天夜奇想譚

とつげきっ!るーずどっく小隊! 第壱話

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ryuuri

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作者:晴華流吏

タイトル:第壱話『ふぁーすとこんたくと!』






 ある春の月、暖かな日差しと優しい風が頬をなでるそんな日の事。
 英国、イングランド領の田舎道を初老の男性が馬を操る一台の荷馬車がのんびりと進んでいく。
 荷台には大量の藁と大きなトランクと、これまた大きな布にくるまれた荷物、それと丸い帽子を被った一人の栗色の髪の十八歳くらい少女が乗っていた。
 風が吹き少女のセミロングの髪がサラサラと風に煽られる。
 彼女の優しげな瞳は道の先をじっと見つめる。
 その目には期待と不安が見て取れた。
「もうそろそろ到着だよ?」
 御者の男性が少女に声を掛けた。
「もうそろそろ……か……」
 少女はそう呟き、思いを馳せる様に目を瞑る
「お忙しい中乗せて頂き、ありがとうございます」
「なぁに! 可愛らしいお嬢さんの頼みさ! それにどうせ道は一緒だしなぁ!」
「か、可愛らしいお嬢さんだなんて……お世辞がお上手なんですね」
「はっはっは、世辞なんかじゃぁねぇさ! うちの息子の嫁さんになってもらいたいねぇ」
 褒められた少女は頬を赤らめ苦笑し、そんな様子をみて御者の男性が豪快に笑う。
 そんな他愛の無い会話をしながら荷馬車は進む。
 これはある春の月、暖かな日差しと優しい風が頬をなでるそんな日から始まる物語。

 《とつげきっ!るーずどっく小隊!》
   ~第壱話~ ふぁーすとこんたくと

 少女を乗せた荷馬車は田舎町には少々不釣合いな、二階建ての家より一回り大きい近代的な倉庫らしきものがある一軒の家の前で停まった。
「ここで良いのかい?」
「はい……間違いないです」
 少女はこの家が写った写真と住所が書いてある紙を見ながら頷き、トランクと荷物を持って荷馬車を降りる。
「ここまでありがとうございました」
「いやぁ、きにすんな。このくらいお安い御用さ」
 深々とお辞儀をした少女に、御者の男性は笑顔で答える。
「それじゃぁなー」
「はい!」
 男性は馬を走らせ荷馬車は再び田舎道を走っていく。
 少女はそれが見えなくなるまで見送り、そして振り返って先ほどの家を見る。
 この家は近代的な倉庫がある以外は、この辺では良く見かける石造りの家である。
 しかし、この家の周囲には他の家はなく、村から離れた場所にポツンと立っているようだった。
「ここが……」
 少女は期待に目を輝かせ、声を漏らす。
 そしてしばしその家の扉をじっと見つめ、意を決したように一歩踏み出そうとした瞬間。
 むにっとスカートの上から何かがお尻を触る感触に少女は気づいた。
 気になって少女が振り返ると、何時からいたのか少女の横に一人の白髪白髭の老人が立っており……
「ふむ、柔らか過ぎずかと言って硬すぎず……ぷりっとしたぷりちーな御尻じゃ」
 そう言いつつその老人が少女の御尻を撫で回していた。
 突然の事態に少女の思考回路が完全に固まり、呆然とした表情でその老人を見る。
「…………」
「ほっ? どうかしたかの? ぷりちーなひっぷをお持ちのお嬢さん?」
 視線に気づいたのか老人は少女の顔をみる、そして少女と老人の目が合う。
「き……」
「き?」
「きゃぁあああああ!!!?」
 固まっていた少女の脳がやっと事態に追いついたようで、甲高い悲鳴を上げると同時に老人から飛び退こうとするが、足がもつれて倒れこみ尻餅をつくことになった。
「あいたた……」
 少女はよほど強く打ったのか、涙目でそのまま座り込む。
 そんな少女を老人はニヤニヤ眺める。
「……白か……」
「!?」
 慌ててスカートを抑えるが、時既に遅し、バッチリ見られたのは老人の嬉しそうな表情をみれば一目瞭然だった。
 それならばせめてもの反抗と、涙目の目で老人を睨み抗議する。
「な、ななな、何をするんですかお爺さんー!?」
「何って、ぷりちーなお尻を愛でておったのじゃ、ついでにぱんてぃー観賞……複眼じゃの、ありがたやありがたや・」
「そういう意味ではなく!?」
 少女の抗議もなんのその、老人は何処吹く風と言わんばかりの表情で言い放つ。
「まぁ、そんな事は置いておいて」
「そんな事!?」
「……置いておいてじゃ、お嬢さんこの家になんか用かの?」
 少女を無視して老人は続ける。
 その姿を見て少女は無駄だと悟ったのか大きく溜息を吐いてから立ち上がり、スカートに付いた葉っぱを払う。
「はい、そうですよ。お爺さんはこの辺りの人ですか?」
 老人の問いに答え、今度は逆に質問をする。
「まぁ、そんなところかの。 お嬢さんや、残念じゃが今この家には誰も居らんよ」
 老人は曖昧に答えたあと、白髭をわしわしと撫でながら言う。
「あれ、そうなんですか? ……時間通りのはずなのに……困ったなぁ」
 少女はポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認してからまた大きく溜息を吐いた。
 その姿を見て老人は「ふぉっふぉっふぉ」と朗らかに笑う。
「何処に行ったかワシが知っておる。 案内してあげよう」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
 老人の意外な申し出に少女は顔を輝かせる。
 そしてハッっと何かに気付いたように姿勢を正してから一度ぺこりと頭を下げてから言う。
「申し遅れました、私はエミリア=ヴィンセントと申します、今日からコチラで滞在することになっていますので、よろしくお願いしますね」
「おお、礼儀正しいお嬢さんじゃ。ワシは……そうじゃの、皆からはルドじぃと呼ばれとる。これから良く顔を会わせる事になるじゃろ。よろしくのぅ」
 老人は満足そうに朗らかに笑う。
「じゃぁ、そろそろ案内しようかの? エミリアちゃんこっちじゃよ」
「あ、はい!」
 老人が振り返って歩き出し、少女は慌てて荷物を掴んでその老人の後を付いていった。

◇	◇	◇	◇

 しばらく歩いていくと、ぽつぽつと民家や畑、牧場が見えてくる。
 どうやら村の方に入ったようだ。
 村の規模はあまり大きくないようで、本当にぽつぽつとしか民家が見えなかった。
 しかし、都会には無い、田舎の温かみがそこにはあった。
 川の水が流れる音、多くの草木が風に揺られてこすれ合う音、家畜たちの鳴き声は心を穏やかにさせる。
 そして、すれ違う度に村の人たちは、笑顔で挨拶をしてくれる。
 少し遠くで畑仕事をしていた老夫婦がコチラに気づいたのか仕事の手を止め、コチラに向かって手を振ってくれたときは嬉しくて、つい、大声で挨拶をしたらルドじぃや、近くにいた人に笑われてしまった。
 少し恥ずかしかったが、それがとても心地よかった。
「なぁーんにも無いじゃろ?」
 老人が歩きながら顔だけコチラを向いて笑いながら言う。
 しかし、少女はそっと首を横に振った。
「人も自然もあるじゃないですか」
「たしかにの! ふぉっふぉっふぉ」
 老人は実に愉快そうに笑った。
 そして老人は、少し先にある丘の上に建っている木造の教会らしきものを指差す。
「あそこじゃよ。 あの家に住んどる人たちは何時もあそこで子供たちの世話をしてるんじゃよ」
「子供たちの世話……ですか?」
「そうじゃよ。 あそこは……まぁ孤児院兼保育所みたいな場所での。まぁ村の子供たちは大体あそこに集まるんじゃよ。」
「そうなんですか……?」
 エミリアは少し怪訝そうな顔をした。
 彼女がここに来る前に聞いていた話と少し違ったからだ。
「どうかしたかの?」
「あ、いえなんでもないです。ちょっと聞いてた話と違ったので……」
 エミリアは少し慌てて答えた。
「えっと、村の警備隊だと聞いていたので」
「おお、確かに警備隊じゃよ?しかしのう……こんなド田舎じゃ警備することも殆どないのでな、暇な時はそこで手伝ってると言う訳じゃよ」
「な、なるほど……」
 エミリアはぎこちない笑顔で答えた。
 そんな会話をしていると、いつの間にかその教会の前まで来ていた。
 教会にはすぐ隣に家があり、両方とも村の中では一番大きい建物のようだ。
 それなりに大きい敷地の庭では、子供たちが走り回り、家の中からも子供たちの笑い声が聞こえる。
 そして、一人の少年がコチラを見た。
 少年はルドじぃを指差し。
「ルドじぃが帰ってきたよー!!」
「お!ほんとだ!ルドじぃ!」
「おかえりルドじぃー!!」
「わーい!ルドじぃだぁ!」
 外に居た子供たちが一斉に二人を囲む。
「ねールドじぃ、こっちのおねーちゃんはだれー?」
「あたらしくきたひとなのー?」
「おねーちゃんなまえはー?どこのひとー?」
「ねーねー!あそぼうよー!!」
「まぁまぁ落ち着きなさい……ちょーっとこっちのお嬢ちゃんを中の皆に紹介せんといかんからのぅ。」
 ルドじぃは慣れた様に子供たちを宥める。
 一方エミリアの方はと言うと……
「おねーちゃん、なまえなまえー!」
「あ、っと、エミリアって言うのよ?」
「ねー、エミリアおねーちゃんあそぼー!」
「わわっ、ちょ、ひ……ひっぱらないで……ね?」
「はやくはやくー!」
「ちょっ、まっ、きゃああ~~!?」
「すきありー!」
「きゃー!?スカートめくらないでー!?」
「わーい!白だー!」
「こ、こらぁー!?」
 子供たちにもみくちゃにされて目を回しかけていた。
 ルドじぃはその姿をみて愉快そうに笑いつつも子供たちを宥める。
「これこれ、困っておるじゃろ?あとで命一杯遊んでくれるじゃろうから今は離してあげなさい。」
「「「はーい!」」」
 ルドじぃがそういうと子供たちは素直にエミリアを離した。
「ふぉっふぉっふぉ元気な子達じゃろ」
「そ、そうですね・・・・・・」
 もみくちゃにされて乱れた服を直しつつ答える。
「……鎖骨もよいのぅ、色気があって」
「!? お爺さん!?」
 慌てて襟元を抑えると、ルドじぃは「冗談じゃよ」と笑って歩き出す。
 また大きな溜息を吐いてからエミリアはルドじぃの後についていく。
 家のほうの入り口まで行くと、ルドじぃは勝手しったると言った様子でノックもせず扉を開けて中へ入る。
 その後に、エミリアが申し訳無さそうについていった。
「皆ーかえったぞーい」
「お、おじゃまします」
 家の中には、やはり多くの子供が遊びまわっていた。
 しかし、その中に何人か大人が混じっているのに気が付いた。
 その大人たちはルドじぃの声に気付いて皆コチラ向く。
 そして、その中の無精ひげを生やした男性がこちらに近寄ってくる。
「お前が今日からこの隊に所属することになったエミリア=ヴィンセントか?」
「は、はい!」
 男がぶっきらぼうに聞いてきたことに対し、エミリアは背筋をただして返答した。
「ふーむ……」
 男はじぃっとエミリアの顔を見て自分の顎を指で撫でながら考える仕草をする。
「あ、あの……あなたは?」 
「ん?あぁ、俺は副隊長のヴァン=ウォードレッドだ」
 視線に耐えられなかったエミリアが質問をすると、男はそう答えた。
「あー、色々話すことがあるんだが……」
 何かを言おうとするといつの間にかヴァンの足元にいた少女がヴァンの腕を掴んだ。
 少女はヴァンを見上げて……
「ヴァンおじちゃん……おなかすいた……」
 その声にあわせて、周囲の子供たちも「おなかすいたー!」と声を上げ始める。
「と言うわけで今から飯を作らんといかん、隊については後で話す。 お前も手伝え、コレは命令だ」
「は、はぁ……」
「料理は出来るだろう、厨房はコッチだ」
「りょ、了解です」
「ジジィは外のヤツラを呼んでこい」
「ふぉっふぉっわかったぞーい」
 何だか良く分からないが料理を始めることになった。
 エミリアは今後の展開に一株の不安を覚えるのであった……。

 つづけ。

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