天夜奇想譚

馬鹿と魔術と吸血鬼 第2話『出会い』

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ryuuri

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作者:晴華流吏

タイトル:馬鹿と魔術と吸血鬼 第3話『出会い』



 明るい月の下。
 でも暗い路地裏。
 一人の青年と。
 一人の少女。
 退魔師と、吸血鬼。
 二人は出会った。
 この月の下で。
 物語はやっと始まる。








 馬鹿と魔術と吸血鬼
 第二話 「出会い」








 助けられた少女と助けた青年は向かい合って話しをしていた。


「私は吸血鬼…真祖だ、しかも、国外から忍び込んだ…な」


 少女は自慢げに言う。
 一方、一角は呆けた顔をして固まっていた。
 それはそうだろう、少女の言葉はあまりにも衝撃的過ぎた。


「どうした?驚きのあまり声もだせないか?」


 その呆けた顔を見て、少女は勝ち誇った顔をする。
 一角はああ、と頷き、まさか吸血鬼だったとはな…と呟いた。
 しかし、驚きの顔は一瞬にして疑問の顔に変わり、一角はその疑問をぶつけてみる。


「でもそれで俺が小規模の所属って分かるのはなんでだ?というか一般人にボッコボコにされてなかったか?」


 そのの疑問に少女は苦虫を噛み潰したような顔になる。
 一角の疑問はもっともだ、吸血鬼であろうと個人情報が見れるわけではないし、吸血鬼であるなら一般人を遥かに凌ぐ力があるはずだ。
 だがしかし、一角はキーとなる言葉を聞き逃している。


「もうすこし頭を使え、私は国外から忍び込んだ吸血鬼だ」


 一瞬間を置いてから、説明をし始める。
 その時、苦虫を噛み潰したような表情から一転して、余裕を見せる笑みに変わっていた。


「いいか?異形と言うのは霊脈や霊山があって存在する物だ。真祖なら特にな」
「ああ、それは分かる」


 一角は頷く。
 異形とは人の噂や伝説などが霊脈や霊山の影響を受けて具現化するものなのだ。
 最低限の知識はあるようだ、と少女は呟いてから話を続ける。


「つまり、国外……外から着た私はよそ者、この地の霊脈の力を受けない、遠く離れた私の産まれた地の霊山の力で存在しているのだ。それゆえに力が全般的に弱まっている。それに加えて……手違いがあって大きく負傷しててな、その治療に魔力を回している」
「怪我してるのか!?大丈夫か?」
「安心しろ、もう殆ど治ってる。まぁ……当分は魔力が戻らんがな」


 心配そうな顔をした一角に少女が言う。
 たしかに、服はボロボロになってはいたが、そこから見える肌に特に怪我などは見当たらなかった。
 もっとも、先ほど不良に蹴られたであろう場所は跡が残っているが。


「なら、いいんだけどよ…」


 一角は安堵し、それを見た少女は話を続ける。


「続けるぞ、次は…私が何故お前が小規模組織と見抜いたかだが、私は今、教会と統括組織両方に追われている」
「まじか!?」


 再び一角は驚愕の表情になる。
 教会とは、世界の大半を管理する超大型の退魔組織である。
 しかし、日本では既に統括組織がその勢力を広げており、日本内では教会も大手組織でしかない。
 それでも、その権力は日本国内2位といえるだろう。
 つまり、この少女は……日本内で敵にしたくない相手1位と2位に狙われているのだ。


「マジだ、つまり世界中から指名手配されてる私を知らないのは弱小組織くらいだということだ」


 少女は自慢げに言う。


「つまり……お前大悪党なのか!?」
「それは…違うな、悪人ではあるが」


 慌てる一角を見て少女は苦笑しながら言う


「私はな、教会の失態の生き証人なのだ。」
「は?」


 一角は首を傾げる。
 さっぱり分けがわからないという顔だ。
 一角という青年はどうも頭が回らないタイプの人間らしい。


「まぁ色々あるんだが……教会は私が統括組織に見つかる前に殺したがっている。統括組織は私が死ぬ前に私を捕まえたがっている。私は教会が起こした失態の結果というわけだ、私を捕まえればそれを証拠に統括組織は教会に圧力を掛けられる…というわけだ」


 少女は話し終えて一角を見る。
 そしてその一角は……。


「うう…頭が……頭がっ!」


 どうやら普段使わない頭の限界が来たようで、頭を思いっきり抱えていた。
 少女は呆れた顔して。


「馬鹿か?」
「うるせぇ!!頭を使うのは苦手なんだよ!!」


 一角は頭を抱えてた手を放し、吼える。
 限界が来るのは早いようだが復帰も早いようだ。


「おお、復活したな」
「おう、まったく理解できなかったがな」


 一角の馬鹿丸出しな発言を聞き少女は更に呆れた顔して一角を見る。


「……馬鹿だ」
「うるせえ!どうせ俺は筋肉鍛えるくらいしかできねぇよ!どうだ参ったか!」
「言ってて悲しくないか?」
「スンマセン、悲しいっす」


 冷静に切り返されて一角は、素直に謝る。
 とりあえず、馬鹿だということは自覚はしているらしい。
 少女はやれやれ、と溜息を吐いてから一角を見て微笑み。


「まぁ、細かい事は今後ゆっくり話していけばいいだろう……そういえば、お前名前は?」
「名前?黒倉一角だ」
「黒倉一角……黒倉がファミリーネームだな?」
「ああ、そうだ。黒倉家の一角だ」


 少女は満足そうに頷き、そして愉快そうに口元を歪めてから。


「私の名はエルマ…エルマ=マクスィーニーだ。これからよろしく頼むぞ。一角」
「ああ、よろしく頼む……って、は?これから?」


 少女が名乗り、宜しくと言って、頷きかけたときに一角は気づいた。
 これから、と少女は言ったのだ。
 一角がその疑問の答えを考える間を与えず、少女は一角の後ろの方……電線の上にいるカラスを指差し。


「一角、あのカラスを見ろ」


 一角は、何事かと後ろを振り向き電線の上のカラスを見て……そしてカラスと視線が交わる。
 同時に何か嫌な予感がした。
 何故カラスと視線が交わったのか?
 何故カラスはこちらを見ているのか?
 そして、エルマと名乗った少女がいつの間にか自分の背中に飛びつき、白く細い腕が自分の首に回っているのか。
 そして、エルマがその状態でカラスを指差し、一角の耳元で何かを呟いた瞬間。
 エルマの指先から光る球体が飛び出し、カラスを撃ち貫いた。
 それは、間違いなく魔術。


「なにを…!?」


 背中に飛びついているので、首だけで振り返りエルマの顔をみる。
 打ち抜かれたカラスは燃えて朽ちていく。
 エルマの顔には、邪悪な笑顔が浮かんでいる。


「何を……か」


 クスクスとエルマは笑う。


「アレを良く見てみろ」


 エルマは再びカラスを指差す。
 言われるがままに朽ちていくカラスをみる。
 カラスは電線から落ち、身を地面に落としてもこちらを見ていた。
 そう、泣声ひとつ上げずにじっとこちらを見ているのだ。


「あ…」


 そこで一角はやっと納得がいった。


「使い魔……か?」
「そうだ、私を探している教会の使い魔だろう……統括は私がこの国に居る事しかしらないからな」


 一角答えにエルマ満足そうに頷く。
 そして一呼吸おいてわざとらしく声をあげる。


「この姿を見られたら間違いなく仲間だと思われただろうな」


 一瞬の間、そして…


「謀ったな!!?」
「悪いな、二度とないチャンスだったからな」


 エルマは悪びれも無く言った。
 今の状況……エルマは身長差があるため一角の首にぶら下がっているような状態だが、他から見れば子供がじゃれ付いている様にしか見えない。
 そして、いつから見られていたか分からないが、もし最初からだった場合、一角は退魔師であるのに異形と仲良くおしゃべりする異端者だ。
 つまり、教会からすれば敵なわけで……
 これから、と言うのはこういう事だったのだろう。


「なぁ、私に協力してくれないか?」


 エルマは今更なセリフを言う。
 同時に一角の首に自分の指先を当てる。
 おそらく断れば殺す、ということだろう。
 一角は少し考え。


「まぁ、困ってるんなら手伝ってやるよ」


 と、言った。


「ちょ……良いのか!?」


 一角の様子にさすがのエルマも驚いた。
 いや、仕掛けたのは自分だがこうもアッサリ頷くとは思わなかったのだ。


「いや、良いのかって……断れない状況だし、困ってるんだろ?お前」


 たいして一角はノンビリと言う。


「お前っ!?いいか!少し考えれば私の魔力が尽き掛けてるのはわかるだろう!?」
「ああ、さっき言ってたしな」
「つまりこの一撃さえ防げれば勝ったも同然!あとは教会か統括に私を突き出せば・・・」


 エルマは予想外の展開についつい説明してしまった。


「いや、いくら俺が馬鹿でもよ、そしたらお前が死ぬってくらい分かるって」
「私は吸血鬼で異形なんだぞ!?」


 そうだ、自分は吸血鬼、人間の敵なのだ。
 しかし一角は何でもない様に言う。


「つってもよ、お前……大悪党ってわけじゃないんだろ?」


 そう、自分でそう言ったのだ。


「だが、私は悪党だぞ?」
「悪党でも良い悪党と悪い悪党が居る」


 一角は溜息を吐いてから。


「少なくとも根っからの悪党には見えないからな。事情とか色々あるんだろ?」
「なにを根拠に……」
「根拠ならあるぜ」


 なんだと?とエルマは呻いた。
 少なくとも一角にそこまでの情報を与えた覚えが無い。


「俺に多少なりとも身の上を話したし、今だって自分が不利になる事言ってるし」


 エルマは押し黙った。


「まぁ、詳しい話は後で聞かせてもらうぜ、とりあえず家に行こう。ここに居たらまずいだろ?」
「ああ、わかった・・・」


 二人はこの場を後にした。












 To Be Continued...

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