※性転換ものです。苦手な方は注意されたし。
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二人だけの夕日のSOS団部室。
僕が密かに思いを寄せている彼女が、急に飴をくれました。
「……これは?」
某サイダーのあめ玉。
彼女に向き直ると、夕日に浮き出された柔らかそうな頬が、赤に染まっています。
口の端をゆがめて、彼女は言いました。
「その飴、今の俺の唇と同じ味だぜ?」
さっきまで同じものを食べていたという意味でしょうか。夕日に照らされた彼女の表情からはなにも感じ取れません。
「その飴と俺、どっち食べたい?」
彼女はゆっくりとした動きでドアに近づくと、ドアの鍵を閉めた。
「……誘って、いるんですか?」
跳ね始めた胸をなだめるように、そう問う。
「ふっ……どうだろうな」
吐き捨てるようにそういい、僕に近づいてきました。
「……」
距離をとるために後ろへ下がっているとパイプいすに足を取られました。
「──っ!?」
床にこけることはありませんでしたが、ガタッと激しくパイプいすに座る形になっちゃいました。
これをチャンスとばかりに彼女が急接近してきました。そして、僕の目の前に立ち、
「古泉」
顎を、彼女の細い指で掬われました。
「なっ……なんですか?」
なるべく平常を装っているつもりでしたが、にやりと彼女は笑い、
「飴と俺……どっちがいい?」
「っ……」
こんなことに流されて勢いに任せてはいけない…そう思い、彼女から顔を逸らしました。
「……ふふっ」
そんな僕の反応を楽しんでいるように、彼女は笑います。
「……」
「……」
「……」
「……ふっ」
ひとつ鼻笑いをし、僕の顎から指を放して、長机にある鞄を持って、
「俺は帰るからな」
といって、彼女がドアに手をかけたとき──
「まっ……」
考えるより先に『待って』と言いそうになり、口をつぐむが、時すでに遅し、
「……なんだ?」
と、彼女はドアの前で立ち止まっています。
「ぼっ……僕は……」
ダメだ、言ってはいけない……しかし、僕の口はそんな僕の葛藤を無視して、言葉を紡ごうとします。
「なぁに?」
夕日の逆光で彼女の表情は読みとれませんが、──おそらく笑っているでしょう
「……くは、僕は……っ」
ダメだ、ダメだダメだダメだ勢いに任せては
「──ッ」
「僕は……」
「僕は? なに?」
いつの間にか近くに彼女の顔。今の彼女は、優しい表情でほほえんでいる。
今の表情の彼女になら、思いを告げても……
「ぼ……くは……っ、あなたが──」
そこで僕の言葉はとぎれた。
──口いっぱいの、サイダーの味で……。
おわり
最終更新:2008年06月28日 12:48