天夜奇想譚 夜間逃避行


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作者:雨後

タイトル:夜間逃避行



 彼女に出会ったのは、天夜市内の大きな病院だった。



俺は、ここで入院している子供達に手品や楽器演奏をするボランティアをしている。ハンカチを消してみたり、カード当て等を駆使して子供たちに笑いを届けている。彼女は、個室の病室で静かに外をみていた。



俺が彼女の笑った顔を見てみたいと思い出したのは、病院に通って二ヶ月目のこと。
彼女は、俺の手品を見てくれたことが無かった。そこで俺は、個室に入れてもらい彼女のために自分の最大限の笑いを届け続けた。彼女は初めは無表情だったが、次第に笑ってくれたり色んな話をするようになっていった。それが大体八月の初めのころだった気がする。
彼女は、客観的に見ても美人の部類に入ると俺は思っている。黒く長い髪、白く透き通った肌は現在絶滅危惧種に指定された大和撫子に違いない。と思っている。



 「■■■さんは、ファンタジーとか好きですか?」



突然彼女は俺に質問した。俺も映画とか好きだし、その中でもファンタジー物と呼ばれる物も結構見てきた。指輪とかポタとか



 「私、生まれてきてから一度も外に出たことが無いんです。」



彼女の病気のことも知っているし、それが何の病気かは現代医学ではまだ解明されていないことも良く知っている。

「もし魔法があったらとか、私を救ってくれる騎士とか、考えちゃうんですよ。・・・・変でしょうか?」

その時は別に変だとも思わなかった。
彼女をこの牢獄のような病室から出してやりたいとも何度も考えた。彼女との会話は、映画や外の話ばかりだ。一緒に映画を見たり遊園地に連れていてやりたいとも考えた。

「■■■さん、もし病気が治ったら私に外を案内してもらえませんか?」



俺はいつも通り病院に来た。彼女は検査があるらしく看護士と共に検査に向かった。
俺はとりあえず病室から出ると、廊下の椅子に見たことの無いイギリス紳士が座っていた。
とりあえずなぜイギリス紳士なのか、こんな所で何をしているのか、十秒くらい考えた。
するとイギリス紳士の方から声を掛けてきた。

「君は■■■君だね」

なぜ紳士が俺の名前を知っているのか。

「君は魔法使いにはなれそうも無いが、彼女をこの檻から救い出すには十分な男だと私は思っているわけだが。」

この紳士は一体何を申しているのか、さっぱり分からん。

「そこでだが、君の願いを一つだけ叶える代わりに私の願いも一緒にかなえよう。」

なんなんだこの変態という名の紳士は、電波な事を言っているようだが。

「あ~~返答はいらないよ、君も自身のために必要になるから。奴等から彼女を救い出すにはこれしか無いと考えたわけだよ。」
「いや、ちょっと待ていおっさ。」

俺の発言は無常にも止められ、変態紳士は指を鳴らした。そこからの記憶は俺には無かった。


 気が付いたときには病院の電気が消えており月明かりが綺麗だった、どうやら深夜の病院にいるらしい。
しかしおかしいのは、もし俺がこの廊下に居たのならば誰かが起こすはずだし、または異変に気づいて俺を病院に担ぎ込むはずだ。あぁ、ここ病院だった。しかし此処に居てもしょうがない。外に出ようとした時、俺の前に誰かが居る。

 「あのーすみません出口はどっちですか。」

すると目の前の男は腰の辺りから何かを掴み、ゆっくりと抜いていった。月に照らされたソレは光を受け獲物の俺を切り刻もうとしていた。つまり、日本刀・・・・。
いくら俺がサムライと対峙したことが無くても、今この瞬間に死を感じ取るのは簡単だったこれが殺気というやつか。俺はすぐさま踵を返し、自分の限界を越えんと走り出した。
男は何かしゃべっていたが、気にしている余裕は無かった。だが次の瞬間。

「燃えろ」

男が何か口にしたとき、俺の服が燃え始めた。なんじゃこりゃ!!

「くそっ何しやがった。」
「消え失せろ異形の者よ、まさかここまで嗅ぎ付けるとは。」
「何が異形だ、俺は人間だ。」
「命乞いならもっとマシな事を言え、自分の姿を良く見てみるんだな。」

月明かりが入るガラス越しに自分の姿を見た。
そこに居たのは白銀の甲冑と兜に身を包み、仮面から紅い眼光が俺を見ていた。甲冑も西洋風であるがどこか特撮ヒーローを思わせるスマートな鎧だった。服も燃えてなくなってしまった、そういえば熱くない。

「何だこの格好は、でも何となくカッコイイような気も」

自分の格好は元々こんな感じでは無かったか、人間てなんだ?

「ではそろそろ消えて貰おう化け物!!」

男は上段に構え、尋常な速さではない踏み込みで切りつけてきた。
キィィンと激しい金属音が鳴り響き、俺は右腕で刀を止めていた。

「何!切れんだと。」
「すまんが俺にもやる事があるんだ。い・く・ぜぇぇぇぇ」

止めた刀を弾き返し、男の懐に潜り込んだ。

「しまっ」
「おおおおおぉぉぉんドラァ」

男の胴体にラッシュを叩き込むそれも、地面から少し浮くぐらいに只管に。

「飛んで逝けぇぇ」

ラストにアッパーで完全に宙に浮かし、右ストレートを打ち込む。男は絶叫と共に廊下の反対側まで吹っ飛んでいった。

「病院では静かにした方がいいと思うよ、あぁ俺も叫んだっけ?」

自分の姿を覚えていないが、彼女の病室と彼女の顔だけは何故か分かっていた。

「こんばんは~。」
「はい、お待ちしておりました。」
「あっど~も、貴女の騎士です。まだ名はありません。」
「私は西園寺 命です、おじ様から話は聞いています。どうぞこちらへ。」

彼女、命は俺の姿を見ても驚かなかった。少しは驚いてもいいと思うのだが。

「では命様、貴女の願いのを叶えに参りました。」

命は少し照れたようだったが、時間があまり無いことに気づいてくれたようだ。病室の重厚な扉越しにも何人か集まり来つつあるのが分かった。

「では行きましょう、えぇ~と何とお呼びしましょうか?」
「何とでもお呼びください。命様」
「えぇーと、そうですね・・・」

命が名前を考えている間にも敵がせまっている。とりあえず俺は抱きかかえて窓を蹴破った。ちなみに此処は八階だ。

「ん~銀色ですから、銀と呼びます。いいですね」
「えーと私今空を跳んでいるんですが・・・」

彼女はキョロキョロと確認する。

「あぁ!ホントですね。すごいですね!」

命は抱えられながら夜空を見渡した。彼女にとってみれば例え星が少ない夜空でも感動していた。俺にはそれが一番うれしかった。

「あと、私に敬語を使わなくていいですよ。」
「なぜですか?」
「以前のあなたは、もっとフレンドリーでした。」

前の自分のことはもう分からないが、命がそう言うならそうしようと思った。自分も敬語には違和感があったし。
そして着地に成功した俺は、背後の敵は完全に無視して全力疾走で街へ向かった。そうすれば追っては来れないと思ったからだ。

「そういえば銀。」
「はい?」
「私、服がありません。」

そういえば命はパジャマのままだったことに気づいた。

「どうしましょう?」

考えた末に一旦は街に隠れて、その後命の家に向かうことにした

「そうですね、そうしましょう。街を案内してもらうのはそのあとです。」

彼女を抱えたまま、俺は走った。きっとこんな感じでよかったに違いないと自己完結していると、彼女はいつの間にか寝ていた。
まぁ本人も喜んでいるし。考えるのは翌日にした。





これまでが三日前の話だ。
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