恋 の 病 ~ 治療篇 ~ 後編

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かがみ part


 朦朧とした意識の中、肩で呼吸を続ける私の目の前には、さっきまで不健全なことをしていたにも関わらず、いつもと変わらない健全な笑顔の日下部がいた。

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・。 く、日下部・・・」
「ん・・・?」
「・・・・・・好き・・・。 ・・・・・・大好きぃ・・・・」
「うん・・・。わたしも・・・」

 そう言って日下部は私をもう一度抱きしめた。
 日下部の肌を通して感じる体温は、私の中の気持ちを、もう一度ゆっくりと上げていく。

「・・・ごめんね・・・。私ばっかり気持ちよくなっちゃって・・・」
「え? い、いいよ・・・。わたしも・・・その・・・ひぃらぎのそういう顔見れて・・・
 なんていうか・・・嬉しかった・・・・・・」
「 っ!? 」

 そう言われた瞬間、さっきのことを思い出し一気に顔が熱くなる。
 思わず言いそうになった「バカ」という言葉を飲み込み、まっすぐに日下部を見つめた。

「・・・・・・・・・だったら・・・今度は私にも見せてよ・・・。
 ・・・・・・日下部の・・・そういうとこ・・・・・・」

 そう伝えると、日下部は「むぐっ!」と言って、見る見るうちに顔を赤く染め上げる。
 そして日下部は少しだけ俯くと、小さな声で返事をした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・」

 私は日下部の両肩に手を沿え、そのままベッドに倒す。
 目の前には、露わになった上半身を恥ずかしそうに隠す日下部の姿。
 その姿を見ているだけで私の心拍数は急激に上昇していく。
 思わず抱きしめたくなる衝動を抑えながら、私はゆっくりと日下部に近づき、そして、興奮から浅い呼吸を続ける日下部の唇に優しくキスをした。

「・・・ん・・・ちゅ・・・む・・・・・・」

 上気した日下部に何度もキスを浴びせながら、日下部の右胸に左手を添えた瞬間、日下部の身体が少しだけ硬く緊張した。
 私はその緊張をほぐすように、形の良い柔らかな胸を揉みしだいていった。

「ん・・・。 はぁ・・・はぁ・・・あ・・・ぅ・・・く・・・」

 私の手の動きに合わせて、日下部の唇の間からは吐息に交じって声が漏れ、その身体は小刻みに震えていく。
 私は日下部から唇を離し、そのまま左胸へと近づけていった。

「んぁあっ! ・・・はぁ・・・ん! く・・・ぅぅ・・・」

 その可愛らしい尖端に口づけをすると同時に、一際大きな声が漏れた。
 そして、空いている左手でもう片方の尖端を優しく転がし、硬くなったその尖端が指先から逃げるたびに、日下部は甘い声を出しながら、ビクビクと大きく身体を跳ねさせた。

「や・・・ぁ・・・それ・・・ダメ・・・だよぉ・・・。
 背中・・・あん! ゾク・・・ゾクする・・・。 ん・・・くぅ!」

 日下部の言葉は頭の奥をジリジリと焦がし、私の中の欲望をさらに加速させていく。
 私は突き動かされるように唇を徐々に下方へと移し、いつも羨望していた、程よく引き締まった日下部のお腹にキスをした。
 その瞬間、日下部のお腹が軽く波打った。

「・・・ここ、気持ちいい?」
「は・・・あふ・・・。わ・・・かん、ない・・・・・・。
 ちょっとくすぐったい・・・けど・・・。 あっ! は・・・ぅ・・・なんか・・・
 気持ち・・・いい・・・気もする・・・」

 私は、薄らと桜色に色づいたお腹にキスを続けながら、まだ履いたままでいる日下部のスカートのファスナーに手をかけた。

「あ・・・・・・」

 小さな声を上げた日下部を上目遣いに軽く見つめ、そのままスカートを脱がせると、
 少し灰色がかったスポーツ系のショーツが現れた。
 それがなんだが日下部らしくて、すごく可愛いって思えた。

「日下部も・・・感じてくれてたんだね・・・」

 視線を落とすと、その中心には大きな染みが広がっている。
 私の言葉に日下部は恥ずかしそうに横を向くと、小さな声で答えた。

「・・・だって・・・ひぃらぎが・・・・・・いっぱいするんだもん・・・」

 うなじまで真っ赤にさせて言う日下部の言葉に、私はなぜかすごく嬉しくなって、思わずクスッと笑った。

「じゃあ・・・もっとしちゃお・・・・・・」

 いたずらっぽく笑いかけ、私はそのままショーツに手をかけた。

「え? ぬ、脱がすの?」

 日下部の言葉に顔を上げると、日下部は少し不安げに私を見つめていた。

「・・・・・・怖い?」
「・・・あ・・・その・・・怖いっていうより・・・・・・は・・・恥ずかしい・・・」

 そう言って日下部は顔を赤らめ、両手で口元を覆った。
 そこには、さっきまで私を責めていた強気の日下部はおらず、今は瞳に涙を溜め、哀願するような視線を私に向ける可愛らしい女の子がいた。

 ・・・もっとこの表情を見ていたい・・・。
 ・・・・・・私の知らない日下部を・・・見てみたい・・・。

 普段は見せることのない日下部のその表情は、私の気持ちをさらに高ぶらせ、同時に加虐心に似た感情が私の中に湧き起こる。

「・・・・・・日下部」
「え?」
「・・・私も・・・私も見てみたいの・・・。
 ・・・日下部のHなとことか・・・おかしくなっちゃうとことか・・・。
 ・・・・・・だから・・・」

 そう言いながら、日下部の返答を待たずに、私は手にかけたショーツをゆっくりとおろしていった。
 だけど、日下部は抵抗する様子もなく、小さく声をあげながら、布がずれていく様を恥ずかしそうに見ていた。

「・・・・・・日下部・・・全部・・・見えるよ・・・」

 完全に脱がせると、そこに日下部の秘部が現れた。
 女の私が言うのもなんだけど、なんだか可愛くて、すっごく綺麗だった。
 思わずマジマジと見ていると、日下部は流石に恥ずかしくなったのか、両足を閉じてしまう。

「あ・・・あんま・・・見んなよ・・・」
「え? あ、ご、ごめん・・・。つい・・・」

 日下部は、真っ赤に色づいた顔を両手で覆いながらも、指の隙間から私を見つめている。
 その隙間から覗く日下部の視線には、ちょっぴりだけ抗議の色が見えた。

「なんだよ・・・。ひぃらぎだっておんなじだろ?」
「そ、そうだけど・・・。なんか、可愛いなって思っちゃって・・・」
「ばっ! そ、そんなこと・・・言うなって・・・」

 いつもの快活で天真爛漫な様子とはまったく違うその態度は、とっても可愛かった。
 そしてそれは、きっと私だけに向けられたものなんだろうと思うと、それだけで日下部に対する愛おしさが募り、胸を締め付けられるような感覚を覚えた。

「・・・日下部・・・お願い・・・。 見せて・・・」

 私はそう言って、日下部の閉じられた足に手を添え、その柔らかな太ももに優しくキスをした。

「あ・・・んっ・・・・・・ふ・・・」

 私がキスをするたびに、怒ったように唇を尖らせて、困ったような顔で私を見つめた日下部の口から甘い吐息が漏れ聞こえた。
 私はその顔を見つめたまま、日下部の足にキスを繰り返していく。

「・・・・・・こ、こんなことすんの・・・ひぃらぎだけだかんな・・・」

 しばらくして日下部は観念したように溜息をつくと、恥ずかしそうに・・・本当に恥ずかしそうにそう言って、
 両足を閉じる力を抜いていった。
 抵抗のなくなった両足を軽く左右に開くと、すでにぐっしょりと濡れた日下部の秘部がもう一度露わになった。
 その光景に、心臓は喉元で激しく動き、私の呼吸を速めていく。
 思わず乱暴にしてしまいそうになる衝動を必死に抑え、私はできるだけ優しくそこに触れた。

「・・・ぅ・・・く・・・あ、あん・・・ひぃ・・・ら・・・ぎ・・・」

 左手の人差し指で秘裂を少しなぞるだけで、奥からどんどん液が溢れ出し、
 あっという間にヌルヌルとした感触が強くなっていく。

「すごい・・・。 日下部の・・・どんどん溢れてくるよ・・・」
「・・・あ・・・はぁ・・・そ、そんなこと・・・あっ!
 ・・・・・・い、言う・・・なっ! て・・・」

 日下部はそう言いながらも、右手でシーツを掴み、左手の人差し指を噛みながら、必死に声を押し殺していた。
 その姿が私にはたまらなく愛おしく、そして、日下部に対する気持ちを大きくさせていった。

「・・・日下部・・・もっと、気持ちよくさせてあげる・・・」
「え? な、なに・・・・・・!? っ!!・・・く・・・くぅぅぅ!」

 私はその質問に答える前に、すでにその濡れきった秘部へと口づけをしていた。
 日下部は突然のことに声を抑える間もなく、あられもない声をあげる。

「・・・ん・・・くちゅ・・・こへ・・・んむ・・・ひもひいい?」

 秘部から口を離さず、舌先で秘裂をなぞりながら見上げると、驚愕と羞恥の混ざったような顔をした日下部と目が合った。

「や・・・だ、ダメ! ひ、ひぃら・・・ぎっ! み、見ない・・・で!
 ん! あ、あぁぁぁ!」

 日下部の言葉を無視し、日下部を見つめながらそのまま休むことなく舌を動かし続けていくと、
 次第に日下部の抗議する声が小さくなり、逆に快感に喘ぐ声が大きくなっていく。

「は、はぷっ・・・う・・んむ・・くさか・・べ・・・くちゅ・・・」
「あっ・・あぅ・・ひぃらぎ・・あ・・、んっ! き、きもち・・・よすぎるって!
 こ、こんなの・・・みゅ・・・ぅぅぅ・・・だめぇ・・・!!」

 私は一旦口を離すと、さっきまで舌先に触れていた、日下部の固く勃起した花芯に口をつけた。

「え? あ・・・ひ、ひぃらぎ・・・?」

 その行動に慌てて上半身を起こした日下部に私は目だけで頷き、花芯を包む包皮を舌でゆっくりと優しく剥いていく。

「あ・・・あ・・・く・・・ぅぅ・・・だ・・・・め・・・・」

 そして全ての皮が上がり、舌先につるりとした感触が触れた瞬間、
 日下部の口からは言葉にならない声が漏れ、身体は大きく仰け反ったままの姿勢で固定された。

「・・・!! ・・・く! ・・・あ・・・・・・は・・・」

 私はそれでも愛撫を休めることなく、愛しい蕾を舌先で転がしたり、
 その根本を優しく甘噛みしたりと、変化をつけて攻め立てていく。
 私の舌先が日下部の蕾を優しくなぶるたびに、日下部は可愛らしい声で喘いだ。

「・・・っ!? くっ! ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・きゃぅ! う・・・あぁぁ!」

 私はただ、日下部が好きで好きで仕方がなかった。
 大好きで・・・自分でも気持ちが止められなくて・・・。
 ただ、大好きな日下部に気持ちよくなってほしかった・・・。

 そして・・・私の愛撫に蕩けそうになっている日下部は、たまらなく綺麗だった。
 たまらなく愛おしかった・・・。
 たまらなく・・・・・・嬉しかった・・・。

「あっ! ・・・ひ、ひぃらぎ・・・。わ、わたし・・・も・・・もぅ・・・・・・い・・・い、いっちゃう・・・から・・・」

 日下部はそう言ってわずかに起き上がり、日下部の太ももに乗せていた私の右手の上に左手を添えた。

「・・・日下部・・・?」
「おね・・・がい・・・。手・・・・・・にぎっ・・・てて・・・」

 日下部は快感によって潤んだ瞳で私を見つめ、その手に少しだけ力を入れた。

「・・・・・・うん・・・。・・・わかった・・・」

 私は日下部に向けてそう呟き、その手に指を絡ませた。
 そして、日下部の身体を支えていたもう片方の手も握ると、日下部は嬉しそうに私に笑いかけ、安心したようにベッドに身体を預けた。
 私は目の前にある、その赤く充血した蕾を包み込むように口に含み、優しく舐め上げる。

「はっ! くぅ・・・ひぃらぎ・・・。わた・・・し・・・・・もう・・・・・・」

 そして私は、日下部に私の気持ちをぶつけるように、限界にまで硬くなった日下部の花芯に舌全体を押しつけ、それをすり潰すように大きく上下に動かした。

「!? っ! んぁぁぁ!! ひ・・ぃら・・・ぎぃぃ・・・い!! ひ・・・ぐ・・・くぅぅ・・・。イ、イクッ、イっちゃう・・・!! ん・・・あぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 その瞬間、日下部は私の名前を叫びながら、恐ろしいほどの力で私の手を握り締めた。
 目の前の引き締まったお腹は、まるで痙攣しているかのように小刻みに波打っていて、それは、さっき私が体験したものと同じ感覚を日下部も感じていることを教えてくれた。

 日下部の身体は次第に落ち着き始め、私は強く繋がれた手をゆっくりと外し、日下部の横に寝転んだ。
 私は焦点の合わない瞳を天井に向け、荒い呼吸を続けている日下部に抱きつき、桜色に色づいたその頬にやさしくキスをする。

「・・・ん・・・んぁ・・・? ひぃらぎ・・・?」

 夢から覚めた子どものように、日下部は私の方に顔を向けた。

「・・・ひぃらぎぃ・・・。 激しすぎだよ・・・・・・」

 口を尖らせてそう言う日下部に少しだけ不安になったけれど、でも、そんな日下部がたまらなく可愛くて、愛おしくて、絶対に手放したくないって思った。

「・・・ごめんね・・・私・・・日下部にいっぱい気持ちよくなってもらいたくて・・・・・・」

 言葉では反省しているようだけれど、内心嬉しくて仕方がない。

「ったく・・・ひぃらぎは限度を知らねーな」

 そう言って日下部は楽しそうに笑った。
 その笑顔は、きっと私の気持ちをわかっているんだろうなって思わせてくれるような、とっても安心できる笑顔だった。

「ふふ・・・。 ごめんね、日下部・・・」

 だから私は、素直に自分の気持ちを伝えた。

「・・・・・・だって・・・・・・大好きなんだもん・・・」

 ちょっぴり怒っている、私の可愛い彼女に・・・・・・。












みさお part

 わたしは天井を見上げながら、プールで泳いだ後のような気怠さ・・・っていうよりも、長距離を全力疾走させられた後みたいな疲労感を全身で感じていた。
 柊にあまりにも激しく攻められたから、思わず文句を言ってもみたけれど、でも、わたしの横ですごく嬉しそうに、とっても優しい視線を送ってくれている柊を見ていると、 そんな疲れなんてまったく気にならなかった。

 中学の頃からずっと想っていて・・・。
 ずっと気持ちを伝えられなくて・・・。
 ずっと気持ちに触れられなくて・・・。
 ずっと憧れていた立場に・・・。
 やっと自分がなれた・・・。

 その幸福感はわたしの心をいっぱいに満たしていき、思わず涙が出そうになる。
 わたしはその現実を確かめるように、柊の頬を優しく撫でた。

「・・・・・・日下部・・・」

 柊はまるで猫みたいに、気持ちよさそうにわたしの手に擦り寄ってくる。
 そして、もう一度柔らかな笑顔をわたしに向けた。

 その笑顔はわたしだけに向けられている。
 その笑顔はわたししか見たことがない。
 それが何よりも嬉しかった。

 身も心も一つになれたような感覚が、さっきよりも強くわたしの中に存在している。
 その幸福感を噛みしめながら、わたしはそれを言葉にした。

「・・・ひぃらぎ・・・わたし・・・すごくしあわせだよ」

 柊はそれに応えるように、わたしと同じように微笑み返した。

「私も・・・・・・・・・」

 だけど、そう言った柊の顔は少しだけ曇っていた。

「・・・日下部は・・・後悔とかしてない?」

 その翳りを吹き飛ばすように、わたしは強く頭を振る。

「・・・全然。・・・すごく嬉しいよ・・・。
 それに・・・大好きなひぃらぎとしたんだもん・・・いやなわけないよ・・・」
「・・・日下部・・・」

 少しだけ顔を赤らめて、安心したように笑う柊の顔は、いつにも増して可愛かった。
 可愛くて・・・。愛おしくて・・・。
 柊のことを好きになって、本当に良かったって思えた。

「ひぃらぎ・・・大好きだよ・・・」

 そう囁きながら、わたしは上体を起こし、ゆっくりと柊に近づいていく。

「・・・私も・・・好き・・・」

 それに合わせて目を瞑った柊と、わたしはもう一度唇を重ねた。
 この時間が、永遠に続くようにと願いながら・・・。















「峰岸、怒ってないかな・・・」

 柊は、胸元のスカーフを器用に結びながら心配そうに呟いた。

「んー? ・・・大丈夫じゃねーかな・・・っと」

 わたしはスカートのファスナーを上げながらそれに答える。

「でも・・・もう1時間目も終わりそうだし・・・」
「うそっ!? もうそんな時間?」

 思わず時計を見ると、針は授業終了の10分前を指していた。
 そして柊は、恐る恐るといった感じでわたしを見つめた。

「・・・う、うん・・・。・・・まずいよね?」

 柊はやっぱり真面目だなぁ・・・。

「あー・・・。でも、まぁ・・・・・・なんとかなるんじゃねーの?」
「へ? な、なんでそう思うのよ?」
「え? ただなんとなく」
「おいっ!」
「ははは・・・。でも、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。消毒に時間がかかったとかって言っとけばさ。
 それにあやのは料理上手だし、わたしらがいるよりもはかどってるかもよ?」
「う・・・・・・。そうかも・・・。けど、なんか悔しい・・・」
「ま、その分皿洗いでもしようゼ。きっと、それであやのも許してくれるって」
「そ、そう・・・よね・・・。うん・・・」

 そう言って柊が納得した頃、ようやくスカーフを結び終えたわたしは、少し元気になった柊に声をかけた。

「よしっと・・・。じゃあ、そろそろ戻ろっか?」
「・・・あ・・・う、うん・・・」

 でも、柊はわたしの呼びかけに、どことなく暗いトーンで返事をした。

「ん? どしたの?」

 思わず問いかけると、柊は恥ずかしそうにわたしを見つめ、口ごもりながら答える。

「あ・・・あのさ・・・その・・・・・・もう1回・・・キスしてもいい?」

 予想もしなかった要求に、わたしは思わず口を開けたまま柊を見つめた。

「へ?」
「だ、だって・・・教室戻っちゃったら・・・こういうことできないじゃない・・・」

 拗ねたように唇を尖らせた柊を見た瞬間、わたしの心臓のスピードが一気にあがる。

 ひ、ひぃらぎ・・・・・・かわいすぎる・・・・。

「・・・・・・ダメ?」

 うるうるした瞳で上目遣いにわたしを見つめる柊に対して、わたしの中に拒否する言葉は見つからなかった。

「だ・・・だ、だ、ダメなわけないじゃん! そ、そんなこと・・・聞くなよ・・・」

 照れた気持ちを隠すように少し大きくなったわたしの声に、柊はちょっとだけびっくりした表情を見せたけれど、でも、すぐにさっきの笑みを取り戻した。

「・・・ふ、ふふ・・・ありがと、日下部」

 柊はそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
 わたしはその表情に吸い込まれるかのように近づき、いつもと同じ服装なのに、どこか雰囲気の違う柊を見つめ、静かに名前を呼んだ。

「ひぃらぎ・・・」
「日下部・・・」

 同じようにわたしの名前を呼んだ柊は、そっと瞳を閉じた。
 その両肩に優しく手を置き、顔を近づけたその時、何の前触れも無く突然ドアが開いた。

「あら? まだ残ってたの?」

 反射的にドアに視線を向けると、そこには天原先生が立っていた。

「「 う、うわぁぁぁっ!! 」」

 思わず大声で叫びながら、わたしたちはお互いに離れる。

「ふふふ・・・どうしたの? そんなに慌てて」

 天原先生は、優しくわたしたちを見つめながら柔らかく問いかけた。

「え? えっと・・・その・・・」

 まさか、妙なことしてたとは言えねーよな・・・。

 横を見ると、柊は真っ赤な顔で俯いてしまっている。
 そしてわたしはうまい言い訳も見つからず、しどろもどろになって突っ立っていた。
 でも天原先生は、そんなわたしたちをさして気にする様子も見せず、微笑んだまま、ゆったりと部屋に入ってきた。

「ふふ・・・。あんまりサボっちゃだめよ」

 そう言って、天原先生は持っていた書類を机に置くと、もう一度柔らかく笑った。

「・・・はい・・・。気をつけます」
「す、すみませんでした・・・」

 わたしが頭を下げると、同じように柊も横で頭を下げる。
 気恥ずかしい気持ちでいっぱいのわたしは柊の手をとり、そのまま早足で廊下に出ようとしたその時、突然、天原先生が私たちの背中に声をかけた。

「あ、2人とも」
「は、はい!?」

 思わず飛び上がりそうになるのをなんとか堪え、わたしたちはゆっくりと振り向くと、天原先生はさっきと同じ優しげな笑顔のまま立っていた。

「・・・・・・学校ではあんまりオイタしちゃダメよ?」

 先生はそう言って口元に人差し指を当てると、チュッと音を立てた。

「え?」

 そして、わたしと柊に向けて片目を瞑り、いつもの清楚なイメージとは違う、子どものような表情で笑った。

「次は見逃さないからね?」

 それって・・・もしかしてさっきの・・・。

 天原先生の言葉の意味を理解する前に柊を見ると、その顔が見る見るうちに赤くなった。

 あ・・・・・・やっぱり?

「「 は、はいっ!! しつれいしました!!!!! 」」

 わたしたちは同時にそう叫ぶと、ドアも閉めずに保健室を飛び出した。
 恥ずかしさに押し潰されそうになりながらも、わたしは柊の手を握り、誰もいない廊下を走った。
 だけど、柊の手を通して感じる温かさと、わたしのとはちょっと違うリズムの足音を聞いていると、1人じゃないという安心感と、秘密を共有しているような妙な高揚感を感じ、なぜか嬉しくてたまらなかった。

「はぁっ、はぁっ・・・あ、焦ったぁ・・・」

 わたしは実習室の少し手前でようやく立ち止まり、荒い呼吸を整えながら後ろを振り向くと、同じように柊も膝に手を置いて屈んでいた。

 はは・・・。流石に柊も焦ったみたいだな。

「ひぃらぎ、大丈夫か?」

 わたしの呼び声に、柊はゆっくりと顔を上げた。
 でも、わたしと同じように笑っていると思ったその顔は、想像していたものとは逆にひどく沈んでいた。
 その表情に驚き、わたしは思わず問いかける。

「ど、どうした?」

 柊は沈んだ表情のまま、静かに口を開いた。

「・・・あ・・・その・・・ご、ごめん・・・。私の所為・・・だよね・・・」
「へ?」
「だって・・・私が日下部とキスしたいって言ったから・・・」

 そう言って柊は俯いてしまう。
 その様子に、わたしは慌てて柊に近づき声をかけた。

「そ、そんなの、ひぃらぎだけの所為じゃないよ!
 そ、その・・・わ、わたしだって、したかったんだし・・・」
「・・・だ、だけど・・・」

 わたしの説得にも柊の顔は晴れず、むしろ段々と崩れていく。
 そして柊は、今にも泣き出しそうな顔でわたしを見つめ、震えるような声で語り始めた。

「私・・・自分でもよくわからないの・・・。
 さっきまでは怖くて何も言えなかったはずのに・・・。
 それなのに、今度は気持ちが抑えられなくて何も考えられなくなっちゃって・・・」

 そこで言葉を切った柊の瞳には、保健室で告白した時と同じくらい大きな涙の粒が浮かんでいた。
 そしてその表情は、柊がどこか遠くへ行ってしまうような不安を感じさせる。

「ひぃらぎ・・・」

 だけど、繋ぎとめるようにかけた言葉に柊は一層辛そうな表情をして、搾り出すように言葉を続けた。

「・・・・・・私・・・日下部のこと本当に好きなの・・・。
 好きで・・・大好きで・・・。
 自分でもどうしようもないくらい好きで・・・。
 自分ではどうしても気持ちを抑えられないの・・・。
 さっきだって、あんなことまでしちゃって・・・・・・」

 柊はそう言って、今にもこぼれ落ちそうな涙を必死に堪えながらわたしを見た。
 その瞳はキラキラと光を反射していて、わたしはその輝きに釘づけにされた。

「・・・日下部は・・・気にしてないって言ってくれたけど・・・・・・でも・・・。
 でも、本当は・・・・・・本当はすごく怖いの・・・。すごく不安なの・・・」

 その時、柊の瞳にたまっていた涙が一筋流れ落ちた。

「日下部のことが好きで・・・気持ち抑えられなくて・・・暴走しちゃうような・・・。
 ・・・こんな・・・こんな病気にかかったような私じゃ・・・・・・。
 日下部は嫌いになっちゃうんじゃないかって・・・・・・・・・」

 ああ・・・そっか・・・。
 そうなんだ・・・。

 その言葉を聞いた時、すべてがわかった。

 これは、わたしを信じてるとか信じてないとか、そんな話じゃないんだ・・・。
 柊は・・・・・・自分の気持ちが・・・そして・・・自分自身が・・・。
 本当に受け入れられるのか不安なんだ・・・・・・。
 ただ・・・それだけなんだ・・・。

 それに気がついた時、不思議とさっきみたいに苛立つような気持ちはまったく感じなかった。
 むしろ、そんな不器用な柊が可愛くて、なぜか胸の辺りがキュゥっと締めつけられる。

「・・・ホント・・・・・・バカだなぁ、ひぃらぎは・・・」
「え・・・?」
「そんなの病気なわけないじゃん」
「で、でも・・・」

 戸惑う柊に、わたしは確信を持って伝える。

「そんなの・・・・・・わたしのこと『好き』だからに決まってんじゃん」
「へ・・・?」
「『好き』だから、言いたいこと言えなかったり、気持ちが止められなくなっちゃったりするんだろ?」
「・・・あ・・・・・・」

 わたしの言葉に、柊は何かに気がついたように小さく声をあげた。
 そんな柊を見つめ、わたしはさらに言葉を続ける。

「わたし、ひぃらぎにそこまで好きになってもらえたんだってわかって、すごく嬉しいよ。
 それにわたしは、変に考え込んでるひぃらぎより、さっきみたく素直になってくれてるひぃらぎの方が、何倍も好きだし」
「く、日下部・・・」

 柊がわたしの名前を呼んだ時、瞳に溜まった涙がもう一度柊の頬を流れた。
 でもその涙は、全然哀しそうには見えない。

「・・・わたし・・・ひぃらぎみたく頭良くないからうまく言えないけど・・・。
 好きなら好きでいいじゃん。チューしたかったらしようよ。
 だからさ、そんなことで自分のこと嫌いになんなよ」
「・・・・・・」

 柊は涙を流し、その身体を震わせたまま何も答えない。
 けれど、その顔を見ているだけで、今の柊が何を思っているのかわかるような気がした。

「大丈夫だよ。どんなひぃらぎだってわたしは大好きだからさ」

 そう言ってわたしは、左手で柊の頬を伝う涙を拭った。
 その指先に感じる温かさは、まるで柊の心に直に触れているような気持ちにさせる。

「でもね・・・。もし、それでも不安なら・・・」

 そして柊の頬に軽く手を添え、そこから柊の心へ直接注ぐように、わたしの素直な気持ちを伝えた。

「そん時は2人で・・・。
 いっぱい話して・・・。いっぱい遊んで・・・。
 いっぱい笑って・・・。いっぱい泣いて・・・。
 そんな気持ちがなくなっちゃうくらい、いっぱい『好き』を確かめればいいんじゃん?」

 わたしがそう言うと柊は目を細め、その頬に触れているわたしの手に自分の手を重ねると、ゆっくりと噛みしめるように言った。

「そう・・・だよね・・・。不安なら、確かめればいいんだよね・・・?」
「うん」
「いっぱい話せばいいんだよね?」
「うん」

 そして、少し恥ずかしそうに上目遣いにわたしを見つめた。

「日下部・・・。私、こんな性格だからすぐ不安になっちゃうと思うの・・・」
「うん・・・」
「だから、いっぱい好きって言っちゃうと思う・・・。それでもいい?」
「うん」
「いっぱい・・・いっぱいキスしたくなっちゃうかも・・・・・・。・・・いい?」
「うん! いいよ!」

 柊の質問に元気よく返事をすると、柊はびっくりしたように目を見開いたけれど、でも、やっと安心したように微笑んだ。

「あ、でも、場所は考えないとな?」

 そう言ってすかさず茶化すと、柊は顔を真っ赤に染めて、ちょっとだけ拗ねたような顔でわたしを見つめたけれど、すぐに声を出して笑った。
 そしてそれは、さっきまでの不安なんて全部消えちゃったみたいな、すごく嬉しそうな笑顔だった。

「ありがと・・・日下部・・・」
「え?」
「私・・・日下部のこと好きになって、本当に良かった・・・」
「ひぃらぎ・・・」
「これからも迷惑かけちゃうかもしれないけどよろしくね」
「はは・・・迷惑じゃないって。『好き』だからだろ?」
「あ! ふふ・・・」

 嬉しそうに笑う柊を見ながら、わたしはこの笑顔をずっと見ていたいって強く思った。
 そして、これからケンカしたり、不安になったり・・・そんな笑顔がなくなることがあったとしても、こうやって少しずつ気持ちを確かめていけば、きっとこの笑顔がずっと見られるはずだよな・・・。
 なんてことを頭の隅で考えていた。

「ねぇ・・・日下部?」
「・・・ん? どした・・・って、うわっ!」

 柊はわたしの名前を呼ぶとわたしに抱きつき、鼻先がこするくらいの近さでわたしを見つめた。

「何考えてたの?」
「え? 別に何も・・・」
「ウソ。だって、ボーっとしてたじゃない」

 そう言って柊はちょっと怒ったようにわたしを見つめる。
 考えていたことをそのまま言うのはちょっと照れくさい気もするけど・・・。
 うーん・・・。でも、いっか。

「えーと・・・ひぃらぎのこと・・・」
「え?」
「・・・ひぃらぎと、ずっと仲良しでいるにはどうしたらいいのかなって考えてた」
「へ? あ・・・そ、そう・・・なの・・・?」

 わたしの言葉に、柊は顔を赤く染め上げると俯いてしまう。

「あれ? 何か変だった?」

 意外な反応に首を傾げて声をかけると、柊はすぐに顔を上げ、涙で潤んだ藤色の瞳でわたしを優しく見つめた。

「・・・う、ううん・・・。日下部が・・・そういうふうに何でも正直に言ってくれるのがすごく嬉しくて・・・」
「ひぃらぎ・・・」

 そう言って柊は熱を帯びた視線をわたしに向け、うっとりとした表情で口を開いた。

「好きだよ・・・日下部・・・」

 その言葉は、まるで魔法みたいにわたしの鼓動を速め、柊だけしか見えなくさせる。

「うん・・・わたしも・・・好き・・・」

 互いに『好き』を囁いたわたしたちは、そのままどちらからともなくキスをした。

 そのキスは、まるでお互いの「好き」を伝え合うような・・・。
 そして、その「好き」がお互いの身体の隅々にまで染み渡るような・・・。
 そんな・・・・・・とっても優しいキスだった・・・。

「ふ・・・ふふ・・・」

 柊は唇を離すと小さく笑った。

「ん? 何かおかしかった?」
「え? あ、ちがくて・・・私も日下部のこと考えてたの・・・」

 そう言って柊は、恥ずかしそうにわたしに微笑んだ。

「・・・・・・ど、どんなこと?」

 柊の言葉とその可愛らしい表情にドキドキしながら、わたしは柊を抱きしめる手に少しだけ力を入れた。

「・・・さっき、あんたは私のこと病気じゃないって言ってたけど・・・・・・。
 でも、私がこんなにも日下部のこと好きで好きで仕方ないのって、やっぱり病気なんじゃないのかなって思ってさ・・・」

 深刻そうな言葉とは裏腹に、柊は嬉しそうに笑いながらそう言った。

「え? そ、それってどんな病気なの・・・・・・?」

 柊はわたしの質問に答える代わりに耳まで真っ赤に染め、ゆっくりと口を開いた。

「・・・それはね・・・」

 そして、ちょっぴり恥ずかしそうに笑うと、わたしの耳元で囁いた。

「・・・恋の病・・・」

 その時、まるで見計らったかのように授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
 でもわたしにはその音が、新しい何かが始まる合図のように聞こえた。



                                     了






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  • 長い間待っていた甲斐がありました。良い作品をありがとうございました。 -- 名無しさん (2011-09-12 05:31:06)

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