天夜奇想譚 一息、アチキ珍道中 > Calm 2


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作者:グリム

タイトル:一息、アチキ珍道中/Calm 2






 からころ……からりん……

 ……カラン、カラカラン……

 ズゲッ、ズデッザザザーッー……

 ブッ……

 ……




 盛大にこけた。お面は落ちなかったけど、下駄の鼻緒が切れたらしい。まさか天下の大通りにこんな穴があるとは思わなかった。……アチキを倒すなんて凄くはないけど、認めてやってもいい。

 ……しかし下駄がこれじゃあ歩きにくい。

 加えて今日は満月の晩。月夜には怖いものがいる。前は見逃してもらったけれど、今日は見逃してもらえるとは限らない。裸足で……いや、ダメだ。裸足だと足が汚れてしまう。

 目の前に転がっていた箱を見て、アチキの脳裏に名案が浮かんだ。そうだ、これを使えば怖いものにも見つからない。アチキはさすがだ。頭が良い。早速、その茶色くて大きな箱を被ることにした。これで怖いものにも見つからない。さすがアチキ。

 けれどこれじゃあ何も見えない。……む、おお、この穴からのぞけば見える。これで完璧だ。さぁ、怖いものに見つかる前にさっさとこの場を離れよう。

 ――あいて。

 思いっきり壁にぶつかって、さっきの穴につまずいてお尻を思いっきり打った。踏んだり蹴ったりだ。……蹴ったり踏んだりだっけ。まぁどっちでもいいけどお尻が痛い。

 ふと、何かの気配を感じる。

 そっちの方を向いてみるが、あれ、見えない。覗き穴が逆方向だ。むぅ、アチキが右を向けば箱も右を向くのが道理だと思う。……なんにせよ、何にも見えない。

「むぅ? えむじーえすなスネーク?」

 男の、疑問交じりの声。

「硯梨用の異形を探していたが……んむ、これは余の手にも余りそうだ。スルースルー」

 するー? その男の気配は徐々に遠ざかっていく。姿は見えない。けれどその男はアチキと同じ匂いがする。しかも、とっても怖いものに近い。だけど、なんと言うか、ううん。怖いものだけど怖いものではない。

 なので、箱を被ったまま付いていくことにした。

 すると気配が立ち止まった。

「余は居候じゃから、ぬしにやるような茶菓子は出せんぞー、他に探せー」

 やる気がないような、からかうような口調で気配が遠ざかっていく。……怖いものじゃないかもしれない。

 追っかけようと思ったら、鼻緒の切れた下駄に足を取られてずっこけてしまった。気を取り直して立ち上がり、後を追ってみる。追ってみると何やら話し声が聞こえてくる。さっきの男と誰かが会話しているらしい。

 アチキにはよく分からないけど、険悪っぽい?

「なっ、我の力が押し返され!?貴様っなにも――――べりゃ」

「悪いが興醒めだ、囀るだけのガキに用は無い」

 ――メキャベキリボギャ。

 ……

 あっるぇ……?

 茶色の箱を被ってたから何も見えなかったが、これは、うん。きっと、骨とか色んなものが砕けた音だと思う。しかも間違いなく、怖いものじゃないかもしれない男がやった。

「……むぅ、硯梨用の獲物を捕獲するつもりが殺ってしまった。だが問題あるまい、まだまだ予定時間まで猶予はある」

 アチキは、逃げ出した。





 やがて日が昇り、また人々の賑わう頃になる。今日も今日とてもじゃもじゃ頭に手を突っ込み、トサカっぽい頭を撫で回す。そんな日々にも慣れてきたが、居場所がない気がするのは否めない。

 なのでアチキは、歩き出すことにした。

 特に何があると言うわけでもないけども。今日も今日とて散歩日和。

 今日の下駄の音はあまりいい音じゃない。鼻緒が切れっぱなしだと歩きにくいし何度もこけた。だけど脱いで歩くのもなんなので、やっぱり茶色い箱を被って歩く。……前は、見えない。

 歩き回って、やがて人の流れが落ち着いた辺りで、ゆっくりと箱を外した。

 屋根のついた通り。見回してみると、左右に店が出ていた。これは、商店街と言うものか。取りあえず手近な店に入り込む。外よりも涼しく、妙に明るい。棚には袋に入った食べ物が一杯。

 これはいい。

 アチキはその中から『ぽてとふらぐめんつ-塩の反乱-』と言うものを手に取った。ジャガイモのようなやつが描いてある。やけに軽いが、匂いからして食べ物に違いない。恐らく。たぶん。きっと。そのうち。

 しかし、人の世では銭がなければものを食べることはできない。だけどアチキには秘密兵器がある。そう、つい最近拾ったこれ。紙に髭ちゃびんのおっちゃんの描かれたやつ。銭だ。どれくらいの価値があるかどうかは分からないけど。きっと買えるに違いない。

 お店の人の目の届くところに銭を置いて、それを持っていく。

「……あれ? これって千円……誰か忘れてったかな……」

「あ、店長ー。さっき売り切れたって言ったあの商品、ずっと奥の方にありましたよ」

「え、マジ? あちゃー。常連さんなんだけどなぁ、彼。今度説明しなきゃ……」

 後ろでお店の人の声が聞こえたような気がするが、うむ。これでいいはず。全く、人の世の銭を払うとか言うのはアチキにとっては面倒すぎる。食べ物は平等に分け合えばそれでいいだろう。って前に会った誰かが言っていた気がする。

 店から出たら早速袋を開けた。

 中身は……む、狐色で薄っぺらいのが一杯入っている。触ってみる。硬い。口に運んでみる。おお、しょっぱい。よく噛んでみる。これはジャガイモの味? ……人の世は素晴らしい。銭を払う価値もあると言うものだ。そうやって食べていると、袋の中身は半分ぐらいになってしまった。今はお腹一杯だから、半分は後に食べることにしよう。

 縛るものがないので、袋の口を握り締めた。

 と、目の前の店が騒がしい。何事かと思って顔を上げると、てっかてっかぴっかぴっか輝く看板の店の前で、若い男女が二人ずつ向き合っていた。しかもそのうち一組は睨み合っている。睨み合ってるのはがたいのいい茶髪の男と、背の低い黒髪の女。その男の後ろには何か細い感じのなよっとした感じの男。犬連れてる。それから女の後ろには長い赤毛と碧眼と言う、南蛮の血が入っているであろう女。

 がたいのいい男が自分よりも頭三つ分小さい女にどすの利いた声を出す。

「おうおうねーちゃん……そこのコンビニでそれ、買ったんだろ? 俺が倍額で買い取ってやるぜぇ……?」

「樫月、ガラ悪いって」

 なよっとした男はその男を叱り、がたいのいい男は少し身を縮めた。情けない。

「それって……“ミステリアス汁”ですか?」

 声をかけられた女は特に怯えた様子もなく言い放つ。

「そうそれ! 俺毎日買ってるんだけどさ、この店しか売ってなくて、もう仕入れないってゆーんだよ! だから譲ってくれ!」

「嫌です」

 男の言葉を、女はすっぱりと一刀両断する。ううむ、アチキほどじゃないけど肝が据わった女だ。

「レアな商品を求めるのは消費者の常。そして買ったものは私のもの……以上、あなたに譲る道理はありません」

「きっついなぁ……でも樫月、この子の言う通りだよ」

「ええい、言ってくれるな海晴! 俺はこれを飲まないと……ハァ、ハァッ」

 男の目から光が消えて息を荒げ始めた。アチキはそれを知っている。人間にはよくある症状で、禁断症状と言うものだ……うん、怖い。

 けど怖いものではなさそうなので、アチキはその四人の動向を眺めることにした。

「あー……あたしとしては面白いと思うんだけど。危ない人にはパンダカラーの車を呼ぶのが常識人だと思うんだ」

「そだね。黄色い救急車呼ぼうか」

「ちょ、待てっ! 今のは演出過剰だった! 何というか、そう、それぐらいにミステリアス汁がなきゃ俺はダメなんだ!」

「樫月、それはそれで病院行けよ」

 味方であるっぽい、なよっとした男にさえ責められる男。哀れすぎるが、見てる分には面白い。しばらく睨み合いが続いていたが、やがて思案顔になった赤毛の女がスッと手を挙げた。

 そして、目をキラキラと輝かせて言う。

「ちょうどゲーセンの前だし、ここはゲーム対決しかないでしょう。買ったほうがミステリアス汁をゲッタン」

「……はい?」

 赤毛の女の提案はなよっとした男にとっては予想外のものだったらしい。けどがたいのいい男は待ってましたと言わんばかりに腕まくりを始め、黒髪の女はゲーセンの中を覗き込みながら思案をしている。

 まさかこんな街中で戦いが起こるとはアチキも予想していなかった。これは楽しそうだ。

「ここは平等に運動系の“ポップ&ゴー”、頭脳系の“クイズマジックカレッジ”、そして運任せの“クレーンキャッチャーダブルゼーダ”でどうよ。ああ、お兄さん方はお金はいいからね。いやぁ、面白そうになってきたー」

「おっしゃぁ、勝ったらミステリアス汁もらうからな!」

「いいですよ。もちろん負けるつもりはありませんけど」

 トントン拍子で進んでいく話。なよっとした男は呆れた様子。けれど連れてる茶色い子犬は尻尾をはちきれんばかりに振り回している。なよっとした男は一つため息を吐くと、踵を返して立ち去ろうとする。

 でも赤毛の女はそれを許さなかった。襟首を掴んで去っていこうとするのを止める。

「ちょいとお兄さん。競技が三つもあるんだから判定役いないと困るでしょー?」

 と言うわけで。犬共々お店の中に引っ張っていかれた。と思ったら襟首を掴んだまま赤毛の女が出てくる。

「競技が三つあるわけだし、審判はもう一人いた方がいいよねー」

 赤毛の女がそんなことを言いつつ、道行く人から適当に一人引っ張ってきた。引っ張ってきたのは、銀色を巻いてる男。襟首辺りを掴まれてかなり迷惑そうな顔をしてる。手にはいろんな紙袋を持ってる。

 男は襟から赤毛の女の腕を振り払った。

「俺、買い物中なんだが……何で捕まってんだ? 早くしないとソロモンの奴がいい服揃えちまうぞ……」

「いやぁ、ここでゲーム対決するから審判をね? ほら、あたしは一発であんたの溢れ出る突っ込みの才能をだねー」

 よく分からんけど、あの男は凄いらしい。

「知らねぇよ……なんかお前からはソロモンと似た匂いがするな」

 ジト目になる銀色つけた男。赤毛の女は首を傾げる。

 その後ろで、がたいのいい男が黒髪の女に人差し指を向けて高々と宣言をする。

「俺の名は樫月耀司! 本日ヒトサンマルハチ時より、貴様にデュエルを申し込む!」

「……黄色い救急車」

「いっそ呼んだほうがいいかもね」

「ちょっ、海晴までひでぇ!?」

 ……アチキは知ってる。これは漫才と言うものだ。確か大人数でぽっぷこぉんなるものを貪りながら見るもので、内容次第で笑いあり、涙あり、ポロリありというものだ。ポロリってなんだ。

 ふと見ると、なよっとした男の連れてる茶色の犬がこっちを見てた。

「ほら、俺名乗ったぞ。名乗られたら名乗り返すのが常識ってもんだ」

「む、それもそうか……黒澄硯梨です」

「じゃあ一応僕も。時枷海晴って言います」

「あ。あたしは羽久いずも。気軽に“最強可憐乙女いずも様”と呼んで下さい。ねっ?」

「いや、気軽じゃないだろう。……俺は葵恵……って、俺関係ないよな?」

「またまたぁ、あたしとアオインの中でしょ?」

「誰がアオインだ」

 そしてアチキはアチキだ。

 騒がしい自己紹介をしながら五人と一匹とアチキは店の中に入ってく。

 でも内容はよく分からなかったので、聞いた言葉で必死に理解しようとする。でもよく分からなかった、最近の人間はアチキに分からないぐらいにネジが飛んでしまってるらしい。取りあえず、会話だけ聞くことにして、アチキは茶色い犬と遊ぶことにした。



「第一回戦、御題は『ポップ&ゴー』……審判はみはるんねー」

「みはるん、って……まぁいいや。審判っていっても、点数見るじゃないの?」

「甘いなぁ……技術点とか諸々あるじゃない。ほら、すずりんのパンチラとか……って、冗談です冗談!」

「ふ、男なら黙って得点勝負だ」

「……ハァ」

「巻き込まれて災難ですね、葵さんでしたっけ」

「巻き込まれるのには慣れたからもう諦めてる。それよりも、あいつら早速始めてるぞ」

「……音符のパターンは……うん、大丈夫、パターンさえ――って、あ!? そこ予測してたのに!」

「ふはははは! 嬢ちゃん、音ゲーはパターンだけではないのだよ!」




「第二回戦、御題は『クイズマジックカレッジ』……審判はあおいんねー」

「もう突っ込まん……これが終わったら、俺は帰っていいんだよな? 用事があるんだ。ソロモンには負けられない」

「く……さっきは体がついていかなかっただけ。このゲームなら負けない」

「樫月、案外慣れてるんだねあのゲーム」

「おうよ。足しげくゲーセンには通ってるからな。このクイズマジックカレッジだって大賢者だぜ? 残念だがミステリアス汁は頂いたぜ」

「ほいじゃ、開始開始ー」

「俺が審判じゃなかったのか……?」

『第一問、天――』

「これ」

「ちょい待て!? まだ一文字しか出てないぞ? 勘か!? 畜生、バトルモードじゃ相手が答え選択したらもう問題読み上げねーのに……く、数字だけじゃ答えが分からん!」

『ブッブー』

「クイズマジックカレッジの問題の中で、一文字目が“天”なのは、“天夜奇想譚オンラインのショッピングモールで買えるイデアの商品の合計金額は”と、“天夜奇想譚オンラインで生成できる剣属性の武器の製作費用合計”、あとは天の川関係のものしかありません。けど、問題さえ分かっていれば、選択肢だけで答えは分かります。……この勝負、私が貰いました」

「……凄いな、あの子」

「凄いと言うかもう廃人レベルだな」

「すずりんのパターン読みは神懸ってるからねぇ」



「さぁさぁ第三回戦、御題は『クレーンキャッチャーダブルゼーダ』!! 今までの戦績は一対一――さぁ、審判はこのいずもちゃんだよ!」

「“キャトルミューティレーション”と呼ばれたこの樫月耀司様の実力に恐れ戦くがいい!」

「クレーンゲームは計算が命です。そんな異名じゃおそるるに足りませんよ!」

「……はい、あの野草とかは炒め物にも使えるんですよ」

「そうなのか。知ってるかもしれないが、一応アキにも教えてやるか。ありがとう、助かる」

「いえいえ。昔の節約術が人のためになるなんて思いませんでしたよ」



 子犬の鼻の辺りをぐにぐにしてたら、がたいのいい男が変な箱の前に立った。銭を箱の中に入れると、光る出っ張りの上に手を置いた。そして深呼吸をして、真剣に中を覗き込む。中には――アチキの頭ぐらいある、もふもふした羊が入っている。あれだ、ぬいぐるみと言うものだ。

 がたいのいい男が出っ張りを押し込む。すると、箱の天井に張り付けれられた変なのが動く。それはゆっくりと動き、ぬいぐるみの上に止まる。そこで、がたいのいい男は不敵に笑った。

「お嬢ちゃんの、負け、だぁぁぁっぁぁ!」

 ぽち、うぃー――がこ、ずり……ぼとり。変なのがぬいぐるみを挟んだかと思うと、落ちた。

「な、なぬぃぃぃ!?」

「おおっと、ここで樫月選手、痛恨のミスー!」

 赤毛の女が嬉しそうに叫ぶ。黒髪の女は小さく笑っていた。今度は黒髪の女が箱の前に立つ。

「アームが弱いのにあんなポイントを狙うからですよ……ふふ、これはもう少し後ろを狙うべきでしたね!」

 変なのがまた動き出す。今度は、ぬいぐるみの上のちょっと奥の方で止まった。ゆっくりと変なのが下りてきて、ぬいぐるみをがっちりと捕らえた。ぬいぐるみが持ち上がり、徐々に徐々に運ばれていく。

 黒髪の女は勝ち誇ったような顔をして、がたいのいい男は愕然としていた。

 けど、ぬいぐるみは途中で落ちてしまった。

「ん、な――!?」

 アチキと遊んでいた子犬が、箱に飛びつき、揺れた拍子に落ちたのだ。子犬はよっぽど暇だったみたいだアチキの方を見てふん、と鼻を鳴らし、やってやったぜ、と言わんばかりだった。

「おおっとぉ!? これは大番狂わせだーっ! この場合の判定は一人で決めることはできない、さぁ、審判のお兄様方、多数決ですよ! 個人的にはこれは――」

「引き分けだな」

「引き分けでしょう」

 引き分けらしい。




 そうして戦いは終わり、五人と一匹はそれぞれ帰っていく。

 アチキは子犬と遊びたいので、なよっとした男についていくことにした。




 なよっとした男のちょっと前を、アチキと子犬が歩く。夕暮れ時、狭い路地を、一人と一匹の長い影。この男にはアチキの姿は見えないだろう。けどこうして誰かと歩くと言うのもおつなものだ。けど、鼻緒が切れてるせいでちょっと歩きづらい。

 からころと響く下駄の音。パタパタと鳴る子犬の尻尾。地面を鳴らす靴の音。

 やがて、日が暮れて夜がやってくる。

 暗い路地の向こうに、街灯が一本立っている。そこはちょうど分かれ道になっていた。この辺で分かれよう。アチキはそう考えて、どーせだから子犬の頭を撫で回した。子犬は立ち止まって撫でられ、目をつぶって甘えた声を上げる。可愛い。でも不思議だ。この子犬はアチキとは違うけど、似たような匂いを持ってる。

「×××」

 ――

 アチキは振り返らない。

 少し後ろには、なよっとした男が歩いていたはずなのに。


 そこには、“怖いもの”の気配が立っていた。


 振り返ってはいけない。子犬も毛を逆立ててる。きっと分かってるんだ。アチキは、ゆっくりと歩いた。後ろに立ってる怖いものを刺激しないように、ゆっくり、ゆっくり。子犬も横に並んで歩いてくる。

 やがて、分かれ道。

 だけど走っちゃいけない。歩く。ゆっくり、ゆっくり。

 いて。転んでしまった。しかもその拍子に、折角買った『ぽてとふらぐめんつ-塩の反乱-』を路地にぶちまけてしまった。鼻緒が切れてる上に体が強張ってあんまり早く動けない。と、唐突に怖いものの気配が消える。

 アチキの勘違い?

「ねぇ、君。大丈夫?」

 声をかけられた。声はなよっとした男の。アチキに? いや、もしかしたら逆方向にいる奴に声をかけているのかもしれない。アチキはそう思って、ゆっくりと振り返った。

 ――あ。

 声も上げずにアチキは逃げ出した。

 その男とアチキ。目線がぶつかった。あの男は――アチキを、見ていた。




 さてさて、はてはて。

 夜道。時枷海晴は首を傾げた。逆方向の道に、転んでいる子どもがいたので、声をかけたのだが逃げられてしまった。いきなり声をかけたのは不味かったかな、そんなことを考えながら頭をかく。

 『ぽてとふらぐめんつ-塩の反乱-』の散らばった暗い路地に、冷たい風が吹き抜ける。

「それにしても、こんな寒い日に和服って……いや、和服って暖かいんだっけ」

 茶色い子犬に視線を落とし、少しばかり考える。

「でも、あの狐のお面とか珍しかったなぁ」

 ――不可解な笑みを浮かべて、少年は路地を歩く。

 不気味な不気味な、にたにた笑い。


 お後がよろしいようで。






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