学校からの帰り道、私とこなたはケンカをした。

と言っても、殆んど一方的に私が怒っただけだ。
毎日のように「凶暴」「暴力的」とこなたのネタにされ続けた私が、今日という今日でとうとう拗ねてしまったからだ。

そりゃあ拗ねたくもなる。密かに想いを寄せる人、その本人に貶されて、平気な奴なんて…普通はおかしい。
私も例外には当てはまらず、ひどく憂鬱な心持ちで自宅の洗面所の鏡を見つめていた。

「…そんなに怖いかぁ?私の顔……」

映るのは、軽くつり上がった目尻、心なしかムスッとした口元。これに普段の攻撃的な口調が加われば、たしかに近寄り難い雰囲気はあるかもしれない。
初めの頃は、別にそれでも構わないと思っていた。取り分け困るような事は無かったし、こんな愛想でも友達は結構居た。
……アイツにまでそう思われている、それだけが最近の私には辛かったのだ。

「………」

辛気臭い事を考えていると…いつの間にか、どうにも救いようのない私の顔が鏡にあった。
いかんいかん、こんなだからアイツのネタにされるんだ。空気を切る音がする程に首を振り、再度鏡に向き直す。すると映るのは真剣な表情。辛気臭さは抜けていた。

「まずは……にっ」

取り敢えずはと、小さく笑顔を作ってみる。軽く上がった口の端。少しだけハンサムに見えてしまうが、怖いよりはマシかな…そう思う。

「もうちょっと、こう……ん…」

一旦崩すと、場所を変えて目を意識する。うっすらと細め、淡い目付きを作ってみると、つられて口元も緩んでいた。

これは…私がアイツを見つめる時の表情だ。勿論、面と向かってはこんな顔、恥ずかしくて出来ないのだが…
ふと横顔を見つめたり、たまに遠くから見掛けたりすると、ついついこんな表情になってしまう。

私、やっぱり好きなんだなぁ…。
改めて今、そう思った。

「……へへ…」

そんな事を考えると、自然と本物の笑みが溢れていた。鏡を前にしてにやける私は、その様子を覗き見る妹にとって、ひどく不気味に映った事だろう。



こなたです。
今日はかがみを怒らせてしまった。海よりも深く、山よりも高く反省したあたしは、その反省を行動にするべく此処に来ていた。

それは柊家の玄関前。そして戸を前に立ち尽くすばかりのあたし。あぁー…やっぱり緊張するなぁ~。
きっとかがみはまだ怒ってるだろうから、もしかしたら顔を見せてすらくれないかも。出てきてくれたとしても、あたしは上手く成し遂げられるだろうか…。

そう考えると、呼び出そうとする声はいっこうに出なかった。

もう一時間は経っただろうか、背中に日は落ち、カラスがかぁかぁと鳴いている。
諦めよう、そろそろアニメが始まる頃だ。
そう思って踵を返すが、でも…と立ち止まってしまう。

だからあたしは、こんな時のための強い味方を用意していた。これは最終手段、ホントは直接言えれば良かったんだけど…

かがみんや、意気地無しのあたしを許しておくれ。
詫びるような気持ちを添えて、それを郵便受けに突っ込んだ。



夕暮れ時の交差点、あたしは二つの理由で駆けていた。
一つはもちろん、アニメの放送時間に間に合わせるため。録画の予約も入れてないから、どうしてもリアルタイムで観るしかないのだ。
もう一つ、それは恥ずかしかったからかな。あたしは成し遂げられなかった。けど、アレを置いてきたんだから、どのみちかがみは知ることになる。
明日の朝…顔を合わせる事を考えると、身体が痒いような…熱いような。
そんなこんなでテンション高めに、あたしは青の信号を渡った。



「こなちゃん、遅いね…」

つかさが言う。
それは陽の射す次の日の朝。
珍しく待ち合わせに遅れそうだった私達は、急いでここにやって来た。それから20分は経っただろうか、未だにこなたはやって来ないのだ。

私はひどく落ち着かなかった。ケンカ別れしたのが昨日、アイツも怒って、先に行ってしまった。
なかなか現れないその理由に、そんな事を当てはめていた。

「うーん…これじゃ遅刻しちゃうし……ちょっと可哀想だけど、私達だけで先に行っちゃおっか」

その言葉には、暫くしてから頷いた。
どうせこなたは此処には来ない。もう先に行ったのなら、それは当然だったから。
そう決めつけるしか無かった私は、珍しく無言で登校した。

チャイムが鳴った。
それに遅れて号令がかかり、私はならって礼をした。
一時間目のおわりを迎えた教室、それは適度な騒がしさで、私の瞑想を邪魔しなかった。

考える事は、当然こなた。やはり怒っているのだろうか、それとも私がまだ怒っていると思い、避けているのだろうか。
どちらにしても悲しいと思った。こなたは私が傍にいなくても平気、そんな答えが浮かんで来るからだ。

締め付けられる胸の苦しみから逃れるように溜め息をつくと、それと同時に教室の戸が開いた。

「あの……お姉ちゃん…」
妙に静かではあるが、それは聞き慣れたつかさの声、とすれば私を呼んでいるのだろう。

「ん?どしたーつかさ」

机に頬杖をついたまま、つかさの方を向いてみる。
つかさは何も言わないまま、私を呼び寄せるように教室を出た。

「ったく、いったいどうしたのよ?私、次は移動なんだけど…」

終始黙ったつかさの背につき、私は廊下を歩いている。こういう時のつかさは大抵、何か後ろめたい事を隠している。
今回もそう解釈した私は、ほくそ笑みつつも黙って歩いた。


連れて来られたのは、つかさの教室…こなたの教室。
私はここで勘づいてしまった。
…こなたの奴、つかさを使って私を呼び出して、昨日はゴメン!なんて謝るつもりだ。
今朝の事でちょっと頭にキテたけど、ちゃんと謝ってくれるのなら…昨日練習した、飛びっきりの笑顔で許してやろう。

私は内心胸を踊らせつつ、こなたの席へと歩いていった。

「おっすこなた。て言うか、呼び出すんなら自分で来な―…」



こなたは居無かった。

その代わりだと言いたげに、机の上の花がしなる。

他には何も無い机。
カバンも教科書もコンプも無い。

私はどんな気持ちで止まっていたのだろう。隣のつかさの泣きじゃくる声も聞かず。


信号無視の車、被害者一名。ニュースは今朝から報じられていたらしい。


―――――――

ようやく、私の生活は落ち着きを取り戻した。

のんびりと過ごす日曜日。特にする事も無い私は、珍しくベッドに寝そべっていた。
窓から射す陽射しが柔らかく、普段で言う、まさに平静だった。
こんなに平和だと感じるのは久しぶりで、私は至極気分が良かった。
そうだと思ったから、ベッドから降り、何となく部屋の片付けを始めてみたのだ。

雑誌、小物、お菓子の袋。
全てを適所に運び分けてゆく。

それだけで楽しく思えてしまって、つかさが来た事には気付かなかった。

「お姉ちゃん、お手紙が届いてたよ」

私の部屋を覗き込みつつ、少し遠慮がちにそう言うつかさ。
見ると手には便箋を持ち、受け取る私を待っていた。

「ん…サンキュ。誰から?」

そんなつかさに、床に膝をついたままで手を差し出す私。捨てる雑誌を縛っていたからだ。

「…………」

ふと表情が薄くなり、つかさは私に便箋を渡す。暫くすると、そのまま黙って歩いていった。

その様子に首をかしげつつ、私は二つ折りの便箋を開けたのだ。



かがみんへ

さっきはゴメンねー、かがみんがあんなに怒るとは思わなくってさ。

あたしも色々反省した訳だよ、うん。
んで、謝罪も兼ねてかがみん家に行こうと思ったんだけど…ちょっとだけ思うことがあったので、手紙を入れときまーす。

いやー…にしても、さっきのかがみんは凄かったね。髪の毛こんなに逆立てちゃってさ。もうかめはめ波とか撃てちゃいそうだったよ。
「かがみんこわー」なんて言ったら、そのまま怒って帰っちゃったけどさ。

でもね、あたしはそんなかがみん…見てて楽しいよ。
ちょっとからかうと、すぐタコみたいに膨れて怒ってさ。かがみんは自分のそーゆー所気にしてるみたいだけど、あたしはそのままの方が楽しくて好きだなー。

…うん、楽しいよ。けど、最近はちょっと違うんだ。
何て言うのかなー、かがみんがムキになってるのみてると…こう、可愛く思えちゃうんだよね。
ぷくーって膨らんだほっぺたをさ、指でつんつんってしたくならない?

つつかれて焦るかがみんは、また可愛いんだろーなぁーって思ってね。

だから、かがみんは怖い顔ーだなんて思ってないよ、あたし。
むしろ可愛いよ、萌えだよかがみん!


…だからさ、最近はそんなかがみ見てると…ちょっとドキドキしちゃってるんだよね。

……もう書いちゃうね?どうせ言うつもりだったし…


あの、あたし…あたしね、かがみんのこと――…



何を叫んだのだろう
私の声が、閉め切った部屋に響いていた。





想い出はに続く



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  • こなたぁ;;お父さんより先に逝かないっていっただろう;; -- 名無しさん (2010-01-20 10:32:39)
  • ものすごく引き込まれる文章なんだけれど、突然逝ってしまう事故死エンドはやっぱり一番辛い -- 名無しさん (2009-02-11 20:12:14)

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