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 『聖者の途-後編』
 
 
 
 一人の女性が居た。
 彼女は自然を愛する、一本気な女性であった。
 また腕っ節が強く、村一番の暴れん坊だった男をいとも簡単に捻じ伏せた。
 そしてその生来の根気をもって、彼を更生させた。
 親のいないその男にとって、彼女は母であり、時には父のような存在だった。
 
 手の付けられない暴れん坊だった男は、やがて医師を志した。
 それが、女性への恩に報いることと信じたためであり、彼女自身もそれに賛成した。
 小さな診療所を開業したとき、とても喜んでくれたものだ。
 
 だが、いつしか女性は男の元から姿を消し、再び現れたときには、病によって息を引き取っていた。
 その報せを聞いた途端に男は無気力になり、小さな診療所は静かに朽ちていった。
+
 
 
 
 
 
 まりさに“おいしゃさん”と呼ばれたその男は、恩人の写真を見ながら物思いに耽る。
-突如現れたゆっくりの知り合いということには驚いたが、その話は得心がいくものだった。
+突如現れたゆっくりが知り合いであったことには驚いたが、その話は得心がいくものだった。
 ゆっくりを救い、ゆっくりに囲まれ、ゆっくりに看取られて逝った人生。
 はじめからさいごまで、あの人は弱者の味方だったのだ。
+
 
 いま、男の元には一匹のゆっくりがいる。
 ゆっくり黒ウイルスについて、一般的なことは男も知っている。
 その一つに、ウィルスにかかったゆっくりは先天的な奇型・変化をもって生まれると言うことがあった。
 めーりん種に対しては、皮の薄さがそれにあたる。
 すなわち、今預かっているゆっくりめーりんは、ウイルスに感染している可能性が極めて高かった。
 社会的な範疇でいえば、今すぐ焼却すべきなのだろう。
 だが、ただでさえ無気力な男にその判断はできず、
 そして、めーりんとまりさは、ある種彼女の忘れ形見のようにも思えるのだ。
 ため息を一つつく。
 結局、何の決心も出来はしないのだ。
-
 
 
 「ん?」
 どうも、夜にしては外が明るい気がする。
 そう思って窓から外を見れば、森の方角が仄かに赤らんでいた。
 「まさか……火事か?」
-
 
 
 そして、男は気づいていない。
 診療所から忽然と消え失せたものに。
 後に残ったのは、融けた氷で湿りきった手ぬぐいだけ。
-
-
 
 
 
  ・ ・ ・
-
-
 
 
 
 輝く森の中で、まりさは恐慌状態に陥っていた。
 「と゛お゛し゛て゛も゛り゛か゛も゛え゛る゛の゛お゛おおおぉぉ!!!」
 はじめは、人間から逃れるために、木々を利用して隠れながら進んでいた。
 だが火を目に入れた瞬間、人間に遭遇した事、殴られた事、諸々の事が一片に頭から吹き飛んでしまう。
+
+
+
+
+
 
 まりさにとって――火は、死の象徴だ。
+
+
+
+
+
 
 押し寄せる熱気から少しでも遠ざかろうと、一心不乱に暴走していた。
 「ゆ! ゆ! ゆ! ゆ! ゆ! ゆ……ゆべしっ!?」
 木の根に躓いて地面に頭から突っ込んだ所で、漸く正気を取り戻す。
 「……ゆぅ……」
 気付けば、辺り一帯が火の海に包まれている。
 思ったよりも火勢が早い。誰かが火をつけて回っているのかもしれなかった。
 
 
 
 
 
 
 燃える木々を見て、まりさは――いつしか、涙を流していた。
 
 
 
 
 
 
 火は、まりさを苛み続ける。
 はじめ人間に捕まったときも、おねぇさんと過ごしたあのおうちでも。
 そして、今も。
 まりさがゆっくりしようとすると、そのゆっくりはいつもかっさわれていくのだ。
-
 
 
 死んでいった仲間達を思い出す。
 炎の中、断末魔とともに消えていく、苦悶の命たちを。
 ああ、やっぱりまりさも同じように、火の中で苦しんで死ぬ。それが運命なのだろうか。
 ゆっくりできないこのせかい。
 ただひたすら悲しくなって、まりさは涙を流した。
 火に巻き込まれて倒壊する木にも気付かぬほど、心が締め付けられる。
-
 
 
 緩やかに、ゆっくりまりさに非情の槌が振り降ろされる――
+
+
+
 
 
 
 刹那。
+
+
+
 
 
 
 茂みから飛び出したそれは、まりさを勢い良く刎ね飛ばした。
 「ゆべしっ……!」
 
 
 
 「ゆ……ゆゆ?! ど、どうしてこんなところにいるの?!」
 再び気を取り直したまりさは、自分を突き飛ばしたそれ――めーりんに駆け寄った。
 だが、めーりんに問いかけても返事は無い。
 療養中の体を推して来たのだ。
 その体で荒事を行えば、気を失うのもまた然りだった。
 「……」
 めーりんは何かを咥えているようだった。
-
 
 
 まりさは息を呑む。
 それは、ゆっくりぱちゅりーの帽子とゆっくりありすのヘアバンドだった。
 そう、それは巣に置いてきた筈の、親友達の形見だった。
+
+
+
 
 
 
 めーりんは診療所から抜け出すとまずは巣に向かい、
 形見を回収してからまりさを助けに現れたのだ。
 森が火災に巻き込まれた事。まりさがピンチの状態にある事。
 それをどうやって察知したのかは分からない。
 ただめーりんは、その小さな体で守るべきものを守ろうとしていた。
-
 
 
 火は勢いを強め、ごうごう、と燃え盛っている。
 「なんで、きちゃったの……?」
 まりさは、気絶しためーりんを揺すった。
 あのまま診療所にいれば、少なくともここで焼かれて死ぬことは無かったのに。
 このこがいのちをかけてまでしようとしたことは、なんなのだろう?
 それもむだにおわりそうだけど。
 ぽろり。何かが落ちた。めーりんが取ってきてくれた蜂の巣だった。
 「ゆ……ぅ」
 まりさはそれを半分に割り、めーりんの口に含ませてやる。
 「……ゅ♪」
 そして、残り半分を食べ始める。
 これが最期の食事なのだろう。
 「むーしゃ、むーしゃ、」
 それはとても甘くておいしかった。
 「しあわせ~♪」
 涙を流しながら、まりさにとっては久方ぶりのフレーズを口にした。
 あの頃は毎日のように言い合っていたのに。
-
 
 
 ああ、周りはすっかり炎に囲まれてしまった。
 圧倒的な熱気。
 もう逃げ道など見えない。
 無情な世界がふたりを閉じていくのを感じ、まりさは静かに目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
-――ああ、でも。ほんとうに、そうなのかな?
+――ああ。
 
 
 
 
 
 
-目蓋に写るのは、いつもあのイメージ。
 
 
 
-炎に巻き込まれたおうちでゆっくりたちが息絶えていく、残酷なイメージ。
+――でも。ほんとうに、そうなのかな?
 
+
+
+
+
+
+目蓋に写るのは、いつもあのイメージ。
+
+
+炎に巻き込まれたおうちでゆっくりたちが息絶えていく、残酷なイメージ。
 
 
 おねぇさんと親友のぱちゅりーが燃やされていく、悲しいイメージ。
+
+
+
 
 
 
 
 
 
 ――――でもそこにあったのは、ほんとうに、ぜつぼうだけ?
 
 
 
 
 
 
 ゆっくりれいむの母親は、その体を張って、赤ちゃんれいむ達を守ろうとした。
+
 
 
 
 ゆっくりれみりゃと子れいむたちは、逃げ遅れるゆっくりふらんを必死に引っ張った。
 
 
 
 そんなふらんは、自分に構わず逃げろと、懸命に追い払おうとしていた。
 
 
 
 ちぇんもみょんを助けようと頑張っていた。
 
 
-
-ケロちゃんも自分が干からびようとも。
-
+けろちゃんも自分が干からびようとも。
 
 
 みんな。みんな。
 
 
 
 
 
 
 そこでは誰と一人として、自分だけが助かろうと思うものはいなかった。
 仲間を救うために、その身を賭していた。
 
 
 
 
 
 
 自らの命を犠牲にして、まりさをあの炎の海から救い出したのは、
 意地っ張りのありす。
 
 勝ち気な彼女の声は、胸に残っている。
 
 
 
 
 
 
 病に伏せ、苦しみながら閑かに息を引き取ったぱちゅりーの事を思い出す。
 人間達に虐げられたまりさをずっと労わってくれたぱちゅりー。
 
 穏やかな微笑を、忘れることは無い。
 
 
 
 
 
 
 そして。
 おねぇさんはみんなのおかぁさんになってくれた。
 まりさとぱちゅりーをたすけてくれた。
 ゆっくりたちをうけいれてくれた。
 いいこととわるいことをおしえてくれた。
 まりさを、しんじてくれた。
 やさしくつつんでくれたあのぬくもりは、いまもまりさのなかにのこっているよ。
 
 
 
 
 
 
 ああ――
 すっくと体を起こす。
 あのゆっくりした命たちに追い付くためには、自分には何ができるだろう。
 いや、一度諦めた自分にはそんなことできっこないのかも知れない。
-
 
 
 でも
+
+
+
 
 
 
 あのおうちで精一杯生きようとした命が
-
 
 
 魂が
-
 
 
 ゆっくりが
-
 
 
 嘘ではないと証明できるのは
 
 
 
-まりさしかいない――
+
+
+
+まりさしか、いないんだ――
+
+
+
 
 
 
 傍らに伏せていためーりんを背負う。
 燃え盛る炎を見ても、体が竦む事はもう無い。
 恐怖で霞んでいた視界を開けば限りなく細い、
-己の身を削ってなお余りあるほどに細い、だがしかし確かな、明瞭とした道がそこには見えていた。
-
+己の身を削ってなお余りあるほどに細い、
+だがしかし確かな、
+明瞭とした道がそこには見えていた。
 
 
 ありす、ごめんね。
 まもりたいものが、できちゃったんだ。
-
 
 
 “しかたがないわね”
 あ、ためいきをつかれた。
 “でもまぁ、やるだけやってみればいいんじゃないかしら?”
 “むきゅ”
-
 
 
 思い出の二人に、笑いかける。
 そして、その隣。
 
 おねぇさんに、まりさはひとつ頷いた。
 
 
 
 
 
 
-とうに喪われた約束。それを守るため――みたび、まりさはその身を焦がす。
 
 
 
+とうに喪われた約束。それを守るため――みたび、まりさはその身を焦がす。
 
 
 
- ・ ・ ・ ☆
 
 
 
+ ・ ・ ・ ☆
 
 
-診療所のベッドで寝ていたはずのめーりんを探していた。
-医療区画だけでなく私室や厠なども探したが、とんと見つからない。
-外には火事を見ようとする野次馬がぞろぞろと湧いていた。
-一方、男は火事には興味が無かった。
-森の中のことであれば、森の妖精や妖怪が消火作業を行うであろうため、それ程長引かないだろうという予想がつく。
+
+診療所のベッドで寝ていたはずのめーりんを探す。
+医療区画だけでなく私室や厠なども捜索したが、果たして見つからない。
+一方で火事には中々関心が向かなかった。
+森の中のことであれば森の妖精や妖怪が消火作業を行うであろうため、それ程長引かないだろうという予想もつける。
+外には火事を見ようとする野次馬がぞろぞろと湧いているようだが――
 「あ」
-そこではた、めーりんは森へ帰ったのではないかと、思いついたのである。
+暫くしてから、はた、めーりんは森へ帰ったのではないかと男は思いついたのである。
+
 
 ゆえに男が森の近くまで来たのは、森がほぼ鎮火する段になってからだった。
 「うお、これは……」
 既に引き上げたのか、残っている野次馬の数は、思ったよりも少なかった。
 しかしその代わり、そこは逃げてきた動物達でいっぱいになっていた。
 草食種に混じって肉食種もいるようだが、上位種の動物妖怪が沈静化させているらしく、それ程混乱は無かった。
 これではこの中にいたとしても、体の小さなめーりんを探すのは困難だろう。
 「いっそ、大声で呼んでみるか……?」
 駄目で元々と、意を決して口を開いた矢先。
-
 
 
 「ゆぅー!」
-
 
 
 森から何かが勢い良く飛び出してきた。
 「……!」
 使い古しの提灯をかざしてみると、それはゆっくりめーりんのようだった。
 「おお。お前、心配してたんだぞ」
 そういって駆け寄った男の袖を、
 「ゆぅ! ゆぅ!」
 めーりんは懸命に引っ張る。どこかへ誘導しているようだ。
 只ならぬ気配を感じ、男は駆け出していった。
-
 
 
 そこでは、大柄な男が棍棒のようなものを振り上げていた。
 その足元には、見覚えのある黒い帽子。
 「! なにをっ、しとるかぁぁあっっ!!!」
 「うおっ!」
 そいつを殴り倒し、めーりんとともに傷ついたまりさに駆け寄った。
 「せんせ、あんたこそ何やってんだ。そいつはゆっくりだぞ!」
 そこにいた痩せ型の男が、神経質そうにわめいた。
 こいつらは確か、病的なゆっくり狩りメンバーだと思い出す。
 「ゆっくりなんかいたら、みんな病気になっちまうだろうが!」
 こいつの中では、ゆっくり=病原菌のように直結しているらしい。
 だが半分は当たっている。このままで生かしていても、いつか――
 
 のそり、後ろで大柄な男が起き上がった。
 「そうだぜ先生さんよ、折角燻りだしたってぇのに、横取りされちゃ、おりゃ、かなわねぇよぅ」
 「あ? ……まさか、森に火をつけたのはお前らか?!」
 驚いてそいつらの顔を見回す。
 痩せ型の男は一瞬怯んだが、覚悟を決めたのか、手に持った松明を構えなおして言った。
 「そうだ! 元はといえばこんな所まで出てくるお前らが悪いんだ!
  人様の所へ出てこなければ、こんな事にはならなかったのに!!」
 二人同時に襲い掛かってくる。
 男は、まりさとめーりんをかばうために引き寄せた。
 「おれた゛ち゛のためにじね゛ぇぇぇえ゛え゛゛え゛゛゛!!!」
 
 
 
-「……いや、貴様達の歩む道は、既に日の下にないのだ……」
 
+
+
+「……いや、貴様達の歩む道は、既に日の下にないのだ……」
 
 
 ボッ、ボッ、ボッ――
 幽玄より響くような声が、何処からか聞こえる。
 それに送られるように、青白い炎が周りを囲んだ。
 鬼火という奴か。これが妖怪の仕業であると、男にはなんとなく分かった。
 「む?」
 気付けば、先ほど男達に襲い掛かろうとしていたあの2人組がいない。
 代わりに森の奥から、特徴的な帽子をかぶった女性が出てくる。
 いや――
 普通の女性ならば、尻尾など生えていないだろう。それも九本も。
 「九尾の狐か……」
 超級の大妖怪だ。
 たまに人里に下りてくるとの事だったが、
 暗い森の中では、ただならぬ圧力で身が竦んでしまうのを抑えられない。
 「あの者達には……」
 男の手前で立ち止まる。
 「あの者達には、森の裁きがくだる。……それはそれは残酷な」
 表情を変えず、狐の大妖――八雲藍は告げる。
 自分達の都合で森を焼き払ったのだ。
 それはそこに住む動物ばかりでなく、あらゆる怪異に喧嘩を吹っかけることに等しい。
 彼らは妖怪による神隠しにあったのだと気付いた。
 考えてみれば、消える前に一筋のスキマのようなものを見たように思う。
 いずれにせよ、逃れるすべは無いだろう。
 「……そうか」
 こっくり、男は頷いた。
-
 
 
 「さて、ゆっくりよ」
 八雲藍は、いまだ倒れているまりさに手を宛てた。
 「お前は、とんでもない事をしでかしました」
 「!!!」
 男は緊張する。
 こいつにも何かするのか!
 だが、藍はそんな男を無視するかのように、まりさに対して薄く笑う。
 
 「お前は、焼ける森の中から、自分の身にも構わず……動物達を逃がしましたね?」
 
 
 
 そう、この森でまりさがしたこと。
 それは炎の海から、動物達を救いだすことだった。
 火を飛び越えて安全な場所までめーりんを移動するやいなや、まりさは森へと飛び込んでいった。
 
 男が森の入り口で見た動物達。
 あれは、全てまりさが道を作り、逃がした動物達だったのだ。
 他にも森のあちこちに、まりさが避難させた動物達がいた。
-
 
 
 水と火とおのれの体を生かした巧みな先導。
 それはかつて絶体絶命の状況下からまりさを逃がした、ありすの知恵を髣髴させるような働きだった。
-
 
 
 挫けそうになっても、誰かに背を押されてまりさは立ち上がる。
-その動きは、かつて共に狩りをしたみょんやちぇんの動き。仲間達のそれ。
+その動きは、かつて共に狩りをしたみょんやちぇんやけろちゃんの動き。
 まりさは、独りではなかった。
+
 
 
 
 
 
 「小さな体でよくぞやり遂げました。
  貴方のおかげで、ほぼ全ての動物が無事です。
  ……一人の妖獣として、私からもお礼を言いましょう」
-
 
 
 藍の言葉に偽りは無い。
 少なくとも、炎に巻き込まれて死んだものはいなかった。
 まりさは、その使命をやり遂げたのだ。
 
 
 
 
 
 
 ――すなわち、森の火災の犠牲者は、ゆっくりまりさ唯だ一匹だけだった。
-
 
 
 火を跨ぎ、木を倒し、ある時は倒木を叩き割ることまでした。
 水を吸い上げ、幾度と無く業火の中を往復する。
 まりさは、ゆっくりの限界を超える働きをして見せたのだ。
-
 
 
 そして、限界を超えてしまえば、あとは崩れ落ちるのみだった。
-
 
 
 「……ぉ、おいしゃさん……」
 火に炙られ、焦げ目の目立つ顔。
 「ゆっくりしたけっかが、これだね……」
 「おい、しっかりしろ!」
 あわててまりさを抱き上げる。
 「ひとつ、おねがいがあるんだけど、きいてくれる……?」
 「な、なんだ! いってみろ!」
 「しんだら……まりさを、」
 
 
 
 
 
-
-「ぜんぶ、まっくろになるまで、もやして……」
 
 
 
 
+「ぜんぶ、まっくろになるまで、もやして……」
 
 
 「なっ、何を言ってるんだ、お前!」
 まりさは、力なく、だが確かな表情で言葉を紡ぐ。
+
 「みんなと……
 
 
-  おなじ……
+               おなじ……
+
+    ……ところへ、
+
 
- ……ところへ、
 
+                          ……いかせてね……」
 
-   ……いかせてね……」
 そう言うまりさの顔は穏やかで、だから、男は何も言えなくなってしまった。
 
 
 
 まりさは、めーりんへと向き直る。
 「ゆっ?」
-「めーりん、はちのすおいしかったよ……ありがとね……」
+「……めーりん、はちのす……おいしかったよ……ありがとね……」
 「ゆぅ~♪」
 
 
 
 まりさはめーりんに感謝していた。
 
 あの木の空洞での日々。めーりんの無償の奉仕。
 あれをゆっくりでなくて、なんだというのだろうか。
 ゆっくりは、いつでもそこにあったのだ。
 ああ、もうねむくなってきたよ。
 せめて、さいごに――
-「めーりん、いつまでも……」
+「……めーりん、いつまでも……」
 
 
 
 「ゆっくりしていってね!!!」
 
 
 
 そういってまりさは目を閉じた。
 「! ゆっくり~!」
 動かなくなったまりさをみながら、めーりんは無邪気にわらっていた。
-
 
 
 なぜなら、かつて母が言っていたからだ。
 悲しいときこそ、笑って見せなさい、と。
 
 
 
 
 
 
 だから、めーりんは今までで一番の笑顔を見せた。
 
 
 
 
 
 
 涙はとめようがなかったので、流れるに任せていた――
-
 
 
 
  ・ ・ ・
-
 
 
 
 「それと、あなたに主から言伝てがあります」
 狐の妖怪は消火作業の終わった森で、こそりと男に耳打ちした。
 
 男は呆然とスキマ妖怪の式を見送った。
 
 いつの間にか流れていた涙を拭う。
 そして、めーりんとともに立ち上がり、自らがしなければならないことを悟る。
 まりさが繋いだ、過去のことと、未来のこと。
 
 
 
  ・ ・ ・
 
 
 
 それは、実の所それほど間もない場所にあったのだ。
 男は今まで参らなかったことを恥じた。
 
 「これはまた、見事に焼けたもんだねぇ」
 黒焦げの柱を拾い上げて言うのは、藤原妹紅。
 辛うじて燃え残ったものでさえそんなものだ。
 「変なお願いをしてすみません」
 「いや、こういう依頼もあるにはあるんだ」
 妹紅は件の火災の消火活動のため、あの森に来ていたのだった。
 消火が終わったのを見計らって願い、こうして同行している。
 
 まりさの遺物を火葬したい旨を伝えると、渋々ながら引き受けてくれた。
 そこは、かつてまりさとおねぇさんとゆっくり達が住んでいた家だった。
-
 
 
 「まぁ、ゆっくりなら人間相手より、だいぶ気が楽でいいよ」
 「……」
 男は頭を下げ、改めて周りを見渡す。
 妹紅の言うとおり、全焼もいいとこだった。
 さすがにウイルス相手の滅菌作戦だけあり、念には念を入れて焼却したということなのだろう。
 この中で焼かれたゆっくりたちは、さぞかし地獄を見たに違いない。
 この場所は、ひたすら昏くなるばかりだ――
 男が軽い憂鬱に陥っていると、家の一角から
 「ゅ~! ゅ~!」
 めーりんの呼ぶ声がした。
 「ん?」
 「なんだ?」
-
 
 
 そこは石が堆く積み上がった場所だった。
 そして、めーりんの他に一匹のゆっくりちぇんがいる。
 始めは人間と言うことで威嚇されたが、お菓子をあげたらおとなしくなった。
 もう少し警戒されそうなものだが、直截的には人間の被害にはあったことがないかもしれない。
 
 話を聞くと、いっときこの家に世話になったゆっくりとのことだった。
 「この石の山は、君がつくったのかい?」
 「ちがう、ちがうよー。だれがつくったのかしらないよー」
 ぶんぶんと尻尾を振りながら答えてくる。
 「でも、ほかのこにきけばわかるかもしれないよー」
 もうすぐみんなくるよ、とそのちぇんは言った。
 「みんなだって?」
 「ゆ……」
 ふとみると、いつのまにかゆっくりれいむが足元にいた。
 なにやら石の山へ、花を供えている。
 いや、いつのまにか居たのはれいむ一匹だけではない。
 まりさ、みょん、あるいはその家族達。いくつものゆっくりが集まってきていた。
 「こ、これは……」
 「せ、先生、先生」
 と、妹紅に肩をたたかれる。
 「ん、妹紅殿……!」
 ――いや、そればかりではない。
 辺りを見回せば、れてぃ種やドスまりさ、或いは捕食種と呼ばれるものたちまでもがあつまっている。
 「き、君達はいったい……?」
 
 そこにいたのは、このおうちでお世話になったもの。
 そして、あの森林火災のなか、まりさに救われて、逃げ延びたものたちだった。
 
 そういえば。あの火災では森の動物が助け出されていたが、何故かゆっくりは見かけなかった。
 それは、とうに絶えていたからだと思っていたが――
 そうではないのだ。森から救い出した後、人の手の及ばない所まできっちりと逃がしていたのだ。
 そう。まりさの目的は、残存しているゆっくり達を救うことにこそあったのだ。
 
 
 
 「それじゃ、おにいさんしずかにしてね。これからおいのりするから」
 そういって、話につきあってくれたドスまりさが目を瞑る。
 みれば、周りのゆっくり達も石の墓に向かい、一様に目を瞑っていた。
 
 
 
 
 
-あたりは、シン、と静まりかえっていた。
 
+あたりは、シン、と静まりかえっていた。
 
 
 ――ああ、そうか。
 ここのゆっくり達が警戒しながらも、なぜ人間である自分達を攻撃してこないのか。不意に分かった。
 ここは墓地なのだ。彼女の仲間達の墓地だ。
 このような所で争いごとを起こすのは禁忌。
 もっと大切なものが、ここにあるのだ。
 そして、この石の墓を積み上げたのが誰なのかも、分かる気がした。
 それは、きっと――
-
 
 
 男も跪き、深く頭を垂れる。
 (あなたは……貴女という人は……)
 ここが、これがすべてのはじまりなのだと確信した。
 それは絶望に近い想いだ。
 それは明日へ向かうための、昨日への感謝だ。
 
 
 
 
 
 
 大小種属さまざまなゆっくりたちが、我も吾も無くその小さなお墓へと祈りをささげている。
 
 
 
 
 
 
 それはまるで、使徒たちが聖者に傅いているかのようだった――
 
 
 
 
 
 
 「くっくっくっ」
 不意に、妹紅が肩を振るわせ出した。
 「妹紅殿……?」
 「いや悪い、ちょっとおかしくてね……滅菌作戦とか何とかってやってるんだろ?
  ところが現実はこんなもんなのさ。根絶どころかゆっくり達はピンピンしてるじゃないか」
 彼女にも、つらい思い出があるのだろうか、昏い表情で謂う。
 「全く、有情を絶やして生に寄り縋ろうだなんて、思い上がりにもほどがあるんだよ……!」
 ああ――その通りだ。思い上がりにも程がある。
 なぜなら、これは人間の話でしかないのだ。
 まだ、ゆっくりの土俵に上がってはいない。
 そして、その土俵に上がったのは、ただ一人――――
-
 
 
 「一切の非情、一時の温情に能わず、といったところかねぇ……さて、先生」
 涙をぬぐい、妹紅は眉を吊り上げていった。
 「ここに保菌候補者の集団があるわけだが……どうするかね?」
 ――全く。
 今の流れでどうするもこうするもないだろうに。
-「妹紅殿……私は……医者なんですよ。多分ね」
+「妹紅殿……私は……医者なんですよ。多分」
 ゆえに、行くべき方向は一つしかないのだ。
 墓の前に、本来の目的である、彼女達の遺物を置く。
 つきあってくださって、ありがとうございます。そう頭を下げる。
 藤原妹紅はやれやれ、といった調子で手を上げると、ゆっくりそれに近づいていった。
 
 
 
 
 
 
 その日、一筋の煙が上がった。
 天まで届く、それは白く永い道のようだった。
 
 
 
 
 
 
  ・ ・ ・
 
 
 
 
 
 
 「初めに言います」
 永琳師が、冷ややかに口を開いた。
 
 
 再び竹林の永遠亭。
 ひきつづき妹紅に案内を願い、やってきたのだ。
 薬学の資料について、八意永琳に貸与を申請するためである。
 だが、
 「医術は、万命を救わない」
 そう断言される。
 「いくら手を尽くそうとも、失われる命はある。それは、動かしようのない事実」
 
 「それは淘汰という摂理なのです」
 「……では、今回のウイルスでゆっくりが死滅することは、自然の摂理というのですか」
 男は多少苛立ち紛れに嘯いた。
 弱小なるゆっくりは滅び行くべきだとでも言うのか――
 「自然淘汰では、強いものが残り、弱いものは消えていく」
 永琳師は、男の眼をまっすぐ見据えていった。
 
 「だがしかし」
 彼女の瞳の光が、強くなる。
 「あなたの話を聞く限り、生き残るゆっくりとは、決して強いゆっくりではない」
 
 
 
 
 
 
 「もっとも優しいゆっくりが生き残っていく。それは、紛れもない事実」
 
 
 
 
 
 
 「え……?」
 「ゆっくりとは確かに弱い生き物です。それゆえに、誰かが犠牲となって生き残る。
  ……結果残るのは、みなが守りたいと願う、優しいゆっくりなのです」
 足元のめーりんが泣いていた。
 誰かの命を礎にして、生き延びたゆっくりなのだ。
 「限られた命を養い、育み、連綿たる命を紡いでいく。……それは、医の原点」
 
 
 「医術とはすなわち、命を結ぶ技術に他ならない」
 永琳師はゆっくりと、めーりんに手を伸ばす。
 「消え行く命から、命を掬い上げ、次に結ぶ。それが医師の仕事」
-
 
 
 皮が薄いめーりんは、おそらくゆっくり黒ウイルスに感染しているはずだ――
-
 
 
 だが、永琳師は気にする様子もなく、そのめーりんを抱き上げる。
 そしてしゃっくりあげる1匹のゆっくりをあやすように、その髪を優しく撫ぜていた。
 「資料をお貸ししましょう。必要であれば、図書館への口利きをしても構いません」
 にっこり、微笑んだ。
-
 
 
 「ようこそ、先生。あなたは今、医療のスタートラインに立ったのですよ……」
 竹林の薬師様は、とても魅力的な女性だった。
-
 
 
 
  ・ ・ ・
-
 
 
 
 男は、研究に没頭した。
 そして、めーりんが「ゆっくりしていってね!!!」と言えるようになったころ――
 
 
 
 
 
 
 「……なるほど、そんな裏話があったんですねぇ」
 男は応接室で、ある少女と向かい合っていた。
 その名は射命丸文。新聞記者の天狗である。
 男はゆっくり黒ウイルスの特効薬の発明者として取材を受けているのだ。
 いまやウイルスの脅威は幻想郷になく、ゆっくりを排他する動きも収まりつつあった。
 「では、今回の薬は、そのゆっくりがいなければ生まれなかったと」
 その手帳には、
 
 『友人のゆっくりぱちぇを病で亡くし、』
 『人間のおねぇさんに愛でられ、』
 『ゆっくりありすに命を救われてただ一人生き残ったゆっくりまりさは、』
 『そのほか全てのゆっくりを救ったのだ』
 
 と書かれていた。
 
 
 「そうですね。そういう意味では一番の功労者はあいつなんだと思います」
 「ふむ」
 パタ、と文は手帳を閉じた。
 「この度は取材を受けていただき、ありがとうございました」
 「いや……今回の記事が、ゆっくりたちの境遇の改善につながってくれればいいのですが」
 「ははは、まぁ広く頒布できるよう、精進いたします」
 もっとも里に近い天狗は頭をかいた。
 
 
 
 「ああそうだ」
 と、文はかばんの中を漁り始めた。
 「先ほどのお話の中で、ひとつ気になったことがあるんですよ」
 「と、いいますと?」
 「ああ、これだこれだ」
 小さな写真帳を引っ張り出す。
 「じつはオフレコではあるんですが、一度取材したことを思い出しましてね。
  おそらく、お話の中の場所だと思うのですが」
 よろしければ差し上げます。そういって、一枚の写真を示した。
 そこには、
 
 
 
 
 
 
 ギターをもったおねぇさんと、楽しそうに歌うゆっくり達が写っていた。
-
 
 
 
 
 
 
 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 
 
 
 
 
 
 あるところに、一匹のゆっくりまりさがいました。
-
 
 
 森の中を駆け足で移動していきます。
 友人のゆっくりぱちゅりーが病にかかり、いまにも死にそうなのです。
 彼女のために、どこかゆっくりできるところを見つけなければいけません。
 ふと、人間の住む建物が見えました。
-
 
 
 それは、館と家の中間くらいの大きさの煙突がある家でした。
-
 
 
 中には一人の人間と、一匹のゆっくりがいました。
 ゆっくりまりさは交渉を始めました。
 「ここはまりさのおうちだよ! ゆっくりでていってね!!」 
 しかし、ゆっくりまりさにまともな交渉はできませんでした。
 そこにいたゆっくりに、叩きのめされてしまいます。
 このままではゆっくりぱちゅりーがゆっくりすることができません。
 泣きながら事情を話すことにしました。
 「そのこ、ゆっくり、むかえにいく!」
 と、そのゆっくり――ゆっくりめーりんはいいました。
 
 しばらくして連れて来られたゆっくりぱちゅりーの目に、その建物に掲げられた看板が映りました。
 ゆっくりまりさにも見えていましたが、文字が読めなかったのです。
 そこには、「ゆっくり診療所」と書いてありました。
-
 
 
 人間はゆっくり専門の医者でした。
 適切な治療を受け、ゆっくりぱちゅりーはゆっくりと快復していきました。
 
 一方のゆっくりまりさは、ゆっくりめーりんに連れられて、建物の裏へと向かっていました。
 治療代の代わりとして、しばらくここで働くことになったのです。
 
 途中、石の積み上げられたところに出ました。
 「みんなの、おはか」
 ぽつり、めーりんがつぶやきました。
 いつもならいたずらごころが疼くところですが、
 このときのゆっくりまりさはなにやら神妙な気持ちになって、
 めーりんと一緒にお祈りをしました。
 
 
 
 
 
 
 そこから先に見える建物が、二匹の目的地です。
 ここで働く際に、ゆっくりまりさが住む場所でした。
 中に入って、ゆっくりまりさはびっくりしました。
-そこには。
+そこには、
 
 
 
 ゆっくりれいむが、
 
 
 
 ゆっくりまりさが、
 
 
 
 ゆっくりありすが、
 
 
 
 ゆっくりぱちゅりーが、
 
 
 
-ゆっくり親子が、
+ゆっくりの親子が、
 
 
 
 ゆっくりれみりゃが、
 
 
 
 ゆっくりふらんが、
 
 
 きめぇ丸が、
 
 
-ケロちゃんが、
+けろちゃんが、
 
 
 れーせんが、
 
 
 ちぇんが、
 
 
 ようむが、
 
 
 ちるのが、
 
 
 てんこが、
 
 
 沢山のゆっくり達が、そこにいました。
 みんな、一匹のゆっくりによって命を救われたものでした。
 
 
 
 ――その家の表札には、“ゆっくりまりさとみんなのおうち”と書かれていました。
 
 
 
 「みんな、あたらしいなかま、きたよ!」
 すると、そこにいたゆっくり達がいっせいに集まってきました。
 こういうときの挨拶は決まっています。
 せーの、
+
 
 
 
 
 
 「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」
 
 
 
 
 
 
 
-写真の中のゆっくり達も微笑んでいるようでした。
 
 
 
 
+写真の中のゆっくり達も微笑んでいるようでした。
 
 
 
                                        “ゆっくりまりさと聖者の途”issued.
 
 ====================================================================================================================
 
 元ネタ:ゆっくりいじめ系94 ゆっくりまりさとおうち(作者:抹茶アイス氏)
-
 
 
 ここまで読み進めてくださり、ありがとうございます。
 むの人といいます。
 上にも書いていますが、このおはなしはいじめSSを元ネタにしています。
 なるたけ元の文の雰囲気に近づけようとしたのですが、思いっきり地の文になってますね……。
 
-元ネタの「ゆっくりまりさとおうち」を読んだとき、涙がぼろぼろ出て止まりませんでした。
+元となった「ゆっくりまりさとおうち」を読んだとき、涙がぼろぼろ出て止まりませんでした。
 来る夜来る夜泣き通しでした。
 これは流石にヤバイ、
 何とかしないといつまでも止まらないぞ、そう思って手を付けたのが、このSSです。
+
+
+抹茶アイス様、すばらしい物語をありがとうございます。
+続きの話を勝手に創作したことについて申し訳なく思います。
 
 
 
-作者様、すばらしい物語をありがとうございます。
-勝手に続編作ってすみません。
 
 
 
 ここで、ひとつだけ誤算のお話を。
 
 このまりさの物語を思うとき、とても悲しくなります。
 それは、先の見えた話だったからです。先のない話だったからです。
 しかし、ある妖怪の出現によって、それが一変してしまいました。
 というか、この人とあの人が出た時点で、話が覆ってしまいました。
 あの人だけならまだ何とかしようがあったものの、この人が出てきた時点で必要条件が達成されたのでアウトです。
 もう駄目です。そちらにしか行かなくなりました。
 この時点でタイトルは、『道』ではなく『途(みち)』になりましたとさ。
 
 そう、ともすれば『鎮魂歌』となってしまいそうなこの話は、あくまで生者の『途』のおはなしなのです。
 
 幻想郷は全てを受け入れる。それはそれはあまりにも残酷過ぎるでしょう?
 
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  ・
 
  ・
 
  ・
 
 数ヶ月前のこと。
 永遠亭からも、その煙は見えていた。
 「相変わらずよくもまぁ、ああももくもくと立ち昇らせるもんだわねぇ」
 と、どこか暢気そうなお姫様がつぶやいた。
 「本当にあれでよかったのかしら?」
 腕の中のそれに訪ねる。
 「……」
 無言でこっくりと頷いた。
 ゆっくりにだって、少なからずプライドはあるのだ。
 それは、かつて自らのいた方角から、燃える“かつての自分”から立ち上る煙を、ずっと見ていた。
 
 
 
 
 
 
 少し前のこと。
 「それと、あなたに主から言伝てがあります」
 狐の妖怪は消火作業の終わった森で、こそりと男に耳打ちした。
-
 
 
 「ねぇ、藍」
 その妖怪は見ていた。
 「いま、このゆっくりは、その脆弱な体を持って、その精神を示している」
 炎の森を駆ける、一匹のゆっくりを。
 「幻想郷において精神の強さは、もっとも尊ぶべきもの」
 このゆっくりは、明らかに限界を超えている。
 「そして、恐らくこの精神は、唯一匹のものではない」
 肉体を凌駕すれば、その先にあるのは、すなわち。
 「それこそが本当の命だとすれば」
 それゆえに――
 「ゆえに、幻想郷は全てを受け入れる。……それはそれは残酷なことですわ」
 その妖怪は酷薄に笑んだ。
+
 
 
 
 「えーと、“ちょこっと限界の境界をいじったので、あとよろしく”、だそうです」
 
 「……はぁ!?」
-「確かに瀕死ではあるんですが、竹林の薬師なら治せるはずです。
- ちょうど消火活動で案内役の人間も近くに来ているようなので、要請すればすぐに連れて行ってくれるはずので」
+「確かに瀕死ではあるのですが、竹林の薬師なら治せるはずです。
+ 丁度この消火活動で案内役の人間も近くにいるようで、要請すれば直ぐに向かえるかと」
+
 
 
 
 男は呆然とスキマ妖怪の式を見送った。
 彼女の主は、なんて無情な妖怪なのだろうか。
-その無情っぷりに、涙が溢れて来る。
+その無情ぶりに、涙が溢れて来る。
 死に際のおねがいを伝えるゆっくりを見ながら、それが遥か先のことであることを知り、男は思った。
 
 これは、確かに残酷すぎる話だ――
-
 
 
 
 
 それからすぐ案内役――妹紅をみつけ、一行は永遠亭へと向かう。
 永琳にも話は通っていたようで、すぐに手術が始まった。
 焦げた皮を切除し、新しい皮を殖やしていく技術を持っていた。
 それほどかからず、永琳は手術の成功を伝えた。
 まりさの帽子は、めーりんの処置を終えた鈴仙が器用に繕っていた。
-
-
-
 
 
 古い皮についてどうするか尋ねると、みんなのところで燃やして欲しい、そうまりさはお願いをした。
 本来ならまりさも行くべきだろうが、術後なので許可できない――ということにして貰った。
 それは、先へ進むための儀式。
 ありすとぱちゅりーの形見について尋ねると、いいんだよ、といった。
 大切なものは、あの炎の中で受け取ったから。
 
 
 
 
 
 
 竹林から眺める煙の先に、包帯まみれのまりさは思いを馳せる。
 いつか、あの先にたどり着く日がきっと来る。
 それまでは、この残酷で美しい世界を見届けよう。
 だから、そのひまでゆっくりしていってね――
 まりさは天国の魂たちに祈った。
-
-
 
 
 
 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
-
-
 
 
 
 あたらしいなかまがきたとき、まりさは農園でゆっくりと作業していました。
 傷の癒えたいま、みんなのおうちの家長として、ゆっくり達を引っ張っているのでした。
 
 
 
 
 
 
 一陣の優しい風が吹き抜けていきます。
 
 
 
 
 
 
 抜けるような空の下。
 まりさの金色の髪の上で。
 かつて形見についていたありすとぱちゅりーのリボンが、きらきらと揺れていました。
-
 
 
 
                     “ゆっくりまりさと聖者の途”...Continued and Let_us_Yukkuri_Together!!!
 
                                                   Written by むの人
+
+                                                   (2009年4月 改訂)
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