天夜奇想譚

馬鹿と魔術と吸血鬼 第壱話『出会い』

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作者:晴華流吏

タイトル:馬鹿と魔術と吸血鬼 第壱話『出会い』






「ありがとうございましたー!」
 店員に見送られてコンビニから出てきたのは、物が一杯まで詰まったコンビニ袋を持った青年こと黒倉一角である。
 少々体格の良い彼は如何にも重そうなコンビニ袋を三つほどを左手で握り、右手はポケットに突っ込んだまま歩く。
 今は寒い冬の夜で、道行く人はコートを着たりマフラーを巻いていたりするのだが、一角はは半袖のTシャツにジーパンという寒々しい格好をしていた。
 無論、彼が寒さを感じていない、と言うわけではない。
 その証拠に、大柄なその体を若干縮こせて歩いているのだ。
「筋肉滅却すれば火もまた涼しい寒さもしかりっつーが……流石にちと寒いぜ」
 若干何かが間違っている気がしなくも無いが、一角は誰とでもなく一人愚痴る。
「俺の筋肉なら大丈夫かと踏んだが……昼ならともかく流石に夜は寒い。せめて長袖にするべきだったか」
 その長袖半袖程度の問題ではない気がするが、彼にはその程度の差らしい。
 大きく溜息を吐くと、白い息が空に舞う。
「……さっさと帰るか」
 一角はソレを眺めてポツリと言った

 馬鹿と魔術と吸血鬼
 第一話 《出会い》

 黒倉一角は街頭と月明かりが照らす街を歩いていく。
 開発が進んでいる街中はビルの明かりや車のライトで明るく、夜空には星が見えなかった。
 一角の家はここから少しはなれた住宅街の方で、明るい大通りを通っていくと遠回りになるのため途中から裏路地に入る。
 裏路地に入ると街頭もなく、ビルの光も減って急に暗くなった様な感覚を覚える。
 まるで別世界のような雰囲気さえ感じるだろう。
 それもそのはず、一度裏路地の暗闇に入ったのならそこには夜を好む物達が集っているのだから。
 不良しかりヤクザしかり“あいつら”もたまに歩いている。
 その他にも如何わしい店の看板がチラホラ。 
 そんな場所ではあるが地元住民で昔から使い慣れてる道だ、特に何のためらいも無く一角はその裏路地を進む。
 もともと彼のバイト先も裏路地にある店なのだから当然言えば当然だろう。
 まぁ、そのせいで彼のバイト先の喫茶店には夜に客が来る事は少ないのだが……。
 途中、不良らしき者達とすれ違ったが軽く睨まれたぐらいで特に問題もなく進んでいく。
 しばらく歩いていると四人ほどのヤクザっぽい人が道のど真ん中でたむろっているのが見えた。
 関わるのも面倒なので迂回しようとした時、何かを蹴る鈍い音と罵声を耳にした。
 驚いてみて見ると、それは先ほどたむろしていたヤクザ達の方からだった。
 ヤクザ達はたむろしていたわけではなく、黒い何かを取り囲んでいるようだった。
 よく見ると黒い何かから金色の髪がみえ、それが黒いローブを着た少女が蹲っていたのだという事が分かった。
 ヤクザ達は少女を挑発し罵倒し、取り囲んで暴行を続けている。
 それを理解してからの彼の行動は素早かった。
 まず、何時もの“アレ”を用意する……そして四人のうちコチラに背を向けてる一人に静かに素早く近づき。
 ――そいつの襟を掴み、右手一本で投げ飛ばした。
 まるで、小石を投げたかのようにヤクザの一人は宙を舞った。
「うおぉぁああ!!?」
 一瞬のうちに投げ飛ばされたヤクザの一人は、行き成り視界が変わり、自分が宙に浮いている事で混乱した。
 そして、何時までも浮いているわけが無く重力によって、硬いアスファルトの地面に背中から落とされた。
「いってぇえ!?」 
 なにが起こったか分かっていない彼に受身など取れるはずもなく、そのまま地面に転がり呻き声を上げた。
 その声で周りのヤクザ達も気付き、蹲っていた少女も含めて全員の視線が一角に集まる。
 それを確認してから、一角は口を開いた。
「おい、てめぇら……よって集ってなにしてやがる?」
 周囲のヤクザを警戒しつつ威圧するように睨み付ける。
 ヤクザ達も警戒をし、一角を取り囲むようにユックリと動く。
 一角も彼らが大人しく引き下がると思っては居ない。むしろ向かって来てくれたほうが嬉しいと思っていた。
 何故なら、彼は困ってる人物を見捨てられない正義感を持つ男ではあるが、何より戦う事が好きだった。
 故に自分を取り囲むヤクザたちを見て、ニヤリと笑う。
「俺が相手になってやる、かかって来な」
 左手に持っていたコンビニ袋を置いて、右手でかかってこいよとばかりに挑発する。
「調子にのってんじゃねぇぞ餓鬼ィ!!」
 痺れを切らしたのか、一角の背後に回った一人が殴りかかる。
 だが、声を上げながら殴りかかったのは迂闊と言うほか無い。
 一角はすぐさま反応し、振り向きざまにソイツの腹を蹴り飛ばす。
「うげぉぁ……!?」
 非常に軽い動作に見えたが、重く鈍い音が響き、殴りかかった一人は腹を抱えて崩れ落ちた。
 一角はゆっくりと足を戻し、残った二人を見る。
 驚愕の顔だった、たった一撃で仲間の一人を倒されたのだから当然と言えよう。
「よえぇな」
 一角は余裕の表情を浮かべる。
 それが彼らの癪に障ったのだろう。
 残った二人は怒りの表情を見せ、互いに目配せをして一角を挟むような立ち位置に移動する。
「へへ、幾らなんでも二人同時でかかればワケねぇだろ……」
 ヤクザ達は口元をゆがめる。
「いいからかかって来いよ。返り討ちだぜ」
 一角は哂う。
「いい加減にしろよ糞餓鬼!!」
 二人は同時に一角に襲い掛かる。
 一角は微動だにせず待ち受ける。
 そして二人が殴りかかろうと腕を振りかぶり、そしてその拳を突き出す。
 一角はその拳をギリギリの所で大きく体を逸らして避ける。
 そうするとどうだろう、ヤクザ達は互いに殴るような形になる。
 無論、彼らもそのまま拳を突き出す訳は無く止まろうとする。
 しかし、彼らは止まる事は出来なかった。
「あ?」
 一角が二人の肩を掴み、思いっきり引き寄せたからだ。
 かくして二人の距離は一気に縮み、互いの顔に正面衝突する事となった。
 ゴンッと鈍い音が裏路地に木霊す、そしてしばしの静寂が訪れる。
 そして、ヤクザの二人は互いに縺れ合うようにして倒れた。
「へへっ、あっけねぇな」
 一角は満足そうに笑い、足元にあったコンビニ袋を拾い上げる。
 そして、中身が無くなっていないか軽くチェックしてから少女の方を見る。
 少女は地面に横たわりながらも一角をじっと見つめていた。
「大丈夫か?」
 一角はコンビニ袋を全部左手で持ってから少女に右手を差し伸べる。
 しかし少女はその手を握ることなく、一角を見つめる。
 そして口を開いた。
「何のつもりだ?」
「何のつもりっつっても……?」
 一角は良く分からないと頭をかく。
「恍けるな、お前が……ッ!! ゲホッ!! ゴホッ!」
「あー落ち着け落ち着けって、な?」
 突然少女が咳き込み、一角は慌てて抱き起こそうと手を伸ばすが、少女はその手を払いのける。
「煩いっ! 貴様の手などかりな……ゲホッ!!」
「だから落ち着けって……無理すんなよ!?」
 無理に立ち上がろうとする少女を一角は宥めようとした。
 しかし、少女はそれすら無視して立ち上がる。
「私に関るな、じゃあな……」
「お、おい、おま「煩い! 近寄るな!」っ! ……わぁったよ」
 立ち去ろうとする少女を呼び止めようと声をかけるか、少女は有無を言わさず拒絶する。
 少女はフラフラで足取りはおぼつかず、視線も確りと定まっていないようで無理をしているのが手に取るようにわかる。
 しかし、そこまで言われては無理に手を貸すわけにもいかず、一角はせめて少女の背を見送ろうと思った瞬間、少女が倒れた。
「お、おい!? 大丈夫か!?」
 一角は慌てて駆け寄る。
「う、うるさい……貴様の手など借りないと言ったハズだ」
 少女は拒絶の言葉を発するが、先ほどまでの威嚇する様なモノではなく弱々しい。
 一角はそんなの強がりに溜息を吐きつつ、少女に手を伸ばす。
 少女また払いのけようとするが、本当に限界なのだろう、その腕には殆ど力が入っておらず、一角に腕に手を添えているだけの様なものだった。
 一角は急いで少女を抱き上げる。
 少女は驚くほど軽かった、抱き上げられてからは嫌がる表情は見える物の抵抗する力は残っていない様だった。
「今すぐ病院につれていってやるからな!?」
 一角は大急ぎで近場の病院へ連れて行こうと、駆け出す。
 すると、少女は一角の服を掴んだ。
「たの……む。病院は……やめてくれ」
 弱弱しい声で少女は一角に言った。
「そんな事言ったってなぁ!?」
 一角に医学の知識は無いが、それでも今の状態は非常に危険で一刻も早く医者に見せたほうがよいというのは分かる。
 それなのに少女は病院に行くのを拒否したのだ。
「たのむ……!」
 少女は一角の服を強く掴み、真剣な眼で一角を見つめる。
「分かったよ……」
 一角は少し悩んでから、そう答えた。
 良く考えてみれば、普通こんな幼い少女が一人裏路地で歩いているわけが無い。
 何かしらの事情があるのだろう、そう一角は考えたからだ。
 少女は安堵の表情を浮かべた。
「ただし、家で手当てはするからな? 大人しくしてろよ」
 やれやれと、一角は進路を自宅の方へ変える。
「それで……構わない……たすか……る……」
 少女は一角にそう答えてから、眼を閉じた。
 限界が来たのだろう、全身の力が抜けていた。
「はぁ、なんか面倒なことになりそうだなっと……」
 一角は大きな溜息を吐いて、急いで自宅へ向かった。
 月と少し街灯が照らす冬の夜を、少女と青年は駆け抜けた。



 ヤツラがスグそこまで迫っている。
 あの忌々しいヤツラが、私を狙って此処までやって来る。
 逃げなければ、今は逃げなければ。
 全く世界という物は“こんな筈ではなかった”に溢れている。
 慎重に、慎重にしていたつもりなのに、たった一度のミスでこの様だ。
 逃げなければ逃げなければ、今は逃げなければ。
 チャンスはまだある、今は逃げないと。
 早く、早く、早く!!
 ヤツラは今私の真後ろに……。
「――ッ!!!?」
 そこで私は眼を覚ました。
 すぐに今までのが夢だと言う事を理解する。
 しかし、呼吸は乱れ動悸は激しい。
 私は気持ちを落ち着けようと辺りを見渡した。
 その時体の至る所で鈍い痛みが走った。
 自分の身体をみると、着ているローブはボロボロで、そこから見える肌には包帯が巻かれていた。
 包帯の下は恐らく痣や傷があるのだろう。
 どうやら私は大分手酷く痛めつけられたらしい。
 身体に走る痛みを我慢しつつも辺りを見渡す。
 そして眼に入ったは、私がベットの上に居る事だった。
 はて、私は何時ベットで寝たのだろうか。
 寝ぼけた頭で考えているとすぐ側にあった窓から太陽の光が差し込んでいる事に気づいた。
 気分が悪くなるのでカーテンを閉める、そうするといくらか気分も落ち着いてきた。
 気分が落ち着いてくると、周囲の状況が次第に頭に入ってきた。
 まず、先ほど言ったように私は見知らぬベットで寝ていた。
 そして見知らぬカーテン、見知らぬ窓、天井、壁。
 ベットの横には水とぬれたタオル、包帯などの入った救命箱。
 この見知らぬ部屋の隅には本棚があり、その中は……なんだろう、良く分からない本がズラリ。
 床には、トレーニング用具らしきものが転がっている。
 特に何も置かれていない机もあった。
 部屋はそう広くなく、扉が一つあることから個室だと言う事が分かった。
 また、部屋の装飾が殆ど無くシンプルな事からおそらく部屋の主は男である事が予想できる。
 そして身体に巻かれた包帯などから誰かに治療を受けたか自分でやったか……。
 そこまで考える事が出来たが、どうにも昨日何があったかを思い出せない。
 なぜ私は此処に居るのだろうか?
 体は痛むが致し方ない、私はさらに情報を集めるためベットを降りる。
 部屋の中は一通り見たので私は扉へ向かい、鍵がかかっていないか確かめる。
 ドアノブを捻って引くと扉は簡単に開いた、どうやら監禁されているわけではないようだ。
 ゆっくりと扉を開いて、私は隣の部屋を見る。
 そこにはそこそこ広い部屋が広がっていた。
 テレビ、キッチン、テーブル、ソファー……どうやらリビングのようだ。
 人の気配はしないので、私はリビングに移る。
 辺りを見渡せば、リビングにも先ほどの部屋と同じようにトレーニング用具が置いてあった。
 あとは、私が入ってきた部屋の扉の隣に扉が一つ。
 恐らく玄関へ繋がっているだろうと思われる扉が一つあった。
 さてどうしようかと考え始めた時、ゴソッ……と何かが動く音がした。
 人が居ないと思っていた私は驚いて音のした方を見る。
 どうやらソファーの方に何かいるらしい。
 私の居る位置は、丁度ソファーの後ろ側で死角になっている所だった。
 私は慎重に、物音を立てないようにソファーの方へ近づく。
 そして、そっとソファーを覗くと一人の男がソファーで眠っていた。
 その男の顔を見て私はやっと思い出した。
 昨日何があったか、何故私が此処に居るのか、ここが何処なのかが。
 私は此処に居るわけには行かない、早くこの家を出なければ。
 だが、一応頼んではいないが助けてもらった礼はある。
 だから、せめて書置きを残してからコッソリ出て行こう、私はそう考え紙とペンを探そうとした時。
「おい、起きたのか?」
 先ほどまで寝ていたはずの男が私の方を見て、笑っていた。



 To Be Continued...

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