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*作者:扇 **タイトル:-真夏の夜の夢- ----  昼間の喧噪をそのまま引き継ぎ、夜は夜でイベント盛り沢山。昼夜を通してバカンス漬けにされた参加者達はすっかり警戒心を無くしていて大騒ぎ。  夜の訪れと共に舞台をホテルに移し、現在進行形で笑いを絶やさずに楽しんでいた。 「よしよし、全て計画通り。小五月蠅い鼠も退散したようだしのー」  しかしそんな騒ぎに加わらず、主催はホテルの屋上で悦に浸る。  戦場の準備は完了した。残るは引き金をどのように引くかだけ。  少しばかり気にかけていた者共も隔離結界を越えることが出来ずに退散したようであり、何一つ核心に触れる事は出来なかったはずだ。  ここまでの流れは概ね満足。愉快愉快と笑うしかない神様である。 「良い感じに緩みきったところでボチボチ開始。くくっ、楽しみだよ」  諸悪の根源がカモフラージュを止め、本当のイベントの開催を告げた瞬間だった。 -真夏の夜の夢 ROUND2-  そして迎えた二日目。唯我独尊に外回りをしていたアヤメ達にも招集がかけられ、誰一人として欠けることなくイベントホールに参加者は集められていた。  今度は全員参加型の何からしいと大半は思っていたが、何かがおかしい。  しかし特設ステージに現れた恒例の司会者は、そんな不安を吹き飛ばすような元気声でスピーチを始めるのだった。 「おはよーっ!」 「「おはよー!」」 「いいねぇ、みんなノリノリで何よりだ。じゃあこのテンションを維持したままプログラムに従ってネクストチャレンジのご紹介をしちゃうぜーっ!」  コホンと咳払いを一つ。  背後に控えた楽団が勿体つけるように音楽を奏で、期待を一心に受けた司会者は言う。 「それじゃあ皆さんには・・・・ちょっと殺し合いをして貰いまーす♪」  その一言は会場全体を凍らせる大寒波。言葉では理解していても、頭が着いてこない少年少女達は総じて疑問符を浮かべつつ硬直していた。 「ルールは簡単。戦って戦って戦い抜いて、キングオブハートな一人が残るまで無期限で潰し合うみたいな感じ。  ほら、流行したじゃん。バトロワだっけ?知ってるっしょ?」  その単語で状況を理解した者が多かったらしく、ようやくここで罵声やら何やらが沸き上がる。  正直な話、いずもとて同じ立場なら大ブーイングだ。しかし今の自分は運営側。何をどのように行うか知った上で協力しているので 何を言われようとそよ風にすぎない。所詮は他人事、困るのは彼らだ。弄ぶ側が心配する要素は皆無なのだ。 「あー、そこヤバイ目で睨み付けてくる娘さん落ち着こう」 「何がちょっと殺し合えよ!これ以上妙な真似をするなら叩き切ってやるわ!」 「あのさぁ、映画か小説で見たことが無いの?」 「・・・・どういう意味よ」 「この先は、さっきから喋りたくてウズウズしている大先生に任せよう。首謀者にして黒幕さんご登場ーっ!」  いずもが指を鳴らすと、天井付近からサングラスにスーツと言う怪しい風体で身を包んだ月がワイヤーアクションで急降下。 どうやら出待ちだったらしく、完全に計算されたタイミングでの登場だった。 「はっはっは、主に学生の諸君グッモニン。紹介の通り、余がプロデューサーの月さんです。さっそくで悪いのじゃが  いずもの言葉通りのポジションも兼任しているのだよ。論より証拠の格言の為、死亡フラグを立てたぬしを潰すかの」  その言葉と同時、自然な動作で拳銃を引き抜いた月は即座に発砲。  銃弾は文句をいの一番にぶちまけた娘の頭を打ち抜き、足下の絨毯の上へと赤い花を咲かせていた。 「・・・・そ、そうか、最初に文句を言った奴は死ぬ運命か。無駄に再現度たけぇ」 「突っ込むところはそこか!?」 「いやぁ!?あたしは死にたくない!助けてっ!?」  倒れた少女の周りは恐慌状態だ。  術式を編み始める者、武器を取りに逃げだそうとする者等、反応は様々だったが、これだけ人が集まれば変わり者の一人くらいは当然居て然るべきか。  そんな緊迫した空気を読まない少女が一人挙手をして静かに告げる。 「慌てなくても死んでないよ?ほら、気絶してるだけ。赤いのも血じゃなく、概念で演出発生した塗料系だと思う。  冷静になろうよ、私たちは普通の子供じゃないんだし」  少女こと硯梨は死体と思われた娘を抱き上げて確認。呼吸が正常であり、頭蓋も無傷だとその手で証明して周囲に落ち着きを誘う。 「話を最後まで聞かないと判断材料が足りないよ。敵意はないみたいだし、月さん説明を続行してくれないかな?  これ以上無駄に喚く輩は私が黙らせるから安心して」 「うむ、早計はいかん。今のはやってみたかっただけのお遊びなのだよ」 「むしろやんなきゃ嘘。あたしは良いと思う。ホラー物で最初に死ぬアベックの男みたいな退場ってある意味憧れじゃん!」 「うむ、孤立したペンションか何かで“殺人犯がいるかもしれないのに一緒に居られるか!”とかに通じる伝統のポジションじゃからなー」 「通だねぇ、でも個人的には――――」  訳のわからぬ掛け合いを始めた一匹と一人の背に寒気が走る。  いずもはずっと昔から。月はつい最近より覚えのある本能的な恐怖を感じていた。 「・・・話を進めようか?」 「「ラ、ラジャッ!」」  サクラ役の硯梨が混乱を収め、暴力に訴えることを防ぐヤラセのはずだった。  既にいずもとは蜜月の仲を見せている気もするが、あくまでもこの場では赤の他人。意外に短気な硯梨の警告を無視した結果 どのような災いが降りかかるか知り得るはずもない設定である。  しかし知らない顔のように振る舞っても、現実的に怖いものは怖い。  月などはいずもの一件でがっちり絞られているので尚更だ。 「えーとですね、命がけは嘘です。みんな信じてないのでお墨付き見せるけど、ほらこの通り統括にも認可を得た大規模模擬戦ですよ?  ただし、死なない代わりに“死んだほうがマシ、死なせてください”的な苦痛を負ってもらうがの」  その証拠と、月は照明を消すと共に大型スクリーンの準備を指示。  間を置かずに表示されたのは、安倍桜花と署名捺印の入った許可証の拡大画像である。  恐ろしいことに“人命・及び身柄の保証を遵守事項とし、全てにおける権限を当該訓練において限定的に委譲する”となっていて 仮にこれが本物の場合は逆らうことが出来ない。逆らうことは組織への反逆であり、事実上の敵対行為となってしまうのだから。 「あー、偽物と疑う人の子も多いはず。そこで五分間だけ通信機器の制限を解放しよう。何処へでも確認を行うとよいだろう。  ただし問い合わせ先は上に行うのだよ?下っ端では話が通じない可能性があり得るのでな」  その言葉を受け、一斉に携帯を取り出す退魔師達。  中にはそんな文明の利器を持っておらず、公衆電話の所在を問う娘も一人だけ居たのだがそれはご愛敬。 「うげ、マジですか!?」 「そんなの初耳ですよ!?あぁ、勝て?出世がかかってる?知るかっ!」 「トトカルチョ?一発大穴狙い?だから行けと行ったのかこの野郎!」 「ふふふ、公で人を斬れる・・・感謝しますよ室長」 「うう・・・僕なんて姉さんのお供でしかない一般人なのにどうしろと!?」  そこらかしらで上司との間に走る亀裂の音や、嫌そうなため息が聞こえる。  一部で殺ると書く方のやる気満々な参加者も居るが、とりあえず問い合わせの結果は皆同じ。  アヤメもまた機知の裁定者の問い合わせた所、ご多分に漏れず同じ回答を受けていた。  彼もまたこの裁量に疑問を持っているようだが、嘘偽り無い事実なのは確かだった。 「何だこの蟻地獄は。いよいよ蛇の掌の上かよ・・・舐めやがって」  もはや残されたチャンスは事故を装ったワンチャンスのみ。  かといって思惑通りに動くのも癪でしかない。 「知ってる面も居るよなぁ。連中を利用するか・・・」  悔しいことに今は手の打ちようがなかった。  雌伏の時を耐え、アヤメは殺意を隠さぬまま獲物を眺めるのだった。 「うむ、では納得して貰ったところでバトって貰おうかの。余がこの島に展開した概念により、剣で切ろうが銃で撃とうが絶対に死にはせん。  まぁ、万が一何か起きても責任もってどうにかするので遠慮無用だよ。ただし、いかに死すことはなくともダメージはダメージ。  致命傷の場合は相応の痛みが発生する事を忘れずにのぅ」 「あー、判りやすく言うと精神的な障害が発生しても知らないぜーって事ね。人間って一定以上の痛みを継続して受けると心が壊れるんだってさ。  大変だねぇ、あっはっは!」  さすが他人事。いずもは屈託無く笑い、親指を立てていた。 「それでは準備の時間を与えよう。30分後にこの場に再集合。それまでに武装を整えるもよし。徒党を組むのもよし。  ルールは何でもありなので各自頭を使うのだよ」 「一般的な武装はロビーで販売中ー。月の人は言い忘れたみたいだけど、参加者の中にはこちらが用意した裏切りのユダが混ざってるので要注意だ。  いくら親友でも下手に信用すると背中からズドン。例えそれが親兄弟でもねぇ・・・くっくっく」  最悪だった。これには自然と纏まりの出来ていたグループ内で顔が引きつる者が続出。  ちなみに的確かつ急所をえぐった悪魔は忙しい忙しい、と上機嫌に姿を消していた。  そんな中、ぼけーっと動かない明は思う。 「・・・着の身着のまま、買い物をする余裕も皆無な私には関係ないのよね」  策を弄しようにもあたりには全く知らぬ顔が並んでいて、とてもではないが協力を申し出られない。  僅かに知った顔も居ることには居るが、一人は二度と会いたくないと思うほどの苦手。もう一人もアルバイト先で接客をした程度にしか顔見知りではなかった。  まぁ、何も問題にはならない。弱小組織はいつも一人でお仕事が当然なのだ。  何よりも己の最大の強み、光学迷彩による隠蔽術は一人でこそ最大の効果を発揮する。 「暫くは誰も来ないような場所に潜んでいよう。これも立派な戦術だし」 逃げのようで攻めの戦術を決め、明はこれからの時間をどう潰すか悩むのだった。 -30分後- 「皆の者、小便は済ませたか?神様にお祈りは?島の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」 「うっは、あたしも何か言わないと。んーと・・・良いセリフが思いつかない!?負けた・・・負けたよ!。仕方がないから祈るさ、祈ってあげるわ神様っ!」 「こうして夢が一つ叶いました。このセリフを吐けただけでお腹いっぱい。思わず解散―とか叫んでやろうかと真剣に悩む余です」 「まてまて神様。これから名台詞をたくさん使える状況が発生するはずだよ!むしろ、見せ場が欲しいから止めるな!」 「・・・たるいなぁ」 「なめんなーっ!今までの準備を無駄にするなら、すずに変わってフルボッコするぞこの野郎っ!」」 何処までも適当な月の姿に、一同は呆れた顔を隠せない。 そんなに簡単に投げ出せるのなら、最初から搦め手を使ってまで集めるなと石を投げつけたくて仕方がない様子である。 「しゃぁない。じゃあ開始するかの。これが最後のルール説明になるが、戦闘不能とこちらで判断した者は身柄を回収後、見物に回ることになる。  そして釘も指しておくけども、これは名目上、どのような内容であろうと訓練。今回の戦績は統括に提出する約束になっておる。  つまり、手を抜いて早々と退場するといずれお叱りや減棒じゃ。その辺ちゃんと考えるのだよ」  さらりと告げられたのは聞き逃せない一言だ。  やってられないと大半の者が形だけ参加してリタイヤするつもりだったのに、本気を出さなければ後々大変なことにっなてしまう。 「んでは、ランダム転送を始めよう。愉快痛快な戦に期待しているよ」  短距離移動用術式解放。今回は事前に仕込みを終えているので、思考のトリガーを引くだけで発動していた。  フロア全体を魔法陣が覆い輝きが光となって霧散すると、残っているのは月とその一派だけ。  その筆頭たるいずもはかけ声一つ。仕事仲間を引き、少女なりの戦場へと移動を開始していた。 「元気だのぅ。さて、余もやることややらないと」  下部達の最後尾に悠々と陣取り、巨大な力を行使した月は壮大な一歩を踏み出すのだった。  一瞬で景色が変わり、気がつけば森の中。  一角は共にいたはずの吸血鬼が居ないことを確認すると拳を握りしめる。  難しいことは判らないが、とにかく全員を殴り倒せばいいらしい。  かの有名な拳士は言った。“考えるな、感じろ”と。  良い言葉だ。まさしく今この時に相応しい指針である。 「トレーニングの成果を試す良いチャンス。俺の拳が何処まで通用するか楽しみだぜ。どれ、最初の獲物は・・・・アレか」  樫の杖を胸に抱き、きょろきょろと挙動不審な少年が視界に入った。  貧相な体、おどおどとした態度。これは良い。一角の嫌いな属性を全て兼ね備えている。  しかし油断はしない。身体能力強化の術式を普段と同じレベルで発動させ、漢らしく正面より高速突撃。  すると敵もこちらの姿を捕らえたようだ。典型的な炎使いらしく生み出した魔法陣から湧き出すのは熱波だ。  だが遅い。そもそも魔術師型が距離を詰められた時点で勝敗は決しているのである。 「は、発現せよ炎。我、炎熱の――――」 「遅ぇよ!」  当然のように術式は間に合わない。加減なしで振るわれた拳が首を引っこ抜くかのような勢いで少年を殴り飛ばしていた。  哀れ魔術師は木の幹に背骨を打ち付け、ピクリとも動かない。  先ずは一人撃破。呼気を抜く一角は、空へと目を向けた。  そこには見慣れたいずもと月の姿が投影されている。 『記念すべき最初のハンターは黒倉 一角さん。想像以上に皆さんガチですねぇ。どう思いますか、解説さん』 『倒したのは能力的にさほど目立たぬ普遍型。一角とやらが優れているわけではないのだよ。リプレイを見ても面白みのない筋力任せで余は面白くありません』 『はい、辛口のご意見有り難うございました。これからは何かある度にあたし達が実況を行うぜー!勝利条件には直接関係ないけど、撃破数最大の子にはご褒美進呈!  SATUGAIせよ!地獄のテロリストのようにハリーアップに大期待!』  いかに危険が伴おうとも、これは所詮お遊びなのだ。  しかし、遊びだからこそ真剣になれる。本物の銃撃は二の足を踏むかもしれないが、エアガンの撃ち合いと判っていれば本気で相対することが出来るのだから。 「さっさと妹分と合流せんとだ。どれ、隠れるのも性に合わなぇ・・・いくか」  探査式は使えない、気配も探れない。こんな自分の不器用さは織り込み済みだ。  ならば、と行き当たりばったり相棒を捜す決意を固める一角だった。 -その頃- 「これが“死ねない概念”の効果と。傍目で見ていても気持ち悪いと思いませんか?腕がちぎれても、首をへし折っても命に別状がないって怖いです」  剣を腰に吊した鞘に収め、文字通り圧倒的な力を行使したリーファは連れへと首を傾ける。  足下には本来ならば致命傷の少年が二人転がっており、時折痙攣する様は不気味としか形容できない。 「この惨劇を生み出したお前が言うな。助けて貰った事には感謝するが・・・そもそも何故助けた?昨日の一件で敵と認定されたと思っていたぞ」 「主より夜まで生かせとの命を受けていましてね。曰く“闇に跋扈するロリっ子萌え”との事です。暫く日本を離れている間に難しい日本語が流行っていてびっくり。萌って何です?」 「知るかというか口に出すのも馬鹿らしいわっ!殺す!ずぇったいぶん殴ってやる!そんな変態に仕えて満足なのかお前!?」  容姿から組みやすしと判断されたのだろう。  エルマは浜辺に転送されるやいなや、二人の少年に襲われていた。  おそらく、否、確実にこれは主催の嫌がらせに違いない。  せめて日差しを遮る木々の中ならまだしも、側には流れる水、空には憎き太陽が照っているとあっては戦う以前の問題だ。  誇り高き吸血種としてはたかが人間、それも一人前にもならない子供相手に討たれるつもりは毛頭無かったが、如何せん無理と諦めたのもまた事実。  しかし、ふらりと現れた教会の犬が何を思ったか少年達を一蹴してくれた。  てっきり“私の獲物”的な独占欲から手を出した思い、エルマはここぞとばかりに戦略的後退を決意。が、反転したところで腕を捕まれ万事休すのはずだった。  だが、リーファの口から語られた内容は予想の斜め上。  助かったこと事実だ。しかし、その理由が萌えとは如何なものか。 「・・・ま、まぁ、こちらにも諸々の事情がありまして。でも、心底忠誠を誓う義理はありません。ギブアンドテイクの関係と言ったところでしょう」 「無関係の私が言うのも失礼かもしれないが、それでいいのか騎士道」 「構いません。私の主人はこの世に唯一人、あんな異形であるものですか」 「そ、そうか。あえて踏み込んで聞かないが・・・」 「それが賢明です。そういえばエルマさん、本当は私ではなく月様の子飼いが来るはずだったのに、わざわざ志願して変わって貰った理由がわかりますか?」 「一度狙った獲物は見逃さないとかだろう」 「大正解」 「普通は袖すり合うも多生の縁とか何とかいい話にする所じゃ!?せめて“一度は手を組んだ仮初めでも友。決着は最後に”みたいな人情話にしないのか貴様っ!?」 「じゃあそれで」 「投げやりだな!私は心底お前が苦手になりそうだ!」 「一度は手を組んだ友達じゃないですか」 「棒読み!?しかも私のセリフを流用しただけって!?」 「注文の多い人は嫌いです」 「一度でも好き発言されてないわっ!なのにどうして“我が儘な子供”的な目で私を見る!」 「これだからツンデレは・・・・」 「お前、実は萌えが何たるか理解してるよな!?どこまでがネタでどこからが本気発言なのか知りたくて仕方がないぞ!」 「ワタシニホンゴワカリマセーン」 「も、もういい。このままだと身の安全は守られても精神が磨り潰される。闇が訪れるまで身を潜めるから何処へなりと行け・・・・行ってください・・・本当に」  心なしか窶れたエルマは返事を待たずに踵を返す。  しかし、数歩歩いたところでピタリと停止。ロボットのように首を背後に向けると  心底嫌そうに半眼を開けた。 「着いてくるなと言ったはずだが」 「こちらも仕事でして。それにレアな貴方の側にいれば敵に困りません。誘蛾灯に寄ってくる虫を切り倒せば、探す手間が省けてらくちんなのです」 「人を何だと・・・・ええい、知らん!」  再び一歩二歩。 「だから邪魔だと――――」 「主は言いました。“汝、友を守れ”と。私はエルマさんが嫌いではありません。この世の中を敵か味方に分類するなら味方側ですので、曲解すると友達ですよね?」 「・・・好きにしろ」 「はい、素直でよろしい。行き先は任せます、お好きなようにどうぞ」 「ならば島の中央に向かう。遅れたら置いていくからな!」  早く本来のパートナーを探そう。  今まで有り難みが判らなかったが、あの筋肉男は扱いやすかったらしい。  側に置いておくのはアレくらいが丁度最適なのだ。  違う意味で一角が恋しいエルマは上機嫌で着いてくる厄介者から逃げるべく、自分でも無意識のうちに足を速めるのだった。 ---- [[一覧に戻る>小説一覧]]
*作者:扇 **タイトル:-真夏の夜の夢- ----  昼間の喧噪をそのまま引き継ぎ、夜は夜でイベント盛り沢山。昼夜を通してバカンス漬けにされた参加者達はすっかり警戒心を無くしていて大騒ぎ。  夜の訪れと共に舞台をホテルに移し、現在進行形で笑いを絶やさずに楽しんでいた。 「よしよし、全て計画通り。小五月蠅い鼠も退散したようだしのー」  しかしそんな騒ぎに加わらず、主催はホテルの屋上で悦に浸る。  戦場の準備は完了した。残るは引き金をどのように引くかだけ。  少しばかり気にかけていた者共も隔離結界を越えることが出来ずに退散したようであり、何一つ核心に触れる事は出来なかったはずだ。  ここまでの流れは概ね満足。愉快愉快と笑うしかない神様である。 「良い感じに緩みきったところでボチボチ開始。くくっ、楽しみだよ」  諸悪の根源がカモフラージュを止め、本当のイベントの開催を告げた瞬間だった。 -真夏の夜の夢 ROUND2-  そして迎えた二日目。唯我独尊に外回りをしていたアヤメ達にも招集がかけられ、誰一人として欠けることなくイベントホールに参加者は集められていた。  今度は全員参加型の何からしいと大半は思っていたが、何かがおかしい。  しかし特設ステージに現れた恒例の司会者は、そんな不安を吹き飛ばすような元気声でスピーチを始めるのだった。 「おはよーっ!」 「「おはよー!」」 「いいねぇ、みんなノリノリで何よりだ。じゃあこのテンションを維持したままプログラムに従ってネクストチャレンジのご紹介をしちゃうぜーっ!」  コホンと咳払いを一つ。  背後に控えた楽団が勿体つけるように音楽を奏で、期待を一心に受けた司会者は言う。 「それじゃあ皆さんには・・・・ちょっと殺し合いをして貰いまーす♪」  その一言は会場全体を凍らせる大寒波。言葉では理解していても、頭が着いてこない少年少女達は総じて疑問符を浮かべつつ硬直していた。 「ルールは簡単。戦って戦って戦い抜いて、キングオブハートな一人が残るまで無期限で潰し合うみたいな感じ。  ほら、流行したじゃん。バトロワだっけ?知ってるっしょ?」  その単語で状況を理解した者が多かったらしく、ようやくここで罵声やら何やらが沸き上がる。  正直な話、いずもとて同じ立場なら大ブーイングだ。しかし今の自分は運営側。何をどのように行うか知った上で協力しているので 何を言われようとそよ風にすぎない。所詮は他人事、困るのは彼らだ。弄ぶ側が心配する要素は皆無なのだ。 「あー、そこヤバイ目で睨み付けてくる娘さん落ち着こう」 「何がちょっと殺し合えよ!これ以上妙な真似をするなら叩き切ってやるわ!」 「あのさぁ、映画か小説で見たことが無いの?」 「・・・・どういう意味よ」 「この先は、さっきから喋りたくてウズウズしている大先生に任せよう。首謀者にして黒幕さんご登場ーっ!」  いずもが指を鳴らすと、天井付近からサングラスにスーツと言う怪しい風体で身を包んだ月がワイヤーアクションで急降下。 どうやら出待ちだったらしく、完全に計算されたタイミングでの登場だった。 「はっはっは、主に学生の諸君グッモニン。紹介の通り、余がプロデューサーの月さんです。さっそくで悪いのじゃが  いずもの言葉通りのポジションも兼任しているのだよ。論より証拠の格言の為、死亡フラグを立てたぬしを潰すかの」  その言葉と同時、自然な動作で拳銃を引き抜いた月は即座に発砲。  銃弾は文句をいの一番にぶちまけた娘の頭を打ち抜き、足下の絨毯の上へと赤い花を咲かせていた。 「・・・・そ、そうか、最初に文句を言った奴は死ぬ運命か。無駄に再現度たけぇ」 「突っ込むところはそこか!?」 「いやぁ!?あたしは死にたくない!助けてっ!?」  倒れた少女の周りは恐慌状態だ。  術式を編み始める者、武器を取りに逃げだそうとする者等、反応は様々だったが、これだけ人が集まれば変わり者の一人くらいは当然居て然るべきか。  そんな緊迫した空気を読まない少女が一人挙手をして静かに告げる。 「慌てなくても死んでないよ?ほら、気絶してるだけ。赤いのも血じゃなく、概念で演出発生した塗料系だと思う。  冷静になろうよ、私たちは普通の子供じゃないんだし」  少女こと硯梨は死体と思われた娘を抱き上げて確認。呼吸が正常であり、頭蓋も無傷だとその手で証明して周囲に落ち着きを誘う。 「話を最後まで聞かないと判断材料が足りないよ。敵意はないみたいだし、月さん説明を続行してくれないかな?  これ以上無駄に喚く輩は私が黙らせるから安心して」 「うむ、早計はいかん。今のはやってみたかっただけのお遊びなのだよ」 「むしろやんなきゃ嘘。あたしは良いと思う。ホラー物で最初に死ぬアベックの男みたいな退場ってある意味憧れじゃん!」 「うむ、孤立したペンションか何かで“殺人犯がいるかもしれないのに一緒に居られるか!”とかに通じる伝統のポジションじゃからなー」 「通だねぇ、でも個人的には――――」  訳のわからぬ掛け合いを始めた一匹と一人の背に寒気が走る。  いずもはずっと昔から。月はつい最近より覚えのある本能的な恐怖を感じていた。 「・・・話を進めようか?」 「「ラ、ラジャッ!」」  サクラ役の硯梨が混乱を収め、暴力に訴えることを防ぐヤラセのはずだった。  既にいずもとは蜜月の仲を見せている気もするが、あくまでもこの場では赤の他人。意外に短気な硯梨の警告を無視した結果 どのような災いが降りかかるか知り得るはずもない設定である。  しかし知らない顔のように振る舞っても、現実的に怖いものは怖い。  月などはいずもの一件でがっちり絞られているので尚更だ。 「えーとですね、命がけは嘘です。みんな信じてないのでお墨付き見せるけど、ほらこの通り統括にも認可を得た大規模模擬戦ですよ?  ただし、死なない代わりに“死んだほうがマシ、死なせてください”的な苦痛を負ってもらうがの」  その証拠と、月は照明を消すと共に大型スクリーンの準備を指示。  間を置かずに表示されたのは、安倍桜花と署名捺印の入った許可証の拡大画像である。  恐ろしいことに“人命・及び身柄の保証を遵守事項とし、全てにおける権限を当該訓練において限定的に委譲する”となっていて 仮にこれが本物の場合は逆らうことが出来ない。逆らうことは組織への反逆であり、事実上の敵対行為となってしまうのだから。 「あー、偽物と疑う人の子も多いはず。そこで五分間だけ通信機器の制限を解放しよう。何処へでも確認を行うとよいだろう。  ただし問い合わせ先は上に行うのだよ?下っ端では話が通じない可能性があり得るのでな」  その言葉を受け、一斉に携帯を取り出す退魔師達。  中にはそんな文明の利器を持っておらず、公衆電話の所在を問う娘も一人だけ居たのだがそれはご愛敬。 「うげ、マジですか!?」 「そんなの初耳ですよ!?あぁ、勝て?出世がかかってる?知るかっ!」 「トトカルチョ?一発大穴狙い?だから行けと行ったのかこの野郎!」 「ふふふ、公で人を斬れる・・・感謝しますよ室長」 「うう・・・僕なんて姉さんのお供でしかない一般人なのにどうしろと!?」  そこらかしらで上司との間に走る亀裂の音や、嫌そうなため息が聞こえる。  一部で殺ると書く方のやる気満々な参加者も居るが、とりあえず問い合わせの結果は皆同じ。  アヤメもまた機知の裁定者の問い合わせた所、ご多分に漏れず同じ回答を受けていた。  彼もまたこの裁量に疑問を持っているようだが、嘘偽り無い事実なのは確かだった。 「何だこの蟻地獄は。いよいよ蛇の掌の上かよ・・・舐めやがって」  もはや残されたチャンスは事故を装ったワンチャンスのみ。  かといって思惑通りに動くのも癪でしかない。 「知ってる面も居るよなぁ。連中を利用するか・・・」  悔しいことに今は手の打ちようがなかった。  雌伏の時を耐え、アヤメは殺意を隠さぬまま獲物を眺めるのだった。 「うむ、では納得して貰ったところでバトって貰おうかの。余がこの島に展開した概念により、剣で切ろうが銃で撃とうが絶対に死にはせん。  まぁ、万が一何か起きても責任もってどうにかするので遠慮無用だよ。ただし、いかに死すことはなくともダメージはダメージ。  致命傷の場合は相応の痛みが発生する事を忘れずにのぅ」 「あー、判りやすく言うと精神的な障害が発生しても知らないぜーって事ね。人間って一定以上の痛みを継続して受けると心が壊れるんだってさ。  大変だねぇ、あっはっは!」  さすが他人事。いずもは屈託無く笑い、親指を立てていた。 「それでは準備の時間を与えよう。30分後にこの場に再集合。それまでに武装を整えるもよし。徒党を組むのもよし。  ルールは何でもありなので各自頭を使うのだよ」 「一般的な武装はロビーで販売中ー。月の人は言い忘れたみたいだけど、参加者の中にはこちらが用意した裏切りのユダが混ざってるので要注意だ。  いくら親友でも下手に信用すると背中からズドン。例えそれが親兄弟でもねぇ・・・くっくっく」  最悪だった。これには自然と纏まりの出来ていたグループ内で顔が引きつる者が続出。  ちなみに的確かつ急所をえぐった悪魔は忙しい忙しい、と上機嫌に姿を消していた。  そんな中、ぼけーっと動かない明は思う。 「・・・着の身着のまま、買い物をする余裕も皆無な私には関係ないのよね」  策を弄しようにもあたりには全く知らぬ顔が並んでいて、とてもではないが協力を申し出られない。  僅かに知った顔も居ることには居るが、一人は二度と会いたくないと思うほどの苦手。もう一人もアルバイト先で接客をした程度にしか顔見知りではなかった。  まぁ、何も問題にはならない。弱小組織はいつも一人でお仕事が当然なのだ。  何よりも己の最大の強み、光学迷彩による隠蔽術は一人でこそ最大の効果を発揮する。 「暫くは誰も来ないような場所に潜んでいよう。これも立派な戦術だし」 逃げのようで攻めの戦術を決め、明はこれからの時間をどう潰すか悩むのだった。 -30分後- 「皆の者、小便は済ませたか?神様にお祈りは?島の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」 「うっは、あたしも何か言わないと。んーと・・・良いセリフが思いつかない!?負けた・・・負けたよ!。仕方がないから祈るさ、祈ってあげるわ神様っ!」 「こうして夢が一つ叶いました。このセリフを吐けただけでお腹いっぱい。思わず解散―とか叫んでやろうかと真剣に悩む余です」 「まてまて神様。これから名台詞をたくさん使える状況が発生するはずだよ!むしろ、見せ場が欲しいから止めるな!」 「・・・たるいなぁ」 「なめんなーっ!今までの準備を無駄にするなら、すずに変わってフルボッコするぞこの野郎っ!」」 何処までも適当な月の姿に、一同は呆れ顔を隠せない。 そんなに簡単に投げ出せるのなら、最初から搦め手を使ってまで集めるなと石を投げつけたくて仕方がない様子である。 「しゃぁない。じゃあ開始するかの。これが最後のルール説明になるが、戦闘不能とこちらで判断した者は身柄を回収後見物に回ることになる。  そして釘も指しておくけども、これは名目上どのような内容であろうと訓練。今回の戦績は統括に提出する約束になっておる。  つまり、手を抜いて早々と退場するといずれお叱りや減棒じゃ。その辺ちゃんと考えるのだよ」  さらりと告げられたのは聞き逃せない一言だ。  やってられないと大半の者が形だけ参加してリタイヤするつもりだったのに、本気を出さなければ後々大変なことにっなてしまう。 「んでは、ランダム転送を始めよう。愉快痛快な戦に期待しているよ」  短距離移動用術式解放。今回は事前に仕込みを終えているので、思考のトリガーを引くだけで発動する。  フロア全体を魔法陣が覆い輝きが光となって霧散すると、残っているのは月とその一派だけ。  その筆頭たるいずもはかけ声一つ。仕事仲間を引き、少女なりの戦場へと移動を開始していた。 「元気だのぅ。さて、余もやることややらないと」  下部達の最後尾に悠々と陣取り、巨大な力を行使した月は壮大な一歩を踏み出すのだった。  一瞬で景色が変わり、気がつけば森の中。  一角は共にいたはずの吸血鬼が居ないことを確認すると拳を握りしめる。  難しいことは判らないが、とにかく全員を殴り倒せばいいらしい。  かの有名な拳士は言った。“考えるな、感じろ”と。  良い言葉だ。まさしく今この時に相応しい指針である。 「トレーニングの成果を試す良いチャンス。俺の拳が何処まで通用するか楽しみだぜ。どれ、最初の獲物は・・・・アレか」  樫の杖を胸に抱き、きょろきょろと挙動不審な少年が視界に入った。  貧相な体、おどおどとした態度。これは良い、一角の嫌いな属性を全て兼ね備えている。  しかし油断はしない。身体能力強化の術式を普段と同じレベルで発動させ、漢らしく正面より高速突撃。  すると敵もこちらの姿を捕らえたようだ。典型的な炎使いらしく生み出した魔法陣から湧き出すのは熱波だ。  だが遅い。そもそも魔術師型が距離を詰められた時点で勝敗は決しているのである。 「は、発現せよ炎。我、炎熱の――――」 「遅ぇよ!」  当然のように術式は間に合わない。加減なしで振るわれた拳が首を引っこ抜くかのような勢いで少年を殴り飛ばしていた。  哀れ魔術師は木の幹に背骨を打ち付け、ピクリとも動かない。  先ずは一人撃破。呼気を抜く一角は、空へと目を向けた。  そこには見慣れたいずもと月の姿が投影されている。 『記念すべき最初のハンターは黒倉一角さん。想像以上に皆さんガチですねぇ。どう思いますか、解説さん』 『倒したのは能力的にさほど目立たぬ普遍型。一角とやらが優れているわけではないのだよ。  リプレイを見ても面白みのない筋力任せで余は面白くありません』 『はい、辛口のご意見有り難うございました。これからは何かある度にあたし達が実況を行うぜー!  勝利条件には直接関係ないけど、撃破数最大の子にはご褒美進呈!  SATUGAIせよ!地獄のテロリストのようなハリーアップに大期待!』  いかに危険が伴おうとも、これは所詮お遊びなのだ。  しかし、遊びだからこそ真剣になれる。本物の銃撃は二の足を踏むかもしれないが、エアガンの撃ち合いと判っていれば本気で相対することが出来るのだから。 「さっさと妹分と合流せんとだ。どれ、隠れるのも性に合わなぇ・・・いくか」  探査式は使えない、気配も探れない。こんな自分の不器用さは織り込み済みだ。  ならば、と行き当たりばったり相棒を捜す決意を固める一角だった。 -その頃- 「これが“死ねない概念”の効果。傍目で見ていても気持ち悪いと思いませんか?腕が千切れても、首をへし折っても命に別状がないって怖いです」  剣を腰に吊した鞘に収め、文字通り圧倒的な力を行使したリーファは連れへと首を傾ける。  足下には本来ならば致命傷の少年が二人転がっており、時折痙攣する様は不気味としか形容できない。 「この惨劇を生み出したお前が言うな。助けて貰った事には感謝するが・・・そもそも何故助けた?昨日の一件で敵と認定されたと思っていたぞ」 「主より夜まで生かせとの命を受けていましてね。曰く“闇に跋扈するロリっ子萌え”との事です。  暫く日本を離れている間に難しい日本語が流行っていてびっくり。萌って何です?」 「知るかというか口に出すのも馬鹿らしいわっ!殺す!ずぇったいぶん殴ってやる!そんな変態に仕えて満足なのかお前!?」  容姿から組みやすしと判断されたのだろう。  エルマは浜辺に転送されるやいなや、二人の少年に襲われていた。  おそらく、否、確実にこれは主催の嫌がらせに違いない。  せめて日差しを遮る木々の中ならまだしも、側には流れる水、空には憎き太陽が照っているとあっては戦う以前の問題だ。  誇り高き吸血種としてはたかが人間、それも一人前にもならない子供相手に討たれるつもりは毛頭無かったが、如何せん無理と諦めたのもまた事実。  しかし、ふらりと現れた教会の犬が何を思ったか少年達を一蹴してくれた。  てっきり“私の獲物”的な独占欲から手を出した思い、エルマはここぞとばかりに戦略的後退を決意。が、反転したところで腕を捕まれ万事休すの はずだった。だが、リーファの口から語られた内容は予想の斜め上。  助かったこと事実だ。しかし、その理由が萌えとは如何なものか。 「・・・ま、まぁ、諸々の事情がありまして。でも、心底忠誠を誓う義理はありません。ギブアンドテイクの関係と言ったところでしょう」 「無関係の私が言うのも失礼かもしれないが、それでいいのか騎士道」 「構いません。私の主人はこの世に唯一人、あんな異形であるものですか」 「そ、そうか。あえて踏み込んで聞かないが・・・」 「それが賢明です。そういえばエルマさん、本当は私ではなく月様の子飼いが来るはずだったのに、志願して変わって貰った理由がわかりますか?」 「一度狙った獲物は見逃さないとかだろう」 「大正解」 「普通は袖すり合うも多生の縁とか何とかいい話にする所じゃ!?せめて“一度は手を組んだ仮初めでも友。決着は最後に”  みたいな人情話にしないのか貴様っ!?」 「じゃあそれで」 「投げやりだな!私は心底お前が苦手になりそうだ!」 「一度は手を組んだ友達じゃないですか」 「棒読み!?しかも私のセリフを流用しただけって!?」 「注文の多い人は嫌いです」 「一度でも好き発言されてないわっ!なのにどうして“我が儘な子供”的な目で私を見る!」 「これだからツンデレは・・・・」 「お前、実は萌えが何たるか理解してるよな!?どこまでがネタでどこからが本気発言なのか知りたくて仕方がないぞ!」 「ワタシニホンゴワカリマセーン」 「も、もういい。このままだと身の安全は守られても精神が磨り潰される。  闇が訪れるまで身を潜めるから何処へなりと行け・・・・行ってください・・・本当に」  心なしか窶れたエルマは返事を待たずに踵を返す。  しかし、数歩歩いたところでピタリと停止。ロボットのように首を背後に向けると心底嫌そうに半眼を開けた。 「着いてくるなと言ったはずだが」 「こちらも仕事でして。それにレアな貴方の側にいれば敵に困りません。誘蛾灯に寄ってくる虫を切り倒せば、探す手間が省けて楽ですし」 「人を何だと・・・・ええい、知らん!」  再び一歩二歩。 「だから邪魔だと――――」 「聖書の中で主は言いました。“汝、友を守れ”と。私はエルマさんが嫌いではありません。  この世の中を敵か味方に分類するなら味方側ですので、曲解すると友達ですよね?」 「・・・好きにしろ」 「はい、素直でよろしい。行き先は任せます、お好きなようにどうぞ」 「ならば島の中央に向かう。遅れたら置いていくからな!」  早く本来のパートナーを探そう。  今まで有り難みが判らなかったが、あの筋肉男は扱いやすかったらしい。  側に置いておくのはアレくらいが丁度最適なのだ。  違う意味で一角が恋しいエルマは、上機嫌で着いてくる厄介者から逃げるべく自分でも無意識のうちに足を速めるのだった。 ---- [[一覧に戻る>小説一覧]]

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