武田祐吉 たけだ ゆうきち
1886-1958(明治19.5.5-昭和33.3.29)
国文学者。東京都出身。小田原中学の教員を辞し、佐佐木信綱のもとで「校本万葉集」の編纂に参加。1926(昭和元)、国学院大学教授。「万葉集」を中心に上代文学の研究を進め、「万葉集全註釈」(1948-51)に結実させた。著書「上代国文学の研究」「古事記研究―帝紀攷」「武田祐吉著作集」全8巻。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)
◇表紙イラスト:「縄文の女神(山形県舟形町西ノ前遺跡土偶)」。


もくじ 
校註『古事記』(一)武田祐吉


ミルクティー*現代表記版
校註『古事記』(一)
  古事記 上つ巻 序并わせたり
   序文
    過去の時代
    『古事記』の企画
    『古事記』の成立
   一、伊耶那岐の命と伊耶那美の命
    天地のはじめ
    島々の生成
    神々の生成
    黄泉の国
    身禊
   二、天照らす大神と須佐の男の命
    誓約(うけい)
    天の岩戸

オリジナル版
校註『古事記』(一)

地名年表人物一覧書籍
難字、求めよ
後記次週予告

※ 製作環境
 ・Macintosh iBook、Mac OS 9.2.2、T-Time 2.3.1
 ・ ポメラ DM100、ソーラーパネル GOAL ZERO NOMAD 7(ガイド10プラス)
※ 週刊ミルクティー*は、JIS X 0213 文字を使用しています。
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*凡例
  • ( ):小書き。〈 〉:割り注。
  • 〔 〕:編者もしくは、しだによる注。
  • 一、漢字、かなづかい、漢字の送りは現代表記に改めました。
  •    例、云う → いう / 言う
  •      処  → ところ / 所
  •      有つ → 持つ
  •      這入る → 入る
  •      円く → 丸く
  •      室  → 部屋
  • 一、同音異義の一部のひらがなを、便宜、漢字に改めました。
  •    例、いって → 行って / 言って
  •      きいた → 聞いた / 効いた
  • 一、若干の句読点を改めました。適宜、ルビや中黒や感嘆・疑問符をおぎないました。一部、改行と行頭の字下げを改めました。
  • 一、漢数字の表記を一部、改めました。
  •    例、七百二戸 → 七〇二戸
  •    例、二萬六千十一 → 二万六〇一一
  • 一、ひらがなに傍点は、一部カタカナに改めました。
  • 一、カタカナ漢字混用文は、ひらがな漢字混用文に改めました。
  • 一、和暦にはカッコ書きで西暦をおぎないました。年次のみのばあいは単純な置き換えにとどめ、月日のわかるばあいには陰暦・陽暦の補正をおこないました。
  • 一、「今から○○年前」のような経過年数の表記は改めず、底本のままにしました。和歌・俳句・短歌は五七五(七七)の音節ごとに半角スペースで句切りました。
  • 一、表や図版キャプションなどの組版は、便宜、改めました。
  • 一、書名・雑誌名は『 』、論文名・記事名および会話文は「 」で示しました。
  • 一、差別的表現・好ましくない表現はそのままとしました。

*尺貫法
  • 寸 すん 長さの単位。尺の10分の1。1寸は約3.03cm。
  • 尺 しゃく 長さの単位。1mの33分の10と定義された。寸の10倍、丈の10分の1。
  • 丈 じょう 長さの単位。(1) 尺の10倍。約3m。(2) 周尺で、約1.7m。成人男子の身長。
  • 歩 ぶ (1) 左右の足を一度ずつ前に出した長さ。6尺。(2) 土地面積の単位。1歩は普通、曲尺6尺平方で、1坪に同じ。
  • 町 ちょう (1) 土地の面積の単位。1町は10段。令制では3600歩、太閤検地以後は3000歩とされ、約99.17アール。(2) (「丁」とも書く) 距離の単位。1町は60間。約109m強。
  • 里 り 地上の距離を計る単位。36町(3.9273km)に相当する。昔は300歩、すなわち今の6町の定めであった。
  • 合 ごう 容積の単位。升の10分の1。1合は180.39立方cm。
  • 升 しょう 容量の単位。古来用いられてきたが、現代の1升は1.80391リットル。斗の10分の1で、合の10倍。
  • 斗 と 容量の単位。1斗は1升の10倍で、18.039リットルに当たる。

*底本

底本:「古事記」角川文庫、角川書店
   1956(昭和31)年5月20日初版発行
   1965(昭和40)年9月20日20版発行
底本の親本:「眞福寺本」
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1349.html

NDC 分類:164(宗教 / 神話.神話学)
http://yozora.kazumi386.org/1/6/ndc164.html
NDC 分類:210(日本史)
http://yozora.kazumi386.org/2/1/ndc210.html





校註『古事記』 凡例
  • 一 本書は、『古事記』本文の書き下し文に脚注を加えたもの、および索引からなる。
  • 一 『古事記』の本文は、真福寺本を底本とし、他本をもって校訂を加えたものを使用した。その校訂の過程は、特別の場合以外は、すべて省略した。
  • 一 『古事記』は、三巻にわけてあるだけで、内容については別に標題はない。底本とした真福寺本には、上方に見出しが書かれているが、今それによらずに、新たに章をわけて、それぞれ番号や標題をつけ、これにはカッコをつけて新たに加えたものであることをあきらかにした。また歌謡には、末尾にカッコをして歌謡番号を記し、索引に便にすることとした。

校註『古事記』(一)

稗田の阿礼、太の安万侶
武田祐吉(注釈・校訂)

 古事記 かみつ巻 序わせたり

  〔序文〕

   〔過去の時代(一)


 やつこ安万侶やすまろ(二)もうさく、それ混元すでにこごりしかども、気象いまだあつからざりしとき、名もなくわざもなく、だれかその形を知らん(三)しかありてけんこんとはじめて分かれて、三神造化ぞうかのはじめとなり(四)、陰と陽とここに開けて、二霊群品ぐんぴんの祖となりたまいき(五)所以このゆえに幽と顕と(六)に出で入りて、日と月と目を洗うにあらわれたまい、海水うしおに浮き沈みて、神と祇と身をすすぐにあらわれたまいき。かれ太素たいそ杳冥ようめいたれども、もとつ教えによりてくにをはらみ島を産みたまいしときをり、元始は綿めんばくたれども、先の聖にりて神を生み、人を立てたまいし世をあきらかにす。まことに知る、鏡をかけ珠をきたまいて、百の王あい続き、剣をおろちを切りたまいて、よろずの神蕃息はんそくせしことを(七)やすかわはかりて天の下をことむけ、小浜おばまにあげつらいて国土をきよめたまいき。ここをもちて仁岐ににぎみこと、はじめて高千たかちたけあも(八)神倭かむやまと天皇すめらみこと〔神武天皇〕(九)秋津島あきつしまに経歴したまいき。化熊川より出でて、あまつるぎを高倉に生尾せいびこみちさえきりて、大きからす吉野にみちびきき。まいをつらねてあたはらい、歌を聞きてあだを伏しき。すなわち夢にさとりて神祇をいやまいたまいき、所以このゆえに賢后ともう(一〇)けむりを望みて黎元れいげんをなでたまいき、今に聖帝とつた(一一)。境を定めくにを開きて、ちか淡海おうみに制したまい(一二)かばねを正し氏を選みて、とお飛鳥あすかしるしたまいき(一三)。歩としゅうと、おのもおのもことに、文と質と同じからずといえども、いにしえかんがえて風猷ふうゆうをすでにすたれたるにただしたまい、今をてらして典教をえなんとするにおぎないたまわずということなかりき。

 (一)ぎし時代のことを伝え、歴代の天皇これによって徳教を正しくしたことを説く。
 (二)この序文は、天皇に奏上する文として書かれているので、この句をはじめすべてそのことばづかいがなされる。「安万侶」は、太の安麻呂、『古事記』の撰者、養老七年(七二三)没。
 (三)「混元」以下、中国の宇宙創生説によって書いている。万物は形と気とからなる。形は天地にわかれ、気は陰陽にわかれる。
 (四)アメノミナカヌシの神、タカミムスビの神、カムムスビの神の三神が、物をつくり出す最初の神となった。
 (五)イザナギ・イザナミの二神が、万物を生み出す親となった。
 (六)「幽と顕とに」以下、イザナギ・イザナミ二神の事跡。
 (七)「鏡をかけ」以下、アマテラス大神とスサノオのみこととの事跡。
 (八)「安の河に」以下、ニニギのみことの事跡。
 (九)神武天皇。
(一〇)崇神天皇。
(一一)仁徳天皇。
(一二)成務天皇。
(一三)允恭いんぎょう天皇。

   『古事記』の企画(一)


 飛鳥あすか清原きよみはらの大宮に太八洲おおやしましらしめしし天皇(二)御世みよにおよびて、潜龍せんりょう元を体し、雷せんらい期にこたえき。夢の歌を聞きて業をがんことをおもおし、夜の水にいたりて基をうけんことを知らしたまいき。しかれども天の時いまだいたらざりしかば、南の山に蝉のごとくもぬけ、人とこととともにりて、東の国に虎のごとく歩みたまいき。皇輿こうよたちまちにして、山川をしのぎわたり、六師りくし雷のごとくふるい、三軍電のごとくきき。杖矛じょうぼう威をあげて、猛士けむりのごとくおこり、絳旗こうき兵をかがやかして、凶徒かわらのごとくけぬ。いまだ浹辰しょうしんを移さずして、きれいおのずから清まりぬ。すなわち牛を放ち馬をいこえ、�悌がいていして華夏に帰り、はたを巻きほこおさめ、詠ぶえいして都邑とゆうにとどまりたまいき。ほしは大糜にやどり、月は夾鐘きょうしょうにあたり(三)、清原の大宮にして、のぼりて天位にきたまいき。道は軒后にぎ、徳は周王にえたまえり。乾符けんぷをとりて六合りくごうべ、天統てんとうを得て八荒はっこうねたまいき。二気の正しきに乗り、五行のつぎてをととのえ、あやしき理をけてひとをすすめ、すぐれたるのりを敷きて国をひろめたまいき。重加しかのみにあらず智の海は浩汗こうかんとして、ふかく上古を探り、心の鏡は�u煌いこうとして、あきらかに先の代をたまう。ここに天皇のりしたまいしく、われかくは、諸家のたる『帝紀』と『本辞』(四)とすでに正実に違い、多く虚偽を加うといえり。今の時にあたりて、その失を改めずは、いまだ幾年いくとせずして、そのむねほろびなんとす。こはすなわち邦家ほうかの経緯、王化おうか鴻基こうきなり。かれここに『帝紀』を撰録し、旧辞くじ』を討覈とうかくして、偽を削り実をさだめ、後葉のちのよつたえんとおもう」とりたまいき。ときに舎人とねりあり、姓は稗田ひえだ、名は阿礼あれ(五)、年は二十八。人となり聡明にして、目にわたれば口にみ、耳にるれば心にしるす。すなわち阿礼に勅語して、帝皇の日継ひつぎと先代の『旧辞くじ』とを誦みならわしめたまいき。しかれどもときうつり世異にして、いまだその事をおこないたまわざりき。

 (一)天武天皇が『帝紀』と『本辞』とを正して稗田の阿礼にさずけたことを説く。
 (二)天武天皇。
 (三)酉の年の二月に。
 (四)『帝紀』は歴代天皇のことを記した書、『本辞』は前の世の伝えごと。この二種が『古事記』の材料となっている。
 (五)アメノウズメの命の子孫。男子説と女子説とがある。

   『古事記』の成立(一)


 伏しておもうに皇帝陛下(二)、一を得て光宅こうたくし、三に通じて亭育ていいくしたまう。紫宸ししんにいまして徳は馬のつめの極まるところにかがふり、玄扈げんこにいまして化は船ののいたるところを照らしたまう。日浮かびてひかりをかさね、雲散りてかすまず。えだをつらね穂をあわすしるしふみひとしるすことを絶たず、とぶひをつらね、おさを重ぬるみつきみくらにむなしき月なし。名は文命よりも高く、徳は天乙にまされりといいつべし。ここに『旧辞くじ』の誤りたがえるをしみ、先紀せんぎあやまあやまれるを正さまくして、和銅四年(七一一)(三)九月十八日をもちて、臣安万侶やすまろのりして、稗田の阿礼がめる勅語の『旧辞くじ』を撰録して、献上せよとのりたまえば、つつしみてのりの旨にしたがい、子細しさいにとりひりいぬ。しかれども上古のとき、言と意とみなすなおにして、文を敷き句をかまうること、字にはすなわち難し。すでに訓によりてぶれば、詞は心にいたらず。まったく音をもちて連ぬれば、事の趣きさらに長し。ここをもちて今あるは一句の中に、音と訓とをまじえもちい、あるは一事のうちに、まったく訓をもちてしるしぬ(四)。すなわち辞理の見えがたきは、注をもちて明にし、意況のきやすきはさらにしるさず(五)。また姓の「日下くさか」に「玖沙訶くさか」といい、名の「帯」の字に「多羅斯たらし」という。かくのごときたぐいは、本にしたがいて改めず(六)。たいてい記すところは、天地の開闢かいびゃくよりして、小治田おわりだの御世(七)う。かれあめ御中主なかぬしの神より以下しも日子波限建なぎたけ鵜草葺不合うがやふきあえずみことよりさきを上つ巻とし、神倭伊波礼毘古かむやまとの天皇〔神武天皇〕より以下、品陀ほむだの御世より前(八)を中つ巻とし、大雀おおさざき皇帝すめらみこと(九)より以下、小治田おわりだの大宮より前を下つ巻とし、あわせて三つの巻にしるし、つつしみて献上たてまつる。臣安万侶、誠惶かしこみ誠恐かしこみ頓首頓首す。

和銅五年(七一二)正月二十八日
正五位の上勲五等 おお朝臣あそみ安万侶やすまろ


 (一)『古事記』成立の過程、文章の用意方針。内容の区分を説く。
 (二)元明げんめい天皇、女帝。奈良時代の最初の天皇。
 (三)七一一年。
 (四)漢字の表示する意義によって書くのが、訓によるものであり、漢字の表示する音韻によって書くのが、音によるものである。歌謡および特殊の詞句は音をもちい、地名・神名・人名も音によるものが多い。ほかに漢字の訓を訓仮字よみがなとして使ったものが多少ある。
 (五)読み方の注意、および内容に関して注が加えられている。
 (六)固有名詞の類に使用される特殊の文字は、もとのままで改めない。これは材料として文字になっていたものをも使ったことを語る。
 (七)推古天皇の時代(〜六二八)
 (八)神武天皇から応神天皇まで。
 (九)仁徳天皇。

  〔一、伊耶那岐みこと伊耶那美みこと

   〔天地のはじめ〕


 天地あめつち初発はじめのとき、高天たかまはらになりませる神のみなは、あめ御中主みなかぬしの神(一)。つぎに高御産巣日たかの神。つぎに神産巣日かむむすびの神(二)。この三柱みはしらの神は、みな独神ひとりがみ(三)になりまして、みみを隠したまいき(四)
 つぎに国わかく、かべるあぶらのごとくして水母くらげなすただよえるときに、葦牙あしかび(五)のごとえあがる物によりてなりませる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅の神(六)。つぎにあめ常立とこたちの神(七)。この二柱ふたはしらの神もみな独神ひとりがみになりまして、みみを隠したまいき。

上のくだり、五柱の神はことあまかみ

 つぎになりませる神の名は、国の常立とこたちの神。つぎに豊雲野とよくものの神(八)。この二柱の神も独神になりまして、身を隠したまいき。つぎになりませる神の名は、宇比地迩の神。つぎにいも須比智迩の神。つぎに角杙つのぐいの神。つぎにいも活杙いくぐいの神〈二柱〉。つぎに意富斗能地の神。つぎにいも大斗乃弁おおとのべの神。つぎに於母陀琉の神。つぎにいも阿夜訶志古泥の神(九)。つぎに伊耶那岐の神。つぎにいも伊耶那美の神(一〇)

上の件、国の常立の神よりしも伊耶那美いざなみの神よりさきを、あわせて神世かみよ七代ななよともうす。〈上の二柱は、独神おのもおのも一代ともうす。つぎにならびます十神はおのもおのも二神をあわせて一代ともうす。

 (一)中心、中央の思想の神格表現。空間の表示であるから活動を伝えない。
 (二)以上二神、生成の思想の神格表現。事物の存在を「生む」ことによって説明する日本神話にあって原動力である。タカミは高大、カムは神秘・神聖の意の形容語。この二神の活動は多く伝えられる。
 (三)対立でない存在。
 (四)天地の間に溶合した。
 (五)あしの芽。十分に春になったことを感じている。
 (六)葦牙の神格化。神名は男性である。
 (七)天の確立を意味する神名。
 (八)名義不明。以下神名によって、土地の成立、動植物の出現、整備などを表現するらしい。
 (九)驚きを表現する神名。
(一〇)以上二神、さそい出す意味の表現。

   〔島々の生成〕


 ここに天つ神もろもろのみことちて(一)伊耶那岐いざなぎの命・伊耶那美いざなみの命の二柱の神にりたまいて、このただよえる国を修理おさめ固めなせと、あめ沼矛ぬぼこたまいて、言依ことよさしたまいき(二)。かれ二柱の神、あめ浮橋うきはし(三)に立たして、その沼矛ぬぼこをさしおろしてえがきたまい、塩こおろこおろにして(四)、引き上げたまいしときに、その矛のさきよりしたたる塩の積もりてなれる島は、淤能碁呂(五)なり。その島に天降あもりまして、あめ御柱みはしらを見立て(六)八尋殿やひろどのを見立てたまいき。
 ここにその妹伊耶那美いざなみの命に問いたまいしく、が身はいかになれる」と問いたまえば、答えたまわく、「わが身はりなりて、なりあわぬところ一処ひとところあり」ともうしたまいき。ここに伊耶那岐いざなぎの命りたまいしく、「わが身はりなりて、なりあまれるところ一処ひとところあり。かれこのわが身のなりあまれるところを、が身のなりあわぬところに刺しふたぎて、国土くに生みなさんと思おすはいかに」とのりたまえば、伊耶那美いざなみの命答えたまわく、「しかよしけん」ともうしたまいき。ここに伊耶那岐いざなぎの命りたまいしく、「しからばと、この天の御柱を行きめぐりあいて、美斗みと麻具波比まぐわいせん(七)」とのりたまいき。かくちぎりて、すなわちりたまいしく、は右よりめぐりあえ、は左よりめぐりあわん」とのりたまいて、ちぎりおえてめぐりたまうときに、伊耶那美いざなみの命まず「あなにやし、えおとこを(八)」とのりたまい、後に伊耶那岐いざなぎの命「あなにやし、え娘子おとめを」とのりたまいき。おのもおのものりたまいえて後に、その妹にりたまいしく、女人おみな先立さきだち言えるはふさわず」とのりたまいき。しかれども隠処くみどおこしてみこ水蛭子ひるこを生みたまいき(九)。この子は葦船あしぶねに入れて流しりつ(一〇)。つぎに淡島あわしま(一一)を生みたまいき。こも子の数に入らず。
 ここに二柱の神はかりたまいて、「今、わが生める子ふさわず。なおうべあまかみ御所みもともうさな」とのりたまいて、すなわちともにい上がりて、天つ神のみこといたまいき。ここに天つ神のみこともちて、太卜ふとまにうらえて(一二)のりたまいしく、おみなの先立ち言いしによりてふさわず、またかえあもりて改め言え」とのりたまいき。
 かれここにあもりまして、さらにその天の御柱をゆきめぐりたまうこと、先のごとくなりき。ここに伊耶那岐の命、まず「あなにやし、えおとめを」とのりたまい、後に妹伊耶那美の命、「あなにやし、えおとこを」とのりたまいき。かくのりたまいえて、御合みあいまして、みこ淡道あわじ狭別さわけの島(一三)を生みたまいき。つぎに伊予いよ二名ふたなの島(一四)を生みたまいき。この島は身ひとつにしておも四つあり。面ごとに名あり。かれ伊予の国を愛比売えひめといい、讃岐さぬきの国を飯依比古いいよりひこといい、あわの国を、大宜都比売おおげつひめといい、土左とさの国を建依別たけよりわけという。つぎに隠岐おき三子みつごの島を生みたまいき。またの名はあめ忍許呂別おしころわけ。つぎに筑紫つくしの島を生みたまいき。この島も身ひとつにして面四つあり。面ごとに名あり。かれ筑紫の国(一五)白日別しらひわけといい、とよくに豊日別とよひわけといい、くに建日向日豊久士比泥別たけむかとよわけ(一六)といい、熊曽くまその国(一七)建日別たけひわけという。つぎに伊岐いきの島を生みたまいき。またの名は天比登都柱あめひとつはしらという。つぎに津島しま(一八)を生みたまいき。またの名はあめ狭手依比売さでよりひめという。つぎに佐渡さどの島を生みたまいき。つぎに大倭おおやまと豊秋津とよあきつ(一九)を生みたまいき。またの名はあま御虚空豊秋津根別とよあきわけという。かれこの八島のまず生まれしによりて、大八島おおやしま国という。
 しかありて後かえりますときに、吉備きび児島こじまを生みたまいき。またの名は建日方別たけひがたわけという。つぎに小豆島あずきしまを生みたまいき。またの名は大野手比売おおのでひめという。つぎに大島おおしま(二〇)を生みたまいき。またの名は大多麻流別おおたまるわけという。つぎに女島ひめじま(二一)を生みたまいき。またの名は天一根あめひとつねという。つぎに知訶ちかの島(二二)を生みたまいき。またの名はあめ忍男おしおという。つぎに両児ふたごの島(二三)を生みたまいき。またの名はあめ両屋ふたやという。〈吉備の児島より天の両屋の島まであわせて六島。

 (一)天神の命によって若い神が降下するのは日本神話の基礎形式の一つ。祭典の思想に根拠を有している。
 (二)りっぱな矛をたまわって命をくだした。
 (三)天からの通路である空中の階段。
 (四)海水をゴロゴロとかきまわして。
 (五)大阪湾内にある島。今の何島か不明。
 (六)家屋の中心となる神聖な柱を立てた。
 (七)結婚しよう。
 (八)アナニヤシ、感動の表示。エオトコヲ、愛すべき男だ。ヲは感動の助詞。
 (九)ヒルのようなよくないものが、不合理な婚姻によって生まれたとする。
(一〇)虫送りの行事。
(一一)四国の阿波の方面の名。この部分は阿波方面に対してわるい感情を表示する。
(一二)古代の占法は種々あるが、鹿の肩骨を焼いてヒビの入り方によって占なうのを重んじ、これをフトマニといった。これは後に亀の甲を焼くことに変わった。
(一三)淡路島の別名。ワケは若い者の義。
(一四)四国の称。伊予の方面からいう。
(一五)北九州。
(一六)誤伝があるのだろう。肥の国(肥前・肥後)のほかに、日向の別名があげられているのだろうというが、日向を入れると五国になって、「面四つあり」というのにあわない。
(一七)クマ(肥後南部)とソ(薩摩)とをあわせた名。
(一八)対馬島。
(一九)本州。
(二〇)山口県の屋代島だろう。
(二一)大分県の姫島だろう。
(二二)長崎県の五島。
(二三)所在不明。

   〔神々の生成〕


 すでに国を生みおえて、さらに神を生みたまいき。かれ生みたまう神の名は、大事忍男おおことおしおの神。つぎに石土毘古いわつちびこの神を生みたまい、つぎに石巣比売いわすひめの神を生みたまい、つぎに大戸日別おおとひわけの神を生みたまい、つぎにあめ吹男ふきおの神を生みたまい、つぎに大屋毘古おおやびこの神を生みたまい(一)、つぎに風木津別かざもつわけ忍男おしおの神(二)を生みたまい、つぎにわたの神名は大綿津見おおわたつみの神を生みたまい、つぎに水戸みなとの神(三)名は速秋津日子はやあきつひこの神、つぎに妹速秋津比売はやあきつひめの神を生みたまいき。〈大事忍男の神より秋津比売の神まであわせて十神。
 この速秋津日子はやあきつひこ速秋津比売はやあきつひめ二神ふたはしら、河海によりて持ちわけて生みたまう神の名(四)は、沫那芸あわなぎの神。つぎに沫那美あわなみの神。つぎに頬那芸つらなぎの神。つぎに頬那美つらなみの神。つぎにあめ水分みくまりの神。つぎにくに水分みくまりの神。つぎにあめ久比奢母智の神、つぎにくに久比奢母智の神。〈沫那芸の神より国の久比奢母智の神まであわせて八神。
 つぎに風の神名は志那都比古しなつひこの神(五)を生みたまい、つぎに木の神名は久久能智くくのちの神(六)を生みたまい、つぎに山の神名は大山津見おおやまつみの神を生みたまい、つぎに野の神名は鹿屋野比売の神を生みたまいき。またの名は野椎のづちの神という。〈志那都比古の神より野椎まであわせて四神。
 この大山津見の神、野椎の神の二神ふたはしら、山野によりて持ちわけて生みたまう神の名は、天の狭土さづちの神。つぎに国の狭土の神。つぎに天の狭霧さぎりの神。つぎに国の狭霧ぎりの神。つぎに天の闇戸くらとの神。つぎに国の闇戸の神。つぎに大戸或子おおとまどいこの神。つぎに大戸或女おおとまどいめの神(七)〈天の狭土の神より大戸或女の神まであわせて八神。
 つぎに生みたまう神の名は、鳥の石楠船いわくすぶねの神(八)、またの名は天の鳥船とりぶねという。つぎに大宜都比売おおげつひめの神(九)を生みたまい、つぎに夜芸速男やぎはやおの神を生みたまいき。またの名は�f毘古かがびこの神といい、またの名は迦具土かぐつちの神という。この子を生みたまいしによりて、御陰みほとやかえてこやせり。たぐり(一〇)りませる神の名は金山毘古かなやまびこの神。つぎに金山毘売かなやまびめの神。つぎにくそになりませる神の名は、波迩夜須毘古の神。つぎに波迩夜須毘売の神(一一)。つぎに尿ゆまりになりませる神の名は弥都波能売の神(一二)。つぎに和久産巣日の神(一三)。この神の子は豊宇気毘売とよの神(一四)という。かれ伊耶那美いざなみの神は、火の神を生みたまいしによりて、ついに神避かむさりたまいき。〈天の鳥船より豊宇気毘売の神まであわせて八神。およそ伊耶那岐いざなぎ伊耶那美いざなみの二神、ともに生みたまう島一拾とおまり四島よしま、神参拾みそじまり五神いつはしら(一五)〈こは伊耶那美いざなみの神、いまだ神避かむさりまさざりし前に生みたまいき。ただ意能碁呂島は生みたまえるにあらず、また蛭子ひること淡島とは子の例に入らず。

 (一)以上の神の系列は、家屋の成立を語るものと解せられる。
 (二)風に対してえることを意味するらしい。
 (三)河口など、海に対する出入口の神。
 (四)海と河とで分担して生んだ神。以下、水に関する神。アワナギ・アワナミは動く水の男女の神。ツラナギ・ツラナミは静水の男女の神。ミクマリは水の配分。クヒザモチは水をくむ道具。
 (五)息の長い男の義。
 (六)木の間をもぐる男の義。
 (七)山の神と野の神とが生んだ諸神の系列は、山野に霧がかかって迷うことを表現する。
 (八)鳥のごとく早く軽く行くところの、石のようにかたいクスノキの船。
 (九)穀物の神。この神に関する神話が三五ページ「須佐の男の神」の「穀物の種」にある。
(一〇)吐瀉物としゃぶつ。以下、排泄物によって生まれた神は、火を防ぐ力のある神である。
(一一)埴土はにつちの男女の神。
(一二)水の神。
(一三)若い生産力の神。
(一四)これも穀物の神。以上の神の系列は、野を焼いて耕作する生活を語る。
(一五)実数四十神だが、男女一対の神を一つとして数えれば三十五になる。

   黄泉よみの国〕


 かれここに伊耶那岐いざなぎの命のりたまわく、うつくしき汝妹なにもの命を、子の一木ひとつけえつるかも」とのりたまいて、御枕方みまくらべにはらばい御足方みあとべにはらばいてきたまうときに、御涙になりませる神は、香山かぐやま(一)畝尾うねお(二)の木のもとにます、名は泣沢女なきさわめの神(三)。かれその神避かむさりたまいし伊耶那美いざなみの神は、出雲の国と伯伎ほうきの国との堺なる比婆ひばの山(四)おさめまつりき。ここに伊耶那岐の命、御佩みはかし十拳とつかの剣(五)をぬきて、その子迦具土つちの神の首をりたまいき。ここにその御刀みはかしさきにつける血、湯津石村ゆついわむら(六)たばしりつきてなりませる神の名は、石拆いわさくの神。つぎに根拆ねさくの神。つぎに石筒いわづつの神。つぎに御刀みはかしの本につける血も、湯津石村に走りつきてなりませる神の名は、甕速日みかはやびの神。つぎに樋速日ひはやびの神。つぎに建御雷たけみかづちの神。またの名は建布都たけふつの神、またの名は豊布都とよふつの神〈三神〉。つぎに御刀の手上たがみに集まる血、手俣たなまたよりき出てなりませる神の名は、闇淤加美くらの神。つぎに闇御津羽くらみつはの神。〈上の件、石拆の神より下、闇御津羽の神より前、あわせて八神は、御刀みはかしによりて生りませる神なり。
 殺さえたまいし迦具土かぐつちの神の頭になりませる神の名は、正鹿山津見まさかやまつみの神(七)。つぎに胸になりませる神の名は、淤縢山津見おとやまつみの神。つぎに腹になりませる神の名は、奥山津見おくやまつみの神。つぎにほとになりませる神の名は、闇山津見くらやまつみの神。つぎに左の手になりませる神の名は、志芸山津見しぎやまつみの神。つぎに右の手になりませる神の名は、羽山津美はやまつみの神。つぎに左の足になりませる神の名は、原山津見はらやまつみの神。つぎに右の足になりませる神の名は、戸山津見とやまつみの神。〈正鹿山津見の神より戸山津見の神まであわせて八神。かれりたまえる刀の名は、天の尾羽張おはばりといい(八)、またの名は伊都いつの尾羽張という。
 ここにその妹伊耶那美の命を相見まくおもおして、黄泉国よもつくに(九)に追いでましき。ここに殿とのくみ(一〇)より出で向かえたまうときに、伊耶那岐いざなぎの命かたらいてりたまいしく、うつくしき汝妹なにもの命、吾とと作れる国、いまだ作りえずあれば、かえりまさね」とりたまいき。ここに伊耶那美いざなみの命の答えたまわく、くやしかも、く来まさず。吾は黄泉よもつ戸喫へぐい(一一)しつ。しかれども愛しきわが汝兄なせの命、入り来ませることかしこし。かれかえりなんを。しまらく〔しばらく〕黄泉神よもつかみとあげつらわん。我をなたまいそ」と、かくもうして、その殿内とのぬちかえり入りませるほど、いと久しくて待ちかねたまいき。かれ左の御髻みみずらさせる湯津爪櫛ゆつつまぐし(一二)の男柱一個ひとつとりきて、一つともして入り見たまうときに、うじたかれころろぎて(一三)、頭には大雷おおいかづちおり、胸にはの雷おり、腹には黒雷くろいかずちおり、ほとにはさく雷おり、左の手にはわき雷おり、右の手にはつち雷おり、左の足にはなる雷おり、右の足にはふし雷おり、あわせてくさの雷神なりおりき。
 ここに伊耶那岐いざなぎの命、かしこみて逃げかえりたまうときに、その妹伊耶那美いざなみの命、「吾にはじ見せつ」といいて、すなわち黄泉よもつ醜女しこめ(一四)つかわして追わしめき。ここに伊耶那岐いざなぎの命、黒御鬘くろみかずら(一五)を投げてたまいしかば、すなわち蒲子えびかずら(一六)りき。こをひりむ間に逃げでますを、なお追いしかば、またその右の御髻みみずらに刺させる湯津爪櫛を引ききて投げてたまえば、すなわちたかむな(一七)りき。こを抜きむ間に、逃げ行でましき。また後にはかのくさの雷神に、千五百ちいお黄泉よもついくさたぐえて追わしめき。ここに御佩みはかし十拳とつかの剣をぬきて、後手しりえできつつ逃げ来ませるを、なお追いて黄泉比良坂よもつひらさか(一八)の坂本にいたるときに、その坂本なるもも三つをとりて持ち撃ちたまいしかば、ことごとに逃げ返りき。ここに伊耶那岐いざなぎの命、ももりたまわく、いまし、吾を助けしがごと、葦原の中つ国にあらゆるうつしき青人草あおひとくさ(一九)の、き瀬に落ちて、患惚たしなまんときに助けてよ」とのりたまいて、意富加牟豆美の命という名をたまいき。最後いやはてにその妹伊耶那美いざなみの命、みずから追い来ましき。ここに千引ちびきいわをその黄泉よもつ比良坂ひらさかに引きえて、その石を中に置きて、おのもおのもき立たして、事戸ことどをわたすとき(二〇)に、伊耶那美いざなみの命のりたまわく、うつくしき汝兄なせの命、かくしたまわば、いましの国の人草ひとくさ一日ひとひ千頭ちかしらくびり殺さん」とのりたまいき。ここに伊耶那岐いざなぎの命、りたまわく、「愛しきわが汝妹なにもの命、みまししかしたまわば、は一日に千五百ちいお産屋うぶやを立てん」とのりたまいき。ここをもちて一日にかならず千人ちたり死に、一日にかならず千五百人なも生まるる。
 かれその伊耶那美いざなみの命になづけて黄泉津よもつ大神という。またその追いきしをもちて、道敷ちしきの大神(二一)ともいえり。またその黄泉よみの坂にさわれる石は、道反ちかえしの大神ともいい、えます黄泉戸よみどの大神ともいう。かれそのいわゆる黄泉よもつ比良坂ひらさかは、今、出雲の国の伊賦夜(二二)という。

 (一)奈良県磯城郡しきぐんの天の香具山。神話に実在の地名が出るばあいは、たいていその神話の伝えられている地方を語る。
 (二)うねりのある地形の高み。
 (三)香具山のふもとにあった埴安はにやすの池の水神。泣沢なきさわの森そのものを神体としている。
 (四)広島県比婆郡ひばぐんに伝説地がある。
 (五)十つかみある長い剣。
 (六)神聖な岩石。以下、神の系列によって鉄鉱を火力で処理して刀剣を得ることを語る。イワサクの神からイワヅツノオの神まで岩石の神霊。ミカハヤビ・ヒハヤビは火力。タケミカヅチノオは剣の威力。クラオカミ・クラミツハは水の神霊。クラは渓谷。御刀の手上たがみは剣のつか。タケミカヅチノオは五六ページ天照あまてらす大御神と大国主の神」の「国ゆずり」、七四ページ「神武天皇」の「熊野より大和へ」に神話がある。
 (七)以下、各種の山の神。
 (八)幅の広い剣の義。水の神と解せられ、五六ページ天照あまてらす大御神と大国主の神」の「国ゆずり」に神話がある。別名のイツは威力の意。
 (九)地下にありとされる空想上の世界。「黄泉」の文字は漢文からくる。
(一〇)宮殿の閉ざしてある戸。殿の騰戸とする伝えもある。
(一一)黄泉の国の火で作った食物をったので黄泉の人となってしまった。同一の火による団結の思想である。
(一二)髪を左右にわけて耳のあたりで輪にする。それにさした神聖なくし。櫛は竹で作り魔よけとして女がさしてくれる。
(一三)ウジがわいてゴロゴロ鳴って。トロロギテとする伝えがあるが誤り。
(一四)黄泉の国の見にくいばけものの女。
(一五)植物を輪にして魔よけとして髪の上にのせる。
(一六)ヤマブドウ。
(一七)タケノコ。
(一八)黄泉の国の入口にある坂。黄泉の国に向かって下る。墳墓の構造からきている。
(一九)現実にある人間。
(二〇)『日本書紀』には絶妻のうけいとある。言葉で戸を立てる。別れの言葉をいう。
(二一)道路を追いかける神。
(二二)島根県八束郡やつかぐん

   〔身禊〕


 ここをもちて伊耶那岐いざなぎの大神のりたまいしく、はいなしこめしこめききたなき国(一)にいたりてありけり。かれ吾は御身おおみまはらえせん」とのりたまいて、竺紫つくし日向ひむかの橘の小門おど阿波岐あわぎ(二)にいたりまして、みそはらえたまいき。かれ投げつる御杖になりませる神の名は、船戸ふなどの神(三)。つぎに投げ棄つる御帯になりませる神の名は、みち長乳歯ながちはの神(四)。つぎに投げ棄つる御嚢みふくろになりませる神の名は、時量師ときはかしの神(五)。つぎに投げ棄つる御けしになりませる神の名は、煩累わずらい大人うしの神(六)。つぎに投げ棄つる御はかまになりませる神の名は、道俣ちまたの神(七)。つぎに投げ棄つる御冠みかがふりになりませる神の名は、飽咋あきぐい大人うしの神(八)。つぎに投げ棄つる左の御手の手纏たまきになりませる神の名は、奥疎おきざかるの神(九)。つぎに奥津那芸佐毘古おきの神。つぎに奥津甲斐弁羅の神。つぎに投げ棄つる右の御手の手纏たまきになりませる神の名は、辺疎へざかるの神。つぎに辺津那芸佐毘古の神。つぎに辺津甲斐弁羅の神。

右のくだり船戸ふなどの神より下、辺津甲斐弁羅の神より前、十二神とおまりふたはしらは、身にけたる物をぎうてたまいしによりて、りませる神なり。

 ここにりたまわく、かみは瀬速し、しもつ瀬は弱し」とりたまいて、はじめてなかつ瀬にかずきて、すすぎたまう時になりませる神の名は、八十禍津日やそまがつびの神(一〇)。つぎに大禍津日おおまがつひの神。この二神ふたはしらは、かのきたなき国にいたりたまいしときの、汚垢けがれによりてなりませる神なり。つぎにそのまがをなおさんとしてなりませる神の名は、神直毘かむなおびの神。つぎに大直毘おおなおびの神(一一)。つぎに伊豆能売いづのめ(一二)。つぎに水底みなそこすすぎたまう時になりませる神の名は、底津綿津見そこつわたつみの神(一三)。つぎに底筒そこづつの命。中にすすぎたまうときになりませる神の名は、中津綿津見なかつわたつみの神。つぎに中筒なかづつの命。水の上にすすぎたまう時になりませる神の名は、上津綿津見うわつわたつみの神。つぎに上筒うわづつの命。この三柱の綿津見の神は、阿曇あづみむらじらが祖神おやがみいつく神なり。かれ阿曇の連らは、その綿津見の神の子宇都志日金拆がなさくの命の子孫のちなり。その底筒の男の命・中筒の男の命・上筒の男の命三柱の神は、すみ三前みまえ大神おおかみ(一四)なり。
 ここに左の御目を洗いたまうときになりませる神の名は、天照あまてらす大御神おおみかみ。つぎに右の御目を洗いたまうときになりませる神の名は、月読つくよみの命(一五)。つぎに御鼻を洗いたまうときになりませる神の名は、建速須佐たけはやすさの命(一六)

右の件、八十禍津日やそまがつびの神より下、速須佐はやすさの命より前、十柱の神(一七)は、御身をすすぎたまいしによりてれませる神なり。

 このとき、伊耶那岐いざなぎの命いたくよろこばしてりたまいしく、「吾は子を生み生みて、生みのはてに、三柱の貴子うづみこを得たり」とりたまいて、すなわちその御首珠みくびたまの玉のももゆらに取りゆらかして(一八)天照あまてらす大御神にたまいてりたまわく、が命は高天たかまはらを知らせ」と、言依ことよさしてたまいき。かれその御首珠みくびたまの名を、御倉板挙みくらたなの神(一九)という。つぎに月読の命にりたまわく、が命はおす(二〇)を知らせ」と、言依ことよさしたまいき。つぎに建速須佐たけはやすさの命にりたまわく、が命は海原を知らせ」と、言依ことよさしたまいき。
 かれ、おのもおのもよさしさす。おまかせになる〕たまえる命のまにま知らしめすうちに、速須佐の男の命、さしたまえる国を知らさずて、八拳須やつかひげ心前むなさきにいたるまで、きいさちき(二一)。その泣くさまは、青山は枯山なす泣きからし、河海うみかわはことごとに泣きしき。ここをもちてあらぶる神のおとない(二二)狭蝿さばえなすみなち、よろずの物のわざわいつぶさにおこりき。かれ伊耶那岐の大御神、速須佐の男の命にりたまわく、「なにとかもいまし言依ことよさせる国をらさずて、きいさちる」とのりたまえば、答えもうさく〔申すには〕ははの国堅洲かたす(二三)まからんとおもうがからにく」ともうしたまいき。ここに伊耶那岐いざなぎの大御神、いた忿いからしてりたまわく、「しからばはこの国にはなとどまりそ」とりたまいて、すなわち神逐かむやらいにやらいたまいき(二四)。かれ、その伊耶那岐いざなぎの大神は、淡路の多賀たが(二五)にまします。

 (一)たいへん見にくい、きたない世界。
 (二)九州の諸地方に伝説地があるが不明。阿波岐あわぎ」は樹名だろうが不明。『日本書紀』に「檍原」と書く。
 (三)道路に立って悪魔のくるのを追い返す神。柱の形であるから杖によってなったという。
 (四)道路の長さの神。道路そのものに威力ありとする思想。
 (五)時置師ときおかしの神とも伝える。時間のかかる意であろう。
 (六)疲労の神霊。
 (七)二股ふたまたになっている道路の神。
 (八)口をあけて食う神霊。魔物を、である。
 (九)以下は、みそぎをする土地の説明。
(一〇)災禍の神霊。
(一一)災禍をはらってよくする思想の神格化。まがったものをまっすぐにするという形で表現している。
(一二)威力のある女。巫女である。
(一三)以下六神、海の神。安曇系と住吉系と二種の神話の混合。
(一四)住吉神社の祭神。西方の海岸にこの神の信仰がある。
(一五)月の神、男神。『日本書紀』にはこの神が保食うけもちの神(穀物の神)を殺す神話がある。
(一六)暴風の神であり出雲系の英雄でもある。
(一七)実数十四神。イヅノメと海神の一組三神とを除けば十神になる。
(一八)首にかけた珠の緒もゆらゆらとゆり鳴らして。
(一九)棚の上に安置してある神霊の義。
(二〇)夜の領国。神話は伝わらない。
(二一)長いヒゲが胸元までのびるまで泣きわめいた。以下、暴風の性質にもとづく叙述。
(二二)乱暴な神の物音。暴風のさわぎ。
(二三)死んだ母の国。イザナミの神の行っている黄泉の国である地下の固い土の世界。暴風がみずから地下へ行こうと言ったとする。
(二四)神が追いはらった。暴風を父の神が放逐ほうちくしたとする思想。
(二五)真福寺本には「淡海の多賀」とする。イザナギの命の信仰は、淡路方面にひろがっていた。

  〔二、天照あまてらす大神おおみかみ須佐すさみこと

   誓約うけい


 かれここに速須佐はやすさの男の命、もうしたまわく、「しからば天照あまてらす大御神にもうしてまかりなん」ともうして、天にまい上がりたまうときに、山川ことごとにとよみ国土みなりき(一)。ここに天照あまてらす大御神、聞きおどろかしてりたまわく、「わが汝兄なせの命の上がり来ますゆえは、かならずうるわしき心ならじ。わが国をうばわんとおもおさくのみ」とりたまいて、すなわち御髪みかみを解きて、御髻みみずらかして(二)、左右の御髻みみずらにも、御鬘みかずらにも、左右の御手にも、みな八尺やさか勾まがたま五百津いおつ御統すまるの珠(三)き持たして、そびらには千入ちのりゆき(四)を負い、ひら(五)には五百入いおのりゆきをつけ、またただむきには稜威いづ高鞆たかとも(六)を取り佩ばして、弓腹ゆばらふりたてて、堅庭かたにわ向股むかももにふみなずみ、沫雪あわゆきなすはららかして蹴散けちらして〕、稜威の男建おたけび(七)たけびて、待ち問いたまいしく、「何とかも上がり来ませる」と問いたまいき。ここに速須佐はやすさみこと答えもうしたまわく、きたなき心なし。ただ大御神の命もちて、僕がきいさちることを問いたまいければ、もうしつらく、僕はははの国になんとおもいてくともうししかば、ここに大御神みましはこの国になとどまりそとりたまいて、神逐かむやらいたまう。かれまかりなんとするさまをもうさんとおもいてい上がりつらくのみ。しき心なし」ともうしたまいき。ここに天照あまてらす大御神りたまわく、「しからばみましの心の清明あかきはいかにして知らん」とのりたまいしかば、ここに速須佐の男の命答えたまわく、「おのもおのもうけいて子生まん(八)」ともうしたまいき。かれここに、おのもおのもあまやすかわ(九)を中に置きてうけうときに、天照あまてらす大御神、まず建速須佐の男の命のかせる十拳とつかつるぎいわたして、三段みきだに打ち折りて、ぬなとももゆらに(一〇)あめ真名井まない(一一)に振りすすぎて、さみにみて、吹きつる気吹いぶき狭霧さぎりになりませる神の御名(一二)は、多紀理毘売の命、またの御名は奥津島比売おきしまの命という。つぎに市寸島比売いちきしまひめの命、またの御名は狭依毘売さよりびめの命という。つぎに多岐都比売の命(一三)〈三柱〉。速須佐の男の命、天照あまてらす大御神の左の御髻みみずらかせる八尺やさか勾珠まがたま五百津いおつ御統みすまるの珠をいわたして、ぬなとももゆらに、あめの真名井に振りすすぎて、さみにみて、吹きつる気吹いぶき狭霧さぎりになりませる神の御名は、正勝吾勝勝速日まさかつかちはやあめ忍穂耳おしほみみの命(一四)。また右の御髻みみずらかせる珠をいわたして、さみにみて、吹きつる気吹いぶき狭霧さぎりになりませる神の御名は、天の菩卑ほひの命(一五)。また御鬘みかずらかせる珠をいわたして、さみにみて、吹きつる気吹いぶき狭霧さぎりになりませる神の御名は、天津日子根あまの命(一六)。また左の御手にかせる珠をいわたして、さみにみて、吹きつる気吹いぶき狭霧さぎりになりませる神の御名は、活津日子根いくの命。また右の御手にかせる珠をいわたして、さみにみて、吹きつる気吹いぶき狭霧さぎりになりませる神の御名は、熊野久須毘くまの命(一七)〈あわせて五柱。
 ここに天照あまてらす大御神、速須佐はやすさの男の命にりたまわく、「この後にれませる五柱の男子ひこみこは、物実ものざねわが物によりてなりませり。かれ、おのずからわが子なり。先にれませる三柱の女子ひめみこは、物実いましの物によりてなりませり。かれ、すなわちいましの子なり」と、かくけたまいき。
 かれその先にれませる神、多紀理毘売の命は、むなかた奥津おきつ(一八)にます。つぎに市寸島比売いちきしまひめの命は形の中津なかつ宮にます(一九)。つぎに田寸津比売の命は、形の辺津へつ宮にます。この三柱の神は、形の君らがもちいつ三前みまえの大神なり。
 かれこの後にれませる五柱の子の中に、天の菩比ほひの命の子建比良鳥たけひらとりの命、こは出雲の国のみやつこ无耶志むざしの国の造、かみ兎上うなかみの国の造、しも兎上うなかみの国の造、伊自牟の国の造、津島つしまあがたあたえ遠江とおつおうみの国の造らがおやなり。つぎに天津日子根あまの命は、凡川内おおしこうちの国の造、額田部ぬか湯座ゆえむらじの国の造、やまとの田中のあたえ山代やましろの国の造、馬来田うまくたの国の造、みち尻岐閇しりきべの国の造、周芳すわの国の造、やまと淹知あむちみやつこ高市たけち県主あがたぬし蒲生かまう稲寸いなぎ三枝部さきくさべの造らが祖なり。

 (一)暴風の襲来するありさまで、歴史的には出雲族の襲来を語る。
 (二)男装される。
 (三)大きな曲玉のたくさんを緒につらぬいたもの。曲玉は、玉の威力の発動の思想を表示する。
 (四)千本の矢を入れて背負せおう武具。
 (五)胸のたいらなところ。
 (六)威勢のよい音のするとも。トモは皮で球形に作り、左の手にはめて弓を引いたときにそれにあたって音が立つようにする武具。
 (七)威勢のよいさけび。
 (八)神にちかって神意をうかがう儀式。種々の方法があり、夢が多く使われる。ここは生まれた子の男女の別によって神意をうかがう。
 (九)高天の原にありとする川。滋賀県の野洲やす川だともいう。明日香川の古名か。
(一〇)玉の音もさやかに。
(一一)神聖な水の井。
(一二)以上の行為は、身をきよめるためにおこなう。剣を振って水をきよめてその水を口に含んでく霧の中に神霊が出現するとする。以下は、剣が玉に変わっているだけ。
(一三)以上の三女神は福岡県の宗像むなかた神社の神。
(一四)皇室のご祖先と伝える。
(一五)出雲氏らの祖先。
(一六)主として近畿地方に居住した諸氏の祖先。各種の系統の祖先が、この行事によって出現したとするのは、民族が同一祖から出たとする思想である。
(一七)出雲の国の熊野神社の神。
(一八)福岡県の海上、日本海の沖の島にある。
(一九)福岡県の海上、大島にある。

   あま岩戸いわと


 ここに速須佐の男の命、天照あまてらす大御神にもうしたまいしく、「わが心、清明あかければわが生める子、手弱女たわやめを得つ(一)。これによりていわば、おのずからわれ勝ちぬ」といいて、ちさび(二)天照あまてらす大御神の営田みつくはなち、その溝み、またその大にえ聞こしめす殿にくそまりらしき(三)。かれしかすれども、天照あまてらす大御神はとがめずてりたまわく、くそなすはいてき散らすとこそわが汝兄なせの命かくしつれ。また田の離ち溝むは、ところあたらしとこそわが汝兄なせの命かくしつれ」となおしたまえども、なおそのあらぶるわざまずてうたて〔ますますはなはだしく〕あり。天照あまてらす大御神の忌服屋いみはたや(四)にましまして神御衣かむみそ織らしめたまうときに、その服屋はたやむねをうがちて、天の斑馬むちこま逆剥さかはぎにはぎておとし入るる(五)ときに、天の衣織女みそおりめ見おどろきて(六)陰上ほときて死にき。かれここに天照あまてらす大御神かしこみて、天の石屋戸いわやど(七)を開きてさしこもりましき。ここに高天たかまはらみな暗く、葦原あしはらの中つ国ことごとにくらし。これによりて、常夜とこよゆく(八)。ここによろずの神のおとないは、さばえなす満ち、よろずわざわいことごとにおこりき。ここをもちて八百万やおよろずの神、天の安の河原に神集かむつどつどいて、高御産巣日たかの神の子思金おもいがねの神(九)に思わしめて、常世とこよ長鳴ながなき(一〇)つどえて鳴かしめて、天の安の河の河上の天の堅石かたしわを取り、天の金山かなやままがねを取りて、鍛人かぬち天津麻羅あまつまらぎて、伊斯許理度売の命におおせて鏡を作らしめ、玉のおやの命におおせて八尺の勾まがたま五百津いおつ御統みすまるの珠を作らしめて、天の児屋こやねの命・布刀玉だまの命をびて、天の香山かぐやま真男鹿さおしかの肩を内抜うつぬきにぬきて(一一)、天の香山の天の波波迦ははか(一二)をとりて、占合うらえまかなわしめて(一三)、天の香山の五百津いおつ真賢木さか根掘ねこじにこじて(一四)上枝ほつえに八尺の勾まがたま五百津の御統の玉を取りつけ、中つ枝に八尺やたの鏡を取りけ、下枝しずえ白和幣しろにぎて青和幣あおにぎてを取りでて(一五)、この種種くさぐさの物は、布刀玉の命太御幣ふとみてぐらと取り持ちて、天の児屋の命太祝詞ふとのりとことほぎもうして、天の手力男たぢからおの神(一六)、戸のわきにかくり立ちて、天の宇受売うずめの命、天の香山の天の日影ひかげをたすきにけて、天の真拆まさきかずらとして(一七)、天の香山の小竹葉ささば手草たぐさにゆいて(一八)、天の石屋戸いわやど覆槽うけふせて(一九)みとどろこし〔とどろかし〕神懸かむがかりして、胸乳むなちき出で、ひもほとに押しりき。ここに高天の原、とよみて八百万やおよろずの神ともにわらいき。
 ここに天照あまてらす大御神あやしとおもおして、天の石屋戸をほそめに開きて内よりりたまわく、こもりますによりて、天の原おのずからくらく、葦原の中つ国もみなくらけんと思うを、なにとかも天の宇受売うずめあそびし、また八百万の神、もろもろわらう?」とのりたまいき。ここに天の宇受売うずめもうさく、汝命いましみことにまさりてとうとき神いますがゆえに、歓喜よろこわらあそぶ」ともうしき。かくいう間に、天の児屋の命・布刀玉の命、その鏡をさし出でて、天照あまてらす大御神に見せまつるときに、天照あまてらす大御神いよよあやしと思おして、やや戸より出でてのぞみますときに、そのかくり立てる手力男の神、その御手を取りて引き出だしまつりき。すなわち布刀玉の命、尻久米しりくめなわ(二〇)をその御後方みしりえきわたしてもうさく、「ここより内になかえり入りたまいそ」ともうしき。かれ天照あまてらす大御神の出でますときに、高天の原と葦原の中つ国とおのずからかりき。ここに八百万の神ともにはかりて、速須佐の男の命に千座ちくら置戸おきどを負わせ(二一)、またひげと手足のツメとを切り、はらえしめて、神逐かむやらやらいき。

 (一)自分がきよらかだから女子を得たとする。『日本書紀』では反対に、男子が生まれたらスサノオの命が潔白であるとしている。『古事記』の神話が女子によって語られたとする証明になるところ。オシホミミの命の出現によって勝ったとするのが原形だろう。
 (二)勝ちにまかせて。
 (三)田のあぜをやぶり溝をうめ、また御食事をなされる宮殿に不浄の物をまき散らすので、みな暴風の災害である。
 (四)清浄な機おり場。
 (五)これも暴風の災害。
 (六)機おるときに横糸をまいて縦糸の中をくぐらせる道具。
 (七)「イワ」は堅固である意をあらわすためにつけていう。墳墓の入口の石の戸とする説もある。
 (八)永久の夜が続く。
 (九)思慮・智恵の神格化。
(一〇)鶏。「常世」は恒久の世界の義で、空想上の世界から転じて海外をいう。
(一一)香具山の鹿の肩の骨をそっくりいて。
(一二)樹名、カバノキ。これで鹿骨を焼く。
(一三)占いをし、適合させて。卜占によって祭の実行方法を定める。
(一四)香具山のしげった木を根とともに掘って。マサカキはしげった常緑木で、今いうツバキ科の樹名サカキに限らない。神聖な清浄な木を引く意味で、山からとってくる。
(一五)サカキに玉と鏡と麻楮をつけるのは、神霊をまねく意の行事で、他の例では剣をもつける。シラニギテはコウゾ、アオニギテはアサ。
(一六)力の神格。
(一七)ヒカゲカズラを手次たすきにかけ、マサキノカズラをカズラにする。神がかりをするための用意。
(一八)小竹の葉をつけて手で持つ。
(一九)中のうつろの箱のようなものをふせて。
(二〇)シメなわ。出入禁止の意の表示。
(二一)罪を犯した者に多くの物を出させる。

(つづく)



底本:「古事記」角川文庫、角川書店
   1956(昭和31)年5月20日初版発行
   1965(昭和40)年9月20日20版発行
底本の親本:「眞福寺本」
※底本は校注が脚註の形で配置されています。このファイルでは校註者が追加した標題ごとに、書き下し文、校注の順序で編成しました。
※(一)〜(五五)は注釈番号です。底本では、直前の文字の右横に、ルビのように漢数字のみ付いています。このファイルでは本文の漢数字との混同を避けるため(漢数字)で表しました。
〔 〕は底本の親本にはないもので、校註者が補った箇所を表します。
※頁数を引用している箇所には校註者が追加した標題を注記しました。
入力:川山隆
校正:しだひろし
YYYY年MM月DD日作成
青空文庫作成ファイル:
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校註『古事記』(一)

稗田の阿礼、太の安万侶
武田祐吉注釈校訂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)上《かみ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)神|蕃息《はんそく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「二点しんにょう+貌」、第3水準1-92-58]
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[#1字下げ]古事記 上《かみ》つ卷 序并はせたり[#「古事記 上つ卷 序并はせたり」は大見出し]

[#3字下げ]〔序文〕[#「〔序文〕」は中見出し]

[#5字下げ]〔過去の時代(一)〕[#「〔過去の時代(一)〕」は小見出し]
 臣《やつこ》安萬侶《やすまろ》(二)言《まを》さく、それ混元既に凝りしかども、氣象いまだ敦《あつ》からざりしとき、名も無く爲《わざ》も無く、誰かその形を知らむ(三)。然《しか》ありて乾と坤と初めて分れて、參神造化の首《はじめ》と作《な》り(四)、陰と陽とここに開けて、二靈群品の祖となりたまひき(五)。所以《このゆゑ》に幽と顯と(六)に出で入りて、日と月と目を洗ふに彰《あらは》れたまひ、海水《うしほ》に浮き沈みて、神と祇と身を滌ぐに呈《あらは》れたまひき。故《かれ》、太素は杳冥《えうめい》たれども、本つ教に因りて土《くに》を孕《はら》み島を産みたまひし時を識《し》り、元始は綿※[#「二点しんにょう+貌」、第3水準1-92-58]《めんばく》たれども、先の聖に頼《よ》りて神を生み人を立てたまひし世を察《あきらか》にす。寔《まこと》に知る、鏡を懸け珠を吐きたまひて、百の王相續き、劒を喫《か》み蛇《をろち》を切りたまひて、萬の神|蕃息《はんそく》せしことを(七)。安《やす》の河《かは》に議《はか》りて天の下を平《ことむ》け、小濱《をばま》に論《あげつら》ひて國土を清めたまひき。ここを以ちて番《ほ》の仁岐《ににぎ》の命、初めて高千《たかち》の巓《たけ》に降《あも》り(八)、神倭《かむやまと》の天皇《すめらみこと》(九)、秋津島に經歴したまひき。化熊川より出でて、天の劒を高倉に獲、生尾|徑《こみち》を遮《さへ》きりて、大き烏吉野に導きき。※[#「にんべん+舞」、第4水準2-3-4]《まひ》を列ねて賊《あた》を攘《はら》ひ、歌を聞きて仇を伏しき。すなはち夢に覺《さと》りて神祇を敬《ゐやま》ひたまひき、所以《このゆゑ》に賢后と稱《まを》す(一〇)。烟を望みて黎元を撫でたまひき、今に聖帝と傳ふ(一一)。境を定め邦を開きて、近《ちか》つ淡海《あふみ》に制したまひ(一二)、姓《かばね》を正し氏を撰みて、遠《とほ》つ飛鳥《あすか》に勒《しる》したまひき(一三)。歩と驟と、おのもおのも異に、文と質と同じからずといへども、古を稽《かむが》へて風猷《ふういう》を既に頽《すた》れたるに繩《ただ》したまひ、今を照して典教を絶えなむとするに補ひたまはずといふこと無かりき。

(一) 過ぎし時代のことを傳え、歴代の天皇これによつて徳教を正しくしたことを説く。
(二) この序文は、天皇に奏上する文として書かれているので、この句をはじめすべてその詞づかいがなされる。安萬侶は、太の安麻呂、古事記の撰者、養老七年(七二三)歿。
(三) 混元以下、中國の宇宙創生説によつて書いている。萬物は形と氣とから成る。形は天地に分かれ、氣は陰陽に分かれる。
(四) アメノミナカヌシの神、タカミムスビの神、カムムスビの神の三神が、物を造り出す最初の神となつた。
(五) イザナギ、イザナミの二神が、萬物を生み出す親となつた。
(六) 幽と顯とに以下、イザナギ、イザナミ二神の事蹟。
(七) 鏡を懸け以下、天照らす大神とスサノヲの命との事蹟。
(八) 安の河に以下、ニニギの命の事蹟。
(九) 神武天皇。
(一〇) 崇神天皇。
(一一) 仁徳天皇。
(一二) 成務天皇。
(一三) 允恭天皇。

[#5字下げ]〔古事記の企畫(一)〕[#「〔古事記の企畫(一)〕」は小見出し]
 飛鳥《あすか》の清原《きよみはら》の大宮に太八洲《おほやしま》しらしめしし天皇(二)の御世に曁《およ》びて、潛龍元を體し、※[#「さんずい+存」、第4水準2-78-43]《せん》雷期に應《こた》へき。夢の歌を聞きて業を纂《つ》がむことをおもほし、夜の水に投《いた》りて基を承けむことを知らしたまひき。然れども天の時いまだ臻《いた》らざりしかば、南の山に蝉のごとく蛻《もぬ》け、人と事《こと》と共に給《た》りて、東の國に虎のごとく歩みたまひき。皇輿たちまちに駕して、山川を凌ぎ度り、六師雷のごとく震ひ、三軍電のごとく逝きき。杖矛《ぢやうぼう》威を擧げて、猛士烟のごとく起り、絳旗《かうき》兵を耀かして、凶徒瓦のごとく解けぬ。いまだ浹辰《せふしん》を移さずして、氣※[#「さんずい+珍のつくり」、15-本文-17]《きれい》おのづから清まりぬ。すなはち牛を放ち馬を息《いこ》へ、※[#「りっしんべん+豈」、第3水準1-84-59]悌《がいてい》して華夏に歸り、旌《はた》を卷き戈《ほこ》を※[#「楫のつくり+戈」、第3水準1-84-66]《をさ》め、※[#「にんべん+舞」、第4水準2-3-4]詠《ぶえい》して都邑に停まりたまひき。歳《ほし》は大糜に次《やど》り、月は夾鐘に踵《あた》り(三)、清原の大宮にして、昇りて天位に即《つ》きたまひき。道は軒后に軼《す》ぎ、徳は周王に跨《こ》えたまへり。乾符を握《と》りて六合を※[#「てへん+總のつくり」、第3水準1-84-90]《す》べ、天統を得て八荒を包《か》ねたまひき。二氣の正しきに乘り、五行の序《つぎて》を齊《ととの》へ、神《あや》しき理を設《ま》けて俗《ひと》を奬《すす》め、英《すぐ》れたる風《のり》を敷きて國を弘めたまひき。重加《しかのみにあらず》智の海は浩汗として、潭《ふか》く上古を探り、心の鏡は※[#「火+幃のつくり」、第3水準1-87-54]煌として、あきらかに先の代を覩たまふ。ここに天皇詔したまひしく、「朕聞かくは、諸家の※[#「喪」の「畏−田」に代えて「冖/貝」、16-本文-7]《も》たる帝紀と本辭(四)と既に正實に違ひ、多く虚僞を加ふといへり。今の時に當りて、その失を改めずは、いまだ幾年《いくとせ》を經ずして、その旨滅びなむとす。こはすなはち邦家の經緯、王化の鴻基《こうき》なり。故《かれ》ここに帝紀を撰録し、舊辭《くじ》を討覈《たうかく》して、僞を削り實を定め、後葉《のちのよ》に流《つた》へむと欲《おも》ふ」と宣りたまひき。時に舍人《とねり》あり、姓は稗田《ひえだ》、名は阿禮《あれ》(五)、年は二十八。人となり聰明にして、目に度《わた》れば口に誦《よ》み、耳に拂《ふ》るれば心に勒《しる》す。すなはち阿禮に勅語して、帝皇の日繼《ひつぎ》と先代の舊辭とを誦み習はしめたまひき。然れども運《とき》移り世異にして、いまだその事を行ひたまはざりき。

(一) 天武天皇が帝紀と本辭とを正して稗田の阿禮に授けたことを説く。
(二) 天武天皇。
(三) 酉の年の二月に。
(四) 帝紀は歴代天皇の事を記した書、本辭は前の世の傳えごと。この二種が古事記の材料となつている。
(五) アメノウズメの命の子孫。男子説と女子説とがある。

[#5字下げ]〔古事記の成立(一)〕[#「〔古事記の成立(一)〕」は小見出し]
 伏して惟《おも》ふに皇帝陛下(二)、一を得て光宅《くわうたく》し、三に通じて亭育《ていいく》したまふ。紫宸に御《いま》して徳は馬の蹄《つめ》の極まるところに被《かがふ》り、玄扈《げんこ》に坐《いま》して化は船の頭《へ》の逮《いた》るところを照したまふ。日浮びて暉《ひかり》を重ね、雲散りて烟《かす》まず。柯《えだ》を連ね穗を并《あ》はす瑞《しるし》、史《ふみひと》は書《しる》すことを絶たず、烽《とぶひ》を列ね、譯《をさ》を重ぬる貢《みつき》、府《みくら》に空しき月無し。名は文命よりも高く、徳は天乙に冠《まさ》れりと謂ひつべし。ここに舊辭の誤り忤《たが》へるを惜しみ、先紀の謬《あやま》り錯《あやま》れるを正さまくして、和銅四年(三)九月十八日を以ちて、臣安萬侶に詔して、稗田の阿禮が誦める勅語の舊辭を撰録して、獻上せよと宣りたまへば、謹みて詔の旨に隨ひ、子細に採り※[#「てへん+庶」、第3水準1-84-91]《ひり》ひぬ。然れども上古の時、言と意と並《みな》朴《すなほ》にして、文を敷き句を構ふること、字にはすなはち難し。已《すで》に訓に因りて述ぶれば、詞は心に逮《いた》らず。全く音を以ちて連ぬれば、事の趣更に長し。ここを以ちて今或るは一句の中に、音と訓とを交へ用ゐ、或るは一事の内に、全く訓を以ちて録《しる》しぬ(四)。すなはち辭理の見え※[#「匚<口」、第4水準2-3-67]《がた》きは、注を以ちて明にし、意況の解き易きは更に注《しる》さず(五)。また姓の日下《くさか》に、玖沙訶《くさか》と謂ひ、名の帶の字に多羅斯《たらし》といふ。かくの如き類は、本に隨ひて改めず(六)。大抵記す所は、天地の開闢よりして、小治田《をはりだ》の御世(七)に訖《を》ふ。故《かれ》天《あめ》の御中主《みなかぬし》の神より以下《しも》、日子波限建鵜草葺不合《ひこなぎさたけうがやふきあへず》の尊《みこと》より前《さき》を上つ卷とし、神倭伊波禮毘古《かむやまといはれびこ》の天皇より以下、品陀《ほむだ》の御世より前(八)を中つ卷とし、大雀《おほさざき》の皇帝《すめらみこと》(九)より以下、小治田の大宮より前を下つ卷とし、并はせて三つの卷に録《しる》し、謹みて獻上《たてまつ》る。臣安萬侶、誠惶誠恐《かしこみかしこみ》、頓首頓首《のみまを》す。
[#2字下げ]和銅五年正月二十八日[#地から2字上げ]正五位の上勳五等 太《おほ》の朝臣《あそみ》安萬侶《やすまろ》

(一) 古事記成立の過程、文章の用意方針。内容の區分を説く。
(二) 元明天皇、女帝。奈良時代の最初の天皇。
(三) 七一一年。
(四) 漢字の表示する意義によつて書くのが、訓によるものであり、漢字の表示する音韻によつて書くのが、音によるものである。歌謠および特殊の詞句は音を用い、地名神名人名も音によるものが多い。外に漢字の訓を訓假字として使つたものが多少ある。
(五) 讀み方の注意、および内容に關して註が加えられている。
(六) 固有名詞の類に使用される特殊の文字は、もとのままで改めない。これは材料として文字になつていたものをも使つたことを語る。
(七) 推古天皇の時代(‐六二八)
(八) 神武天皇から應神天皇まで。
(九) 仁徳天皇。

[#3字下げ]〔一、伊耶那岐の命と伊耶那美の命〕[#「〔一、伊耶那岐の命と伊耶那美の命〕」は中見出し]

[#5字下げ]〔天地のはじめ〕[#「〔天地のはじめ〕」は小見出し]
 天地《あめつち》の初發《はじめ》の時、高天《たかま》の原《はら》に成りませる神の名《みな》は、天《あめ》の御中主《みなかぬし》の神(一)。次に高御産巣日《たかみむすび》の神。次に神産巣日《かむむすび》の神(二)。この三柱《みはしら》の神は、みな獨神《ひとりがみ》(三)に成りまして、身《みみ》を隱したまひき(四)。
 次に國|稚《わか》く、浮《う》かべる脂《あぶら》の如くして水母《くらげ》なす漂《ただよ》へる時に、葦牙《あしかび》(五)のごと萠《も》え騰《あが》る物に因りて成りませる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遲《うましあしかびひこぢ》の神(六)。次に天《あめ》の常立《とこたち》の神(七)。この二柱《ふたはしら》の神もみな獨神《ひとりがみ》に成りまして、身《みみ》を隱したまひき。
[#ここから2字下げ]
上の件《くだり》、五柱の神は別《こと》天《あま》つ神《かみ》。
[#ここで字下げ終わり]
 次に成りませる神の名は、國の常立《とこたち》の神。次に豐雲野《とよくもの》の神(八)。この二柱の神も、獨神に成りまして、身を隱したまひき。次に成りませる神の名は、宇比地邇《うひぢに》の神。次に妹須比智邇《いもすひぢに》の神。次に角杙《つのぐひ》の神。次に妹活杙《いもいくぐひ》の神二柱[#「二柱」は1段階小さな文字]。次に意富斗能地《おほとのぢ》の神。次に妹大斗乃辨《いもおほとのべ》の神。次に於母陀琉《おもだる》の神。次に妹《いも》阿夜訶志古泥《あやかしこね》の神(九)。次に伊耶那岐《いざなぎ》の神。次に妹《いも》伊耶那美《いざなみ》の神(一〇)。
[#ここから2字下げ]
上の件、國の常立の神より下《しも》、伊耶那美《いざなみ》の神より前《さき》を、并はせて神世《かみよ》七代《ななよ》とまをす。[#割り注]上の二柱は、獨神おのもおのも一代とまをす。次に雙びます十神はおのもおのも二神を合はせて一代とまをす。[#割り注終わり]
[#ここで字下げ終わり]

(一) 中心、中央の思想の神格表現。空間の表示であるから活動を傳えない。
(二) 以上二神、生成の思想の神格表現。事物の存在を「生む」ことによつて説明する日本神話にあつて原動力である。タカミは高大、カムは神祕神聖の意の形容語。この二神の活動は、多く傳えられる。
(三) 對立でない存在。
(四) 天地の間に溶合した。
(五) 葦の芽。十分に春になつたことを感じている。
(六) 葦牙の神格化。神名は男性である。
(七) 天の確立を意味する神名。
(八) 名義不明。以下神名によつて、土地の成立、動植物の出現、整備等を表現するらしい。
(九) 驚きを表現する神名。
(一〇) 以上二神、誘い出す意味の表現。

[#5字下げ]〔島々の生成〕[#「〔島々の生成〕」は小見出し]
 ここに天つ神|諸《もろもろ》の命《みこと》以《も》ちて(一)、伊耶那岐《いざなぎ》の命|伊耶那美《いざなみ》の命の二柱の神に詔《の》りたまひて、この漂へる國を修理《をさ》め固め成せと、天《あめ》の沼矛《ぬぼこ》を賜ひて、言依《ことよ》さしたまひき(二)。かれ二柱の神、天《あめ》の浮橋《うきはし》(三)に立たして、その沼矛《ぬぼこ》を指《さ》し下《おろ》して畫きたまひ、鹽こをろこをろに畫き鳴《な》して(四)、引き上げたまひし時に、その矛の末《さき》より滴《したた》る鹽の積りて成れる島は、淤能碁呂《おのごろ》島(五)なり。その島に天降《あも》りまして、天《あめ》の御柱《みはしら》を見立て(六)八尋殿《やひろどの》を見立てたまひき。
 ここにその妹|伊耶那美《いざなみ》の命に問ひたまひしく、「汝《な》が身はいかに成れる」と問ひたまへば、答へたまはく、「吾《わ》が身は成り成りて、成り合はぬところ一處あり」とまをしたまひき。ここに伊耶那岐《いざなぎ》の命|詔《の》りたまひしく、「我が身は成り成りて、成り餘れるところ一處あり。故《かれ》この吾が身の成り餘れる處を、汝が身の成り合はぬ處に刺し塞《ふた》ぎて、國土《くに》生み成さむと思ほすはいかに」とのりたまへば、伊耶那美《いざなみ》の命答へたまはく、「しか善けむ」とまをしたまひき。ここに伊耶那岐の命詔りたまひしく、「然らば吾《あ》と汝《な》と、この天の御柱を行き※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]《めぐ》りあひて、美斗《みと》の麻具波比《まぐはひ》せむ(七)」とのりたまひき。かく期《ちぎ》りて、すなはち詔りたまひしく、「汝は右より※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]り逢へ、我《あ》は左より※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]り逢はむ」とのりたまひて、約《ちぎ》り竟《を》へて※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]りたまふ時に、伊耶那美の命まづ「あなにやし、えをとこを(八)」とのりたまひ、後に伊耶那岐の命「あなにやし、え娘子《をとめ》を」とのりたまひき。おのもおのものりたまひ竟《を》へて後に、その妹に告《の》りたまひしく、「女人《をみな》先立《さきだ》ち言へるはふさはず」とのりたまひき。然れども隱處《くみど》に興《おこ》して子《みこ》水蛭子《ひるこ》を生みたまひき(九)。この子は葦船《あしぶね》に入れて流し去《や》りつ(一〇)。次に淡島《あはしま》(一一)を生みたまひき。こも子の數に入らず。
 ここに二柱の神|議《はか》りたまひて、「今、吾が生める子ふさはず。なほうべ天つ神の御所《みもと》に白《まを》さな」とのりたまひて、すなはち共に參《ま》ゐ上りて、天つ神の命《みこと》を請ひたまひき。ここに天つ神の命《みこと》以ちて、太卜《ふとまに》に卜《うら》へて(一二)のりたまひしく、「女《をみな》の先立ち言ひしに因りてふさはず、また還り降《あも》りて改め言へ」とのりたまひき。
 かれここに降りまして、更にその天の御柱を往き※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]りたまふこと、先の如くなりき。ここに伊耶那岐《いざなぎ》の命、まづ「あなにやし、えをとめを」とのりたまひ、後に妹|伊耶那美《いざなみ》の命、「あなにやし、えをとこを」とのりたまひき。かくのりたまひ竟へて、御合《みあ》ひまして、子《みこ》淡道《あはぢ》の穗《ほ》の狹別《さわけ》の島(一三)を生みたまひき。次に伊豫《いよ》の二名《ふたな》の島(一四)を生みたまひき。この島は身一つにして面《おも》四つあり。面ごとに名あり。かれ伊豫の國を愛比賣《えひめ》といひ、讚岐《さぬき》の國を飯依比古《いひよりひこ》といひ、粟《あは》の國を、大宜都比賣《おほげつひめ》といひ、土左《とさ》の國を建依別《たけよりわけ》といふ。次に隱岐《おき》の三子《みつご》の島を生みたまひき。またの名は天《あめ》の忍許呂別《おしころわけ》。次に筑紫《つくし》の島を生みたまひき。この島も身一つにして面四つあり。面ごとに名あり。かれ筑紫の國(一五)を白日別《しらひわけ》といひ、豐《とよ》の國《くに》を豐日別《とよひわけ》といひ、肥《ひ》の國《くに》を建日向日豐久士比泥別《たけひむかひとよくじひねわけ》(一六)といひ、熊曾《くまそ》の國(一七)を建日別《たけひわけ》といふ。次に伊岐《いき》の島を生みたまひき。またの名は天比登都柱《あめひとつはしら》といふ。次に津島《つしま》(一八)を生みたまひき。またの名は天《あめ》の狹手依比賣《さでよりひめ》といふ。次に佐渡《さど》の島を生みたまひき。次に大倭豐秋津《おほやまととよあきつ》島(一九)を生みたまひき。またの名は天《あま》つ御虚空豐秋津根別《みそらとよあきつねわけ》といふ。かれこの八島のまづ生まれしに因りて、大八島《おほやしま》國といふ。
 然ありて後還ります時に、吉備《きび》の兒島《こじま》を生みたまひき。またの名は建日方別《たけひがたわけ》といふ。次に小豆島《あづきしま》を生みたまひき。またの名は大野手比賣《おほのでひめ》といふ。次に大島《おほしま》(二〇)を生みたまひき。またの名は大多麻流別《おほたまるわけ》といふ。次に女島《ひめじま》(二一)を生みたまひき。またの名は天一根《あめひとつね》といふ。次に知訶《ちか》の島(二二)を生みたまひき。またの名は天《あめ》の忍男《おしを》といふ。次に兩兒《ふたご》の島(二三)を生みたまひき。またの名は天《あめ》の兩屋《ふたや》といふ。[#割り注]吉備の兒島より天の兩屋の島まで并はせて六島。[#割り注終わり]

(一) 天神の命によつて若い神が降下するのは日本神話の基礎形式の一。祭典の思想に根據を有している。
(二) りつぱな矛を賜わつて命を下した。
(三) 天からの通路である空中の階段。
(四) 海水をゴロゴロとかきまわして。
(五) 大阪灣内にある島。今の何島か不明。
(六) 家屋の中心となる神聖な柱を立てた。
(七) 結婚しよう。
(八) アナニヤシ、感動の表示。エヲトコヲ、愛すべき男だ。ヲは感動の助詞。
(九) ヒルのようなよくないものが、不合理な婚姻によつて生まれたとする。
(一〇) 蟲送りの行事。
(一一) 四國の阿波の方面の名。この部分は阿波方面に對してわるい感情を表示する。
(一二) 古代の占法は種々あるが、鹿の肩骨を燒いてヒビの入り方によつて占なうのを重んじ、これをフトマニといつた。これは後に龜の甲を燒くことに變わつた。
(一三) 淡路島の別名。ワケは若い者の義。
(一四) 四國の稱。伊豫の方面からいう。
(一五) 北九州。
(一六) 誤傳があるのだろう。肥の國(肥前肥後)の外に、日向の別名があげられているのだろうというが、日向を入れると五國になつて、面四つありというのに合わない。
(一七) クマ(肥後南部)とソ(薩摩)とを合わせた名。
(一八) 對馬島。
(一九) 本州。
(二〇) 山口縣の屋代島だろう。
(二一) 大分縣の姫島だろう。
(二二) 長崎縣の五島。
(二三) 所在不明。

[#5字下げ]〔神々の生成〕[#「〔神々の生成〕」は小見出し]
 既に國を生み竟《を》へて、更に神を生みたまひき。かれ生みたまふ神の名は、大事忍男《おほことおしを》の神。次に石土毘古《いはつちびこ》の神を生みたまひ、次に石巣比賣《いはすひめ》の神を生みたまひ、次に大戸日別《おほとひわけ》の神を生みたまひ、次に天《あめ》の吹男《ふきを》の神を生みたまひ、次に大屋毘古《おほやびこ》の神を生みたまひ(一)、次に風木津別《かざもつわけ》の忍男《おしを》の神(二)を生みたまひ、次に海《わた》の神名は大綿津見《おほわたつみ》の神を生みたまひ、次に水戸《みなと》の神(三)名は速秋津日子《はやあきつひこ》の神、次に妹|速秋津比賣《はやあきつひめ》の神を生みたまひき。[#割り注]大事忍男の神より秋津比賣の神まで并はせて十神。[#割り注終わり]
 この速秋津日子《はやあきつひこ》、速秋津比賣《はやあきつひめ》の二神《ふたはしら》、河海によりて持ち別けて生みたまふ神の名(四)は、沫那藝《あわなぎ》の神。次に沫那美《あわなみ》の神。次に頬那藝《つらなぎ》の神。次に頬那美《つらなみ》の神。次に天《あめ》の水分《みくまり》の神。次に國《くに》の水分《みくまり》の神。次に天《あめ》の久比奢母智《くひざもち》の神、次に國《くに》の久比奢母智《くひざもち》の神。[#割り注]沫那藝の神より國の久比奢母智の神まで并はせて八神。[#割り注終わり]
 次に風の神名は志那都比古《しなつひこ》の神(五)を生みたまひ、次に木の神名は久久能智《くくのち》の神(六)を生みたまひ、次に山の神名は大山津見《おほやまつみ》の神を生みたまひ、次に野の神名は鹿屋野比賣《かやのひめ》の神を生みたまひき。またの名は野椎《のづち》の神といふ。[#割り注]志那都比古の神より野椎まで并はせて四神。[#割り注終わり]
 この大山津見の神、野椎の神の二神《ふたはしら》、山野によりて持ち別けて生みたまふ神の名は、天の狹土《さづち》の神。次に國の狹土の神。次に天の狹霧《さぎり》の神。次に國の狹霧の神。次に天の闇戸《くらと》の神。次に國の闇戸の神。次に大戸或子《おほとまどひこ》の神。次に大戸或女《おほとまどひめ》の神(七)。[#割り注]天の狹土の神より大戸或女の神まで并はせて八神。[#割り注終わり]
 次に生みたまふ神の名は、鳥の石楠船《いはくすぶね》の神(八)、またの名は天の鳥船《とりぶね》といふ。次に大宜都比賣《おほげつひめ》の神(九)を生みたまひ、次に火《ほ》の夜藝速男《やぎはやを》の神を生みたまひき。またの名は火《ほ》の※[#「火+玄」、第3水準1-87-39]毘古《かがびこ》の神といひ、またの名は火《ほ》の迦具土《かぐつち》の神といふ。この子を生みたまひしによりて、御陰《みほと》やかえて病《や》み臥《こや》せり。たぐり(一〇)に生《な》りませる神の名は金山毘古《かなやまびこ》の神。次に金山毘賣《かなやまびめ》の神。次に屎《くそ》に成りませる神の名は、波邇夜須毘古《はにやすびこ》の神。次に波邇夜須毘賣《はにやすびめ》の神(一一)。次に尿《ゆまり》に成りませる神の名は彌都波能賣《みつはのめ》の神(一二)。次に和久産巣日《わくむすび》の神(一三)。この神の子は豐宇氣毘賣《とようけびめ》の神(一四)といふ。かれ伊耶那美《いざなみ》の神は、火の神を生みたまひしに因りて、遂に神避《かむさ》りたまひき。[#割り注]天の鳥船より豐宇氣毘賣の神まで并はせて八神。[#割り注終わり]およそ伊耶那岐《いざなぎ》伊耶那美の二神、共に生みたまふ島|壹拾《とをまり》四島《よしま》、神|參拾《みそぢまり》五神《いつはしら》(一五)。[#割り注]こは伊耶那美の神、いまだ神避りまさざりし前に生みたまひき。ただ意能碁呂島は生みたまへるにあらず、また蛭子と淡島とは子の例に入らず。[#割り注終わり]

(一) 以上の神の系列は、家屋の成立を語るものと解せられる。
(二) 風に對して堪えることを意味するらしい。
(三) 河口など、海に對する出入口の神。
(四) 海と河とで分擔して生んだ神。以下水に關する神。アワナギ、アワナミは、動く水の男女の神、ツラナギ、ツラナミは、靜水の男女の神。ミクマリは、水の配分。クヒザモチは水を汲む道具。
(五) 息の長い男の義。
(六) 木の間を潛る男の義。
(七) 山の神と野の神とが生んだ諸神の系列は、山野に霧がかかつて迷うことを表現する。
(八) 鳥の如く早く輕く行くところの、石のように堅いクスノキの船。
(九) 穀物の神。この神に關する神話が三五頁[#「三五頁」は「須佐の男の神」の「穀物の種」]にある。
(一〇) 吐瀉物。以下排泄物によつて生まれた神は、火を防ぐ力のある神である。
(一一) 埴土の男女の神。
(一二) 水の神。
(一三) 若い生産力の神。
(一四) これも穀物の神。以上の神の系列は、野を燒いて耕作する生活を語る。
(一五) 實數四十神だが、男女一對の神を一として數えれば三十五になる。

[#5字下げ]〔黄泉《よみ》の國〕[#「〔黄泉の國〕」は小見出し]
 かれここに伊耶那岐の命の詔《の》りたまはく、「愛《うつく》しき我《あ》が汝妹《なにも》の命を、子の一木《ひとつけ》に易《か》へつるかも」とのりたまひて、御枕方《みまくらべ》に匍匐《はらば》ひ御足方《みあとべ》に匍匐ひて、哭《な》きたまふ時に、御涙に成りませる神は、香山《かぐやま》(一)の畝尾《うねを》(二)の木のもとにます、名は泣澤女《なきさはめ》の神(三)。かれその神避りたまひし伊耶那美の神は、出雲の國と伯伎《ははき》の國との堺なる比婆《ひば》の山(四)に葬《をさ》めまつりき。ここに伊耶那岐の命、御佩《みはかし》の十拳《とつか》の劒(五)を拔きて、その子|迦具土《かぐつち》の神の頸《くび》を斬りたまひき。ここにその御刀《みはかし》の前《さき》に著ける血、湯津石村《ゆついはむら》(六)に走《たばし》りつきて成りませる神の名は、石拆《いはさく》の神。次に根拆《ねさく》の神。次に石筒《いはづつ》の男《を》の神。次に御刀の本に著ける血も、湯津石村に走りつきて成りませる神の名は、甕速日《みかはやび》の神。次に樋速日《ひはやび》の神。次に建御雷《たけみかづち》の男《を》の神。またの名は建布都《たけふつ》の神、またの名は豐布都《とよふつ》の神三神[#「三神」は1段階小さな文字]。次に御刀の手上《たがみ》に集まる血、手俣《たなまた》より漏《く》き出《で》て成りませる神の名は、闇淤加美《くらおかみ》の神。次に闇御津羽《くらみつは》の神。[#割り注]上の件、石拆の神より下、闇御津羽の神より前、并はせて八神は、御刀に因りて生りませる神なり。[#割り注終わり]
 殺さえたまひし迦具土《かぐつち》の神の頭に成りませる神の名は、正鹿山津見《まさかやまつみ》の神(七)。次に胸に成りませる神の名は、淤縢山津見《おとやまつみ》の神。次に腹に成りませる神の名は、奧山津見《おくやまつみ》の神。次に陰《ほと》に成りませる神の名は、闇山津見《くらやまつみ》の神。次に左の手に成りませる神の名は、志藝山津見《しぎやまつみ》の神。次に右の手に成りませる神の名は、羽山津美《はやまつみ》の神。次に左の足に成りませる神の名は、原山津見《はらやまつみ》の神。次に右の足に成りませる神の名は、戸山津見《とやまつみ》の神。[#割り注]正鹿山津見の神より戸山津見の神まで并はせて八神。[#割り注終わり]かれ斬りたまへる刀の名は、天の尾羽張《をはばり》といひ(八)、またの名は伊都《いつ》の尾羽張といふ。
 ここにその妹伊耶那美の命を相見まくおもほして、黄泉國《よもつくに》(九)に追ひ往《い》でましき。ここに殿《との》の縢《くみ》戸(一〇)より出で向へたまふ時に、伊耶那岐の命語らひて詔りたまひしく、「愛《うつく》しき我《あ》が汝妹《なにも》の命、吾と汝と作れる國、いまだ作り竟《を》へずあれば、還りまさね」と詔りたまひき。ここに伊耶那美の命の答へたまはく、「悔《くや》しかも、速《と》く來まさず。吾は黄泉戸喫《よもつへぐひ》(一一)しつ。然れども愛しき我が汝兄《なせ》の命、入り來ませること恐《かしこ》し。かれ還りなむを。しまらく黄泉神《よもつかみ》と論《あげつら》はむ。我をな視たまひそ」と、かく白して、その殿内《とのぬち》に還り入りませるほど、いと久しくて待ちかねたまひき。かれ左の御髻《みみづら》に刺させる湯津爪櫛《ゆつつまぐし》(一二)の男柱|一箇《ひとつ》取り闕《か》きて、一《ひと》つ火《び》燭《とも》して入り見たまふ時に、蛆《うじ》たかれころろぎて(一三)、頭には大雷《おほいかづち》居り、胸には火《ほ》の雷居り、腹には黒雷居り、陰《ほと》には拆《さく》雷居り、左の手には若《わき》雷居り、右の手には土《つち》雷居り、左の足には鳴《なる》雷居り、右の足には伏《ふし》雷居り、并はせて八くさの雷神成り居りき。
 ここに伊耶那岐の命、見《み》畏《かしこ》みて逃げ還りたまふ時に、その妹伊耶那美の命、「吾に辱《はぢ》見せつ」と言ひて、すなはち黄泉醜女《よもつしこめ》(一四)を遣して追はしめき。ここに伊耶那岐の命、黒御鬘《くろみかづら》(一五)を投げ棄《う》てたまひしかば、すなはち蒲子《えびかづら》(一六)生《な》りき。こを※[#「てへん+庶」、第3水準1-84-91]《ひり》ひ食《は》む間に逃げ行《い》でますを、なほ追ひしかば、またその右の御髻に刺させる湯津爪櫛を引き闕きて投げ棄《う》てたまへば、すなはち笋《たかむな》(一七)生《な》りき。こを拔き食《は》む間に、逃げ行でましき。また後にはかの八くさの雷神に、千五百《ちいほ》の黄泉軍《よもついくさ》を副《たぐ》へて追はしめき。ここに御佩《みはかし》の十拳《とつか》の劒を拔きて、後手《しりへで》に振《ふ》きつつ逃げ來ませるを、なほ追ひて黄泉比良坂《よもつひらさか》(一八)の坂本に到る時に、その坂本なる桃《もも》の子《み》三つをとりて持ち撃ちたまひしかば、悉に逃げ返りき。ここに伊耶那岐の命、桃《もも》の子《み》に告《の》りたまはく、「汝《いまし》、吾を助けしがごと、葦原の中つ國にあらゆる現《うつ》しき青人草(一九)の、苦《う》き瀬に落ちて、患惚《たしな》まむ時に助けてよ」とのりたまひて、意富加牟豆美《おほかむづみ》の命といふ名を賜ひき。最後《いやはて》にその妹伊耶那美の命、身《み》みづから追ひ來ましき。ここに千引の石《いは》をその黄泉比良坂《よもつひらさか》に引き塞《さ》へて、その石を中に置きて、おのもおのも對《む》き立たして、事戸《ことど》を度《わた》す時(二〇)に、伊耶那美の命のりたまはく、「愛《うつく》しき我《あ》が汝兄《なせ》の命、かくしたまはば、汝《いまし》の國の人草、一日《ひとひ》に千頭《ちかしら》絞《くび》り殺さむ」とのりたまひき。ここに伊耶那岐の命、詔りたまはく、「愛しき我が汝妹《なにも》の命、汝《みまし》然したまはば、吾《あ》は一日に千五百《ちいほ》の産屋《うぶや》を立てむ」とのりたまひき。ここを以ちて一日にかならず千人《ちたり》死に、一日にかならず千五百人なも生まるる。
 かれその伊耶那美の命に號《なづ》けて黄泉津《よもつ》大神といふ。またその追ひ及《し》きしをもちて、道敷《ちしき》の大神(二一)ともいへり。またその黄泉《よみ》の坂に塞《さは》れる石は、道反《ちかへし》の大神ともいひ、塞《さ》へます黄泉戸《よみど》の大神ともいふ。かれそのいはゆる黄泉比良坂《よもつひらさか》は、今、出雲の國の伊賦夜《いぶや》坂(二二)といふ。

(一) 奈良縣磯城郡の天の香具山。神話に實在の地名が出る場合は、大抵その神話の傳えられている地方を語る。
(二) うねりのある地形の高み。
(三) 香具山の麓にあつた埴安の池の水神。泣澤の森そのものを神體としている。
(四) 廣島縣比婆郡に傳説地がある。
(五) 十つかみある長い劒。
(六) 神聖な岩石。以下神の系列によつて鐵鑛を火力で處理して刀劒を得ることを語る。イハサクの神からイハヅツノヲの神まで岩石の神靈。ミカハヤビ、ヒハヤビは火力。タケミカヅチノヲは劒の威力。クラオカミ、クラミツハは水の神靈。クラは溪谷。御刀の手上は、劒のつか。タケミカヅチノヲは五六頁[#「五六頁」は「天照らす大御神と大國主の神」の「國讓り」]、七四頁[#「七四頁」は「神武天皇」の「熊野より大和へ」]に神話がある。
(七) 以下各種の山の神。
(八) 幅の廣い劒の義。水の神と解せられ、五六頁[#「五六頁」は「天照らす大御神と大國主の神」の「國讓り」]に神話がある。別名のイツは、威力の意。
(九) 地下にありとされる空想上の世界。黄泉の文字は漢文から來る。
(一〇) 宮殿の閉してある戸。殿の騰戸とする傳えもある。
(一一) 黄泉の國の火で作つた食物を食つたので黄泉の人となつてしまつた。同一の火による團結の思想である。
(一二) 髮を左右に分けて耳の邊で輪にする。それにさした神聖な櫛。櫛は竹で作り魔よけとして女がさしてくれる。
(一三) 蛆がわいてゴロゴロ鳴つて。トロロギテとする傳えがあるが誤り。
(一四) 黄泉の國の見にくいばけものの女。
(一五) 植物を輪にして魔よけとして髮の上にのせる。
(一六) 山葡萄。
(一七) 筍。
(一八) 黄泉の國の入口にある坂。黄泉の國に向つて下る。墳墓の構造から來ている。
(一九) 現實にある人間。
(二〇) 日本書紀には絶妻の誓とある。言葉で戸を立てる。別れの言葉をいう。
(二一) 道路を追いかける神。
(二二) 島根縣八束郡。

[#5字下げ]〔身禊〕[#「〔身禊〕」は小見出し]
 ここを以ちて伊耶那岐の大神の詔りたまひしく、「吾《あ》はいな醜《しこ》め醜めき穢《きたな》き國(一)に到りてありけり。かれ吾は御身《おほみま》の禊《はらへ》せむ」とのりたまひて、竺紫《つくし》の日向《ひむか》の橘の小門《をど》の阿波岐《あはぎ》原(二)に到りまして、禊《みそ》ぎ祓《はら》へたまひき。かれ投げ棄《う》つる御杖に成りませる神の名は、衝《つ》き立《た》つ船戸《ふなど》の神(三)。次に投げ棄つる御帶に成りませる神の名は、道《みち》の長乳齒《ながちは》の神(四)。次に投げ棄つる御嚢《みふくろ》に成りませる神の名は、時量師《ときはかし》の神(五)。次に投げ棄つる御|衣《けし》に成りませる神の名は、煩累《わづらひ》の大人《うし》の神(六)。次に投げ棄つる御|褌《はかま》に成りませる神の名は、道俣《ちまた》の神(七)。次に投げ棄つる御冠《みかがふり》に成りませる神の名は、飽咋《あきぐひ》の大人《うし》の神(八)。次に投げ棄つる左の御手の手纏《たまき》に成りませる神の名は、奧疎《おきざかる》の神(九)。次に奧津那藝佐毘古《おきつなぎさびこ》の神。次に奧津|甲斐辨羅《かひべら》の神。次に投げ棄つる右の御手の手纏に成りませる神の名は、邊疎《へざかる》の神。次に邊津那藝佐毘古《へつなぎさびこ》の神。次に邊津甲斐辨羅《へつかひべら》の神。
[#ここから2字下げ]
右の件《くだり》、船戸《ふなど》の神より下、邊津甲斐辨羅の神より前、十二神《とをまりふたはしら》は、身に著《つ》けたる物を脱ぎうてたまひしに因りて、生《な》りませる神なり。
[#ここで字下げ終わり]
 ここに詔りたまはく、「上《かみ》つ瀬《せ》は瀬速し、下《しも》つ瀬は弱し」と詔《の》りたまひて、初めて中《なか》つ瀬に降《お》り潛《かづ》きて、滌ぎたまふ時に、成りませる神の名は、八十禍津日《やそまがつび》の神(一〇)。次に大禍津日《おほまがつひ》の神。この二神《ふたはしら》は、かの穢き繁《し》き國に到りたまひし時の、汚垢《けがれ》によりて成りませる神なり。次にその禍《まが》を直さむとして成りませる神の名は、神直毘《かむなほび》の神。次に大直毘《おほなほび》の神(一一)。次に伊豆能賣《いづのめ》(一二)。次に水底《みなそこ》に滌ぎたまふ時に成りませる神の名は、底津綿津見《そこつわたつみ》の神(一三)。次に底筒《そこづつ》の男《を》の命。中に滌ぎたまふ時に成りませる神の名は、中津綿津見《なかつわたつみ》の神。次に中筒《なかづつ》の男《を》の命。水の上に滌ぎたまふ時に成りませる神の名は、上津綿津見《うはつわたつみ》の神。次に上筒《うはづつ》の男《を》の命。この三柱の綿津見の神は、阿曇《あづみ》の連《むらじ》等が祖神《おやがみ》と齋《いつ》く神なり。かれ阿曇の連等は、その綿津見の神の子|宇都志日金拆《うつしひがなさく》の命の子孫《のち》なり。その底筒の男の命、中筒の男の命、上筒の男の命三柱の神は、墨《すみ》の江《え》の三前の大神(一四)なり。
 ここに左の御目を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、天照《あまて》らす大御神《おほみかみ》。次に右の御目を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、月讀《つくよみ》の命(一五)。次に御鼻を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、建速須佐《たけはやすさ》の男《を》の命(一六)。
[#ここから2字下げ]
右の件、八十禍津日《やそまがつび》の神より下、速須佐《はやすさ》の男《を》の命より前、十柱の神(一七)は、御身を滌ぎたまひしに因りて生《あ》れませる神なり。
[#ここで字下げ終わり]
 この時伊耶那岐の命|大《いた》く歡ばして詔りたまひしく、「吾は子を生み生みて、生みの終《はて》に、三柱の貴子《うづみこ》を得たり」と詔りたまひて、すなはちその御頸珠《みくびたま》の玉の緒ももゆらに取りゆらかして(一八)、天照らす大御神に賜ひて詔りたまはく、「汝が命は高天の原を知らせ」と、言依《ことよ》さして賜ひき。かれその御頸珠の名を、御倉板擧《みくらたな》の神(一九)といふ。次に月讀の命に詔りたまはく、「汝が命は夜《よ》の食《をす》國(二〇)を知らせ」と、言依さしたまひき。次に建速須佐《たけはやすさ》の男《を》の命に詔りたまはく、「汝が命は海原を知らせ」と、言依さしたまひき。
 かれおのもおのもよさし賜へる命のまにま知らしめす中に、速須佐の男の命、依さしたまへる國を知らさずて、八拳須《やつかひげ》心前《むなさき》に至るまで、啼きいさちき(二一)。その泣く状《さま》は、青山は枯山なす泣き枯らし河海《うみかは》は悉《ことごと》に泣き乾《ほ》しき。ここを以ちて惡《あら》ぶる神の音なひ(二二)、狹蠅《さばへ》なす皆|滿《み》ち、萬の物の妖《わざはひ》悉に發《おこ》りき。かれ伊耶那岐の大御神、速須佐の男の命に詔りたまはく、「何とかも汝《いまし》は言依させる國を治《し》らさずて、哭きいさちる」とのりたまへば、答へ白さく、「僕《あ》は妣《はは》の國|根《ね》の堅洲《かたす》國(二三)に罷らむとおもふがからに哭く」とまをしたまひき。ここに伊耶那岐の大御神、大《いた》く忿らして詔りたまはく、「然らば汝はこの國にはな住《とど》まりそ」と詔りたまひて、すなはち神逐《かむやら》ひに逐《やら》ひたまひき(二四)。かれその伊耶那岐の大神は、淡路の多賀《たが》(二五)にまします。

(一) 大變見にくいきたない世界。
(二) 九州の諸地方に傳説地があるが不明。アハギは樹名だろうが不明。日本書紀に檍原と書く。
(三) 道路に立つて惡魔の來るのを追い返す神。柱の形であるから杖によつて成つたという。
(四) 道路の長さの神。道路そのものに威力ありとする思想。
(五) 時置師の神とも傳える。時間のかかる意であろう。
(六) 疲勞の神靈。
(七) 二股になつている道路の神。
(八) 口をあけて食う神靈。魔物をである。
(九) 以下は禊をする土地の説明。
(一〇) 災禍の神靈。
(一一) 災禍を拂つてよくする思想の神格化。曲つたものをまつすぐにするという形で表現している。
(一二) 威力のある女。巫女である。
(一三) 以下六神、海の神。安曇系と住吉系と二種の神話の混合。
(一四) 住吉神社の祭神。西方の海岸にこの神の信仰がある。
(一五) 月の神、男神。日本書紀にはこの神が保食《うけもち》の神(穀物の神)を殺す神話がある。
(一六) 暴風の神であり出雲系の英雄でもある。
(一七) 實數十四神。イヅノメと海神の一組三神とを除けば十神になる。
(一八) 頸にかけた珠の緒もゆらゆらとゆり鳴らして。
(一九) 棚の上に安置してある神靈の義。
(二〇) 夜の領國。神話は傳わらない。
(二一) 長い髯が胸元までのびるまで泣きわめいた。以下暴風の性質にもとづく敍述。
(二二) 亂暴な神の物音。暴風のさわぎ。
(二三) 死んだ母の國。イザナミの神の行つている黄泉の國である地下の堅い土の世界。暴風がみずから地下へ行こうと言つたとする。
(二四) 神が追い拂つた。暴風を父の神が放逐したとする思想。
(二五) 眞福寺本には淡海の多賀とする。イザナギの命の信仰は、淡路方面にひろがつていた。

[#3字下げ]〔二、天照らす大神と須佐の男の命〕[#「〔二、天照らす大神と須佐の男の命〕」は中見出し]

[#5字下げ]〔誓約《うけひ》〕[#「〔誓約〕」は小見出し]
 かれここに速須佐の男の命、言《まを》したまはく、「然らば天照らす大御神にまをして罷りなむ」と言《まを》して、天にまゐ上りたまふ時に、山川悉に動《とよ》み國土皆|震《ゆ》りき(一)。ここに天照らす大御神聞き驚かして、詔りたまはく、「我が汝兄《なせ》の命の上り來ます由《ゆゑ》は、かならず善《うるは》しき心ならじ。我が國を奪はむとおもほさくのみ」と詔りたまひて、すなはち御髮《みかみ》を解きて、御髻《みみづら》に纏かして(二)、左右の御髻にも、御|鬘《かづら》にも、左右の御手にも、みな八尺《やさか》の勾※[#「王+總のつくり」、第4水準2-80-88]《まがたま》の五百津《いほつ》の御統《みすまる》の珠(三)を纏き持たして、背《そびら》には千入《ちのり》の靫《ゆき》(四)を負ひ、平《ひら》(五)には五百入《いほのり》の靫《ゆき》を附け、また臂《ただむき》には稜威《いづ》の高鞆《たかとも》(六)を取り佩ばして、弓腹《ゆばら》振り立てて、堅庭は向股《むかもも》に蹈みなづみ、沫雪なす蹶《く》ゑ散《はららか》して、稜威の男建《をたけび》(七)、蹈み建《たけ》びて、待ち問ひたまひしく、「何とかも上り來ませる」と問ひたまひき。ここに速須佐の男の命答へ白したまはく、「僕《あ》は邪《きたな》き心無し。ただ大御神の命もちて、僕が哭きいさちる事を問ひたまひければ、白しつらく、僕は妣《はは》の國に往《い》なむとおもひて哭くとまをししかば、ここに大御神|汝《みまし》はこの國にな住《とど》まりそと詔りたまひて、神逐《かむやら》ひ逐ひ賜ふ。かれ罷りなむとする状《さま》をまをさむとおもひて參ゐ上りつらくのみ。異《け》しき心無し」とまをしたまひき。ここに天照らす大御神詔りたまはく、「然らば汝《みまし》の心の清明《あか》きはいかにして知らむ」とのりたまひしかば、ここに速須佐の男の命答へたまはく、「おのもおのも誓《うけ》ひて子生まむ(八)」とまをしたまひき。かれここにおのもおのも天の安の河(九)を中に置きて誓《うけ》ふ時に、天照らす大御神まづ建速須佐の男の命の佩《は》かせる十拳《とつか》の劒《つるぎ》を乞ひ度《わた》して、三段《みきだ》に打ち折りて、ぬなとももゆらに(一〇)、天《あめ》の眞名井《まなゐ》(一一)に振り滌ぎて、さ齧《が》みに齧《か》みて、吹き棄つる氣吹《いぶき》の狹霧《さぎり》に成りませる神の御名(一二)は、多紀理毘賣《たぎりびめ》の命、またの御名は奧津島比賣《おきつしまひめ》の命といふ。次に市寸島比賣《いちきしまひめ》の命、またの御名は狹依毘賣《さよりびめ》の命といふ。次に多岐都比賣《たぎつひめ》の命(一三)三柱[#「三柱」は1段階小さな文字]。速須佐の男の命、天照らす大御神の左の御髻《みみづら》に纏《ま》かせる八尺《やさか》の勾珠《まがたま》の五百津《いほつ》の御統《みすまる》の珠を乞ひ度して、ぬなとももゆらに、天《あめ》の眞名井に振り滌ぎて、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、正勝吾勝勝速日《まさかあかつかちはやび》天《あめ》の忍穗耳《おしほみみ》の命(一四)。また右の御髻に纏かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、天の菩卑《ほひ》の命(一五)。また御鬘《みかづら》に纏かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、天津日子根《あまつひこね》の命(一六)。また左の御手に纏《ま》かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、活津日子根《いくつひこね》の命。また右の御手に纏かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、熊野久須毘《くまのくすび》の命(一七)[#割り注]并はせて五柱。[#割り注終わり]
 ここに天照らす大御神、速須佐《はやすさ》の男の命に告《の》りたまはく、「この後に生《あ》れませる五柱の男子《ひこみこ》は、物實《ものざね》我が物に因りて成りませり。かれおのづから吾が子なり。先に生れませる三柱の女子《ひめみこ》は、物實|汝《いまし》の物に因りて成りませり。かれすなはち汝の子なり」と、かく詔《の》り別けたまひき。
 かれその先に生れませる神、多紀理毘賣《たきりびめ》の命は、※[#「匈/(胃−田)」、32-本文-2]形《むなかた》の奧津《おきつ》宮(一八)にます。次に市寸島比賣《いちきしまひめ》の命は※[#「匈/(胃−田)」、32-本文-3]形の中津《なかつ》宮にます(一九)。次に田寸津比賣《たぎつひめ》の命は、※[#「匈/(胃−田)」、32-本文-3]形の邊津《へつ》宮にます。この三柱の神は、※[#「匈/(胃−田)」、32-本文-4]形の君等がもち齋《いつ》く三前《みまへ》の大神なり。
 かれこの後に生《あ》れませる五柱の子の中に、天の菩比《ほひ》の命の子|建比良鳥《たけひらとり》の命、こは出雲の國の造《みやつこ》、无耶志《むざし》の國の造、上《かみ》つ菟上《うなかみ》の國の造、下《しも》つ菟上《うなかみ》の國の造、伊自牟《いじむ》の國の造、津島《つしま》の縣《あがた》の直《あたへ》、遠江《とほつあふみ》の國の造等が祖《おや》なり。次に天津日子根《あまつひこね》の命は、凡川内《おふしかふち》の國の造、額田部《ぬかたべ》の湯坐《ゆゑ》の連《むらじ》、木《き》の國の造、倭《やまと》の田中の直《あたへ》、山代《やましろ》の國の造、馬來田《うまくた》の國の造、道《みち》の尻岐閇《しりきべ》の國の造、周芳《すは》の國の造、倭《やまと》の淹知《あむち》の造《みやつこ》、高市《たけち》の縣主《あがたぬし》、蒲生《かまふ》の稻寸《いなぎ》、三枝部《さきくさべ》の造等が祖なり。

(一) 暴風の襲來する有樣で、歴史的には出雲族の襲來を語る。
(二) 男裝される。
(三) 大きな曲玉の澤山を緒に貫いたもの。曲玉は、玉の威力の發動の思想を表示する。
(四) 千本の矢を入れて背負う武具。
(五) 胸のたいらな所。
(六) 威勢のよい音のする鞆。トモは皮で球形に作り左の手にはめて弓を引いた時にそれに當つて音が立つようにする武具。
(七) 威勢のよい叫び。
(八) 神に誓つて神意を伺う儀式。種々の方法があり夢が多く使われる。ここは生まれた子の男女の別によつて神意を伺う。
(九) 高天の原にありとする川。滋賀縣の野洲《やす》川だともいう。明日香川の古名か。
(一〇) 玉の音もさやかに。
(一一) 神聖な水の井。
(一二) 以上の行爲は、身を清めるために行う。劒を振つて水を清めてその水を口に含んで吐く霧の中に神靈が出現するとする。以下は劒が玉に變つているだけ。
(一三) 以上の三女神は福岡縣の宗像《むなかた》神社の神。
(一四) 皇室の御祖先と傳える。
(一五) 出雲氏等の祖先。
(一六) 主として近畿地方に居住した諸氏の祖先。各種の系統の祖先が、この行事によつて出現したとするのは民族が同一祖から出たとする思想である。
(一七) 出雲の國の熊野神社の神。
(一八) 福岡縣の海上日本海の沖の島にある。
(一九) 福岡縣の海上大島にある。

[#5字下げ]〔天の岩戸〕[#「〔天の岩戸〕」は小見出し]
 ここに速須佐の男の命、天照らす大御神に白したまひしく、「我が心|清明《あか》ければ我が生める子|手弱女《たわやめ》を得つ(一)。これに因りて言はば、おのづから我勝ちぬ」といひて、勝さび(二)に天照らす大御神の營田《みつくた》の畔《あ》離ち、その溝|埋《う》み、またその大|嘗《にへ》聞しめす殿に屎《くそ》まり散らしき(三)。かれ然すれども、天照らす大御神は咎めずて告りたまはく、「屎《くそ》なすは醉《ゑ》ひて吐き散らすとこそ我が汝兄《なせ》の命かくしつれ。また田の畔《あ》離ち溝|埋《う》むは、地《ところ》を惜《あたら》しとこそ我が汝兄《なせ》の命かくしつれ」と詔り直したまへども、なほその惡《あら》ぶる態《わざ》止まずてうたてあり。天照らす大御神の忌服屋《いみはたや》(四)にましまして神御衣《かむみそ》織らしめたまふ時に、その服屋《はたや》の頂《むね》を穿ちて、天の斑馬《むちこま》を逆剥《さかは》ぎに剥ぎて墮し入るる(五)時に、天の衣織女《みそおりめ》見驚きて梭《ひ》(六)に陰上《ほと》を衝きて死にき。かれここに天照らす大御神|見《み》畏《かしこ》みて、天の石屋戸《いはやど》(七)を開きてさし隱《こも》りましき。ここに高天《たかま》の原皆暗く、葦原《あしはら》の中つ國悉に闇し。これに因りて、常夜《とこよ》往く(八)。ここに萬《よろづ》の神の聲《おとなひ》は、さ蠅《ばへ》なす滿ち、萬の妖《わざはひ》悉に發《おこ》りき。ここを以ちて八百萬の神、天の安の河原に神集《かむつど》ひ集《つど》ひて、高御産巣日《たかみむすび》の神の子|思金《おもひがね》の神(九)に思はしめて、常世《とこよ》の長鳴《ながなき》鳥(一〇)を集《つど》へて鳴かしめて、天の安の河の河上の天の堅石《かたしは》を取り、天の金山《かなやま》の鐵《まがね》を取りて、鍛人《かぬち》天津麻羅《あまつまら》を求《ま》ぎて、伊斯許理度賣《いしこりどめ》の命に科《おほ》せて、鏡を作らしめ、玉の祖《おや》の命に科せて八尺の勾《まが》※[#「王+總のつくり」、第4水準2-80-88]の五百津《いほつ》の御統《みすまる》の珠を作らしめて天の兒屋《こやね》の命|布刀玉《ふとだま》の命を召《よ》びて、天の香山《かぐやま》の眞男鹿《さをしか》の肩を内拔《うつぬ》きに拔きて(一一)、天の香山の天の波波迦《ははか》(一二)を取りて、占合《うらへ》まかなはしめて(一三)、天の香山の五百津の眞賢木《まさかき》を根掘《ねこ》じにこじて(一四)、上枝《ほつえ》に八尺の勾※[#「王+總のつくり」、第4水準2-80-88]の五百津の御統の玉を取り著《つ》け、中つ枝に八尺《やた》の鏡を取り繋《か》け、下枝《しづえ》に白和幣《しろにぎて》青和幣《あをにぎて》を取り垂《し》でて(一五)、この種種《くさぐさ》の物は、布刀玉の命|太御幣《ふとみてぐら》と取り持ちて、天の兒屋の命|太祝詞《ふとのりと》言祷《ことほ》ぎ白して、天の手力男《たぢからを》の神(一六)、戸の掖《わき》に隱り立ちて、天の宇受賣《うずめ》の命、天の香山の天の日影《ひかげ》を手次《たすき》に繋《か》けて、天の眞拆《まさき》を鬘《かづら》として(一七)、天の香山の小竹葉《ささば》を手草《たぐさ》に結ひて(一八)、天の石屋戸《いはやど》に覆槽《うけ》伏せて(一九)蹈みとどろこし、神懸《かむがか》りして、※[#「匈/(胃−田)」、34-本文-3]乳《むなち》を掛き出で、裳《も》の緒《ひも》を陰《ほと》に押し垂りき。ここに高天の原|動《とよ》みて八百萬の神共に咲《わら》ひき。
 ここに天照らす大御神|怪《あや》しとおもほして、天の石屋戸を細《ほそめ》に開きて内より告《の》りたまはく、「吾《あ》が隱《こも》りますに因りて、天の原おのづから闇《くら》く、葦原の中つ國も皆闇けむと思ふを、何《なに》とかも天の宇受賣《うずめ》は樂《あそび》し、また八百萬の神|諸《もろもろ》咲《わら》ふ」とのりたまひき。ここに天の宇受賣白さく、「汝命《いましみこと》に勝《まさ》りて貴《たふと》き神いますが故に、歡喜《よろこ》び咲《わら》ひ樂《あそ》ぶ」と白しき。かく言ふ間に、天の兒屋の命、布刀玉の命、その鏡をさし出でて、天照らす大御神に見せまつる時に、天照らす大御神いよよ奇《あや》しと思ほして、やや戸より出でて臨みます時に、その隱《かく》り立てる手力男の神、その御手を取りて引き出だしまつりき。すなはち布刀玉の命、尻久米《しりくめ》繩(二〇)をその御後方《みしりへ》に控《ひ》き度して白さく、「ここより内にな還り入りたまひそ」とまをしき。かれ天照らす大御神の出でます時に、高天の原と葦原の中つ國とおのづから照り明りき。ここに八百萬の神共に議《はか》りて、速須佐の男の命に千座《ちくら》の置戸《おきど》を負せ(二一)、また鬚《ひげ》と手足の爪とを切り、祓へしめて、神逐《かむやら》ひ逐ひき。

(一) 自分が清らかだから女子を得たとする。日本書紀では反對に、男子が生まれたらスサノヲの命が潔白であるとしている。古事記の神話が女子によつて語られたとする證明になるところ。オシホミミの命の出現によつて勝つたとするのが原形だろう。
(二) 勝にまかせて。
(三) 田の畦を破り溝を埋め、また御食事をなされる宮殿に不淨の物をまき散らすので、皆暴風の災害である。
(四) 清淨な機おり場。
(五) これも暴風の災害。
(六) 機おる時に横絲を卷いて縱絲の中をくぐらせる道具。
(七) イハは堅固である意を現すためにつけていう。墳墓の入口の石の戸とする説もある。
(八) 永久の夜が續く。
(九) 思慮智惠の神格化。
(一〇) 鷄。常世は、恒久の世界の義で、空想上の世界から轉じて海外をいう。
(一一) 香具山の鹿の肩の骨をそつくり拔いて。
(一二) 樹名、カバノキ。これで鹿骨を燒く。
(一三) 占いをし適合させて。卜占によつて祭の實行方法を定める。
(一四) 香具山の繁つた木を根と共に掘つて。マサカキは繁つた常緑木で、今いうツバキ科の樹名サカキに限らない。神聖な清淨な木を引く意味で、山から採つてくる。
(一五) サカキに玉と鏡と麻楮をつけるのは、神靈を招く意の行事で、他の例では劒をもつける。シラニギテはコウゾ、アヲニギテはアサ。
(一六) 力の神格。
(一七) ヒカゲカズラを手次《たすき》にかけ、マサキノカズラをカヅラにする。神がかりをするための用意。
(一八) 小竹の葉をつけて手で持つ。
(一九) 中のうつろの箱のようなものを伏せて。
(二〇) シメ繩。出入禁止の意の表示。
(二一) 罪を犯した者に多くの物を出させる。
(つづく)



底本:「古事記」角川文庫、角川書店
   1956(昭和31)年5月20日初版発行
   1965(昭和40)年9月20日20版発行
底本の親本:「眞福寺本」
※底本は校注が脚註の形で配置されています。このファイルでは校註者が追加した標題ごとに、書き下し文、校注の順序で編成しました。
※(一)〜(五五)は注釈番号です。底本では、直前の文字の右横に、ルビのように漢数字のみ付いています。このファイルでは本文の漢数字との混同を避けるため(漢数字)で表しました。
※〔〕は底本の親本にはないもので、校註者が補った箇所を表します。
※頁数を引用している箇所には校註者が追加した標題を注記しました。
※底本は書き下し文のみ歴史的かなづかいで、その他は新かなづかいです。なお拗音・促音は小書きではありません。
入力:川山隆
校正:しだひろし
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*地名

(※ 市町村名は、平成の大合併以前の表記のまま。一般的な国名・地名などは解説省略。
  • 真福寺 しんぷくじ 名古屋市中区にある真言宗の寺。別称、宝生院。通称、大須観音。建久(1190〜1199)年中、尾張国中島郡大須郷(岐阜県羽島市)に建立、中島観音堂と称したものを1612年(慶長17)現在地に移建。古事記・日本霊異記などの古写本を蔵し、大須本・真福寺本と称する。
  • -----------------------------------
  • 安の河 やすのかわ 天上にあるという川。天の安の河。また、天の河。
  • 高千の巓 たかちのたけ
  • 高千穂の宮 たかちほのみや 彦火火出見尊から神武天皇に至る3代の皇居。宮崎県西臼杵郡高千穂町・同県西諸県郡の東霧島山などの諸説がある。
  • 秋津洲・秋津島・蜻蛉洲 あきずしま 大和国。また、本州。また広く、日本国の異称。あきずしまね。あきずね。(もと御所市付近の地名から。神武天皇が大和国の山上から国見をして「蜻蛉の臀�の如し」と言った伝説がある)
  • 高倉
  • 高天の原 たかまのはら 高天原。(1) 日本神話で、天つ神がいたという天上の国。天照大神が支配。「根の国」や「葦原の中つ国」に対していう。たかまがはら。(2) 大空。
  • 黄泉国 よもつくに (→)黄泉に同じ。
  • 黄泉 よみ (ヤミ(闇)の転か。ヤマ(山)の転ともいう)死後、魂が行くという所。死者が住むと信じられた国。よみのくに。よもつくに。よみじ。こうせん。冥土。九泉。
  • 殿の縢戸 とののくみど
  • 黄泉比良坂 よもつひらさか 安来市の隣、東出雲町と比定されている。
  • 坂本 さかもと
  • 葦原の中つ国 あしはらの なかつくに (「中つ国」は、天上の高天原と地下の黄泉の国との中間にある、地上の世界の意)(→)「葦原の国」に同じ。
  • 葦原の国 あしはらのくに 記紀神話などに見える、日本国の称。
  • 夜の食国 よの おすくに
  • 天の安の河 あまの やすのかわ 日本神話で天上にあったという河。神々の会合した所とする。
  • 淤能碁呂島 おのごろじま → f馭慮島
  • f馭慮島 おのころじま 日本神話で、伊弉諾・伊弉冉二尊が天の浮橋に立って、天瓊矛で滄海を探って引き上げた時、矛先からしたたり落ちる潮の凝って成った島。転じて、日本の国を指す。
  • 大倭豊秋津島 おおやまと とよあきつしま 本州。天つ御虚空豊秋津根別。
  • 天つ御虚空豊秋津根別 あまつ みそら とよあきつねわけ → 大倭豊秋津島
  • 大八島国 おおやしまぐに 大八洲国・大八島国。(→)「おおやしま」に同じ。
  • 大八洲・大八島 おおやしま (多くの島から成る意)日本国の古称。おおやしまぐに。
  • [佐渡] さど 旧国名。北陸地方北辺、日本海最大の島。新潟県に属する。面積857平方km。佐州。
  • 佐渡の島 さどのしま → 佐渡島
  • 佐渡島 さどがしま 新潟県に属し、新潟市の北西方にある日本海最大の島。
  • [滋賀県]
  • 野洲川 やすがわ 鈴鹿山脈から北西に流れ、琵琶湖に注ぐ川。琵琶湖に大きく張り出した川の三角州は、琵琶湖を北湖と南湖に二分している。全長61km。
  • 明日香川
  • [奈良県]
  • 吉野 よしの 奈良県南部の地名。吉野川流域の総称。大和国の一郡で、平安初期から修験道の根拠地。古来、桜の名所で南朝の史跡が多い。
  • 近つ淡海・近江 ちかつ おうみ 浜名湖を「遠つ淡海」というのに対して、琵琶湖の称。また、近江の古称。
  • 遠つ飛鳥 とおつ あすか 大和の飛鳥のことか。
  • 飛鳥 あすか 飛鳥・明日香。奈良盆地南部の一地方。畝傍山および香具山付近以南の飛鳥川流域の小盆地。推古天皇以後百余年間にわたって断続的に宮殿が造営された。
  • 清原の大宮 きよみはらの おおみや → 飛鳥浄御原宮か
  • 飛鳥浄御原宮 あすかの きよみはらのみや 天武・持統天皇の皇居。672年天武天皇が造営して都とし、694年持統天皇は藤原宮に遷る。
  • 太八洲 おおやしま 大八洲・大八島。(多くの島から成る意)日本国の古称。おおやしまぐに。
  • 小治田 おわりだ → 小墾田宮か
  • 小墾田宮 おはりだのみや 推古天皇の皇居の一つ。伝承地は奈良県高市郡明日香村。皇極天皇も一時皇居とし、奈良後期にも行在所となる。小治田宮。
  • 磯城郡 しきぐん 奈良県の郡。奈良盆地中央部の低平地。ほぼ東境から北境を初瀬川(大和川上流)が流れ、北端で大和川に注ぐ。
  • 天の香具山 あまの かぐやま 天香山・天香具山。(1) 高天原にあったという山。(2) かぐやま。
  • 香具山・香久山 かぐやま 奈良県橿原市の南東部にある山。標高152m。耳成山・畝傍山と共に大和三山と称する。樹木が繁茂して美しい。麓に埴安池の跡がある。天の香具山。(歌枕)
  • 香山の畝尾 かぐやまの うねお
  • 埴安の池 はにやすのいけ 奈良盆地南部、香具山の北西麓にあった池。
  • [大阪]
  • 住吉神社 すみよし じんじゃ 大阪市住吉区住吉にある元官幣大社。住吉神の三神と神功皇后とを祀る。二十二社の一つ。摂津国一の宮。今は住吉大社と称す。同名の神社は、下関市一の宮住吉(長門国一の宮)や福岡市博多区住吉(筑前国一の宮)など各地にある。
  • [淡路] あわじのくに 旧国名。今の兵庫県淡路島。淡州。
  • 多賀 たが 真福寺本には「淡海の多賀」とする。
  • 淡島 あわしま (1) 日本神話で伊弉諾尊・伊弉冉尊が生んだという島。(2) 日本神話で少彦名神がそこから常世に渡ったという島。(3) 和歌山市にある淡島神社。祭神は少彦名神。各地に分祀。婦人病に霊験があるとされる。また神の名を針才天女とも伝え針供養が行われる。加太神社。淡島(粟島)明神。あわしまがみ。(4) 淡島 (3) のお札や神像を入れた厨子を負って、その由来を語りながら門付けをした遊行者。淡島願人。淡島殿。
  • 淡道の穂の狭別の島 あわじのほの さわけのしま 淡道之穂之狭別島 → 淡路島
  • 淡路島 あわじしま 瀬戸内海東部にある同海最大の島。本州とは明石海峡・友ヶ島水道(紀淡海峡)で、四国とは鳴門海峡で隔てられる。1985年鳴門海峡に橋が完成。兵庫県に属する。面積592平方km。
  • 伊予の二名の島 いよのふたなのしま 伊予之二名島。四国。
  • [吉備国] きびのくに 山陽地方の古代国名。大化改新後、備前・備中・備後・美作(みまさか)に分かつ。
  • 児島 こじま タケヒガタワケ。岡山県児島半島南部の地区。古くから海上交通の要地で、水軍の拠点。瀬戸内海国立公園の一部で鷲羽山がある。倉敷市に属し、学生服・ジーンズなどの縫製加工業が盛ん。瀬戸大橋の起点。
  • 建日方別 たけひがたわけ → 吉備の児島
  • 吉備の児島 きびのこじま 吉備子洲。神代記国生みの段にみえる。岡山県児島郡の児島半島。(神名)
  • [伊予国] いよのくに 旧国名。今の愛媛県。伊余。伊与。予州。
  • 愛比売 えひめ 愛媛。四国地方の北西部の県。伊予国全域。県庁所在地は松山市。面積5674平方km。人口146万8千。全11市。
  • [讃岐国] さぬきのくに 旧国名。今の香川県。讃州。
  • 飯依比古 いいよりひこ 飯依彦。讃岐国の擬人名。
  • 小豆島 あずきじま/しょうどしま オオノデ姫。香川県小豆郡に属する瀬戸内海東部の島。面積約153平方km。星ヶ城山を中心に景勝多く、中でも寒霞渓は有名。主要産物は醤油・オリーブ油・素麺。瀬戸内海国立公園の一部。
  • 大野手比売 おおのでひめ
  • [阿波国] あわのくに 旧国名。今の徳島県。粟国。阿州。
  • 粟の国 あわのくに → 阿波国
  • 大宜都比売 おおげつひめ 大宜津比売。(「け」は食物)食物をつかさどる女神。古事記で、鼻・口・尻から種々の食物を取り出して奉り、穢らわしいとして素戔嗚尊に殺されたが、死体から五穀が化生した。日本書紀では保食神。
  • [土佐国] とさのくに (古く「土左」とも書く)旧国名。今の高知県。土州。
  • 土左の国 とさのくに → 土佐国
  • 建依別 たけよりわけ 土佐国の美称。現、高知県。
  • [伯耆国] ほうきのくに 旧国名。今の鳥取県の西部。伯州。
  • 伯伎の国 ははきのくに → 伯耆国
  • 比婆の山 ひばのやま 日本神話においてイザナミが葬られたと記される地。
  • 湯津石村 ゆついわむら
  • [隠岐国] おきのくに 中国地方の島。旧国名。山陰道の一国。今、島根県に属する。隠州。 → 隠岐島
  • 隠岐の三子の島 おきのみつごのしま 億岐三子洲(紀)。イザナギ・イザナミ神の国生みの三番目に生まれた島。またの名を天之忍許呂別。紀の一書では佐度洲と双とする。(神名)
  • 天の忍許呂別 あめのおしころわけ 天之忍許呂別。隠岐三子島の別名。
  • 隠岐島 おきのしま 島根県に属し、本州の北約50km沖にある島。最大島の島後と島群である島前とから成る。後鳥羽上皇・後醍醐天皇の流された地。大山隠岐国立公園に属する。隠岐諸島。
  • [島根県]
  • [出雲国] いずものくに 旧国名。今の島根県の東部。雲州。
  • 伊賦夜坂 いぶやざか 黄泉比良坂。
  • 八束郡 やつかぐん 明治29年(1896)島根郡・秋鹿郡・意宇郡が合併して成立。県北部に位置。郡中央部に松江市があり、南西部には宍道湖が広がり、北は日本海に面する。
  • 熊野神社 くまの じんじゃ 島根県松江市にある元国幣大社。祭神は神祖熊野大神櫛御気野命(素戔嗚尊)。鑽火祭の神事が有名。熊野大社。
  • [広島県]
  • 比婆郡 ひばぐん 広島県東部にあった郡。1898年10月1日に恵蘇・奴可・三上各郡が統合されて成立した。
  • 竺紫 つくし → 筑紫か
  • 筑紫の島 つくしのしま
  • [筑紫国] つくしのくに 九州の古称。また、筑前・筑後を指す。
  • 白日別 しらひわけ イザナギ・イザナミ二神の子。筑紫島の四面の一つで筑紫の国名。肥前国南高来郡筑柴魂神社に祀られている。(神名)
  • [福岡県]
  • 形の奥津宮 むなかたの おきつのみや → 宗像神社
  • 形の中津宮 むなかたの なかつのみや → 宗像神社
  • 形の辺津宮 むなかたの へつのみや → 宗像神社
  • 宗像神社 むなかた じんじゃ 福岡県宗像市にある元官幣大社。祭神は田心姫命・湍津姫命・市杵島姫命で、玄界灘の沖ノ島にある沖津宮、大島の中津宮、内陸にある辺津宮の三宮に祀る。沖ノ島の祭祀遺跡は著名。宗像大社。
  • 沖ノ島 おきのしま 玄界灘にある島。本州から約60km離れ、福岡県宗像市に属する。大陸との往来の安全を願う信仰の対象となり、宗像神社の沖津宮がある。古墳時代以降の多くの祭祀遺跡が確認され、貴重な奉献品が発見されている。
  • 大島 おおしま 大多麻流別。現、福岡県宗像郡大島村大島。宗像郡の北部、玄界灘に浮かぶ。中央部の御岳山(224m)を中心に丘陵部が多く、平地は少ない。前九年の役で敗れた安倍宗任がのちに大島に流されて没したという。東西約3.2キロ、南北約2.7キロ。字大岸に宗像大社中津宮が鎮座する。
  • 大多麻流別 おおたまるわけ イザナギ・イザナミ神の国生みで生まれた大島の別名。(神名)
  • [壱岐] いき 九州と朝鮮との間に対馬とともに飛石状をなす島。もと壱岐国。九州本土から約25km離れる。緩やかな丘陵・台地が多い。面積134平方km。壱州。
  • 伊岐の島 いきのしま 壱岐島か。長崎県。 → 壱岐
  • 天比登都柱 あめのひとつ/あめひとつはしら 国生みで生まれた伊伎島の別名で、長崎県の壱岐のこと。(神名)
  • [対馬国]
  • 津島 つしま → 対馬
  • 対馬 つしま (一説に、津島の意という) 旧国名。九州と朝鮮半島との間にある島。主島は上島・下島。今は長崎県の一部。中心地は厳原。対州。
  • 天の狭手依比売 あめのさでよりひめ 国生みで生まれた津島(対馬)の別名。(神名)
  • [長崎県]
  • 知訶の島 ちかのしま アメノオシオ。値嘉島。長崎県の五島列島の古称。
  • 天の忍男 あめのおしお 天之忍男。国生みで生まれた知訶島(長崎県五島列島)の別名。(神名)
  • 両児の島 ふたごのしま 天両屋。アメフタヤ。五島列島の男女群島の男島・女島とされている。
  • 天の両屋 あめのふたや
  • [豊国] とよのくに 豊の国。九州地方北東部の古い国名。のち豊前・豊後に分かれた。
  • 豊日別 とよひわけ 豊日別国魂神。豊前・豊後の総称で、豊国の国魂の神を意味する。豊後国下毛郡国毛浜神社その他に祀られている。(神名)
  • 女島 ひめじま 天一つ根。大分県の姫島(東国東郡姫島村)。
  • 天一根 あめひとつね 国生みで生まれた女嶋の別名で、大分県の姫島にあたる。(神名)
  • [肥国] ひのくに 肥の国。肥前国・肥後国の略。
  • 建日向日豊久士比泥別 たけひむかひとよくじひねわけ イザナギ・イザナミ神の国生みにより、四番目に生まれた筑紫島の中の肥国の美称。現在の九州、球磨地方を除く熊本県・長崎県・佐賀県・宮崎県にあたる。(神名)
  • [日向国] ひむか/ひゅうがのくに (古くはヒムカ)旧国名。今の宮崎県。
  • 橘の小門 たちばなの おど 橘之小戸。紀・神代巻に出てくる地で、日向国にあるという小さい瀬戸。イザナギ命が黄泉国から帰って禊祓をしたという所。
  • 阿波岐原 あわぎはら 九州の諸地方に伝説地があるが不明。「阿波岐」は樹名だろうが不明。『日本書紀』に「檍原」と書く。
  • [熊曽国] くまそのくに 熊曽の国
  • 建日別 たけひわけ イザナギ・イザナミ神の国生みにより、四番目に生まれた筑紫島の中の熊曽国の美称。現在の熊本県球磨地方・鹿児島県にあたる。(神名)


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)日本神名辞典 第二版』(神社新報社、1995.6)。




*年表

  • 和銅四(七一一)九月十八日 元明天皇、臣安万侶に詔して、稗田の阿礼が誦める勅語の『旧辞』を撰録して、献上せよとのりたまう。
  • 和銅五(七一二)正月二八日 『古事記』献上。
  • 養老七(七二三) 太の安麻呂、没。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。



*人物一覧

(人名、および組織・団体名・神名)
  • 稗田阿礼 ひえだの あれ 天武天皇の舎人。記憶力がすぐれていたため、天皇から帝紀・旧辞の誦習を命ぜられ、太安万侶がこれを筆録して「古事記」3巻が成った。
  • 太安万侶 おおの やすまろ ?-723 奈良時代の官人。民部卿。勅により、稗田阿礼の誦習した帝紀・旧辞を筆録して「古事記」3巻を撰進。1979年、奈良市の東郊から遺骨が墓誌銘と共に出土。
  • -----------------------------------
  • 番の仁岐の命 ほのににぎのみこと → ににぎのみこと
  • ににぎのみこと 瓊瓊杵尊・邇邇芸命 日本神話で天照大神の孫。天忍穂耳尊の子。天照大神の命によってこの国土を統治するために、高天原から日向国の高千穂峰に降り、大山祇神の女、木花之開耶姫を娶り、火闌降命・火明尊・彦火火出見尊を生んだ。天津彦彦火瓊瓊杵尊。
  • アメノミナカヌシの神
  • タカミムスビの神
  • カムムスビの神
  • イザナギ 伊弉諾尊・伊邪那岐命 いざなぎのみこと (古くはイザナキノミコト)日本神話で、天つ神の命を受け伊弉冉尊と共にわが国土や神を生み、山海・草木をつかさどった男神。天照大神・素戔嗚尊の父神。
  • イザナミ 伊弉冉尊・伊邪那美命 いざなみのみこと 日本神話で、伊弉諾尊の配偶女神。火の神を生んだために死に、夫神と別れて黄泉国に住むようになる。
  • アマテラス大神 あまてらす おおみかみ 天照大神・天照大御神 伊弉諾尊の女。高天原の主神。皇室の祖神。大日�t貴とも号す。日の神と仰がれ、伊勢の皇大神宮(内宮)に祀り、皇室崇敬の中心とされた。
  • スサノオの命 すさのおのみこと 素戔嗚尊・須佐之男命 日本神話で、伊弉諾尊の子。天照大神の弟。凶暴で、天の岩屋戸の事件を起こした結果、高天原から追放され、出雲国で八岐大蛇を斬って天叢雲剣を得、天照大神に献じた。また新羅に渡って、船材の樹木を持ち帰り、植林の道を教えたという。
  • 崇神天皇 すじん てんのう 記紀伝承上の天皇。開化天皇の第2皇子。名は御間城入彦五十瓊殖。
  • 仁徳天皇 にんとく てんのう 記紀に記された5世紀前半の天皇。応神天皇の第4皇子。名は大鷦鷯。難波に都した最初の天皇。租税を3年間免除したなどの聖帝伝承がある。倭の五王のうちの「讃」または「珍」とする説がある。
  • 成務天皇 せいむ てんのう 記紀伝承上の天皇。景行天皇の第4皇子。名は稚足彦。
  • 允恭天皇 いんぎょう てんのう 記紀に記された5世紀中頃の天皇。仁徳天皇の第4皇子。名は雄朝津間稚子宿祢。盟神探湯で姓氏の混乱を正したという。倭の五王のうち「済」に比定される。
  • 天武天皇 てんむ てんのう ?-686 7世紀後半の天皇。名は天渟中原瀛真人、また大海人。舒明天皇の第3皇子。671年出家して吉野に隠棲、天智天皇の没後、壬申の乱(672年)に勝利し、翌年、飛鳥の浄御原宮に即位する。新たに八色姓を制定、位階を改定、律令を制定、また国史の編修に着手。(在位673〜686)
  • アメノウズメの命 あまのうずめのみこと 天鈿女命・天宇受売命 日本神話で、天岩屋戸の前で踊って天照大神を慰め、また、天孫降臨に随従して天の八衢にいた猿田彦神を和らげて道案内させたという女神。鈿女命。猿女君の祖とする。
  • 天御中主神 あまのみなかぬしのかみ 古事記で、造化の三神の一柱。天地開闢のはじめ、高天原に最初に出現、天の中央に座して宇宙を主宰したという神。中国の思想による天帝の観念から作られたという。
  • 神倭の天皇 かむやまとの すめらみこと → 神武天皇
  • 神武天皇 じんむ てんのう 記紀伝承上の天皇。名は神日本磐余彦。伝承では、高天原から降臨した瓊瓊杵尊の曾孫。彦波瀲武��草葺不合尊の第4子で、母は玉依姫。日向国の高千穂宮を出、瀬戸内海を経て紀伊国に上陸、長髄彦らを平定して、辛酉の年(前660年)大和国畝傍の橿原宮で即位したという。日本書紀の紀年に従って、明治以降この年を紀元元年とした。畝傍山東北陵はその陵墓とする。
  • 神倭伊波礼毘古の天皇 かむやまといわれびこの すめらみこと → 神武天皇
  • 品陀 ほむだ → 誉田別、応神天皇
  • 応神天皇 おうじん てんのう 記紀に記された天皇。5世紀前後に比定。名は誉田別。仲哀天皇の第4皇子。母は神功皇后とされるが、天皇の誕生については伝説的な色彩が濃い。倭の五王のうち「讃」にあてる説がある。異称、胎中天皇。
  • 大雀の皇帝 おおさざきの すめらみこと → 仁徳天皇
  • 仁徳天皇 にんとく てんのう 記紀に記された5世紀前半の天皇。応神天皇の第4皇子。名は大鷦鷯。難波に都した最初の天皇。租税を3年間免除したなどの聖帝伝承がある。倭の五王のうちの「讃」または「珍」とする説がある。
  • 元明天皇 げんめい てんのう 661-721 奈良前期の女帝。天智天皇の第4皇女。草壁皇子の妃。文武・元正天皇の母。名は阿閉。都を大和国の平城(奈良)に遷し、太安万侶らに古事記を撰ばせ、諸国に風土記を奉らせた。(在位707〜715)
  • 推古天皇 すいこ てんのう 554-628 記紀に記された6世紀末・7世紀初の天皇。最初の女帝。欽明天皇の第3皇女。母は堅塩媛(蘇我稲目の娘)。名は豊御食炊屋姫。また、額田部皇女。敏達天皇の皇后。崇峻天皇暗殺の後を受けて大和国の豊浦宮で即位。後に同国の小墾田宮に遷る。聖徳太子を摂政とし、冠位十二階の制定、十七条憲法の発布などを行う。(在位592〜628)
  • -----------------------------------
  • 伊耶那岐の命 いざなぎのみこと 伊弉諾尊・伊邪那岐命。(古くはイザナキノミコト)日本神話で、天つ神の命を受け伊弉冉尊と共にわが国土や神を生み、山海・草木をつかさどった男神。天照大神・素戔嗚尊の父神。
  • 伊耶那美の命 いざなみのみこと 伊弉冉尊・伊邪那美命。日本神話で、伊弉諾尊の配偶女神。火の神を生んだために死に、夫神と別れて黄泉国に住むようになる。
  • 天の御中主の神 あめのみなかぬしのかみ → 天御中主神
  • 高御産巣日の神 たかみむすびのかみ/たかみむすひのかみ 高皇産霊神・高御産巣日神・高御産日神・高御魂神。古事記で、天地開闢の時、高天原に出現したという神。天御中主神・神皇産霊神と共に造化三神の一神。天孫降臨の神勅を下す。鎮魂神として神祇官八神の一神。別名、高木神。
  • 神産巣日の神 かむむすびのかみ/かみむすひのかみ 神産巣日神・神皇産霊神。記紀神話で天地開闢の際、天御中主神・高皇産霊神と共に高天原に出現したと伝える神。造化三神の一神。女神ともいう。かむみむすひのかみ。
  • 宇摩志阿斯訶備比古遅の神 うましあしかびひこぢのかみ → 可美葦牙彦舅神
  • 可美葦牙彦舅神 うましあしかびひこじのかみ 記紀神話で、国土がまだ出来あがらず天地混沌の時、アシカビ(葦の芽の意)のように生まれたとされる神。
  • 天の常立の神 あめのとこたちのかみ/あまのとこたちのかみ 天常立神。古事記で、天地開闢の時、現れたという神。
  • 別天神 ことあまつかみ 古事記で、天地開闢の初めに出現したとされる神。天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神・宇摩志阿斯訶備比古遅神・天之常立神の称。
  • 国の常立の神 くにのとこたちのみこと 国常立尊。日本書紀の冒頭に記されている、天地開闢とともに最初に現れた神。国底立尊。
  • 豊雲野の神 とよくものかみ 豊斟渟神。天地開闢の時、国常立神に次いで高天原に出現したという神。天神七代の一つ。豊雲野神。豊斟渟尊。
  • 宇比地迩の神 うひじにのかみ 宇比邇神。男神。
  • 須比智迩の神 すひじにのかみ 須比智邇神。女神。宇比地迩の神の妹。
  • 角杙の神 つのぐいのかみ 男神。
  • 活杙の神 いくぐいのかみ 女神。角杙の神の妹。
  • 意富斗能地の神 おおとのぢのかみ 男神。
  • 大斗乃弁の神 おおとのべのかみ 女神。意富斗能地の神の妹。
  • 於母陀琉の神 おもだるのかみ 淤母陀琉神。男神。
  • 阿夜訶志古泥の神 あやかしこねのかみ 女神。於母陀琉の神の妹。
  • 蛭子 ひるこ 日本神話で、伊弉諾・伊弉冉二神の間に最初に生まれた子。3歳になっても脚が立たず、流し捨てられたと伝える。中世以後、これを恵比須として尊崇。ひるのこ。
  • 大事忍男の神 おおことおしおのかみ 大事忍男神。
  • 石土毘古の神 いわつちびこのかみ 石土毘古神。家宅六神。
  • 石巣比売の神 いわすひめのかみ 石巣比売神。家宅六神。
  • 大戸日別の神 おおとひわけのかみ 家宅六神。
  • 天の吹男の神 あめのふきおのかみ 天之吹男神。家宅六神。
  • 大屋毘古の神 おおやびこのかみ 家宅六神。
  • 風木津別の忍男の神 かざもつわけのおしおのかみ 風木津別之忍男神。家宅六神。
  • 大綿津見の神 おおわたつみのかみ 海神・綿津見。海の神。
  • 水戸の神 みなとのかみ 川口、港口を守護する神。速秋津日子神と速秋津比売の神の二柱のことをいう。
  • 速秋津日子の神 はやあきつひこのかみ 速秋津比古。水戸の神。
  • 速秋津比売の神 はやあきつひめのかみ 速秋津比売神。水戸の神。
  • 沫那芸の神 あわなぎのかみ
  • 沫那美の神 あわなみのかみ
  • 頬那芸の神 つらなぎのかみ
  • 頬那美の神 つらなみのかみ
  • 天の水分の神 あめの みくまりのかみ 天之水分神。
  • 国の水分の神 くにの みくまりのかみ 国之水分神。
  • 水分神 みくまりのかみ 流水の分配をつかさどる神。古事記に速秋津日子・速秋津比売2神の子、天之水分神・国之水分神の2神が見え、吉野水分神社・宇太水分神社など各地の水源地に分祀される。「みこもり」と転じて、俗に子守神として信仰される。
  • 天の久比奢母智の神 あめの くひざもちのかみ 天之久比奢母智神。
  • 国の久比奢母智の神 くにの くひざもちのかみ 国之久比奢母智神。
  • 志那都比古の神 しなつひこのかみ 級長津彦神。風をつかさどる神。竜田神・竜田風神と同神ともいう。級長戸辺神。
  • 久久能智の神 くくのちのかみ 久久能智神。日本神話で、木の神。木の守護神。
  • 大山津見の神 おおやまつみのかみ 大山祇神。山をつかさどる神。伊弉諾尊の子。
  • 鹿屋野比売の神 かやのひめのかみ 野の神名。またの名は野椎の神。
  • 野椎の神 のづちのかみ → 鹿屋野比売の神
  • 天の狭土の神 あめの さづちのかみ 天之狭土神。
  • 国の狭土の神 くにの さづちのかみ 国之狭土神。
  • 天の狭霧の神 あめの さぎりのかみ 天之狭霧神。
  • 国の狭霧の神 くにの さぎりのかみ 国之狭霧神。
  • 天の闇戸の神 あめの くらとのかみ 天之闇戸神。
  • 国の闇戸の神 くにの くらとのかみ 国之闇戸神。
  • 大戸或子の神 おおとまどいこのかみ 大戸惑子神。
  • 大戸或女の神 おおとまどいめのかみ 大戸惑女神。
  • 鳥の石楠船の神 とりのいわくすぶねのかみ またの名は天の鳥船。鳥磐樟船。鳥のように速く、岩のように堅固なクスノキで作った船。あまのいわくすぶね。
  • 天の鳥船 あめの とりぶね → 鳥の石楠船の神
  • 天の鳥船 あまの とりふね 日本神話にみえる、速力のはやい船。また、それを神として呼んだ称。
  • 大宜都比売の神 おおげつひめのかみ 大宜津比売。(「け」は食物)食物をつかさどる女神。古事記で、鼻・口・尻から種々の食物を取り出して奉り、穢らわしいとして素戔嗚尊に殺されたが、死体から五穀が化生した。日本書紀では保食神。
  • 火の夜芸速男の神 ほのやぎはやおのかみ またの名は火の�f毘古の神。またの名は火の迦具土の神。
  • 火の�f毘古の神 ほのかがびこのかみ
  • 火の迦具土の神 ほのかぐつちのかみ 迦具土神。記紀神話で、伊弉諾・伊弉冉二尊の子。火をつかさどる神。誕生の際、母を焼死させたため、父に切り殺される。火産霊神。
  • 金山毘古の神 かなやまびこのかみ たぐりに生りませる神の名。金山毘古神。鉱山の神。金山姫を配する。
  • 金山毘売の神 かなやまびめのかみ 金山毘売神。
  • 波迩夜須毘古の神 はにやすびこのかみ 屎になりませる神の名。波邇夜須毘古神。土の神。
  • 波迩夜須毘売の神 はにやすびめのかみ 波邇夜須毘売。
  • 弥都波能売の神 みつはのめのかみ 尿になりませる神の名。弥都波能売神。罔象女。罔象に同じ。水をつかさどる神。
  • 和久産巣日の神 わくむすびのかみ 和久産巣日神。穀物・養蚕の神。
  • 豊宇気毘売の神 とようけびめのかみ 豊宇気毘売・豊受姫。豊受大神。伊弉諾尊の孫、和久産巣日神の子。食物をつかさどる神。伊勢神宮の外宮の祭神。豊宇気毘売神。とゆうけのかみ。
  • -----------------------------------
  • 泣沢女の神 なきさわめのかみ 御涙になりませる神は、香山の畝尾の木のもとにます神。/古事記神話で、伊邪那岐命が伊邪那美命の死を嘆いた涙から成ったという神。
  • 石拆の神 いわさくのかみ 磐裂神。「岩をも裂く力」という名義を持つ神。イザナギ命が火の神カグツチを斬ったとき、その剣の先についた血が岩にほとばしりついて生まれたとされる。
  • 根拆の神 ねさくのかみ 根裂神。「根をも裂く力」という名義を持つ神。
  • 石筒の男の神 いわづつのおのかみ 石筒之男神。刀剣の神。磐筒男命。
  • 甕速日の神 みかはやびのかみ (「みか」は、勢いが激しいさまの意)雷の神。
  • 樋速日の神 ひはやびのかみ (「樋」は「火」の意)火の神。
  • 建御雷の男の神 たけみかづちのおのかみ またの名は建布都の神、またの名は豊布都の神
  • 武甕槌命・建御雷命 たけみかずちのみこと 日本神話で、天尾羽張命の子。経津主命と共に天照大神の命を受けて出雲国に下り、大国主命を説いて国土を奉還させた。鹿島神宮はこの神を祀る。
  • 建布都の神 たけふつのかみ → 建御雷の男の神
  • 豊布都の神 とよふつのかみ → 建御雷の男の神
  • 御刀の手上に集まる血、手俣より漏き出てなりませる神の名は、
  • 闇淤加美の神 くらおかみのかみ 淤加美神。闇�。(「くら」は谷の意)高�と共に、水をつかさどる神。古来、祈雨・止雨の神として有名。京都の貴船神社の祭神。
  • 闇御津羽の神 くらみつはのかみ 闇御津羽神。雨をつかさどる竜神。水神。
  • 正鹿山津見の神 まさかやまつみのかみ 迦具土神の頭から生まれる。
  • 淤縢山津見の神 おとやまつみのかみ 胸に出現した神。
  • 奥山津見の神 おくやまつみのかみ 腹に出現した神。
  • 闇山津見の神 くらやまつみのかみ 御陰に出現した神。
  • 志芸山津見の神 しぎやまつみのかみ 左の手に出現した神。
  • 羽山津美の神 はやまつみのかみ 右の手に出現した神。
  • 原山津見の神 はらやまつみのかみ 左の足に出現した神。
  • 戸山津見の神 とやまつみのかみ 右の足に出現した神。/外山をつかさどる神。伊弉諾尊が迦具土神を斬った時、その死体の右足から生まれたという。
  • 黄泉神 よもつかみ 黄泉の国を支配する神。
  • 大雷 おおいかづち 頭。
  • 火の雷 ほのいかづち 胸。
  • 黒雷 くろいかづち/いかずち イザナミ命の死体の腹(記)または尻(紀)に生じたという雷神。
  • 拆雷 さくいかづち 陰《ほと》。
  • 若雷 わきいかづち 左の手。
  • 土雷 つちいかづち 右の手。
  • 鳴雷 なるいかづち 左の足。
  • 伏雷 ふしいかづち 右の足。
  • 雷神 らいじん 雷電を起こす神。鬼のような姿をして虎の皮の褌をまとい、太鼓を輪形に連ねて負い、手に桴を持つ。中国で天帝の属神とされ、日本では北野天神の眷属神ともされる。光の神。雷公。雷師。かみなり。
  • 黄泉醜女 よもつ しこめ 黄泉の国にいる鬼女。
  • 醜女 しこめ 容貌のみにくい女。醜婦。また、黄泉にいるという女の鬼。
  • 意富加牟豆美の命 おおかむづみのみこと イザナギが桃に与えた名。
  • 黄泉津大神 よもつ おおかみ イザナミの命。
  • 道敷の大神 ちしきの おおかみ 道敷大神。イザナミの命。
  • 道反の大神 ちかえしの/ちがえしの おおかみ イザナミ命を道から追い返した大神の意。(神名)
  • 黄泉戸の大神 よみどの おおかみ 黄泉の入口の大神。泉門塞之大神、塞坐黄泉戸大神。道反大神の別名。(神名)
  • -----------------------------------
  • 衝き立つ船戸の神 つきたつ ふなどのかみ 御杖になりませる神。
  • 道の長乳歯の神 みちの ながちはのかみ なげすてる帯であらわれた神。道中の安全を守る。
  • 時量師の神 ときはかしのかみ 時置師の神。黄泉国を脱したイザナギ神が、黄泉国のけがれを清めるために禊祓した際、第三に投げた袋に化成した神。名義不詳。(神名)
  • 時置師の神 ときおかしのかみ → 時量師の神
  • 煩累の大人の神 わずらいの うしのかみ 御衣になりませる神。和豆良比能宇斯神。
  • 道俣の神 ちまたのかみ 御褌になりませる神。岐の神。
  • 飽咋の大人の神 あきぐいの うしのかみ 御冠になりませる神。
  • 奥疎の神 おきざかるのかみ 左の御手の手纏になりませる神。
  • 奥津那芸佐毘古の神 おきつ なぎさびこのかみ
  • 奥津甲斐弁羅の神 おきつ かいべらのかみ
  • 辺疎の神 へざかるのかみ 右の御手の手纏になりませる神。
  • 辺津那芸佐毘古の神 へつ なぎさびこのかみ
  • 辺津甲斐弁羅の神 へつ かいべらのかみ
  • -----------------------------------
  • 八十禍津日の神 やそまがつびのかみ 中つ瀬に降り潜きて、滌ぎたまう時になりませる神。 → 禍津日神
  • 大禍津日の神 おおまがつひのかみ → 禍津日神
  • 禍津日神 まがつひのかみ 災害・凶事・汚穢の神。伊弉諾尊のみそぎの時、黄泉の国の汚れから化生したという。←→直日神
  • 神直毘の神 かむなおびのかみ 禍をなおさんとしてなりませる神。 → 直毘神
  • 大直毘の神 おおなおびのかみ (「なおび」は物忌みから平常に復し、また凶事を吉事に転ずる意)大直毘神の祭。また、大直毘神の略。 → 直毘神
  • 直日神・直毘神 なおびのかみ 罪悪・禍害を改め直す神。伊弉諾尊が檍原のみそぎのとき生まれ出た神という。←→禍津日神
  • 伊豆能売 いずのめ/いづのめのかみ イザナギ命が橘之小門で禊のとき生まれた神。『古事記伝』には伊豆は汚垢をはらって清まった意。『神名考』には伊豆の伊は斎庭、清らかな意とある。事跡不詳。速秋津日子神・速秋津比女二柱の神と同神。(神名)
  • 海神・綿津見 わたつみ (ワダツミとも。ツは助詞「の」と同じ、ミは神霊の意) (1) 海をつかさどる神。海神。わたつみのかみ。(2) 海。
  • 底津綿津見の神 そこつわたつみのかみ 水底に滌ぎたまう時になりませる神。
  • 底筒の男の命 そこづつの おのみこと → 参照:墨江神
  • 中津綿津見の神 なかつわたつみのかみ 中に滌ぎたまうときになりませる神。
  • 中筒の男の命 なかづつの おのみこと → 参照:墨江神
  • 上津綿津見の神 うわつわたつみのかみ 水の上に滌ぎたまう時になりませる神。
  • 上筒の男の命 うわづつの おのみこと → 参照:墨江神
  • 綿津見の神 わたつみのかみ 阿曇の連らが祖神と斎く神。
  • 阿曇の連 あづみの むらじ 綿津見の神の子、宇都志日金拆の命の子孫。
  • 宇都志日金拆の命 うつしひがなさくのみこと 『延喜式神名帳』に信濃国更級郡に氷鉋斗売神社があり、これから出た名であると推定される。拆は信濃の佐久郡から出た。イザナギ神の禊により化成した綿津見神の子で、阿曇連らの祖神。事跡不詳。(神名)
  • 墨の江の三前の大神 すみのえのみまえのおおかみ → 墨江神
  • 住吉神・墨江神 すみのえのかみ 大阪の住吉神社の祭神である表筒男命・中筒男命・底筒男命の三神。伊弉諾尊が筑紫の檍原で、禊をした時に生まれたという。航海の神、また和歌の神とされる。すみよしのかみ。
  • 天照大神・天照大御神 あまてらす おおみかみ → アマテラス大神
  • 月読の命 つくよみのみこと 右の御目を洗いたまうときになりませる神。
  • 月読・月夜見・月夜霊 つくよみ (1) (月を数える意からか、また月の意のツクヨに神の意のミが付いた形か)月の神。(2) 月。
  • 建速須佐の男の命 たけはやすさの おのみこと 御鼻を洗いたまうときになりませる神。 → 須佐之男命
  • 素戔嗚尊・須佐之男命 すさのおのみこと 日本神話で、伊弉諾尊の子。天照大神の弟。凶暴で、天の岩屋戸の事件を起こした結果、高天原から追放され、出雲国で八岐大蛇を斬って天叢雲剣を得、天照大神に献じた。また新羅に渡って、船材の樹木を持ち帰り、植林の道を教えたという。
  • 御倉板挙の神 みくらたなのかみ 御首珠の名。
  • 保食の神 うけもちのかみ 保食神。五穀をつかさどる神。食物の神。うかのみたま。
  • -----------------------------------
  • 速須佐の男の命 はやすさのおの みこと → 素戔嗚尊・須佐之男命
  • 多紀理毘売の命 たぎりびめのみこと 田心姫命。天照大神と素戔嗚尊が誓約をしたときに生まれた宗像三女神の一神。宗像神社の祭神。多紀理毘売命。/またの御名は奥津島比売の命。
  • 奥津島比売の命 おきつしまひめのみこと → 多紀理毘売の命
  • 市寸島比売の命 いちきしまひめのみこと 市杵島姫命。天照大神と素戔嗚尊との誓の際に生じた宗像三女神の一神。のち弁財天に付会し、また市神として信仰。市姫。厳島神社の祭神ともいう。/またの御名は狭依毘売の命。
  • 狭依毘売の命 さよりびめのみこと → 市寸島比売の命
  • 多岐都比売の命 たぎつひめのみこと 湍津姫命。日本神話で、素戔嗚尊と天照大神との誓約によって生まれた宗像の三女神の一神。大国主神の妻で、事代主神の母。
  • 正勝吾勝勝速日天の忍穂耳の命 まさかあかつかちはやび あめの おしほみみ のみこと 天忍穂耳尊。日本神話で、瓊瓊杵尊の父神。素戔嗚尊と天照大神の誓約の際に生まれた神。正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊。
  • 天の菩卑の命 あめの ほひ のみこと 天之菩卑能命、天穂日命、天菩比神。日本神話で、素戔嗚尊と天照大神の誓約の際に生まれた子。天孫降臨に先だち、出雲国に降り、大国主命祭祀の祭主となる。出雲国造らの祖とする。千家氏はその子孫という。
  • 天津日子根の命 あまつひこね のみこと 古事記では天津日子根命、日本書紀では天津彦根命と書かれる。アマテラスとスサノオの誓約の際に、天照大神の八尺勾玉の五百箇の御統の珠から生まれた五柱の男神のうちの一柱である。古事記や日本書紀本文ほかでは3番目に生まれ、天照大神の物種より生まれたので天照大神の子であるとされる。その後、神話の記述には登場しない。多くの氏族の祖神とされている。
  • 活津日子根の命 いくつひこねのみこと 天の安の河でスサノオ尊とアマテラス大神が誓約をおこなった際生まれた、五男神中の一神。
  • 熊野久須毘の命 くまの/くまぬくすびのみこと スサノオ命がアマテラス大神の右手に巻かれた珠をもらいうけ、かみにかんで吹き捨てた息吹の狭霧にできた神。五男神のうち一番最後に生まれた。(神名)
  • 建比良鳥の命 たけひらとりのみこと 天の菩比の命の子。/出雲の国の造・ムザシの国の造・カミツウナカミの国の造・シモツウナカミの国の造・イジムの国の造・津島の県の直・遠江の国の造たちの祖先。
  • 出雲国造 いずもの くにのみやつこ 出雲の国を支配した豪族。律令制成立以後は大社の神官を世襲し、のち千家・北島の両家に分かれた。
  • 无耶志の国の造 むざしの くにのみやつこ 无邪志国造。
  • 上つ兎上の国の造 かみつうなかみの くにのみやつこ
  • 下つ兎上の国の造 しもつうなかみの くにのみやつこ
  • 伊自牟の国の造 いじむの くにのみやつこ
  • 津島の県の直 つしまのあがたのあたえ
  • 遠江の国の造 とおつおうみの くにのみやつこ
  • 凡川内の国の造 おおしこうちの くにのみやつこ
  • 額田部の湯座の連 ぬかたべのゆえのむらじ
  • 木の国の造 きの くにのみやつこ
  • 倭の田中の直 やまとの田中のあたえ
  • 山代の国の造 やましろの くにのみやつこ
  • 馬来田の国の造 うまくたの くにのみやつこ
  • 道の尻岐閇の国の造 みちのしりきべの くにのみやつこ
  • 周芳の国の造 すわの くにのみやつこ
  • 倭の淹知の造 やまとのあむちのみやつこ
  • 高市の県主 たけちのあがたぬし
  • 蒲生の稲寸 かまうのいなぎ
  • 三枝部の造 さきくさべの
  • 出雲族 → 出雲氏
  • 出雲氏 いずもうじ 天穂日命を祖とする古代の豪族。姓は臣。出雲国と山城国愛宕郡雲上里・雲下里に集中し、大和・河内・播磨・丹波などにも分布。出雲連が摂津国、無姓の出雲が越前国にみえる。出雲国の出雲臣は意宇郡を本拠とし、郡大領・出雲国造を兼帯した家系を本宗とし、九郡中五郡の郡司として現れ、大勢力を有した。律令制下でも出雲国造の任命が知られる。国造家は南北朝期に千家・北島両家に分裂。出雲連には医書「大同類聚方」を著した出雲広貞がでて、医道の道として栄えた。(日本史)
  • -----------------------------------
  • 思金の神 おもいがねのかみ 思兼神。記紀神話で高皇産霊神の子。天照大神が天の岩戸に隠れた時、謀を設けて誘い出した、思慮のある神。思金命。
  • 天津麻羅 あまつまら 記に見える鍛冶の神。天の岩屋戸に隠れた天照大神を導き出すため、伊斯許理度売神(いしこりどめのみこと)とともに、祭祀用の鏡を作った。天目一箇神(あめのまひとつのかみ)と同じ神ともいわれる。天津真浦とも。
  • 天津麻羅 あまつまら (→)天目一箇神に同じ。
  • 天目一箇神 あまの まひとつのかみ 天照大神が天岩屋戸に隠れた時、刀・斧など、祭器を作ったという神。後世、金工・鍛冶の祖神とする。天津麻羅。
  • 伊斯許理度売の命 いしこりどめのみこと 石凝姥命。記紀神話で、天糠戸神の子。天照大神が天の岩戸に隠れた時、鏡を作った神。鏡作部の遠祖とする。五部神の一神。
  • 玉祖命 たまのおやのみこと 古事記神話で、天岩屋戸の前で玉を作ったという神。五部神の一神。玉屋命。
  • 天の児屋の命 あまの こやねのみこと 天児屋命・天児屋根命。日本神話で、興台産霊の子。天岩屋戸の前で、祝詞を奏して天照大神の出現を祈り、のち、天孫に従ってくだった五部神の一人で、その子孫は代々大和朝廷の祭祀をつかさどったという。中臣・藤原氏の祖神とする。
  • 布刀玉の命 ふとだまのみこと 太玉命。日本神話で天照大神の岩戸ごもりの際に、天児屋根命と共に祭祀の事をつかさどった神。忌部氏の祖。五部神の一神。
  • 天の手力男の神 あまのたぢからおのかみ 天手力男命。天岩屋戸を開いて天照大神を出したという大力の神。天孫の降臨に従う。
  • 天の宇受売の命 あまのうずめのみこと 天鈿女命・天宇受売命。日本神話で、天岩屋戸の前で踊って天照大神を慰め、また、天孫降臨に随従して天の八衢にいた猿田彦神を和らげて道案内させたという女神。鈿女命。猿女君の祖とする。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本神名辞典 第二版』(神社新報社、1995.6)『日本史広辞典』(山川出版社、1997.10)。



*書籍

(書名、雑誌名、論文名、能・狂言・謡曲などの作品名)
  • 『古事記』 こじき 現存する日本最古の歴史書。3巻。稗田阿礼が天武天皇の勅により誦習した帝紀および先代の旧辞を、太安万侶が元明天皇の勅により撰録して712年(和銅5)献上。上巻は天地開闢から鵜葺草葺不合命まで、中巻は神武天皇から応神天皇まで、下巻は仁徳天皇から推古天皇までの記事を収め、神話・伝説と多数の歌謡とを含みながら、天皇を中心とする日本の統一の由来を物語る。ふることぶみ。
  • 『帝紀』 ていき 天皇の系譜の記録。帝皇日嗣(ていおうのひつぎ)。
  • 『本辞』 ほんじ 皇族や氏族の伝承、また、民間の説話などを書きとどめたもの。旧辞。
  • 『旧辞』 くじ 神話・伝承の記録または口誦されたもの。
  • 『帝皇の日継』 すめらみことの ひつぎ 歴代の天皇の系譜、事績を書き記した書。すめらみことのふみ。
  • 『日本書紀』 にほん しょき 六国史の一つ。奈良時代に完成した日本最古の勅撰の正史。神代から持統天皇までの朝廷に伝わった神話・伝説・記録などを修飾の多い漢文で記述した編年体の史書。30巻。720年(養老4)舎人親王らの撰。日本紀。


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)。



*難字、求めよ

  • 敦い あつい 安定していて重みがある。重厚である。まことがある。
  • 乾坤 けんこん (1) 易の卦の乾と坤。(2) 天地。(3) 陰陽。(4) いぬい(北西)とひつじさる(南西)。(5) 二つで一組をなすものの順序を表す語。多く書物の上冊・下冊の意。
  • 造化 ぞうか (2) 天地を創造し、その間に存在する万物を創造、化育すること。また、それをなす者。造物主。造物者。
  • 群品 ぐんぴん (1) すべてのもの。万物。(2)「ぐんぽん」に同じ。/ぐんぽん (「ほん」は「品」の呉音)仏語。多くの生物。生きとし生けるもの。群生。有生。衆生。
  • 太素 たいそ 大素。天地開闢以前の混沌とした時。始源。
  • 杳冥 ようめい 奥深く暗いさま。暗く、はっきりしないさま。
  • 綿 めんばく 緬。年代や場所がはるかに遠いこと。
  • 蕃息 はんそく しげりふえること。蕃殖。
  • ことむく 言趣く・言向く ことばで説いて従わせる。転じて、平定する。
  • 巓 たけ 山のいただき。山頂。みね。
  • あもる 天降る (1) あまくだる。(2) 天皇が行幸する。
  • 天の剣 あまの つるぎ → 天叢雲剣
  • 天叢雲剣 あまの むらくもの つるぎ 日本神話で、素戔嗚尊が八岐大蛇を退治した時、その尾から出たという剣。これを天照大神に奉った。後に、草薙剣と称して熱田神宮に祀る。
  • 生尾 せいび 尾のある人。古く、夷賊をさした表現。
  • 黎元 れいげん (「黎」は黒、「元」は首の意で、冠をかぶらない黒髪の人。一説に「黎」はもろもろ、「元」は善人の意ともいう)人民。万民。黎民。
  • 勒す ろくす (1) おさえる。制御する。(2) とりしまる。すべる。統御する。整理する。(3) 彫る。刻む。ほりつける。また、書き留める。
  • 歩と驟と
  • 歩驟 ほしゅう (1) 歩くことと走ること。足どり。「驟」は馬がかけ足する。小またで、はやがけする。(2) 物事の順序・次第。
  • おのもおのも 各も各も おのおの。めいめい。
  • 風猷 ふうゆう 教化と道徳。
  • 典教
  • 潜龍 せんりょう (「りょう」は「龍」の正音。「りゅう」は慣用音。水中にひそみ隠れていて、まだ天に昇らない龍の意から)しばらく帝位につくのを避けている人。まだ世に出る機会を得ていない英雄、豪傑。せんりゅう。
  • 雷 せんらい (『易経-震卦』の「象曰、雷震、君子以恐懼脩省」による)雷がしきりになることの意。転じて、畏敬すべき人。太子のこと。また、天子の徳があって、まだ位につかない時のこと。潜龍。
  • 皇輿 こうよ 天皇乗用の輿。
  • 駕す がす (1) 車馬などに乗る。(2) 他をしのいで上に出る。
  • 六師 りくし 天子・天皇の率いる軍隊。六軍(りくぐん)。
  • 杖矛 じょうぼう
  • 絳旗 こうき 赤い旗。
  • 浹辰 しょうしん 辰すなわち十二支が一周する意で、12日間。
  •  きれい 人を惑わすような、あやしいけはい。悪気。妖気。
  • 憩う・息う いこう (1) 息をつぐ。やすむ。のんびり休息する。(2) いこわせる。やすませる。
  • �悌 がいてい 豈弟。人柄のおだやかなこと。また、やわらぎ楽しむこと。
  • 華夏 かか (「華」は文華、「夏」は大の意。文華の開けた国の意から、もと、中国人が自国を誇っていった語)文化の開けた地。都。
  • 詠 ぶえい 舞詠。(1) 舞い歌う。(2) 舞と歌。
  • 大糜 おおがゆ?
  • 夾鐘 きょうしょう (2) 陰暦2月の異称。
  • 軒后 → 賢后か?
  • 賢后 けんこう (「后」は君主)賢い天皇。
  • 軼ぎる すぎる イツ (1) 後の車が前の車を追い越す。(2) すぐれる。ぬきんでる。(3) 襲う。(4) うせる。なくなる。
  • 邦家 ほうか くに。国家。
  • 王化 おうか 王者の徳で世の中をよくすること。
  • 鴻基 こうき 帝王の大事業の基礎。洪基。
  • 周王
  • 乾符 けんぷ 天皇であるしるし。神器。
  • 六合 りくごう 天地と四方とを合わせていう。上下四方。全宇宙。
  • 天統 てんとう (1) 自然ののり。(2) 天子の系統。皇統。
  • 八荒 はっこう 国の八方の果て。全世界。八極。
  • 二気 にき 陰と陽。二儀。両儀。
  • 五行 ごぎょう 中国古来の哲理にいう、天地の間に循環流行して停息しない木・火・土・金・水の五つの元気。万物組成の元素とする。木から火を、火から土を、土から金を、金から水を、水から木を生じるを相生という。また、木は土に、土は水に、水は火に、火は金に、金は木に剋つのを相剋という。これらを男女の性に配し、相生のもの相合すれば和合して幸福あり、相剋のもの相対すれば不和で災難が来るという。
  • 浩汗 こうかん (1) 広くかぎりのないさま。水の広大なさま。(2) 物が多く、ゆたかなさま。
  • 潭い ふかい 深い。奥深い。
  • �u煌 いこう (1) 光かがやくこと。「煌」は光が四方に大きく広がる。(2) 文章のりっぱなこと。
  • 睹る みる よく見る。注目する。
  • つ もつ 持つ。
  • 討覈 とうかく たずねしらべること。たずねきわめて事実を明らかにすること。
  • 舎人 とねり (1) 大化前代の天皇や皇族の近習。(2) 律令制の下級官人。内舎人・大舎人・中宮舎人・東宮舎人などの称。(3) 貴人に従う雑人。牛車の牛飼または乗馬の口取。(4) 旧宮内省式部職の判任名誉官。式典に関する雑務に従ったもの。
  • 光宅 こうたく 光臨して鎮座すること。天下を統べて、徳を満ちあふれさせること。
  • 亭育 ていいく そだて養うこと。
  • 紫宸 ししん (「紫」は紫微垣で天帝の座、「宸」は帝居の意)天子の御殿。禁中。
  • 被る かがふる (1) かぶる。(2) 身に受ける。特に、上からの仰せをお受けする。承る。
  • 玄扈 げんこ/げんご (中国の皇帝がいた石室の名から転じて)皇居。御所。
  • 暉 ひかり (1) ひかり。太陽の光。四方にひろがる光線。(2) かがやく。(同)輝。
  • 柯 えだ (1) 木の枝。
  • 史 ふみひと (書人(ふみひと)の意)大和政権で文筆を職とした官。ふびと。
  • 飛ぶ火・烽 とぶひ 古代の軍事施設。また、そこで火をたき煙をあげて行う、非常を通報するための合図。烽火。
  • 文命 ぶんめい 中国古代伝説上の聖王、禹か。夏の始祖。
  • 天乙 てんいつ 殷の湯王か。殷王朝の創始者。
  • 先紀 せんぎ 「古事記-序」に見える語で、「帝紀」「帝皇日継(すめらみことのひつぎ)」と同じものをさすと考えられている。
  • 撰録 せんろく 文章を作って記録すること。
  • �いる ひりいる セキ/シャク ひろう。ひろいあつめる。また、寄せ集める。
  • い かたい 難い。
  • 意況 いきょう 心のさま。意味。
  • 訖う おう (1) おわる。おえる。止む。(2) いたる。及ぶ。(同)迄。
  • 誠惶誠恐 せいこう せいきょう 「誠惶」を鄭重にいう語。
  • 訓仮字 よみがな?
  • -----------------------------------
  • 葦牙 あしかび 葦の若芽。
  • 神代七代・神世七代 かみよ ななよ 天地開闢のとき、別天神五柱につづいて出現した国之常立神以下伊邪那岐神・伊邪那美神までの7代。古事記では十二神、日本書紀では十一神。天神七代。
  • 天つ神 あまつかみ 天にいる神。高天原の神。また、高天原から降臨した神、また、その子孫。←→国つ神。
  • 天の沼矛 あめのぬぼこ 瓊矛。ぬほこ・にほこ。玉で飾った立派な矛。
  • 言依さす ことよさす 言寄さす・事寄さす。(古く四段に活用した「ことよす」に敬意を表す「す」の付いた形)御命令になる。御委任になる。
  • 天の浮橋 あめの/あまのうきはし 神が高天原から地上へ降りるとき、天地の間にかかるという橋。
  • 画き鳴す かきなす → 掻き鳴す
  • 掻き鳴す かきなす (1) 音をたてて、かきまわす。かきたてる。(2) かきならす。
  • 天の御柱 あめの/あまのみはしら 日本神話で、伊弉諾・伊弉冉2神がf馭慮島にくだって立てた柱。そのまわりを回って結婚した。また、天地を支えたという柱。
  • 八尋殿 やひろどの 幾尋もある広い御殿。
  • 善けむ よしけむ? けん・けむ 推量の助動詞。
  • 美斗の麻具波比 みとのまぐわい (「みと」の「み」は御の意、「と」は男性・女性の象徴部・陰部の意。「まぐわい」は「目合い」の意から転じ、男女の交接の意)男女が契りを結ぶこと。みとのまくばい。
  • 遘合 みとの まぐわい (トは入口。陰部の意)男女の交合。まぐわい。
  • 美哉 あなにやし (ヤは感動、シは強めの助詞)ああ美しいことよ。あなにえや。
  • 隠処 くみど くみ所。(「くみ」は組む意。また、隠る意とも)男女のこもり寝る所。
  • 葦舟・葦船 あしぶね (1) 葦で作った船。(2) 葦を積んだ船。あしかりおぶね。(3) 水に浮かんだ葦の葉を舟にたとえていう。
  • うべ 宜・諾 (1) もっともであること。なるほど。(2) 肯定する意にいう語。ほんとうに。なるほど。道理で。むべ。
  • 太卜 ふとまに 太占・太兆。(フトは美称)古代に行われた卜占の一種。鹿の肩甲骨を焼いて、その面に生じた割れ目の形で吉凶を占う。
  • たぐり 吐。吐くこと。吐いたもの。嘔吐。へど。
  • 神避り かむさり/かみさり 神去。(1) 天皇など、高貴の人が死去する。崩御する。薨去する。かんさる。神上がる。
  • 埴土 はにつち 粘土。赤土。
  • 汝妹 なにも (ナノイモの約。ナは我の意)男から女を親しんでいう語。
  • 一木 ひとつけ
  • 御佩かす みはかす 「佩く」の尊敬語。
  • 十握・十拳 とつか (「つか」は小指から人差指までの幅)10握りの長さ。約80〜100cm。
  • 十拳の剣 とつかの つるぎ 十握剣。刀身の長さが10握りほどある剣。
  • 殺さえたまいし
  • 天の尾羽張 あまの おはばり 伊弉諾尊が迦具土神を斬った剣の名。伊都尾羽張。
  • 伊都の尾羽張 いつの おはばり → 天の尾羽張
  • 黄泉戸喫 よもつ へぐい (「へ」は竈の意)黄泉の国のかまどで煮焚きした物を食べること。これを食べると死者の国の者になり、再び現世には戻れないと信じられていた。ギリシア・北欧などの神話にも見られる。
  • 汝兄 なせ (ナは我の意)女から男を親しんで呼ぶ称。わがせ。あなた。
  • しまらく 暫く。「しばらく」の古形。
  • な視たまいそ な みたまいそ 決して見るな、の意。
  • な…そ 副詞「な」を伴い、「な…そ」の形で禁止を表す。「な」が禁止を表し、「そ」は添えられた語とする解釈もある。…するな。
  • 殿内 とのぬち
  • 御髻 みみずら → 髻
  • 角髪・角子・鬟・髻 みずら (ミミツラ(耳鬘)の約という)古代の男の髪の結い方。頂の髪を中央から左右に分け、耳のあたりでわがねて緒で結び耳の前に垂れたもの。奈良時代には少年の髪型となる。後世の総角はその変形。びんずら。びずら。
  • 湯津 ゆつ 斎つ、か。[接頭] 神聖・清浄の意をあらわす語。ゆついはむら、ゆつかしら、など。
  • 湯津爪櫛 ゆつつまぐし
  • 爪櫛 つまぐし 妻櫛。歯のこまかい櫛。一説に、爪形の櫛。
  • ころろく 嘶咽く ころころと音を立てる。声がかれて、のどが鳴る。
  • 黒御鬘 くろみかずら/かつら 魔よけのために、髪にかざす黒くなった蔓草。
  • 鬘 かずら (1) 蔓草や花などを頭髪の飾りとしたもの。(2) 頭髪に添えるため髪の毛を束ねたもの。かもじ。そえがみ。仮髪。かつら。(3) 毛髪で、種々の髷型をつくり、俳優などが扮装のために頭にかぶるもの。また、毛髪などでつくり、髪型をかえるためにかぶるもの。かつら。
  • 蒲子 えびかずら (1) ヤマブドウの古名。(2) エビヅルの古名。
  • 笋 たかむな 筍。竹の子。たこうな。たかんな。
  • 黄泉軍 よもつ いくさ 黄泉の国の軍勢。生死の戦における死の軍勢。
  • 副える たぐえる 比える・類える (1) そわせる。ならばせる。(2) ともなわせる。あわせる。(3) ならう。まねる。(4) ひき比べる。比較する。
  • 青人草 あおひとくさ (人のふえるのを草の生い茂るのにたとえていう)民。民草。国民。蒼生。
  • 患惚む たしなむ 窘・困。苦しむ。苦しい目にあう。困窮する。苦労する。たしなぶ。
  • 千引の石 ちびきのいわ 千引の岩。綱を千人で引くほどの重い岩。大きい岩。
  • 事戸 ことど 配偶者と縁を切るための呪言の意か。
  • 人草 ひとくさ もろもろの人。人民。あおひとくさ。
  • 塞る さわる 障る。(1) 妨げとなる。じゃまになる。さえぎられる。
  • 殿の縢戸 とのの くみど
  • 殿の騰戸
  • -----------------------------------
  • 身禊
  • 御帯
  • 御冠 みかがふり 冠(かがふり)。(1) 頭にかぶるものの総称。こうぶり。かんむり。
  • 手纏・環・鐶 たまき (1) 腕飾りの一つ。古代、玉・鈴などを紐に通し、ひじにまとった輪形の装飾品。(2) 弓を射る時、左のひじをおおう具。弓籠手。
  • 潜く かずく (1) 水中にくぐり入る。もぐる。(2) 水中にもぐって貝・海藻などを取る。(3) 水にもぐらせる。また、水にもぐらせて魚などを取らせる。
  • 祖神 おやがみ 先祖の神。氏神。
  • 斎く いつく 心身のけがれを浄めて神に仕える。あがめまつる。
  • 貴子 うづみこ 珍(うづ)か。
  • 珍 うず (神や天皇に関して用いる)貴く立派であること。尊厳なこと。
  • 御首珠 みくびたま 首玉・頸玉。(1) 古代の首飾りの玉。
  • 玉の緒 たまのお (1) 玉をつらぬいた緒。(2) (「魂の緒」の意)いのち。生命。いきのお。
  • もゆら 玉が触れあって鳴るさま。ゆら。
  • 八拳須 やつかひげ 八束鬚。長いひげ。
  • いさちる (後に、「いさつ」と上二段にも活用)泣きさけぶ。
  • おとない (1) 音がすること。ひびき。音。(2) 耳に感ずるけはい。様子。(3) 評判。(4) おとずれること。訪問。
  • 狭蝿 さばえ 五月蠅。陰暦5月頃のむらがり騒ぐ蠅。
  • 治る しる 領る・知る。(ある範囲の隅々まで支配する意。原義は、物をすっかり自分のものにすることという)(国などを)治める。君臨する。統治する。
  • 申さく・白さく もうさく (モウスのク語法)申すこと。申すには。「まをさく」とも。
  • 妣の国 ははのくに 「妣」は亡母の意。
  • 根の堅洲国 ねの かたすくに (→)「根の国」に同じ
  • 根の国 ねのくに 地底深く、また海の彼方など遠くにあり、現世とは別にあると考えられた世界。死者がゆくとされた。黄泉の国。根の堅洲国。
  • 神逐い かむやらい → 神遣ふ
  • 神遣ふ かむやらう 神意で仲間から追放する。
  • 日継 ひつぎ 日嗣。(日の神の詔命で大業をつぎつぎにしろしめす意という)皇帝を継承すること。また、その継承した位。天皇の位。皇位。天つ日嗣。
  • 黄泉戸 よみど 黄泉の国の入り口。
  • -----------------------------------
  • 誓約 うけい 祈請・誓約。(動詞ウケフの連用形から)神に祈って成否や吉凶を占うこと。
  • 動む とよむ 響動む・響む。(後世ドヨムとも) (1) 鳴り響く。響き渡る。(2) 鳴きさわぐ。大声でさわぐ。どよめく。(3) ずきずき痛む。うずく。(4) 鳴り響かす。大声でさわがせる。
  • おもほさく
  • 八尺の勾 やさかの まがたま
  • 八尺 やさか 8尺。また、長いことの形容。また、その長さ。
  • 八尺瓊勾玉・八坂瓊曲玉 やさかにの まがたま 大きな玉で作った勾玉。一説に、八尺の緒に繋いだ勾玉。三種の神器の一つとする。
  • 五百津の御統の珠 いおつの みすまるの たま
  • 五百箇統 いおつ すばる (「すばる」は一つにまとまる意)多くの玉を糸に貫いたもの。いおつみすまる。
  • 御統 みすまる (ミは接頭語。スマルはスバル(統)に同じ。たくさんのものが一つに集まっている意)上代、多くの珠を緒に貫いて輪にし、首にかけ手にまいて飾りにしたもの。
  • そびら 背 (背平(せびら)の意)せなか。せ。
  • 千入の靫 ちのりの ゆき → 千箆入の靫
  • 千箆入の靫 ちのりの ゆき 多数の矢をさし入れたゆき。
  • 千箆入 ちのり (チノイリの約)靫・箙に、多数の矢をさし入れたもの。
  • 平 ひら
  • 五百入・五百箭 いおのり 靫の中に、多くの矢のはいっていること。
  • ただむき 腕 うで。
  • 厳・稜威 いつ (1) 尊厳な威光。威勢の鋭いこと。(2) 植物などが威勢よく繁茂すること。(3) 斎み浄められていること。
  • 高鞆 たかとも 音高く響く鞆。一説に、タカは竹で、竹製の鞆。
  • 取り佩ばし はく? おぶ?
  • 弓腹 ゆばら 弓の内側。
  • 堅庭 かたにわ 堅い地面。
  • 向股 むかもも 両方のももの称。
  • 泡雪・沫雪 あわゆき (1) 泡のように溶けやすい雪。
  • 蹶えはららかす くえはららかす 蹴散(けち)らす。
  • 散かす はららかす ばらばらにする。
  • 男建・雄誥・雄叫び おたけび (1) 雄々しくふるまうこと。(2) いさましく叫ぶこと。また、その叫び声。
  • らく [接尾] 二段活用・サ変・ラ変のように連体形語尾が「…る」となる語のク語法に見られる語形。「…すること」の意を表す。語尾「る」が「あく」と結合し「老ゆらく」「恋ふらく」「告ぐらく」のようになったもの。「あく」が考えられる以前は、終止形に「らく」が付くと考えられた。後世、四段活用に付いた「望むらく」のような語も使われた。
  • ぬなと 瓊音 (ヌは玉。ナは助詞ノに同じ)玉の音。玉のすれあう音。
  • 天の真名井 あめのまない 高天原にある神聖な井。(補注)井と玉とを結びつけた説話が多いので、「まない」は「真瓊な井(まぬない)」の変化したものとする説がある。
  • 息吹・気吹 いぶき (イは息の意。上代はイフキと清音) (1) 息を吹くこと。呼吸。(2) 活動の気配。生気。
  • 狭霧 さぎり (サは接頭語)霧。
  • 物実 ものざね (→)物種(ものだね)に同じ。
  • 物種 ものだね (1) 物のもととなるもの。材料。ものざね。ものしろ。(2) 草木の種。特に野菜・草花の種。たねもの。
  • もちいつく 持ち斎く 神としてあがめる。
  • 曲玉・勾玉 まがたま 古代の装身・祭祀用の玉。C字形で、端に近く紐を通す孔がある。多くは翡翠・瑪瑙・碧玉を材料とし、また、純金・水晶・琥珀・ガラス・粘土などを用いた。長さ1cm未満の小さいものから5cm以上のものもある。形状は縄文時代の動物の犬歯に孔をうがったものから出たといい、首や襟の装飾とし、また、副葬品としても用いられた。朝鮮半島にもあり、王冠を飾る。まがりたま。
  • 鞆 とも 弓を射る時に、左手首内側につけ、弦が釧などに触れるのを防ぐ、まるい皮製の具。弦が当たると音を発する。平安時代以後は武官の射礼用の形式的弓具となった。ほむた。
  • さやか 明か・清か (「冴える」と同源) (1) はっきりしているさま。あきらか。(2) 音声のさえて聞こえるさま。
  • 手弱女 たわやめ (「手弱」は当て字。タワ(撓)ムの語根に、性質・状態を示す接尾語ヤの付いたもの)たわやかな女。なよなよとした女。
  • 勝ちさび かちさび 勝った者らしくふるまうこと。
  • 営田の畔 みつくたの あ
  • 畔・畦 あ 田のあぜ。
  • 大贄・大嘗 おおにえ (1) (立派な贄の意)朝廷や神に奉る食料・衣料などその土地の産物。(2) (「大嘗」と書く。「おほにへのまつり」の略)
  • まりちらす まり散らす。
  • まる 放る 排泄する。大小便をする。ひる。
  • 然すれども しか すれども?
  • 酔ふ えう 「酔(よ)う」の古語。
  • うたて 転て (ウタタの転。物事が移り進んでいよいよ甚だしくなってゆくさま。それに対していやだと思いながらあきらめて眺めている意を含む) (1) ますます甚だしく。(2) 程度が甚だしく進んで普通とちがうさま。異様に。ひどく。(3) (次に「あり」「侍り」「思ふ」「見ゆ」「言ふ」などの語を伴い、また感嘆文の中に用いて)心に染まない感じを表す。どうしようもない。いやだ。情け無い。あいにくだ。(4) (「あな―」「―やな」などの形で、軽く詠嘆的に)いやだ。これはしたり。
  • 忌服屋 いみはたや 斎服屋。斎み清めた機殿。神聖な機を織るための建物。
  • 神御衣 かむみそ 神のお召しになる衣服。また、神に捧げる衣服。
  • 天の斑馬 あめのむちこま/あまのふちこま 高天原にいたという、まだら毛の馬。あめのふちこま。
  • 天の衣織女 あめのみそおりめ → 天服織女か
  • 天服織女 あめのはとりめ 記。天照大御神の忌服屋で神御衣を織っていたとき、須佐之男命が天斑馬を堕し入れたため、驚いて梭で陰土を衝いて死んだ(神名)。
  • 杼・梭 ひ 織機の付属具。製織の際、緯糸を通す操作に用いる。木または金属製で舟形に造ったものの両端に、金属・皮革などをかぶせ、胴部に緯管を保持する空所がある。一側にうがった目から糸を引き出し、経糸の中をくぐらせる。さす。さい。シャットル。
  • 陰上 ほと → 陰
  • 陰 ほと (凹所の意) (1) 女の陰部。女陰。(一説に、男についてもいう) (2) 山間のくぼんだところ。
  • 天の石屋戸 あまの いわやど → 天岩戸
  • さしこもる 鎖し籠る 戸などを閉ざして内にいる。とじこもる。さしこむ。
  • 常夜 とこよ 常に夜ばかりであること。とこやみ。
  • 八百万 やおよろず 数がきわめて多いこと。ちよろず。
  • 神集ふ かむつどう (1) 神々が集まる。(2) 神々を集める。
  • 常世の長鳴鳥 とこよの ながなきどり (天照大神が天の岩戸に籠もり、天地が常闇になった時、鳴かせた鳥の意)鶏の古称。
  • 堅石 かたしわ (カタシイハの約)堅い岩石。特に、鉄を鍛える時の金敷の石。
  • 天の金山 あめのかなやま
  • 鉄 まがね 真金・真鉄。(古くは「まかね」)(2) 鉄。くろがね。
  • 鍛人 かぬち 鍛冶。「かねうち(金打)」の変形した語)金属を打ち鍛えること。また、その人。かじ。上代にはこれを職業とする鍛冶部(かぬちべ)が豪族に属していた。
  • まぐ 覓ぐ・求ぐ 追いもとめる。さがしもとめる。
  • とどろこす 轟こす (→)「とどろかす」に同じ。
  • 真男鹿 さおしか/まおしか 「おじか」の美称。
  • 全抜き・内抜き うつぬき 中身をそっくり抜き取ること。
  • 波波迦 ははか ウワミズザクラの古名。
  • 占合 うらえ 占。うらえ。(動詞「うらう(占)」の連用形の名詞化)うらなうこと。うらない。
  • 五百津 いおつ 五百箇。数の多く豊かなことをいう語。多くの場合、名詞を修飾する。いおち。
  • 真賢木 まさかき 真榊・真賢木。(マは接頭語)榊の美称。太玉串として神に奉り、また、神籬として神の憑代とすることもある。
  • 根掘じ ねこじ 樹木などを根のついたまま掘り取ること。
  • 上枝 ほつえ (「秀(ほ)つ枝(え)」の意)上の枝。はつえ。
  • 中つ枝 なかつえ 中ほどの高さにある枝。中間の枝。
  • 八尺の鏡 やたのかがみ 八咫鏡。(巨大な鏡の意)三種の神器の一つ。記紀神話で天照大神が天の岩戸に隠れた時、石凝姥命が作ったという鏡。天照大神が瓊瓊杵尊に授けたといわれる。伊勢神宮の内宮に天照大神の御魂代として奉斎され、その模造の神鏡は宮中の賢所に奉安される。まふつのかがみ。やたかがみ。
  • 下枝 しずえ 下の枝。したえだ。しずえだ。
  • 白和幣 しろにぎて/しらにきて 穀の皮の繊維で織った白布の幣帛。
  • 青和幣 あおにぎて/あおにきて (麻は木綿にくらべて青みがあるからいう)麻でつくったにきて。
  • にきて 和幣・幣・幣帛。(ニキタヘの約。後世、ニキデまたニギテとも)神に供える麻の布の称。後には絹または紙を用いた。ぬさ。みてぐら。
  • 取り垂づ とりしず たらす。懸ける。
  • 太御幣 ふとみてぐら (「ふと」は美称)神に奉るものの総称。
  • 太祝詞 ふとのりと 「のりと」の美称。
  • 天の日影 あめのひかげ
  • 天の真拆 あめのまさき
  • 真拆 まさき (→)「まさきずら」に同じ。
  • 真拆葛 まさきずら テイカカズラの古名。
  • 小竹葉 ささば 笹葉。(1)笹の葉。小さい竹類の葉。
  • 手草 たくさ 竹や木の葉をたばねて、歌舞するとき手に取るもの。
  • 覆槽 うけ 槽。「おけ(麻笥)」と同意の語か)語義未詳。口の広い桶か。誓槽(うけぶね)。
  • 神懸り・神憑り かむがかり/かみがかり (1) (古くはカムガカリとも)神霊が人身にのりうつること。また、その人。(2) 常人とは思えない言動をすること。また、そういう人。
  • 胸乳 むなち (ムナヂとも)ちぶさ。
  • 掛き出で かきいで
  • 裳の緒 ものひも
  • 思ほす おもほす (オモフに尊敬の助動詞スが付いたオモハスの転)「思う」の尊敬語。おぼす。
  • 尻久米縄・注連 しりくめなわ 端を切りそろえず、組みっぱなしにした縄。「しめなわ」の古語。
  • 千座の置戸 ちくらの おきど 多くの台にのせた祓物。上代、罪の償いとして科したもの。
  • やらう 遣らふ (遣ルに接尾語フの付いた語)追い払う。追い出す。
  • 麻楮 まちょ?


◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)『日本国語大辞典 第二版』(小学館、2001.5)。



*後記(工作員スリーパーズ日記)


 綿津見、わだつみ、……あわ(泡)たつ(立つ)み(水)?

 七月一四日(土)県立博物館。講演会、小林達雄「縄文人の祈りと土偶」。聴衆一〇〇名超。若い女性が多い。縄文の女神。よしよし。以下、敬称略。
 縄文時代に定住がはじまったという説には同意。大きくて壊れやすい土器をかついで移動したとは考えられないし、墓をつくって親しい人を埋葬した形跡があるということは、置き去りにして移住するのにしのびない。
 小林はさらに「縄文時代にコトバを獲得した」「縄文人は農耕に見向きもしなかった」という持論を展開する。この二点に関しては疑問。狩猟時代、コトバなくして集団で狩りをすることが可能だったろうかといえば、そうは思いにくい。「農耕とは、少ない品種に時間と労力を費やすこと」と小林は定義するが、彼の論敵である佐々木高明がいうように、それでは基礎的な畑作農耕が存在しないまま、弥生時代に突然、高度な技術を要する水田稲作農耕が列島に普及したことになってしまう。(佐々木高明『稲作以前』
 土偶について。カオナシや抽象的な表情にとどまるのは、具体的なヒト(=自分たち)を表現することが目的ではなかったせいで、ヒトにあらざるもの、目に見えない何か、気配、精霊、スピリットだったからだと推理する。この小林のスピリット説、かなりいい線いってると思う。
 
 土偶については星野之宣も『宗像教授シリーズ』で独特な説を展開しているが、ぼくはひそかに「まれびと」の可能性を考えている。スピリットとまでは飛躍しないものの、自分たちとコトバや習俗が異なる、めったに遭遇することのないヒトたち。たとえば自分が雪山で遭難したとする。疲労困憊で動けなくなりあきらめかけていたところへ、変なサングラスをかけて、獣皮で体をすっぽりおおった、ズングリムックリの異形の者(たち)が、干し肉と飲み水をあたえ、帰り道を案内してくれたとする。
 自分を助けてくれた異形の者たちのことを家族や仲間に伝え、命の恩人でありかつ、家族にとっても救い主だった者たちのことを語り伝えたい、ときっと思ったにちがいないと。




*次週予告


第五巻 第二号 
校註『古事記』(二)武田祐吉

第五巻 第二号は、
二〇一二年八月四日(土)発行予定です。
定価:200円


T-Time マガジン 週刊ミルクティー 第五巻 第一号
校註『古事記』(一)武田祐吉
発行:二〇一二年七月二八日(土)
編集:しだひろし / PoorBook G3'99
 http://www33.atwiki.jp/asterisk99/
出版:*99 出版
 〒994-0024 山形県天童市鎌田2丁目1−21
 アパートメント山口A−202
販売:DL-MARKET
※ T-Timeは(株)ボイジャーの商標・製品です。