天夜奇想譚 御屋敷訪問


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作者:雨後

タイトル:御屋敷訪問






 激動の夜を過ごした彼らは、一旦は街に隠れていた。
しかし銀自身の姿が鎧のまま一向に変化しないため、人目につかない所を転々としていた。
途中銀の目にはサラリーマンと女子高生と主婦が森から走ってきている現場を目撃した。
しかし銀から約五百メートル先のことだったのでよく分からないが、人間の速さではなかったような気がする。
何かに追われているような気配もあった。

「しかし物騒な世の中だ」
「ん?何故ですか銀」
「病院内で日本刀を振り回す奴がいたんだ」

命に会う前に銀はサムライを再起不能までに殴り飛ばした。なぜか病院内に日本刀を持った男がいたのだ。

「んー、とりあえず一旦私のうちまで行きましょう」

このまま隠れていても時間の無駄は明白であり何かアクションを起こさなければ現状は変わらない。
それなら西園寺家で色々考えたほうが合理的だ。

「分かった、住宅地の方か?」
「えーと、あの山まで行って下さい」

命が指差したのは、天夜市の東。まだ人の手があまり加えられてはいない山だ。

「あっちか?山の中に住んでいるのか?」
「いえ、山の麓の方です」

とりあえず銀は命を抱きかかえながら、ビルの上を飛んでいく。人間はあまり上を見ない動物だ。
銀は山まで行くと命の指示通り山を駆けて行った。



「あっ!見えてきましたよ」

命が指しているのは山の中ある城だ。
それも西洋館であり、どう見ても日本にあってはならないようなイギリス様式あふれる御屋敷だ。

「命、あれがそうなのか?」
「はぁい、あれが私の家です」

銀はとりあえず、洋館まで駆け抜けてきたが一つ疑問が浮かんでいた。それも単純なことだ。

「命、俺は今人間の格好では無いんだが・・・・」
「ああっ、そんなことはお構いなくですよ」

何がお構いなくなのかよく分からないまま、ついに洋館前までたどり着いてしまった。其処には鋼の巨大な門がそびえ立っていた。

「でっ・・・でかい」
「そうですか?私はそうでもないですよ」

命は門の前のインターホンを鳴らした。するとインターホンから声がした。

「お待ちしておりました。どうぞお入りください」

そう言うと、門が自動的に開き始めた。どうやら歓迎はされているようだ。

「どうする命。」
「なにがですか?」
「門が開いてしまったぞ」
「当たり前ですよぉ」
「いや、そうなんだが。よく考えろ、今の俺はギンギラ銀の鎧男だぞ」
「ああぁ、そんなことですか。大丈夫です、私の家族はその手の人ですから」

その手と何かは良く分からないまま銀と命は屋敷の中に入っていった。
そこに広がるのは西洋庭園と石畳の長い道、そして木製の扉。どこまでも西洋館である。

「命、やばいぞ。緊張してきた」

命は首を傾げ

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」



そしてついに扉が開かれたッッ!!
背景効果音はゴゴゴゴゴで間違いないと思わせるほどの重厚感と、時間がゆっくり流れていく感覚。
そこには一体誰が待ち構えているというのかッッ!!

「ゴクッ」

固唾を呑んだ銀はついつい体に力が入っていた。異形となった今、銀の五感は人間の感覚を越えていた。
ゆえにこの館の中に強敵が居る事もすでに分かっていた。

ゴゴゴゴゴゴはまだ鳴り止まず、ゆっくりと扉は開かれている。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴよいしょよいしょゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

銀自身すでに戦闘態勢に入っているか。集中力が扉の隙間一点に絞られ世界がゆっくり動いているようにも感じる。

ゴゴゴゴよいしょよいしょゴゴゴゴよいしょよいしょゴゴゴゴ

こんなにも一秒が長く感じられるのはこの体のせいかも知れない。まさに戦いはもう始まっているといえるかもしれない。

ゴゴゴよいしょよいしょゴゴゴよいしょよいしょゴゴゴよいしょよいしょ


「銀、扉が開くのが遅くありませんか?」
「・・・はい?」

自分の集中力のせいかと思っていた銀はよーく考えた。確かに遅すぎるということ、所々に掛け声が聞こえること。確かにおかしい。

「銀、開けてあげて下さい」
「わっ・・・わかった」

ついに銀は、おそるおそるその扉に手を掛けたッッ!!
そこに居たのは体長百センチぐらいの小さなメイド六人が扉を押していたッッ!!

「銀どうしたんですか」

銀はあまりの光景に僅かに時が止まった。


「み・・・命、今俺が見たことありのままを話すぞッ!俺はこの扉を開けようと手を掛けた。その扉の裏では小さなメイドが六人で開けようと必死になっていたんだ!!な、何を話しているか分からないと思うが俺にも良く分からなかった。頭がどうにかなりそうだった・・・。メイド萌とかファンタジーとかそんなものじゃない!もっと恐ろしい・・・メイドの片鱗を味わったんだ・・・」


命は頭を傾げながらも扉に手を掛けた。そこにはメイドがいるわけだが、命はいたって冷静だ。

「おかえりなさいませ~~」

メイドたちはエントランスで横一列になり頭を下げた。

「はい、ただいま帰りました」

命は三人のメイドに連れられ部屋に向かっていった。

「こちらです~~」

銀は残り三人に連れられ階段を上がる。どうやら四階建てのようだ。長い階段を上っていった先には、隠しようともしないオーラが渦巻いていた。

「ここか?」
「はい~ご主人様がおられま~す」

メイド達は、扉を開け案内した。其処に優雅に座っていたのは。

「やぁ少年、君ならやってくれると信じていたよ」

あの変態紳士に間違いはなかった。とりあえず銀は変態紳士を自分の射程内に捕らえた。

「ところで君に一つ質問がある」
「なんだ」

変態紳士はおもむろに立ち上がり、メイドを持ち上げてこう言った。

「このメイドを見てどう思う」

僅かに静寂、そして銀はすでに何をすべきか決まっていた。

「すごく・・・ぶっ飛ばしたいです」

メイドは瞳に涙を溜めていた。しかし無常にもメイドは宙に舞った。

「おおおおおおっらああーー」

変態紳士にグーパンチをお見舞いした。体重が完全に乗った渾身の一撃だ。

「俺の緊張と集中力を返せぇぇ」

拳は紳士の顔面を確実に捉えた・・・と思っていた。

「なかなかの拳だが、修業がたらんよ」

紳士はすでに拳の射程ギリギリの位置に立っていた。完全に読まれていたのだろう。メイドをキャッチし下ろしていた。

「君にはまだ話さなくてはならないことが多くある。とりあえず、落ち着こうじゃないか」

紳士は部屋から出て行った。メイドも付いて行ったが、一人だけ残っていた。

「ごっ・・ごあんないします~」

先ほど宙に浮いた子だ。さすがに驚いたようだ。

「すまなかった、驚かせてしまって」
「い・・いいえお客様」
「すまない、頭に血が昇ったんだ」

銀はメイドの頭をなで部屋を出ようとした

「おおお・・お屋敷は広いのでご案内します。西園寺の皆様がお待ちです」

ついに家族と対面の時がきたようだ。
銀にしてみれば、これから全てが始まる。メイドに連れられて、大広間に通された。
そこには男性一人、女性一人、紳士一つに少女が一人と命だ。

「君が銀君だね、噂は聞いている。私が西園寺家現頭首、西園寺聖だ」

男性が挨拶をした。
優しそうに見えるが風格オーラ共に余程の実力者だと分かる。どうやらこの人が父親だろう。
後は母親に妹と言ったところか。

「そして私がアルフレット・バーンシュタインだ。君を異形にした張本人なわけだ」

そして紳士、バーンシュタインと言うらしい。この男が銀を異形にしたことは間違いなさそうだ。

「さて、立ち話もなんだ。お茶を飲みながら話そうではないか」

言うと紳士はメイドに指示した。

「じゃあ私も行きますね、あの子達ではキッチンが危ないわ」

女性、西園寺光はキッチンへ向かっていった。
物腰は静かでやはり命の母らしく和風の美しい女性だ、洋館には似合わない着物姿であってもまるで違和感がない。
そういえば洋館で紳士以外はみんな着物である。

「さて、どこから話しましょうか」

西園寺聖は徐に話を切り出した。
現状を全て把握しているのは、聖と紳士ぐらいだろう。此処で情報を引き出さなくてはならない。
銀は固唾を呑んで聞いていた、さすがに先ほどの二の舞は無いだろう。聖は真面目そうだ。

「とりあえず銀君、人の姿に戻ってもらえないか?」
「お父様、それが・・・・」
「えー何と言いますか・・・人の姿って奴になれないんです」
「・・・・・」

聖は黙ってしまった。聖だけでなく銀を含める全員が。

「そんな筈はない。君はバーンシュタインが生んだ感染者フォースデーモンだ。異形は通常感染前の姿を覚えているものだ、そして狩猟形態と変化する。君の今の姿が狩猟形態でないならば何だと言うんだ。」

聖は考えた。異形は人の姿をしなければ人間の社会に入ることは困難である。人の姿で近づき、捕食するものが大半である。

「バーンシュタイン、君が何かしたのか?」
「いや、特に何もしてないさ。おかしいとすれば、この男はあまりにも早く感染者となったところか」

通常、汚染し異形になるまで最短数日かかる所を、銀は数時間で異形となった。異形になる者に適正があったとしても、これは早すぎる。

「それにこの方は鬼なのですか?」

これは妹、西園寺嵐の言葉だ。小さい命といった感じだ。そういえば、この一家は総じて退魔士なのだろうか?

「んー、それも分からん。なんせ分かっている能力が鎧だけだからな」

バーンシュタイン本人も何も分かっていない様子、どうやら全てを知っているわけではないようだ。

「記憶が無いイコール人の姿が出来ないといった所だろうね、実に興味深い」

聖の眼がおかしい、どう見ても獲物を見つけた眼だ。

「同感だ、まだ私の知らないことがあったとは」

変態紳士もおかしい。この男たち何なのか。何かされる事は明白である。

「命助けてくれ!!俺は何をされるんだ」
「私の父は退魔士ですが、異形の研究者です」
「つまり俺は、研究材料にされるわけだな」
「はぁい~」

命はあまり危機感を感じていないようだが、今の銀には既に解剖される所まで見えていた。

「何、簡単な診察をするだけだよ~怖くないよ~」
「そうだとも。調べれば君が何者か分かるに違いない」

既に銀の両脇に立ち、腕を掴まれている。

「はっ離せ、何をするヤメローー。あー、ーたーすーけーてー」

銀は二人に引き摺られながら、大広間から消えていった。その時入れ違いで光が入っていった。

「どうしたの?」
「お父様が銀を診察するらしいです」
「そぉ、お茶どうしましょ?」
「三人で飲みましょうか。積もる話もありますし」
「そうね、三人で飲みましょうか」
「この二人は銀様が無事に帰ってくると思っているのだろうか?」

唯一冷静なツッコミが出来そうな嵐だが、元々天然の二人にはボケの自覚は無いため静かにお茶を飲み始めたのであった。



銀には感染前の記憶がない。つまり感染し、世界に存在を否定され続けているのか。それに銀は鬼でも悪魔でもない。バーンシュタイン本人ですら銀の正体が分からない今、全ては命にあるのかも知れない。命の思いの中に。
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