天夜奇想譚 第四話~ 誤解から生まれる物語


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作者:扇

タイトル:蛇神と少女の幻想曲~



 その日は“仕事”も無く、半ば遊びの部活も休みで穏やかな一日のはずだった。
 しかし、その予定もつい先ほど費えてしまったからたちが悪い。

「・・・っ!?」

 気づかれないように驚きを噛み殺し、焦る心を押さえつけながら考える。
 見てしまった光景はルールに反する物だ。むしろ制裁が必要になる可能性すらあるレベルの事件である。
 魔術を堂々と一般人の前で使う・・・これは組織に籍を置く退魔師としての立場では報告を行い、適切な処罰を下さなければならない。
 が、相手をよく知る先輩としての立場では何とかもみ消したいのだ。

「あいつは・・・・くそっ、いつの間にこっち側へ踏み込んだんだ」

 相反する立場が拮抗し、最終的に勝利したのは私事だった。
 幼馴染みにして後輩、羽久いずもを見捨てるわけにはいかない。
 それが例え背信行為であろうとも、譲れない物は譲れなかった。

「授業が終わったら呼び出すか。ったく、厄介事の権化だよ・・あいつは」





<蛇神と少女の幻想曲~第四話~ 誤解から生まれる物語>





 集団昏倒事件も“色物が揃ったあのクラスじゃ仕方がない”と華麗にスルーされ、最終的に事件へと発展しなかった2-B。
 授業の時間が減ってラッキー的な反応が大多数を占めるのは如何な物かと実行犯は他人事のように思うが、面倒ごとに発展しなかったので余計な口を挟むつもりはない。

「五月蠅いのが騒ぎ出す前に帰――――」
「誰がやかましい奴だ!あたしは物静かだぞぅ?例えるなら南極のように。クールでしょ?って、リアクション無しで何処へ行くマイフレンド」
「南極もすっかり温暖化が進み、棚氷も景気よく崩壊してるもんね。うん、自分を過大評価しない姿勢は評価するよマイフレンド!」
「いつもながら笑顔でさらっときついなあんた!」
「そ、そう?割と思ったことを素直に口にしただけなんだけど・・・」
「余計タチが悪いわっ!これだから無意識の毒吐きさんは・・・」

 HRが終わると同時にさっさと帰ろうと画策していた硯梨だったが、やはりというか当然というか、妙な所だけ有言実行の親友にがっしりと制服の裾を掴まれていた。
 この調子では逃がしてもらえる確率が酷く低そうである。

「ブツブツ呟いただけで怪奇現象を起こせるのならあたしにも教えろ。トリックだろーが、マジモノの魔法だろーがどーでもいい。だって面白そうだ!」

 あまりにも予想通りの展開に、硯梨は逆に困ってしまう。
 確かに教えたところで害はないだろう。むしろ自分にはない機転と発想を持つ存在なので、術式開発の手助けになる可能性が高い。
 こちらの邪魔さえしないのなら巻き込んでしまっても問題ないような気がしてならない。
 しかし一応は他の意見も伺いたいわけで。

『どう思う?』
『私は足枷になると判断します。仮に戦闘時に近くにいた場合、守るという余計な手間が発生する可能性が非情に高いのではないでしょうか?』
『ん、それは大丈夫。ウチの家訓・・・と言うかお母さんの教えにこんなのがあるの』
『はて、どのようなものでしょう?』
『“戦いとは一期一会の出会いの場。障害になるのなら親兄弟でも塵芥と思え”って』
『何処の修羅の家系でしょうか?私のデータベースによれば一般家系とはかけ離れた発現だと判断します。控えめに言って異常です、狂っています』
『うん、ちょっと独特だと私も思う』
『ちょっと、ではなく最大級に独特です。まぁ、この件はおいおい議題にすることにしましょう。余談ですが、私は少々マスターを真人間扱いしすぎた感があると判断します。本当に申し訳ありませんでした』
『な、何を言うのかな!?私は何処にでもいる無個性な女の子だよ!?』
『そんなあり得ない話はどうでもいいので、今は目の前の問題を片づけましょう』
「これから末永く一緒にやっていく仲じゃないの!?相棒の言う台詞じゃないと思わない?ねえ、ねえってば!?」

 思念通話で意思疎通を行っていたのも忘れ、硯梨は神無の修められたバックをガシガシと振りながら大声で抗議をしてしまう。
 しかしそれは他人から見ると奇行でしかないわけで――――

「その奇行は何だ!?質問と答えの関連性が見えないぞ?やっぱ、近所で評判の精神科でも紹介しようか・・・?」
「違う、違うって!?私は壊れてないし病んでも居ないからっ!?」

 自称普通の少女はやってしまった、と必死になって弁明をするが無駄である。
 辺りから漏れ出すひそひそ声。ヤバイ、これは激しくマズイ事態だ。

『・・・頭に衝撃を与えれば記憶が飛ぶかな?』
『マスター、些細なことで一々武力介入していてはキリがありません。現在置かれている状況を脱するには一刻も早くこの場を離れるのが最善手と判断します』
『えーと、冗談だよ?クラスの仲間に術式なんて使わないよ?』

 神無としては否定した行為を既に躊躇うことなく行っている事実につっこみを入れたかったが、そこは硯梨のためだけに生み出された存在である。
 思った事をあえて口にせず、代わりに話題を転換しようと食いついてきそうな情報をばらまくことにしていた。

『さて、こんな状況だからこそ報告せねばならない事項があります』
『何かな』
『昼に発動した術式を何者かに関知された模様。私が緊急展開した隠蔽術式に不備があったわけではなく、あくまでもイレギュラーとして捕捉されたようです。ぶっちゃけ視認対策はしていませんでしたので、当然と言えば当然の事態と判断します』
『素朴な質問だけど、私が魔法使いになったことって隠すことなの?』
『私としてはどうでも良いことなのですが、一般的な定義として“神秘は秘匿されなければならない”という概念が存在するそうです。故に術式をおおっぴらに宣伝することは、広義の意味での魔法社会に対する挑発行為と受け取られる可能性が非常に高いと判断します』
『じゃあ月は?自称神様が普通にやりたい放題町を闊歩してるよ?』
『アレは特異な例でしかありません。野の獣に人の法が及ばないと同じく、人外の筆頭たる創造主も同様に枠の外。そもそもにして前提条件が違うのです』
『せっかく何でも出来る技術なのに勿体ないね・・・』
『さてマスター。本日何度目かカウントをあえてしていないアドバイスがあります』
『?』
『言葉のキャッチボールの最中に黙りこくるのは危険かと。ご友人が可哀相な人を見るかのような目でマスターを見ていますので』
『なっ!?』

 興味深い話だったので、つい意識を神無に中心に向けていたのが悔やまれる。
 せっかく一度は否定したのに、疑惑を上塗りしてどつぼに嵌ってしまった。

「だからあっちの世界にいくなぁ!?話を聞いてないだろお前!」
「私にだって色々事情があるんだから仕方がないじゃない!あんまり深く追求すると、また黙らせるよ!?」
「うわ、出たよ豪腕発言。やっぱし何か隠してるな?あたしの目はごまかせないぞ。さぁ、マックで尋問タイムと行こうか・・・・」
「あ、あれ、学校が終わったらみんなで遊びに行くんじゃ?ダメだよ、約束破るのはいけな――――」
「あんなの本気にしてる奴居ないし。そもそも同意の声が上がらなかったからさー。はい、ってことで障害無し。キリキリ歩けー!」
「何だか理不尽だよぅ・・・・」

 さすがの硯梨も悟った。この相手は何度ねじ伏せても諦めそうにない事を。
 神無は秘匿しろと言うが、別に一人や二人に話したところで誰も問題視しないはずだ。
 腹を割って話そう・・・・そう決めた時、何処かで聞いたことのある電子音が鳴っていた。

「悪い、ちょっと電話。はいはい、羽久・・・・ああ、あんたか。お金ならないわよ?え、違う?何よ。今言いなさい。ったく、貸し一つだかんね?今から行くから何処にも行かずに待ってること!」

 最初はよそ行きの声だったいずもの声が急に砕け、携帯を閉じる頃にはすっかり不機嫌になっていた。
 何があったのかを察することは出来ないが、どうも嫌な予感がしてならない硯梨である。

「あ、用事?じゃあ又今度で――――」
「さっくり終わらせるから着いてきなさい。糞馬鹿に蹴り入れたら速攻マックだかんな!」
「はぁ、仕方がないなぁ」
「うっし、ヒァウィゴー!」

 いつもながらハイテンションの友に苦笑しながらも、仲良く並んで歩き出す硯梨だった。





-校舎裏-





 硯梨は汗を一筋垂らし、嫌な予感が的中してしまったと首をロボットのように動かした。

「あ、あのさ、私思うんだ」
「?」
「確認するけど“幼馴染みの先輩”から“人には聞かせられない話がある”って呼び出されたんだよね?」
「うむり、概ねその通り。そこに何か問題があるというのか、すず君」
「それって俗に言う告白なんじゃ・・・・」
「無い、それは無いから大丈夫。まぁ見てなさい、どうせ鍵がないから私の部屋の窓を使わせてくれとか、そんなしょーもない頼み事だろうし」
「うっわ、べったべたの幼馴染み関係。私はここで待ってるから行ってくるといいよ」
「あいよっ。先に帰ったら家まで押しかけるからな?」
「はいはい、判ったから行ってきなさいな」

 小走りに駆けていくいずもが遠目に見える一つ年上の男、硯梨も少しだけ交流のある登米修慈に跳び蹴りをぶちかます姿を青春だなーと眺めていると相棒は言う。

『音声拾います。術式は探知されるでしょうが、その点私は科学と魔術のハイブリット。物理手段での集音を逆探知できるものならやってみろと判断します』
「盗み聞きとは悪趣味な・・・あれ、今何か聞き逃せない言葉を聞いたような?気のせいかな?」
『術式が探知される、と言う点でしょうか?』
「そうそう。あまり付き合いのない人だけど、一般人じゃないの?」
『先ほどの報告を覚えておられるでしょうか?姿を見られた相手が彼です。私的には敵性対象と認識しており、マスターが思うような野次馬根性で盗聴を行っている訳ではないのです』
「・・・そう・・・なんだ」
『納得して頂いたところで傍受した会話の再生開始します』

 硯梨は人外以外との戦いの予感にグッと拳を握るが、今はより興味のある恋愛トークに興味津々で唾を飲み込むのだった。





-その頃-





「いきなり蹴るなよ!?何を考えてるんだ!?」
「黙れ。あたしは忙しいんだ、来てやっただけ有り難いと思いなさい!」
「上から目線だなぁ・・・おい。仮にも年上だぞ?少しは敬えやゴラァッ!」
「じゃあ、例えばどんな面であたしより優れてるってのよ。いつも赤点ギリギリ、遅刻欠席は当たり前、人格的にダメ人間のくせに」
「・・・・」
「黙ってないで早く。ほら、友達を待たせているんだってば!」
「た、たとえば・・・・」
「ば?」
「って、まてぃ!?何か話が違わないか!?何故に呼び出した俺が説教されにゃぁならんのだ!前から口酸っぱく言ってる通り、力業で話の流れを変えるんじゃねぇよ!?」

 ああ、やっと気がついた。
 いずもはそんな呆れた様子で頭を振っていた。
 全ては掌の上の出来事、反応まで予定の範疇に収まっていると言いたげである。

「うっさい、からかうのも飽きたから本題をさくさく言え!」
「ちきしょう・・・・じゃあ話す。俺って、いずれは本業にしようと思ってるバイトをしてんだ。これは知ってるな?」
「マウントパンチをしても吐かなかったバイトでしょ?」
「おう、その謎のバイトなんだが、あまり人様に見られててはいけない技術がないと出来ない仕事なわけだ。
 回りくどいかも知れないが俺が言いた・・・・・って、人を犯罪者みたいな目で蔑むんじゃねぇ!合法だよ!いうなれば警察の仲間みたいな仕事だぞ!?」
「五月蠅い犯罪者予備軍。さては白い粉でも売りさばくような――――」
「だぁーっ、口を開くな阿呆!もう直球でいく!俺は統括に属する対魔師だ。こういえば判ったか?俺が何を言いたいかを」
「・・・警察行こう。大丈夫、長年の腐れ縁のあたしが一緒に出頭してあげるからさ。大麻師って直球のネーミングは上の決定?それとも自分で?」
「・・・対魔師だと何故にポリスにお縄?」
「“大麻”を陰で売りさばく“師”とかいう役職なんでしょ?お天道様の下は歩けない仕事だとあたしは思う。むしろ何が悪い的にポカンとしてるあんたがありえない」

 おかしい、これは雲行きがおかしい。
 この街で魔術サイドに転んだならば、統括を知らないはずがない。
 ひょっとして自分は何かとんでもない勘違いをしているのではないか?
 要領を得ない答えばかりを寄越してくる幼馴染みに、意を決して修慈は言う。

「お前さ、魔術使えるようになったんだよな?」
「病院行け」

 何の遠慮もなくばっさり切り捨てたれた。
 オブラートに包む事を知らぬ少女は直後に握り拳を作ると、そのまま攻撃体勢へ移行。
 いよいよもって頭がおかしい少年の顎を打ち抜いていた。

「その手の話はMMRにでもたれ込んでろ!用件はそれだけかっ!」
「脳がっ、脳が揺らされっ!?」
「よし、無しと。次に同レベルの電波話で呼び出したらコロース。おーけー?」
「わ、わかった。一応断りを入れておくが、俺はこの目で見たことだけを――――」
「あっはっは、地獄で懺悔しろっ!」

 ごしゃ

「待たせちゃってごっめーん、お詫びに今日はあたしが奢るから許せー!」

 足下に転がっていた拳大のコンクリート片を全力投擲。
 電波ちゃんの腹に投射物をめり込ませ、いずもは暇そうにぼんやりしている親友の元へと駆け出していく。
 残されたのは脂汗を浮かべながら両手を地面につけ、荒い呼吸を繰り返す修慈だけだった。

「お、おかしい・・・何処で何を間違えた?あいつが俺に嘘を言うはずがないし、術者は別人なのか?ってもあの時騒いでたのはいずもしか・・・・いなかったよなぁ、多分」

 実は身を隠すことを優先したため、限定された角度からしか現場を見ていない。
 しかしながら術式発生点の中心に幼馴染みが居て、なおかつ呪文とおぼしきよく判らない言葉を宣っていた以上疑う余地はないはずだ。
 まさかとは思うが、別の第三者の仕業なのだろうか。
 もしそう仮定すると、無関係の少女を囮にした罠の可能性を視野に入れる必要がある。

「・・・このまま調査を続行しよう。ありえんし、考えたくもないが、あの短絡女がしらを切ってるってのもありえん話じゃない」

 異形はともかく未だ対人戦の経験がない修慈だが、素人が突然力を手に入れて暴走する話はよく耳にしていた。
 ある者は犯罪に手を染め、ある者はそのまま魔に落ちる・・・そんな話を。

「最悪の場合・・・・俺が・・・」

 さりとていずもに恋慕の感情を抱いて居なくとも、隣の家には色々と世話になっている。
 不幸な事故を引き起こさぬため、手のかかる妹分を日の当たる世界に連れ戻さねばならない。
 責任重大。誰に知られることなく、自分一人で真実に辿り着く難しい仕事だ。

「しばらく仕事を休んでも構わない。頑張れ俺、負けるな俺!」

 この時点での修慈は、まさか硯梨が犯人とは夢にも思わずシリアスに悩むのだった。





-カラオケ店-





『と言うことで、私が世界で最も高性能かつ最強の頂きに君臨する予定の神無と申します』
「そして余は神様です」

 さすがに杖が声を出している姿を見られると社会的に危険な為、密閉された空間を手軽に借り受けられるカラオケへと来た硯梨一行。
 途中で子供相手に”俺のターン!”していた居候を回収。簡単な成り行きを説明した後に自己紹介と洒落込んでいたのだが、気がつけば混沌とした状況になっていた。
 さすがにこんな説明では信じまい、と硯梨は溜息を一つ。
 しかし、こちらがフリーダムなら相手もまた好き勝手のエキスパートだったようだ。

「へー、凄い!秘密は守るから混ぜて混ぜて!」
「おうおう、愉快な娘じゃのう。残念ながら術者になれるほどの才も魔力も持たぬようだが、んなものどーでもよい。いずもと行ったか?余の眷属に加えてやろう!」
「いよっ、さすが神様!懐が拾いっ!ってことで硯梨に杖をやったならあたしにも面白アイテム何かくださいな」
「うーむ、使い捨てのカートリッジすら初動に必要な魔力がないので使えん。何か考えておくのでこれでも持って行くとよぃ」

 月が取り出したのは金色の指輪だった。

「どんなステキ効果が?」
「本来は硯梨のネックである防御を補うために作った物なのだよ。余の鱗を加工し生み出した故、持ち主を炎熱から保護・及びあらゆる病魔・異常から身を守ってくれる。太陽とは炎の王であり、陽光は不浄を浄化するという概念を活かした常時装着推奨アイテムかのう」
「ふーん」
「生体認証パターンをぬしの物に変更した。これを手放さぬ限り、寿命まで健康でいられることを保証するよ・・・・って、何が不満なんじゃ?」

 てっきり喜んでもらえると思っていた月だけに、頬を膨らませて不満そうな少女に困惑していた。
 おかしい、人間の望みは無病息災と遠い昔に教わった。
 まさか現代では価値観そのものが変わってしまったのだろうかと不安になってしまう。
 しかし、神に不安を抱かせた数少ない少女の口から飛び出したのは全く別物だった。

「確かに凄いとは思うけど、遊び心が足りない。すずもそう思わない?」
「え?私は基礎が大事だと思う。広域殲滅とかの小細工はその後だよ」
『マスターは大火力の前に手数で押せて制御も容易な、ボクシングで言うところのジャブを重視するタイプですからね』
「でもさー、どうせならどかーんとか、ばかーん、みたいなのがいいじゃん!」

 マイク片手に物騒な発言を繰り返すいずも。
 その姿は一般的にはかなりアレだが、感性が限りなく独自路線を行く神様には高評価だったようだ。
 なにせお気に入りの娘ですら真人間を装っていても発言内容は病んでいる。
 少なくとも基礎が大事と言いつつ、攻勢術式を引き合いに出す人間がまともなはずがない。

「わかったわかった。繰り返すが、注文に応じる性能を持つ魔導具を開発しておこう。神様嘘つかない、余を信じて気長に待つのだよ」
「はーい、嘘ついたら針千本口に入れてグーパンチだかんね!」
「はっはっは、さらりと致死ダメージ級の罰ゲーム!このノリ、この切れ味鋭いツッコミ、余は得がたい人材の発掘に成功したぞっ!」
「おうさ月の兄ちゃん。これであたしたちは友達だ。言っとくけど、神様だろうと化け物だろうと敬わないし、恐れもしない。その代わりため口でいいっしょ?」
「かまわんよ。ちなみに余の眷属で敬語を使わないのはぬしで二人目。愛玩動物らしく今後は遠慮無く頼ってくれたまえ」

 二人はがっしりと握手を交わし、実は温度差のある親交を深めるのだった。
 いずもとしては一風変わった友達が出来たという純粋な喜びを。
 対し、月は毛色の変わった人間の餌付けが楽しい程度の感情しか抱いていないのだが。

「うっし、事情はだいたい理解した。んじゃこれからは月の兄さんと神無たんの歓迎会だ。あたしの歌を聞けーっ!」

 このためにマイクを手放さなかったらしい。
 流行の曲が流れ始め、いずもの歌声が軽快に紡がれていく。

『私の歌うという行為は保存された音声データの再生であり、完璧な模写でしかないため無駄と判断します。聞き手に廻りましょう』
「意志があるならデータに頼らず自力だけで己を表現しろ!かの有名な自己成長型ナビゲーションシステムですら自主的に歌うし諺だって小粋に言えるんだ。世界最強を目指すなら出来ないなんて言っちゃダメじゃん」
『む、挑戦状ですか。売られた喧嘩は買いましょう。芸能面でも高性能を見せつけ、私の優秀さに舌を巻くがいいかと存じます。物語の中とはいえ、世界タイトルを幾度と無く獲得した偉大なるアスラーダ先輩にだって負けません』
「いいねー、いいよー君。主人と違って空気が読めるなっ!」
『当然です。従者として円滑な場を提供するために必要な技能ですので』
「・・・・ふーん」

 冷めた声で呟く隣の少女に気がついたのは月一人。
 物騒な術式が構築されていく様を見て嘆息するが、止めるつもりはない。
 子供同士の児戯に口出しするような無粋な真似をしては神の名折れである。
 そこで飲み物を一啜り。いかなる痕跡も残さぬよう、最強クラスの防御術部屋の内部にこっそりと展開しておく。

「あいつはさー、昔から我が道を行くんだよねー。困ったら基本的にグーだし」
『ええ、さすがの私も予測演算不能の行動を突発的に取るマスターには困っています』

 しかし、そんな気遣いに気づかない一人と一本は火に油を注ぐことを止めなかった。
 硯梨の過去の奇行に花を咲かせ、着火の瞬間をどんどんと早めていたりする。

「ねぇ、親友と相棒・・・・ちょっとお話いいかな?」
「なんだね?」
『何かお困りですか、マスター?』
「うん。話を聞く限り、“暴力的”で“人の話を聞かないタイプ”なんだよね、私」
「要約すると正しくその通り」
『いずも様から得られたデータを検証しましたが、間違った結論ではないと判断します』
「なら、さ・・・こういう事をしても二人の思惑通りだよね?」

 脆くて短い堪忍袋の緒が切れたことを告げ、硯梨は脳内で最後の処理を開始した。
 “空気”、“圧縮”、“伝播”を結合。構築名、音波の炸裂を定義。
 しかし完成にはまだ早い。
 術式展開プロセスに割り込み、並行処理開始。
 音波の炸裂に追加で概念を付与。属性に“振動”、効果対象を個体名“いずも”、及び魔導具“神無”のみに限定。

「おまっ!?」
『攻撃感知。狙いは・・・我々!?』

 教室に地獄絵図をもたらした音波の炸裂は、圧搾空気の解放による衝撃波が主軸だった。
 しかし今回はより効率の良い破壊を求め、ピンポイントに絞った振動波だ。
 単純な衝撃で貫くよりも深く、芯に残る改良版は伊達ではない。


『警告、内部機構にエラー発生。損傷軽微で自己回復可能ではありますが、唯一無二のパートナーに何故このような蛮行を?私は理解しかねます』

 全身をびくんと震わせ卒倒したいずもの代わりに抗議の声を上げたのは神無だった。
 最小威力に絞っているようだが、防御の術を持たない一般人に耐えろという方が無理だろう。

「月、この子の人格設定失敗してないの?」
「その道で神様と崇められる異形に任せたんじゃがな。ま、余に言えることは唯一つ。一歩離れて見守った感じ、割れ鍋に綴じ蓋。アクの強い物同士、時を置けば上手くいきそうじゃないかと思うのだよ」
「月までそんなことを!?私は悲しいよ・・・思わず手を出したくなるくらい」
「ええい、キリがないからやめい」
「そ、そうだね。ついカッとなると手が出ちゃうのは悪い癖だよね・・・うん」
「それよりも、余は一つ課題を出そうと思う。聞けば手頃な退魔師が居ると言うではないか。本来ならば蕎麦屋で見つけた幸薄そうな小娘をターゲットにしようと思うていたがの、手近なそちらを倒すのだよ」
「ん、課題なんて言わなくてもそのつもり。対人戦には元々興味があるもん」
「宜しい。ならば邪魔の入らぬ戦場は準備しておこう。明日にでもさっくり死合を挑むとよい」
「有り難う、陰に日向に手を貸してくれて感謝してるよ」
「なぁに、近々借りを返して貰うから気にせず構わぬわ。それにの、ぬしは現代における余の巫女。昔と同じ鉄は踏まぬ為、強くなってくれればそれでよい。神無のように上を見すぎても困るが、弁えた硯梨ならば問題ないじゃろ」

 いつも笑みを浮かべ、飄々としている月の表情に一瞬陰りが差していた。 
 硯梨はそれを見逃さなかったが、あえて口を出さない。
 神様も人間と同じように触れられたくない過去があるのだろう。
 ならばそれを無理に問い質すのではなく、自分から話してくれるのを待つべきだ。
 どこまでの意味合いが込められているか判らなくとも、自分のことを巫女と呼んだからにはいつまでも心を開かないはずがない。
 古来、巫女とは神の言葉を伝える者であると同時に伴侶であるとさえ言われるのだから。

「努力は惜しまないから大丈夫。でもせっかく遊びに来たんだし、少しは遊ぼっか。月、いずもを起こせたりしない?」
「任せなさい。これくらい一発じゃ」

 お安いご用と指を鳴らした月は、予備動作無しに小さな魔法陣を発生。
 魔の光は医療用のCTスキャンのようにいずもの体を頭から足までを通り抜けると、あっけなく消失した。

「生体パルスをちょちょいと弄り、ついでに体内バランスも整えた。一曲歌うまでには起きるじゃろーよ。元々脳を揺らされて気絶しとるだけだしの」
「さすが神様だね。じゃぁ・・・歌っちゃおうかなっ」
『お邪魔してはと思い口を噤んでいましたが、マスターの歌唱力に期待します』
「うー、そう言われると照れちゃう。普通だよ、普通」
「余は期待で胸がいっぱいです。歌えそうな曲を入れたから頑張るのだよ」
「はいはい、それじゃあ・・・コホン」

 リズムを刻むのは月の手拍子と、神無のコアが彩る光の点滅だ。
 何やら敷居が高くなってしまったが、失望させないためにも頑張ろうと思う硯梨だった。



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