天夜奇想譚

こちら白夜行! 第八話

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作者:えすぺらんさぁ

タイトル:こちら白夜行! 第八話






 術でカムフラージュされた入り口を潜り抜け、やや深い、冷たいコンクリート造りの階段を通り抜けると、そこにはただ真っ暗な空間が広がっていた。ひんやりとした地下の空気に乗って、微かながらカビの臭いが鼻に付く。
 床へつけたその掌から、溢れんばかりの魔力、そして光が走る。桃色とも紫とも付かないその光の線は瞬く間に部屋中へと染み渡る。壁に、床に。円を、続いて陣を描く。いつしか、その広い部屋のどこにも暗がりは無く、ただただ不気味な明かりをまとった、不可解な魔法陣の群れが部屋中を蔽っていた。
 溢れんばかりの光だが、部屋にはその他には光源も、また光源となりそうなものも存在しない。それはこの部屋が、壁を床をと隙間無く敷き詰められたこの『術』のためのみに存在していることの証明。彼女もそれを、加えてその術の意味を理解していた。

「さぁ……聞こえる?」

ソロモンの声が反響する。呼応するように、低く唸るような、獣の声とも風音とも取り難い『声』が、部屋の冷たい空気を揺るがす。そこにいないはずのその獣は確かに彼女の声に応えていた。式の張り巡らされたこの部屋は、巨大なチャネリングとしての役割を持っていた。幾年も忘れ去られていながらも、その機能は失われていない。それを確認し、彼女は口元を緩ませ、呟いた。

「おはよう、オルトレイシス」






葵と天城、二人の対峙からはや十分程度が過ぎた頃か。部屋は――というより、屋敷は――既に壊滅的な被害を被っていた。壁も床も天井も、二人はそれらの殆どを穴だらけにしながら競合いを続けていた。
 その屋敷が、止めとばかりにズン、と揺るがされる。古びた土壁を砕き、男一人の体が鞠のように投げ出され、枯山水に波立てる。

「ゲホ……」

葵は打ち付けた身を起こす。悠々と屋敷から歩み寄る悪魔に一瞥くれ、恨み言の代わりとばかりに大きく溜息をついた。かれこれ何時間たったのだろう、暮れかけだった空は既に赤から群青へと変わり、朧な月の灯りが淡く照らす。肩で息をする葵に対し、天城はその息の乱れひとつも見受けられない。

「まったく、予想通りにしぶとくて嫌な人ですね?」

「予想通りってどういうことだよ。それはそっくりそのまま返してお、く!」

不意打ち。枯山水の水面が凍てつく。氷の刃が鋭角に二・三、氷柱となって彼女の腹部へと吸い込まれていく。
腹部に打ち込まれたそれは、彼女の身体を『く』の字に捻じ曲げる。だが葵の表情は芳しいものへとはならなかった。鈍い小さな音。次いで氷の塊がズンと地に落ちる。天城は少し濡れた服をゆったりとした動作ではたき、葵に向け涼しげに微笑んでいた。

堅い。屋敷内での攻防でも散々うんざりしていたが、葵は改めて溜息をついた。『悪魔』、これに出会い、相対した者は熟練の退魔士にも殆どいない。本来悪魔とは人を誑かすものであり、相手が退魔士であろうと敵対することは少ない。むしろ、退魔士と手を組む類の悪魔すら存在し、それは退魔士にとって強力な味方となりえると言う。それを敵に回すとなれば――それは言うに及ばない。文字通りに歯が立たない相手だ。

「まだやります?」

「……休憩にしたいな」
 ふぅ、と一息、葵は少し、肩の力を抜く。天城もそれを咎める様子はなく、相変わらずの笑みを向けている。


「何がしたいんだ?」

「そうですね。端的に言うなら主人のためですが」

事も無げな返答。葵はほんの少し、呆気にとられる。

「私は蔵野の……白夜行の者と契約した悪魔」

まぁそろそろ気づいていたでしょうけど、と付け足される。

「魔女の地位を再建する、という点では、ソロモンと利害が一致していまして。このような計画に至ったというわけです」

「明はそれを望んでる様子じゃなかったが?」

「彼女は違います。少なくとも、私が仕える蔵野の者ではない」

口調が急激に冷めたものへと変わる。その雰囲気に気おされてか、しばらく、葵の口から言葉が継がれることはない。

「確かに、私の主である蔵野藤吾にも明という娘はおりました。ですが」



「『彼女』が現れる四年も前に病死している」

一層強い風が、庭を粗く撫でていく。雲が流れ、月明かりが差し込む。ただ、それは青ざめた、敵意すら感じさせる光。
一方的に、言葉を紡ぐ天城の口調には、どこか激昂のような震えが含まれていた。


「そろそろ、です」

彼女の言葉に呼応するように、偽物の月明かりは揺らぎ、叫び声を上げた。低く、獣のようなその声は、『人』の耳には届かない。ただ異形と、退魔士にその存在を知らせる咆哮。

「……なんだ?」

「――休憩が長くなってしまいましたね」

大きく広げられる黒い翼。それが揺らいだ瞬間に、飛び込んでくる。
すかさず、葵も術を構える。

「ぐ、ぅ……!?」

首に直撃した悪魔の腕が、易々と葵の身を持ち上げる。術が、発動しない。

「そうとう暴れましたからね。もう貴方の魔力は術に使えるだけはありません」

「んな……」

思い切り投げ捨てられ、再び庭に身を打つ。鈍い痛みと、腹部から吐き気が襲う。

「魔力切れの退魔士。これほどいい玩具になるとは思いませんでした、ね!」

腹部を蹴り上げられ、続いて、頭を踏みつけ、そしてまた、蹴り上げる。

「ソロモン。うまくいったんですね」

彼が睨みつけた笑みに歪む天城の顔、その隣に不意に、見覚えのある顔が覗き込む。

「どういうつもりだ……お前」

ほんの僅かに、ソロモンの表情が陰りを見せた。だが、

「……そろそろ行きましょうか?」

再びその視界は、地面へ叩きつけられる。

 じんわりとぼやけていく視界の中――不意に飛び込む何かが見えた。彼の意識は、それを最後に途絶えた。




「あら、遅い御着きで」

投じられ、庭へ突き刺さったナイフは月光を照り返し、侵入者の表情を映す。

屋敷にたどり着いた明に向けられたのは冷たい口調だった。だが、明の表情も優しいものではない。高い塀の上から、葵を足蹴にする天城を睨み、飛び降りる。

「こうやって話をする機会はありませんでしたね。天城 比観と申します。統括職員……でしたが、本職は白夜行の悪魔です」

「……その割には、あんたに会った覚えが無いけど」

「奇遇ですね。私も貴方には会った覚えがない」

そう、と明は興味なさげに切り上げる。
そして、ソロモンへと視線を移す。返ってくる視線は優しいものではない。

「モンちゃん……どういうこと」

「……その呼び方、やめてもらえる?」

しばらく、二人とも無言のままにらみ合う。風は一層冷たく、歪な青い満月はその輝きを一層に強めてナイフに照り返し、まぶしく眼を刺す。

睨みつけるソロモンに反して、明は彼女を真っ直ぐ睨めないでいた。彼女の豹変への戸惑いか、愛着か。未だに彼女を、この事態をどこかで、なにかの間違いだと考えている。

「私は魔女の地位を、再建するの。そこに……あんたみたいな、偽物は入ってない」

「偽物って……」

 長い沈黙、視線交わし続ける二人。互いに、その視線はどこか相手を見ていないようで、遠い。天城はしばらくその様子を黙視した後ふぅ、と息をつき、明に向け、蔑視を雑ぜた嫌な笑いを浮かべた。

「――時間です。そろそろ失礼しますね? 『偽物』さん」

天城が大きく翼を広げ、ソロモンは素早く箒に跨る。

「まだ――!」

まだ聞きたいことがある、ここで逃がすわけにはいかない――!
彼女が伸ばした腕が、悪魔の翼に触れた、その瞬間。
 目の眩む人工の光が、それを阻んだ。




「動くな」

垣根の方向、サーチライトの灯りだろうか、明から窺い知られるのは、ずらりと並んだ人の気配。

「裁定だ。蔵野明、ならびに葵恵……大規模儀式による反逆の容疑……」

拡声器越しの男性の声が、ビリビリと空気を震わせる。そしてその声は、静かに続けた。

「現状況より、本件実行犯と判断。拘束する」

状況が飲み込めない。照らし続けるサーチライトの光から眼を庇いながら、明は一先ず、逃げの算段を考えていた。隠レ蓑を使えば、姿を隠すことは可能だろう。だが、気絶した葵を連れ、この状況を脱することができるのか。もし屋敷が包囲されたら? 手持ちはナイフと閃光弾程度、この状況を打破するには、絶望的なほどに足りない。『秘術』を組んでいる余裕も、無い――

「ええっと……」

打つ手が無い。近づく足音に、彼女は何も出来ずにただ立ち尽くした。

 不意に、一層強い風が降りて来た。止め処なく吹き付けるそれは、実に近所迷惑な騒音と共に、空から屋敷を見下ろしていた。

「明ちゃーん、予定通りにお迎えー!」

「え……あ、社長さん!?」

「あー、若でいい若で!」

「な……ヘリだと、話が違う! あの組織のどこにそんな予算が」

ヘリの登場に困惑し、その風圧に気圧される。今だ、とばかりに、明は少し乱暴に葵を抱え、ヘリから垂れるはしごへと手をかけた。

「待――逃げたか」

強風が途絶え、視界がはれた頃。ヘリは、もはや夜空に粒のような光として見えるのみだった。





「昨日十五時頃、統括本部の計十箇所にてほぼ同時に爆発。現在までに連絡系統は復旧したが、資料図書館の文献がいくらか焼失」

統括内元老院執務室。光沢のある黒を基調に整えられた部屋は、重苦しい、厳格な空気が保たれる。淡々と報告を行う桜花、その他は険しい表情でそれに耳を傾ける老人達――元老院計六人の椅子がある。その脇に、仕えるように桶屋が立つ。

「夕刻、十七時三十九分前後に連絡系統を回復。しかし明確な情報はその地点でなし。二十時に異形『オルトレイシス』の存在を視認」

ふぅ、と溜息混じりに微笑み、一呼吸をおく。

「犯人、蔵野明を首謀とする白夜行の所在を特定、『元老院』側が裁定者桶屋の指揮により包囲するも……逃走を許し、現在まで所在不明、と」

ちらり、と桜花の視線が軽く桶屋へと向う。彼は別段気にする様子もなく、それ以上に面白くなさそうな表情を向ける元老院の面々を、観察するように眺めていた。

「取り逃がしたと言っても、やつらはヘリを使って逃げたと言うじゃないか。そんな情報は報告に入っていなかった」

「はぁ」

「爆破を許したと言うのも問題か。少々うかつすぎるんじゃぁないかね?」

「オルトレイシスとやらの影響として、魔力の変質。それに伴う一部異形の強化、また魔術の重コスト化等の問題が既に持ち上がっているそうじゃないか。大丈夫なんだろうな」

「……それらについてはこれからいくらでも対策の打ちようがあるんだけど、ね?」

ほんの一瞬。老人達には分からなかったが、桶屋には見えた。桜花の口元は、ニィ、と釣りあがった。

「現状で問題なのは、謀反を企てたとされる白夜行に、裁定者である『葵 恵』が含まれていること。これについてはどう説明を?」

途端に、老人達が静まり返る。本来退魔士を取り締まるはずの組織

「事が大きくなってしまえば、裁定者の抑止力は地に落ちる。それは私としても、あなた方元老としても避けたい事態ではないのかしら」

「それは……」

「私の部下……天城も巻き込まれた模様で行方不明。責任の所在はともあれ、こちらの収拾は容易ではない」

所在はともあれ、と言いながら、暗にこれははっきりと元老院の面々を非難するものだ。
なるほど、怖い女性だ。一人、桶屋はその様子に感心していた。今回の件は、表面上は犯行を許した統括側の責が大きい。だが、葵恵の件。これは今回唯一生まれた、元老側のアキレス腱だ。桜花は始めこそ自身から非難されて見せたが、その一つを持ち出すことで一転、状況を逆転させた。老人達は黙り込み、それはまるで彼らの敗北を証明するかようにさえ見える。

「そこで――」

「それで」

不意に、今まで黙っていた、一人のにこやかな老人が桜花の言葉を遮る。
ほんの少しだけ、桜花の表情が曇る。老人の穏やかな口調には、動揺など欠片もない。むしろ、それはどこか余裕さえ感じさせる。

「勿論、我々元老としても事態の収拾には全面的に協力しよう。責任の所在はどうあれ、な……我々に出来ることは?」

「……本件解決までの間、元老側には裁定者の司令権を、統括側に貸与することを求めますわ」

「なんと……」

「馬鹿な、裁定者の役割を知らないわけではあるまい」

再び二・三名の老人達が口を挟みだす。しかしまたそれを、今度は険しい表情をした、肩幅の広い老人がジェスチャーで遮る。

「なるほど、それは必要だろう。裏切り者の出たならば裁定自ら動かねば、それこそ抑止と粛清としての裁定は力を失ってしまう」

「しかし東屋……」

「想定はしていたが前例のないことだ。このくらいは仕方あるまい。だが」

東屋と呼ばれた老人は腕を組みなおし、続ける。

「裁定の抑止・粛清は我々の手にあってこそ意味のあるもの。全員の権限を譲渡するわけにはいかん。桶屋含め……三名。これが限度だろう」

「十分」

桜花は、にこやかに微笑んで見せた。老人達の表情は一瞬、耐え難い不快を示すものとなる。

「雌狐が……」

老人の一人が小さく呟いた。

「なるほど、差し詰め雌狐と古狸か」

桶屋はまた一人、妙に納得していた。



「では」

再び、東屋が口を開く。

「現時点を持って我ら元老院は、『葵恵』の全権限を剥奪」

「当人及び共犯者たる組織、『白夜行』を反逆者とし、本件の指揮権を統括、藤原桜花に権限を委託。そして――この下に委託された裁定三名にこれの討伐を命ずる」






「……いってぇ」

目覚め、と共に鈍い感覚が蘇る。あちこち痛めつけられたらしく、軋むようなそれが身体中を痛めつけるのがよく分かる。
思えばアイツと関わってからこうやってやられて病院送りは二度目か、ずいぶん良いベッドの病院だ……葵はぼんやりとそんなことを考えながら、ゆっくりと目を開いた。やけに低い、赤と金の糸で縫いあげられたきらびやかな天井が――

「……病院のベッドに、天幕はないよな」



 痛む身をやや引き摺るように起き上がる。目の前に広がるのは、とりあえず病院ではない。紅色の絨毯、アンティークなクローゼット。その上に、これはまた古そうなランプ、銀の蜀台……その他にも細々と調度品が並ぶ。どれも美しく、一級品であることを漂わせる風格あるものばかりだが、これだけ並ぶと成金以外の何物でもない。

しかし、ここはどこだろう。あたりをただ見渡す葵に

「あら、お目覚めになられましたか。今お連れのお嬢様をお呼びしますので」

開いていた扉の向こうから、女性――容姿から見、部屋の成金趣味から察するに、使用人だろうか――がひとつお辞儀をし、下がる。

しばらくして

「あ、大丈夫? 体」

『お連れのお嬢様』……とどのつまり、明が顔を見せた。

「まだあちこち痛む……けど、動けないほどじゃないな。ぁー……」

「ん?」

「いや、お前……」

ツン、となにか、強烈に鼻に抜ける香り。よく見れば濡れた髪、よく見れば湯上り卵肌。

「……風呂上りか」

「お風呂に入れるって、うらやましいよね……それになんか、お風呂だけで私の家より広かったんだけど……」

「普通は後者だけうらやましがるもんだな。それはともかく……んじゃこのきついにおいは」

「シャンプー。『ラベンダー畑の中にいるような香り』だって」

「――随分使ったな」

「だって、シャンプーだよ? リンスもあったんだよ?」

「ラベンダー畑の中ってか……ラベンダー畑一ヘクタール分の束で鼻っ柱ぶん殴られるような匂いになってるんだが」

鼻を押さえる葵に、明がすこし頬を膨らませる。一気に緊張が砕ける。葵にはもはや、ここがどこか、などどうでもよくなってきていた。妙な安心感を覚える。身体の痛みも、いつしか忘れていた。



「あの……そろそろいいかな」

「あ、いたんだ」

「ああ、ずっと」

扉の方からずっと二人のやり取りを眺めていた男は、ようやく部屋に入り、さて、と切り出す。

「改めて。灯篭門グループ現社長代理であり次期社長……灯篭門一馬だ」

「灯篭門?」

「ああ、イデア経営してる会社のか」

「社長の孫でね。まぁおばあちゃんは来月には隠居するんで、既に社長の椅子は確定しているんだけども。まぁそんなこと今はいいんだ」

灯篭門は部屋の隅の鏡台に腰掛けると、大げさに手を広げてアピールして見せる。

「とりあえずは葵君だったか。現状は非常に芳しくないものだ」


咳払いひとつ、灯篭門は状況を説明し始める。

「まず、異形『オルトレイシス』の覚醒からかな」

「オルト……?」

「あー、なんか変な月だったよ」

「そうそう。衛星軌道上に存在するアレが起きたことで、早速色々と変化がおきているらしい。主には魔力効率が今までに比べとんでもなく悪くなってるようだけど――」

「それは、多分体感した」

これで天城との戦闘中に、突然術が使えなくなったことに合点がいく。葵の口から溜息が毀れる。

「きっついな」

「そして君達白夜行は、オルトレイシスを覚醒させた実行犯とされたみたいだね」

「は……?」

「ソロモンとやらは一応、君達の組織の一員だったんだろ? 彼女が爆破の犯人で、かつ現場に君達二人がいた。状況証拠ばっちりじゃないか」

「む……」

葵は少し考え込む。確かに明を含め、自分達の状況は悪化している。しかしこの流れを作ることで、ソロモンや天城に何の得があるのか。彼女らが目的としていた『魔女の再建』、それに必要なことなのか、単なる偶然なのか。
 そしてもうひとつ、疑問が残っている。

「んでだ」

「ん?」

「お前は、何で俺達を助けた?」

「え?」

「わざわざ厄介ごとに首突っ込む理由は? お前の情報が本当ならこっちは犯罪者。しかもこんな金のないちんちくりんで今なら芳香怪人ラベンダーガールを助けるなんて」

「いや……ちょっと?」

「助けて何の得がある」

「それはまぁ確かに」

「少しでいいから否定して欲しいなぁ……」

「しかし、至極単純な話なんだ」

明が肩を落とす中、灯篭門はふむ、と笑顔で頷いてみせる。

「追われる身の君達を、ボクは匿おう。そのかわり君達は、ボクの仲間として手を貸す。それだけでいい。とってもお得な仕事だよ?」

「お、お得な仕事……」

「待てって」

ふらふらと行きそうになった明を、とりあえず止める葵。

「三食つけよう」

「三食も!?」

「う……」

今度は葵も揺らぐ。そういえば、まともに食事を取ったのはいつだろう。呼応するように、腹の虫が小さく唸る。
 行く当てはない。葵のいた統括の寮などもってのほか、明の家、もとい廃墟も押さえられているだろう。結局、灯篭門の提案以上の良策は、今のところ二人には思い当たらなかった。

「……仕方ない、協力する」

「OK、じゃぁしばらくよろしく!」

二人は結局貧しさに、もとい空腹に負けた。握手を求める手ににこやかに応じる明。その様子を眺め、葵は一抹の不安を拭い去れないでいた……










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