M-Tea*3_48-自然現象の予報/火山の名について 寺田寅彦
2011.6.25 第三巻 第四八号
自然現象の予報/火山の名について
寺田寅彦
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月末最終号:無料 p.159 / *99 出版
付録:別冊ミルクティー*Wikipedia(46項目)p.201
※ DRM などというやぼったいものは使っておりません。
※ オリジナル版に加えて、ミルクティー*現代表記版を同時収録。
※ JIS X 0213・ttz 形式。
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はみだせ! 週刊ガガガ遺産*
つぎに、地震予報の問題に移りて考えん。地震の予報ははたして可能なりや。天気予報と同じ意味において可能なりや。
地震がいかにしておこるやは、今もなお一つの疑問なれども、ともかくも地殻内部における弾性的平衡が破るる時におこる現象なるがごとし。これが起こると否とを定むべき条件につきては、吾人いまだ多くを知らず。すなわち天気のばあいにおける気象要素のごときものが、いまだあきらかに分析されず。この点においても、すでに天気の場合とおもむきを異にするを見る。
地殻のひずみが漸次蓄積して不安定の状態に達せるとき、適当なる第二次原因、たとえば気圧の変化のごときものが働けば、地震を誘発することは疑いなきもののごとし。ゆえに一方において地殻のゆがみを測知し、また一方においては主要なる第二次原因を知悉するを得れば、地震の予報は可能なるらしく思わる。この期待は、いかなる程度まで実現されうべきか。
地下のゆがみの程度を測知することはある程度までは可能なるべく、また主なる第二次原因を知ることも可能なるべし。今、仮にこれらがすべて知られたりと仮定せよ。
さらに事柄を簡単にするため、地殻の弱点はただ一か所に止まり、地震がおこるとせば、かならずその点におこるものと仮定せん。かつまた、第二次原因の作用は毫も履歴効果を有せず、すなわち単に現在の状況のみによりて事柄が定まると仮定せん。かくのごとき理想的のばあいにおいても、地震の突発する「時刻」を予報することはかなり困難なるべし。何となれば、このばあいは前に述べし過飽和溶液の晶出のごとく、現象の発生は、吾人の測知し得るマクロ・スコピックの状態よりは、むしろ、吾人にとりては偶然なるミクロ・スコピックの状態によりて定まると考えらるるがゆえなり。換言すれば、マクロ・スコピックなる原因の微分的変化は、結果の有限なる変化を生ずるがゆえなり。このばあいは、重量を加えて糸を引き切るばあいに類す。
マクロ・スコピック macroscopic 巨視的。
ミクロ・スコピック microscopic マイクロ・スコピック。微視的。顕微鏡的。
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寺田寅彦 てらだ とらひこ
1878-1935(明治11.11.28-昭和10.12.31)
物理学者・随筆家。東京生れ。高知県人。東大教授。地球物理学を専攻。夏目漱石の門下、筆名は吉村冬彦。随筆・俳句に巧みで、藪柑子と号した。著「冬彦集」「藪柑子集」など。
◇参照:Wikipedia
寺田寅彦、『広辞苑 第六版』(岩波書店)。
底本
人物一覧
寺田寅彦 てらだ とらひこ 1878-1935 物理学者・随筆家。
Johannes Diderik van der Waals ファン デル ワールス 1837-1923 オランダの物理学者。分子の大きさと分子間力を考慮に入れた気体の状態式を提出。液体の表面張力に関する研究もある。ノーベル賞。
Henri Poincare ポアンカレ 1854-1912 フランスの数学者。
James Clerk Maxwell マクスウェル 1831-1879 イギリスの物理学者。電磁気の理論を大成しマクスウェルの方程式を導き、光が電磁波であることを唱えた。また、気体分子運動論や熱学に業績を残した。
ウォルフ Wolff, Ferdinand か。1874-1952 ドイツの火山学、岩石学、鉱物学者。熱力学の立場から諸火山の爆発時の圧力を計算した。(西レ)
Jacob Grimm グリム 1785-1863 ドイツの言語学者・法律学者・作家。W.グリムの兄。
スキート Skeat, Walter, William か。1835-1912 イギリスの言語学者。古英語・中英語の分野で数々の業績を残した。(西レ)
◇参照:Wikipedia、『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008)、『西洋人物レファレンス事典』(日外アソシエーツ)。
難字、求めよ
公算曲線
ウソン カムチャツカ。
アソンソン マリアナ群島
オサール スマトラ。
サロモン
セミティク系
むしとりホイホイ
なれでも → なれども 【ど、か】
観測制度 → 観測精度 【精か?】
以上2件。底本未確認。
スリーパーズ日記
‘Esh(火)
‘as´en(煙る)
‘as´an(くすぶる)
‘atana(煙る)
シングルクォーテーション(‘)とダッシュ(´)は、底本を見ていないのでそのままとしました。
表組について。t-tab タグで妥協。青空テキスト版では項目対応の情報が欠落しているので、そのままでは、html の第二表のように自動組版できないはず。html 版は手調整か。(第一表はテキスト素組みの模様)
計算式は NeoOffice で作成後、GraphicConverter で微修正。画像1枚あたり 8〜12KB なのでトータルでも重くない。はじめて縦組用と横組用の二種類を用意してみた。
ほかに、顔写真と外字画像を全号で共通利用するためにフォルダ移動、パス指定を変更。凡例を追加充実、バックナンバー紹介部分を変更。
前々号、喜田貞吉「上代肉食考/青屋考」について。喜田が指摘していないことを二、三点ほど。
肉食に相対する食習慣として精進料理がある。月山など高山へ参詣するばあい、一般人でも数日前から肉食や飲酒を避けた例がある。これは今日の富士山頂が好例で、寒冷な高山で用をたすと、分解が進まないためにそのまま形が残りやすい。薬草採取のために指定された山地ならばなおのこと。
奈良時代、天武5年(675年)の肉食禁止令は主に仏教の影響と説明されることが多いが、むしろ要因は、稲作など農業の拡大にあったんじゃないかと推測。肉食後と非肉食後の消化物は、においが顕著に異なる。施肥に利用するという目的のために非肉食のほうが適したのではないか。
喜田は「青屋考」の中で、「青を染めるには多く虫を殺すということ、薩婆多論に見えたり」という文を谷川士清『和訓栞』から引用しながらも、その記述の真偽を疑問視している。藍染めの行程で色素定着のためにカルシウムを要するならば、木灰・石灰を使用するほか、貝殻やエビ・カニの甲羅、カタツムリの殻などの利用も考えられるか。事情にうとい人が見れば、あたかも殺生をして染色に用いているごとく見えた可能性は高いんじゃないだろうか。また、藍染めはたしか、発酵段階でアンモニウム臭を出す。虫からの食害を防ぐいっぽうで、染色作業そのものも敬遠されやすかった可能性はありえたと考える。要確認。
2011.6.24 14:06 アリューシャン列島、M7.3。
2011.6.26:公開 八面玲瓏。
2011.6.29:更新
ペテン・シンドローム遺産。
目くそ鼻くそ。しだひろし/PoorBook G3'99
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- 絶対零度っ。マクスウェルの悪魔くん! -- しだ (2011-06-29 04:59:48)
- 「稲作など農業の拡大」が理由なら、おなじアジアの中国や朝鮮の肉食が説明つかないか。となると、風土固有の問題……高温多湿で細菌が繁殖しやすい日本特有の事情か。北海道や沖縄は、本土にくらべると比較的ドライで肉保存に適しやすかった、か。 -- しだ (2011-06-29 05:05:37)
最終更新:2011年06月29日 05:10