定価:200円(税込) | p.275 / *99 出版 |
オリジナル版 | ミミクリ草子*現代表記版 |
右大臣実朝(一) | 右大臣実朝(一) |
太宰治 | 太宰治 |
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ウソトハ、ドノヤウナ事デス。 | うそとは、どのような事です? |
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「真似事でございます。たとへば、恋のお歌など。将軍家には、恐れながら未だ、真の恋のこころがおわかりなさらぬ。都の真似をなさらぬやう。これが蓮胤の命にかけても申し上げて置きたいところでござります。世にも優れた歌人にまします故にこそ、あたら惜しさに、居たたまらずこのやうに申し上げるのでござります。雁によする恋、雲によする恋、または、衣によする恋、このやうな題はいまでは、もはや都の冗談に過ぎぬのでござりまして、その洒落の手振りをただ形だけ真似てもつともらしくお作りになつては、とんだあづまの片田舎の、いや、お聞き捨て願ひ上げます。あづまには、あづまの情がある筈でござります。それだけをまつすぐにおよみ下さいませ。ユヒソメテ馴レシタブサノ濃紫オモハズ今ニアサカリキトハ、といふお歌など、これがあの天才将軍のお歌かと蓮胤はいぶかしく存じました。御身辺に、お仲間がいらつしやりませぬから、いいえ、たくさんいらつしやつても、この蓮胤の如く、」と言ひかけた時に、将軍家は笑ひながらお立ちになり、 | 「真似事(まねごと)でございます。たとえば、恋のお歌など。将軍家には、おそれながらいまだ、真の恋のこころがおわかりなさらぬ。都の真似(まね)をなさらぬよう。これが蓮胤(れんいん)の命にかけても申し上げておきたいところでござります。世にも優れた歌人にましますゆえにこそ、あたら惜(お)しさに、いたたまらずこのように申し上げるのでござります。雁によする恋、雲によする恋、または、衣によする恋、このような題はいまでは、もはや都の冗談にすぎぬのでござりまして、その洒落(しゃれ)の手振りをただ形だけ真似(まね)てもっともらしくお作りになっては、とんだあずまの片田舎の、いや、お聞き捨て願い上げます。あずまには、あずまの情があるはずでござります。それだけをまっすぐにおよみくださいませ。“ゆひそめて馴(な)れしたぶさの濃紫(こむらさき)おもはず今にあさかりきとは”というお歌など、これがあの天才将軍のお歌かと蓮胤(れんいん)はいぶかしく存じました。ご身辺に、お仲間がいらっしゃりませぬから、いいえ、たくさんいらっしゃっても、この蓮胤(れんいん)のごとく……、」といいかけた時に、将軍家は笑いながらお立ちになり、 |
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モウヨイ。ソノ深イ慾モ捨テルトヨイノニ。 | もうよい。その深い欲も捨てるとよいのに。 |
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とおつしやつて、お奥へお引き上げになられました。私もそのお後につき従つてお奥へまゐりましたが、お奥の人たちは口々に、入道さまのぶしつけな御態度を非難なさつて居られました。けれども将軍家はおだやかに、 | とおっしゃって、お奥へお引き上げになられました。私もそのお後につきしたがってお奥へまいりましたが、お奥の人たちは口々(くちぐち)に、入道さまのぶしつけなご態度を非難なさっておられました。けれども将軍家はおだやかに、 |
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ナカナカ、世捨人デハナイ。 | なかなか、世捨人(よすてびと)ではない。 |
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とおつしやつただけで、何事もお気にとめて居られない御様子でございました。 | とおっしゃっただけで、何事(なにごと)もお気にとめておられないご様子でございました。 |
物部守屋 | もののべの もりや | ?-587 | 敏達・用明天皇朝の大連。尾輿の子。 |
聖徳太子 | しょうとく たいし | 574-622 | 用明天皇の皇子。厩戸。 |
源義家 | みなもとの よしいえ | 1039-1106 | 頼義の長男。八幡太郎。 |
藤原基俊 | ふじわらの もととし | ?-1142 | 歌人・歌学者。 |
平清盛 | たいらの きよもり | 1118-1181 | 忠盛の長子。平相国・浄海入道・六波羅殿。 |
平知盛 | たいらの とももり | 1152-1185 | 平清盛の四男。母は平時子。 |
藤原忠清 | ふじわらの ただきよ | ?-1185 | 父は景綱。 |
伊勢義盛 | いせ よしもり | ?-1186 | 源義経の郎党。通称、三郎。 |
源義経 | みなもとの よしつね | 1159-1189 | 義朝の9男。幼名、牛若。 |
源頼朝 | みなもとの よりとも | 1147-1199 | 初代将軍。義朝の第3子。 |
源一幡 | みなもとの いちまん | 1198-1203 | 頼家の嫡男。母は若狭局。 |
源頼家 | みなもとの よりいえ | 1182-1204 | 第2代将軍。頼朝の長子。 |
北条政範 | ほうじょう まさのり | 1189-1204 | 父は時政。義時の弟。 |
稲毛重成 | いなげ しげなり | ?-1205 | 御家人。父は小山田有重。 |
畠山重保 | はたけやま しげやす | ?-1205 | 畠山重忠の子。 |
平賀朝雅 | ひらが ともまさ | ?-1205 | 信濃源氏義信の子。北条時政の女婿。 |
藤原良経 | ふじわらの よしつね | 1169-1206 | 九条兼実の次男。摂政・太政大臣。 |
尊暁 | そんぎょう | ?-1209 | 天台宗の僧。鶴岡八幡宮の第2代別当。 |
和田義盛 | わだ よしもり | 1147-1213 | 初代の侍所別当。三浦義明の孫。 |
和田常盛 | わだ つねもり | 1172-1213 | 御家人。左兵衛尉。和田義盛の嫡男、朝比奈義秀の兄。 |
和田胤長 | わだ たねなが | 1183-1213 | 御家人。和田義長の嫡男。平太。 |
北条時政 | ほうじょう ときまさ | 1138-1215 | 執権。政子の父。 |
栄実 | えいじつ | 1201-1215 | 頼家の3男。母は一品房昌寛の娘。 |
鴨長明 | かもの ちょうめい | 1155?-1216 | 歌人。菊大夫。 |
坊門信清 | ぼうもん のぶきよ | 1159-1216 | 公卿。坊門信隆の子。 |
丹後局 | たんごのつぼね | ?-1216 | 女官。高階栄子。 |
源実朝 | みなもとの さねとも | 1192-1219 | 第3代将軍。頼朝の次子。 |
公暁 | くぎょう | 1200-1219 | 源頼家の子。 |
源仲章 | みなもとの なかあきら | ?-1219 | 貴族・儒学者。源光遠(後白河法皇の側近)の子。 |
三善康信 | みよし やすのぶ | 1140-1221 | 問注所の初代執事。善信。 |
飛鳥井雅経 | あすかい まさつね | 1170-1221 | 歌人。難波頼経の子。 |
加藤景廉 | かとう かげかど | ?-1221 | 御家人。 |
藤原秀康 | ふじわらの ひでやす | ?-1221 | 父は藤原秀宗。 |
北条義時 | ほうじょう よしとき | 1163-1224 | 執権。時政の次子。 |
大江広元 | おおえの ひろもと | 1148-1225 | 官人。政所別当。 |
北条政子 | ほうじょう まさこ | 1157-1225 | 源頼朝の妻。 |
中原季時 | なかはらの すえとき | ?-1236 | 中原親能(藤原親能)の子。 |
二階堂行村 | にかいどう ゆきむら | 1155-1238 | 二階堂行政の子。評定衆。 |
三浦義村 | みうら よしむら | ?-1239 | 義澄の子。元老。 |
藤原定家 | ふじわらの ていか | 1162-1241 | 歌人。京極中納言。俊成の子。 |
退耕行勇 | たいこう ぎょうゆう | 1163-1241 | 臨済宗の僧。荘厳房。 |
北条泰時 | ほうじょう やすとき | 1183-1242 | 執権。義時の長子。 |
大江親広 | おおえの ちかひろ | ?-1242 | 広元の長男。 |
北条朝時 | ほうじょう ともとき | ?-1245 | 義時の次男。名越次郎。 |
安達景盛 | あだち かげもり | ?-1248 | 秋田城介。 |
結城朝光 | ゆうき ともみつ | ?-1254 | 御家人。父は小山政光。 |
真智房隆宣 | 〓 | ?-? | 法橋。 |
足利義兼 | あしかが よしかね | ?-? | 御家人。父は足利義康。 |
泉親衡 | いずみ ちかひら | ?-? | 信濃国の御家人。小次郎。 |
海野幸氏 | うんの ゆきうじ | ?-? | 御家人。海野幸広の子。 |
清綱 | きよつな | ?-? | 御台所付きの侍。兵衛尉。 |
定暁 | じょうぎょう/ていぎょう | ?-? | 鶴岡八幡宮第三代別当。 |
駿河の局 | するがのつぼね | ?-? | 政子つきの女房。 |
平盛時 | たいらの もりとき | ?-? | 奉行人。通称、平五。 |
長井時広 | ながい ときひろ | ?-? | 大江広元の次男。 |
那須与一 | なすの よいち | ?-? | 下野那須の人。 |
藤原基衡 | ふじわらの もとひら | ?-? | 清衡の子。陸奥・出羽の押領使。 |
坊門忠清 | ぼうもん ただきよ | ?-? | 公家。父は坊門信清(内大臣)。 |
牧の方 | まきのかた | ?-? | 北条時政の後妻。 |
源仲国 | みなもとの なかくに | ?-? | 官人。父は源光遠。後白河法皇の近臣。 |
源長季 | みなもとの ながすえ | ?-? | 官僚。源守隆の子。 |
峰王 | みねおう | ?-? | 流鏑馬の童子。 |
秋田城介景盛 | → 安達景盛 | |||
伊勢三郎義盛 | → 伊勢義盛 | |||
重成法師 | → 稲毛重成か | |||
千寿 | → 栄実 | |||
大夫尉景廉 | → 加藤景廉か | |||
幸氏 | → 海野幸氏か | |||
鴨社の氏人菊大夫長明入道 | → 鴨長明 | |||
朝光 | → 結城朝光か | |||
八幡太郎義家 | → 源義家 | |||
九郎判官 | → 源義経 | |||
右大臣実朝 | → 源実朝 | |||
仲国 | → 源仲国か | |||
仲章朝臣 | → 源仲章か | |||
長季 | → 源長季か | |||
三浦兵衛尉 | → 三浦義村か | |||
泉小次郎親平 | → 泉親衡 | |||
荘厳房行勇 | → 退耕行勇 | |||
前大膳大夫広元朝臣 | → 大江広元 | |||
武蔵守親広 | → 大江親広か | |||
前駿河守季時 | → 中原季時か | |||
左衛門大夫時広 | → 長井時広か | |||
基衡 | → 藤原基衡 | |||
左金吾基俊 | → 藤原基俊か | |||
秀康 | → 藤原秀康か | |||
少将忠清 | → 藤原忠清か・坊門忠清か | |||
従三位定家卿 | → 藤原定家か | |||
摂政左大臣良経 | → 藤原良経 | |||
隠岐守行村 | → 二階堂行村か | |||
雅経朝臣 | → 飛鳥井雅経 | |||
守屋 | → 物部守屋か | |||
清盛 | → 平清盛 | |||
盛時 | → 平盛時か | |||
知盛新中納言 | → 平知盛 | |||
相州、執権相模守 | → 北条義時 | |||
時政 | → 北条時政 | |||
左馬の介政範 | → 北条政範 | |||
修理亮泰時 | → 北条泰時 | |||
相模次郎朝時主 | → 北条朝時か | |||
胤長 | → 和田胤長 | |||
明日香井雅経 | あすかい まさつね → 飛鳥井雅経 | |||
千幡 | せんまん → 源実朝 | |||
善哉 | ぜんざい → 公暁 | |||
善信 | ぜんしん → 三善康信 | |||
比企氏 | ひきし | |||
蓮胤 | れんいん → 鴨長明 | |||
京極侍従三位 | ||||
親定朝臣 | ||||
佐原太郎兵衛尉 | ||||
内大臣通雅 | ||||
仁田氏 | ||||
佐渡守親康 |