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海嘯

検索対象:作家別テキストファイル(『青空文庫 全』2007.10)
検索文字:海嘯
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芥川竜之介 忠義
 その間に、一方では老中《ろうじゅう》若年寄衆へこの急変を届けた上で、万一のために、玄関先から大手まで、厳しく門々を打たせてしまった。これを見た大手先《おおてさき》の大小名の家来《けらい》は、驚破《すわ》、殿中に椿事 ……

泉鏡花 朱日記
「正寅《しょうとら》の刻からでござりました、海嘯《つなみ》のように、どっと一時《いっとき》に吹出しましたに因って存じておりまする。」と源助の言《ことば》つき、あたかも口上。何か、恐入っている体《てい》がある。 ……

泉鏡花 草迷宮
 もうそうなると、気の上《あが》った各自《てんで》が、自分の手足で、茶碗を蹴飛《けと》ばす、徳利《とっくり》を踏倒す、海嘯《つなみ》だ、と喚《わめ》きましょう。 ……

海野十三 第五氷河期
 (例)海嘯《つなみ》

海野十三 第五氷河期
 火災、海嘯《つなみ》、山崩れ、食糧問題、治安問題などが、いたるところに起っているのであろう。日本全国が、今や恐るべき天災のために、刻々とくずされ、焼きつくされ、そして大洋の高潮に洗われていることであろう。 ……

海野十三 鞄らしくない鞄
 その年の春、ひどい海底地震が相模湾《さがみわん》の沖合《おきあい》に起り、引続いて大海嘯《おおつなみ》が一帯の海岸を襲った。多数の船舶が難破《なんぱ》したが、その中の一隻に奇竜丸《きりゅうまる》という二百ト ……

岡本綺堂 箕輪心中(ルビあり)
 たとい昼間は鋤《すき》や鍬《くわ》をかついでいても、夜は若い男の燃える血をおさえ切れないで、手拭を肩にそそり節《ぶし》の一つもうなって、眼のまえの廓をひと廻りして来なければどうしても寝つかれないという早 ……

岡本綺堂 箕輪心中(ルビなし)
 たとい昼間は鋤や鍬をかついでいても、夜は若い男の燃える血をおさえ切れないで、手拭を肩にそそり節の一つもうなって、眼のまえの廓をひと廻りして来なければどうしても寝つかれないという村の若い衆の群れから、十求 ……

小栗虫太郎 人外魔境 08 遊魂境
「あの氷河は、じつを言うと一つのものではない。猛烈な吹雪があって積ったやつが、氷河のうえに固まって乗っているんだ。あいつが動きだすと氷海嘯《アイス・フルット》というのになる。危険だ。ケプナラ君に避難を ……

小栗虫太郎 人外魔境 08 遊魂境
 と、その日の夜半ちかいころ。とつぜん、万雷の響を発し、地震かと思われる震動に、折竹が寝嚢《スリーピング・バッグ》からとび出した。出ると、じつに怖しいながら美しい火花に包まれた氷海嘯が、向うの谿《たに ……

小栗虫太郎 人外魔境 08 遊魂境
 驚いてゆくと、ケプナラは避難していない。やはり、以前の所に天幕《テント》をはっていて、みるも哀れな死を遂げているのだ。氷海嘯の端に当ったらしく鑢《やすり》で切ったように、左腕、左膝から下が無残にもな ……

小栗虫太郎 人外魔境 08 遊魂境
 おのぶサンは、それだけしか言えなかった。こみあげてくる恋情を、言い得ない悲しさ。折竹も、感謝の気持溢れるようななかにも、氷海嘯のため、食糧の大部分をうしない、「|冥路の国《セル・ミク・シュア》」探検 ……

小熊秀雄 小熊秀雄全集-15 小説
 或る時、大|海嘯《つなみ》が突然やつてきた、果樹園の人々は狼狽して果樹園の背後の山へ避難したが、望楼の男だけは、最後まで望楼に踏み止まつてお喋しつづけた。 ……

折口信夫 三郷巷談
此は何処からどうして来た人とも、今以て判然せぬが、安政の大地震の時の事である。大阪では地震と共に、小さな海嘯《ツナミ》があつて、木津川口の泊り船は半里以上も、狭い水路を上手へ、難波村|深里《フカリ》の加賀の屋敷前ま ……

菊池寛 真珠夫人
 女中も、それに釣り込まれたやうに、オド/\しながら訊いた。皆の頭に、まだ一月にもならない十月一日の暴風雨の記憶がマザ/\と残つてゐた。それは、東京の深川本所に大|海嘯《つなみ》を起して、多くの人命を奪つたばかりでな ……

菊池寛 真珠夫人
 さう考へたとき、彼の全身の血は、海嘯《つなみ》のやうに、彼の狂ひかけた頭へ逆上して来た。 ……

木村小舟 太陽系統の滅亡
 老博士は毅然として言い終った、失望落胆に沈んだ聴衆は号泣して屋外に走ったが、この時月の引力に依って起った大|海嘯《かいしょう》は、たちまちにしてその半数以上の人命を奪い、次で宏大なる同盟会議所も、又激浪の呑む ……

国枝史郎 加利福尼亜の宝島 (お伽冒険談)
 この酋長の言葉を聞くや土人達はにわかに騒ぎ出した。あっちでも議論こっちでも議論。広い空地は土人達の声で海嘯《つなみ》のように騒がしくなった。 ……

斎藤茂吉 三筋町界隈
 この追憶随筆は明治二十九年を起点とする四、五年に当るから、日清《にっしん》戦役が済んで遼東還附《りょうとうかんぷ》に関する問題が囂《かまびす》しく、また、東北三陸の大海嘯《だいかいしょう》があり、足尾銅山鉱毒事件 ……

島崎藤村 夜明け前 01 第一部上
 揺り返し、揺り返しで、不安な日がそれから六日も続いた。宿《しゅく》では十八人ずつの夜番が交替に出て、街道から裏道までを警戒した。祈祷《きとう》のためと言って村の代参を名古屋の熱田《あつた》神社へも送っ ……

島崎藤村 山陰土産
 千二三百年の長い年月が、全くこの邊の地勢を變へたといふはありさうなことだ。私達は既に益田の方で萬壽年中の大海嘯《おほつなみ》のことを聞き、あの萬福寺の前身にあたるといふ天台宗の巨刹安福寺すら、堂宇のすべてが流失し ……

島崎藤村 山陰土産
 これらの古歌を聯想させるやうな遠い昔の地勢は、どんなであつたらうか。今は鴨山もない。海嘯《つなみ》のために流沒したその一帶の地域からは、人工の加へられた木片、貝類、葦の根などの發掘せらるゝことがあるといふ。昔は一磨 ……

鈴木三重吉 古事記物語
 そのうちに、そのたいそうな大船に押しまくられた大浪《おおなみ》が、しまいには大きな、すさまじい大海嘯《おおつなみ》となって、これから皇后がご征伐になろうとする、今の朝鮮《ちょうせん》の一部分の新羅《しらぎ》の ……

鈴木三重吉 古事記物語
 皇后の軍勢は、その大海嘯と入れちがいに、息もつかせずうわあッと攻《せ》めこみました。すると新羅《しらぎ》の王はすっかり怖《おそ》れちぢこまって、すぐに降参《こうさん》してしまいました。 ……

田中正造 公益に有害の鉱業を停止せざるの儀に付質問書
 又たも一つは、有形的のものは能く人が氣付く、然れ共無形のものに至ては如何にも氣の付き方が遲かつたのでございまして、氣の付いた時にはもう事が過ぎて居た。彼の岐阜愛知の震災の如き、三陸の海嘯の如き、噴堰 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 その京都の地震で天長四年七月に起った地震は、余震が翌年まで続いた。斉衡三年三月八日の大和地方もひどかったと見えて、「方丈記」にも「むかし斉衡の比かとよ、大地震《おほなゐ》ふりて、東大寺の仏のみぐし落ちなど ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 貞観六年七月には富士山の噴火に伴うて大地震があって、噴出した鑠石は本栖、※[#「(戈/戈)+りっとう」、第3水準1-14-63]の両湖をはじめ、民家を埋没した。富士山は既に延暦二十年三月にも噴火し、その後長元五年 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
     二 地震海嘯の呪いある鎌倉

田中貢太郎 日本天変地異記
 その鎌倉の地震のうちで大きかった地震は、建保元年五月の地震で、それには大地が裂け、舎屋が破壊した。この建保年間には、元年から二年三年と続けて十数回の強震があった。安貞元年三月にも大地震があって、地が裂け、 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 永仁元年四月の地震も、正嘉の地震に劣らない地震であった。そのころは怪しく空が曇っていて、陽の光も月の光もはっきり見えなかったが、その日は墨の色をした雲が覆いかかるようになっていた。そして榎島の方が時時震い ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 正平年間は非常に地震の多い年で、約百回も地震の記録があるが、そのうちで大きかったのは、五年五月の京都の地震で、祇園神社の石塔の九輪が墜ちて砕けた。十六年六月には山城をはじめ、摂津、大和、紀伊、阿波の諸国に早 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 永享五年一月には、伊勢、近江、山城に、同年九月には相模、陸奥、甲斐に、宝徳元年四月には山城、大和に、文正元年四月には山城、大和に、明応三年五月にはやはり大和、山城に大地震があったが、明応三年五月の地震は大 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 大永五年八月には鎌倉に、弘治元年八月には会津に、天正六年十月には三河に、同十三年十一月には、山城、大和、和泉、河内、摂津、三河、伊勢、尾張、美濃、飛騨、近江、越前、加賀、讃岐の諸国に大地震があって、海に瀕 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 その天正十三年は秀吉が内大臣となった年で、国内の紛乱がやや収まって桃山時代の文化が生れたところであった。その十七年二月にも、駿河、遠江、三河にまた大地震があった。慶長に入るとその元年閏七月になって、二回の ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 慶長も非常に地震の多い年であった。十九箇年間に約八十もあった。そのうちで大きかったのは元年の二回の地震の他に、九年十二月と十六年十月と十九年十月の大地震である。九年の地震は、薩摩、大隅、土佐、遠江、伊勢、求 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
「土佐国群書類従」に載せた「谷陵記」には、「崎浜談議所の住僧権大僧都阿闍利暁印が記録略に曰く、慶長九年災多し、先づ一に七月十三日大風洪水、二に八月四日大風洪水、三に閏八月二十八日又大洪水、四に十二月十六日夜秩 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 慶長五年の関ヶ原の役で、天下の権勢が徳川氏に帰すると共に、江戸時代三百年の平和期が来たが、その間慶長五年から慶応二年に至るまで、全国にわたって四百七八十回の大小の地震があり、地震に伴う海嘯があり、火事があ ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 慶長年間の地震のことは既に言った。元和二年七月には、仙台に大地震があって城壁楼櫓が破損した。寛永七年六月には江戸に大きな地震があり、同十年一月には、江戸をはじめ、相模、駿河、伊豆に大地震があったが、わけて ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 万治二年二月には、岩代、下野、武蔵に大きな地震があった。寛文年間も大きな地震の多い年であった。元年十月には土佐、同二年三月には京都、江戸、同年五月には山城、大和、伊賀、伊勢、近江、摂津、和泉、丹波、丹後、氏 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 延宝四年六月には石見、同五年三月には陸中の南部に地震と海嘯があった。元和三年五月には江戸と日光山、同年九月には日光山、貞保元年二月には伊豆の大島に地震があって、三原山が噴火した。貞保二年九月には周防、長門 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 寛永四年十月には、山城、大和、河内、摂津、紀伊、土佐、讃岐、伊予、阿波、伊勢、尾張、美濃、近江、遠江、三河、相模、駿河、甲斐、伊豆、豊後の諸国にわたって大地震があって、人畜の死傷するもの無数。そして土佐、 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 天明二年七月には、相模、江戸に大きな地震があった。三年七月には、浅間山の大噴火があった。寛政四年一月には、肥前温泉岳の普智山の噴火があった。同十一年五月には、加賀の金沢に地震があって、宮城浦に海嘯。享和二煤 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 天保元年七月には、山城、摂津、丹波、丹後、近江、若狭、同二年十月には肥前、同四年十月には佐渡、同五年一月には石狩、同七年七月には仙台、同十年三月には釧路、同十二年には駿河、同十四年三月には釧路、根室、渡島 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 十一月四日の地震は、その日に東海、東山の両道が震い、翌日になって、南海、西海、山陽、山陰の四道が震うたが、海に沿うた国には海嘯があった。この地震は豊後海峡の海底の破裂に原因があって、四国と九州が大災害を被 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 二年の地震は、紀伊、淡路、阿波、讃岐、伊予、土佐、豊前、豊後、筑前、筑後、壱岐、出雲、石見、播磨、備前、備中、備後、安芸、周防、長門、摂津、河内、若狭、越前、近江、美濃、伊勢、尾張、伊豆一帯が震うて、摂津 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 安政元年二月の大地震後、大きな地震はその年の十月と三年の十月に江戸にあった。そして安政三年七月には渡島、胆振にあって、それには海嘯《つなみ》があった。同四年閏五月に駿河、相模、武蔵、同年七月に伊予、同五年刀 ……

田中貢太郎 日本天変地異記
 明治では五年二月に浜田、二十二年七月に熊本、二十四年十月に濃尾、二十七年六月に東京、同年十月に庄内、二十九年六月に三陸、同年八月に陸羽、三十九年三月に台湾の嘉義、四十二年八月江州に大地震があったが、その内 ……

田山花袋 帰国
 老婦は涙を流した。利益の多い遠征ではあつたが、またそれだけ艱難の多い旅であつた。老婦は木の多い山、産物の豐富な山、淳良な氣風の里の話をすると共に、危い崖、恐ろしい猛獸、凄しい山海嘯の話などをした。其地方では恐ろしいの ……

太宰治 パンドラの匣
 けれども君、僕がこんな甘ったれた古くさい薄のろの悩みを続けているうちにも、世界の風車はクルクルと眼にとまらぬ早さでまわっていたのだ。欧洲《おうしゅう》に於いてはナチスの全滅、東洋に於いては比島決戦についで沖縄《 ……

寺田寅彦 颱風雑俎
 風の強さの程度は不明であるが海嘯《かいしょう》を伴った暴風として記録に残っているものでは、貞観よりも古い天武天皇時代から宝暦四年までに十余例が挙げられている。 ……

寺田寅彦 颱風雑俎
 地震による山崩れは勿論、颱風の豪雨で誘発される山津浪についても慎重に地を相する必要がある。海嘯《かいしょう》については猶更である。大阪では安政の地震津浪で洗われた区域に構わず新市街を建てて、昭和九年の暴風による海 ……

徳冨蘆花 不如帰 小説
 江戸の敵《かたき》を長崎で討《う》つということあり。「世の中の事は概して江戸の敵を長崎で討つものなり。在野党の代議士今日議院に慷慨《こうがい》激烈の演説をなして、盛んに政府を攻撃したもう。至極結構なれども、実は ……

徳田秋声 仮装人物
 師匠がおりて行ってからサンドウィッチを撮《つま》みながら、庸三はしばらく清川たちと話していたが、葉子が呼びに来たので降りて行くと、師匠の素踊りがもう進行していた。そしてそれがすむと、食卓を連ねてひそやかな祝宴が催 ……

豊島与志雄 レ・ミゼラブル 07 第四部
 赤旗は群集のうちに暴風を巻き起こしてその中に姿を没した。ブールドン大通りからオーステルリッツ橋まで、海嘯《つなみ》のような響きが起こって群集を沸き立たした。激しい二つの叫びが起こった。「ラマ ……

長塚節 土
 おつぎの姿《すがた》が五六|人《にん》立《た》つた中《なか》に見《み》えなく成《な》つた時《とき》勘次《かんじ》は商人《あきんど》の筵《むしろ》を立《た》つてすつと樅《もみ》の木《き》の側《そば》へ行《い》つた。おつぎは ……

長塚節 土浦の川口
 丈は一丈もある蘆が淋しくさら/\と靡いて居るが月の光に照されて居る枯穗がくろずんで見えるので怪しんで問うて見ると水が出た時汚れたんだらうといふことであつた、八月末の暴風雨の折には殆んど海嘯のやうに波浪が押し寄せたの ……

中島敦 光と風と夢
 我が誕生日の祝が、下痢のため一週間遅れて今日行われた。十五頭の仔豚の蒸焼。百ポンドの牛肉。同量の豚肉。果物。レモネードの匂。コーヒーの香。クラレット・ヌガ。階上階下共に、花・花・花。六十の馬|繋《つな》ぎ場を急設 ……

中島敦 南島譚 01 幸福
 タロ芋を供えて彼が祈ったのは、椰子蟹カタツツと蚯蚓《みみず》ウラズの祠《ほこら》である。此の二神は共に有力な悪神として聞こえている。パラオの神々の間では、善神は供物を供えられることが殆ど無い。御機嫌をとらずと ……

中里介山 大菩薩峠 07 東海道の巻
 本堂の中にはいっぱいの人が集まっているようだけれども、そのわりあいに静かであります。そうして時々、南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》、南無阿弥陀仏という声が海嘯《つなみ》のように縁の下まで響いて来ます。 ……

中里介山 大菩薩峠 17 黒業白業の巻
 しかしながら、外はドードーと雨が降っています。風はあまりないようでありましたけれど、どこかの山奥で、海嘯《つなみ》のような音が聞えないではありません。その近いあたりは、なんでも一面の大湖のように水 ……

中里介山 大菩薩峠 21 無明の巻
 駒井甚三郎は、自覚しないうちに、そういうふうに感情を軽蔑したがる癖がないとは言えない。今、自分の心のうちに起っている骨髄に徹《とお》る淋しい心。その湧いて出づるところをたずねて茫然として何の当りもつ ……

中里介山 大菩薩峠 32 弁信の巻
「山が怒る時は、そうはいきません。寛政四年の春、わしは九州にいて肥前の温泉岳《うんぜんだけ》の怒るのを見ました。その時は島原の町と、その付近十七カ村の海辺の村々がみんな流されて、いかなる大木といえども ……

中里介山 大菩薩峠 32 弁信の巻
 山の峡《かい》や、湖面に打浸《うちひた》された山脚の山から、海嘯《つなみ》のように音が起って来ました。この音につれて、前のベトベトした搗きたてのお供餅のようなのが、一重ねずつになって無数に連絡し、湖 ……

中里介山 大菩薩峠 41 椰子林の巻
「そう願いましょう。それから特に注意しなければならんことは、気候はこの通り温かいのですから、霜雪の難はありません、大河湖沼が乏しいから、洪水の憂いというものからも救われましょう、唯一の心配は風ですね、 ……

夏目漱石 それから
 代助は人類の一人《いちにん》として、互《たがひ》を腹《はら》の中《なか》で侮辱する事なしには、互《たがひ》に接触を敢てし得ぬ、現代の社会を、二十世紀の堕落と呼んでゐた。さうして、これを、近来急に膨脹した生活慾の高 ……

夏目漱石 人生
 三陸の海嘯《つなみ》濃尾《のうび》の地震之を称して天災といふ、天災とは人意の如何《いかん》ともすべからざるもの、人間の行為は良心の制裁を受け、意思の主宰に従ふ、一挙一動皆責任あり、固《もと》より洪水《こうずゐ》飢饉《き ……

夏目漱石 人生
 犬に吠《ほ》え付かれて、果《は》てな己は泥棒かしらん、と結論するものは余程の馬鹿者か、非常な狼狽者《あわてもの》と勘定するを得べし、去れども世間には賢者を以て自ら居り、智者を以て人より目せらるゝもの、亦此病にかかること ……

夏目漱石 行人
 防波堤と母の宿との間にはかれこれ五六町の道程《みちのり》があった。波が高くて少し土手を越すくらいなら、容易に三階の座敷まで来る気遣《きづか》いはなかろうとも考えた。しかしもし海嘯《つなみ》が一度に寄せて来るとすると、 ……

夏目漱石 行人
「おい海嘯であすこいらの宿屋がすっかり波に攫《さら》われる事があるかい」 ……

夏目漱石 行人
 幌の中に包まれた自分はほとんど往来の凄《すさま》じさを見る遑《いとま》がなかった。自分の頭はまだ経験した事のない海嘯《つなみ》というものに絶えず支配された。でなければ、意地の悪い天候のお蔭で、自分が兄の前で一徹に退《 ……

夏目漱石 行人
 自分の頭の中には、今見て来た正体《しょうたい》の解らない黒い空が、凄《すさ》まじく一様に動いていた。それから母や兄のいる三階の宿が波を幾度となく被《かぶ》って、くるりくるりと廻り出していた。それが片づかないうちに、こ ……

夏目漱石 行人
「妾《あたし》も先刻からその事ばかり考えているの。しかしまさか浪《なみ》は這入《はい》らないでしょう。這入ったって、あの土手の松の近所にある怪しい藁屋《わらや》ぐらいなものよ。持ってかれるのは。もし本当の海嘯が来てあす ……

夏目漱石 行人
「本に出るか芝居でやるか知らないが、妾ゃ真剣にそう考えてるのよ。嘘《うそ》だと思うならこれから二人で和歌の浦へ行って浪でも海嘯でも構わない、いっしょに飛び込んで御目にかけましょうか」 ……

夏目漱石 行人
 彼女は最後に物凄《ものすご》い決心を語った。海嘯《つなみ》に攫《さら》われて行きたいとか、雷火に打たれて死にたいとか、何しろ平凡以上に壮烈な最後を望んでいた。自分は平生から(ことに二人でこの和歌山に来てから)体力や筋 ……

夏目漱石 行人
 自分は詩や小説にそれほど親しみのない嫂のくせに、何に昂奮《こうふん》して海嘯に攫われて死にたいなどと云うのか、そこをもっと突きとめて見たかった。 ……

萩原朔太郎 定本青猫
海嘯《おほつなみ》の遠く押しよせてくるひびきがきこえる。 ……

南方熊楠 神社合祀に関する意見
 また南富田《みなみとんだ》村の金刀比羅《ことひら》社は、古え熊野の神ここに住みしが、海近くて波の音|聒《やかま》しとて本宮へ行けり。熊野三景の一とて、眺望絶佳の丘上に七町余歩の田畑山林あり。地震|海嘯《 ……

南方熊楠 神社合祀に関する意見
 また佐々木忠次郎博士は昨年十月の『読売新聞』に投書し、欧米には村落ごとに高塔ありて、その地の目標となる、わが邦の大字ごとにある神林は欧米の高塔と等しくその村落の目標となる、と言えり。漁夫など一丁字なき者 ……

水上滝太郎 貝殻追放 008 「その春の頃」の序
「嵐」は一昨々年の夏鎌倉に在りし時、一夜俄に風荒れてすさまじく浪の高まりしが、海近き我が友の家の如きは深夜枕に浪をかぶりし程なりしかば、常より寢つき惡しき予の雨戸を搖る風の音、遠く砂濱を打つ濤聲《 ……

紫式部 源氏物語 12 須磨
「もう少し暴風雨が続いたら、浪《なみ》に引かれて海へ行ってしまうに違いない。海嘯《つなみ》というものはにわかに起こって人死《ひとじ》にがあるものだと聞いていたが、今日のは雨風が原因になっていてそれとも違うよう ……

森鴎外 伊沢蘭軒
 此八月は大風雨のあつた月である。公私略に「同月(八月)廿五日、東都大風雨、且暴潮、損処甚多」と云つてある。武江年表に云く。「八月廿三日微雨、廿四日廿五日続て微雨、廿五日暮て次第に降しきり、南風烈しく、戌の下刻より殊 ……

森鴎外 大塩平八郎
 平八郎は其儘《そのまゝ》端坐《たんざ》してゐる。そして熱した心の内を、此陰謀がいかに萌芽《はうが》し、いかに生長し、いかなる曲折を経《へ》て今に至つたと云ふことが夢のやうに往来する。平八郎はかう思ひ続けた。己《お ……

森鴎外 青年
 なんでも大村と一しょに旅行をしていて、どこかの茶店に休んでいた。大宮で休んだような、人のいない葭簀張《よしずば》りではない。茶を飲んで、まずい菓子|麪包《パン》か何か食っている。季節は好く分からないが、目に映ずるものは ……

ヴィクトル・ユゴー レ・ミゼラブル 07 第四部
 赤旗は群集のうちに暴風を巻き起こしてその中に姿を没した。ブールドン大通りからオーステルリッツ橋まで、海嘯《つなみ》のような響きが起こって群集を沸き立たした。激しい二つの叫びが起こった。 ……

夢野久作 近世快人伝
「イヤ。笑いごとじゃありません。鮫という魚《さかな》は俗に鮫肌と申しまして、鱗《うろこ》が辷《すべ》らんように出来ておりますけに、海の上の枕としては誠にお誂《あつら》え向きです。しかし何をいうにも何十|尋《ひろ》 ……

横光利一 旅愁
 ふとこう思った彼は眼を上げたとき、濡れ鼠になった石の古い建物が全身から汗のような雨滴を垂れ流している姿が映った。瞬間それは突然の天候のこの変化に歓声をあげて雀躍しているパリの石の心のように感じられた。今までとてときど ……

横光利一 旅愁
 四人は細長い食台に一列に並んでそれぞれ食べたいものを註文した。見渡したところ、いつもとこの料理店は違わず働いていたが、窓の外いちめんの左翼の大海嘯のまっ只中に突き立っているさまは、ただのありふれた日常の生活ではなかっ ……

横光利一 旅愁
「ヨーロッパももう底を突いた。今度こそはいよいよ東洋の海嘯《つなみ》だよ。僕らはうろうろしているときじゃない。」 ……

与謝野晶子 源氏物語 12 須磨
「もう少し暴風雨が続いたら、浪《なみ》に引かれて海へ行ってしまうに違いない。海嘯《つなみ》というものはにわかに起こって人死《ひとじ》にがあるものだと聞いていたが、今日のは雨風が原因になっていてそれとも違 ……

吉行エイスケ 新種族ノラ
 幸運は、[#「幸運は、」はゴシック体]ノラは幸福であった。近代の男性は薄鼠色の皮膚が好きであった。彼女が踊りにおいてツレブラを好むように、彼女の色素の複雑さが、ジャズが夜中のサイレンのように鳴り渡る都会人の愛 ……

若山牧水 樹木とその葉 34 地震日記
 三度、四度と震動が續いた。そのうち隣家醫師宅の石塀の倒れ落つる音がした。それこれを見てゐるうちに先づ私の心を襲うたものはツイ眼下から押し廣まつて行つてゐる海であつた。海嘯《つなみ》であつた。 ……

若山牧水 樹木とその葉 35 火山をめぐる温泉
 十月十五日、私は白骨《しらほね》温泉の宿屋の作男を案内として先づ燒嶽のツイ麓に在る上高地温泉に向うた。行程四里、道は多く太古からの原始林の中を通じてゐた。そして其廣大な密林を通り過ぎると、大正三 ……

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公開:2011.3.25 八面玲瓏。
しだひろし/PoorBook G3'99
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最終更新:2011年03月25日 09:47