642 名無しさん@ビンキー [sage] Date:2008/07/06(日) 14:17:28 O ID: Be:
・近所のスーパーでスイーツ(笑)な短冊を見て感化されたss
・七夕前日なアレティエ
・トレミー。時間軸?何それ?
・性別はどちらでもどうぞ
駄目だと思ったらスクロールでお願いします。
643 七夕前日アレティエss [sage] Date:2008/07/06(日) 14:20:43 O ID: Be:
「…何をしているんですか」
ティエリアが、飲み終えてしまったコーヒーカップを片手に食堂に入ると、ロックオンと刹那が何やら全体がくすんだ緑をした木の傍で何やら話をしているのが目に入った。ロックオンの背丈より少し大きめの奇妙な木である。
声をかけると、深緑の紙切れを持ったロックオンがこちらに気が付き、右手でそれをひらひらさせた。一方刹那は、見向きもせず真剣に青い紙切れを糸で木に括り付けていた。
「お前もやるか?」
「何をです?慎んで、」
「そういわずにさ」
ロックオンはティエリアの細い体をひょいと椅子に座らせる。ティエリアはむっとした表情で、笑っているロックオンを睨んだ。
「…七夕だ」
「たなばた?」
ここでようやく紙切れを括り終えた刹那が口を開いた。たなばた、とは何なのだろう。
説明してやれ、とロックオンが言うと、刹那は静かにうなずき話しはじめた。
「…昔、織姫と彦星という二人の男女が居た。恋人だった二人は怠けていたせいで、神様に一年に一度しか会えなくされたらしい。」
「日本の風流なんだってさ。その二人が明日の夜会えるんだ。だから、この短冊って紙切れに願い事を書いてこの竹に飾ればそれが叶うってわけ」
…くだらない。
二人の説明を聞き、ティエリアは吐き捨てるように言い残し立ち上がろうとしたが、刹那が無言で紫の短冊と黒いマジックペンを差し出した。
「アレルヤも書いてたぞっ」
「どこですか?見せてください」
「おいおい、自分は書かないのに他人の見るのは反則だろ?何でも良いから欲しいものでも書いとけ」
ティエリアはため息をつき、再び椅子に腰掛けた。
別にアレルヤが書いたから自分も同じように願いを書くのではないと自分に言い聞かせ、マジックペンを持つ。
しかし、いざ願い事を書けといわれてもとっさに思い浮かぶものではなかった。
欲しいものといっても、新しい携帯端末は最近アレルヤに買ってもらったし、食に関してもアレルヤが作ってくれる料理に満足している。
アレルヤ?そういえばアレルヤは何を願ったのだろう?
ふと顔を上げると、ロックオンと刹那が上から覗き込んでいた。ティエリアは二人をきっと睨んだ。
「…見ないでもらえますか」
「はいはい」
向かいの椅子に座り、竹に吊り下げるのだろう飾りを正方形の色紙で折り始めた二人をよそにティエリアは真剣に考えていた。
アレルヤは、もしかして自分の事を書いてくれてたりしないだろうか。いや、今更アレルヤが自分を欲しいとは思わないだろう。
止まっていた手を動かし、短冊にアレルヤとだけ書いてみる。書き終わったときに、はっとした。これじゃ私がアレルヤが欲しいみたいじゃないか、そんな馬鹿なことが、
「あれ?皆いたんだ!」
その時シュッという摩擦音と共にアレルヤが入ってきた。ティエリアは即座に自分の短冊を隠した。
さっきクリスに渡されて、と彼の左手にはオレンジの短冊とマジックペン。
アレルヤも書いた~というのはもしかして出任せだったのか!即座にロックオンを睨むが、それに気付いたティエリアを可笑しそうに笑うだけでますます腹が立った。
「ティエリアも書いてるの?どれどれ…」
「嫌だ。…君のはどうなんだ?」
「えっ…それは…」
あいつの事だ。はいどうぞで見せてくれると思っていたが、アレルヤは珍しく視線をそらして拒んだ。
見れないと分かれば余計に見たくなるもの。この際周りの目など関係ないとばかりにティエリアはアレルヤに飛び付き、オレンジの短冊を奪い取った。
「ちょ、ちょっと!ティエリア!」
にやけるロックオンに無表情の刹那、そして焦るアレルヤを尻目に、四文字だけ書かれた自分の短冊を乱暴に回収し、食堂を出た。
当然、アレルヤも急いで飛び出して廊下の手すりを掴んでいるピンクのカーディガンを追い掛けた。
「待って!ねぇ、待ってティエリア!」
待ってやるものか!
そう思いながら、左手に持っているアレルヤの短冊に目にやった。
「………っ」
ティエリアは小さく息をのみ、ぱっと手すりから手を離して俯き、オレンジの短冊を睨み付けた。
急に動かなくなってしまったティエリアに追い付いたアレルヤは背中からぎゅっと抱き締めた。
「あーぁ、ばれちゃった」
「なっ、何だこの恥ずかしい短冊は!」
「だから見られたくなかったのに…」
腕のなかで、耳まで真っ赤にしているティエリアは今にも泣きそうだった。そんな恋人を見て、別に悪いことをした覚えはなかったが、慌てて謝った。
「ご、ごめん!ごめんね?」
「…ン」
「え?」
「ペンを貸せと言っている!」
左手に握られたマジックペンを再びひったくり腕から離れて壁に向かうティエリアが、紫の短冊に何かを書く様子を眺めるしかなかった。
何を書いているのか確かめようにも、細い腕で隠しているので見ることは出来ない。
ただ、短冊を真剣に見つめているティエリアの横顔は真っ赤に染まっているが、それもとても綺麗でついぼうっと眺めてしまう。
その熱い視線に気づいたティエリアはアレルヤに視線を向けずに口を開いた。
「…何だ」
「ううん、何でもないよ!」
ペンのキャップをカチッと閉めて短冊二枚と一緒にアレルヤの胸筋に押しつける。
ティエリアは俯いたまま。耳は真っ赤なままだった。
「…これを飾っておけ」
「うん、いいけど、」
「捨てたら万死だからな!」
そう言い残すと、顔まで真っ赤にさせて菫色の整えられた髪を翻し、行ってしまった。
ティエリアの姿が見えなくなってから、捨てはしないけど何を書いたのかなと紫色の短冊を見た瞬間、アレルヤの顔もたちまち真っ赤になった。
「あーらまぁ、仲良しな事だ」
ロックオンが呆れるように呟く。
その視線の先に揺れるのはオレンジと紫の短冊。
丸っこい文字と角張った文字でそれぞれの願い事が書いてあった。
《ずっとティエリアと一緒にいれますように》
《アレルヤが俺から離れませんように》
おわり