武田祐吉 たけだ ゆうきち
1886-1958(明治19.5.5-昭和33.3.29)
国文学者。東京都出身。小田原中学の教員を辞し、佐佐木信綱のもとで「校本万葉集」の編纂に参加。1926(昭和元)、国学院大学教授。「万葉集」を中心に上代文学の研究を進め、「万葉集全註釈」(1948-51)に結実させた。著書「上代国文学の研究」「古事記研究―帝紀攷」「武田祐吉著作集」全8巻。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)
◇表紙イラスト:「縄文の女神(山形県舟形町西ノ前遺跡土偶)


もくじ 
校註『古事記』(二)武田祐吉


ミルクティー*現代表記版
校註『古事記』(二)
  古事記 上つ巻
   三、須佐の男の命
    穀物の種
    八俣の大蛇
    系譜
   四、大国主の神
    兎とワニ
    貝比売と蛤貝比売
    根の堅州国
    八千矛の神の歌物語
    系譜
    少名毘古那の神
    御諸(みもろ)の山の神
    大年(おおとし)の神の系譜

オリジナル版
校註『古事記』(二)

地名年表人物一覧書籍
難字、求めよ
後記次週予告

※ 製作環境
 ・Macintosh iBook、Mac OS 9.2.2、T-Time 2.3.1
 ・ ポメラ DM100、ソーラーパネル GOAL ZERO NOMAD 7(ガイド10プラス)
※ 週刊ミルクティー*は、JIS X 0213 文字を使用しています。
※ この作品は青空文庫にて校正中です。著作権保護期間を経過したパブリック・ドメイン作品につき、引用・印刷および転載・翻訳・翻案・朗読などの二次利用は自由です。
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*凡例
  • ( ):小書き。〈 〉:割り注。
  • 〔 〕:編者もしくは、しだによる注。
  • 一、漢字、かなづかい、漢字の送りは現代表記に改めました。
  •    例、云う → いう / 言う
  •      処  → ところ / 所
  •      有つ → 持つ
  •      這入る → 入る
  •      円く → 丸く
  •      室  → 部屋
  • 一、同音異義の一部のひらがなを、便宜、漢字に改めました。
  •    例、いって → 行って / 言って
  •      きいた → 聞いた / 効いた
  • 一、若干の句読点を改めました。適宜、ルビや中黒や感嘆・疑問符をおぎないました。一部、改行と行頭の字下げを改めました。
  • 一、漢数字の表記を一部、改めました。
  •    例、七百二戸 → 七〇二戸
  •    例、二萬六千十一 → 二万六〇一一
  • 一、ひらがなに傍点は、一部カタカナに改めました。
  • 一、カタカナ漢字混用文は、ひらがな漢字混用文に改めました。
  • 一、和暦にはカッコ書きで西暦をおぎないました。年次のみのばあいは単純な置き換えにとどめ、月日のわかるばあいには陰暦・陽暦の補正をおこないました。
  • 一、「今から○○年前」のような経過年数の表記は改めず、底本のままにしました。和歌・俳句・短歌は五七五(七七)の音節ごとに半角スペースで句切りました。
  • 一、表や図版キャプションなどの組版は、便宜、改めました。
  • 一、書名・雑誌名は『 』、論文名・記事名および会話文は「 」で示しました。
  • 一、差別的表現・好ましくない表現はそのままとしました。

*尺貫法
  • 寸 すん 長さの単位。尺の10分の1。1寸は約3.03cm。
  • 尺 しゃく 長さの単位。1mの33分の10と定義された。寸の10倍、丈の10分の1。
  • 丈 じょう 長さの単位。(1) 尺の10倍。約3m。(2) 周尺で、約1.7m。成人男子の身長。
  • 歩 ぶ (1) 左右の足を一度ずつ前に出した長さ。6尺。(2) 土地面積の単位。1歩は普通、曲尺6尺平方で、1坪に同じ。
  • 町 ちょう (1) 土地の面積の単位。1町は10段。令制では3600歩、太閤検地以後は3000歩とされ、約99.17アール。(2) (「丁」とも書く) 距離の単位。1町は60間。約109m強。
  • 里 り 地上の距離を計る単位。36町(3.9273km)に相当する。昔は300歩、すなわち今の6町の定めであった。
  • 合 ごう 容積の単位。升の10分の1。1合は180.39立方cm。
  • 升 しょう 容量の単位。古来用いられてきたが、現代の1升は1.80391リットル。斗の10分の1で、合の10倍。
  • 斗 と 容量の単位。1斗は1升の10倍で、18.039リットルに当たる。

*底本

底本:「古事記」角川文庫、角川書店
   1956(昭和31)年5月20日初版発行
   1965(昭和40)年9月20日20版発行
底本の親本:「眞福寺本」
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1349.html

NDC 分類:164(宗教 / 神話.神話学)
http://yozora.kazumi386.org/1/6/ndc164.html
NDC 分類:210(日本史)
http://yozora.kazumi386.org/2/1/ndc210.html





 校註『古事記』 凡例

  • 一 本書は、『古事記』本文の書き下し文に脚注を加えたもの、および索引からなる。
  • 一 『古事記』の本文は、真福寺本を底本とし、他本をもって校訂を加えたものを使用した。その校訂の過程は、特別の場合以外は、すべて省略した。
  • 一 『古事記』は、三巻にわけてあるだけで、内容については別に標題はない。底本とした真福寺本には、上方に見出しが書かれているが、今それによらずに、新たに章をわけて、それぞれ番号や標題をつけ、これにはカッコをつけて新たに加えたものであることをあきらかにした。また歌謡には、末尾にカッコをして歌謡番号を記し、索引に便にすることとした。



校註『古事記』(二)

稗田の阿礼、太の安万侶
武田祐吉(注釈・校訂)

 古事記 かみつ巻

  〔三、須佐すさみこと

   〔穀物の種(一)


 また、食物おしもの大気都比売おおの神にいたまいき。ここに大気都比売、鼻口また尻より、種々の味物ためつもの(二)を取り出でて、種々作りそなえてたてまつるときに、速須佐はやみこと、そのしわざを立ちうかがいて、穢汚きたなくしてたてまつるとおもおして、その大宜津比売おおの神を殺したまいき。かれ殺さえましし神の身にれるものは、頭になり、二つの目に稲種いなだねなり、二つの耳にあわなり、鼻に小豆あずきなり、ほとに麦なり、尻に大豆まめなりき。かれここに神産巣日かむ御祖みおやみこと、こを取らしめて、種となしたまいき。

  •  (一)この一節は挿入神話である。文章が前の章からよく接続しないことに注意。オオゲツヒメは穀物の女神。既出。
  •  (二)うまい物。

   八俣やまた大蛇おろち


 かれ避追やらはえて、出雲の国の肥の河上、名は鳥髪とりかみというところ(一)あもりましき。このときに、はしその河ゆ流れ下りき。ここに須佐の男の命、その河上に人ありとおもおして、ぎ上がりでまししかば、老夫おきな老女おみなと二人ありて、童女おとめを中に置きて泣く。ここに「いましたちはたれそ」と問いたまいき。かれその老夫おきな、答えてもうさく「は国つ神大山津見おおやまつみの神の子なり。僕が名は足名椎あしなづちといいが名は手名椎てなづちといい、むすめが名は櫛名田比売くし(二)という」ともうしき。また「いましく故は何ぞ」と問いたまいしかば、答えもうさく「わがむすめはもとより八稚女おとめありき。ここに高志こし八俣やまた大蛇おろち(三)、年ごとに来てう。今、そのべき時なれば泣く」ともうしき。ここに「その形はいかに」と問いたまいしかば、「そが目は赤かがち(四)のごとくにして、身一つに八つのかしら、八つの尾あり。またその身にこけまた檜榲ひすぎ生い、そのたけたに八谷をわたり(五)て、その腹を見れば、ことごとに常に血垂ちた(六)ただれたり」ともうしき。〈ここに赤かがちといえるは、今の酸漿ほおずきなり。ここに速須佐はやすさみこと、その老夫おきなりたまわく、「これいましむすめならば、にたてまつらんや」とりたまいしかば、おそれけれど御名みなを知らず」と答えもうしき。ここに答えてりたまわく、天照あまてらす大御神おおみかみいろせなり。かれ今、天よりあもりましつ」とのりたまいき。ここに足名椎あしなづち手名椎てなづちの神、しかまさばかしこし、たてまつらん」ともうしき。
 ここに速須佐の男の命、その童女おとめ湯津爪櫛つまぐしにとらして、御髻みみずらに刺さして(七)、その足名椎・手名椎の神にりたまわく、いましたち、八塩折やしおおりの酒を(八)、また垣を作りもとおし、その垣に八つの門を作り、門ごとに八つの仮さずき(九)、その仮さずきごとに酒船(一〇)を置きて、船ごとにその八塩折の酒を盛りて待たさね〔してほしい〕」とのりたまいき。かれりたまえるまにまにして、かくけ備えて待つときに、その八俣やまた大蛇おろち、まことに言いしがごとつ。すなわち船ごとにおのが頭を乗り入れてその酒を飲みき。ここに飲み酔いてとどまりし寝たり。ここに速須佐の男の命、その御佩はかし十拳とつかつるぎをぬきて、その蛇を切りほふりたまいしかば、かわ血になりて流れき。かれその中の尾を切りたまうときに、御刀みはかしの刃けき。ここにあやしと思おして、御刀のさきもちて刺しきて見そなわししかば、都牟羽の大刀(一一)あり。かれこの大刀を取らして、しき物ぞと思おして、天照あまてらす大御神にもうしあげたまいき。こは草薙くさなぎの大刀(一二)なり。
 かれここをもちてその速須佐の男の命、宮造るべきところを出雲の国にぎたまいき。ここに須賀すが(一三)の地にいたりましてりたまわく、、ここに来て、が御心清浄すがすがし」とりたまいて、そこに宮作りてましましき。かれ、そこをば今に須賀という。この大神、はじめ須賀の宮作らししときに、そこより雲立ちのぼりき。ここに御歌よみしたまいき。その歌、

や雲立つ 出雲八重垣。
妻隠つまごみに 八重垣作る。
その八重垣を(一四)〔歌謡番号一〕

 ここにその足名椎あしなづちの神をしてりたまわく、いましをばわが宮のおびとけん」とりたまい、また名を稲田いなだ宮主みやぬし須賀すが八耳やつみみの神とおおせたまいき。

  •  (一)島根県仁多郡にたぐん、斐伊川の上流、船通山せんつうざん
  •  (二)『日本書紀』に奇稲田姫とある。
  •  (三)強暴な者の比喩ひゆ。また出水とし、それを処理して水田を得た意の神話ともする。コシは、島根県内の地名説もあるが、北越地方の義とすべきである。
  •  (四)タンバホオズキ。
  •  (五)身長が、谷八つ、高み八つをこえる。
  •  (六)血がしたたって。
  •  (七)女が魂をこめたくしを男のミズラにさす。これは婚姻の風習で、その神秘な表現。
  •  (八)濃い酒を作って。
  •  (九)「サズキ」は物をのせる台。古代はつなで材木を結んで作るから、結うという。
  • (一〇)酒の入れ物。フネは箱状のもの。
  • (一一)「ツムハ」は語義不明。都牟刈つむがり」とする伝えもある。
  • (一二)のちにヤマトタケルのみことが野の草をいで火難をまぬがれたから、クサナギのつるぎという。もと叢雲むらくもの剣という。三種の神器の一つ。
  • (一三)島根県大原郡おおはらぐん
  • (一四)「や雲立つ」は枕詞まくらことば。多くの雲の立つ意。八重垣は、幾重いくえもの壁や垣の意で宮殿をいう。最後のヲは、間投の助詞。

   〔系譜〕


 その櫛名田比売くし隠処くみどにおこして(一)、生みませる神の名は、八島士奴美しまの神。また大山津見の神のむすめ名は神大市かむおおち比売にいて生みませる子、大年おおとしの神、つぎに宇迦うか御魂みたま〈二柱〉みあに八島士奴美の神、大山津見の神の女、名は花知流はなちる比売にいて生みませる子、布波能母遅久奴須奴の神。この神淤迦美の神の女、名は日河ひかわ比売にいて生みませる子、深淵ふかふち水夜礼花みずやれはなの神。この神、天の都度閇知泥の神にいて生みませる子、淤美豆奴の神(二)。この神布怒豆怒の神の女、名は布帝耳ふてみみの神にいて生みませる子、天の冬衣ふゆぎぬの神、この神刺国大さしくにおおの神の女、名は刺国若比売にいて生みませる子、大国主おおくにぬしの神(三)。またの名は大穴牟遅おおあなむじの神といい、またの名は葦原色許男あしはらしこおの神といい、またの名は八千矛やちほこの神といい、またの名は宇都志国玉うつしくにたまの神といい、あわせて五つの名あり。

  •  (一)かくれたところに事をおこして。婚姻して。以下、スサノオのみことの子孫の系譜であるが、大年の神とウカノミタマの神とは穀物の神で、下の五二ページ「大国主の神」の「大年の神の系譜」に出る系譜の準備になる。その条参照。
  •  (二)『出雲国風土記』に、諸地方の土地を引いてきたという国引くにびきの神話を伝える八束水臣津野やつかみずおみつのみこと
  •  (三)古代出雲の英雄で、国土の神霊の意。代々、オオクニヌシであり、その一人が英雄であったのだろう。以下の別名は、それぞれその名による神話があり、すべてを同一神と解したものであろう。

  〔四、大国主おおくにぬしの神〕

   うさぎとワニ〕


 かれこの大国主おおくにぬしの神の兄弟はらから八十やそ(一)ましき。しかれども、みな国は大国主の神にりまつりき。避りし所以ゆえは、その八十神おのもおのも稲羽いなば八上やかみ比売(二)よばわんとする心ありて、ともに稲羽に行きしときに、大穴牟遅おおあなむじの神にふくろを負わせ、従者ともびととしててゆきき(三)。ここに気多けたさき(四)にいたりしときに、あかはだなるうさぎせり。ここに八十神、その兎にいていわく、いましまくは、この海塩うしおみ、風の吹くにあたりて、高山の尾の上にせ」といいき。かれそのうさぎ、八十神の教えのまにまにしてしつ。ここにその塩のかわくまにまに、その身の皮ことごとに風に吹きかえき。かれ痛みて泣きせれば、最後いやはてに来ましし大穴牟遅おおあなむじの神、そのうさぎを見て、「何とかもいましが泣きせる」とのりたまいしに、うさぎ答えてもうさく、あれ淤岐おきの島(五)にありて、このくにわたらまくほりすれども、わたらんよしなかりしかば、海のワニ(六)をあざむきていわく、われいましきそいてやからの多き少なきをはからん。かれいましはそのやからのありのことごとてきて、この島より気多けたさきまで、みなわたれ。ここにわれ、その上をみて走りつつ読みわたらん。ここにわが族といずれか多きということを知らんと、かく言いしかば、あざむかえてせるときに、われその上をみて読みわたりきて、今つちりんとするときに、吾、いましはわれにあざむかえつと言いおわれば、すなわち最端いやはてせるワニ、あれを捕らえて、ことごとにわが衣服きものをはぎき。これによりて泣きわずらえしかば、先だちて行でましし八十神やそがみみこともちておしえたまわく、海塩うしおみて、風にあたりてせとのりたまいき。かれ教えのごとせしかば、が身ことごとにそこなわえつ」ともうしき。ここに大穴牟遅おおあなむじの神、そのうさぎに教えてのりたまわく、「今くこの水門みなとにゆきて、水もちていましが身を洗いて、すなわちその水門のかまはな(七)を取りて、敷き散らして、その上にまろびなば、いましが身、もとのはだのごと、かならずえなん」とのりたまいき。かれ教えのごとせしかば、その身もとのごとくになりき。こは稲羽いなば素兎しろうさぎというものなり。今には兎神うさぎがみという。かれそのうさぎ大穴牟遅おおあなむじの神にもうさく、「この八十神は、かならず八上やがみ比売を得じ。ふくろを負いたまえども、いましみことたまわん」ともうしき。
 ここに八上やがみ比売、八十神に答えていわく、いましたちの言を聞かじ、大穴牟遅おおあなむじの神にわん」といいき。

  •  (一)多くの神。神話にいう兄弟は、真実の兄弟ではない。
  •  (二)鳥取県八頭郡やずぐん八上の地にいた姫。
  •  (三)七福神の大黒天だいこくてん大国主おおくにぬしの神と同神とする説のあるのは、大国と大黒と字音が同じなのと、ここに袋をせおったことがあるからであるが、大黒天はもとインドの神で別である。
  •  (四)島根県気高郡けたかぐん末恒村すえつねむらの日本海に出た岬角こうかく
  •  (五)日本海の隠岐おきの島。ただし、気多の前の海中にも伝説地がある。
  •  (六)フカのたぐい。やがてその知識に、ヘビ・亀などの要素を取り入れて想像上の動物として発達した。フカの実際を知らない者が多かったからである。
  •  (七)カマの花粉。

   貝きさがい比売と蛤貝うむがい比売〕


 かれここに八十神忿いかりて、大穴牟遅おおあなむじの神を殺さんとあいはかりて、伯伎ははきの国の手間てまの山本(一)に至りていわく、「この山に赤猪あかいあり、かれわれどち追いおろしなば、いまし待ち取れ。もし待ち取らずは、かならずいましを殺さん」といいて、火もちて猪に似たる大石を焼きて、まろばし落としき。ここに追いおろし取るときに、すなわちその石に焼きつかえてせたまいき。ここにその御祖みおやの命(二)きわずらえて、天にまいのぼりて、神産巣日かむむすびの命にもうしたまうときに、貝きさがい比売と蛤貝うむがい比売とをやりて、作りかさしめたまいき。ここに貝きさがい比売きさげ〔けずりおとし。こそぎ〕集めて、蛤貝うむがい比売待ちうけて、おも乳汁ちしると塗りしかば(三)、うるわしき壮夫おとこになりて出であるきき。

  •  (一)鳥取県西伯郡さいはくぐん天津村。
  •  (二)母の神。
  •  (三)アカガイの汁をしぼってハマグリの貝に受け入れて、母の乳汁としてぬった。古代の火傷やけどの療法である。

   堅州国かたすくに


 ここに八十神やそがみ見てまたあざむきて、山にて入りて、大樹を切りせ、茹矢ひめや(一)をその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなわちその氷目矢ひめやを打ち離ちて、ち殺しき。ここにまたその御祖みおやきつつぎしかば、すなわち見得て、その木をきて、取り出でかして、その子にりていわく、いましここにあらば、ついに八十神にころさえなん」といいて、木の国(二)大屋毘古おおの神(三)御所みもとたがえやりたまいき。ここに八十神ぎ追いいたりて、矢刺してうときに、木のまたよりき逃れてにき。御祖みおやみこと、子にりていわく、「須佐の男のみことのまします堅州かたす(四)にまい向きてば、かならずその大神はかりたまいなん」とのりたまいき。かれ詔命みことのまにまにして須佐の男のみこと御所みもといいたりしかば、その女須勢理毘売出で見て、目合まぐわいして(五)いまして、かえり入りてその父に白してもうさく、「いとうるわしき神ましつ」ともうしき。ここにその大神出で見て、「こは葦原色許男あしはらしこおみことというぞ」とのりたまいて、すなわちび入れて、そのへみむろや(六)に寝しめたまいき。ここにそのみめ須勢理毘売の命、蛇のひれ(七)をその夫にさずけて、「その蛇わんとせば、このひれを三たびりて打ちはらいたまえ」ともうしたまいき。かれ教えのごとせしかば、へみおのずから静まりぬ。かれやすく寝て出でましき。また来る日の夜は、ムカデとハチとのむろやに入れたまいしを、またムカデ・ハチのひれを授けて、先のごと教えしかば、やすく出でたまいき。また鳴鏑なりかぶら(八)を大野の中に射入れて、その矢を採らしめたまいき。かれその野に入りまししときに、すなわち火もちてその野を焼きめぐらしつ。ここに出づる所を知らざる間に、ネズミ来ていわく、「内はほらほら、はすぶすぶ(九)」と、かく言いければ、そこをみしかば、落ち隠り入りし間に、火は焼けぎき。ここにそのネズミ、その鳴鏑なりかぶらいて出で来てたてまつりき。その矢の羽は、そのネズミの子どもみないたりき。
 ここにそのみめ須世理毘売は、はぶりもの(一〇)を持ちてきつつ来まし、その父の大神は、すでにせぬと思おして、その野に出でたたしき。ここにその矢を持ちてたてまつりしときに、家にて入りて、八田間やたまの大室(一一)び入れて、そのかしらのシラミを取らしめたまいき。かれその頭を見れば、ムカデさわにあり。ここにその妻、むくの木の実と赤土はにとを取りて、その夫にさずけつ。かれその木の実をいやぶり、赤土はにふくみてつばき出だしたまえば、その大神、ムカデをいやぶりてつばき出だすとおもおして、心に〔いとしい〕おもおしてみねしたまいき。ここにその神の髪をとりて、その室のたりきごとにいつけて、五百引いおびきいわ(一二)を、その室の戸に取りえて、そのみめ須世理毘売を負いて、すなわちその大神の生大刀いくたち生弓矢いくゆみや(一三)またその天の沼琴ごと(一四)を取り持ちて、逃げ出でますときに、その天の沼琴ぬごと樹にふれて地動鳴なりとよみき。かれそのみねしたまえりし大神、聞きおどろかして、その室を引きたおしたまいき。しかれどもたりきえる髪を解かす間に遠く逃げたまいき。かれここに黄泉比良坂よもつひらさかに追い至りまして、はるかにみさけて、大穴牟遅おおあなむじの神を呼ばいてのりたまわく、「そのいましが持てる生大刀・生弓矢もちていまし庶兄弟あにおとどもをば、坂の御尾みおに追いせ、また河の瀬に追いはらいて、おれ(一五)大国主の神となり、また宇都志国玉うつしくにたまの神(一六)となりて、そのわが女須世理毘売嫡妻むかいめとして、宇迦うかの山(一七)の山本に、底津石根そこついわね宮柱みやばしら太しり太知ふとしる〕、高天の原に氷椽ひぎ高しりて高知たかしる〕(一八)居れ。このやつこ」とのりたまいき。かれその大刀弓を持ちて、その八十神を追いくるときに、坂の御尾ごとに追いせ、河の瀬ごとに追いはらいて国作りはじめたまいき(一九)
 かれその八上比売は先のちぎりのごとみとあたわしつみとあたわす〕(二〇)。かれその八上比売は、て来ましつれども、その嫡妻むかいめ須世理毘売をかしこみて、その生める子をば、木のまたに刺しはさみて返りましき。かれその子に名づけて木の俣の神という、またの名は御井みいの神という。

  •  (一)クサビ形の矢。「氷目矢」とあるも同じ。
  •  (二)紀伊の国(和歌山県)
  •  (三)家屋の神。イザナギ・イザナミの生んだ子の中にあった。ただし、スサノオの命の子とする説がある。
  •  (四)既出、地下の国。
  •  (五)たがいに見合うこと。
  •  (六)古代建築にはムロ型とス型とある。ムロは穴を掘って屋根をかぶせた形のもので、湿気の多い地では虫のつくことが多い。スは足をつけて高く作る。どちらも原住地での習俗を移したものだろうが、ムロ型はほろびた。
  •  (七)ヘビを支配する力のあるヒレ。ヒレは、白い織り物で女子が首にかける。これを振ることによって威力が発生する。つぎのヒレも同じ。
  •  (八)射ると鳴りひびくように作った矢。
  •  (九)入口はせまいが内部は広い。古墳のあとだろうという。
  • (一〇)葬式の道具。
  • (一一)柱間の数の多い大きな室。
  • (一二)五百人で引くほどの巨石。
  • (一三)生命の感じられる大刀たち・弓矢。
  • (一四)美しいりっぱなこと
  • (一五)親愛の第二人称。
  • (一六)現実にある国土の神霊。
  • (一七)島根県出雲市出雲大社の東北の御埼山。
  • (一八)壮大そうだいな宮殿建築をする意の常用句。地底の石に柱をしっかと建て、空中に高く千木ちぎをあげて作る。ヒギ・チギともいう。屋上に交差して突出している材。今では神社建築に見られる。
  • (一九)国土経営をはじめた。
  • (二〇)婚姻した。

   八千矛やちほこの神の歌物語うたものがたり


 この八千矛やちほこの神(一)高志こしの国の沼河比売ぬなかわひめ(二)よばわんとしてでますときに、その沼河比売の家にいたりて(三)歌よみしたまいしく、

八千矛やちほこの 神のみことは、
八島国 妻ぎかねて、
遠遠し 高志こしの国に
さかを ありと聞かして、
くわを ありとこして、
よばいに あり立たし(四)
よばいに あり通わせ、
大刀たちも いまだ解かずて、
おすいをも いまだ解かね(五)
嬢子おとめすや(六)板戸を
そぶらい(七) わが立たせれば、
引こづらい が立たせれば、
青山に ぬえ(八)は鳴きぬ。
どり 雉子きぎしとよむ。
にわとり かけは鳴く。
うれたくも(九) 鳴くなる鳥か。
この鳥も うちめこせね。
いしとうや(一〇) 天馳使あまはせづかい(一一)
ことの 語りごとも こをば(一二)〔歌謡番号二〕

 ここにその沼河日売ぬなかわひめ、いまだ戸をひらかずて内より歌よみしたまいしく、

八千矛やちほこの 神のみこと
ぬえくさの(一三) にしあれば、
わが心 浦渚うらすの鳥ぞ(一四)
今こそは 鳥にあらめ。
後は 汝鳥などりにあらんを、
命は なせたまいそ(一五)
いしとうや 天馳使あまはせづかい
ことの 語りごとも こをば。〔歌謡番号三〕

青山に 日が隠らば、
ぬばたまの(一六) 夜は出でなん。
朝日の み栄えきて、
綱たくずの(一七) 白きただむき
沫雪あわゆき(一八) わかやる胸を
だたたたきまながり
真玉手またまで 玉手たまでさし
股長ももなが宿さんを。
あやに な恋いきこし(一九)
八千矛の 神の命。
ことの 語りごとも こをば。〔歌謡番号四〕

 かれ、その夜は合わさずて、明日くるつひの夜御合みあいしたまいき。
 またその神の嫡后おおぎさき須勢理毘売みこと、いたく嫉妬うわなりねた(二〇)したまいき。かれその日子ひこぢの神(二一)わびて、出雲よりやまとの国に上がりまさんとして、装束よそいし立たすときに、片御手は御馬みまくらにかけ、片御足はその御鐙みあぶみみ入れて、歌よみしたまいしく、

ぬばたまの 黒き御衣みけし
まつぶさに 取りよそ(二二)
おきつ鳥(二三) むな見るとき、
たたぎ(二四)も これはふさわず、
つ浪 そに脱きて、
�鳥そにどり(二五) 青き御衣みけし
まつぶさに 取りよそ
奥つ鳥 胸見るとき、
羽たたぎも こもふさわず、
辺つ浪 そに脱きて、
山県やまがた(二六)きし あたねつき(二七)
そめ木がしる染衣しめごろも
まつぶさに 取りよそ
奥つ鳥 胸見るとき、
羽たたぎも しよろし。
いとこやの(二八) 妹のみこと(二九)
群鳥むらとり(三〇) わがなば、
引け鳥(三一)の わが引け往なば、
泣かじとは はいうとも、
山跡やまと一本ひともとすすき
うなかぶ(三二) が泣かさまく(三三)
朝雨あさあめの さ(三四)霧にたんぞ。
若草の(三五) つまの命。
ことの 語りごとも こをば。〔歌謡番号五〕

 ここにそのきささ、大御酒杯さかずきを取らして、立ちより指挙ささげて、歌よみしたまいしく、

八千矛の 神のみことや、
が大国主。
こそは にいませば、
うち(三六)(三七)の埼々
かきる 磯の埼おちず(三八)
若草の つま持たせらめ(三九)
はもよ にしあれば、
(四〇) は無し。
を除て つまは無し。
文垣あやかきの ふわやが下に(四一)
蒸被むしぶすま にこやが下に(四二)
被たくぶすま さやぐが下に(四三)
沫雪あわゆきの わかやる胸を
綱たくずのの 白きただむき
だたたたきまながり(四四)
玉手たまで 玉手さし
股長ももながおしなせ。
豊御酒とよみき たてまつらせ(四五)〔歌謡番号六〕

 かく歌いて、すなわちうき〔さかずき〕いして(四六)項懸うながけりて(四七)、今にいたるまでしずまります。こを神語かむがたり(四八)という。

  •  (一)多くの武器のある神の義。大国主の神の別名。三八ページ「須佐の男の命」の「系譜」参照。
  •  (二)北越の沼河の地の姫。ヌナカワは今の糸魚川町付近だという。
  •  (三)男子が夜間、女子の家を訪れるのが古代の婚姻の風習である。
  •  (四)ヨバイは呼ぶ義で、婚姻を申し入れる意。サは接頭語。アリタタシは、お立ちになって。動詞の上につけるアリはありつつの意。タタシは立つの敬語。
  •  (五)オスイをもまだ解かないのに。オスイは通例の服装ふくそうの上に着る衣服。礼装・旅装などに使用する。トカネは解かないのに、の意。
  •  (六)ナスは寝るの敬語。ヤは感動の助詞で調子をつけるために使う。
  •  (七)押しゆすぶって。
  •  (八)今、トラツグミという鳥。夜間飛んで鳴く。
  •  (九)なげかわしいことに。
  • (一〇)イ下フで、下方にいる意だろう。イは接頭語。ヤは感動の助詞。
  • (一一)走り使いをする部族。アマは神聖な、の意につける。この種の歌を語り伝える部族。
  • (一二)このことをば。この通りです。
  • (一三)比喩による枕詞まくらことば。なえた草のような。
  • (一四)水鳥です。おちつかない比喩。
  • (一五)おなくなりなさるな。
  • (一六)比喩による枕詞。カラスオウギの実は黒いから、夜に冠する。
  • (一七)同前。こうぞで作ったつなは白い。
  • (一八)同前。アワのような大きな雪。
  • (一九)たいへんに恋をなさいますな。
  • (二〇)第二の妻に対する憎み。
  • (二一)夫の神。
  • (二二)十分に着用して。
  • (二三)比喩による枕詞。水鳥のように胸をつき出して見る。
  • (二四)奥つ鳥と言ったので、その縁でいう。身のこなし。
  • (二五)比喩による枕詞。カワセミ。青い鳥。
  • (二六)山の料地。
  • (二七)アタネは、アカネに同じというが不明。アカネはアカネ科のつる草。根をついてアカネ色の染料をとる。
  • (二八)イトコは親愛なる人。ヤは接尾語。
  • (二九)女子の敬称。
  • (三〇)比喩による枕詞。
  • (三一)同前。空とおく引き去る鳥。
  • (三二)首をかしげて。うなだれて。
  • (三三)お泣きになることは。マクは、ムコトに相当する。
  • (三四)真福寺本、「サ」にあたる字がない。
  • (三五)比喩による枕詞。
  • (三六)このミルは、原文「微流」。微は、古代のミの音声二種のうちの乙類に属し、甲類の見るのミの音声と違う。それで廻る意であり、ここは廻っているの意(有坂博士)でつぎの語を修飾する。
  • (三七)シマは水面にのぞんだ土地。はなれ島には限らない。
  • (三八)磯の突端のどこでも。
  • (三九)お持ちになっているでしょう。モタセ、持ツの敬語の命令形。ラ、助動詞の未然形。メ、助動詞ムの已然形で、上の係助詞コソを受けて結ぶ。
  • (四〇)汝をおいては。
  • (四一)織り物のトバリのふわふわした下で。
  • (四二)あたたかい寝具のやわらかい下で。
  • (四三)こうぞふすまのざわざわする下で。
  • (四四)たたいて抱きあい。
  • (四五)めしあがれ。たてまつるの敬語の命令形。
  • (四六)酒盃をとりかわして約束して。
  • (四七)首に手をかけて。
  • (四八)以上の歌の名称で、以下、この種の名称が多く出る。これは歌曲として伝えられたので、その歌曲としての名である。この八千矛の神の贈答の歌曲は舞いをともなっていたらしい。

   〔系譜〕


 かれこの大国主の神、むなかた奥津宮おきつみやにます神、多紀理毘売みこと(一)いて生みませる子、阿遅�K高日子根すきたかの神。つぎに妹高比売たかひめの命(二)。またの名は下光したて比売ひめの命(三)。この阿遅�K高日子根の神は、今迦毛かもの大御神(四)という神なり。
 大国主の神、また神屋楯かむやたて比売の命(五)いて生みませる子、事代主ことしろぬしの神(六)。また八島牟遅やしまむじの神の女鳥取とりとりの神(七)いて生みませる子、鳥鳴海とりなるみの神。この神、日名照額田毘道男伊許知迩てりぬかの神(八)いて生みませる子、国忍富くにおしとみの神。この神、葦那陀迦あしなだかの神またの名は八河江比売やがはえひめいて生みませる子、連甕つらみか多気佐波夜遅奴美の神。この神、天の甕主みかぬしの神の女前玉比売さきたまひめいて生みませる子、甕主日子みかぬしひこの神。この神、淤加美の神(九)の女比那良志毘売にいて生みませる子、多比理岐志麻美の神。この神、比比羅木のその花麻豆美はなの神の女活玉前玉いくたまさきたま比売の神にいて生みませる子、美呂浪みろなみの神。この神、敷山主しきやまぬしの神の女青沼馬沼押あおおし比売にいて生みませる子、布忍富鳥鳴海ぬのおしとみとりなるみの神。この神、若昼女わかひるめの神にいて生みませる子、天の日腹大科度美ひばらおおしなどみの神。この神、天の狭霧さぎりの神の女遠津待根とおつまちねの神にいて生みませる子、遠津山岬多良斯とおやまざきの神。

右のくだり八島士奴美やしまじぬみの神より下、遠津山岬たらしの神より前、十七世とおまりななよの神という。

  •  (一)既出三〇ページ「天照らす大神と須佐の男の命」の「誓約」参照。
  •  (二)以上二神、五七ページ「天照らす大御神と大国主の神」の「国ゆずり」に神話がある。
  •  (三)光りかがやく姫の義。美しい姫。
  •  (四)奈良県南葛城郡みなみかつらぎぐん葛城村にある神社の神。
  •  (五)系統不明。
  •  (六)五七ページ「天照らす大御神と大国主の神」の「国ゆずり」に神話がある。その条参照。
  •  (七)鳥耳の神、鳥甘の神とする伝えもある。
  •  (八)誤りがあって、もと何の神の女の何とあったらしいが不明。
  •  (九)水の神。

   少名毘古那すくの神〕


 かれ大国主の神、出雲の御大みほ御前みさき(一)にいますときに、波の穂より(二)、天の羅摩かがみの船(三)に乗りて、ひむしの皮を内剥うつはぎにはぎて(四)衣服みけしにして、りくる神あり。ここにその名を問わせども答えず、また所従みともの神たちに問わせども、みな知らずともうしき。ここに多迩具久(五)白してもうさく、「こは久延毘古(六)ぞかならず知りたらん」と白ししかば、すなわち久延毘古を召して問いたまうときに答えてもうさく、「こは神産巣日かむの神の御子少名毘古那すくの神なり」ともうしき。かれここに神産巣日御祖みおやみこともうし上げしかば、「こはまことにわが子なり。子の中に、わが手俣たなまたよりきし子なり。かれいまし葦原色許男あしはらしこおみこと兄弟はらからとなりて、その国作り固めよ」とのりたまいき。かれそれより、大穴牟遅おおあなむじ少名毘古那すくと二柱の神あいならびて、この国作り固めたまいき。しかありて後には、その少名毘古那の神は、常世とこよの国(七)にわたりましき。かれその少名毘古那の神をあらわしもうしし、いわゆる久延毘古は、今には山田の曽富騰(八)というものなり。この神は、足はあるかねども、天の下のことをことごとに知れる神なり。

  •  (一)島根県八束郡やつかぐん美保の岬。
  •  (二)波の高みに乗って。
  •  (三)カガミはガガイモ科のつる草。ガガイモ。その果実はサヤであり、割れると白い毛のある果実が飛ぶ。それをもとにした神話。
  •  (四)の皮をそっくりはいで。
  •  (五)ヒキガエル。谷潜たにくぐり、の義。
  •  (六)かがし。こわれた男の義。
  •  (七)海外の国。三三ページ「天照らす大神と須佐の男の命」の「天の岩戸」脚注参照。
  •  (八)かがしに同じ。

   御諸みもろの山の神〕


 ここに大国主の神うれえてりたまわく、ひとりして、如何いかにかもよくこの国をえ作らん。いずれの神とともに、はよくこの国を相作つくらん」とのりたまいき。このときに海をらしてより来る神あり。その神のりたまわく、みまえをよくおさめば(一)あれよくともどもに相作りなさん。もししかあらずは、国なりがたけん」とのりたまいき。ここに大国主の神もうしたまわく、「しからばおさめまつらんさまはいかに」ともうしたまいしかば答えてのりたまわく、をばやまと青垣あおかきの東の山のいつきまつれ(二)」とのりたまいき。こは御諸みもろの山の上にます神(三)なり。

  •  (一)わたしをよくまつったなら。神が現われていう時のきまった詞。
  •  (二)大和の国の東方の青い山の上にまつれ。
  •  (三)奈良県磯城郡しきぐん三輪山の大神おおみわ神社の神。その神社の起原神話。

   大年おおとしの神の系譜〕


 かれその大年おおとしの神(一)神活須毘かむいくすびの神の女伊怒比売にいて生みませる子、大国御魂おおくにみたまの神。つぎにからの神。つぎに曽富理の神。つぎに白日しらひの神。つぎにひじりの神(二)〈五神〉。また香用かぐよ比売にいて生みませる子、大香山戸臣おおかぐやまの神。つぎに御年みとしの神〈二柱〉。また天知あめし迦流美豆比売にいて生みませる子、奥津日子おきつひこの神。つぎに奥津比売おきつひめの命、またの名は大戸比売おおべひめの神。こは諸人もろびとのもちいつかまどの神なり。つぎに大山咋おおやまくいの神。またの名はすえ大主おおぬしの神。この神は近つ淡海おうみの国の日枝ひえの山にます(三)。また葛野かずのの松の尾にます(四)鳴鏑なりかぶらちたまう神なり。つぎに庭津日にわつひの神。つぎに阿須波の神。つぎに波比岐の神(五)。つぎに香山戸臣かぐやまとみの神。つぎに羽山戸はやまとの神。つぎににわ高津日たかつひの神。つぎに大土おおつちの神。またの名はつち御祖みおやの神〈九神〉

上の件、大年の神の子、大国御魂おおくにみたまの神より下、大土おおつちの神より前、あわせて十六神とおまりむはしら

 羽山戸はやまとの神、大気都比売おおの神にいて生みませる子、若山咋わかやまくいの神。つぎに若年の神。つぎに妹若沙那売わかの神。つぎに弥豆麻岐の神。つぎに夏の高津日たかつひの神。またの名は夏のの神。つぎに秋毘売あきびめの神。つぎに久久年くくとしの神。つぎに久久紀若室葛根わかむろつなの神。

上の件、羽山戸はやまとの神の子、若山咋の神より下、若室葛根わかむろつなねの神より前、あわせて八神。

  •  (一)穀物のみのりの神霊。三八ページ「須佐の男の命」の「系譜」に出た。この神の系譜は、穀物の耕作の経過の表示。
  •  (二)これも穀物のみのりの神。
  •  (三)滋賀県滋賀郡坂本さかもとの日枝神社。
  •  (四)京都市右京区にある松尾神社。
  •  (五)以上二神、家の敷地の神。祈年祭としごいのまつり祝詞のりとに見える。

(つづく)



底本:「古事記」角川文庫、角川書店
   1956(昭和31)年5月20日初版発行
   1965(昭和40)年9月20日20版発行
底本の親本:「眞福寺本」
※底本は校注が脚註の形で配置されています。このファイルでは校註者が追加した標題ごとに、書き下し文、校注の順序で編成しました。
※(一)〜(五五)は注釈番号です。底本では、直前の文字の右横に、ルビのように漢数字のみ付いています。このファイルでは本文の漢数字との混同を避けるため(漢数字)で表しました。
〔 〕は底本の親本にはないもので、校註者が補った箇所を表します。
※頁数を引用している箇所には校註者が追加した標題を注記しました。
入力:川山隆
校正:しだひろし
YYYY年MM月DD日作成
青空文庫作成ファイル:
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校註『古事記』(二)

稗田の阿礼、太の安万侶
武田祐吉注釈校訂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)上《かみ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)神|蕃息《はんそく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「二点しんにょう+貌」、第3水準1-92-58]
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[#3字下げ]〔三、須佐の男の命〕[#「〔三、須佐の男の命〕」は中見出し]

[#5字下げ]〔穀物の種(一)〕[#「〔穀物の種(一)〕」は小見出し]
 また食物《をしもの》を大氣都比賣《おほげつひめ》の神に乞ひたまひき。ここに大氣都比賣、鼻口また尻より、種種の味物《ためつもの》(二)を取り出でて、種種作り具へて進《たてまつ》る時に、速須佐の男の命、その態《しわざ》を立ち伺ひて、穢汚《きたな》くして奉るとおもほして、その大宜津比賣《おほげつひめ》の神を殺したまひき。かれ殺さえましし神の身に生《な》れる物は、頭に蠶《こ》生り、二つの目に稻種《いなだね》生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆《あづき》生り、陰《ほと》に麥生り、尻に大豆《まめ》生りき。かれここに神産巣日《かむむすび》御祖《みおや》の命、こを取らしめて、種と成したまひき。

(一) この一節は插入神話である。文章が前の章からよく接續しないことに注意。オホゲツヒメは穀物の女神。既出。
(二) うまい物。

[#5字下げ]〔八俣の大蛇〕[#「〔八俣の大蛇〕」は小見出し]
 かれ避追《やらは》えて、出雲の國の肥の河上、名は鳥髮《とりかみ》といふ地《ところ》(一)に降《あも》りましき。この時に、箸その河ゆ流れ下りき。ここに須佐の男の命、その河上に人ありとおもほして、求《ま》ぎ上り往でまししかば、老夫《おきな》と老女《おみな》と二人ありて、童女《をとめ》を中に置きて泣く。ここに「汝たちは誰そ」と問ひたまひき。かれその老夫、答へて言《まを》さく「僕《あ》は國つ神|大山津見《おほやまつみ》の神の子なり。僕が名は足名椎《あしなづち》といひ妻《め》が名は手名椎《てなづち》といひ、女《むすめ》が名は櫛名田比賣《くしなだひめ》(二)といふ」とまをしき。また「汝の哭く故は何ぞ」と問ひたまひしかば、答へ白さく「我が女はもとより八|稚女《をとめ》ありき。ここに高志《こし》の八俣《やまた》の大蛇《をろち》(三)、年ごとに來て喫《く》ふ。今その來べき時なれば泣く」とまをしき。ここに「その形はいかに」と問ひたまひしかば、「そが目は赤かがち(四)の如くにして身一つに八つの頭《かしら》八つの尾あり。またその身に蘿《こけ》また檜榲《ひすぎ》生ひ、その長《たけ》谷《たに》八谷|峽《を》八|尾《を》を度り(五)て、その腹を見れば、悉に常に血《ち》垂り(六)爛《ただ》れたり」とまをしき。[#割り注]ここに赤かがちと云へるは、今の酸醤[#「酸醤」は底本のまま]なり。[#割り注終わり]ここに速須佐の男の命、その老夫に詔りたまはく、「これ汝《いまし》が女ならば、吾に奉らむや」と詔りたまひしかば、「恐けれど御名を知らず」と答へまをしき。ここに答へて詔りたまはく、「吾は天照らす大御神の弟《いろせ》なり。かれ今天より降りましつ」とのりたまひき。ここに足名椎《あしなづち》手名椎《てなづち》の神、「然まさば恐《かしこ》し、奉らむ」とまをしき。
 ここに速須佐の男の命、その童女《をとめ》を湯津爪櫛《ゆつつまぐし》に取らして、御髻《みみづら》に刺さして(七)、その足名椎、手名椎の神に告りたまはく、「汝等《いましたち》、八鹽折《やしほり》の酒を釀《か》み(八)、また垣を作り※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]《もとほ》し、その垣に八つの門を作り、門ごとに八つの假※[#「广+技」、第4水準2-12-4]《さずき》を結《ゆ》ひ(九)、その假※[#「广+技」、第4水準2-12-4]ごとに酒船(一〇)を置きて、船ごとにその八鹽折の酒を盛りて待たさね」とのりたまひき。かれ告りたまへるまにまにして、かく設《ま》け備へて待つ時に、その八俣《やまた》の大蛇《をろち》、信《まこと》に言ひしがごと來つ。すなはち船ごとに己《おの》が頭を乘り入れてその酒を飮みき。ここに飮み醉ひて留まり伏し寢たり。ここに速須佐の男の命、その御佩《みはかし》の十拳《とつか》の劒を拔きて、その蛇を切り散《はふ》りたまひしかば、肥《ひ》の河血に變《な》りて流れき。かれその中の尾を切りたまふ時に、御刀《みはかし》の刃|毀《か》けき。ここに怪しと思ほして、御刀の前《さき》もちて刺し割きて見そなはししかば、都牟羽《つむは》の大刀(一一)あり。かれこの大刀を取らして、異《け》しき物ぞと思ほして、天照らす大御神に白し上げたまひき。こは草薙《くさなぎ》の大刀(一二)なり。
 かれここを以ちてその速須佐の男の命、宮造るべき地《ところ》を出雲の國に求《ま》ぎたまひき。ここに須賀《すが》(一三)の地に到りまして詔りたまはく、「吾|此地《ここ》に來て、我《あ》が御心|清淨《すがすが》し」と詔りたまひて、其地《そこ》に宮作りてましましき。かれ其地《そこ》をば今に須賀といふ。この大神、初め須賀の宮作らしし時に、其地《そこ》より雲立ち騰りき。ここに御歌よみしたまひき。その歌、
[#ここから2字下げ]
や雲立つ  出雲八重垣。
妻隱《つまご》みに  八重垣作る。
その八重垣を(一四)。  (歌謠番號一)
[#ここで字下げ終わり]
 ここにその足名椎の神を喚《め》して告《の》りたまはく、「汝《いまし》をば我が宮の首《おびと》に任《ま》けむ」と告りたまひ、また名を稻田《いなだ》の宮主《みやぬし》須賀《すが》の八耳《やつみみ》の神と負せたまひき。

(一) 島根縣仁多郡、斐伊川の上流船通山。
(二) 日本書紀に奇稻田姫とある。
(三) 強暴な者の譬喩。また出水としそれを處理して水田を得た意の神話ともする。コシは、島根縣内の地名説もあるが、北越地方の義とすべきである。
(四) タンバホオズキ。
(五) 身長が、谷八つ、高み八つを越える。
(六) 血がしたたつて。
(七) 女が魂をこめた櫛を男のミヅラにさす。これは婚姻の風習で、その神祕な表現。
(八) 濃い酒を作つて。
(九) サズキは物をのせる臺。古代は綱で材木を結んで作るから、結うという。
(一〇) 酒の入物。フネは箱状のもの。
(一一) ツムハは語義不明。都牟刈とする傳えもある。
(一二) 後にヤマトタケルの命が野の草を薙いで火難を免れたから、クサナギの劒という。もと叢雲《むらくも》の劒という。三種の神器の一。
(一三) 島根縣大原郡。
(一四) や雲立つは枕詞。多くの雲の立つ意。八重垣は、幾重もの壁や垣の意で宮殿をいう。最後のヲは、間投の助詞。

[#5字下げ]〔系譜〕[#「〔系譜〕」は小見出し]
 その櫛名田比賣《くしなだひめ》を隱處《くみど》に起して(一)、生みませる神の名は、八島士奴美《やしまじぬみ》の神。また大山津見の神の女《むすめ》名は神大市《かむおほち》比賣に娶《あ》ひて生みませる子、大年《おほとし》の神、次に宇迦《うか》の御魂《みたま》二柱[#「二柱」は1段階小さな文字]。兄《みあに》八島士奴美の神、大山津見の神の女、名は木《こ》の花《はな》知流《ちる》比賣に娶《あ》ひて生みませる子、布波能母遲久奴須奴《ふはのもぢくぬすぬ》の神。この神|淤迦美《おかみ》の神の女、名は日河《ひかは》比賣に娶ひて生みませる子、深淵《ふかふち》の水夜禮花《みづやれはな》の神。この神天の都度閇知泥《つどへちね》の神に娶ひて生みませる子、淤美豆奴《おみづぬ》の神(二)。この神|布怒豆怒《ふのづの》の神の女、名は布帝耳《ふてみみ》の神に娶ひて生みませる子、天の冬衣《ふゆぎぬ》の神、この神|刺國大《さしくにおほ》の神の女、名は刺國若比賣に娶ひて生みませる子、大國主の神(三)。またの名は大穴牟遲《おほあなむぢ》の神といひ、またの名は葦原色許男《あしはらしこを》の神といひ、またの名は八千矛《やちほこ》の神といひ、またの名は宇都志國玉《うつしくにたま》の神といひ、并はせて五つの名あり。

(一) 隱れた處に事を起して。婚姻して。以下スサノヲの命の子孫の系譜であるが大年の神とウカノミタマの神とは穀物の神で下の五二頁[#「五二頁」は「大國主の神」の「大年の神の系譜」]に出る系譜の準備になる。その條參照。
(二) 出雲國風土記に諸地方の土地を引いて來たという國引の神話を傳える八束水臣津野の命。
(三) 古代出雲の英雄で國土の神靈の意。代々オホクニヌシでありその一人が英雄であつたのだろう。以下の別名はそれぞれその名による神話がありすべてを同一神と解したものであろう。

[#3字下げ]〔四、大國主の神〕[#「〔四、大國主の神〕」は中見出し]

[#5字下げ][#小見出し]〔菟と※[#「鰐」の「夸−大」に代えて「汚のつくり」、38-本文-14]〕[#小見出し終わり]
 かれこの大國主の神の兄弟《はらから》八十《やそ》神(一)ましき。然れどもみな國は大國主の神に避《さ》りまつりき。避りし所以《ゆゑ》は、その八十神おのもおのも稻羽《いなば》の八上《やかみ》比賣(二)を婚《よば》はむとする心ありて、共に稻羽に行きし時に、大穴牟遲《おほあなむぢ》の神に※[#「代/巾」、第4水準2-8-82]《ふくろ》を負せ、從者《ともびと》として率《ゐ》て往きき(三)。ここに氣多《けた》の前《さき》(四)に到りし時に、裸《あかはだ》なる菟《うさぎ》伏せり。ここに八十神その菟に謂ひて云はく、「汝《いまし》爲《せ》まくは、この海鹽《うしほ》を浴み、風の吹くに當りて、高山の尾の上に伏せ」といひき。かれその菟、八十神の教のまにまにして伏しつ。ここにその鹽の乾くまにまに、その身の皮悉に風に吹き拆《さ》かえき。かれ痛みて泣き伏せれば、最後《いやはて》に來ましし大穴牟遲の神、その菟を見て、「何とかも汝が泣き伏せる」とのりたまひしに、菟答へて言さく「僕《あれ》、淤岐《おき》の島(五)にありて、この地《くに》に度らまくほりすれども、度らむ因《よし》なかりしかば、海の※[#「鰐」の「夸−大」に代えて「汚のつくり」、39-本文-11](六)を欺きて言はく、吾《われ》と汝《いまし》と競ひて族《やから》の多き少きを計らむ。かれ汝はその族のありの悉《ことごと》率《ゐ》て來て、この島より氣多《けた》の前《さき》まで、みな列《な》み伏し度れ。ここに吾その上を蹈みて走りつつ讀み度らむ。ここに吾が族といづれか多きといふことを知らむと、かく言ひしかば、欺かえて列《な》み伏せる時に、吾その上を蹈みて讀み度り來て、今|地《つち》に下りむとする時に、吾、汝《いまし》は我に欺かえつと言ひ畢《をは》れば、すなはち最端《いやはて》に伏せる※[#「鰐」の「夸−大」に代えて「汚のつくり」、39-本文-16]、我《あれ》を捕へて、悉に我が衣服《きもの》を剥ぎき。これに因りて泣き患へしかば、先だちて行でましし八十神の命もちて誨《をし》へたまはく、海鹽《うしほ》を浴みて、風に當りて伏せとのりたまひき。かれ教のごとせしかば、我《あ》が身悉に傷《そこな》はえつ」とまをしき。ここに大穴牟遲の神、その菟に教へてのりたまはく、「今|急《と》くこの水門《みなと》に往きて、水もちて汝が身を洗ひて、すなはちその水門の蒲《かま》の黄《はな》(七)を取りて、敷き散して、その上に輾《こ》い轉《まろ》びなば、汝が身本の膚《はだ》のごと、かならず差《い》えなむ」とのりたまひき。かれ教のごとせしかば、その身本の如くになりき。こは稻羽《いなば》の素菟《しろうさぎ》といふものなり。今には菟神といふ。かれその菟、大穴牟遲の神に白さく、「この八十神は、かならず八上《やがみ》比賣を得じ。※[#「代/巾」、第4水準2-8-82]《ふくろ》を負ひたまへども、汝が命ぞ獲たまはむ」とまをしき。
 ここに八上《やがみ》比賣、八十神に答へて言はく、「吾は汝たちの言を聞かじ、大穴牟遲の神に嫁《あ》はむ」といひき。

(一) 多くの神。神話にいう兄弟は、眞實の兄弟ではない。
(二) 鳥取縣八頭郡八上の地にいた姫。
(三) 七福神の大黒天を大國主の神と同神とする説のあるのは、大國と大黒と字音が同じなのと、ここに袋を背負つたことがあるからであるが、大黒天はもとインドの神で別である。
(四) 島根縣氣高郡末恒村の日本海に出た岬角。
(五) 日本海の隱岐の島。ただし氣多の前の海中にも傳説地がある。
(六) フカの類。やがてその知識に、蛇、龜などの要素を取り入れて想像上の動物として發達した。フカの實際を知らない者が多かつたからである。
(七) カマの花粉。

[#5字下げ][#小見出し]〔※[#「討/虫」、第4水準2-87-68]貝比賣と蛤貝比賣〕[#小見出し終わり]
 かれここに八十神|忿《いか》りて、大穴牟遲の神を殺さむとあひ議《はか》りて、伯伎《ははき》の國の手間《てま》の山本(一)に至りて云はく、「この山に赤猪《あかゐ》あり、かれ我どち追ひ下しなば、汝待ち取れ。もし待ち取らずは、かならず汝を殺さむ」といひて、火もちて猪に似たる大石を燒きて、轉《まろば》し落しき。ここに追ひ下し取る時に、すなはちその石に燒き著《つ》かえて死《う》せたまひき。ここにその御祖《みおや》の命(二)哭き患へて、天にまゐ上《のぼ》りて、神産巣日《かむむすび》の命に請《まを》したまふ時に、※[#「討/虫」、第4水準2-87-68]貝《きさがひ》比賣と蛤貝《うむがひ》比賣とを遣りて、作り活かさしめたまひき。ここに※[#「討/虫」、第4水準2-87-68]貝比賣きさげ集めて、蛤貝比賣待ち承《う》けて、母《おも》の乳汁《ちしる》と塗りしかば(三)、麗《うるは》しき壯夫《をとこ》になりて出であるきき。

(一) 鳥取縣西伯郡天津村。
(二) 母の神。
(三) 赤貝の汁をしぼつて蛤《はまぐり》の貝に受け入れて母の乳汁として塗つた。古代の火傷の療法である。

[#5字下げ]〔根の堅州國〕[#「〔根の堅州國〕」は小見出し]
 ここに八十神見てまた欺きて、山に率《ゐ》て入りて、大樹を切り伏せ、茹矢《ひめや》(一)をその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなはちその氷目矢《ひめや》を打ち離ちて、拷《う》ち殺しき。ここにまたその御祖、哭きつつ求《ま》ぎしかば、すなはち見得て、その木を拆《さ》きて、取り出で活して、その子に告りて言はく、「汝ここにあらば、遂に八十神に滅《ころ》さえなむ」といひて、木の國(二)の大屋毘古《おほやびこ》の神(三)の御所《みもと》に違へ遣りたまひき。ここに八十神|覓《ま》ぎ追ひ臻《いた》りて、矢刺して乞ふ時に、木の俣《また》より漏《く》き逃れて去《い》にき。御祖の命、子に告りていはく、「須佐の男の命のまします根《ね》の堅州《かたす》國(四)にまゐ向きてば、かならずその大神|議《はか》りたまひなむ」とのりたまひき。かれ詔命《みこと》のまにまにして須佐の男の命の御所《みもと》に參ゐ到りしかば、その女|須勢理毘賣《すせりびめ》出で見て、目合《まぐはひ》して(五)婚《あ》ひまして、還り入りてその父に白して言さく、「いと麗しき神來ましつ」とまをしき。ここにその大神出で見て、「こは葦原色許男《あしはらしこを》の命といふぞ」とのりたまひて、すなはち喚び入れて、その蛇《へみ》の室《むろや》(六)に寢しめたまひき。ここにその妻《みめ》須勢理毘賣《すせりびめ》の命、蛇のひれ(七)をその夫に授けて、「その蛇|咋《く》はむとせば、このひれを三たび擧《ふ》りて打ち撥《はら》ひたまへ」とまをしたまひき。かれ教のごとせしかば、蛇おのづから靜まりぬ。かれ平《やす》く寢て出でましき。また來る日の夜は、呉公《むかで》と蜂との室《むろや》に入れたまひしを、また呉公《むかで》蜂のひれを授けて、先のごと教へしかば、平《やす》く出でたまひき。また鳴鏑《なりかぶら》(八)を大野の中に射入れて、その矢を採らしめたまひき。かれその野に入りましし時に、すなはち火もちてその野を燒き※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]らしつ。ここに出づる所を知らざる間に、鼠來ていはく、「内はほらほら、外《と》はすぶすぶ(九)」と、かく言ひければ、其處《そこ》を踏みしかば、落ち隱り入りし間に、火は燒け過ぎき。ここにその鼠、その鳴鏑《なりかぶら》を咋《く》ひて出で來て奉りき。その矢の羽は、その鼠の子どもみな喫ひたりき。
 ここにその妻《みめ》須世理毘賣《すせりびめ》は、喪《はふり》つ具《もの》(一〇)を持ちて哭きつつ來まし、その父の大神は、すでに死《う》せぬと思ほして、その野に出でたたしき。ここにその矢を持ちて奉りし時に、家に率て入りて、八田間《やたま》の大室(一一)に喚び入れて、その頭《かしら》の虱《しらみ》を取らしめたまひき。かれその頭を見れば、呉公《むかで》多《さは》にあり。ここにその妻、椋《むく》の木の實と赤土《はに》とを取りて、その夫に授けつ。かれその木の實を咋ひ破り、赤土《はに》を含《ふく》みて唾《つば》き出だしたまへば、その大神、呉公《むかで》を咋ひ破りて唾き出だすとおもほして、心に愛《は》しとおもほして寢《みね》したまひき。ここにその神の髮を握《と》りて、その室の椽《たりき》ごとに結ひ著けて、五百引《いほびき》の石《いは》(一二)を、その室の戸に取り塞《さ》へて、その妻《みめ》須世理毘賣を負ひて、すなはちその大神の生大刀《いくたち》と生弓矢《いくゆみや》(一三)またその天の沼琴《ぬごと》(一四)を取り持ちて、逃げ出でます時に、その天の沼琴樹に拂《ふ》れて地|動鳴《なりとよ》みき。かれその寢《みね》したまへりし大神、聞き驚かして、その室を引き仆《たふ》したまひき。然れども椽に結へる髮を解かす間に遠く逃げたまひき。かれここに黄泉比良坂《よもつひらさか》に追ひ至りまして、遙《はるか》に望《みさ》けて、大穴牟遲《おほあなむぢ》の神を呼ばひてのりたまはく、「その汝が持てる生大刀生弓矢もちて汝が庶兄弟《あにおとども》をば、坂の御尾に追ひ伏せ、また河の瀬に追ひ撥《はら》ひて、おれ(一五)大國主の神となり、また宇都志國玉《うつしくにたま》の神(一六)となりて、その我が女須世理毘賣を嫡妻《むかひめ》として、宇迦《うか》の山(一七)の山本に、底津石根《そこついはね》に宮柱太しり、高天の原に氷椽《ひぎ》高しりて(一八)居れ。この奴《やつこ》」とのりたまひき。かれその大刀弓を持ちて、その八十神を追ひ避《さ》くる時に、坂の御尾ごとに追ひ伏せ、河の瀬ごとに追ひ撥ひて國作り始めたまひき(一九)。
 かれその八上比賣は先の期《ちぎり》のごとみとあたはしつ(二〇)。かれその八上比賣は、率《ゐ》て來ましつれども、その嫡妻《むかひめ》須世理毘賣を畏《かしこ》みて、その生める子をば、木の俣《また》に刺し挾みて返りましき。かれその子に名づけて木の俣の神といふ、またの名は御井《みゐ》の神といふ。

(一) クサビ形の矢。氷目矢とあるも同じ。
(二) 紀伊の國(和歌山縣)
(三) 家屋の神。イザナギ、イザナミの生んだ子の中にあつた。ただしスサノヲの命の子とする説がある。
(四) 既出、地下の國。
(五) 互に見合うこと。
(六) 古代建築にはムロ型とス型とある。ムロは穴を掘つて屋根をかぶせた形のもので濕氣の多い地では蟲のつくことが多い。スは足をつけて高く作る。どちらも原住地での習俗を移したものだろうが、ムロ型は亡びた。
(七) 蛇を支配する力のあるヒレ。ヒレは、白い織物で女子が頸にかける。これを振ることによつて威力が發生する。次のヒレも同じ。
(八) 射ると鳴りひびくように作つた矢。
(九) 入口は狹いが内部は廣い。古墳のあとだろうという。
(一〇) 葬式の道具。
(一一) 柱間の數の多い大きな室。
(一二) 五百人で引くほどの巨石。
(一三) 生命の感じられる大刀弓矢。
(一四) 美しいりつぱな琴。
(一五) 親愛の第二人稱。
(一六) 現實にある國土の神靈。
(一七) 島根縣出雲市出雲大社の東北の御埼山。
(一八) 壯大な宮殿建築をする意の常用句。地底の石に柱をしつかと建て、空中に高く千木をあげて作る。ヒギ、チギともいう。屋上に交叉して突出している材。今では神社建築に見られる。
(一九) 國土經營をはじめた。
(二〇) 婚姻した。

[#5字下げ]〔八千矛の神の歌物語〕[#「〔八千矛の神の歌物語〕」は小見出し]
 この八千矛《やちほこ》の神(一)、高志《こし》の國の沼河比賣《ぬなかはひめ》(二)を婚《よば》はむとして幸《い》でます時に、その沼河比賣の家に到りて(三)歌よみしたまひしく、
[#ここから2字下げ]
八千矛《やちほこ》の 神の命は、
八島國 妻|求《ま》ぎかねて、
遠遠し 高志《こし》の國に
賢《さか》し女《め》を ありと聞かして、
麗《くは》し女《め》を ありと聞《き》こして、
さ婚《よば》ひに あり立たし(四)
婚ひに あり通はせ、
大刀が緒も いまだ解かずて、
襲《おすひ》をも いまだ解かね(五)、
孃子《をとめ》の 寢《な》すや(六)板戸を
押《お》そぶらひ(七) 吾《わ》が立たせれば、
引こづらひ 吾《わ》が立たせれば、
青山に ※[#「空+鳥」、第3水準1-94-63]《ぬえ》(八)は鳴きぬ。
さ野《の》つ鳥 雉子《きぎし》は響《とよ》む。
庭つ鳥 鷄《かけ》は鳴く。
うれたくも(九) 鳴くなる鳥か。
この鳥も うち止《や》めこせね。
いしたふや(一〇) 天馳使《あまはせづかひ》(一一)、
事の 語りごとも こをば(一二)。  (歌謠番號二)
[#ここで字下げ終わり]
 ここにその沼河日賣《ぬなかはひめ》、いまだ戸を開《ひら》かずて内より歌よみしたまひしく、
[#ここから2字下げ]
八千矛《やちほこ》の 神の命。
ぬえくさの(一三) 女《め》にしあれば、
吾《わ》が心 浦渚《うらす》の鳥ぞ(一四)。
今こそは 吾《わ》鳥にあらめ。
後は 汝鳥《などり》にあらむを、
命は な死《し》せたまひそ(一五)。
いしたふや 天馳使、
事の 語りごとも こをば。  (歌謠番號三)
青山に 日が隱らば、
ぬばたまの(一六) 夜は出でなむ。
朝日の 咲《ゑ》み榮え來て、
※[#「木+孝」の「子」に代えて「丁」、第4水準2-14-59]綱《たくづの》の(一七) 白き腕《ただむき》
沫雪の(一八) わかやる胸を
そ叩《だた》き 叩きまながり
眞玉手 玉手差し纏《ま》き
股《もも》長に 寢《い》は宿《な》さむを。
あやに な戀ひきこし(一九)。
八千矛の 神の命。
事の 語りごとも こをば。  (歌謠番號四)
[#ここで字下げ終わり]
 かれその夜は合はさずて、明日《くるつひ》の夜|御合《みあひ》したまひき。
 またその神の嫡后《おほぎさき》須勢理毘賣《すせりびめ》の命、いたく嫉妬《うはなりねた》み(二〇)したまひき。かれその日子《ひこ》ぢの神(二一)侘《わ》びて、出雲より倭《やまと》の國に上りまさむとして、裝束《よそひ》し立たす時に、片御手は御馬《みま》の鞍に繋《か》け、片御足はその御鐙《みあぶみ》に蹈み入れて、歌よみしたまひしく、
[#ここから2字下げ]
ぬばたまの 黒き御衣《みけし》を
まつぶさに 取り裝《よそ》ひ(二二)
奧《おき》つ鳥(二三) 胸《むな》見る時、
羽《は》たたぎ(二四)も これは宜《ふさ》はず、
邊《へ》つ浪 そに脱き棄《う》て、
※[#「立+鳥」、第4水準2-94-7]鳥《そにどり》の(二五) 青き御衣《みけし》を
まつぶさに 取り裝ひ
奧つ鳥 胸見る時、
羽たたぎも こも宜《ふさ》はず、
邊つ浪 そに脱き棄《う》て、
山縣(二六)に 蒔《ま》きし あたねつき(二七)
染《そめ》木が汁《しる》に 染衣《しめごろも》を
まつぶさに 取り裝ひ
奧つ鳥 胸見る時、
羽たたぎも 此《こ》しよろし。
いとこやの(二八) 妹の命(二九)、
群《むら》鳥の(三〇) 吾《わ》が群れ往《い》なば、
引け鳥(三一)の 吾が引け往なば、
泣かじとは 汝《な》は言ふとも、
山跡《やまと》の 一本《ひともと》すすき
項《うな》傾《かぶ》し(三二) 汝が泣かさまく(三三)
朝雨の さ(三四)霧に立《た》たむぞ。
若草の(三五) 嬬《つま》の命。
事の 語りごとも こをば。  (歌謠番號五)
[#ここで字下げ終わり]
 ここにその后《きささ》 大御|酒杯《さかづき》を取らして、立ち依り指擧《ささ》げて、歌よみしたまひしく、
[#ここから2字下げ]
八千矛の 神の命や、
吾《あ》が大國主。
汝《な》こそは 男《を》にいませば、
うち※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]《み》る(三六) 島(三七)の埼埼
かき※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]《み》る 磯の埼おちず(三八)、
若草の 嬬《つま》持たせらめ(三九)。
吾《あ》はもよ 女《め》にしあれば、
汝《な》を除《き》て(四〇) 男《を》は無し。
汝《な》を除て 夫《つま》は無し。
文垣《あやかき》の ふはやが下に(四一)、
蒸被《むしぶすま》 柔《にこや》が下に(四二)、
※[#「木+孝」の「子」に代えて「丁」、第4水準2-14-59]被《たくぶすま》 さやぐが下に(四三)、
沫雪《あわゆき》の わかやる胸を
※[#「木+孝」の「子」に代えて「丁」、第4水準2-14-59]綱《たくづの》の 白き臂《ただむき》
そ叩《だた》き 叩きまながり(四四)
ま玉手 玉手差し纏《ま》き
股長《ももなが》に 寢《い》をしなせ。
豐御酒《とよみき》 たてまつらせ(四五)。  (歌謠番號六)
[#ここで字下げ終わり]
 かく歌ひて、すなはち盞《うき》結《ゆ》ひして(四六)、項懸《うなが》けりて(四七)、今に至るまで鎭ります。こを神語《かむがたり》(四八)といふ。

(一) 多くの武器のある神の義。大國主の神の別名。三八頁[#「三八頁」は「須佐の男の命」の「系譜」]參照。
(二) 北越の沼河の地の姫。ヌナカハは今の糸魚川町附近だという。
(三) 男子が夜間女子の家を訪れるのが古代の婚姻の風習である。
(四) ヨバヒは、呼ぶ義で婚姻を申し入れる意。サは接頭語。アリタタシは、お立ちになつて。動詞の上につけるアリは在りつつの意。タタシは立つの敬語。
(五) オスヒをもまだ解かないのに。オスヒは通例の服裝の上に著る衣服。禮裝、旅裝などに使用する。トカネは解かないのにの意。
(六) ナスは寢るの敬語。ヤは感動の助詞で調子をつけるために使う。
(七) 押しゆすぶつて。
(八) 今トラツグミという鳥。夜間飛んで鳴く。
(九) 歎かわしいことに。
(一〇) イ下フで、下方にいる意だろう。イは接頭語。ヤは感動の助詞。
(一一) 走り使いをする部族。アマは神聖なの意につける。この種の歌を語り傳える部族。
(一二) この事をば。この通りです。
(一三) 譬喩による枕詞。なえた草のような。
(一四) 水鳥です。おちつかない譬喩。
(一五) おなくなりなさるな。
(一六) 譬喩による枕詞。カラスオウギの實は黒いから夜に冠する。
(一七) 同前。楮で作つた綱は白い。
(一八) 同前。アワのような大きな雪。
(一九) たいへんに戀をなさいますな。
(二〇) 第二の妻に對する憎み。
(二一) 夫の神。
(二二) 十分に著用して。
(二三) 譬喩による枕詞。水鳥のように胸をつき出して見る。
(二四) 奧つ鳥と言つたので、その縁でいう。身のこなし。
(二五) 譬喩による枕詞。カワセミ。青い鳥。
(二六) 山の料地。
(二七) アタネは、アカネに同じというが不明。アカネはアカネ科の蔓草。根をついてアカネ色の染料をとる。
(二八) イトコは親愛なる人。ヤは接尾語。
(二九) 女子の敬稱。
(三〇) 譬喩による枕詞。
(三一) 同前。空とおく引き去る鳥。
(三二) 首をかしげて。うなだれて。
(三三) お泣きになることは。マクは、ムコトに相當する。
(三四) 眞福寺本、サに當る字が無い。
(三五) 譬喩による枕詞。
(三六) このミルは、原文「微流」。微は、古代のミの音聲二種のうちの乙類に屬し、甲類の見るのミの音聲と違う。それで※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]る意であり、ここは※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]つているの意(有坂博士)で次の語を修飾する。
(三七) シマは水面に臨んだ土地。はなれ島には限らない。
(三八) 磯の突端のどこでも。
(三九) お持ちになつているでしよう。モタセ、持ツの敬語の命令形。ラ、助動詞の未然形。メ、助動詞ムの已然形で、上の係助詞コソを受けて結ぶ。
(四〇) 汝をおいては。
(四一) 織物のトバリのふわふわした下で。
(四二) あたたかい寢具のやわらかい下で。
(四三) 楮の衾のざわざわする下で。
(四四) 叩いて抱きあい。
(四五) めしあがれ。奉るの敬語の命令形。
(四六) 酒盃をとりかわして約束して。
(四七) 首に手をかけて。
(四八) 以上の歌の名稱で、以下この種の名稱が多く出る。これは歌曲として傳えられたのでその歌曲としての名である。この八千矛の神の贈答の歌曲は舞を伴なつていたらしい。

[#5字下げ]〔系譜〕[#「〔系譜〕」は小見出し]
 かれこの大國主の神、※[#「匈/(胃−田)」、49-本文-6]形《むなかた》の奧津宮《おきつみや》にます神、多紀理毘賣の命(一)に娶《あ》ひて生みませる子、阿遲※[#「金+且」、第3水準1-93-12]高日子根《あぢすきたかひこね》の神。次に妹|高比賣《たかひめ》の命(二)。またの名は下光《したて》る比賣《ひめ》の命(三)。この阿遲※[#「金+且」、第3水準1-93-12]高日子根の神は、今|迦毛《かも》の大御神(四)といふ神なり。
 大國主の神、また神屋楯《かむやたて》比賣の命(五)に娶ひて生みませる子、事代《ことしろ》主の神(六)。また八島牟遲《やしまむぢ》の神の女|鳥取《とりとり》の神(七)に娶ひて生みませる子、鳥鳴海《とりなるみ》の神。この神、日名照額田毘道男伊許知邇《ひなてりぬかたびちをいこちに》の神(八)に娶ひて生みませる子、國忍富《くにおしとみ》の神。この神、葦那陀迦《あしなだか》の神またの名は八河江比賣《やがはえひめ》に娶ひて生みませる子、連甕《つらみか》の多氣佐波夜遲奴美《たけさはやぢぬみ》の神。この神、天の甕主《みかぬし》の神の女|前玉比賣《さきたまひめ》に娶ひて生みませる子、甕主日子《みかぬしひこ》の神。この神、淤加美《おかみ》の神(九)の女|比那良志《ひならし》毘賣に娶ひて生みませる子、多比理岐志麻美《たひりきしまみ》の神。この神、比比羅木《ひひらぎ》のその花麻豆美《はなまづみ》の神の女|活玉前玉《いくたまさきたま》比賣の神に娶ひて生みませる子、美呂浪《みろなみ》の神。この神、敷山主《しきやまぬし》の神の女|青沼馬沼押《あをぬまぬおし》比賣に娶ひて生みませる子、布忍富鳥鳴海《ぬのおしとみとりなるみ》の神。この神、若晝女《わかひるめ》の神に娶ひて生みませる子、天の日腹大科度美《ひばらおほしなどみ》の神。この神、天の狹霧《さぎり》の神の女|遠津待根《とほつまちね》の神に娶ひて生みませる子、遠津山岬多良斯《とほつやまざきたらし》の神。
[#ここから2字下げ]
右の件《くだり》、八島士奴美《やしまじぬみ》の神より下、遠津山岬|帶《たらし》の神より前、十七世《とをまりななよ》の神といふ。
[#ここで字下げ終わり]

(一) 既出三〇頁[#「三〇頁」は「天照らす大神と須佐の男の命」の「誓約」]參照。
(二) 以上二神、五七頁[#「五七頁」は「天照らす大御神と大國主の神」の「國讓り」]に神話がある。
(三) 光りかがやく姫の義。美しい姫。
(四) 奈良縣南葛城郡葛城村にある神社の神。
(五) 系統不明。
(六) 五七頁[#「五七頁」は「天照らす大御神と大國主の神」の「國讓り」]に神話がある。その條參照。
(七) 鳥耳の神、鳥甘の神とする傳えもある。
(八) 誤りがあつて、もと何の神の女の何とあつたらしいが不明。
(九) 水の神。

[#5字下げ]〔少名毘古那の神〕[#「〔少名毘古那の神〕」は小見出し]
 かれ大國主の神、出雲の御大《みほ》の御前《みさき》(一)にいます時に、波の穗より(二)、天の羅摩《かがみ》の船(三)に乘りて、鵝《ひむし》の皮を内剥《うつは》ぎに剥ぎて(四)衣服《みけし》にして、歸《よ》り來る神あり。ここにその名を問はせども答へず、また所從《みとも》の神たちに問はせども、みな知らずと白《まを》しき。ここに多邇具久《たにぐく》(五)白して言《まを》さく、「こは久延毘古《くえびこ》(六)ぞかならず知りたらむ」と白ししかば、すなはち久延毘古を召して問ひたまふ時に答へて白さく、「こは神産巣日《かむむすび》の神の御子|少名毘古那《すくなびこな》の神なり」と白しき。かれここに神産巣日|御祖《みおや》の命に白し上げしかば、「こは實《まこと》に我が子なり。子の中に、我が手俣《たなまた》より漏《く》きし子なり。かれ汝《いまし》葦原色許男《あしはらしこを》の命と兄弟《はらから》となりて、その國作り堅めよ」とのりたまひき。かれそれより、大穴牟遲と少名毘古那と二柱の神相並びて、この國作り堅めたまひき。然ありて後には、その少名毘古那の神は、常世《とこよ》の國(七)に度りましき。かれその少名毘古那の神を顯し白しし、いはゆる久延毘古《くえびこ》は、今には山田の曾富騰《そほど》(八)といふものなり。この神は、足はあるかねども、天の下の事を盡《ことごと》に知れる神なり。

(一) 島根縣八束郡美保の岬。
(二) 波の高みに乘つて。
(三) カガミはガガイモ科の蔓草。ガガイモ。その果實は莢でありわれると白い毛のある果實が飛ぶ。それをもとにした神話。
(四) 蛾の皮をそつくり剥いで。
(五) ひきがえる。谷潛りの義。
(六) かがし。こわれた男の義。
(七) 海外の國。三三頁[#「三三頁」は「天照らす大神と須佐の男の命」の「天の岩戸」]脚註參照。
(八) かがしに同じ。

[#5字下げ]〔御諸の山の神〕[#「〔御諸の山の神〕」は小見出し]
 ここに大國主の神愁へて告りたまはく、「吾獨して、如何《いかに》かもよくこの國をえ作らむ。いづれの神とともに、吾《あ》はよくこの國を相作《つく》らむ」とのりたまひき。この時に海を光《て》らして依り來る神あり。その神の言《の》りたまはく、「我《あ》が前《みまへ》をよく治めば(一)、吾《あれ》よくともどもに相作り成さむ。もし然あらずは、國成り難《がた》けむ」とのりたまひき。ここに大國主の神まをしたまはく、「然らば治めまつらむ状《さま》はいかに」とまをしたまひしかば答へてのりたまはく、「吾《あ》をば倭《やまと》の青垣《あをかき》の東の山の上《へ》に齋《いつ》きまつれ(二)」とのりたまひき。こは御諸《みもろ》の山の上にます神(三)なり。

(一) わたしをよく祭つたなら。神が現れていう時のきまつた詞。
(二) 大和の國の東方の青い山の上に祭れ。
(三) 奈良縣磯城郡三輪山の大神《おおみわ》神社の神。その神社の起原神話。

[#5字下げ]〔大年の神の系譜〕[#「〔大年の神の系譜〕」は小見出し]
 かれその大年の神(一)、神活須毘《かむいくすび》の神の女|伊怒《いの》比賣に娶ひて生みませる子、大國御魂《おほくにみたま》の神。次に韓《から》の神。次に曾富理《そほり》の神。次に白日《しらひ》の神。次に聖《ひじり》の神(二)五神[#「五神」は1段階小さな文字]。又|香用《かぐよ》比賣に娶ひて生みませる子、大香山戸臣《おほかぐやまとみ》の神。次に御年《みとし》の神二柱[#「二柱」は1段階小さな文字]。また天知《あめし》る迦流美豆《かるみづ》比賣に娶ひて生みませる子、奧津日子《おきつひこ》の神。次に奧津比賣《おきつひめ》の命、またの名は大戸比賣《おほへひめ》の神。こは諸人のもち拜《いつ》く竈《かまど》の神なり。次に大山咋《おほやまくひ》の神。またの名は末《すゑ》の大主《おほぬし》の神。この神は近つ淡海《あふみ》の國の日枝《ひえ》の山にます(三)。また葛野《かづの》の松の尾にます(四)、鳴鏑《なりかぶら》を用《も》ちたまふ神なり。次に庭津日《にはつひ》の神。次に阿須波《あすは》の神。次に波比岐《はひき》の神(五)。次に香山戸臣《かぐやまとみ》の神。次に羽山戸《はやまと》の神。次に庭《には》の高津日《たかつひ》の神。次に大土《おほつち》の神。またの名は土《つち》の御祖《みおや》の神[#割り注]九神[#割り注終わり]。
[#ここから2字下げ]
上の件、大年の神の子、大國御魂の神より下、大土の神より前、并せて十六神《とをまりむはしら》。
[#ここで字下げ終わり]
 羽山戸の神、大氣都比賣《おほげつひめ》の神に娶ひて生みませる子、若山咋《わかやまくひ》の神。次に若年の神。次に妹|若沙那賣《わかさなめ》の神。次に彌豆麻岐《みづまき》の神。次に夏の高津日《たかつひ》の神。またの名は夏の賣《め》の神。次に秋毘賣《あきびめ》の神。次に久久年《くくとし》の神。次に久久紀若室葛根《くくきわかむろつなね》の神。
[#ここから2字下げ]
上の件、羽山戸の神の子、若山咋の神より下、若室葛根の神より前、并はせて八神。
[#ここで字下げ終わり]

(一) 穀物のみのりの神靈。三八頁[#「三八頁」は「須佐の男の命」の「系譜」]に出た。この神の系譜は、穀物の耕作の經過の表示。
(二) これも穀物のみのりの神。
(三) 滋賀縣滋賀郡坂本の日枝神社。
(四) 京都市右京區にある松尾神社。
(五) 以上二神、家の敷地の神。祈年祭の祝詞に見える。

(つづく)



底本:「古事記」角川文庫、角川書店
   1956(昭和31)年5月20日初版発行
   1965(昭和40)年9月20日20版発行
底本の親本:「眞福寺本」
※底本は校注が脚註の形で配置されています。このファイルでは校註者が追加した標題ごとに、書き下し文、校注の順序で編成しました。
※(一)〜(五五)は注釈番号です。底本では、直前の文字の右横に、ルビのように漢数字のみ付いています。このファイルでは本文の漢数字との混同を避けるため(漢数字)で表しました。
※〔〕は底本の親本にはないもので、校註者が補った箇所を表します。
※頁数を引用している箇所には校註者が追加した標題を注記しました。
※底本は書き下し文のみ歴史的かなづかいで、その他は新かなづかいです。なお拗音・促音は小書きではありません。
入力:川山隆
校正:しだひろし
YYYY年MM月DD日作成
青空文庫作成ファイル:
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*地名

(※ 市町村名は、平成の大合併以前の表記のまま。一般的な国名・地名などは解説省略。
  • 根の堅州国 → 根の国
  • 根の国 ねのくに 地底深く、また海の彼方など遠くにあり、現世とは別にあると考えられた世界。死者がゆくとされた。黄泉の国。根の堅洲国。
  • 高天の原 たかまのはら 高天原。(1) 日本神話で、天つ神がいたという天上の国。天照大神が支配。「根の国」や「葦原の中つ国」に対していう。たかまがはら。(2) 大空。
  • 八島国 → 大八島国・大八島
  • 大八島国 おおやしまぐに 大八洲国・大八島国。(→)「おおやしま」に同じ。
  • 大八洲・大八島 おおやしま (多くの島から成る意)日本国の古称。おおやしまぐに。
  • 常世の国 とこよのくに (1) 古代日本民族が、はるか海の彼方にあると想定した国。常の国。(2) 不老不死の国。仙郷。蓬莱山。(3) 死人の国。よみのくに。よみじ。黄泉。
  • [高志の国] こしのくに
  • 越・高志 こし (→)「こしのくに(越の国)」に同じ。
  • 越の国 こしのくに 北陸道の古称。高志国。こしのみち。越。越路。
  • 北越 ほくえつ 越の国の北部。一般に越中国と越後国とを指すが、主として越後をいう。
  • 糸魚川町 いといがわまち 現、糸魚川市。越後国南西部を扼する地方。山岳が海岸近くまで迫り、日本海に流入する数本の河川流域に人が居住する。姫川が最も大きな川で、この川に沿って古代から信濃と越後を結ぶ交易の道が形成。北陸道の要衝でもあり、越中口への備えとしても軍事的・経済的に重視された。
  • [近つ淡海の国] 近つ淡海・近江 ちかつ おうみ 浜名湖を「遠つ淡海」というのに対して、琵琶湖の称。また、近江の古称。
  • [滋賀県]
  • 近江・淡海 おうみ (アハウミの転。淡水湖の意で琵琶湖を指す)旧国名。今の滋賀県。江州。
  • 日枝の山 ひえのやま → 日枝神社
  • 滋賀郡 しがぐん 近江国・滋賀県にあった郡。
  • 坂本 さかもと 滋賀県比叡山の東麓の地名(現、大津市の一部)。延暦寺の門前町。日吉神社・西教寺・坂本城址などがある。
  • 日枝神社 ひえ じんじゃ 滋賀県大津市坂本(比叡山東麓)にある元官幣大社。東本宮に大山咋神、西本宮に大己貴神をまつる。古来、山王・山王権現または山王二十一社と称し、朝廷の尊崇が厚かった。例祭は4月14日で日吉祭・山王祭と呼び著名。二十二社の一つ。日吉山王。ひよし。今は日吉大社と称。
  • [京都]
  • 葛野 かずの 現、京都市。今の桂川の平野。/村名か。現、熊野郡久美浜町字葛野。西天橋(さいてんきょう、小天橋)の根元、北の丘を背にし、東から南は佐濃谷川下流の沖積平地、西から南は久美浜湾に面して集落をつくる。
  • 松の尾 まつのお 山名、松尾山か。現、西京区嵐山。松尾大社社殿の背後、西方の峰で標高223m。山は七つの谷に分かれ、社務所裏の大杉谷には霊亀の滝がかかり、崖下から霊泉亀の井が湧出する。松尾社は酒の神としても信仰されている。松尾の神使は亀。
  • 京都市 きょうとし 京都府南東部に位置する市。府庁所在地。政令指定都市の一つ。794年(延暦13)桓武天皇の奠都以来一千有余年の都。平安京と称。皇室との関係が深く、御所・仙洞御所・大宮御所、修学院・桂離宮があり、また、美術工芸の中心で、平安時代以後の絵画・彫刻・建築・工芸の代表作を網羅。社寺が多い。宗教都市・観光都市。旧市街は碁盤目状街路をなす。人口147万5千。西京。京。
  • 右京区 うきょうく 京都市西部、桂川の東岸にあたり、北部一帯は山地、南部は盆地をなす。
  • 松尾神社 まつお じんじゃ → 松尾大社
  • 松尾大社 まつのお たいしゃ 京都市西京区嵐山にある元官幣大社。祭神は大山咋命・中津島(市杵島)姫命。もと松尾山に祭られた。二十二社の一つ。
  • [倭の国] やまとのくに
  • [奈良県]
  • 倭国・和国 わこく (1) 漢代以来、中国から日本を言った称。(2) 日本の自称。
  • 大和・倭 やまと (「山処(やまと)」の意か) (1) 旧国名。今の奈良県の管轄。もと、天理市付近の地名から起こる。初め「倭」と書いたが、元明天皇のとき国名に2字を用いることが定められ、「倭」に通じる「和」に「大」の字を冠して大和とし、また「大倭」とも書いた。和州。
  • 南葛城郡 みなみかつらぎぐん 明治30(1897)葛上郡と忍海郡が合併してできた郡。現、御所市全域・現、北葛城郡新庄町南半にほぼ相当。
  • 葛城村 かつらぎむら 現、御所市。葛城・葛木と書き、現在、カツラギ・カツラキと発音する。記紀ではカヅラキと読む。明治に金剛山東面山麓一帯の地域に葛城の村名を復活、隣村の巨勢郡では「城」を省略して葛(くず)村とした。
  • 磯城郡 しきぐん 奈良県の郡。奈良盆地中央部の低平地。ほぼ東境から北境を初瀬川(大和川上流)が流れ、北端で大和川に注ぐ。
  • 三輪山 みわやま 奈良県桜井市にある山。標高467m。古事記崇神天皇の条に、活玉依姫と蛇神美和の神とによる地名説明伝説が見える。三諸山。
  • 大神神社 おおみわ じんじゃ 奈良県桜井市三輪にある元官幣大社。祭神は大物主大神。大己貴神・少彦名神を配祀。日本最古の神社で、三輪山が神体。本殿はない。酒の神として尊崇される。二十二社の一つ。大和国一の宮。すぎのみやしろ。三輪明神。
  • 三輪山説話 みわやま せつわ 神婚説話のうち、神仙を男性とするものの代表的形式の一つ。命名は、夜ごとに女を尋ね来る男の素姓を確かめるため、衣服につけた糸をたどって大和の三輪山に着いたという古事記の話による。
  • 御諸の山 みもろのやま 御諸山。ミモロは、神座をいい、ひいて神社のある所をいふ。ここは葛城の三諸。現、三輪山。
  • [木の国]
  • [紀伊の国] きいのくに (キ(木)の長音的な発音に「紀伊」と当てたもの)旧国名。大部分は今の和歌山県、一部は三重県に属する。紀州。紀国。
  • [和歌山県]
  • [因幡] いなば 旧国名。今の鳥取県の東部。因州。
  • [鳥取県]
  • 稲羽 いなば 郷名か。袋川中流域の鳥取平野北東部、現、鳥取市と国府町にまたがる地域に比定される。郷内に国府が置かれた因幡の政治的中心であり、国名も当郷名に由来すると考えられる。
  • 気多の前 けたのさき 気多の埼。因幡国北西部にあった郡。現在の鳥取県気高郡にあたる。気多岬は郡内に比定。(日本史)
  • 八頭郡 やずぐん 鳥取県東部の郡。
  • 八上 やがみ 村名か。明治44年に曳田村が八上村と改称。現、河原町。八頭郡の北西部に位置する。
  • 気高郡 けたかぐん 鳥取県にあった郡。かつては、旧鳥取市の千代川以西の地域も含まれていた。
  • 末恒村 すえつねむら 現、鳥取市。旧高草郡から気高郡に編入され、のち鳥取市に編入。市の西部にあたる。
  • 西伯郡 さいはくぐん 明治29(1896)、汗入郡と会見郡が合併して成立。県の西部に位置し、北は日本海に面する。北部は大山北麓の丘陵と平野、南部は大山を含む山岳地帯、西部は日野川とその支流域の平野からなる。郡名は伯耆国の西に位置することによる。
  • 天津村 あまつむら? 現、西伯郡西伯町。明治22年、会見郡天津村が成立、同29年会見郡は汗入郡と合併して西伯郡となる。昭和30(1955)、西伯町となる。西伯郡の南西端に位置する。
  • [伯伎の国] ははきのくに
  • 伯耆 ほうき 旧国名。今の鳥取県の西部。伯州。
  • 手間の山本 てまのやまもと
  • 手間村 てまむら 村名。現、鳥取県西伯郡会見町天万村。てんま、とも。
  • [出雲国]
  • [島根県]
  • 肥の河 ひのかわ → 簸川、斐伊川
  • 簸川 ひのかわ 日本神話に出る出雲の川の名。川上で素戔嗚命が八岐大蛇を退治したという。島根県の東部を流れる斐伊川をそれに擬する。
  • 鳥髪 とりかみ 鳥上。肥の川上流。現、船通山。島根県横田町と鳥取県日野郡日南町との県境にまたがる山で標高1142.5m。古代から出雲・伯耆の国境をなす。横田町を西流する斐伊川上流に位置する。『出雲国風土記』仁多郡には鳥上山とある。(地名)
  • 須賀 すが 現、島根県大原郡大東町須賀。赤川の支流須賀川中流域に位置する。諏訪村。(地名)
  • 須賀の宮 すがのみや (1) 現、鳥取県日野郡日野町根雨神社。社伝などによれば、出雲国須賀宮から勧請したため須賀宮と称し、源平争乱の頃に京都から日野郡へ配流された長谷部信連が当社を京都祇園社に見立て、以後、祇園社・牛頭天王と称したという。(2) 出雲国須賀宮。現、島根県大原郡大東町須賀。須賀神社。赤川の支流須賀川中流域に位置する。須賀神社は、『出雲国風土記』大原にみえる須我社に比定される。
  • 仁多郡 にたぐん 島根県の郡。奥出雲町の一町からなる。出雲国風土記では、「豊かな土地」という意味の『仁以多地』と呼ばれたところから名付けられたと言われている。また、「にた」の『丹(に)』がこの地方特有の赤土を意味するとの説もある。
  • 斐伊川 ひいかわ 鳥取・島根県境の船通山(標高1142m)中に発源し、宍道湖西端に注ぐ川。下流部は天井川。八岐大蛇伝説で知られる。長さ75km。簸川。
  • 船通山 斐伊川の上流。
  • 大原郡 おおはらぐん 島根県にあった郡。現、雲南市。旧出雲国中央部にあった郡。
  • 出雲市 いずもし 島根県北東部、出雲平野の中心にある市。室町時代以降市場町として発展。紡績・酒造などの工業が発達。人口14万6千。
  • 出雲大社 いずも たいしゃ 島根県出雲市大社町杵築東にある元官幣大社。祭神は大国主命。天之御中主神・高皇産霊神・神皇産霊神・宇麻志阿志軻備比古遅命・天之常立神を配祀。社殿は大社造と称し、日本最古の神社建築の様式。出雲国一の宮。いずものおおやしろ。杵築大社。
  • 御埼山 出雲大社の東北。
  • 御大の御前 みほのみさき/みほのさき 三穂之埼。現、島根県八束郡美保関町の東部地域を占めた中世郷。美保。島根半島の東端に位置。
  • 八束郡 やつかぐん 明治29年(1896)島根郡・秋鹿郡・意宇郡が合併して成立。県北部に位置。郡中央部に松江市があり、南西部には宍道湖が広がり、北は日本海に面する。
  • 美保の岬 → 御大の御前
  • 宇迦の山 うかのやま 宇迦能山。現、島根県簸川郡大社町の出雲御埼山か。
  • 黄泉比良坂 よもつひらさか 安来市の隣、東出雲町と比定されている。
  • [隠岐国]
  • 淤岐の島 おきのしま → 隠岐島
  • 隠岐 おき 中国地方の島。旧国名。山陰道の一国。今、島根県に属する。隠州。 → 隠岐島
  • 隠岐島 おきのしま 島根県に属し、本州の北約50km沖にある島。最大島の島後と島群である島前とから成る。後鳥羽上皇・後醍醐天皇の流された地。大山隠岐国立公園に属する。隠岐諸島。
  • [福岡県]
  • 形の奥津宮 むなかたの おきつみや → 宗像神社
  • 宗像神社 むなかた じんじゃ 福岡県宗像市にある元官幣大社。祭神は田心姫命・湍津姫命・市杵島姫命で、玄界灘の沖ノ島にある沖津宮、大島の中津宮、内陸にある辺津宮の三宮に祀る。沖ノ島の祭祀遺跡は著名。宗像大社。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本神名辞典 第二版』(神社新報社、1995.6)。




*人物一覧

(人名、および組織・団体名・神名)
  • 大気都比売の神 おおげつひめのかみ 大宜津比売。(「け」は食物)食物をつかさどる女神。古事記で、鼻・口・尻から種々の食物を取り出して奉り、穢らわしいとして素戔嗚尊に殺されたが、死体から五穀が化生した。日本書紀では保食神。
  • 速須佐の男の命 はやすさのおのみこと 素戔嗚尊・須佐之男命。日本神話で、伊弉諾尊の子。天照大神の弟。凶暴で、天の岩屋戸の事件を起こした結果、高天原から追放され、出雲国で八岐大蛇を斬って天叢雲剣を得、天照大神に献じた。また新羅に渡って、船材の樹木を持ち帰り、植林の道を教えたという。
  • 大宜津比売の神 おおげつひめのかみ → 大気都比売の神
  • 神産巣日御祖の命 かむむすび みおやのみこと → 神産巣日神か
  • 神産巣日神・神皇産霊神 かみむすひのかみ 記紀神話で天地開闢の際、天御中主神・高皇産霊神と共に高天原に出現したと伝える神。造化三神の一神。女神ともいう。かむみむすひのかみ。
  • 大山津見の神 おおやまつみのかみ 大山祇神。山をつかさどる神。伊弉諾尊の子。
  • 足名椎 あしなづち/あしなずち 足名椎・脚摩乳。記紀神話で出雲の国つ神大山祇神の子。簸川の川上に住んだ。妻は手名椎。娘奇稲田媛は素戔嗚尊と結婚。
  • 手名椎 てなづち → 参照:足名椎
  • 櫛名田比売 くしなだひめ 奇稲田姫・櫛名田姫。(クシイナダヒメとも)出雲国の足名椎・手名椎の女。素戔嗚尊の妃となる。稲田姫。
  • 天照らす大御神 あまてらす おおみかみ 天照大神・天照大御神。伊弉諾尊の女。高天原の主神。皇室の祖神。大日�t貴とも号す。日の神と仰がれ、伊勢の皇大神宮(内宮)に祀り、皇室崇敬の中心とされた。
  • 稲田の宮主須賀の八耳の神 いなだのみやぬしすがのやつみみのかみ 八俣のおろち退治後、須賀に宮を作ったスサノオ命がその宮の首として足名椎にあたえた名。名義は、稲田の宮殿の長である、須賀の地の多くの神霊の意とされる。須賀は島根県大原郡大東町須賀。(神名)
  • 八島士奴美の神 やしまじぬみのかみ スサノオ命の子。母は櫛名田比売。木花知流比売との間に布波能母(遅)久奴須(奴)神を設ける。名義は多くの島々(八嶋)を領有する意とされる。スサノオ命の系譜中、第一番目にその名があげられる。五世孫に大国主神がいる(神名)。
  • 神大市比売 かむおおちひめ 大山津見の神の女。スサノオの妻となりオオトシの神とウカノミタマを生んだ。
  • 大年の神 おおとしのかみ 大年神・大歳神。穀物の守護神。
  • 宇迦の御魂 うかのみたま 倉稲魂・稲魂。食物、殊に稲をつかさどる神。「うかたま」「うけのみたま」とも。
  • 木の花知流比売 このはなちるひめ 大山津見の神の女。スサノオの子・八島士奴美神の妻となり、フワノモジクヌスヌの神を生む。
  • 布波能母遅久奴須奴の神 ふわのもじくぬすぬのかみ スサノオ命の子・八嶋士奴美神と木花知流比売との間に生まれた神。淤迦美神の女日河比売を妻として、子には深淵之水夜礼花神がいる。四世の孫に大国主神がいる(神名)。
  • 淤迦美の神 おかみのかみ スサノオ命の孫布波能母遅久奴須奴神の妻となる日河比売の父。五世孫に大国主神がいる。大国主神の四世の孫甕主日子神の妻となる比那良志毘売の父でもある。水をつかさどる神。(神名)
  • 日河比売 ひかわひめ 淤加美神の娘。日は霊(ひ)の意で、霊的な川に仕える巫女という。(神名)
  • 深淵の水夜礼花の神 ふかふちのみずやれはなのかみ 父はスサノオ命の孫布波能母遅久奴須奴神。母は淤迦美神の女日向比売。天之都度閇知泥神を妻として、淤美豆奴神を生む。曽孫に大国主神がいる。深淵は、水の淀んだ深い淵の意。水夜礼花は一説に、夜礼は遣れで、花は端であるとして、深い淵の水が流れはじめる様子を叙した、水の運行の神格化であるという。(神名)
  • 天の都度閇知泥の神 あめのつどへちねのかみ スサノオ命の曽孫深淵之水夜礼花神の妻となり、淤美豆奴神を生む。大国主神は曽孫にあたる。都度閇は集え、知は直(この場合は水路)、泥は親称であるとして、天上界の集められた水路の神格化ともいう。(神名)
  • 淤美豆奴の神 おみづぬのかみ 大水の主の神の意とされる。父は深淵之水夜礼花神。母は天之都度閇知泥神。布怒豆奴神の女布帝耳神との間に天之冬衣神を生む。大国主神はこの神の孫にあたる。『出雲国風土記』では、「国引坐八束水臣津野命」と東西にわたって国引き神話の主人公として載る。一方、「赤衾伊努意保須美比古佐倭気能命」(出雲郡伊努郷)の父として祖神的存在として登場する。(神名)
  • 布怒豆怒の神 ふのづの/ふのづぬのかみ 淤美豆奴神(スサノオ命の四世の孫、大国主神の祖父)の妻となる布帝耳神の親神。名義不詳。(神名)
  • 布帝耳の神 ふてみみのかみ 布怒豆怒神の女。淤美豆奴神(スサノオ命の四世の孫、大国主神の祖父)の妻となり、天之冬衣神を生む。名義不詳。(神名)
  • 天の冬衣の神 あめのふゆぎぬのかみ スサノオ命の五世の孫。父は淤美豆奴神。母は布怒豆怒神の女布帝耳神。刺国大神の女刺国若比売を娶って、大国主神を生む。名義については、冬来の神とする説や、天上界の冬の着物の意としたり、さらに、増巾衣(ふゆきぬ)として、衣類の豊かなことを讃えた名とする説があるが、なお不詳。(神名)
  • 刺国大の神 さしくにおおのかみ/さしくにのおおかみ 刺国若比売(スサノオ命五世の孫、天之冬衣神の妻、大国主神の母)の父神。刺は杖などの標(占有の標識)を刺すことで、国土を占有する神(あるいは親神)の意とする説がある。(神名)
  • 刺国若比売 さしくにわかひめ 刺国大神の女。スサノオ命の五世の孫、天之冬衣神の妻となり、大国主神を生む。(神名)
  • 大国主の神 またの名は大穴牟遅の神といい、またの名は葦原色許男の神といい、またの名は八千矛の神といい、またの名は宇都志国玉の神。 → 大国主命
  • 大国主命 おおくにぬしのみこと 日本神話で、出雲国の主神。素戔嗚尊の子とも6世の孫ともいう。少彦名神と協力して天下を経営し、禁厭・医薬などの道を教え、国土を天孫瓊瓊杵尊に譲って杵築の地に隠退。今、出雲大社に祀る。大黒天と習合して民間信仰に浸透。大己貴神・国魂神・葦原醜男・八千矛神などの別名が伝えられるが、これらの名の地方神を古事記が「大国主神」として統合したもの。
  • 大穴牟遅の神 おおあなむじのかみ/おおなむちのかみ 大己貴神・大穴牟遅神・大汝神。大国主命の別名。大名持神とも。
  • 葦原色許男の神 あしはらしこおのかみ 古事記で大国主命の別名。播磨風土記では天之日矛と国の占有争いをする神。
  • 八千矛の神 やちほこのかみ (「多くの矛の神」の意)古事記で、大国主命の異称。神語に歌われる。
  • 宇都志国玉の神 うつしくにたまのかみ 現実の国土の神霊の意。大国主神の別称。
  • 八束水臣津野の命 やつかみずおみつののみこと 『出雲風土記』の国引きの神のことで、この神の詔が出雲、島根、意宇の地名の起源であると伝える。淤美豆奴神、参照。(神名)
  • 八上比売 やかみ/やがみひめ 古事記神話で、大穴牟遅神とその兄弟の八十神とに求婚され、大穴牟遅神の妻になった神。
  • 御祖の命 みおやのみこと 御祖神。神祖尊・御祖命ともいう。皇統の祖神であるイザナギ神や各氏族の祖神(例、賀茂御祖神・大歳御祖神)をいう。(神名)
  • 神産巣日の命 かむむすびのみこと 神産巣日神・神皇産霊神。記紀神話で天地開闢の際、天御中主神・高皇産霊神と共に高天原に出現したと伝える神。造化三神の一神。女神ともいう。かむみむすひのかみ。
  • 貝比売 きさがいひめ 赤貝を神格化した女神の義という。和名抄に(赤貝の意)に木佐の訓をつける。記では、兄弟の八十神たちのために、大きな焼き石の下敷となって殺された大穴牟遅神を、神産巣日神の命令の下、蛤貝比売と共に蘇生させたことを伝える。(神名)
  • 蛤貝比売 うむがいひめ 蛤貝姫。蛤を神格化した神の義という。和名抄に海蛤の訓を宇無木乃加比と付す。大穴牟遅神を貝比売と共に蘇生させた神。(神名)
  • 大屋毘古の神 おおやびこのかみ 家宅六神のうち5番目に産まれた神。葺き終わった屋根を表す。災厄を司る大禍津日神と同神。大国主の神話に登場し、五十猛神の別名ともされる「大屋毘古神」とは別神とされる。
  • 須勢理毘売 すせりびめ 古事記神話で須佐之男命の女。大国主命の苦難を助けて嫡妻となる。
  • 須世理毘売 すせりびめ → 須勢理毘売
  • 木の俣の神 きのまたのかみ 大穴牟遅神が因幡の八上比売に生ませた神。またの名は御井の神。
  • 御井の神 みいのかみ 父は大国主神。母は稲羽之八上比売。木俣神ともいう。聖なる井戸の神の義。木俣神との関係については、古来井のかたわらに木を植えたことによるという。(神名)
  • 沼河比売 ぬなかわひめ 沼名河比売。古事記で、高志国(新潟県)に住み八千矛神に求婚された神。
  • 天馳使 あまはせづかい 古代の海人部で、宮廷の神事や雑役に従事する者。神語の伝承者であったという。一説に、天上を馳せ行く使者の意とする。
  • 日子ぢの神 ひこぢのかみ
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  • 多紀理毘売 たきりびめ → 田心姫命
  • 田心姫命 たごりひめのみこと 天照大神と素戔嗚尊が誓約をしたときに生まれた宗像三女神の一神。宗像神社の祭神。多紀理毘売命。
  • 阿遅�K高日子根の神 あじすきたかひこねのかみ 味耜高彦根神。日本神話で、大国主命の子。あじしきたかひこねのかみ。かものおおかみ。
  • 高比売の命 たかひめのみこと → 下照姫
  • 下光る比売の命 したてるひめのみこと → 下照姫
  • 下照媛・下照姫 したてるひめ (古くはシタデルヒメ)記紀神話で大国主命の女、味耜高日子根命の妹、天稚彦の妃。天稚彦が高皇産霊神に誅せられた時、その哀しみの声が天に達したという。
  • 迦毛の大御神 かものおおみかみ → 阿遅�K高日子根の神
  • 神屋楯比売の命 かむやたてひめのみこと 大国主神と結婚して、事代主神を生む。名義については、神屋(神の籠る屋)+楯(神殿を守るために立てられた垣)と取る説と、神+屋楯(矢と楯)とする説とがある。なお不詳であるが、神矢立ての意であるとも推定される。神の依り代である矢を立てて神を祀り、神の降臨の際に仕える巫女を神格化したものか。(神名)
  • 事代主の神 ことしろぬしのかみ 日本神話で大国主命の子。国譲りの神に対して国土献上を父に勧め、青柴垣を作り隠退した。託宣の神ともいう。八重言代主神。
  • 八島牟遅の神 やしまむじ/やしまむちのかみ 大国主神の妻、鳥耳神の親。八島・貴(おおなむち、おおひるめむち、の「むち」と同じ)の意で、多くの島の貴人とか、多くの島からなる国の貴人の義という。多くの島々の霊魂(国魂)を貴人となしてそう呼んだものか。(神名)
  • 鳥取の神 とりとりのかみ/ととりのかみ 八島牟遅の神の女。 → 鳥耳の神
  • 鳥鳴海の神 とりなるみのかみ 父は大国主神。母は八島牟遅神の女鳥耳神。名義は不詳であるが、鳥が霊を運ぶときに海が鳴り響くの意とする説がある。日名照額田毘道男伊許知迩神を妻として、国忍富神を生む。(神名)
  • 日名照額田毘道男伊許知迩の神 ひなてりぬかたびちおいこちにのかみ 大国主神の子である鳥鳴海神の妻となり、国忍富神を生む。名義不詳。日が照る、額田辺の道を父にもつ、勢い盛んな精霊と解する説がある。(神名)
  • 国忍富の神 くにおしとみのかみ 大国主神の子鳥鳴海神と日名照額田毘道男伊許知迩神との間に生まれる。葦那陀迦神と婚して速甕之多気佐波夜遅奴美神を生む。忍は威圧的という意の美称。富は豊かなことの意として、国を威圧的に豊かにする意の神とする説がある。(神名)
  • 葦那陀迦の神 あしなだかのかみ 八河江比売ともいう。大国主神の孫国忍富神の妻となり、速甕之多気佐波夜遅奴美神を生む。葦な(の)高の意として、葦が丈高く繁るように、生命力・国土の繁栄を観じての名とされる。(神名)
  • 八河江比売 やがはえひめ/やかわえひめ 葦那陀迦神の別名。名義については諸説あり、多くの川の江の女神・巫女としたり、中臣寿詞にみられる八桑枝の語と結びつけて桑にかかわる名とする説、風招ぎの呪文を管理する女司祭の心象を読み取ろうとする説もある。(神名)
  • 連甕の多気佐波夜遅奴美の神 つらみかの たけさはやじぬみのかみ → 速甕之多気佐波夜遅奴美神か
  • 速甕之多気佐波夜遅奴美神 はやみかのたけさはやじぬみのかみ 大国主神三世の孫。父は国忍富神。母は葦那陀迦神(別名、八河江比売)。天之甕主神の女前玉比売を娶り、甕主日子神を生む。速は威力のあるもの、甕は神事に用いる水や酒を入れる大かめの意として、甕の神格化とされる。(神名)
  • 天の甕主の神 あめのみかぬしのかみ 大国主神三世の孫速甕之多気佐波夜遅奴美神の妻となる前玉比売の親。甕は、水や酒を入れる神事用の器で、神聖な甕をつかさどる神の意。(神名)
  • 前玉比売 さきたまひめ 天之甕主神の女。速甕之多気佐波夜遅奴美神と婚して甕主日子神を生む。幸玉の意とされる。幸いをもたらす玉(をもつ神・巫女)の神格化という。(神名)
  • 甕主日子の神 みかぬしひこのかみ 大国主神の四世の孫。父は速甕之多気佐波夜遅奴美神。母は天之甕主神の女前玉比売。淤加美神の女比那良志毘売と婚して、多比理岐志麻流美神を生む。外祖父の天之甕主神に対して、地上の甕、神事用の水や酒を入れる器をつかさどる神とされる。(神名)
  • 淤加美の神 おかみのかみ スサノオ命の孫布波能…神の妻となる日河比売の父。五世孫に大国主神がいる。大国主神の四世の孫甕主日子神の妻となる比那良志毘売の父でもある。水をつかさどる神。(神名)
  • 比那良志毘売 ひならしびめ 淤加美神(水をつかさどる神)の女。大国主神の四世の孫甕主日子神の妻となり、多比理岐志麻流美神を生む。霊平(ひならす)の意とし、淤加美神の娘として、特に霊的に水を平静にする神の義とする説がある。(神名)
  • 多比理岐志麻美の神 たひりきしまみのかみ → 多比理岐志麻流美神
  • 多比理岐志麻流美神 たひりきしまるみのかみ 大国主神の五世の孫。父は甕主日子神。母は淤加美神の女比那良志毘売。比比羅木之其花麻豆美神の女活玉前玉比売神を妻として、美呂浪神を生む。名義不詳。(神名)
  • 比比羅木のその花麻豆美の神 ひいらぎのそのはなまづみのかみ 比比羅木之其花麻豆美神。大国主神五世の孫多比理岐志麻流美神の妻となった活玉前玉比売神の親神。柊の花の精霊神とされる。(神名)
  • 活玉前玉比売 いくたまさきたまひめ 比比羅木之其花麻豆美神の女。大国主神五世の孫多比理岐志麻流美神の妻となり、美呂浪神を生む。活玉は幸福な魂。そのような魂を操作し得る神の意。たま、活魂、幸魂の呪力のこもった玉を持った女神か。(神名)
  • 美呂浪の神 みろなみのかみ 大国主神六世の孫。父は多比理岐志麻流美神。母は比比羅木之其花麻豆美神の女活玉前玉比売神。敷山主神の女青沼馬沼押比売を妻として、布忍富鳥鳴海神を生む。名義不詳。(神名)
  • 敷山主の神 しきやまぬしのかみ 青沼(馬沼)押比売の親。樹木の繁茂した(敷)山の主の意。(神名)
  • 青沼馬沼押比売 あおぬまぬおしひめ 大国主神六世の孫美呂浪神との間に布忍富鳥鳴海神を生む。敷山主神の女。名義は、馬を美(うま)しの意の借訓として青い沼でよい沼の威圧的な(押)比売とする説がある。あるいは青沼主の意で、父の敷山主神に対する名か。(神名)
  • 布忍富鳥鳴海の神 ぬのおしとみ/ぬのしとみとりなるみのかみ 大国主神七世の孫。父は美呂浪神。母は敷山主神の女青沼(馬沼)押比売。若昼女神との間に天日腹大科度美神を生む。名義については諸説ある。布忍、鳥、鳴海をおのおの地名としたり、布忍は布の威力が豊かの意で、植物の繊維から布がとれることにより、母方敷山主神の心象を引き継ぎ、鳥鳴海は、鳥が霊魂を運び、鳴り響く海の意で、母の心象を受け継ぐものとする説がある。(神名)
  • 若昼女の神 わかひるめのかみ 大国主神七世の孫、布忍富鳥鳴海神の妻となり、天日腹大科度美神を生む。昼を尽として解釈されており、若さを出し尽くす神の意とされる。また、尽を国名として若筑紫女とする説もある。(神名)
  • 天の日腹大科度美の神 あめのひばらおおしなどみのかみ 大国主神八世の孫。父は布忍富鳥鳴海神。母は若昼女神。天狭霧神の女遠津待根神を娶り、遠津山岬多良斯神を生む。日(桧)原(神聖な原)から吹く偉大な風の神と捉える説がある。風は神霊を運ぶ一種の乗り物と考えられる。(神名)
  • 天の狭霧の神 あめのさぎりのかみ 国之狭土神と同様、岐・美二神の神生みの条において、大山津見神と野椎神が山野によってもち分けて生んだ霧をつかさどる神で、同条にみえる国之狭霧神との対をなしている。また、大国主神の神裔の条において、遠津待根神の親神として天狭霧神の名がみられる。(神名)
  • 遠津待根の神 とおつまちねのかみ 天狭霧神の女。大国主神の八世の孫天日腹大科度美神の妻となり、遠津山岬多良斯神を生む。名義は、遠来の神霊の訪れを待つ巫覡の神格化か。(神名)
  • 遠津山岬多良斯の神 とおつやまざきたらしのかみ 大国主神九世の孫。父は天日腹大科度美神。母は天狭霧神の女遠津待根神。記ではこの神をもって大国主神の子孫の系譜が終わる。遠方の山の崎が満ち足りているの意と解する説がある。(神名)
  • 八島士奴美の神 やしまじぬみのかみ スサノオ命の子。母は櫛名田比売。木花知流比売との間に布波能母久奴須神をもうける。多くの島々を領有する意とされる。スサノオ命の系譜中、第一番目に名があげられる。五世孫に大国主神がいる。(神名)
  • 遠津山岬帯の神 とおつやまざきたらしのかみ → 遠津山岬多良斯の神
  • 鳥耳の神 とりみみのかみ 八島牟遅能神の女。大国主神の妃となり、鳥鳴海神を生む。なお鳥耳神を鳥取神とする説もある。鳥を捕らえることを生業としていた集団(鳥取氏など)と本来的に関われる神か。(神名)
  • 鳥甘の神 → 鳥耳の神
  • 少名毘古那の神 すくなびこなのかみ 少彦名神。日本神話で、高皇産霊神(古事記では神産巣日神)の子。体が小さくて敏捷、忍耐力に富み、大国主命と協力して国土の経営に当たり、医薬・禁厭などの法を創めたという。
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  • 神活須毘の神 かむいくすびのかみ スサノオ命の子である大年神の系譜段にみられる。この神の女である伊怒比売が大年神の妻となっている。須毘を巣霊の意であるとして、神々しく活々とした住居の意であるとする説がある。記のみで紀にはみられない。(神名)
  • 伊怒比売 いのひめ/いぬひめ 大年神の系譜段にみられる。神活須毘神の女で、大年神との間に大国御魂神、韓神、曽富理神、白日神、聖神の五神を生む。出雲国出雲郡伊怒郷と関係があるか。『延喜式』巻十神名下(神名帳)に伊怒神社の名がある。また、伊怒を寝ぬと解して、穀霊と結婚する巫女の意とする説がある。(神名)
  • 大国御魂の神 おおくにみたまのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と伊怒比売との間に生まれた五神中の第一子。一般的な国魂の神、すなわち全国一般に国土経営に功のある偉大な国土の神霊と解すべきであろう。(神名)
  • 韓の神 からのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と伊怒比売との間に生まれた五神中の第二子。朝鮮半島から渡来した人々によって祀られた神か。神楽歌に韓神の歌がある。『先代旧事本紀(地神本紀)』にもこの神の名がみえる。(神名)/ (朝鮮から渡来した神の意か)守護神として宮内省に祀られていた神。大己貴・少彦名2神をさすという。(広辞苑)
  • 曽富理の神 そほりのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と伊怒比売との間に生まれた第三子。名義は不詳であるが、新羅の王都「徐伐(sio-por)」を音訳したもので、「韓国の王都」という名義とする説がある。(神名)
  • 白日の神 しらひのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と伊怒比売との間に生まれた五神中の第四子。明るい太陽の神の意。白日を新羅・向日と考える説もあるが従いにくい。(神名)
  • 聖の神 ひじりのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と伊怒比売との間に生まれた五神中の第五子。名義を、耕作をはじめる日を知ることの意とする説もある。(神名)
  • 香用比売 かぐよひめ/かがよひめ 大年神との間に大香山戸臣神、御年神を生む。微光を発するものに依り憑く巫意とする説と、容貌をほめて輝く意とする説がある。(神名)
  • 大香山戸臣の神 おおかぐやま/おおかがやまとみのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と香用比売との間に生まれた二神中の第一子。名義は、偉大な、微光を発する山の立派な神霊と解釈する説がある。(神名)
  • 御年の神 みとしのかみ 御年神・御歳神。素戔嗚尊の子である大年神の子。母は香用比売命。穀物の守護神。
  • 天知る迦流美豆比売 あめしるかるみづひめ 大年神の系譜段にみられる。大年神との間に奥津日子神以下九神を生む。名義は不詳であるが、天を領する、生命力に満ちた太陽の女とする説もある。(神名)
  • 奥津日子の神 おきつひこのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間の第一子。記伝では「奥津は地名か」とあるが、その他にも沖、また燠と解釈する説もある。奥津比売命と男女神として対をなす神。(神名)
  • 奥津比売の命 おきつひめのみこと 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間の第二子。奥津日子神と合わせて一神と数えている。別名、大戸比売神。(神名)
  • 大戸比売神 おおべひめのかみ 奥津比売命の別名。戸は黄泉戸喫(よもつへぐひ)の戸と同じく竈の意。竈の神。(神名)
  • 大山咋の神 おおやまくいのかみ またの名は末の大主の神。/大年神の子。一名、山末之大主神。大津の日吉神社や京都松尾大社の祭神。
  • 末の大主の神 すえのおおぬしのかみ → 大山咋の神
  • 庭津日の神 にわつひのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間の第三子。農耕祭祀等をおこなう庭(家の前の広場)を神格化した土地の神であるとする説、庭を照らす太陽神とする説などがある。(神名)
  • 阿須波の神 あすはのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間に生まれた第五子。名義は不詳であるが、足磐の約「あしは」が「あすは」に音転したもので、宅地の基礎が堅固なことの意とする説もある。(神名)
  • 波比岐の神 はひき/はひぎのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間に生まれた第五?子。端引(はひ)きの意味で、宅地の端から端まで線を引き区画をする意とする説がある。阿須波神と一組にして、宅地の境界をつかさどる神と考えられるか。阿須波神と同様、『祝詞(祈年祭)』、『延喜式(践祚大嘗祭)』にもみられる。(神名)
  • 香山戸臣の神 かぐやまとみ/かがやまとおみのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神が天知迦流美豆比売を娶って生んだ子。微光を発する山の立派な神霊の意とする説がある。(神名)
  • 羽山戸の神 はやまとのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間に生まれた第七子。山麓の土地を神格化した神とする説がある。(神名)
  • 庭の高津日の神 にわのたかつひのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間の第八子。庭津日神と同様に、農耕祭祀等をおこなう庭(家の前の広場)を神格化した土地の神であるとする説、庭を照らす太陽神とする説などがある。『延喜式(践祚大嘗祭)』にも庭高日神がある。(神名)
  • 大土の神 おおつちのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神と天知迦流美豆比売との間に生まれた第九子。偉大な土壌の意か。別名として土之御祖神がある。(神名)
  • 土の御祖の神 つちのみおやのかみ 大土神の別名。作物の生育を掌握する土壌の母神の意と思われる。(神名)
  • 若山咋の神 わかやまくいのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第一子。山咋は山杙であり、名義を若い山の境界棒とする説がある。大山咋神に対する若の名称であると思われる。(神名)
  • 年若の神 わかとしのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第二子。大年神に対する若で、若い稲の神の意であると思われる。(神名)
  • 若沙那売の神 わかさなめのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第三子。記伝では若を美称、沙那を地名とするが、沙那売は田植に関する語「さ」と連体助詞「の」の転の「な」「め」は女であるので、田植をする女稲(さ)の女とする説がある。(神名)
  • 弥豆麻岐の神 みづまきのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第四子。田に水を引く神の意とする説がある。(神名)
  • 夏の高津日の神 なつのたかつひ/なつたかつひのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第五子。別名は、夏之売神。名義は空高く照らす夏の太陽。(神名)
  • 夏の売の神 なつのめのかみ → 夏の高津日の神
  • 秋毘売の神 あきびめのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第六子。秋に稲の取り入れなどをして働く女性の神格化であると思われる。(神名)
  • 久久年の神 くくとしのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第七子。久久は茎の音韻転化で、名義は茎のしっかり成長した稲。豊饒を象徴させると考えられる。また、羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第一子から第七子を通じて、山神の恵の水を得て、田植から収穫までを季節をおりこんで述べた系図型の神話とする説がある。『先代旧事本紀』では、冬年神(ふゆとしのかみ)とされるが、同一の神と思われる。(神名)
  • 久久紀若室葛根の神 くくきわかむろつなねのかみ 大年神の系譜段にみられる。大年神の子羽山戸神と大気都比売神との間に生まれた第八子。材木を綱で結び固めて作った新室の意と考えられる。また、葛を新室に張り渡された綱とみる説や、この神名全体で新嘗祭のための新室の神格化とする説もある。『先代旧事本紀』では冬記若室葛根神とあるが、同一の神と思われる。(神名)


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本神名辞典 第二版』(神社新報社、1995.6)



*書籍

(書名、雑誌名、論文名、能・狂言・謡曲などの作品名)
  • 『古事記』 こじき 現存する日本最古の歴史書。3巻。稗田阿礼が天武天皇の勅により誦習した帝紀および先代の旧辞を、太安万侶が元明天皇の勅により撰録して712年(和銅5)献上。上巻は天地開闢から鵜葺草葺不合命まで、中巻は神武天皇から応神天皇まで、下巻は仁徳天皇から推古天皇までの記事を収め、神話・伝説と多数の歌謡とを含みながら、天皇を中心とする日本の統一の由来を物語る。ふることぶみ。
  • 『出雲国風土記』 いずものくに ふどき 出雲風土記。古風土記の一つ。733年(天平5)成る。完全な形で伝わる唯一の古風土記。出雲国9郡の風土・物産・伝承などを述べる。記紀にみえない出雲地方の神話も含む。1巻。出雲国風土記。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。



*難字、求めよ

  • 食物 おしもの めしあがりもの。
  • 味物 ためつもの (1) 食物。うまいもの。味わうべき物。(2) 大嘗会の時、臣下に賜る酒や食物の総称。
  • 殺さえましし
  • 避追えて やらはえて 遣らはう。追い払う。追放する、の意か。
  • 河ゆ
  • かれ 故 〔接続〕(カ(此)アレ(有リの已然形)の約、「かあれば」の意) (1) (前段を承けて)こういうわけで。ゆえに。(2) (段落の初めにおいて)さて。そこで。
  • 国つ神 くにつかみ 地祇。(1) 国土を守護する神。地神。(2) 天孫降臨以前からこの国土に土着し、一地方を治めた神。国神。←→天つ神。
  • 稚女 おとめ
  • 八俣の大蛇 やまたの おろち → 八岐大蛇
  • 八岐大蛇 やまたの おろち 記紀神話で、出雲の簸川にいたという大蛇。頭尾はおのおの八つに分かれる。素戔嗚尊がこれを退治して奇稲田姫を救い、その尾を割いて天叢雲剣を得たと伝える。
  • 赤かがち あかかがち 赤酸漿。ホオズキの古名
  • 苔・蘚・蘿 こけ (1) (→)コケ植物に同じ。(2) 木の幹や枝、岩、時に水中の石の上に見られる花の咲かない小形の植物の俗称。コケ植物・地衣類・藻類などが含まれる。コケ植物の胞子体または雄の生殖器官を「苔の花」という。(3) きのこ。
  • 檜榲 ひすぎ
  • 峡 お (1) 峰。(2) 丘・岡。
  • 酸漿・鬼灯 ほおずき (語源は「頬付」か) (1) ナス科の多年草。茎の高さ60〜70cm。葉は卵状楕円形。黄緑白色の花を開き、球形の液果が嚢状にふくらんだ宿存萼に包まれて赤熟。果実は種子を除いて空にし、吹き鳴らす。根を鎮咳・利尿薬に使用。丹波酸漿。
  • 然まさば しかまさば 然(しか)(副)さように。そのように。
  • かしこし 畏し・恐し。(海・山・風などあらゆる自然の事物に宿っていると信じられた精霊の霊威に対して、畏怖・畏敬の念を持つのが原義) (1) おそろしい。つつしむべきである。(2) おそれ多い。もったいない。ありがたい。かたじけない。(3) (挨拶語として、「―・けれど」の形で)「恐縮ですが」「失礼な申し分ですが」の意。(4) (連用形を副詞的に用いて)ありがたいことに。
  • 湯津 ゆつ 斎つ、か。〔接頭〕神聖・清浄の意をあらわす語。ゆついはむら、ゆつかしら、など。
  • 爪櫛 つまぐし 妻櫛。歯のこまかい櫛。一説に、爪形の櫛。
  • 湯津爪櫛 ゆつつまぐし 斎つ爪櫛。「ゆつ」は接頭語)神聖な櫛。(一説に歯の多い櫛)
  • 御髻 みみずら → 髻
  • 角髪・角子・鬟・髻 みず (ミミツラ(耳鬘)の約という)古代の男の髪の結い方。頂の髪を中央から左右に分け、耳のあたりでわがねて緒で結び耳の前に垂れたもの。奈良時代には少年の髪型となる。後世の総角(あげまき)はその変形。びんずら。びずら。
  • 八塩折 やしおり/やしおおり 幾回も繰り返してすること。
  • 八塩折の酒 やしおり?のさけ やしおおりのさけ 幾回も繰り返して醸したよい酒。
  • 醸む かむ (カモスの古語。実際に米などを噛んで作ったところからいう)酒などをつくる。
  • 回す・廻す もとおす めぐらす。まわす。
  • 仮 さずき 桟敷。(サジキの古形)仮に構えた棚または床(ゆか)。
  • 酒船 さかぶね 酒漕。「ふね」は液体をたたえておく容器。(1) 酒を入れておく大きな木製の容器。(2) 酒をしぼるのに用いる長方形の容器。
  • 待たさね さね (尊敬・親愛の助動詞スの未然形サに、相手にあつらえる意の終助詞ネの付いたもの)…なさいな。…してほしい。
  • 御佩 みはかし 御佩かす。みはかす。「佩く」の尊敬語。
  • 十握・十拳 とつか (「つか」は小指から人差指までの幅)10握りの長さ。約80〜100cm。
  • 十拳の剣 とつかの つるぎ 十握剣。刀身の長さが10握りほどある剣。
  • 殺さえ
  • 切り散る きりほふる 屠る。(1) 体を切りさく。きり殺す。はふる。(2) 敵を破る。
  • 見そなわす みそなわす (ミソコナワスの約)「見る」の尊敬語。御覧になる。
  • 都牟羽の大刀 つむはのたち → 都牟刈の太刀
  • 都牟刈の太刀 つむがりのたち 未詳。一説に、切れ味のよい太刀をほめていう語。草薙剣のこと。
  • 草薙の大刀 くさなぎのたち → 草薙剣、天叢雲剣
  • 草薙剣 くさなぎのつるぎ 三種の神器の一つ。記紀で、素戔嗚尊が退治した八岐大蛇の尾から出たと伝える剣。日本武尊が東征の折、これで草を薙ぎ払ったところからの名とされるが、クサは臭、ナギは蛇の意で、原義は蛇の剣の意か。のち、熱田神宮に祀られたが、平氏滅亡に際し海に没したとされる。天叢雲剣。
  • 天叢雲剣 あまのむらくものつるぎ 日本神話で、素戔嗚尊が八岐大蛇を退治した時、その尾から出たという剣。これを天照大神に奉った。後に、草薙剣と称して熱田神宮に祀る。
  • 八重垣 やえがき 幾重にも作った垣。
  • 妻隠み つまごみ → 妻隠る
  • 妻隠る つまごもる 夫婦が同じ所にこもりすむ。かくれている。
  • 首 おびと (オオヒト(大人)の約。オヒトとも。首長の意) (1) 古代の姓の一つ。地方の県主・稲置や伴造に多い。おうと。(2) 相手を敬っていう語。
  • 負す おおす 負す・課す・仰す。(負ハスの転) (1) 名を持たせる。(2) 言いつける。命ずる。(3) お言いつけになる。おっしゃる。
  • タンバホオズキ 丹波酸漿。(丹波の種子を求めて繁殖させたからいう)ホオズキの異称。
  • 間投助詞 かんとう じょし 助詞の分類の一つ。文中の語句の切れ目で、語勢を加え、語調を整えて、余情を添える助詞。「よ」「や」「を」「ろ」「ゑ」「な」「ね」など。「近江のや鏡の山」の「や」「吾が衣下にを着ませ」の「を」の類。
  • 隠処 くみど/こもりど 隠れたところ。
  • くみど くみ所。(「くみ」は組む意。また、隠(こも)る意とも)男女のこもり寝る所。
  • 国引き くにひき 出雲の神、八束水臣津野命が対岸の新羅の地などに綱をうちかけて「国来(くにこ)、国来」といって引き寄せ、これを出雲国に結びつけたという説話。(出雲風土記)
  • はらから 同胞。(1) 同じ母親から生まれた兄弟姉妹。転じて、一般に兄弟姉妹。(2) 同国民。どうほう。
  • 八十神 やそがみ 多くの神。
  • 婚わん よばわん よばふ。呼ばふ・婚ふ。(2) 言い寄る。求婚する。
  •  ふくろ 袋。
  • あかはだ 裸・赤肌。(1) 赤くむけたはだ。(2) 全くのはだかであること。あかはだか。(3) 山に草木のないこと。
  • 為まくは せまくは 設く(まく)? 儲く。あらかじめ用意する。
  • 拆かえき さかえき き。過去の助動詞。終止形。
  • いやはて 弥終。一番あと。最後。
  • なにとかも 何とかも どうしてかまあ。
  • まく (推量の助動詞ムのク語法)…しようとすること。…だろうこと。
  • 欺かえつ あざむかえつ つ。完了の助動詞。…てしまった。…てしまう。(古語)
  • 誨える おしえる おしえる。おしえさとす。
  • 蒲の黄 かまのはな
  • 輾い転ぶ こいまろぶ 臥転。「こい」は動詞「こゆ」(臥)の連用形)ころげまわる。もだえころがる。
  • 兎神 うさぎがみ 八上比売が大穴牟遅神の妻となることを託宣的に述べる素兎。八上比売(巫女)の神使いの動物とする説がある。鳥取県気高郡白兎神社の祭神、白兎大明神といわれている。(神名)
  • 七福神 しちふくじん (1) 七柱の福徳の神。大黒天・蛭子・毘沙門天・弁財天・福禄寿・寿老人・布袋。
  • 大黒天 だいこくてん (梵語 摩訶迦羅) (1) 密教では自在天の化身で、仏教の守護神。戦闘神あるいは忿怒神、後に厨房神とされる。(2) 七福神の一つ。頭巾をかぶり、左肩に大きな袋を負い、右手に打出の小槌を持ち、米俵を踏まえる。日本の大国主命と習合して民間信仰に浸透、「えびす」とともに台所などに祀られるに至る。
  • 岬角 こうかく みさき。
  • フカ 鱶 (1) サメ類の関西での地方名。関東などでは特に大形のものを指す。ひれをふかひれ・魚翅といって中国料理に用いる。ホオジロなどのように狂暴で人を襲うものがあり恐れられる。ワニザメ。(2) よく眠る人。
  • カマ がま 蒲。(古くはカマ)ガマ科の多年草。淡水の湿地に生える。高さ約2m。葉は厚く、長さ1m以上、幅約2cm、編んでむしろを製する。雌雄同株。夏、約20cmのろうそく形の緑褐色の花序(穂)をつける。これを蒲団の芯に入れ、また、油を注いでろうそくに代用、火口を造る材料とした。みすくさ。
  • 忿る いかる かっとなる。いかる。急激ないかり。
  • 赤猪 あかい
  • どち (1) 仲間。友だち。(2) [接尾] 同類のものをまとめていう。たち。ども。どうし。
  • 我どち われどち 自分たち同士。
  • 蚶貝 きさがい アカガイの古語という。
  • 赤貝 あかがい フネガイ科の二枚貝。貝殻は長さ約10cmで箱形、暗褐色のけばだった皮をかぶる。放射肋は42〜43条。体液にヘモグロビンを含み、肉は赤みを帯びるのでこの名がある。肉は食用で美味。北海道南部から九州までの内湾・内海に分布し、水深10mくらいの砂泥底に生息する。魁蛤。蚶。
  • はまぐり 蛤・文蛤・蚌 (浜栗の意) (1) マルスダレガイ科の二枚貝。殻長約8cmに達する。日本各地の内湾の砂泥中に産するが、近年は絶滅状態にまで減少した。殻の表面は平滑で、色や模様は変化に富む。内面は白色。肉は食用。「はまぐり」の名で市場に出ているもののほとんどがシナハマグリ。
  • きさぐ 刮ぐ 削りおとす。こそぐ。
  • 壮夫 おとこ/そうふ 壮年の男子。血気盛りの男。
  • 茹矢 ひめや → 氷目矢
  • ひめや ひめ矢 木を割る時、割れ目にはさむ楔。
  • 氷目矢 ひめや 木を割るとき、その割れ目にはさむ楔として用いた補助用具か。
  • 拷つ うつ うちすえる。
  • 滅さえなん ころさえなん なん/なむ。完了の助動詞。…してしまうだろう。きっと…であろう。
  • 違えやり たがえやり
  • 覓ぐ・求ぐ まぐ 追いもとめる。さがしもとめる。
  • 漏く くく 隙間をくぐる。
  • まいむく 参向く。まいむかう。出向くの意の謙譲語。高貴な人のもとや高貴な場所に出かけてゆく。まいおもむく。
  • 詔命 みこと みことのり。天子の命令。
  • 目合 まぐわい (1) 目を見合わせて愛情を知らせること。めくばせ。(2) 男女の交接。性交。
  • 婚い あい
  • 白して言《もう》さく
  • へみ 蛇 ヘビの古称。
  • ひれ 領巾・肩巾 (風にひらめくものの意) (1) 古代、波をおこしたり、害虫・毒蛇などをはらったりする呪力があると信じられた、布様のもの。
  • 来る日 くるひ 新しくやって来る日。明日。翌日。
  • 鳴鏑 なりかぶら (→)鏑矢の異称。
  • 鏑矢 かぶらや 先に鏑をつけた矢。多く雁股を用いる。空中を飛ぶ時、鏑の孔に風が入って響きを発する。矢合せの時などに用いた。古墳時代中期以降現れる。かぶら。なりかぶら。なりや。鳴箭。嚆矢。
  • ほらほら (1) うちひらけたさま。中が空虚で広いさま。(2) 泡などのふくふくと立つさま。(3) 裾などのひらひらまくれるさま。
  • すぶすぶ すぼまって細いさま。
  • 喪つ具 はぶりつもの 葬物。「つ」は「の」に相当する古い格助詞)「はぶりもの」に同じ。葬儀に用いられる品物。葬具。
  • 八田間 やたま 柱と柱との間が広大なこと。また、そのところ。
  • 多 さわ 多いこと。あまた。たくさん。平面に広がり散らばっているものにいう。
  • 椋 むく ニレ科の落葉高木。本州中部以南の山野に自生。高さ20mに達する。葉は長卵形で左右非対称。葉面はざらざらして物を磨くのに用いる。春、新葉とともに淡緑色の単性花を付ける。雌雄同株。球形の核果は秋に熟して紫黒色となり、食用。材は器具用。樸樹。むくえのき。もく。
  • 赤土 はに → 埴
  • 埴 はに 質の緻密な黄赤色の粘土。昔はこれで瓦・陶器を作り、また、衣に摺りつけて模様を表した。ねばつち。あかつち。へな。
  • おもほす 思ほす (オモフに尊敬の助動詞スが付いたオモハスの転)「思う」の尊敬語。おぼす。
  • 愛し はし いとしい。かわいい。
  • 椽 たりき/たるき 垂木・椽・榱・架 屋根の裏板または木舞を支えるために、棟から軒にわたす材。はえき。
  • 五百引の石 いおびき/いおひきのいわ 動かすのに多人数の力を要するという大石。
  • 生大刀 いくたち 生命力の満ちている大刀。
  • 生弓矢 いくゆみや 生命力の満ちている弓と矢。
  • 天の沼琴 あまのぬごと 瓊琴。「瓊」は玉の意)玉で飾った立派な琴の意か。この琴は、天つ神の託宣を請う際に用いたものか。あめのぬごと。
  • 動鳴み なりとよみ なりとよく。なりどよむ。なりとよむ。高い音をたてる。音高く鳴りひびく。鳴動する。
  • 望けて みさけて → 見放く
  • 見放く みさく 遠くを見る。見やる。
  • 庶兄弟 あにおとども
  • 御尾 みお (「み」は地形名につく接頭語)山や坂などの裾の長くのびた所。
  • おれ (1) 対称。下位の者に対して、もしくは相手をののしる時などに用い、軽蔑の意を含む。上代から中古にかけて主に用いられた。
  • 正妃・嫡妻 むかいめ (「向い女(め)」の意)正妻。本妻。
  • 底津石根 そこついわね 地の底にある岩。地の底。下ついわね。
  • 宮柱 みやばしら 皇居の柱。宮殿の柱。
  • 太知る ふとしる (→)「ふとしく」に同じ。
  • 太敷く ふとしく (1) 柱などをいかめしく建てる。宮殿を立派につくる。広敷く。広知る。太知る。太高敷く。(2) 立派に天の下を治める。
  • 氷木 ひぎ (→)千木に同じ。
  • 千木・知木・鎮木 ちぎ 社殿の屋上、破風の先端が延びて交叉した2本の木。後世、破風と千木とは切り離されて、ただ棟上に取り付けた一種の装飾(置千木)となる。氷木。
  • 高知る たかしる (1) 立派に造る。(2) 立派に治める。しろしめす。
  • 国作り くにつくり/くにづくり 国土をつくること。国土、国家を創成すること。
  • 婚わす みとあたわす (トは入口。陰部の意。アタハスはアタフの尊敬語)交合なさる。結婚なさる。
  • かしこむ 畏む (1) おそろしいと思う。(2) 恐れ多いと思う。(3) つつしんで承る。
  • 襲 おすい 衣服の名。頭からかぶって衣裳の上をおおうもの。後世の被衣はその遺風と考えられている。
  • 押そぶらう おそぶらう (動詞「おそぶる」に反復・継続を示す助動詞「ふ」のついたもの)押しゆさぶり続ける。
  • 引こづらふ ひこずらう (1) あれこれと力を入れて引っぱる。ひきずる。(2) つかむ。つかむようにする。
  • �・鵺 ぬえ (1) トラツグミの異称。(2) 源頼政が紫宸殿上で射取ったという伝説上の怪獣。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎に、声はトラツグミに似ていたという。平家物語などに見え、世阿弥作の能(鬼物)にも脚色。(3) 転じて、正体不明の人物やあいまいな態度にいう。
  • さ野つ鳥 さのつどり (サは接頭語) (1) 野の鳥。特に、雉。(2)〔枕〕(野の鳥の意から)「雉」にかかる。
  • 雉・雉子 きぎし キジの古称。
  • 響動む・響む とよむ (後世ドヨムとも) (1) 鳴り響く。響き渡る。(2) 鳴きさわぐ。大声でさわぐ。どよめく。(3) ずきずき痛む。うずく。
  • 庭つ鳥 にわつとり (1) ニワトリの古名。(2)〔枕〕「かけ(鶏)」にかかる。
  • 鶏 かけ (もと鶏の鳴き声の擬音語)鶏の古名。
  • うれたし 慨・憂。「うら(心)いたし(痛)」が変化して一語化したもの。上代では、特にわが意に反する他人の行動に対していうことが多い。中古以降、一般に外の状態に対して不満足な気持をあらわすのにもいうようになる)うらめしい。憎い。しゃくにさわる。心外である。嘆かわしい。いやだ。
  • うちやむ。うちころす。(古語)
  • うち止めこせね うちやめこせね 打ち殺してください。(古語)
  • いしとうや 〔枕〕「天馳使」にかかる。(古語)
  • こをば
  • ぬえくさ 和草・萎草 しなやかな草。しおれた草。なえた草。女のしなやかなさまの形容に用いる。
  • 浦洲 うらす 浦辺にある洲。
  • 浦渚の鳥 うらすのとり 浦州にいる水鳥。その鳥がおちつきなく歩きまわっているように、心のおちつかないさまのたとえにいう。
  • 汝鳥 などり あなたの鳥。あなたの意に従う鳥。←→我鳥(わどり)
  • ぬばたまの 射干玉の 〔枕〕「黒」「夜」「夕」「月」「暗き」「今宵」「夢」「寝」「妹」などにかかる。烏羽玉の。むばたまの。
  • 綱 たくずの 楮の繊維で作ったつな。たくなわ。
  • 綱の たくずのの 〔枕〕「しら(白)」「しろ(白)」「しらぎ(新羅)」などにかかる。
  • 腕 ただむき うで。
  • わかやる 若やる 若々しく、やわらかである。
  • そ叩く そだたく 語義未詳。「そ」は十分にの意、「たたく」は「手たく」で手を働かせる、すなわち抱く意で、しっかり抱きしめる意か。一説に、愛撫すること、また軽くたたくの意。
  • たたきまながり まながる。語義未詳。一説に、両手をさしかわして抱く。また、目を見合わせる意とも。(古語)
  • 真玉手 またまで 手の美称
  • 玉手 たまで 玉のように美しい手。手の美称。
  • 股長 ももなが 足を伸ばすこと。一説に、「百長」で、いつまでも長くの意。
  • あやに 奇に 何とも不思議なまでに。むやみに。
  • な恋いきこし
  • 嫡后 おおぎさき/おおきさき 大后・太后。(1) 天皇の正妻。第一のきさき。皇后。
  • うわなりねたみ 後妻嫉妬 (1) 先妻または本妻が後添いの妻をねたむこと。(2) ねたみそねむこと。嫉妬。
  • 後妻・次妻 うわなり (1) 最初の妻に対して後にめとった妻。めかけにもいう。のちぞい。ごさい。←→こなみ。(2) 「うわなりねたみ」の略。(3) 怨霊。
  • 上がりまさん
  • 片御手
  • 片御足
  • 御衣 みけし (ケシは、「着(け)す」の連用形が名詞に転じたもの)衣服の尊敬語。お召しもの。
  • まつぶさ 真具 完全に整いそなわっているさま。充分。
  • 奥つ鳥 おきつとり 沖つ鳥。(1) 沖にいる水鳥。(2)〔枕〕沖にいる鳥の意で、「鴨」にかかる。(3) 沖の鳥が首を曲げて胸毛をつくろう動作をするところから、自分の服装をよく眺める意の「胸見る」にかかる。
  • 沖つ鳥 おきつとり 〔枕〕「あぢ」「鴨」などにかかる。
  • 辺つ浪 へつなみ 辺つ波。岸に寄せる波。←→沖つ波
  • �鳥 そにどり カワセミの古称。そに。
  • �鳥の そにどりの 〔枕〕(�は羽が青いから) 「あを(青)」にかかる。
  • 山県 やまがた 山にあるあがた。山の畑。
  • あたね 上代に染料を製した植物の一つ。タデアイの類か。あたて。(補注)「あかね」と音が通じる。また「あかね」の誤りとして「茜」とする説、原文「阿多尼」を「阿多豆(アタデ)」の誤りとして「アイタデ」のこととする説などがある。
  • 染衣 しめころも 染めた衣。
  • 此しよろし こしよろし
  • いとこやの 伊刀古やの。愛子。(形容詞「いとし」の語幹に「こ」のついた語)上代、親しい者への呼びかけの語で、親しい人、愛しい者の意。
  • 群鳥 むらとり むらがっている鳥。
  • 群鳥の むらとりの 〔枕〕「むれ」「立つ」にかかる。
  • 山跡 やまと 山と。山のあたり。山のふもと近く。
  • 項傾す うなかぶす (「うな」はうなじ、「かぶす」は傾けるの意)しょんぼりして首を垂れ傾ける。うなだれる。
  • 指挙げて ささげて ささげる。(1) 手に持って高くあげる。
  • 打ち廻る うちみる めぐる。
  • 掻き廻る かきみる 漕ぎめぐる。
  • 磯の埼 いそのさき 磯の突き出たところ。(古語)
  • 持たせらめ らめ 助動詞「らむ」の已然形。…ているであろう。
  • もよ (助詞) (間投助詞モ・ヨの接続したもの)感動の意を表す。
  • 文垣 あやがき → 綾垣
  • 綾垣 あやかき 古代、サ(あしぎぬ)で作った幕で、殿内・室内の隔てにしたもの。きぬがき。
  • ふわや (ヤは接尾語)ふわふわしていること。また、そのもの。
  • 苧衾 むしぶすま カラムシの繊維で作った寝具。一説に、「むし」は蚕のことで、「むしぶすま」は絹の夜具。
  • にこや 和や・柔や やわらかいさま。やわらかいもの。「なごや」とも。
  • 衾 たくぶすま (1) 楮の繊維で作った夜具。(2)〔枕〕(色が白いところから)「しら(白)」「しらぎ(新羅)」にかかる。
  • さやぐ ざわざわと音がする。ざわめく。
  • 泡雪・沫雪 あわゆき (1) 泡のように溶けやすい雪。
  • わかやる 若やる 若々しく、やわらかである。
  • 寝おしなせ いおしなせ
  • 豊御酒 とよみき 酒の美称。おおみき。
  • 盞 うき さかずき。
  • 項懸ける うながける 語義未詳。/うなじに手をかけて、たがいに親しみあう。(古語)
  • 神語 かむがたり/かんがたり (古くはカムガタリ)上代歌謡の一種。八千矛神の妻問を語る数首の長歌謡。
  • 走り使い はしりづかい 走りまわって使いをすること。また、その人。
  • カラスオウギ 烏扇 〔植〕ヒオウギの別称。
  • ヒオウギ (2) アヤメ科の多年草。山野に自生し、高さ約1m。葉は広い剣状で密に互生し、桧扇 (1) を開いた形に似る。夏、濃色の斑点のある黄赤色の花を多数総状に開く。黒色の種子を「ぬばたま」または「うばたま」という。観賞用に栽培。カラスオウギ。漢名、射干。
  • 料地 りょうち ある目的に使用する土地。用地。
  • アカネ 茜 (「赤根」の意) (1) アカネ科の蔓性多年草。山野に自生し、根は橙色。茎は四角く中空でとげがある。各節に四葉を輪生し、秋、白色の小花を多数つける。根から染料を採った。生薬名を茜根といい、漢方で通経薬・止血薬。茜草。
  • 帳・帷 とばり 室内に垂れさげて、室内を隔てるのに用いる布帛。たれぎぬ。たれぬの。
  • 娶う あう あふ。(4) 結婚する。男と女が関係を結ぶ。
  • 事代 ことしろ 神の託宣を伝えること。
  • 波の穂 なみのほ 波がしら。なみほ。
  • 天の羅摩の船 あめのかがみのふね/かがみぶね (「あめの」は美称)ガガイモの実を割って作った舟。上代神話で少名毘古那神が乗ってきたと伝える。「和名抄」に「蘿摩子」に「加々美(カカミ)」の訓がある。
  • 蘿 かがみ ガガイモの古名。
  • ガガイモ ガガイモ科の蔓性多年草。長い根茎がある。葉は長心臓形、茎葉を切れば白汁が出る。夏、葉腋に淡紫色の花をつける。果実は長さ10cm余の楕円形、種子に白色の長毛がある。種子を乾燥したものは生薬の蘿子で、乾葉とともに強精薬とし、また種子の毛は綿の代りに針さしや印肉に用いる。乳草。シコヘイ。ゴガミ。スズメノマクラ。クサパンヤ。
  • 鵝 が 鵞。鳥の名。がちょう。
  • 蛾 ひむし (ヒヒルムシの約か)蛾。特に、カイコの蛾。また、そのさなぎにもいう。ひひるむし。
  • 内剥ぎ うつはぎ 全剥ぎ。そっくり剥ぎ取ること。
  • 所従の神 みとものかみ 御伴神・従神。尊貴の神に供奉する神。天孫降臨の際に陪従した五部神の類。みともがみ。
  • 多迩具久 たにぐく 谷蟆。ヒキガエルの古名。
  • 久延毘古 くえびこ (「崩(く)え彦」の意という)古事記に見える神の名。今の案山子(かかし)のことという。
  • 手俣 たなまた 手股・指間。(タはテの古形。ナは助詞ノに同じ)指と指との間。
  • 漏く くく 隙間をくぐる。
  • 常世 とこよ (1) 常に変わらないこと。永久不変であること。(2) 「常世の国」の略。
  • 曽富騰 そほど/そおど 案山子。「そおず(案山子)」に同じ。
  • そほど 案山子 そおど。(ソホヅの古形)かかし。
  • え作らん え…らむ。不可能の意をあらわす。作ることができない。作ることができようか。
  • 国なり難けん がたけん
  • けん (助動)活用語の連用形に付く。(1) 過去推量。…しただろう。…だったろう。
  • 青垣 あおかき 垣のようにめぐっている緑の山を形容する語。
  • 斎きまつる いつきまつる 汚れを忌み清めて、神に奉仕する。
  • 斎く いつく 心身のけがれを浄めて神に仕える。あがめまつる。
  • 祈年祭 としごいのまつり 毎年陰暦2月4日、神祇官および諸国の役所で五穀の豊穣、天皇の安泰、国家の安寧を祈請した祭事。としごい。きねんさい。
  • 祝詞 のりと 祭の儀式に唱えて祝福することば。現存する最も古いものは延喜式巻8の「祈年祭」以下の27編など。宣命体で書かれている。「中臣寿詞」のように祝意の強いものを特に寿詞ともいう。文末を「宣(の)る」とするものと「申す」とするものとがある。のりとごと。のっと。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本国語大辞典 第二版』(小学館、2001.5)『古語辞典 改訂新版』(旺文社、1984)『全訳古語辞典』(角川書店、2002.10)。



*後記(工作員スリーパーズ日記)


 地図は因幡、伯耆、出雲の部分のみ。海岸線はおおむね現代地図から借用したが、出雲の部分のみ坂本勝『図説 風土記』(青春出版社、2008.3、p.43, 45)と『別冊太陽 出雲』(平凡社、2003.11、p.12)を参考にして当時の海岸線と河川路・郡域を記した。他に『楽学ブックス 出雲大社』(JTB パブリッシング、2012)、梅原猛『葬られた王朝』(新潮社、2010.4)を参照。

 八稚女(やおとめ)
 八俣の大蛇
 八塩折(やしおおり)の酒
 八重垣
 八耳(やつみみ)の神 (=足名椎)
 八島士奴美(やしまじぬみ)の神
 八千矛(やちほこ)の神 (=大国主神)
 八十(やそ)神 (=大国主神の兄弟)
 八上(やかみ)比売
 手間(てま)の山本
 大屋毘古(おおやびこ)の神
 八田間(やたま)の大室
 八島国
 八島牟遅(やしまむじ)の神
 八河江比売(やがはえひめ) (=葦那陀迦の神)
 
 八束水臣津野(やつかみずおみつの)の命 (『出雲国風土記』国引き神話)
 山田(やまだ)の曽富騰(そおど) (=久延毘古、かかし)
 倭(やまと) (=山門、やまと)
 
 高志の八俣の大蛇
 高志の国の沼河比売(ぬなかわひめ)
 
 (大)おおくにぬし←→(小)すくなびこな (=陽と陰)

やまたのおろち、やまとのおろち、やまたいのおろち。 




*次週予告


第五巻 第二号 
校註『古事記』(三)武田祐吉

第五巻 第三号は、
二〇一二年八月一一日(土)発行予定です。
定価:200円


T-Time マガジン 週刊ミルクティー 第五巻 第二号
校註『古事記』(二)武田祐吉
発行:二〇一二年八月四日(土)
編集:しだひろし / PoorBook G3'99
 http://www33.atwiki.jp/asterisk99/
出版:*99 出版
 〒994-0024 山形県天童市鎌田2丁目
 アパートメント山口A−202
販売:DL-MARKET
※ T-Timeは(株)ボイジャーの商標・製品です。