/104/ずしー……ん。ずしー……ん。そんな感じの微かな音ともにセレナちゃんは地面の揺れを感じ取った。「あれ、なんか揺れてない?」「……そういえば揺れとるような」ずしん…ずしん…ずしん…ずしん。音と同期した一定のリズムで地面が揺れる。「なんか音大きくなってない?」「地震も大きくなっとるような」ずしんずしんずしんずしんずしんずしん。間断なく続くようになった怪音と振動がやんだ。と思ったのも束の間。「余の昼食はまだかーーーー!!」肉声ではありえないくらいの大音量でになしの怒声が響いた。反射的に声のした方……窓の外を見れば巨大化したになしの姿が。別に誤字でも比喩表現でもなんでもなく20倍(当社比)に大きくなっている。巨大化したら消費カロリーが増えて余計にお腹が空くと思うがそんな冷静な思考能力は最早ないようだった。そもそも冷静に考えたら人間は巨大化できるのか?というツッコミはなしだ。何故ならここははてない国だから。「うわ、何あれ。どうやったら元に戻るんだろ」「お腹が空いておっきくなったんなら、ご飯食べさせればいいんじゃない?」いつの間にかやってきた瑠璃がそう答えた。この人物、本当に物怖じしない。30めーとるくらいはありそうー、とかのほほんと言っている。「じゃあ料理長に頼んでみようか」他の二人もあっさり適応してる辺りはあれである。さすがはてない国人。と言うわけで料理長に頼みに行ったのだが、「あの、すいません。藩王がなんかお腹空きすぎてでっかくなっちゃったんでなんか作ってもらえませんか?」「ケチャップはまだですか?」まだクエスト受領モードだった。当然と言えば当然だが。今から商店街までケチャップを取りに行くのもいいが、目を離すと何をしでかすか解らない危うさが今のになしにはある。「あれ、なんかまたでっかくなってない?」「……35mくらいありそうですね」「どこまでおっきくなるのかなぁ」最早一刻の猶予もない。三桁の大台に乗る前に食べ物を与えなければ──「こうなったらあたし達で作るしかない!」「え、セレナちゃん料理できるんですか」「汁物ならできるよ!スープとかシチューとか!!」「何時間かかると思ってるんですか。100m突破しちゃいますよ」「とりあえずカップラーメン作ってみたよ」いつから仕込んでいたのやら瑠璃がカップラーメンを持ってきた。庭に出て神に捧げるように持ち上げてみる。それに気付いたになしが手を伸ばす。信じられないくらい巨大な指でカップラーメンを掴み……そこねた。湯気と残像を残して中身が地面にぶちまけられる。「余の食事はまだかーーーー!?」半ば悲哀に満ちた怒声であった。「うわ、これ以上でっかくなられたら食べさせるのも難しいな!」「とりあえず自販機のカップラーメン買えるだけ買ってみたよー」「じゃあそれで場を繋いで、あたしがケチャップを取ってくるから、料理長に頑張ってもらおう。九重さんは料理できるんだよね」「はぁ。まぁ。それなりに」「えーと、じゃあ、頑張って」「……頑張ります」
屋上に大皿でいくつもいくつも料理を盛り付ける、ある意味ファンシーでファンタジーな食事会が終わり。結局になしが元のサイズに戻ったのは夜半も過ぎた頃だった。「あれ、何か忘れてるような」まぁいっかー。もう眠いし。忘れるようなことだから大した事じゃないよね多分。そんな風に自分に言い聞かせながら、セレナちゃんの長い一日は終わった。
エンディングナンバー3 になし巨大化エンド
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