右衛門伝』。

 ちなみに『街道をゆく』総索引には、佐々木只三郎・手代木作右衛門ともになし。

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 以下は、『幕末維新人名事典』奈良本辰也(監修)(学芸書林、昭和53.4)より。

p.293
佐々木只三郎 ささき たださぶろう 天保4-慶応4(1833-1868)
幕臣。清河八郎を斬った。名は泰昌、また高城という。講武所の剣術師範をしていたが、文久三年(1863)三月、幕府浪士組が京都から江戸に帰るとき、速見又四郎、高久保二郎らの同役とともに浪士組取締出役となった。頭取は高橋泥舟。清河八郎は浪士組を幕府から独立の尊攘行動隊にしようとする計画を持ち、それを察知した幕府は佐々木と速見に清河の抹殺を指示。二人は文久三年四月十三日、麻布一ノ橋で清河を斬り殺した。翌元治元年四月、京都見廻組の隊長に転じ、新撰組とともに反幕勢力の弾圧にあたった。鳥羽・伏見の戦いで負傷、紀州に逃れたが三井寺で死んだ。手代木直右衛門の実弟。

p.434
手代木直右衛門 てしろぎ すぐえもん 文政9-明治36(1826-1903)
会津藩士。京都守護職の藩主を助け、反幕志士の弾圧検挙にあたった。名は勝任という。嘉永六年(1853)はじめて江戸にのぼり、藩主に仕えた。安政六年(1859)監察となり、文久三年(1863)江戸詰めとなり、同年、松平容保の守護職就任に伴って上京した。参事奉行職副役を経て若年寄になり、京都における反幕運動抑圧の第一線に立った。土佐の後藤象二郎から大政奉還建白について相談を受けたこともある。大政奉還後は、事態を以前に戻そうと佐幕諸藩の間に説いてまわった。王政復古後は若松城で戦っていたが、明治元年(1868)九月十六日、米沢藩に対して降伏交渉の使節になった。降伏後は鳥取、高須、名古屋藩に幽閉。明治五年に赦されてからは左院少議生、香川、高知の権参事、岡山県の区長をつとめ、岡山で没した。






*次週予告


第五巻 第四一号 
電気物語(四)石原 純


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T-Time マガジン 週刊ミルクティー 第五巻 第四〇号
電気物語(三)石原 純
発行:二〇一三年四月二七日(土)
編集:しだひろし / PoorBook G3'99
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出版:*99 出版
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