石原 純 いしわら じゅん
1881-1947(1881.1.15-1947.1.19)
理論物理学者・歌人。東京生れ。東大卒。東北大教授。相対性理論および古典量子論の研究、自然科学知識の普及啓蒙に努める。著「自然科学概論」、歌集「靉日」など。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。


もくじ 
電気物語(二)石原 純


※ 製作環境
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  (ガイド10プラス)
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*凡例〔現代表記版〕
  • ( ):小書き。 〈 〉:割り注。
  • 〔 〕:底本の編集者もしくは、しだによる注。
  • 一、漢字、かなづかい、漢字の送り、読みは現代表記に改めました。
  •    例、云う  → いう / 言う
  •      処   → ところ / 所
  •      有つ  → 持つ
  •      這入る → 入る
  •      円い  → 丸い
  •      室   → 部屋
  •      大いさ → 大きさ
  •      たれ  → だれ
  • 一、同音異義の一部のひらがなを、便宜、漢字に改めました。
  •    例、いった → 行った / 言った
  •      きいた → 聞いた / 効いた
  • 一、英語読みのカタカナ語は一部、一般的な原音読みに改めました。
  •    例、ホーマー  → ホメロス
  •      プトレミー → プトレマイオス
  •      ケプレル  → ケプラー
  • 一、若干の句読点を改めました。適宜、ルビや中黒や感嘆・疑問符・かぎ括弧をおぎないました。一部、改行と行頭の字下げを改めました。
  • 一、漢数字の表記を一部、改めました。
  •    例、七百二戸   → 七〇二戸
  •      二萬六千十一 → 二万六〇一一
  • 一、ひらがなに傍点は、一部カタカナに改めました。
  • 一、カタカナ漢字混用文は、ひらがな漢字混用文に改めました。濁点・半濁点のない仮名は、濁点・半濁点をおぎないました。
  • 一、和暦にはカッコ書きで西暦をおぎないました。年次のみのばあいは単純な置き換えにとどめ、月日のわかるばあいには陰暦・陽暦の補正をおこないました。
  • 一、和歌・俳句・短歌は、音節ごとに半角スペースで句切りました。
  • 一、表や図版キャプションなどの組版は、便宜、改めました。
  • 一、書名・雑誌名・映画などの作品名は『 』、論文・記事名および会話文・強調文は「 」で示しました。
  • 一、「今から○○年前」のような経過年数の表記や、時価金額の表記、郡域・国域など地域の帰属、法人・企業など組織の名称は、底本当時のままにしました。
  • 一、差別的表現・好ましくない表現はそのままとしました。

*尺貫・度量衡の一覧
  • [長さ]
  • 寸 すん  一寸=約3cm。
  • 尺 しゃく 一尺=約30cm。
  • 丈 じょう (1) 一丈=約3m。尺の10倍。(2) 周尺で、約1.7m。成人男子の身長。
  • 丈六 じょうろく 一丈六尺=4.85m。
  • 歩 ぶ   左右の足を一度ずつ前に出した長さ。6尺。
  • 間 けん  一間=約1.8m。6尺。
  • 町 ちょう (「丁」とも書く) 一町=約109m強。60間。
  • 里 り   一里=約4km(36町)。昔は300歩、今の6町。
  • 尋 ひろ (1) (「広(ひろ)」の意)両手を左右にひろげた時の両手先の間の距離。(2) 縄・水深などをはかる長さの単位。一尋は5尺(1.5m)または6尺(1.8m)で、漁業・釣りでは1.5mとしている。
  • 海里・浬 かいり 一海里=1852m。
  • [面積]
  • 坪 つぼ  一坪=約3.3平方m。歩(ぶ)。6尺四方。
  • 歩 ぶ   一歩は普通、曲尺6尺平方で、一坪に同じ。
  • 町 ちょう 一町=10段(約100アール=1ヘクタール)。令制では3600歩、太閤検地以後は3000歩。
  • 町歩 ちょうぶ 田畑や山林の面積を計算するのに町(ちよう)を単位としていう語。一町=一町歩=約1ヘクタール。
  • [体積]
  • 合 ごう  一合=約180立方cm。
  • 升 しょう 一升=約1.8リットル。
  • 斗 と   一斗=約18リットル。
  • [重量]
  • 厘 りん  一厘=37.5ミリグラム。貫の10万分の1。1/100匁。
  • 匁 もんめ 一匁=3.75グラム。貫の1000分の1。
  • 銭 せん  古代から近世まで、貫の1000分の1。文(もん)。
  • 貫 かん  一貫=3.75キログラム。
  • [貨幣]
  • 厘 りん 円の1000分の1。銭の10分の1。
  • 銭 せん 円の100分の1。
  • 文 もん 一文=金貨1/4000両、銀貨0.015匁。元禄一三年(1700)のレート。1/1000貫(貫文)(Wikipedia)
  • 一文銭 いちもんせん 1個1文の価の穴明銭。明治時代、10枚を1銭とした。
  • [ヤード‐ポンド法]
  • インチ  inch 一フィートの12分の1。一インチ=2.54cm。
  • フィート feet 一フィート=12インチ=30.48cm。
  • マイル  mile 一マイル=約1.6km。
  • 平方フィート=929.03cm2
  • 平方インチ=6.4516cm2
  • 平方マイル=2.5900km2 =2.6km2
  • 平方メートル=約1,550.38平方インチ。
  • 平方メートル=約10.764平方フィート。
  • 容積トン=100立方フィート=2.832m3
  • 立方尺=0.02782m3=0.98立方フィート(歴史手帳)
  • [温度]
  • 華氏 かし 水の氷点を32度、沸点を212度とする。
  • カ氏温度F=(9/5)セ氏温度C+32
  • 0°C = 32°F
  • 100°C = 212°F
  • 0°F = -17.78°C
  • 100°F = 37.78°C


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『歴史手帳』(吉川弘文館)『理科年表』(丸善、2012)。


*底本

底本:『電氣物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
http://www.aozora.gr.jpindex_pages/person1429.html

NDC 分類:427(物理学/電磁気学)
http://yozora.kazumi386.org/4/2/ndc427.html





電気物語(二)

理学博士 石原 純

   六、電流の法則


 電池から電流を得るのには、単に両極の金属を針金でつなげばよいのである。このさい電流の通っている針金をその回路(または輪道りんどうと名づけ、針金をつないで電流を通すことを称して、回路を閉じるという。
 電流に対しては、われわれはその方向と強さとを差別する。電流は、電気が導体内を流動する現象であると解釈するならば、電流の方向というのはすなわち電気の流動する方向を指し示すことになるわけであるが、ふつうに水の流れるようなばあいと異なって、電気のばあいには事柄がやや複雑になるをまぬがれない。なぜなら、電気には陽陰の両種があって、しかもそれらは同じ電気力に働かれてたがいに反対の方向に動くものであるからである。すなわち電池の陽極と陰極とでは、前者が後者よりも電位が高いのであって、したがって陽電気は、電気力に働かれて陽極から陰極に向かって流動し、陰電気はこれと反対の方向に流動する。もしわれわれがデュ・フェイやシンマー〔ロバート・シンマー〕の二流体仮説にしたがって、金属内部に実際にこれら両種の電気流体が存在すると仮定するならば、同じ針金の中でこれらが出会ってどの場所でたがいに中和するかというような疑問が生じてくる。そこでこの困難をけるという点では、むしろフランクリンの一流体仮説を採用した方が都合つごうがよいかもしれない。そうすれば、単に一種の電気流体が針金の中を流動すること、ちょうど水の流動のばあいと同様になるからである。そしてもしわれわれが、この電気流体を陽電気に相当するものであると仮定するならば、われわれが通常、電流の方向と称えているものはすなわち、この電気流体の流動の方向にほかならない。ただし、のちの電子論に従うと、実際に導体の内部を移動するのは反対に陰電気を有する電子であるということになるが、その場合にもわれわれはしばらく、電流の方向を示す規約だけは変えないでおくほうが都合がいいから、やはり前のように、仮想された陽電気の流動方向をもってこれをあらわすのである。要するに、電流の方向というのは一種の規約にすぎないのであるから、実際に電流がどんなものであるかという理論にはかならずしも立ち入らずともよいのである。
 さて、つぎに電流の強さというのは、針金の断面を通って単位時間にどれだけの電気量が流動するかという分量で測られるわけである。このばあいにも、水の流動の分量によって水流の強さが測られるのとそのまま比較されるためには、単に一種の電気流体が一方向に流れると考えたほうがもちろん簡単である。思考のうえではそれでよいが、ただし実際にわれわれは、針金を外部から見ただけでは電流が通っているかどうかさえわからないのであるから、ましてその分量にいたってはまったく知られない。そこでこれを測るには、電流から結果するなんらかの作用によるよりほかはないが、まずこの作用を測定したうえで、われわれは逆にそれからどれたけの電気量が流動するかを計算によって導き出すことはできるのである。電流の強さは畢竟ひっきょう、かような手続きで決定されると考えればよいであろう。それで理論上では、一秒間に一静電単位の電気量が流れるような電流の強さを一静電単位に等しいといい、この三〇億倍、すなわち一クーロンの電気量が一秒間に流れるものを実用単位として採用し、電流の研究に多大の貢献をなしたフランスの学者アンペールの名にちなんで、これを一アンペアと名づける。

 電流の強さに関する法則は、一八二六年にドイツのオームの実験的研究によって見い出された。まず簡単に、同じ電池に針金をつないでみると、針金の種類やその太さや長さによって電流の強さが異なることは容易に知られる。オームはその関係を一般におしひろめて、すべてのばあいに、

 電流の強さは、これが流れる針金の両端の電位差に比例する

という法則を立てた。これはオームの法則と名づけられているが、これによると電位差と電流の強さとの割合は同じ針金については常に一定しているわけであって、この割合をこの針金の電気抵抗と名づけている。
 なおこの関係を言いかえると、同じ電位差があるばあいにも、電気抵抗の大小によって電流の強さが変わることになる。抵抗の大きい針金をもちいれば電流が弱くなり、抵抗が小さければ電流が強くなる。それで抵抗を測る単位として、単位電位差のもとに単位電流を通ずるような針金の抵抗をもちい、すべて静電単位でこれらをあらわせばよい。実用単位としてはそれの九〇〇〇億分の一をとり、これを一オームと名づけている。
 同じ物質については抵抗は針金の長さに比例し、太さに逆比例する。どんな物質の抵抗が大きいか小さいかを比較するには、それゆえ長さ一センチメートル、断面積一平方センチメートルの形のものを取ってたがいに比較すればよい。これを物質の比抵抗ひていこう〔電気抵抗率〕と名づげる。比抵抗のもっとも小さいものは銀および銅であって、タングステン・亜鉛・ニッケル・鉄・白金などがこれにつぐものである。金属のうちでも、水銀や蒼鉛そうえん〔ビスマス〕などは銀や銅にくらべて一〇〇倍ほども大きい。また抵抗は、温度によっても多少は変わってくる。断面積一平方ミリメートル、長さ一〇六.三〇センチメートルの水銀柱すいぎんちゅうの温度零度における抵抗は一オームであって、実用上これを抵抗の標準にする。
 針金で電流の回路をつくるにあたって、その全体または一部の抵抗がどうなるかを常に考慮する必要がある。数本の針金を単に順次につなぎあわしたばあいには、全体の抵抗は、おのおのの針金の抵抗の和に等しくなるが、これに反して数本の針金の一方のはしをたがいに結びあわせ、また他方の端を別に結びあわせたものを電流の回路に入れると、電流はおのおのの抵抗に逆比例するように、それぞれの針金の中に分岐して流れる。これらの二種のつなぎかたのうち前者を直列ちょくれつにつなぐといい、後者を並列へいれつにつなぐという。
     
 電流の強さを加減かげんするには適宜てきぎの抵抗を回路中につなげばよいので、この目的につくられた装置を抵抗器という。回路に入れる針金の長さを適当に変えるようになっているのがふつうで、ときには多数の炭素板をならべあわせてその接触の度合いを変えるようなものもある。精密な抵抗器では、温度によって抵抗を変ずることの少ない金属の針金をもちいる必要がある。マンガニン(銅・ニッケルおよび亜鉛の合金)、ならびにコンスタンタン(銅とニッケルとの合金)は特にこの目的を達するためにつくられた合金である。ただし逆に、またある金属が温度によって電気抵抗をいかに変ずるかをあらかじめ精密に測っておけば、この関係を利用して、電流の強さの変化によって温度を知ることができる。通常の寒暖計が使用にたえないような高温度を測るのに、白金線の電気抵抗の変化を利用した高温度計が実際につくられている。

   七、電流の化学作用


 針金に電流が通っているかどうかは、火花の出ることや、また人体や動物体に対する刺激によっても知られるが、そのほかの作用の中で最初に見い出されたのは化学作用である。すでにヴォルタ〔アレッサンドロ・ヴォルタ〕が電池をつくった際に、水の電気分解の実験をおこなったことは上に記したとおりである。簡単にこれをおこなうには、希硫酸の中に二枚の白金板をひたし、これを電池の両極に結びつけて電流を通せばよい。電池の陽極につながれた白金板に沿うては酸素、また陰極につながれたほうには水素の気泡きほうが発生し、液面にのぼるのが見られる。この際、電流は希硫酸中の水を酸素と水素とに分解したのであって、同様の現象は希硫酸のほか、種々の酸・塩基および塩類えんるいの水溶液をもちいても見られる。一般に、電流によって分解せられるような溶液を電解質でんかいしつと名づけ、これに電流が導き入れられ、または流出するための金属板をそれぞれ陽極および陰極という。



 電気分解の現象は、最初ドイツのグロートゥス(一八〇五年)によって、ちょうど磁石の極が鉄に力をおよぼすと同様に、分解せられる各成分が両極から引力および斥力せきりょくを受けるためであると解せられ、また、イギリスのハンフリー・デヴィーによって同様の解釈があたえられたが、成分がなにゆえに電気力に働かれるかについてじゅうぶん明らかでなかった。ところが一八三三年にいたってファラデーがはじめて、溶液内では電解質の分子成分が最初から解離して存在しており、すなわち、おのおの陽および陰電気を有する二種のイオンを形づくっていることを仮定し、これらが電流の通過にともなう電位差のためにそれぞれ陰極および陽極に運ばれるのであると説明してから、今日までこのイオン解離説が信ぜられている。希硫酸の例でいえば、硫酸分子は水素イオンと硫酸根イオンとに解離し、前者は陽電気、後者は陰電気を持っているから、これらは電流によって両極に運ばれ、前者はそのまま遊離して現われるが、後者はさらに水に作用して酸素を遊離させ、その結果、水の分解をなすことになるのである。解離のさいに、溶液の成分のうち金属または水素イオンはつねに陽電気を帯び、したがって陰極に集まり、ほかの成分のイオンはこれに反している。
 ファラデーはさらに電気分解について精密な実験をおこなった結果、重要な法則を見い出だした。すなわち電気分解のさいに、両極に析出せられる物質の量は電流の強さとその通ずる時間との相乗積、したがって針金から流れ入った全電気量に比例し、また一定の電気量によって析出せられる物質の量は、それの化学当量に比例するというのである〔ファラデーの電気分解の法則〕。精密の測定によれば、一アンペアの電流によって銀は毎秒 0.001118 グラムを析出するから、一般にある電流によって毎秒析出せられる銀の量を測るならば、右の量と比較して電流の強さを計算することができる。それゆえ今日では、一アンペアの電流の標準としてこの銀の析出量をもちいている。また、銀の原子量は 107.88 であり、原子価げんしかは1であるから、一化学当量を析出するに必要な電気量は、

107.88/0.0001118=9.649×104 クーロン
「0.0001118」は底本のまま〕

となる。上のファラデーの法則によって、この値は一価イオンの有する電気量をあらわすものであるが、これがどんな物質から計算してもつねに同一になるということは、電気の理論にとって非常に大切な事柄であって、後にあきらかになったとおりに、電気が原子的構成を有する、すなわち電子からなるということの一つの確実な根拠となるのである。
 電流によって化学作用がおこるという事実と、逆に電池において見るように、化学作用によって電流を生ずるという事実とのあいだには、密接の関係がなければならない。希硫酸の中に亜鉛と銅とをひたした簡単な電池について考えると、このばあいには、亜鉛が漸次ぜんじ硫酸に働かれて硫酸亜鉛として溶液中に溶けてゆく。その結果、硫酸中の水素陽イオンが他方の銅板を高圧電位に保って電流の源泉とすると考えられる。ただし、電流を通ずるにしたがってこの作用が活発におこると、ついには遊離せられた水素が気泡きほうのままで銅板に付着したり、また、硫酸根イオンが過剰かじょうに亜鉛板に集まったりすることによって、電池の内部にもまた銅板から亜鉛板に向かうような電位差が生ずることをまぬがれない。そしてこれは電池の外部起電力と反対に働くものであるから、これがために電池の電流は弱まる結果をきたす。この現象は最初、イギリスの化学者ジェームス・キールによって見い出されたものであって、通常、電池の分極と名づけられている。分極をけるには、重クロム酸カリ〔二クロム酸カリウム〕のような消極剤と称するものを溶液中に入れ、その化学作用によって陽極に集まる水素を取り除くようにする。

 電池の分極は、電池本来の作用をさまたげるものであるが、ただしこれを都合よく利用すると、別に電流の源として役立たせることができる。たとえば希硫酸の中に二枚の白金板をひたしたような電気分解器では、しばらく電流を通じたあとでこの電流を断ち、新たに針金で白金板をつなぐと、分極のために生じた電位差のためにもと通じた電流とは反対の向きの電流すなわち、分極電流が得られる。この事実は一八〇一年にフランスのガウトローによって見い出され、ついで一八〇三年にドイツのリッターによってこれを利用して電流を得る特殊の装置、すなわち蓄電池が考案せられた。これは丸い鉛板のあいだに希硫酸をにじませた綿布またはフランネルをはさんだものであった。

 電流によって分極をおこさせることを蓄電池の充電といい、これを針金でつないで電流を得るのを放電と称しているが、最初に充電ならびに放電を幾度もくり返すと、二枚の鉛板の面がそれぞれ漸次ぜんじ、過酸化鉛および硫酸鉛をもっておおわれて凹凸おうとつを生じ、かえって分極に対する有効表面を増すことが、一八五九年プランテによって観察せられ、これによってふつうの電池よりも起電力の大きな蓄電池を作ることができた。そののち一八八一年、フォールによって改良せられ、最初から格子型の鉛板に酸化鉛をはめたものを極板としてもちいるようになった。これを希硫酸にひたして外部から電流を通ずると、陽極は過酸化鉛、陰極は海綿状の鉛となるので、通常かような板数枚ずつを組み合わせて電槽でんそうに入れ、蓄電池とする。一対の鉛板のあいだの起電力はおよそ二ボルトほどであるが、大きな起電力を得るためには多数の蓄電池を直列につないで一室にそなえる。またえ置き用のほかに自動車などに備える移動用のものとしては別に、エディソン式蓄電池というのがある。陽極板に水酸化ニッケル、陰極板に水酸化鉄、電解液に苛性カリ〔水酸化カリウム〕溶液をもちいたものである。

 電気分解は種々の実用に応用せられる。硫酸銅・硝酸銀・塩化金などの溶液を分解すると、それぞれ銅・銀・金などの金属が陰極に集まるから、陰極導体の表面はこれらの金属でメッキせられる。このばあいに陽極としてはメッキする金属の板をもちいて溶液から費消しょうせられる金属をおぎなうようにする。また電鋳でんちゅう〔電気鋳造〕ではロウや石膏せっこうで木板または彫刻などの型を取り、その表面に石墨せきぼくを塗って導体としたものを陰極とし、電気メッキと同様にしてその表面に銅を厚く付着させ、電気銅版や銅像などをつくる。さらに電気冶金やきんとしては、金属化合物の溶液から電気分解によって金属を陰極に析出させ、これを精製する目的にもちいられ、またこの方法で種々の物質の純粋結晶をつくることもできる。

   八、電流による熱と光、熱電流


 電池が発明された当時には、これによって得られる電流がものめずらしかったために、その性質をきわめる目的で、電池のすばらしく大きなものがきそって作られた。イギリスのジョン・ジョージ・チルドレンは一八一三年に、長さ六フィート〔およそ一.八メートル〕、幅二フィート八インチ〔およそ八〇センチメートル〕の銅板と亜鉛板とを二〇枚ずつ重ねて電池を作ったということである。この電池からの電流を直径 11/100 インチ〔およそ二.八ミリメートル〕の白金線に通じたところが、赤熱せきねつして強い日光のもとでも赤く光るのが見られた。また、八分の一平方インチの太さで二インチ四分の一の長さの白金棒は容易に赤熱されて、そのはしが融着した。いろいろの金属線について実験した結果は、抵抗の大きいものほどよく熱せられることをも見い出だした。ついでハンフリー・デヴィーも一八二一年に同様の実験をおこなったが、その後一八四一年にいたって、ジェームス・プレスコット・ジュールは熱量計をもちいて電流から生ずる熱量をきわめて精密にはかり、つぎの法則を立てた。「電流によって針金の一定部分に生ずる熱量は、その電気抵抗に比例し、また電流の強さの二乗に比例する。

 これは今日、ジュールの法則として知られている大切な関係であって、電流もまたエネルギーの一態であることを証するものである。いったいエネルギーが種々の様態を取ることは、最初、物体の運動のエネルギーと位置のエネルギーとのあいだに知られていたのであるが、その後、運動のエネルギーが熱に変化することが確証せられ、かつ前者によってなされる機械的の仕事と、これによって生ずる熱量との間に一定の関係のあることがロバート・マイヤーによって示されるにおよんで、熱もまたエネルギーの一態であることがあきらかになった。ジュールは電流の熱作用を研究するとともに、ついで、熱の仕事当量の精密な測定をもおこなったのであるが、結局、これらの実験的事実にもとづいて、一八四七年にドイツのヘルムホルツにいたって有名なエネルギー保存の原理が完成されたわけである。
 実用単位でいえば、一アンペアの電流が抵抗一オームの針金を通るとき、一秒間に生ずる熱量はちょうど 1/4.19 カロリーになるのであって、これは仕事の量で言いあらわすと一ジュールに等しい。つまり、アンペアとかオームとかいう電気の実用単位は、じつはこのような簡単な関係が保たれるように特に選ばれたものにほかならない。

 電流による熱は、上記のように抵抗の多い部分にとくに多く発生するから、長いあいだ電流を通していると、抵抗器やその他の電気器具などにおいて著しく熱くなるばあいがしばしばある。したがって、ときには取り扱い上これを避けるために、水で冷やすというような必要のおこることもある。また反対に、この熱を利用する目的で多くの器具も作られるのである。近ごろは電熱を利用した便利な用具が続々とできて、家庭や厨房ちゅうぼうの仕事のいっさいが電化されてゆくようなありさまになった。電気ストーブはいうまでもないし、コタツや熨斗のし〔アイロン〕座布団ざぶとん煮沸しゃふつ用の七輪しちりんや、ほとんどかぞうるにいとまないほどである。これらをもちいると、従前のようにガスや煙をともなう炭火や薪油を使うのとちがって、少しも部屋を汚すこともなく、かつ、スイッチ一つひねって電流を通じさえすればすむという、非常な簡便さにおいてはるかにまさっている。このほかに、実験用に供する目的で抵抗炉と称するものがつくられているが、これによって高温度における物質の諸性質が研究せられるようになった。これらの装置には近時、多くはニクロムと称する鉄・ニッケルおよびクロミウムの合金の針金をもちいる。これは銅にくらべて六十六倍ほど大きな抵抗を有し、容易に熱を発生する。

 電流によって熱せられた針金が高温度にのぼると光を発するようになることは、すでにチルドレンの実験でも見られたところであるが、これを適当に利用して灯光とうこうの目的に供したものがいわゆる白熱電灯である。今日では電灯の普及はじつに著しく、どんな僻村へきそん閑地かんちに行ってもこれを見ないところがないほどになったが、石油ランプやガス灯のおこなわれた時代をすぎて、電灯の使用がこれほど盛んになるまでにわれわれの近代文明生活の進歩がいかにめざましかったかは、おそらく誰もよく知っているところであろう。

 さて、かような電灯のはじめて作られたのは一八七八年であって、アメリカの発明王と称せられるエディソンの手によって、細い白金線を光らせる装置が考案せられたのがその最初である。ただし、白金線では広く使用する材料としてやや高価にすぎるので、ほかのものを求めたうちで、竹の線条を焼いた炭素線の都合がよいことを見い出だした。ただし、炭素線では空気中で強く熱すると燃焼してしまうから、これをガラス球内に入れて内部の空気をぬいた。これがすなわち電灯球の由来である。その後、炭素線のかわりに融解ゆうかい温度の高い種々の金属線をもちいた電球が種々の人によって作られた。すなわち、一八九八年にはドイツのアウエル・フォン・ウェルスバッハがオスミウム電球を、また一九〇五年にはフォン・ボルトンがタンタル電球を作ったし、さらに一九一一年になって、アメリカのクーリッジはタングステン電球を完成したが、この最後のものが近来一般にもちいられている。

 なお近ごろは、電球内に窒素やアルゴンのような気体を入れたガス入り電球というのも多く見られるようになったが、これは電流が金属線を長く通ずるにしたがって線条の酸化してゆくのや、また分子飛散のために線条の実質の破壊するのを妨げる目的で作られたのである。
 電灯は室内をらすために適当な光源であるが、これよりももっと強大な光を得る装置としては、いわゆる電気弧灯ことう(アーク灯)がある。それは、ある間隙かんげきをへだてて対立する二本の炭素棒のあいだに電流を通ずるものであって、最初、この間隙かんげきを小さくして電流の回路を閉じると、この部分に火花を生じ、つづいてこの間隙をやや大きくすると、そこに生ずる蒸気を通じて電流が流れ、弧状の強い光を発するようになる。電流の出るほうの炭素棒、すなわち陽極には漸次ぜんじくぼみを生じ、非常に高温度となって強く光る。温度は三五〇〇度ぐらいにも達し、数千燭光しょっこうの明るさを出すこともできるから、照明用としてはなはだ大切なものであり、探照灯たんしょうとうや活動写真・実物幻灯、その他多くの実験用にも供せられる。

 弧灯ことう〔アーク灯〕と同様の装置は照明用にとどまらず、別に電気炉として高熱を得るためにももちいられる。これは、はじめてドイツの大工業を興したシーメンス〔シーメンス・ヴェルナー〕によってつくられたものであって、弧灯用炭素棒と石灰の器の中に装置したものである。器内には通常、マグネシア〔酸化マグネシウム〕と炭素の粒とを入れて石灰の炭化を防ぐようにしてある。この電気炉は近時、種々の工業や化学・物理学などの実験にもちいられて非常に重要なものとなったので、それぞれの目的に応じて種々の型式のものが作られている。物質を溶融ようゆうするための電気炉では、溶かす材料を直接に一方の電極としてもちいるばあいが多い。

 電流によって回路の一部分に熱を発生するばあいに、可燃物がこれに接触していると高熱となって往々にして発火する危険がある。したがって電灯・電熱器、その他の電気器具をもちいるための屋内配線に対しては、つねに火災誘発を予防することに注意しなくてはならない。通常この予防手段としては、回路の一部に融解温度の低いフューズ〔ヒューズ〕と称する合金の短い針金を挿入した安全器をそなえおき、電流が一定の強さを超えるとこれによって生ずる熱のためにフューズが融解して回路を切断するように装置する。

 さて、電流をおこす装置としては電池がもっとも古くかつ広く知られているが、このほかにも種々の方法が発見された。近時、電流の使用がさかんになるにしたがって、大規模にこれを供給する方法が講ぜられているわけであるが、これはなお後に述べることにして、ここでは主として実験用に供せられるところのもう一つの簡単な方法を記そう。
 それは、単に二つの異なった物質の針金を密結して一つの閉じた回路をつくり、二か所の連結点の一方を熱しさえすればよいのである。そうすればこの回路の中に電池がなくても電流が現われる。この現象は熱電流と称せられるものであるが、一八一五年にはじめてフランスのデサイヌによって見い出され、一八二一年ドイツのゼーベック〔トーマス・ゼーベック〕によっても独立に観測された。熱電流をおこすための装置は、熱電池または熱電対ねつでんついと名づけられている。
 熱電流の向きは、接続する両物質の種類によってだいたい一定している。たとえば鉄と銅とをつなぐと、電流は通常、熱した接続点において銅から鉄に向かうようにおこる。ただし全体が高温度に保たれると、この電流の向きが逆になることもあって、現に銅と鉄とのばあいにも五五〇度以上の温度では逆になる。
 熱電流の強さは一般に、二つの接続点の温度の差に関係するものであるから、あらかじめこの法則に対する比例常数を知っているならば、これを利用して温度を測ることができる。通常の水銀寒暖計は、非常に高い温度や低い温度では役に立たないこともちろんであるから、それらのばあいに熱電対ねつでんついを代用して容易に目的を達することができる。高温度用としては一方に白金、他方に白金・ロジウムの合金をたがいに接続したものがふつうである。

〔第四十六図の図版は底本のまま〕
 また特に、輻射熱ふくしゃねつを測るために熱電流を応用した装置を、熱電堆ねつでんたいと名づける。通常の形式としては、アンチモンと蒼鉛そうえんとの一対の金属棒を交互にたくさんに接続し、一方の接続点を一つの面に集めて油煙ゆえんったものが多い。この面に輻射熱をあてると、油煙のために吸収された熱が上述の接続点を温めるから、これによって熱電流がおこる。よってこの電流の強さを測って吸収熱量を知るのである。輻射熱の全体の量やまた、これをスペクトルにわけた各部分の熱量などがこれによって実験せられる。

   九、電流の磁気作用(一)


 電気と磁気とは最初、たがいに独立に発見せられたものであって、両者とも物質の特別な現象として不思議に感ぜられてはきたものの、その間になんらかの関係があるかどうかは長く疑問とせられていた。クーロン〔シャルル・ド・クーロン〕によって、電気の間にはたらく力の法則が距離の二乗に逆比例するものであることが見い出され、同時に磁気の間の力もまた同じ法則に従うことがあきらかにせられたけれども、これだけではまだ直接の関係には達しない。電気・磁気のほかに、万有引力もまた法則の上では同様の形を持っているのであって、単にそれだけで互いに関係があるとは断ぜられない。ところが電流の発見の後になって、これが磁針を動かす作用を持つことが一八〇二年にイタリアのロマニオシによって見られた。ただし、それがはたして本当であるかどうかは、一八二〇年にデンマークの学者エールステッドによって同様の事実が観測されるまでは確かでなかった。
 エールステッドは当時、コペンハーゲンの工科大学の教授であったが、ある日、講義のおりに電流の性質に関する彼の一つの理論を試めそうと思って、針金の下に磁針を置いて実験をおこなったところが、意外にも磁針が針金に対して垂直に向くように曲げられることを見い出だした。そこで、これについて種々の実験をかさねてみたが、電流の通る針金が南北に置かれ、かつ電流が南から北に向かって流れるときには、その下に置かれた磁針の北極は西に向けられ、また、電流が逆の方向に流れるか、もしくは磁針が針金の上方に置かれると、その北極は逆に東に向かうことが観測された。

 この重要な発見は同年の七月に発表せられ、さらに九月十一日にフランスのアカデミーで講演せられたが、わずかにその一週後には同じアカデミーの会合席上で、アンペールによってその数学的の理論が示されたばかりでなく、さらに進んで、電流の通ずる螺旋らせん状の針金はその作用においてまったく一つの磁石と同等でなければならないことが説明せられ、かつ、実験的にさえ証明された。これこそ電気と磁気との密接な関係をあきらかにした最初の事実である。ついでアンペールはこれにもとづいて、磁石をつくる分子内には磁極を結びつける線に垂直の面の中に小さな円形に回転する電流があって、そのために磁石としての作用が現われるという理論を提出したが、これは分子電流の理論と称せられ、磁石の根本理論として当時の人々をおどろかしたところのものである。今日の電子論では、おのおのの物質の原子内に電子の回転を認めている点で、それはだいたいにおいてアンペールの分子電流に相当しているといってもよいであろう。
 針金を螺旋らせん状にまいたものはコイルと称せられているが、これを一方のはしからながめて電流が左まわりするように流れていれば、その端に北極、反対の端に南極を持つ磁石とその作用が等しく、また、電流の方向が逆になれば磁石としての極も逆になるのである。さらにコイルの心棒しんぼうとして鉄を入れると磁気作用が非常に強まるので、実際には多くかようなものがもちいられ、電磁石でんじしゃくと名づけられている。

 電磁石をはじめて製作して実用に供したのは、イギリスのウィリアム・スタージョンならびにアメリカのジョセフ・ヘンリーであるが、その後になってじつに多大の応用を見るようになり、ほとんどそのおかげで大多数の電気利用が成就じょうじゅされたといってもよいくらいである。なぜというに、電磁石は決してそれが磁石と同等の作用を呈するというだけの効能に止まらないで、かえって磁石よりもはるかに便利の性質を持つからである。すなわち、電磁石に通ずる電流を加減かげんすれば、随意に磁気作用をも増減せしめることができるので、したがって電流の強いときは通常の永久磁石よりもはるかに強力な磁石を得るし、また、電流を断つと磁石の性質を失わしめることもできるし、さらに、電流の方向を逆にすると磁極もまた反対になるというように、目的に応じて勝手な変化が与えられるためである。


 電流の磁気作用の利用の第一は、これによって簡単に電流の強さを測ることのできることである。電流計はこの目的でつくられたものであるが、その型は今日まで非常に多数にのぼっている。ただしこれらを大別すると、固定したコイルに電流を通じて磁針を動かすものと、固定した馬蹄形ばていけい磁石または電磁石の両極のあいだに自由に回転する小さなコイルを装置して、電流によってその方向の変わるのを見るものとの二種となる。前者は主として精密実験用に供せられ、とくにケルヴィンの鏡電流計(ガルバノメーター)〔検流計〕では、小磁針のきわめてわずかの方向変化が、これに取りつけた小さな鏡の面から反射する光線の方向の変化によって非常に鋭敏に観測されるようにしてある。また後者に属するもののうちにも、同様の光学的装置によってコイルの回転をはなはだ精密に測り得るものもある。
 ただし通常の簡便を主としたものでは、コイルの回転を直接に指針によって示させ、指針の各位置にこれに相当した電流の強さを度盛どもりしてある。かようなものをアンペアメーターまたはアンメーター〔電流計〕と名づける。もし、この装置Vを電流回路の一部に第五十五図のように並列に挿入すると、Vを通るかたわら回路に流れる電流の強さと抵抗との相乗積は、これが接続せるA・B二点間の電位差をあたえる。それゆえこの方法で電位差を測るのに便利であるように、指針の示す各位置に電位差をボルトであらわした数を度盛どもりしたものをボルトメーター〔電圧計〕と名づける。
 電磁石が鉄を吸いつける力を利用して鉄材を運搬したり、海中に沈んだ鉄製の物体を引き上げたりするために、強力な物げ電磁石がつくられている。中央に鉄の輪に針金をきつけたコイルがあって、これをマンガン銅のおおいでかぶせたものである。鉄工業では作業上、はなはだ重宝なものとせられている。

 つぎに、電磁石が磁気作用の強さを自由に変えることはすでに述べたとおり、それの利用の主体をなすものであって、電鈴でんれいや電信器やその他種々のばあいに応用せられ、多大の便宜べんぎをわれわれに与えている。
 電鈴はイギリスのジョン・マイランドが一八五〇年に発明したものであって、図に示すように、馬蹄形電磁石Mを取りまくコイルの導線の一端がその極の前方に置かれた軟鉄片Sに連絡し、さらにこれと接触しているネジTをへて別にそなえつけた電池につながれて、一つの回路を作るように装置される。この回路中にあらかじめ挿入された押しボタンを押して回路を閉じると、電流が流れてMが磁気作用をおこすから、Sはこれに吸いつけられ、ネジTの尖端せんたんを離れて電流をその点で断つことになる。そうすれば電磁石Mはふたたびその作用を失って、Sを元の位置に戻し、Tとの接触を回復させるから、これによって電流の回路がふたたび閉じられ、以前の過程をくり返す。かようにして自働的にSは電磁石に吸いつけられ、また離され、たえず往復運動を続けるので、これに軽い把手とってを取りつけて鈴を鳴らすことができるのである。

  一〇、電流の磁気作用(二)


 電流の磁気作用の応用のうちで、最初にその効用の顕著なものとして世人を驚かしたのは電信である。
 電信は、いうまでもなく遠方に信号を伝えるための電気装置であるが、昔からわれわれはかような目的を達しようとして苦心していたことは事実であり、そしてそのために、まず音響や光の使用が普通に考えられていた。ただし、電気や電流に関する知識がようやく拡まるにおよんで、十九世紀に入ってからはそれの利用が工夫せられるようになった。これに属する最初の試みというのは、一八〇九年にドイツのゼンメリングが、水の電気分解によって気泡きほうののぼるのを信号として役立たせようとするものであった。その後一八三三年に、ガウスおよびウェーベル〔W. E. ヴェーバーか〕は電流による磁針の偏倚へんい〔かたより〕を利用して一種の電信装置をつくったが、ついで一八三五年にアメリカの画家モールスによってはじめて電磁石を利用した電信器が発明せられ、電信記号の考案とともに今日実用に供せられるものの基礎を形づくった。かくして一八四四年にはアメリカのワシントンおよびバルチモアの間に商業用電信が開始せられ、また一八五七年には大西洋の海底電線が敷設せられて、はじめて英米両国間に海をへだてて最初の直接の通信がおこなわれるにいたった。
 電信器には一般に送信装置と受信装置とがあって、そのあいだを導線で連絡して信号を伝えるのである。送信装置としては適当の電池と、受信所に達する受信回路を閉じるためのかぎとをそなえればよい。受信装置ではこの電流によって電磁石を働かせるのであるが、遠距離になると電流のエネルギーが途中の針金の中で熱となって失われるために、その強さが著しく弱まるから、直接に目的の電磁石を働かせるかわりに、まず継電器けいでんき(リレー)と称するものに作用させる。継電器には同様に電磁石をそなえているので、これによって別に受信所に置かれている局部電池の回路を閉じるだけの役目をはたせばよいのである。受信器はこの局部電池の回路中に置かれ、電流の通ずるにしたがって電磁石がはたらき、軟鉄片を引きつけることにより、これに沿うて時計じかけで一方に動いている細い紙片の上に連続した線を押ししるすようになっている。それゆえ、電流の断続を適当におこすと紙片には長短随意の線が記されるから、これらの線を適宜てきぎに組み合わせたものをあらかじめ文字の符号として選んでおけば、これによって意味を伝えることができる。新式のものでは多く紙片をもちいずに、単に鉄片が受信器の電磁石を打つ音響によってこれを判断するようにした音響受信器がもちいられている。ただし、送信および受信の正確を期するためには、その後、ヒューズの発明した文字印刷式受信器および、さらにこれを改良した電気タイプライターが勝っている。
 送信および受信の両装置を連絡する導線は、通常ただ一本をもちい、他は地面につないでこれを回路の一部に利用する。また同一装置で送信および受信を兼用することのできるような連絡が選ばれている。
 電流が針金の中を伝わる速さの非常に速いことはすでに述べたが、これは精密に測るとほとんど光の真空中の速さに近いものである。したがって、電信による遠隔地間の通信は一瞬時にはたすことができるといってよい。ただし、電流の強さの制限のために非常に遠い際には適当の中継所を必要とするけれども、これによって世界各地の出来事をきわめて短時間に知ることのできるようになったのは著しい事実である。





 電話もまた、だいたいにおいて電信と同様に遠隔地間の通信交換を目的とするものであるが、符号または文字のかわりに直接に音声を伝達することができるだけに、いっそうの便利を持っている。すなわち、音波を電流に変えてこれを遠方に送り、そこでふたたび以前の音波にもどすのが電話の働きであるが、かような試みははじめて一八六一年にドイツのフィリップ・ライスによってくわだてられ、ついで一八七六年にアメリカのグラハム・ベルによって大成せられた。現時もちいられている送話器は、さらにその後(一八七八年)ヒューズによって発明せられたマイクロフォンと称せられるものである。図に示すような構造を有し、二枚の炭素板の間にゆるくつめた炭素粒が音波の振動を感ずる振動板のために動かされ、個々の粒子の接触を変ずるからしたがって電流に対する抵抗を変化し、これを回路の一部とする電流の強さもまた相応そうおうした微妙の変化を呈するようになる。受話器にはコイルをまいた棒磁石または馬蹄形磁石があって、これに送話器からの電流が通ずると磁極の強さもまた電流の強さの変化に応じて変化し、よってその前方にはられた薄い鉄板を振動させ、これによって音波を再現せしめるのである。ただし、送話器と受話器との実際の連結については後に述べるような装置を必要とする。


 電信や電話を通ずる電線を地中または海底に設置するばあいには、周囲との絶縁を完全になし、かつ、外部からの障害に対して十分の保護を加えなげればならない。これがためには電線を厚いガッタ・ペルチャでおおい、または鋼鉄の被蔽ひへいをそなえてその内部に銅線のたばを入れる。かようなものを一般にケーブルと名づける。
  
 電信および電話のほかに、なお電流による種々の伝達装置がもちいられている。電気時計はそのもっとも簡単な一例であって、親時計おやどけいの指針の運動をそのまま直接に電流によって各所にすえつけられた子時計に伝えるものである。

 また、デンマークのワルデマール・プールゼンの作ったテレグラフォンと称するものは、通常の電話と蓄音器とをねたものであり、電話器で受け取った電磁石の変化に応じて長い鋼鉄の針金を磁化せしめ、これを必要に従ってふたたび音波として取り出すことのできる装置である。
 このほかに近ごろ実用に供せられだした、文字または写真の電送も同様の種類に属する。文字の電送ははじめてドイツのグスターフ・クルツァンナによって成功したもので、紙面を縦横の線でこまかく区画し、ペンを縦に動かすのと横に動かすのとに相当して二つの異なった電気抵抗を感ずるようにし、この組み合わせを受信所においてふたたび二つの小磁針の運動としてあらわし、これに取りつけた鏡から反射する光で感光紙の上に文字を再現するように装置したのである。写真電送に対しては種々の方法がくわだてられたが、一八七七年にフランスのサンレクはセレニウム〔セレン〕という金属が光によって電気抵抗を変化する性質を利用して、写真の各点における反射光をその強さに応じて変化する電流によって遠方に伝達することを試み、またドイツのアルツール・コルン(一八八六年)は写真を縦横の線でこまかく区画した各部分の濃淡を、これを透過する光の強さの変化によって電流に感ぜしめ、よって遠方に電送する方法を創案し、さらに一九〇二年に彼の改良したテレオートグラフ式と称せられるものでは、セレニウムから来る電流を磁極のあいだにられた細い金属線に導き、これが磁極からの力で一方に引きよせられる大きさに応じて光をさえぎって濃淡を生ぜしめるように装置してある。その後、今日までこの写真電送は漸次ぜんじの改良を加えられている。
(つづく)



底本:『電気物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
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電氣物語(二)

石原純

   六、電流の法則

 電池から電流を得るのには、單に兩極の金屬を針金でつなげばよいのである。この際電流の通つてゐる針金をその回路(又は輪道)と名づけ、針金をつないで電流を通すことを稱して、回路を閉ぢると云ふ。
 電流に對しては我々はその方向と強さとを差別する。電流は電氣が導體内を流動する現象であると解釋するならば、電流の方向と云ふのは即ち電氣の流動する方向を指し示すことになるわけであるが、普通に水の流れるやうな場合と異なつて電氣の場合には事柄が稍々複雜になるを免れない。なぜなら、電氣には陽陰の兩種があつて、しかもそれらは同じ電氣力にはたらかれて互に反對の方向に動くものであるからである。即ち電池の陽極と陰極とでは前者が後者よりも電位が高いのであつて、從つて陽電氣は電氣力にはたらかれて陽極から陰極に向つて流動し、陰電氣はこれと反對の方向に流動する。若し我々がデュフヱ[#「ヱ」は小書き]イやシンマーの二流體假説に從つて、金屬内部に實際に之等兩種の電氣流體が存在すると假定するならば、同じ針金のなかで之等が出遇つてどの場所で互ひに中和するかと云ふやうな疑問が生じてくる。そこでこの困難を避けると云ふ點では、寧ろフランクリンの一流體假説を採用した方が都合がよいかも知れない。さうすれば單に一種の電氣流體が針金のなかを流動すること、丁度水の流動の場合と同樣になるからである。そして若し我々がこの電氣流體を陽電氣に相當するものであると假定するならば、我々が通常電流の方向と稱へてゐるものは即ちこの電氣流體の流動の方向に外ならない。但し後の電子論に從ふと、實際に導體の内部を移動するのは反對に陰電氣を有する電子であると云ふことになるが、その塲合にも我々は暫らく電流の方向を示す規約だけは變へないでおく方が都合がいゝから、やはり前のやうに、假想された陽電氣の流動方向をもつて之をあらはすのである。要するに電流の方向と云ふのは一種の規約に過ぎないのであるから、實際に電流がどんなものであるかと云ふ理論には必らずしも立ち入らずともよいのである。
[#図版(026.png)、第二十六圖 ゲオルグ・シモン・オーム]
 さて次に電流の強さと云ふのは針金の斷面を通つて單位時間にどれだけの電氣量が流動するかと云ふ分量で測られるわけである。この塲合にも水の流動の分量によつて水流の強さが測られるのとその儘比較されるためには、單に一種の電氣流體が一方向に流れると考へた方が勿論簡單である。思考の上ではそれでよいが併し實際に我々は針金を外部から見たゞけでは電流が通つてゐるかどうかさへわからないのであるから、况してその分量に至つては全く知られない。そこで之を測るには、電流から結果する何等かの作用によるより外はないが、先づこの作用を測定した上で我々は逆にそれからどれたけの電氣量が流動するかを計算によつて導き出すことはできるのである。電流の強さは畢竟かやうな手續きで決定されると考へればよいであらう。それで理論上では一秒間に一靜電單位の電氣量が流れるやうな電流の強さを一靜電單位に等しいと云ひ、この三十億倍即ち一クーロンの電氣量が一秒間に流れるものを實用單位として採用し、電流の研究に多大の貢献をなしたフランスの學者アンペールの名に因んで、之を一アンペアと名づける。
[#図版(027.png)、第二十七圖 オームの實驗に用ひた器械]
[#ここからキャプション]
ドイツ・ミユンヘンの [#全角アキは底本のまま]學博物館に保存されてゐる
[#キャプションここまで]
 電流の強さに關する法則は、一八二六年にドイツのオームの實驗的研究によつて見出だされた。先づ簡單に、同じ電池に針金をつないで見ると、針金の種類やその太さや長さによつて電流の強さが異なることは容易に知られる。オームはその關係を一般に押し擴めて、すべての塲合に、
[#ここから2字下げ]
電流の強さは之が流れる針金の兩端の電位差に比例する
[#ここで字下げ終わり]
と云ふ法則を立てた。之はオームの法則と名づけられてゐるが、之によると電位差と電流の強さとの割合は同じ針金については常に一定してゐるわけであつて、この割合をこの針金の電氣抵抗と名づけてゐる。
 尚ほこの關係を言ひ換へると、同じ電位差がある塲合にも電氣抵抗の大小によつて電流の強さが變ることになる。抵抗の大きい針金を用ひれば電流が弱くなり抵抗が小さければ電流が強くなる。それで抵抗を測る單位として、單位電位差のもとに單位電流を通ずるやうな針金の抵抗を用ひ、すべて靜電單位で之等をあらはせばよい。實用單位としてはそれの九千億分の一を採り、之を一オームと名づけてゐる。
 同じ物質については抵抗は針金の長さに比例し、太さに逆比例する。どんな物質の抵抗が大きいか小さいかを比較するには、それ故長さ一センチメートル、斷面積一平方センチメートルの形のものを取つて互ひに比較すればよい。之を物質の比抵抗と名づげる。比抵抗の最も小さいものは銀及び銅であつて、タングステン、亞鉛、ニッケル、鐵、白金などが之に次ぐものである。金屬のうちでも、水銀や蒼鉛などは銀や銅に比べて百倍程も大きい。又抵抗は温度によつても多少は變つてくる。斷面積一平方ミリメートル、長さ 106.30 センチメートルの水銀柱の温度零度に於ける抵抗は一オームであつて、實用上之を抵抗の標準にする。
 針金で電流の囘路をつくるに當つて、その全體又は一部の抵抗がどうなるかを常に考慮する必要がある。數本の針金を單に順次につなぎ合はした塲合には、全體の抵抗は、各々の針金の抵抗の和に等しくなるが、之に反して數本の針金の一方の端を互ひに結び合はせ、又他方の端を別に結び合はせたものを電流の回路に入れると、電流は各々の抵抗に逆比例するやうに、それ/″\の針金のなかに分岐して流れる。之等の二種のつなぎ方のうち前者を直列につなぐと云ひ、後者を並列につなぐと云ふ。
[#図版(028.png)、第二十八圖 直列と並列のつなぎ方]
[#図版(029.png)、第二十九圖 抵抗箱と其内部の針金の配置を示す]
 電流の強さを加減するには適宜の抵抗を回路中につなげはよい[#「つなげはよい」は底本のまま]ので、この目的につくられた裝置を抵抗器と云ふ。回路に入れる針金の長さを適當に變へるやうになつてゐるのが普通で、時には多數の炭素板を並べ合はせてその接觸の度合を變へるやうなものもある。精密な抵抗器では温度によつて抵抗を變ずることの少ない金屬の針金を用ひる必要がある。マンガニン(銅、ニツケル及び亞鉛の合金)、並びにコンスタンタン(銅とニツケルとの合金)は特にこの目的を達するためにつくられた合金である。併し逆にまた或る金屬が温度によつて電氣抵抗を如何に變ずるかを豫め精密に測つておけば、この關係を利用して、電流の強さの變化によつて温度を知ることができる。通常の寒暖計が使用に堪へないやうな高温度を測るのに、白金線の電氣抵抗の變化を利用した高温度計が實際につくられてゐる。

   七、電流の化學作用

 針金に電流が通つてゐるかどうかは、火花の出ることや、又人體や動物體に對する刺戟によつても知られるが、その外の作用の中で最初に見出だされたのは化學作用である。既にヴォルタが電池をつくつた際に、水の電氣分解の實驗を行つたことは上に記した通りである。簡單に之を行ふには、稀硫酸のなかに二枚の白金板を浸し、之を電池の兩極に結びつけて電流を通せばよい。電池の陽極につながれた白金板に沿うては酸素、又陰極につながれた方には水素の氣泡が發生し、液面に上るのが見られる。この際電流は稀硫酸中の水を酸素と水素とに分解したのであつて、同樣の現象は稀硫酸の外、種々の酸、鹽基及び鹽類の水溶液を用ひても見られる。一般に電流によつて分解せられるやうな溶液を電解質と名づけ、之に電流が導き入れられ、又は流出するための金屬板をそれ/″\陽極及び陰極と云ふ。
[#図版(030.png)、第三十圖 水の電氣分解]
[#図版(031.png)、第三十一圖 マイクル・フアラデイ]
 電氣分解の現象は、最初ドイツのグローツス(一八〇五年)によつて、恰度磁石の極が鐵に力を及ぼすと同樣に、分解せられる各成分が兩極から引力及び斥力を受ける爲であると解せられ、又イギリスのハンフリー・デヴィーによつて同樣の解釋が與へられたが、成分が何故に電氣力にはたらかれるかについて十分明らかでなかつた。ところが一八三三年に至つてファラデイが始めて、溶液内では電解質の分子成分が最初から解離して存在して居り、即ち各々陽及び陰電氣を有する二種のイオンを形作つてゐることを假定し、之等が電流の通過に伴ふ電位差のためにそれ/″\陰極及び陽極に運ばれるのであると説明してから、今日までこのイオン解離説が信ぜられてゐる。稀硫酸の例で云へば、硫酸分子は水素イオンと硫酸根イオンとに解離し、前者は陽電氣、後者は陰電氣をもつてゐるから、之等は電流によつて兩極に運ばれ、前者はその儘遊離してあらはれるが、後者は更に水に作用して酸素を遊離させ、その結果水の分解をなすことになるのである。解離の際に、溶液の成分のうち金屬又は水素イオンは常に陽電氣を帶び、從つて陰極に集まり、他の成分のイオンは之に反してゐる。
 ファラデイは更に電氣分解について精密な實驗を行つた結果、重要な法則を見出だした。即ち電氣分解の際に兩極に析出せられる物質の量は電流の強さとその通ずる時間との相乘積、從つて針金から流れ入つた全電氣量に比例し、又一定の電氣量によつて析出せられる物質の量は、それの化學當量に比例すると云ふのである。精密の測定によれば、一アンペアの電流によつて銀は毎秒 0.001118 グラムを析出するから、一般に或る電流によつて毎秒析出せられる銀の量を測るならば、右の量と比較して電流の強さを計算することができる。それ故今日では一アンペアの電流の標準としてこの銀の析出量を用ひてゐる。又銀の原子量は 107.88 であり、原子價は1であるから、一化學當量を析出するに必要な電氣量は
[#ここから2字下げ]
107.88/0.0001118=9.649×10^4 クーロン[#「0.0001118」は底本のまま]
[#ここで字下げ終わり]
となる。上のファラデイの法則によつて、この値は一價イオンの有する電氣量をあらはすものであるが、之がどんな物質から計算しても常に同一になると云ふことは、電氣の理論にとつて非常に大切な事柄であつて、後に明らかになつた通りに、電氣が原子的構成を有する、即ち電子から成ると云ふことの一つの確實な根據となるのである。
 電流によつて化學作用が起ると云ふ事實と、逆に電池に於いて見るやうに、化學作用によつて電流を生ずると云ふ事實との間には密接の關係がなければならない。稀硫酸のなかに亞鉛と銅とを浸した簡單な電池について考へると、この塲合には亞鉛が漸次硫酸にはたらかれて硫酸亞鉛として溶液中に溶けてゆく。その結果硫酸中の水素陽イオンが他方の銅板を高壓電位に保つて電流の源泉とすると考へられる。併し電流を通ずるに從つてこの作用が活溌に起ると、遂には遊離せられた水素が氣泡の儘で銅板に附着したり、又硫酸根イオンが過剩に亞鉛板に集まつたりすることによつて、電池の内部にも又銅板から亞鉛板に向ふやうな電位差が生ずることを免がれない。そして之は電池の外部起電力と反對にはたらくものであるから、之がために電池の電流は弱まる結果を來す。この現象は最初イギリスの化學者ジェームス・キールによつて見出だされたものであつて、通常電池の分極と名づけられてゐる。分極を避けるには、重クロム酸カリのやうな消極劑と稱するものを溶液中に入れ、その化學作用によつて陽極に集まる水素を取り除くやうにする。
[#図版(032.png)、第三十二圖 電氣分解に於てイオンの移動する有樣]
[#行頭あきなしは底本のまま]電池の分極は電池本來の作用を妨げるものであるが、併し之を都合よく利用すると、別に電流の源として役立たせることができる。例へば稀硫酸のなかに二枚の白金板を浸したやうな電氣分解器では、暫く電流を通じた後でこの電流を斷ち、新たに針金で白金板をつなぐと、分極のために生じた電位差のためにもと通じた電流とは反對の向きの電流即ち分極電流が得られる。この事實は一八〇一年にフランスのガウトローによつて見出だされ、次いで一八〇三年にドイツのリッターによつて之を利用して電流を得る特殊の裝置、即ち蓄電池が考案せられた。之は丸い鉛板の間に稀硫酸を滲ませた綿布又はフランネルを挾んだものであつた。
[#図版(033.png)、第三十三圖 蓄電池の電槽]
[#図版(034.png)、第三十四圖 蓄電池室]
 電流によつて分極を起させることを蓄電池の充電と云ひ、之を針金でつないで電流を得るのを放電と稱してゐるが、最初に充電並びに放電を幾度も繰り返すと二枚の鉛板の面が、それ/″\漸次過酸化鉛及び硫酸鉛をもつて蔽はれて凹凸を生じ、却つて分極に對する有效表面を増すことが、一八五九年プランテによつて觀察せられ、之によつて普通の電池よりも起電力の大きな蓄電池を作ることができた。其後一八八一年フォールによつて改良せられ、最初から格子型の鉛板に酸化鉛を填めたものを極板として用ひるやうになつた。之を稀硫酸に浸して外部から電流を通ずると、陽極は過酸化鉛[#読点なしは底本のまま]陰極は海綿状の鉛となるので、通常かやうな板數枚宛を組み合はせて電槽に入れ、蓄電池とする。一對の鉛板の間の起電力は凡そ2ボルト程であるが、大きな起電力を得るためには多數の蓄電池を直列につないで一室に備へる。又据置用の外に自動車などに備へる移動用のものとしては別にエディソン式蓄電池と云ふのがある。陽極板に水酸化ニッケル、陰極板に水酸化鐵、電解液に苛性カリ溶液を用ひたものである。
[#図版(035.png)、第三十五圖 電氣鍍金裝置]
 電氣分解は種々の實用に應用せられる。硫酸銅、硝酸銀、鹽化金などの溶液を分解すると、それ/″\銅、銀、金などの金屬が陰極に集まるから、陰極導體の表面は之等の金屬で鍍金せられる。この塲合に陽極としては鍍金する金屬の板を用ひて溶液から費消せられる金屬を補ふやうにする。又電鑄術では蝋や石膏で木板又は彫刻などの型を取り、その表面に石墨を塗つて導體としたものを陰極とし、電氣鍍金と同樣にしてその表面に銅を厚く附着させ、電氣銅版や銅像などをつくる。更に電氣冶金としては金屬化合物の溶液から電氣分解によつて金屬を陰極に析出させ、之を精製する目的に用ひられ、又この方法で種々の物質の純粹結晶をつくることもできる。

   八、電流による熱と光、※[#「執/れんが」、p.73-5]電流

 電池が發明された當時には、之によつて得られる電流がもの珍らしかつたために、その性質を究める目的で、電池のすばらしく大きなものが競つて作られた。イギリスのジョン・ジョージ・チルドレンは一八一三年に長さ六フィート、幅二フィート八インチの銅板と、亞鉛板とを二十枚づつ重ねて電池を作つたと云ふことである。この電池からの電流を直徑 11/100 インチの白金線に通じたところが、赤熱して強い日光のもとでも赤く光るのが見られた。又八分の一平方インチの太さで二インチ四分の一の長さの白金棒は容易に赤熱されて、その端が融着した。いろ/\の金屬線について實驗した結果は、抵抗の大きいものほどよく熱せられることをも見出だした。次いでハンフリー・デヴイーも一八二一年に同樣の實驗を行つたが、その後一八四一年に至つてジェームス・プレスコット・ジュールは熱量計を用ひて電流から生ずる熱量を極めて精密に測り、次の法則を立てた。「電流によつて針金の一定部分に生ずる熱量はその電氣抵抗に比例し、又電流の強さの二乘に比例する。」
[#図版(036.png)、第三十六圖 ヘルー型電氣爐]
 これは今日ジュールの法則として知られてゐる大切な關係であつて、電流も亦エネルギーの一態であることを證するものである。一體エネルギーが種々の樣態を取ることは、最初物體の運動のエネルギーと位置のエネルギーとの間に知られてゐたのであるが、その後運動のエネルギーが※[#「執/れんが」、p.75-4]に變化することが確證せられ、且つ前者によつてなされる機械的の仕事と、之によつて生ずる熱量との間に一定の關係のあることがロバート・マイヤーによつて示されるに及んで、熱も亦エネルギーの一態であることが明らかになつた。ジュールは電流の熱作用を研究すると共に、次いで※[#「執/れんが」、p.75-8]の仕事當量の精密な測定をも行つたのであるが、結局之等の實驗的事實に基づいて、一八四七年にドイツのヘルムホルツに至つて有名なエネルギー保存の原理が完成されたわけである。
 實用單位で云へば、一アンペアの電流が抵抗一オームの針金を通るとき一秒間に生ずる※[#「執/れんが」、p.75]量は恰度 1/4.19 カロリーになるのであつて、之は仕事の量で云ひあらはすと一ジュールに等しい。つまりアンペアとかオームとか云ふ電氣の實用單位は實はこのやうな簡單な關係が保たれるやうに特に選ばれたものに外ならない。
[#図版(037.png)、第三十七圖 種々の電熱器]
[#ここからキャプション]
上右から 牛乳沸し.パン燒器[#「牛乳沸し.パン燒器」の順序は底本のまま].コーヒー沸し.中右丸形七輪
左角型七輪.下右角型反射暖房器.左萬能七輪
[#キャプションここまで]
 電流による熱は上記のやうに抵抗の多い部分に特に多く發生するから、長い間電流を通してゐると抵抗器やその他の電氣器具などに於て著しく熱くなる塲合が屡々ある。從つて時には取り扱ひ上之を避けるために、水で冷やすと云ふやうな必要の起ることもある。又反對にこの熱を利用する目的で多くの器具も作られるのである。近頃は電熱を利用した便利な用具が續々と出來て、家庭や厨房の仕事の一切が電化されてゆくやうな有樣になつた。電氣ストーブは云ふ迄もないし、炬燵や熨斗や座蒲團や煮沸用の七輪や殆んど數ふるに遑ない程である。之等を用ひると、從前のやうにガスや煙を伴ふ炭火や薪油を使ふのと違つて、少しも部屋を汚すこともなく、且つスウィッチ一つ捻つて電流を通じさへすればすむと云ふ非常な簡便さに於て遙かに勝つてゐる。この外に實驗用に供する目的で抵抗爐と稱するものがつくられてゐるが、之によつて高温度に於ける物質の諸性質が研究せられるやうになつた。之等の裝置には近時多くはニクロームと稱する鐵、ニッケル及びクロミウムの合金の針金を用ひる。之は銅に比べて66倍程大きな抵抗を有し容易に熱を發生する。
[#図版(038.png)、第三十八圖 料理用電熱器]
 電流によつて熱せられた針金が高温度に上ると光を發するやうになることは既にチルドレンの實驗でも見られた處であるが、之を適當に利用して燈光の目的に供したものが謂はゆる白熱電燈である。今日では電燈の普及は實に著しく、どんな僻村閑地に行つても之を見ない處がない程になつたが、石油ランプや瓦斯燈の行はれた時代を過ぎて、電燈の使用がこれ程盛んになる迄に我々の近代文明生活の進歩が如何に目醒ましかつたかは恐らく誰も能く知つてゐる處であらう。
[#図版(039.png)、第三十九圖 トーマス・エディソン]
[#図版(040.png)、第四十圖 白熱電燈]
 さてかやうな電燈の始めて作られたのは一八七八年であつて、アメリカの發明王と稱せられるエディソンの手によつて、細い白金線を光らせる裝置が考案せられたのがその最初である。併し白金線では廣く使用する材料として稍々高價に過ぎるので、他のものを求めたうちで竹の線條を燒いた炭素線の都合がよいことを見出だした。但し炭素線では空氣中で強く熱すると燃燒してしまふから、之を硝子球内に入れて内部の空氣を拔いた。之が即ち電燈球の由來である。その後、炭素線の代りに融解温度の高い種々の金屬線を、用ひた電球が種々の人によつて作られた。即ち一八九八年にはドイツのアウエル・フォン・ウェルスバッハがオスミウム電球を、又一九〇五年にはフォン・ボルトンがタンタル電球を作つたし、更に一九一一年になつてアメリカのクーリッヂはタングステン電球を完成したが、この最後のものが近來一般に用ひられてゐる。
[#図版(040_2.png)、電弧熔接の實况(東京芝浦製作所)]
[#図版(040_3.png)、ネオン管標識燈]
 尚ほ近頃は電球内に窒素やアルゴンのやうな氣體を入れたガス入り電球と云ふのも多く見られるやうになつたが、之は電流が金屬線を長く通ずるに從つて線條の酸化してゆくのや、又分子飛散のために線條の實質の破壞するのを妨げる目的で作られたのである。
[#図版(041.png)、第四十一圖 ガス入電球]
 電燈は室内を照らすために適當な光源であるが、之よりももつと強大な光を得る裝置としては謂はゆる電氣弧燈(アーク燈)がある。それは或る間隙を隔てゝ對立する二本の炭素棒の間に電流を通ずるものであつて、最初この間隙を小さくして電流の回路を閉ぢると、この部分に火花を生じ、續いてこの間隙を稍々大きくすると、そこに生ずる蒸氣を通じて電流が流れ、弧状の強い光を發するやうになる。電流の出る方の炭素棒即ち陽極には漸次窪みを生じ、非常に高温度となつて強く光る。温度は3500度位にも達し、數千燭光の明るさを出すこともできるから、照明用として甚だ大切なものであり、探照燈や活動寫眞、實物幻燈、その他多くの實驗用にも供せられる。
[#図版(042.png)、第四十二圖 電氣弧燈]
 弧燈と同樣の裝置は照明用に止まらず別に電氣爐として高熱を得るためにも用ひられる。之は始めてドイツの大工業を興したシーメンスによつてつくられたものであつて、弧燈用炭素棒と石灰の器のなかに裝置したものである。器内には通常マグネシアと炭素の粒とを入れて石灰の炭化を防ぐやうにしてある。此電氣爐は近時種々の工業や化學、物理學等の實驗に用ひられて非常に重要なものとなつたので、それ/″\の目的に應じて種々の型式のものが作られてゐる。物質を熔融するための電氣爐では熔かす材料を直接に一方の電極として用ひる塲合が多い。
[#図版(043.png)、第四十三圖 シーメンス型電氣爐]
 電流によつて回路の一部分に熱を發生する塲合に可燃物が之に接觸してゐると高熱となつて往々にして發火する危險がある。從つて電燈、電熱器、その他の電氣器具を用ひるための屋内配線に對しては常に火災誘發を豫防することに注意しなくてはならない。通常この豫防手段としては回路の一部に融解温度の低いフューズと稱する合金の短い針金を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]入した安全器を具へおき、電流が一定の強さを超えると之によつて生ずる熱のためにフューズが融解して回路を切斷するやうに裝置する。
 さて、電流を起す裝置としては電池が最も古く且つ廣く知られてゐるが、この外にも種々の方法が發見された。近時電流の使用が盛んになるに從つて大規模に之を供給する方法が講ぜられてゐるわけであるが、之は尚ほ後に述べることにして、こゝでは主として實驗用に供せられるところのもう一つの簡單な方法を記さう。
[#図版(044.png)、第四十四圖 フューズ]
 それは單に二つの異なつた物質の針金を密結して一つの閉ぢた回路をつくり、二箇所の連結點の一方を熱しさへすればよいのである。さうすればこの回路のなかに電池がなくても電流があらはれる。この現象は熱電流と稱せられるものであるが、一八一五年に始めてフランスのデサイヌによつて見出だされ、一八二一年ドイツのゼーベツクによつても獨立に觀測された。熱電流を起すための裝置は熱電池又は熱電對と名づけられてゐる。
[#図版(045.png)、第四十五圖 熱電對]
 熱電流の向きは接續する兩物質の種類によつて大體一定してゐる。例へぼ[#「例へぼ」は底本のまま]鐵と銅とをつなぐと、電流は通常熱した接續點に於て銅から鐵に向ふやうに起る。併し全體が高温度に保たれると、この電流の向きが逆になることもあつて、現に銅と鐵との塲合にも550度以上の温度では逆になる。
 熱電流の強さは一般に二つの接續點の温度の差に關係するものであるから、豫めこの法則に對する比例常數を知つてゐるならば、之を利用して温度を測ることができる。通常の水銀寒暖計は非常に高い温度や低い温度では役に立たないこと勿論であるから、それらの塲合に熱電對を代用して容易に目的を達することができる。高温度用としては一方に白金、他方に白金・ロヂウムの合金を互ひに接續したものが普通である。
[#図版(046.png)、第四十六圖 熱電堆][#第四十六圖の図版は底本のまま]
 又特に輻射熱を測るために熱電流を應用した裝置を熱電堆と名づける。通常の形式としては、アンチモンと蒼鉛との一對の金屬棒を交互に澤山に接續し、一方の接續點を一つの面に集めて油煙を塗つたものが多い。この面に輻射熱をあてると、油煙のために吸收された熱が上述の接續點を温めるから之によつて熱電流が起る。依つて此電流の強さを測つて吸収熱量を知るのである。輻射熱の全體の量や又之をスペクトルに分けた各部分の熱量等が之によつて實驗せられる。

   九、電流の磁氣作用(一)

[#行頭あきなしは底本のまま]電氣と磁氣とは最初互ひに獨立に發見せられたものであつて、兩者とも物質の特別な現象として不思議に感ぜられては來たものゝ、その間に何等かの關係があるかどうかは永く疑問とせられてゐた。クーロムによつて電氣の間にはたらく力の法則が距離の二乘に逆比例するものであることが見出だされ、同時に磁氣の間の力も亦同じ法則に從ふことが明らかにせられたけれども、之だけではまだ直接の關係には達しない。電氣、磁氣の外に萬有引力も亦法則の上では同樣の形をもつてゐるのであつて、單にそれだけで互ひに關係があるとは斷ぜられない。ところが電流の發見の後になつて、之が磁針を動かす作用をもつことが一八〇二年にイタリーのロマニオシによつて見られた。併しそれが果して本當であるかどうかは一八二〇年にデンマークの學者エールステッドによつて同樣の事實が觀測される迄は確かでなかつた。
 エールステッドは當時コーペンハーゲンの工科大學の教授であつたが、或る日講義の折に電流の性質に關する彼の一つの理論を試めさうと思つて、針金の下に磁針を置いて實驗を行つたところが、意外にも磁針が針金に對して垂直に向くやうに曲げられることを見出だした。そこで之について種々の實驗を重ねて見たが、電流の通る針金が南北に置かれ、且つ電流が南から北に向つて流れるときには、その下に置かれた磁針の北極は西に向けられ、又電流が逆の方向に流れるか、若くは磁針が針金の上方に置かれると、その北極は逆に東に向ふことが觀測された。
[#図版(047.png)、第四十七圖 エールステッドの實驗]
[#図版(048.png)、第四十八圖 ハンス・クリスチアンーエルステット[#「ーエルステット」は底本のまま]像]
 この重要な發見は同年の七月に發表せられ、更に九月十一日にフランスのアカデミーで講演せられたが、僅かにその一週後には同じアカデミーの會合席上で、アンペールによつてその數學的の理論が示されたばかりでなく、更に進んで電流の通ずる螺旋状の針金はその作用に於て全く一つの磁石と同等でなければならないことが説明せられ、且つ實驗的にさへ證明された。これこそ電氣と磁氣との密接な關係を明らかにした最初の事實である。次いでアンペールは之に基づいて、磁石をつくる分子内には磁極を結びつける線に垂直の面のなかに小さな圓形に廻轉する電流があつて、そのために磁石としての作用があらはれると云ふ理論を提出したが、之は分子電流の理論と稱せられ、磁石の根本理論として當時の人々を驚かしたところのものである。今日の電子論では、各々の物質の原子内に電子の廻轉を認めてゐる點で、それは大體に於てアンペールの分子電流に相當してゐるといつてもよいであらう。
[#図版(049.png)、第四十九圖 アンペールの實驗]
[#ここからキャプション]
アンペールの實驗器械は現にドイツ・ミユンヘンの科學博物館に保存されてゐる
[#キャプションここまで]
[#図版(050.png)、第五十圖 アンペール]
 針金を螺旋状に捲いたものはコイルと稱せられてゐるが、之を一方の端から眺めて電流が左廻りするやうに流れてゐれば、その端に北極、反對の端に南極をもつ磁石と其作用が等しく、又電流の方向が逆になれば磁石としての極も逆になるのである。更にコイルの心棒として鐵を入れると磁氣作用が非常に強まるので、實際には多くかやうなものが用ひられ、電磁石と名づけられてゐる。
[#図版(051.png)、第五十一圖]
[#ここからキャプション]
大英國王立協會に保存されてゐるフアラデイの大電磁石でこれでフイアラデーはいろいろの大切な發見をした
[#キャプションここまで]
[#図版(052.png)、第五十二圖 大電磁石]
 電磁石を始めて製作して實用に供したのはイギリスのウィリアム・スタージョン並びにアメリカのジョセフ・ヘンリーであるが、其後になつて實に多大の應用を見るやうになり、殆んどそのお蔭で大多數の電氣利用が成就されたと云つてもよい位である。なぜと云ふに、電磁石は決してそれが磁石と同等の作用を呈すると云ふだけの效能に止まらないで、却つて磁石よりも遙かに便利の性質をもつからである。即ち電磁石に通ずる電流を加※[#「冫+咸」、u+51CF]すれば、隨意に磁氣作用をも増減せしめることができるので、從つて電流の強いときは通常の永久磁石よりも遙かに強力な磁石を得るし、又電流を斷つと磁石の性質を失はしめる事もできるし、更に電流の方向を逆にすると磁極も亦反對になると云ふやうに、目的に應じて勝手な變化が與へられるためである。
[#図版(053.png)、第五十三圖 アンペアメーター]
[#図版(054.png)、第五十四圖 ケルヴインの鏡電流計]
 電流の磁氣作用の利用の第一は、之によつて簡單に電流の強さを測ることのできることである。電流計はこの目的でつくられたものであるが、その型は今日まで非常に多數に上つてゐる。併し之等を大別すると、固定したコイルに電流を通じて磁針を動かすものと固定した馬蹄形磁石又は電磁石の兩極の間に自由に廻轉する小さなコイルを裝置して、電流によつてその方向の變るのを見るものとの二種となる。前者は主として精密實驗用に供せられ、特にケルヴインの鏡電流計(ガルバノメーター)では小磁針の極めて僅かの方向變化が之に取り付けた小さな鏡の面から反射する光線の方向の變化によつて非常に鋭敏に觀測される樣にしてある。又後者に屬するものゝうちにも同樣の光學的裝置によつてコイルの廻轉を甚だ精密に測り得るものもある。
[#図版(055.png)、第五十五圖]
 併し通常の簡便を主としたものではコイルの廻轉を直接に指針によつて示させ、指針の各位置に之に相當した電流の強さを度盛りしてある。かやうなものをアンペアメーター又はアンメーターと名づける。若し此裝置Vを電流回路の一部に第五十五圖のやうに並列に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]入すると、Vを通る傍回路に流れる電流の強さと抵抗との相乘積は之が接續せるA、B二點間の電位差を與へる。それ故この方法で電位差を測るのに便利であるやうに指針の示す各位置に電位差をボルトであらはした數を度盛りしたものをボルトメーターと名づける。
 電磁石が鐵を吸ひつける力を利用して鐵材を運搬したり、海中に沈んだ鐵製の物體を引き上げたりするために、強力な物揚げ電磁石がつくられてゐる。中央に鐵の輪に針金を捲きつけたコイルがあつて、之をマンガン銅の蔽ひでかぶせたものである。鐵工業では作業上甚だ重寶なものとせられてゐる。
[#図版(056.png)、第五十六圖 物揚げ電磁石で鐵材を吸上げ之を運ぶ有樣]
 次に電磁石が磁氣作用の強さを自由に變へることは既に述べた通りそれの利用の主體をなすものであつて、電鈴や電信器やその他種々の塲合に應用せられ多大の便宜を我々に與へてゐる。
 電鈴はイギリスのジョン・マイランドが一八五〇年に發明したものであつて、圖に示すやうに馬蹄形電磁石Mを取り捲くコイルの導線の一端がその極の前方に置かれた軟鐵片Sに連絡し、更に之と接觸してゐるネヂTを經て別に備へつけた電池につながれて一つの回路をつくる樣に裝置される。この回路中に豫め※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]入された押釦を押して回路を閉ぢると、電流が流れてMが磁氣作用を起すから、Sは之に吸ひつけられ、ネヂTの尖端を離れて電流をその點で斷つことになる。さうすれば電磁石Mは再びその作用を失つて、Sを元の位置に戻し、Tとの接觸を回復させるから、之によつて電流の回路が再び閉ぢられ以前の過程を繰返す。かやうにして自働的にSは電磁石に吸ひつけられ、又離され、斷えず往復運動を續けるので、之に輕い把手を取りつけて鈴を鳴らすことができるのである。
[#図版(057.png)、第五十七圖 ジヨン・マイランドの造つた電鈴]

   一〇、電流の磁氣作用(二)

 電流の磁氣作用の應用のうちで最初にその效用の顯著なものとして世人を驚かしたのは電信である。
 電信は云ふ迄もなく遠方に信號を傳へるための電氣裝置であるが、昔から我々はかやうな目的を達しようとして苦心してゐたことは事實であり、そしてそのために先づ音響や光の使用が普通に考へられてゐた。併し電氣や電流に關する知識が漸やく擴まるに及んで、十九世紀に入つてからはそれの利用が工夫せられるやうになつた。之に屬する最初の試みと云ふのは、一八〇九年にドイツのゼンメリングが水の電氣分解によつて氣泡の上るのを信號として役立たせようとするものであつた。その後一八三三年にガウス及びウェーベルは電流による磁針の偏倚を利用して一種の電信裝置をつくつたが、次いで一八三五年にアメリカの畫家モールスによつて始めて電磁石を利用した電信器が發明せられ、電信記號の考案と共に今日實用に供せられるものゝ基礎を形作つた。かくして一八四四年にはアメリカのワシントン及びバルチモアの間に商業用電信が開始せられ、又一八五七年には大西洋の海底電線が敷設せられて、始めて英米兩國間に海を隔てゝ最初の直接の通信が行はれるに至つた。
[#図版(058.png)、第五十八圖 電信の發明者モールス]
[#図版(059.png)、第五十九圖 モールス受信器]
[#図版(060.png)、第六十圖 モールス受信器と繼電器との連絡を示す]
[#ここからキャプション]
Mは受信器の電磁石.Aは軟鐵片でMに引かれると之に取りつけた臂WがPから時計仕掛で繰り出される紙片を押す。Rは繼電器の電磁石で.之に送信器からの電流が通るとtの一端を引きつけてその他端をネヂaに觸接させMの囘路を閉ぢさせる
[#キャプションここまで]
 電信器には一般に送信裝置と受信裝置とがあつて、その間を導線で連絡して信號を傳へるのである。送信裝置としては適當の電池と、受信所に達する受信回路を閉ぢる爲の鍵とを備へればよい。受信裝置ではこの電流によつて電磁石をはたらかせるのであるが、遠距離になると電流のエネルギーが途中の針金のなかで熱となつて失はれるために、その強さが著しく弱まるから、直接に目的の電磁石をはたらかせる代りに先づ繼電器(リレー)と稱するものに作用させる。繼電器には同樣に電磁石を具へてゐるので、これによつて別に受信所に置かれてゐる局部電池の回路を閉ぢるだけの役目を果せばよいのである。受信器はこの局部電池の回路中に置かれ、電流の通ずるに從つて電磁石がはたらき、軟鐵片を引つけることにより、之に沿うて時計仕掛で一方に動いてゐる細い紙片の上に連續した線を押し印すやうになつてゐる。それ故電流の斷續を適當に起すと紙片には長短隨意の線が記されるから、之等の線を適宜に組み合はせたものを豫め文字の符號として選んでおけば、之によつて意味を傳へることができる。新式のものでは多く紙片を用ひずに、單に鐵片が受信器の電磁石を打つ音響によつて之を判斷するやうにした音響受信器が用ひられてゐる。併し送信及び受信の正確を期するためには、その後ヒューズの發明した文字印刷式受信器、及び更に之を改良した電氣タイプライターが勝つてゐる。
[#図版(061.png)、第六十一圖 繼電器を取り去つて内部の電磁石を示す]
[#図版(062.png)、第六十二圖 電信器の送信並びに受信裝置の連結]
[#ここからキャプション]
B電池 E地面 I磁電石[#「磁電石」は底本のまま] K電鍵 BL局部電池 R繼電器
[#キャプションここまで]
[#図版(063.png)、第六十三圖 音響受信器]
 送信及び受信の兩裝置を連絡する導線は通常只一本を用ひ、他は地面につないで之を回路の一部に利用する。又同一裝置で送信及び受信を兼用することのできるやうな連絡が選ばれてゐる。
 電流が針金のなかを傳はる速さの非常に速いことは既に述べたが、之は精密に測ると殆んど光の眞空中の速さに近いものである。從つて電信による遠隔地間の通信は一瞬時に果すことができると云つてよい。但し電流の強さの制限のために非常に遠い際には適當の中繼所を必要とするけれども、之によつて世界各地の出來事を極めて短時間に知ることのできるやうになつたのは著しい事實である。
[#図版(064.png)、第六十四圖 ライスの電話器]
[#図版(065.png)、第六十五圖 グラハム・ベル]
[#図版(065_2.png)、水力發電所全景(鬼怒川電氣下瀧發電所)]
[#図版(065_3.png)、木曾川 大井ダムと發電所]
[#図版(065_4.png)、東洋一の火力發電所.鐵道省の川崎發電所の配電盤室]
[#図版(065_5.png)、神奈川縣鶴見附近の送電線]
 電話も亦大體に於て電信と同樣に遠隔地間の通信交換を目的とするものであるが、符號又は文字の代りに直接に音聲を傳達する事ができるだけに、一層の便利をもつてゐる。即ち音波を電流に變へて之を遠方に送り、そこで再び以前の音波に戻すのが電話の働らきであるが、かやうな試みは始めて一八六一年にドイツのフィリップ・ライスによつて企てられ、次いで一八七六年にアメリカのグラハム・ベルによつて大成せられた。現時用ひられてゐる送話器は更にその後(一八七八年)ヒューズによつて發明せられたマイクロフォンと稱せられるものである。圖に示すやうな構造を有し、二枚の炭素板の間にゆるく詰めた炭素粒が音波の振動を感ずる振動板のために動かされ、個々の粒子の接觸を變ずるから從つて電流に對する抵抗を變化し、之を回路の一部とする電流の強さも亦相應した微妙の變化を呈するようになる。受話器にはコイルを捲いた棒磁石又は馬蹄形磁石があつて之に送話器からの電流が通ずると、磁極の強さも亦電流の強さの變化に應じて變化し、依つてその前方に張られた薄い鐵板を振動させ、之によつて音波を再現せしめるのである。但し送話器と受話器との實際の連結については後に述べるやうな裝置を必要とする。
[#図版(066.png)、第六十六圖 送話器の斷面]
[#ここからキャプション]
Dは振動板 Cは炭素粒
[#キャプションここまで]
[#図版(067.png)、第六十七圖 受話器の斷面]
 電信や電話を通ずる電線を地中又は海底に設置する場合には、周圍との絶縁を完全になし、且つ外部からの障害に對して十分の保護を加へなげればならない。之がためには電線を厚いガッタ・ペルチ[#「チ」は小書き]ヤで蔽ひ、又は鋼鐵の被蔽を具へてその内部に銅線の束を入れる。かやうなものを一般にケーブルと名づける。
[#図版(068.png)、第六十八圖 一八五一年英佛海峽に用ひたケーブル]
[#ここからキャプション]
外部のは鋼鐵の被蔽,最内部が銅線
[#キャプションここまで]
[#図版(069.png)、第六十九圖 地下電線の斷面]
 電信及び電話の外に尚ほ電流による種々の傳達裝置が用ひられてゐる。電氣時計はその最も簡單な一例であつて、親時計の指針の運動をその儘直接に電流によつて各所に据ゑつけられた子時計に傳へるものである。
 又デンマークのワルデマール・プールゼンのつくつたテレグラフォンと稱するものは通常の電話と蓄音器とを兼ねたものであり、電話器で受け取つた電磁石の變化に應じて長い鋼鐵の針金を磁化せしめ、之を必要に從つて再び音波として取り出すことのできる裝置である。
[#図版(070.png)、第七十圖 電氣時計]
[#図版(071.png)、第七十一圖 コルンの區劃方法で電送した寫眞]
[#図版(072.png)、第七十二圖 コルンのオートグラフ式寫眞電送の裝置]
 この外に近頃實用に供せられ出した文字、又は寫眞の電送も同樣の種類に屬する。文字の電送は始めてドイツのグスターフ・クルツァンナによつて成功したもので、紙面を縱横の線で細かく區劃し、ペンを縱に動かすのと横に動かすのとに相當して二つの異なつた電氣抵抗を感ずるやうにし、この組み合はせを受信所に於て再び二つの小磁針の運動としてあらはし、之に取りつけた鏡から反射する光で感光紙の上に文字を再現する樣に裝置したのである。寫眞電送に對しては種々の方法が企てられたが、一八七七年にフランスのサンレクはセレニウムと云ふ金屬が、光によつて電氣抵抗を變化する性質を利用して寫眞の各點に於ける反射光をその強さに應じて變化する電流によつて遠方に傳達することを試み、又ドイツのアルツール・コルン(一八八六年)は寫眞を縱横の線で細かく區劃した各部分の濃淡を、之を透過する光の強さの變化によつて電流に感ぜしめ、依つて遠方に電送する方法を創案し、更に一九〇二年に彼の改良したテレオートグラフ式と稱せられるものではセレニウムから來る電流を磁極の間に張られた細い金屬線に導き、之が磁極からの力で一方に引き寄せられる大いさに應じて光を遮ぎつて濃淡を生ぜしめるやうに裝置してある。その後今日までこの寫眞電送は漸次の改良を加へられてゐる。
(つづく)



※ 効と效、回と囘の混用は底本のとおり。
※ 写真や図版の著作権者は石原純本人なのか、もしくは石原純以外の人物なのか不明。著作権法の「著作権者不明」「学術研究目的」の項が適用可能と判断した。
底本:『電氣物語』新光社
   1933(昭和8)年3月28日発行
入力:しだひろし
校正:
xxxx年xx月xx日作成
青空文庫作成ファイル:
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*地名

(※ 市町村名は、平成の大合併以前の表記のまま。一般的な国名・地名などは解説省略。
  • [イギリス]
  • 大英国王立協会 → ロイヤル‐ソサイエティー
  • ロイヤル‐ソサイエティー Royal Society イギリスの科学アカデミー。1660年に私的機関として発足。
  • 英仏海峡 えいふつ かいきょう (→)ドーヴァー海峡に同じ。
  • ドーヴァー海峡 ドーヴァー かいきょう (Strait of Dover) イギリスとフランスを隔てる海峡。イギリス海峡の北端に位置して北海と連続、最狭部34km。イギリス側にドーヴァー・フォークストン、フランス側にカレーなどの港湾都市がある。フォークストン・カレー間に英仏海峡トンネルがある。英仏海峡。
  • [フランス]
  • フランスのアカデミー → アカデミー‐フランセーズか
  • アカデミー‐フランセーズ Acadmie franaise  フランス学士院(Institut de France フランス)を構成する現存最古のアカデミー。1635年リシュリューの提案で文芸人の公的な集まりとして創設。辞書(初版1694年刊)の編集で知られる。
  • [ドイツ]
  • ミュンヘン Mnchen ドイツ南部、バイエルン州の州都。ドナウ川の支流イザル川に沿い、南ドイツの経済・文化の中心。宮殿や美術館・国立劇場などを有する。ビールの醸造は有名。人口119万5千(1999)。
  • 科学博物館 かがく はくぶつかん? ドイツ博物館か。独特な自然科学・技術の博物館。(外国地名コン)/1906年、ドイツのミラー(Osker von Miller, 1855-1934)がミュンヘンにドイツ科学技術博物館を開いた。第一次大戦等の影響で、本格的には1925年になって、ようやくドイツ博物館として完成。(世界大百科)
  • [イタリア]
  • [デンマーク]
  • コペンハーゲン Copenhagen デンマーク王国の首都(1443年以来)。バルト海の入口、シェラン島の東海岸に位置する港湾都市。北欧の経済・文化の中心地。人口49万9千(2001)。デンマーク語名ケーベンハウン。
  • 工科大学
  • [アメリカ]
  • ワシントン Washington (1) (Washington, D. C.)アメリカ合衆国の首都。初代大統領に因む名。ポトマック川左岸に臨む都市。行政上はコロンビア特別区で、連邦議会の直轄地。国会議事堂・ホワイト‐ハウスなどがある。人口57万2千(2000)。略称、華府。(2) アメリカ合衆国北西部、太平洋岸地方の州。農林水産業のほか、航空機産業が盛ん。州都オリンピア。
  • バルチモア → ボルチモア
  • ボルチモア Baltimore アメリカ東部、メリーランド州の都市。人口65万1千(2000)。
  • 大西洋
  • 鬼怒川 きぬがわ 利根川の支流。源を栃木県北西部の鬼怒沼山に発し、長さ177km。上流に川俣・川治・鬼怒川などの温泉が湧出。水力発電に利用。古名、毛野川。
  • 鬼怒川電気 → 鬼怒川水力電気株式会社
  • 下滝発電所 しもたき はつでんしょ 鬼怒川上流山間部の本支流には大正元年(1912)完成の黒部ダム、昭和41年完成の川俣ダム(以上栗山村)、同31年完成の五十里ダム、同56年完成の川治ダム(以上藤原村)などのダムがあり、川俣発電所・栗山発電所・鬼怒川発電所・塩谷発電所が設けられている。/明治末から大正初めにかけて建設された鬼怒川水力電気の下滝発電所(現、藤原町)は大容量と長距離送電という点で驚異的なものであったが、一方で、黒部堰堤の安全性や土砂扞止、土工の虐待という問題をひきおこした。昭和31年五十里ダムが多目的ダムとして完成、さらに川俣ダム・川治ダムなど鬼怒川水系に大規模ダムが建設され、発電や流水調整、灌漑にと多目的利用が計られている。しかし、流量減少による水質汚濁や自然環境の破壊などの問題も生じている。/現、塩谷郡藤原町。大正3(1914)鬼怒川水力電気株式会社による下滝発電所が完成。
  • 木曽川 きそがわ 木曾川。長野県の中部、鉢盛山に発源、長野・岐阜・愛知・三重の4県を流れる川。王滝川・飛騨川などの支流を合し伊勢湾に注ぐ。長さ227km。
  • 大井ダム おおいダム 岐阜県恵那市大井町と中津川市蛭川(旧・恵那郡蛭川村)の境、木曽川本川中流部に建設された発電専用ダムである。土木学会選奨土木遺産。木曽川水系で最初に造られたダムで、1924年(大正13年)に完成。ダムの形式は重力式コンクリートダムで高さは53.4メートル。(Wikipedia)
  • [神奈川県]
  • 川崎発電所
  • 川崎 かわさき 神奈川県北東部の市。政令指定都市の一つ。北は六郷川(多摩川)を隔てて東京都に、南西は横浜市に隣接。海岸に近い地区は京浜工業地帯の一部、内陸地区は住宅地。昔は東海道の宿駅。人口132万7千。
  • 鶴見 つるみ 横浜市北東部の区。昔、渡り鶴が多く見られたという。現在、臨海地域は埋立による大工場地帯。曹洞宗大本山総持寺がある。
  • 東京芝浦製作所 株式会社東芝か。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『世界大百科事典』(平凡社、2007)。




*年表

  • -----------------------------------
  • 電磁気学の年表
  • -----------------------------------
  • 一二六九 ペトロス・ペレグリヌスが、磁石に2つの極があることなど、磁石の性質についての著書を著わした。
  • 一六〇〇 ウィリアム・ギルバートが、古来より摩擦電気現象が知られていた琥珀以外に、硫黄や樹脂、ガラスなどにも摩擦電気が発生することが確認。
  • 一六六三 オットー・フォン・ゲーリケが、硫黄球を回転させて摩擦電気を作り出す摩擦起電機を発明。
  • 一七二九 スティーヴン・グレイが、導体と不導体の区別を発見。これによって、電気は動くものであることが確認された。
  • 一七三三 シャルル・フランソワ・デュ・フェが、金属にも摩擦電気が発生することを発見し、さらに電気はガラス電気(プラス)と樹脂電気(マイナス)の2種類があることを提唱。
  • 一七四六 ピーテル・ファン・ミュッセンブルーク (Pieter van Musschenbroek)が、電気を蓄えるライデン瓶を発明。ゲーリケの摩擦起電機とともに、後の電気研究に貢献した。
  • 一七五〇 ベンジャミン・フランクリンが、電気は1種類で、物質ではない荷電流体であるという一流体説を提唱。
  • 一七五二 フランクリンが、凧揚げの実験から、雷が電気現象であることを証明。
  • 一七五三 ジョン・キャントン(John Canton)が、帯電体に金属を近づけたときに発生する静電誘導を発見。
  • 一七六七 ジョゼフ・プリーストリーが、電気的な逆二乗則を提案する。
  • 一七八〇 ルイージ・ガルヴァーニが、「動物電気」を発見し、動物の体内に電気があるのではないかという仮説を立てる。
  • 一七八五 シャルル・ド・クーロンが、2つの電荷間で作用する力は、距離の2乗に反比例するというクーロンの法則を発見。
  • 一八〇〇 アレッサンドロ・ボルタが、電気は異種金属の接触によって発生することを発見。最初の電池(ボルタ電池)を作成。
  • 一八〇七 ハンフリー・デーヴィが、ボルタの発明した電池を電源としたアーク放電灯を完成。
  • 一八二〇 ハンス・クリスティアン・エルステッドが、電気を通した導線の近くに置いた磁針が振れる実験で、電流の磁気作用を発見。
  • 一八二〇 ジャン=バティスト・ビオ/フェリックス・サバールが、導線の周辺に発生する磁界の大きさを計算するビオ・サバールの法則を発見。
  • 一八二〇 フランソワ・アラゴが、鉄心に巻きつけた導線に電流を流すと磁石になる電磁石の原理を発見。
  • 一八二〇 ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックが、電流を流した導線が1つの磁石になることを発見。
  • 一八二〇 アンドレ・マリー・アンペールが、電流を流した2本の導線が互いに反発・吸引する相互作用と、電流の方向に対して右ねじの回転方向に磁界が生じるというアンペールの法則を発見。
  • 一八二一 マイケル・ファラデーが、電流を流した導線と磁石の間に相互作用があることを確認。
  • 一八二二 トーマス・ゼーベックが、異なる金属を接合させて閉じた回路にしたとき、両者の接点に温度差があると電流が発生するというゼーベック効果を発見。
  • 一八二二 アンペールが、電流を流した2本の導線間に働く力が、電流の積に比例し、距離に反比例することを確認。
  • 一八二三 ウィリアム・スタージャンが、最初の電磁石を発明。
  • 一八二四 アラゴが、円板の周辺に沿って磁石を回転させると、円板も同じ方向に回転するというアラゴーの回転板の原理を発見。
  • 一八二六 ゲオルク・オームが、電圧と電流、電気抵抗の関係を表したオームの法則を発見。
  • 一八三一 ファラデーが、導線を通り抜ける磁力線の数が時間的に変化すると、導線に誘導起電力発生するというファラデーの電磁誘導の法則を発見。
  • 一八三四 ハインリヒ・レンツが、電磁誘導による誘導電流は、それを生み出す磁石の動きを妨げる方向に流れるというレンツの法則を発見。
  • 一八三七 ファラデーが、電磁場は、近接する媒体に伝わって周囲に影響を及ぼすという近接媒体電磁場説を提唱。
  • 一八四〇 ジェームズ・プレスコット・ジュールが、電気が熱に変わるとき、その発熱量と電力、時間の関係を表したジュールの法則を発見。
  • 一八四二 ジョセフ・ヘンリーが、コンデンサの電荷をコイルで放電させると、電気振動が発生することを発見。
  • 一八五六 ジェームズ・クラーク・マクスウェルが、電磁気の第1の論文「ファラデーの力線について」を発表。これによって、電気現象を数学的に表現。
  • 一八五九 ガストン・プランテが、充電ができる鉛蓄電池(二次電池)を発明。
  • 一八六一 マクスウェルが、第2の論文「物理的力線について」を発表。電磁場理論を発表。
  • 一八六四 マクスウェルが、第3の論文「電磁場の動力学的理論」で、電磁波の存在を予言。
  • 一八七〇 ゼノブ・グラムが長時間運転可能な発電機を実用化。
  • 一八七三 マクスウェルが、電磁気に関する研究の集大成として「電磁気学」を発表。光が電磁気学的現象であることを明言する。
  • 一八七五 ジョン・カーが、いくつかの液体で電気的に引き起こされる複屈折を発見する。
  • 一八七六 アレクサンダー・グラハム・ベルが、電話機を発明。人の声を電流に変換して初めて送信。
  • 一八七九 デイビッド・エドワード・ヒューズが、炭素粉末の接触抵抗が、音波によって変化する現象を発見。後の検波器の実現に貢献した。
  • 一八八三 ウィリアム・スタンレーが、変圧器の原理の基礎となる逆起電力理論を提唱。
  • 一八八五 ジョン・フレミングが、フレミングの右手の法則(発電機の原理)を発表。後に左手の法則(モーターの原理)も。
  • 一八八八 ハインリヒ・ヘルツが、マクスウェルの予言した電磁波説を、火花発生装置と火花検出器を用いた実験で証明。
  • 一八八九 エドアール・ブランリーが、無線電信の受信用検波器を発明。
  • 一八九五 アレクサンドル・ポポフが、ブランリーが発明した検波器を改良して実用化。
  • 一八九五 ヴィルヘルム・レントゲンが、X線を発見。
  • 一九〇一 グリエルモ・マルコーニが、火花放電による電磁波の大西洋横断通信に成功。


◇参照:Wikipedia「電磁気学の年表」より。



*人物一覧

(人名、および組織・団体名・神名)
  • -----------------------------------
  •    六、電流の法則
  • -----------------------------------
  • デュフェイ → デュ・フェイか
  • デュ・フェイ Du Fay, Charles Franc,ois de Cisternay 1698-1739 フランスの化学者、物理学者。電気に陰陽の2種があり、それに反撥および吸引の作用のあることを発見した。また、燐光、複屈折、磁針等に関する研究もある。(岩波西洋)
  • シンマー → ロバート・シンマー
  • ロバート・シンマー Symmer, Robert ?-1763 イギリスの物理学者。電気には二種類あるというデュ=フェイの説に対応して電気の二流体説を提唱(1759)。(日外西洋)
  • フランクリン Benjamin Franklin 1706-1790 アメリカの政治家・文筆家・科学者。印刷事業を営み、公共事業に尽くした。理化学に興味を持ち、雷と電気とが同一であることを立証し、避雷針を発明。また、独立宣言起草委員の一人で、合衆国憲法制定会議にも参与。自叙伝は有名。
  • ゲオルグ・シモン・オーム Georg Simon Ohm 1789-1854 ドイツの物理学者。1826年、導体を流れる電流の強さは、その両端における電位差に比例し、抵抗に反比例するという法則(オームの法則)を発表。
  • アンペール Andr-Marie Ampre 1775-1836 フランスの物理学者。電流の流れる導線の周囲の空間に生じる磁場と流れる電流の強さとの関係(アンペールの法則)を論じ、ソレノイドの磁場が棒磁石の磁場に等しいことから、物質の磁気的性質を電気的に説明。
  • -----------------------------------
  •    七、電流の化学作用
  • -----------------------------------
  • ヴォルタ Alessandro Volta 1745-1827 イタリアの物理学者。電気学の始祖。ガルヴァーニの動物電気の発見に示唆をうけて電池を発明。初めて人工的に持続する電流を得た。ボルタ。
  • マイクル・ファラデー Michael Faraday 1791-1867 イギリスの化学者・物理学者。塩素の液化、ベンゼンの発見、電磁誘導の法則、電気分解のファラデーの法則、ファラデー効果および反磁性物質などを発見。電磁気現象を媒質による近接作用として、場の概念を導入、マクスウェルの電磁論の先駆をなす。主著「電気学の実験的研究」
  • グローツス → グロートゥス
  • グロートゥス Grothuss (Grotthuss), Christian Theodor, Freiherr von 1785-1822 ドイツの自然科学者。電流による水の電気分解を実験した(1805)ほか、感光物質によって吸収された光のみが光化学的に作用することを確認した(1818)。(岩波西洋)
  • ハンフリー・デヴィー Davy, Sir Humphry 1778-1829 デーヴィ。イギリスの化学者。ブリストルの気体研究所に入り、亜酸化窒素(笑気)の興奮作用を発見し、王立研究所の創立と共に助手、同教授となった。電気分解により、初めてアルカリおよびアルカリ土金属の分離に成功し、カリウム、ナトリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マグネシウムを遊離した。またヴォルタ電池を用いて電気弧光を放電して電気による最初の人工光を公開実験した。そのほか塩素が単体であることを証明、また酸は必ずしも酸素とは関係なく、水素は酸に酸性を与えるものであることを示唆した(1810〜1815)。助手ファラデーを伴い大陸を旅行し(1813〜1815)、帰国後、安全灯を発明(1815)。王立協会会長(1820)。(岩波西洋)
  • ジェームス・キール イギリスの化学者。
  • ガウトロー フランス。
  • リッター → ヨハン・ヴィルヘルム・リッターか
  • ヨハン・ヴィルヘルム・リッター Johann Wilhelm Ritter 1776-1810 ドイツの物理学者。初め薬剤師を業とした。水を電解して酸素と水素に分離し、硫酸銅溶液を電解して銅の沈殿を得た(1801)。また紫外線の強い光化学反応を利用してその存在を発見したほか、電気の分極作用を発見して(1803)蓄電池製作の先駆をなした。(岩波西洋)
  • プランテ Plant, Raimond Louis Gaston 1834-1889 フランスの物理学者。現在最も広く使われている鉛蓄電池を発明し(1859)、更にこれを改良した(1879)。(岩波西洋)
  • フォール
  • -----------------------------------
  •    八、電流による熱と光、熱電流
  • -----------------------------------
  • ジョン・ジョージ・チルドレン イギリス。
  • ジェームス・プレスコット・ジュール James Prescott Joule 1818-1889 イギリスの物理学者。1840年電流を通じて生じる熱量に関する法則を導き、47年熱の仕事当量を決定。
  • ヘルー → エルー
  • エルー Hroult, Paul Louis Toussaint 1863-1915 フランスの冶金技術者。アメリカの Ch.ホールとほとんど同時にアルミニウム電解製造の工業的方法を発明した(1886)。この方法は今日〈ホール・エルー法〉と呼ばれている。のち電気製鋼と電気製鉄との研究に努め、彼の電解製鉄炉(エルー炉)は、現在でも電気製鉄炉の大部分を占めている。(岩波西洋)
  • ロバート・マイヤー Julius Robert von Mayer 1814-1878 ドイツの医師・物理学者。エネルギー保存の原理を定式化し、熱の仕事当量を論じた。
  • ヘルムホルツ Hermann von Helmholtz 1821-1894 ドイツの生理学者・物理学者。聴覚についての共鳴器説・エネルギー保存則を主唱、広範な分野に業績を残した。
  • トーマス・エディソン Thomas Alva Edison 1847-1931 エジソン。アメリカの発明家・企業家。その発明及び改良は、電信機・電話機・蓄音器・白熱電灯・無線電信・映写機・電気鉄道などにわたり、電灯会社及び発電所の経営によって電気の普及に成功。
  • アウエル・フォン・ウェルスバッハ Auer Carl, Freiherr von Welsbach 1858-1929 アウアー。オーストリアの化学者。ハイデルベルク大学で R.W. ブンゼンに師事し、稀土類元素の酸化物の研究を始め、のちヴィーン大学に移る。今日も用いられているトリウムとセリウムを用いたガス・マントルを発明して(1885)、ガスの灯用としての利用価値を高めた。これはアウアー灯とよばれる。更にオスミウム白熱電灯を発明した(1898)ほか、鉄とセリウムの合金は摩擦すると発火しやすい粉になることを発見し、発火合金(アウアーメタル、ミッシュ・メタル)を作った。(岩波西洋)
  • フォン・ボルトン
  • クーリッジ Coolidge, William David 1873-1975 アメリカの実験物理学者。マサチューセッツ工業大学物理化学助教授、翌年ジェネラル・エレクトリック会社に入社し、のち研究所長となる。タングステン線の作製に成功して(1910)、タングステン電球を実用化し、また従来のガス入X線管に変わるものとして熱陰極X線管を発明した(1913)。これはガラス入管に比してはなはだ便利であり、X線の研究および応用を大いに促進した。以後、熱陰極X線管は〈クーリッジ管〉と総称されている。連合軍総司令部の依嘱により工業技術再編成のため来日した(1947)。(岩波西洋)
  • シーメンス → シーメンス・ヴェルナーか
  • シーメンス・ヴェルナー Siemens, Werner von 1816-1892 鉄のウィリアム、ガラスのフリードリヒの兄。ドイツの技術の天才兄弟の一人。(科学史、p.440)/ドイツの電気技術者、電気機器製造家。初め砲兵士官に任じ、技術を学ぶ。電気鍍金の特許を得(1841)、新しい電信機およびグッタ・ペルカ被覆継目なし電線の製法を発明した(1846)。機械技術者ハルスケと共に、ベルリンに電信機械製造所ジーメンス・ハルスケ会社を創立(1847)、ついでベルリン・フランクフルト(マイン川畔の)間にドイツ最初の電線を架設した(1848〜49)。多くの発明を自分の工場で生産に移し、製品の安価より良質を信条としたので、ドイツ工業の発展と製品の世界的信用、堅実な技術は彼に負うところが多い。なお多重電信装置、セレン光度計、自動記録器、自励式直流発電機など多くの電気機械を発明、製造し、またベルリンに最初の電気鉄道を敷設した(1879)。(岩波西洋)
  • デサイヌ フランス。
  • ゼーベック → トーマス・ゼーベック
  • トーマス・ゼーベック Thomas Johann Seebeck 1770-1831 ドイツの物理学者、医師。1821年にゼーベック効果を発見した。(Wikipedia)/熱電気の発見者。エストニア生まれ。電気、磁気、化学作用の相互関係を研究。ガルヴァーニ電池の“磁気雰囲気”を鉄粉図形により示し、アラゴーの減衰法則、ヒステリシス現象の徴候に注目した。「温度差による金属および鉱石の磁気分極」(1822)で、熱電気(温度磁気)を、電流ではなく“磁気分極”として、超電力列と“磁気列”の違いから見いだし、これをアンペールの電気動力学的説明の反証と解釈した。また、熱電堆をつくり、地磁気の成因を論じた。(科学史)
  • -----------------------------------
  •    九、電流の磁気作用(一)
  • -----------------------------------
  • ロマニオシ イタリア。
  • ハンス・クリスチアン・エールステッド Hans Christian Oersted 1777-1851 エルステッド。デンマークの物理学者。1820年電流の磁気作用を発見。デンマークの学者。
  • ウィリアム・スタージョン William Sturgeon 1783-1850 (科学史、p.969)/ステュルジャン。イギリスの電気学者。棒状あるいは馬蹄形の鉄にかなり太い銅線を一層コイル状に巻いて、電磁石を作った(1823)。またイギリスで最初の電気雑誌〈Annals of Electricity〉を創刊(1836)。そのほか電気技術に関する多くの発明がある。(岩波西洋)
  • ジョセフ・ヘンリー Joseph Henry 1797-1878 アメリカの科学者。イギリスのマイケル・ファラデーとほぼ同時期に電磁誘導を発見した。スミソニアン協会の初代会長として、米国の科学振興に尽くした。電磁誘導(インダクタンス)の単位ヘンリーに、その名をとどめる。(Wikipedia)/19世紀前半のアメリカを代表する物理学者。ニューヨークのオールバニー生まれ。1826年からオールバニー・アカデミーの数学・自然哲学教授となり、スタージョンの電磁石を、絹糸で被覆絶縁した導線を軟鉄心に直角に巻きつけることによって改良した。1830年頃にはこの電磁石を用いて、自己誘導および電磁誘導を発見した(「電流の生成および電気・磁気の電光について」)。1838年には高次誘導電流の研究などをおこない、1846年にスミソニアン研究所の長官に任命された。その後は産業革命期にある科学行政官として、科学研究の普及に努めた。(科学史)
  • ケルヴィン Lord Kelvin 1824-1907 イギリスの物理学者。本名、ウィリアム=トムソン。熱力学の第2法則を研究し、絶対温度目盛を導入。海底電信の敷設を指導し、多くの電気計器を作り、また航海術、潮汐その他の地球物理学の研究も多い。
  • ウィリアム・トムソン William Thomson → ケルヴィン
  • ジョン・マイランド イギリス。
  • -----------------------------------
  •    一〇、電流の磁気作用(二)
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  • ゼンメリング Smmering, Samuel Thomas von 1755-1830 ドイツの解剖学者。マインツ大学解剖学および生理学教授。のち、フランクフルト(マイン川畔の)、ミュンヘンで開業。骨、神経その他に彼の名が冠せられているものがいくつかある。のち医学以外の研究にうつり、電信機の発明(1809)、化石動物の研究、太陽黒点の観察等をおこなった。(岩波西洋)
  • ガウス Karl Friedrich Gauss 1777-1855 ドイツの数学者。ゲッティンゲン大学教授兼天文台長。18歳で正十七角形の幾何学的作図に成功。最小自乗法・整数論・曲面論・虚数論・方程式論・級数論などを論じたほか、天文学・電磁気学にも精通。数学の王といわれる。
  • ウェーベル → W. E. ヴェーバーか
  • W. E. ヴェーバー Weber, Wilhelm Eduard 1804-1891 ドイツの物理学者。ハレ大学助教授 K. F. ガウスに招かれてゲッティンゲン大学教授となったが、ハノーヴァー憲法廃止に抗議して罷免され、のちライプチヒ大学教授となり、再びゲッティンゲン大学に復帰した。遠隔作用に基づく電磁気理論の開拓者で、相互に反対方向に等速運動をなす正負の電気粒子を電流中に仮定し、また任意の2電気粒子間にクーロン静電気のほかに相対速度、相対加速度による力の存在を仮定し、かかる電気粒子の運動により、電流間に〈アンペールおよびノイマンの法則〉を発見した(1846)。また分子電流の仮説によって反磁性を解明し(1852)、更にコールラウシュと共に電流の強さの静電単位と電磁単位の比が、真空中の光速度にほとんど等しいことを実験的に証明した(1856)。またガウスと共に電気諸量の絶対単位系を導入したほか、電磁計、電気動力計についても種々な考案がある。なお、磁束の実用単位(10^8 C. G. S. 電磁単位)に〈Weber〉を用いることがある。(岩波西洋)
  • モールス Samuel Finley Breese Morse 1791-1872 モース。アメリカの電気技師。1837年電信機械を発明。44年ワシントン・ボルティモア間の電報通信に成功。モールス符号の考案者。
  • ヒューズ Hughes, David Edward 1831-1900 イギリスの発明家、電気技術者。アメリカに渡り(1838)、ケンタッキー州バーズタウン(Bardstown)大学に学び、同大学音楽および自然科学教授。印刷電信機の研究を始め、これを完成し特許を取って(1856)、アメリカ政府に売却し、またその販売のためヨーロッパに渡り、好評を得た。ロンドンに帰り、マイクロフォン(彼の命名である)を発明した(1878)。他にインダクション・バランス(誘導衡)の発明(1879)など多くの発明がある。遺言により電気に関する発明者に贈る〈ヒューズ賞〉が設定された。(岩波西洋)
  • フィリップ・ライス Reis, Johann Philipp 1834-1874 ドイツの物理学者。最初の電話を製作したが(1860-61)、その意義は生前には認められなかった。(岩波西洋)/ブルサール(C.Bourseul)の提案を実験に移し、その結果をフランクフルトの物理学会で報告。その中ではじめて「telephonie」(ギリシア語。far-voice の意)の表現を採用する。(科学史、p.709「電話」)
  • グラハム・ベル Alexander Graham Bell 1847-1922 アメリカの物理学者・発明家。1876年有線電話を発明。
  • ワルデマール・プールゼン デンマーク。
  • グスターフ・クルツァンナ ドイツ。
  • サンレク フランス。
  • アルツール・コルン Korn, Arthur 1870-1945 ドイツの物理学者。ベルリン大学教授。ミュンヘン・ニュルンベルク間(1904)、ミュンヘン・ベルリン・パリ・ロンドン間(1907)の写真電送に成功、のちローマとアメリカのバー・ハーバー(Bar Harbour)間の無線写真電送(1923)にも成功した。アメリカに在住。(岩波西洋)


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『岩波西洋人名辞典増補版』、『科学史技術史事典』(弘文堂、1983.3)。



*難字、求めよ

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  •    六、電流の法則
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  • 回路 かいろ (1) 電流の通路。電流が流れるために、導体を終端のないように接続したもの。サーキット。
  • 輪道 りんどう 物事が円環状に運行する道筋。
  • 電位 でんい 電場内の1点に、ある基準の点から単位正電気量を運ぶのに必要な仕事。水が水位の差に従って流れるように、電流は電位の高い所から低い所へ流れる。
  • 陽電気 ようでんき 絹布でガラス棒を摩擦するとき、ガラス棒に生じる電気およびこれと同性質の電気の称。+(プラス)の符号で表す。正電気。←→陰電気
  • 陰電気 いんでんき 琥珀やエボナイト棒を毛皮で摩擦する時、琥珀やエボナイト棒に生じる電気と同一性質の電気。電子のもつ電気。−(マイナス)の符号で表す。負電気。←→陽電気
  • 二流体仮説
  • 電子論 でんしろん (1) ローレンツの電子論。物質を電子および陽イオンの集合と見なし、物質の光学的・電磁気的・熱的性質をローレンツ力による電子の運動として説明。(2) ディラックの電子論。量子力学に相対性理論を取り入れ、新しく電子の波動方程式(ディラック方程式)を導き、これを基礎として、電子のスピンや陽電子の存在を説明。
  • 電子 でんし (electron) 素粒子の一つ。原子・分子の構成要素の一つ。19世紀末、真空放電中に初めてその実在が確認された。静止質量は9.1094×10−31キログラム。電荷は−1.602×10−19クーロンで、その絶対値を電気素量という。スピンは1/2。記号eまたはe− エレクトロン。
  • 静電単位 せいでん たんい 電磁気に関する単位系の一つ。静電気に関するクーロンの法則を利用して電気量の単位を定め、これと、長さ・時間などの諸単位とを組み合わせて電磁気諸量の単位を導いたもの。基礎理論で用いられることが多い。記号esu
  • クーロン coulomb (C.クーロンの名に因む) 電気量の単位。国際単位系の組立単位。1アンペアの電流が1秒間に運ぶ電気の量。記号C
  • 実用単位 じつよう たんい 基本単位や組立単位とは別に、実用上習慣的に使われる単位。馬力・マイルの類。
  • アンペア ampere (アンペールの名に因む) 電流の単位。国際単位系(SI)・MKSA単位系の基本単位。無視できる面積の円形断面をもつ2本の無限に長い直線状導体を真空中に1mの間隔で平行に置き、各導体に等しい強さの電流を流したとき、導体の長さ1mごとに2×10−7ニュートンの力が働く場合の電流の大きさ。記号A
  • 電位差 でんいさ 2点間の電位の差。
  • 電圧 でんあつ 2点間の電位の差。電位差とほぼ同義であるが、実際面での用語。単位はボルト(V)。
  • 電気抵抗 でんき ていこう 電流の通りにくさを表す値。両端に与えた電位差の値をその間に流れる電流の値で割ったもの。この値は温度が一定ならば、電位差の大小に無関係。単位はオーム(Ω)。
  • 比抵抗 ひていこう (電気比抵抗の略)単位断面積、単位長さの導体の電気抵抗。電気伝導率の逆数に等しい。
  • 電気抵抗率
  • タングステン tungsten (原義はスウェーデン語「重い石」) 金属元素の一種。元素記号W 原子番号74。原子量183.9。灰白色のきわめて硬い金属。融点は炭素に次いで高く、セ氏3400度位。化学的にも安定。主要な鉱石は鉄マンガン重石・灰重石など。タングステン鋼などの合金や電球・熱電子管のフィラメントなどに用いる。ウォルフラム。
  • 亜鉛 あえん (zinc) 金属元素の一種。元素記号Zn 原子番号30。原子量65.39。主要な鉱石は閃亜鉛鉱・菱亜鉛鉱。青白の光沢あるもろい金属。湿気ある空気に触れれば灰白色となる。主な用途は、鉄板に亜鉛の薄膜をかぶせたトタン板および亜鉛めっき、乾電池の電極、真鍮・洋銀などの合金。ジンク。
  • ニッケル nickel (「銅に似て銅を含まない鉱物」の意のスウェーデン語kopparnickel(銅の悪魔)から) 鉄族の金属元素の一種。元素記号Ni 原子番号28。原子量58.69。銀白色の金属。展性・延性に富み、空気・水・アルカリなどに侵されず、強磁性をもつ。主要鉱物は珪ニッケル鉱。ステンレス鋼やその他の合金の原料とする。めっきにも用いる。水素添加反応の触媒としても重要。
  • 蒼鉛 そうえん 〔化〕(→)ビスマスの別称。
  • ビスマス bismuth 金属元素の一種。元素記号Bi 原子番号83。原子量209.0。灰白色で赤みを帯び、結晶は極めてもろい。往々天然に遊離して、あるいはビスマス華・輝蒼鉛鉱として産出。鉛・錫・カドミウムと可融合金をつくり、また、薬用・顔料・陶器上絵用とする。触媒としての用途も多く、化合物半導体の成分にもなる。蒼鉛。
  • 水銀柱 すいぎんちゅう 水銀温度計・水銀気圧計などで、管中を満たす水銀。
  • 直列 ちょくれつ (1) 一直線に並ぶこと。(2) 直列接続の略。
  • →並列。
  • 直列接続 ちょくれつ せつぞく 電気回路において、電池・コンデンサー・抵抗などの回路素子を電車の連結のように1列に接続すること。直列連結。シリーズ。←→並列接続
  • 並列接続 へいれつ せつぞく 電気回路において、電池・コンデンサー・抵抗などの回路素子の正極同士および負極同士をそれぞれ接続すること。並列連結。パラレル。←→直列接続
  • 抵抗器 ていこうき 回路に電気抵抗を与えるために用いる器具・素子。
  • マンガニン Manganin ニッケル、マンガンを含む銅合金。マンガン12パーセント、ニッケル2パーセントほど。電気抵抗の温度変化が温室でほとんどないので、標準抵抗線に用いる。商標名。
  • コンスタンタン Constantan ニッケル45%、銅55%の合金。比抵抗が大きく、電気抵抗の温度係数がきわめて小さいのが特徴で、耐食性・耐酸性も強いので、標準抵抗線として電気計器・熱電対などに使用。商品名。
  • 合金 ごうきん (alloy) 1種の金属元素と1種以上の金属元素または炭素・窒素・ケイ素など非金属元素との共融体の総称。真鍮は銅と亜鉛との、鋼は鉄と炭素との合金。主要成分の数により2元合金・3元合金・4元合金などという。
  • 白金線 〓 → 白金耳
  • 白金耳 はっきんじ 実験器具の一つ。少量の微生物の採取・移植に使う。柄に付けた白金線の先を小さな輪状にしたもの。
  • 高温度計 こうおんどけい → 高温計
  • 高温計 こうおんけい 高温度の測定に用いる温度計。抵抗温度計、熱電対温度計、輻射温度計、光温度計などがある。パイロメーター。
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  •    七、電流の化学作用
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  • 化学作用 かがく さよう 化学変化を起こす作用。
  • 電池 でんち 普通は化学的な反応によって起電力を発生させる装置をいう。ダニエル電池や乾電池のような一次電池と、蓄電池のような二次電池とがある。ほかに、光や放射線などを利用する光電池・太陽電池・原子力電池・燃料電池などがある。
  • 電気分解 でんき ぶんかい 化合物を水溶液または溶融状態として、これに電極を入れて電流を通じ、両電極で化学変化を起こさせること。電解。
  • 酸 さん (2) 〔化〕(acid)水に溶解して水素イオンを生じ、塩基と反応して塩と水とを生じる物質。分子内に電離し得る水素原子をもつ。水素原子の数によって、塩酸・硝酸・酢酸は1価の酸、硫酸は2価の酸と呼ぶ。広い意味ではブレンステッドの酸、ルイスの酸という2種類の定義がある。
  • 塩基 えんき (base) 酸と反応して塩をつくる物質。水に溶解すると水酸化物イオンを生じる。アルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素の水酸化物、アンモニアなど。広い意味ではブレンステッドの塩基とルイスの塩基という2種類の定義がある。←→酸
  • 塩類 えんるい (→)塩(2) に同じ。
  • 電解質 でんかいしつ (electrolyte) 水などの溶媒に溶かしたとき、陽イオンと陰イオンとに解離し、その溶液が電気を導くようになる物質。酸・塩基・塩の類。
  • イオン ion (ファラデーが電気分解のとき電場で移動すると考えられるものを、ギリシア語の「行く」という語に因んで名づけた) 正または負の電気をもつ原子または原子団。陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)がある。気体分子(原子)は、X線や放射線などの作用により電子を失うか得るかしてイオンになる。電解質は水に溶かすと電離してイオンを生じる。
  • イオン解離説
  • 硫酸 りゅうさん (sulfuric acid) 無機酸の一つ。分子式H(2)SO(4) 無色・無臭の粘稠な強酸。金・白金を除くほとんどすべての金属を溶解し、水に混ぜると多量の熱を発する。強い吸湿性を持ち、有機物に触れると炭素を遊離させる。硫黄を燃やして二酸化硫黄を製し、鉛室法により、また五酸化バナジウム触媒で酸化して水に溶かす接触法などによって濃厚な硫酸を得る。工業上の用途は広く、塩酸・硝酸の製造、有機化合物の合成、油脂の精製、脱水・乾燥に使用。
  • 水素イオン すいそ イオン 水素原子が1電子を失った1価の陽イオン。記号はH+ 水溶液中ではヒドロキソニウム‐イオン(H(3)O+)として存在。これが酸性の原因となる。
  • 硫酸根イオン
  • 相乗積 そうじょうせき 2個以上の数を掛け合わせて得た積。
  • 化学当量 かがく とうりょう 化学反応性に基づいて定められた元素・化合物の一定量。水素原子の1モルまたは酸素原子の2分の1モルと化合または置換し得る他の元素の量をグラムで表し、元素の1当量とする。酸・塩基では、酸として作用する1当量の水素を含む酸の量およびこれを中和する塩基の量を、1当量とする。
  • 析出 せきしゅつ 溶液または溶融状態から結晶が分離して出てくること。また、電気分解のとき金属が電極に出てくること。
  • ファラデーの法則 ファラデーのほうそく ファラデーが1833年に発見した電気分解の法則。物質Aを含む溶液を電気分解するとき、Aの酸化(または還元)によって生じる物質Bの量は通過電気量に比例し、またこの電極反応において1モルの物質Bを生じさせるのに要する電気量を反応における移行電子数で除した値は、物質の種類によらず一定であるという法則。
  • 原子価 げんしか (valence) 元素の1原子が、直接水素原子何個と化合し得るかを表す数。水素と結合しない元素の原子価は間接的に決定する。
  • 一価イオン
  • 一価 いっか 電価やイオン価が一であること。正と負がある。
  • 分極 ぶんきょく (polarization) (1) 電場の中におかれた誘電体内の正負の電荷が分離し、表面に電荷が現れること。またはこのとき生じた単位体積当りの双極子モーメント。(2) 電気分解を行う際または電池を使用する際、電極および電解質に電流が通じる結果として、原電流と反対の向きの起電力が生じる現象。
  • 重クロム酸カリ じゅうクロムさんカリ → 二クロム酸カリウム
  • 二クロム酸カリウム にクロムさんカリウム 化学式K(2)Cr(2)O(7) 二クロム酸のカリウム塩。橙赤色で板状の結晶。有毒。強力な酸化剤。化学分析・電池・染料・皮なめしなど用途が広い。重クロム酸カリウム。(広辞苑)/重クロム酸カリウム。重クロム酸のカリウム塩。化学式K2Cr2O7。橙赤色、三斜晶系板状結晶。クロム酸塩・重クロム酸塩の製造、分析試薬、媒染剤、クロムメッキ、写真印刷、安全マッチの製造などに広く用いられる。二クロム酸カリウム。
  • 消極剤 しょうきょくざい 〔化〕(→)減極剤に同じ。
  • 減極剤 げんきょくざい 〔化〕(depolarizer) 電池を放電するとき、正極に発生する水素のため起こる分極を抑制する酸化剤。二酸化マンガン・二クロム酸カリウム・硝酸などの類。消極剤。復極剤。
  • 分極電流
  • 分極 ぶんきょく (4) 電気分解または電池で、電流が流れるときに、極間電圧が変化する現象。
  • 蓄電池 ちくでんち 外部電源から得た電気的エネルギーを化学的エネルギーの形に変化して蓄え、必要に応じて、再び起電力として取り出す装置。普通に用いるのは、鉛蓄電池およびアルカリ蓄電池の2種。二次電池。バッテリー。
  • フランネル flannel 紡毛糸で粗く織ったやわらかい起毛織物。ネル。
  • 充電 じゅうでん (1) (charge) コンデンサー(1) または蓄電池などに電荷を蓄えること。蓄電。
  • 放電 ほうでん (discharge) (1) 蓄電池・コンデンサーに貯えられた電気を放出すること。←→充電。(2) 気体などで高い電圧の下で絶縁が破れ、両極間に電流が流れること。火花放電・真空放電など。
  • 過酸化 かさんか ふつうの安定した酸化物より酸素を多く結合している化合物を表わす語。
  • 硫酸鉛 りゅうさん なまり 鉛の硫酸塩。化学式でPbSO4 とPb(SO4)2 がある。前者は天然に硫酸鉛鉱として産する結晶、あるいは白色粉末で水にほとんど溶けない。後者は黄色粉末状の結晶。
  • 電槽 でんそう (1) 電解槽の略。(2) 蓄電池のケース。
  • 電解槽 でんかいそう 電気分解を行う装置。または、その一部としての容器。
  • 起電力 きでんりょく 回路の抵抗に抗して電流を生じさせる原因となる力。動電力。単位はボルト(V)。
  • エディソン式蓄電池 → エジソン電池
  • エジソン電池 エジソン でんち 1901年エジソンの発明した蓄電池。水酸化ニッケル(II)を陽極、鉄粉より成る極板を陰極とし、少量の水酸化リチウムを含む水酸化カリウム溶液を電解液とする。
  • 苛性カリ → 水酸化カリウム
  • 水酸化カリウム すいさんか カリウム 化学式KOH 炭酸カリウムの希薄な熱溶液に水酸化カルシウムを加え、あるいは塩化カリウムの電解によって製造する潮解性の無色の結晶。水に溶けやすく多量の熱を発生する。濃厚溶液は動植物体をはげしく腐食。カリ‐ガラス・軟石鹸の製造、二酸化炭素の吸収剤などに使用。苛性カリ。
  • 電気鍍金 でんき めっき 金属に対する表面被覆法の一種。電気分解によって金属の表面に他金属を析出接着させ、金属表面の防錆・耐摩耗・装飾を行うもの。
  • 電鋳 でんちゅう 電気鋳造の略。
  • 電気鋳造 でんき ちゅうぞう 電気鍍金で原型を複製する鋳造法。複雑な形状がえられるので、レコードの原盤などの複製に実用。電鋳。電型。
  • 石墨 せきぼく 炭素だけから成る鉱物。ダイヤモンドの同質異像。六方晶系に属する板状結晶。金属光沢があり、電気の良導体。鉄黒色または鋼鉄灰色。鉛筆の芯・るつぼ・電気材料などに使用。黒鉛。グラファイト。
  • 電気冶金 でんき やきん 電流の化学作用を利用して金属塩類の溶液または溶融体から金属を分離し、または電流を熱源として金属・合金または化合物を作る方法。前者を電解精錬、後者を電熱精錬という。電気精錬。
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  •    八、電流による熱と光、熱電流
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  • 赤熱 せきねつ 物体が赤くなるまで熱すること。
  • 融着
  • 熱量計 ねつりょうけい 熱量を測定する装置。物体の比熱や反応熱などの測定にも用いる。水熱量計・金属熱量計・氷熱量計の類。カロリメーター。
  • 熱量 ねつりょう 熱を量として表したもの。単位は普通カロリー(cal)を用いるが、国際単位系ではジュール(J)。
  • 電気炉 でんきろ 電流によるジュール熱、アーク放電の発生する熱、または高周波による誘導電流などの発生する熱を利用する炉。温度調節が容易、溶解損失が少ないなどの特徴がある。製鉄・製鋼・研磨材製造などに利用。(広辞苑)/electric furnace 電気を熱源とした炉で、現在金属工業や化学工業の方面に広く利用されている。電源には単相または三相の交流が用いられている。電気炉は燃料炉に比べ、非常な高温に到達させることができる点や操業が容易である点がすぐれている。電気炉は原理的には電気エネルギーを熱に変換して被熱体にそれを伝えるものであり、熱を伝える方式により、抵抗炉、アーク炉、誘導炉の三つに大別できる。/【電気製鋼炉】屑鉄を原料にして鋼をつくる製鋼炉として最も広く利用されているのはエルー式アーク炉と高周波誘導炉である。エルー式アーク炉は直接アーク炉の一種で、単にエルー炉ともいう。1900年フランスの P. L. T. エルーによって発明された炉で、06年4t炉をアメリカでつくり、鋼の溶解を始めた。これがアーク炉を工業的に使用した最初。円形または角形の炉殻を酸性または塩基性の煉瓦で内張りした構造になっている。2本または3本の電極を天井から垂直に挿入し、屑鉄を通してアークを発生させ、そのアーク熱と抵抗熱によって屑鉄を溶解させる。電極の昇降操作が容易であり、鋼浴の温度調節が自由で、熱効率がよく、耐火物の寿命が比較的長い。1回の製鋼量は5〜150tの炉が多い。(世界大百科)
  • ヘルー型電気炉
  • ジュールの法則 ジュールの ほうそく 導線内に流れる定常電流によって一定時間内に発生するジュール熱の量は、電流の強さの2乗および導線の抵抗に比例するという法則。
  • エネルギー Energie (2) 物理学的な仕事をなし得る諸量(運動エネルギー・位置エネルギーなど)の総称。物体が力学的仕事をなし得る能力の意味であったが、その後、熱・光・電磁気やさらに質量までもエネルギーの一形態であることが明らかにされた。
  • 熱の仕事当量 ねつの しごととうりょう 1カロリーの熱量に相当する仕事量。4.18605ジュール毎カロリーで、ふつうJで表す。
  • エネルギー保存の原理 → エネルギー保存則
  • エネルギー保存則 エネルギー ほぞんそく 「外部からの影響を受けない物理系(孤立系)においては、その内部でどのような物理的あるいは化学的変化が起こっても、全体としてのエネルギーは不変である」という法則。無からエネルギーを創造し得ないことを示す、物理学の根本原理の一つ。1840年代ヘルムホルツ・マイヤー・ジュールらによって確立。エネルギー恒存の原理。
  • 抵抗器 ていこうき 回路に電気抵抗を与えるために用いる器具・素子。
  • 電熱 でんねつ 電気エネルギーによって得る熱。ふつう電気抵抗のあるところを電流が流れる際に発生する熱。ジュール熱。
  • 電化 でんか 熱・光・動力などを、電力を用いてまかなうようにしていくこと。
  • 電気ストーブ でんき ストーブ 電熱を応用した室内暖房器。
  • 火熨斗 ひのし 底のなめらかな金属製の器具で、中に炭火を入れ、その熱気を利用し、底を布に押し当ててしわをのばすもの。
  • 七厘・七輪 しちりん (物を煮るのに価7厘の炭で足りる意からという) 焜炉(こんろ)の一種。多くは珪藻土製。
  • 薪油
  • 抵抗炉 ていこうろ 電気炉の一つ。抵抗体に電流を流し、それによって生じる発熱を利用したもの。直接抵抗炉と間接抵抗炉がある。
  • ニクロム nichrome ニッケルとクロムの合金。ニッケル80%、クロム20%、およびニッケル60%、クロム16%、鉄24%が基本組成。電気抵抗が大きく、酸化しにくいので、電熱線として用いる。元来は商品名。
  • クロミウム chromium クロムの英語名。
  • クロム Chrom (ギリシア語のkhroma(色)から) 鉄族の金属元素の一種。元素記号Cr 原子番号24。原子量52.00。主要な鉱石はクロム鉄鉱。錫に似た銀白色の硬い金属。大気中で錆を生じず、塩酸および硫酸に溶解する。強磁性。6価のクロムの化合物は有毒。ニクロム・クロム鋼・ニッケル‐クロム鋼などをはじめ、多くの有用合金を作るのに用い、錆止めのためのクロム鍍金も広く行われる。クローム。
  • 灯光 とうこう ともしびの光。
  • 白熱電灯 はくねつ でんとう → 白熱電球
  • 白熱電球 はくねつ でんきゅう 電球の一種。真空の、または適当な気体を封入したガラス球内に融解点の高い金属フィラメント(タングステン線など)を入れ、その白熱を利用するもの。白熱灯。(広辞苑)/イギリスの化学工業家 J. W. スワン(Swan, 1828-1914)が、1845年に白金・イリジウム合金の白熱線を見たことが契機となって、とくに白熱電球の開発に努力した。60年までには炭化紙片のフィラメントを使用した電球を製作したが短寿命で失敗。17年後に、シュプレンゲル(H. J. P. Sprengel)の水銀式真空ポンプを用いて研究を再開し、79年2月にニューカスル化学協会で自作した白熱電球を提示した。炭素フィラメントの製造法の開発に貢献し、電球普及の基礎をつくった。(世界大百科)/白熱電球はそれに加えた電力の6〜7%しか光にならず、20%以上が光になる蛍光灯に比べ効率が悪い。しかし付属品を要しないこと、点滅に時間がかからないことなど長所も多い。(世界大百科)
  • 電灯球
  • オスミウム電球
  • オスミウム osmium (酸化物の臭気のため、ギリシア語のosme(におい)から) 白金族元素の一種。元素記号Os 原子番号76。原子量190.2。金属中最大の比重(22.6)と白金族元素中最高の融点とをもち、青灰色の金属光沢がある。
  • タンタル電球 タンタル でんきゅう タンタルは、タングステンが用いられるまでは電球のフィラメントに使用された。
  • タンタル Tantal (ギリシア神話のタンタロスから) 金属元素の一種。元素記号Ta 原子番号73。原子量180.9。鋼のような光沢があり、延性・展性に富む。機械的性質が優れ、耐薬品性が大きく、医療器械や電子工業用加工品に使用。タンタラム。
  • タングステン電球 タングステン でんきゅう タングステンをフィラメントに用いた白熱電球。
  • 電弧 でんこ 気体中を大電流が流れる時に見られる電気火花。アーク。
  • アーク溶接 アーク ようせつ 電気溶接の一種。両電極間または電極と工作物との間にアーク放電を行わせ、その熱で金属を溶接する。
  • ネオン管 ネオンかん 真空放電管中に低圧ネオンガスを封入したもの。ネオン放電管。
  • 標識灯 ひょうしきとう 目印のための灯火。航空機や船舶が、夜間、飛行・航行中または繋留中、その位置を標示する灯火。
  • ガス入電球 ガスいり でんきゅう 高温でフィラメントが気化するのを防ぐため、タングステン電球の中に窒素・アルゴンなどのガスを封じ込んだもの。
  • 電灯 でんとう 電力を利用した灯火。特に白熱電球によるものを指す。電気灯。
  • 弧灯 ことう アーク灯のこと。
  • アーク灯 アークとう アーク放電を利用した電灯。1876年パリで街路照明に用い、のち映写機などの強い光源に使用された。投光器、スペクトルの分光分析などにも用いる。アークライト。弧光灯。
  • 燭光 しょっこう (1) ともしびの光。(2) (→)燭 (2) に同じ。
  • 燭 しょく (1) 照明用にともす火。ともしび。あかり。(2) 光度の旧単位。1961年廃止。現在はカンデラを使用。1燭は約1カンデラ。燭光。
  • 探照灯 たんしょうとう サーチライトのこと。
  • 実物幻灯
  • 幻灯 げんとう (magic lanternの訳語) ガラス板に描いた絵や陽画フィルムあるいは絵画・写真・実物などに強い光をあて、その透過光または反射光を凸レンズによって拡大映写すること、また、その装置。うつし絵。
  • マグネシア magnesia (→)酸化マグネシウムの通称。
  • 酸化マグネシウム さんか マグネシウム 化学式MgO マグネシウムを空気中で燃焼するか、あるいは炭酸塩・水酸化物を熱して得る白色苦味の粉末。耐火煉瓦・耐火セメントなどの製造に用い、また薬用とする。苦土。マグネシア。
  • シーメンス型電気炉
  • 融解 ゆうかい (1) 溶けること。溶かすこと。(2) 固体が熱せられて液体となる変化。熔融。熔解。
  • ヒューズ fuse 電気回路に挿入し、過大な電流が流れると溶けて、回路を遮断する可溶合金片。フューズ。
  • 熱電流 ねつでんりゅう 2種の金属を両端で接続して回路を作り、二つの接点を異なる温度におくとき、この回路に生じる電流。この電流を流す起電力を熱起電力といい、その大きさは金属の種類と接点温度とによって定まる。
  • 熱電池 ねつでんち 熱電池には、ゼーベック効果を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電対形電池と、真空中の熱陰極から熱電子が放出される現象を利用した熱電子形電池がある。(世界大百科「電池」)
  • 熱電対 ねつでんつい 熱起電力を得るために2種の金属を組み合わせた回路。この起電力を温度の測定に利用する。銅とコンスタンタン、白金と白金ロジウム合金などが用いられる。
  • 水銀寒暖計 すいぎん かんだんけい 水銀温度計に同じ。
  • 水銀温度計 すいぎん おんどけい 細管と溜りから成る棒状のガラス管内に適量の水銀を封入し、水銀の熱膨張を利用して温度を測定する温度計。
  • 熱電堆 ねつでんたい 熱電対を多数直列に接続したもの。熱電流を利用したり、エネルギーを測定したりするためのもの。熱電対列。サーモパイル。
  • 輻射熱 ふくしゃねつ (→)放射熱に同じ。
  • 放射熱 ほうしゃねつ 物体に吸収されて、その物体の温度を上げるのに使われる放射エネルギー。赤外線で著しい。輻射熱。
  • アンチモン Antimon 金属元素の一種。元素記号Sb 原子番号51。原子量121.8。銀白色の光沢があり、もろい。主要な鉱石は輝安鉱。活字合金・軸受合金・化合物半導体などの成分として用いる。アンチモニー。
  • 油煙 ゆえん (1) 油・樹脂などを不完全燃焼させる時に生じる黒色微細の炭素粉。墨の製造に用いる。(2) 油煙墨の略。
  • スペクトル spectre (1) 光を分光器にかけて得られる、波長とその波長における強さを示したもの。その形によって、連続スペクトル・線スペクトル・帯スペクトルに分ける。(2) 複雑な組成のものを成分に分解し、その成分を特定な量の大小に従って順次配列したもの。
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  •    九、電流の磁気作用(一)
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  • 磁気 じき (magnetism) 磁石の相互作用および磁石と電流の相互作用などの根元となるもの。また、磁極を指すこともある。
  • 万有引力 ばんゆう いんりょく (universal gravitation) 質量を有するすべての物体間に作用する引力。二つの物体の間に働く万有引力は、両物体の質量の積に比例し、距離の平方に逆比例する。ニュートンが導入し、これによって天体の運行を説明した。
  • 分子電流 ぶんし でんりゅう フランスの物理学者アンペールが考えた磁気モーメントの原因としての分子内閉電流。原子の軌道電子による電流がそれにあたる。
  • コイル coil (1) 円状または螺旋状にぐるぐる巻いたもの。(2) 螺旋状に巻いた電気の導線。インダクタンスをもつ回路素子や磁場の発生に用いる。
  • 電磁石 でんじしゃく 軟鉄心の周囲に絶縁銅線をまきつけたもの。電流を流している間だけ軟鉄が磁化し、磁石となる。発電機・電動機などに用いられる。
  • アンペアメーター → 電流計
  • 電流計 でんりゅうけい 電流の強さを測る計器。電流の磁気作用または電流の熱作用などを利用する。アンメーター。
  • 鏡電流計
  • ガルバノメーター galvanometer (→)検流計のこと。
  • 検流計 けんりゅうけい 微少な電流を測定する計器。ガルバノメーター。
  • 度盛り どもり (1) 寒暖計などの計量器につけられた度数を示すしるし。度数の目盛り。(2) 物事の度合いをはかる尺度となるもの。
  • ボルト‐メーター voltmeter (→)電圧計。
  • 電圧計 でんあつけい 電圧を測定する計器。電気回路に並列に接続。ボルトメーター。
  • 電鈴 でんれい 電磁石を利用して鈴をならす装置。
  • 電信器 → 電信機
  • 電信機 でんしんき 電信用の端末機器。
  • 電信 でんしん 文字・数字を符号(例えばモールス符号・印刷電信符号)化して電気信号に変えて伝送し、これをもとの文字・数字に復元して行う通信。
  • 軟鉄 なんてつ 炭素含有量の少ない鉄。炭素0.02%以下で、電解法・高温溶解法で製造。軟らかく、展延性が大で、電磁気材料に用いる。
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  •    一〇、電流の磁気作用(二)
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  • 偏倚 へんい (「倚」もかたよる意) (1) かたよること。(2) (→)偏差に同じ。
  • 偏差 へんさ 一定の標準となる数値・位置・方向などから、かたよりずれること。その度合。また、平均値からのかたより。偏倚。
  • 海底電線 → 海底ケーブル
  • 海底ケーブル かいてい ケーブル 海底に敷設されたケーブル。通信用・電力用など。海底線。海底電線。
  • モールス受信器 → モールス機
  • モールス機 -き 電磁石を利用してモールス符号を紙上に印出させる装置。
  • 継電器 けいでんき ある回路の電流の断続に伴って別の回路の接点を開閉する装置。リレー。
  • 局部電池 きょくぶ でんち 金属内の局部間に電位差があることによって構成される電池。不純物の存在、温度差、ヒズミのあるなし、溶液の濃度差、減極剤の濃度差などが原因。金属の腐食や電池の電位差と密接な関係がある。
  • 文字印刷式受信器
  • 電気タイプライター -typewriter 電動化は1872年のエディソンによるタイプバー式に始まるが、アメリカのスマーサーズ(James Smathers)により作られたものから実用に供された。現在はよりスピードの早い、エレメント方式(活字を球面に配置)やタイプホイール式が再び採用され、電子化されて、文章の記憶のできるもの、編集機能を備えたもの(ワードプロセサー)へと発展している。(科学史、p.608左「タイプライタ」)
  • タイプ‐ライター typewriter 指頭で鍵盤をたたいて、文字を紙面に印字する器械。欧文タイプライターは1874年にアメリカ人レミントン(P. Remington1816〜1889)が実用化。印字機。タイプ。→邦文タイプライター。
  • 電鍵 でんけん 電信機で、電路を開閉して信号を送る装置。キー。
  • 電話器 → 電話機
  • 電話機 でんわき 音声を電波または電流に変えて送り、これを音声に再生することによって通話する装置。
  • 水力発電 すいりょく はつでん 発電の一方式。水力によって発電機を運転し、電力を発生する方式。ダム式・水路式・揚水式などがある。
  • 火力発電 かりょく はつでん 発電の一方式。石炭・重油などを燃料とする蒸気機関(一般には蒸気タービン)によって発電機を運転し、電力を発生する方式。
  • 鉄道省 てつどうしょう もと内閣各省の一つ。鉄道行政に関する事務を管掌した中央官庁。国有鉄道の経営にも当たった。鉄道院を昇格して1920年(大正9)設置。43年運輸通信省に統合。
  • 配電盤 はいでんばん 電力の分配をつかさどる装置。開閉器類・計器類・継電器類・保安装置の配電器具を取り付け、電流を開閉・制御する盤状の装置。スイッチ‐ボード。
  • 送電線 そうでんせん 発電所で発電した電力を変電所または配電所に送るための電線。
  • 音波 おんぱ 気体・液体・固体などの音の媒質が、発音体の振動を受けて生ずる弾性波動。ふつう、可聴周波数のものを指す。音波は縦波であるが、固体中の音波には横波も含まれる。
  • 送話器 そうわき 音波を電流の変化にかえるのに用いる装置。普通には電話機に使用するものをいう。←→受話器
  • マイクロ‐フォン microphone 音波を電気信号に変換する装置。マイク。
  • 受話器 じゅわき (1) 振動電流を音声に変える装置で、直接耳に当てて聞く型のもの。レシーバー。(2) 送受話器のこと。
  • 絶縁 ぜつえん (2) 〔理〕導体間に絶縁体を挿入して、電気または熱の伝導を断つこと。
  • 電線 でんせん 電流を通ずる導体として用いる銅・アルミニウムその他の金属線。多くは絶縁物で被覆。
  • ガッタ・ペルチャ → ガッタパーチャ(グッタペルカ)か
  • グッタペルカ gutta-percha アカテツ科の熱帯常緑高木、グッタ・ペルカノキの乳液から採る硬ゴム状の物質。枝葉または幹を傷つけて採った乳液を乾燥したもの。加熱すると軟化、電気の不良導体、海底電線、耐酸容器、歯科用充填剤などに用いる。(コンカタカナ)
  • 被蔽 ひへい?
  • ケーブル cable (1) 針金または大麻を撚り合わせた強くて太い索。(2) 電線・光ファイバーなどに外被をかぶせたもの。同軸ケーブル・キャブタイヤ‐ケーブルなど。
  • 地下電線 → 地下ケーブル
  • 地下ケーブル ちか ケーブル 地下に直接埋設したり地下管路中に敷設したりするケーブル。
  • 電気時計 でんき どけい 電気で動かす時計。交流の一定な周波数を利用したもの、水晶発振器の発振周波数を基準とするもの、ばねまたは錘を電気的に巻き上げるもの、また、標準電波からのパルスを利用するものなどがある。
  • 親時計 おやどけい 電気時計の基本となる時計。子時計に対して30秒ごとまたは1分ごとにパルスを送り、その指針を進める。
  • 子時計 こどけい 親時計から送って来る信号電流で動く電気時計。
  • テレグラフォン
  • オートグラフ
  • 写真電送 しゃしん でんそう 写真および書画を電気的信号に換え有線または無線で遠隔地に送ること。ファクシミリの一種。特に、受信側で再生画を写真的手法によってフィルムまたは印画紙に記録するものをいう。
  • 感光紙 かんこうし 図面などの複製に用いる感光性のある紙。ジアゾ感光紙。陽画感光紙。
  • セレニウム selenium (→)セレンに同じ。
  • セレン Selen (ギリシア語で「月」の意のseleneから) 非金属元素の一種。元素記号Se 原子番号34。原子量78.96。天然に硫黄鉱または黄鉄鉱などの硫化物中に少量含まれる。金属セレン・赤色セレンなど同素体が多く、空気中では青白色の炎を発して燃焼し、悪臭を発する。ガラスの着色、光電池・整流器などに用いる。セレニウム。
  • テレオートグラフ


◇参照:『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本国語大辞典 第二版』(小学館、2001.5)『世界大百科事典』(平凡社、2007)、。



*後記(工作員スリーパーズ日記)


書きかえメモ。
デュフヱ[#「ヱ」は小書き]イ → デュ・フェイ
ニクローム → ニクロム
グローツス → グロートゥス
クーロム → クーロン

 生体電気、生物電気について。
 人間でも、それ以外の動物の体内でも微弱な電気活動がつねにはたらいている。細胞が興奮した時に生じる電位の変化を「活動電位」といい、興奮していないときに示す細胞膜内外の電位差を「静止電位」という(広辞苑)。
 生物学をかじったときの記憶が正しければ、血液や体液は、ナトリウムイオン(+)と塩素イオン(−)を主成分とした電解質が、細胞膜や皮膚といった穴だらけのゴム風船に入っているようなもので、細胞の活動レベルでは、つねに微弱な電気が行き交っている。ゴム風船の内と外の異なる電解成分が電位差をたもっている。
 皮膚にできたちょっとした切りキズにさえ違和感を感じるのは、皮膚(絶縁体)の内側(体液=電解質)と外側(外気)に微弱な電位差が存在・発生しているから、と教わったように記憶している。

 ここまではいいとして、ちょっと記憶があいまいで確認したいのは植物について。Wikipedia の「活動電位」の項目を読むと、植物にも活動電位が存在するとあるのだけれど、動物の体液(=電解質)に該当するものが植物にもあるのかどうか。動物の体液のように濃度の高い電解質はないはずだから、発生する電気量は格段にちがいそう。
 性差は動物にも植物にもあるから、生物の歴史にとってよほど古い時代にそなわった能力だろうということが想像できるけれども、動物が「体液」という電解質(おそらく生命誕生当時の太古のスープ)を温存したのに対し、植物はそれを不要とした、もしくは排除した。情報伝達の手段が異なるということか。




*次週予告


第五巻 第四〇号 
電気物語(三)石原 純


第五巻 第四〇号は、
二〇一三年四月二七日(土)発行予定です。
月末最終号:無料


T-Time マガジン 週刊ミルクティー 第五巻 第三九号
電気物語(二)石原 純
発行:二〇一三年四月二〇日(土)
編集:しだひろし / PoorBook G3'99
 http://www33.atwiki.jp/asterisk99/
出版:*99 出版
 〒994-0024 山形県天童市鎌田2丁目
 アパートメント山口A−202
販売:DL-MARKET
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