人として袖が触れている -幕引-

このページを編集する  トラックバック(5)  リンク元(0)
  • 幕引



「お姉ちゃん、朝だよっ」
「ん……あれ?」
 ベッドから身を起こすと、不思議な違和感があった。
 はて、何だろう。
 ああそっか、何で私がつかさなんかに起こされて……ってうわ! もうこんな時間じゃない!
「ずっと目覚まし鳴ってたたよ? 気がつかなかった?」
「んー……全然」
 おかしいなぁ、そんなに疲れてたっけ私。
 いいか、顔洗って着替えなきゃ。
 まぁまだギリギリ間に合う時間よ、慌てない慌てない。
「はい二人とも、急いで食べるのよ」
 着替えも終わったところで丁度母さんが朝食を出してくれた。
 つかさは私より早く起きたはずなのになんで今頃朝食なんだか……あいかわらず要領が悪いな。
「えー、またカレー?」
「いいじゃない、寝かせたカレーだから美味しいわよ?」
「もう三日は寝かせてるよ!」
 ああ、そういや昨日もカレー……だったっけ?
 うーん、まぁそう言ってるんだからそうなのかな。
「文句言ってないで早く食べないと、遅れるわよ」
 と、スプーンを口に運ぶ。
 うん……美味しい。


「おーッス、柊ぃー」
「おはよう柊ちゃん」
「ん、おはよ」
 教室に入り、いつものコンビに挨拶をする。
「それがさぁー、聞いてくれよ柊ぃー」
「何よ、不躾に」
 朝から日下部が妙なテンションで絡んでくる。
 いつもならウザったく流すんだけど、まぁ少しは付き合ってやるか。
「変な夢見たんだよ、なんか柊が出てきた気がすんだけどなー」
「まぁ夢なんて覚えてられないもんでしょ」
「おっ、珍しいなー。いつもみたいに「覚えてないのかよ!」って左ストレートかと思ったのに」
 そこまで暴力的だったっけ? 私って。
「私も、柊ちゃんの夢を見た気がするの」
 峰岸も? まぁ、そういう事もあるかもね。
「でも、内容は覚えてないんでしょ?」
「あはは、あやのはどっか抜けてるかんなー」
 お前は全部抜けてるだろーが!
 とか突っ込もうとかしたけど峰岸の一撃の方が早かった。
「うぅあやのがぶったぁ……柊ぃ」
 と、私に絡み付いてくる日下部。
 って変なとこ触んな!
「あーもう鬱陶しいわよ、『みさお』っ!」
「ふぇ?」
 その時だ、日下部の体が固まる。
 その後数分硬直したあとに、顔が火を噴く。
 もちろん、日下部の。
 後はなんかずっと机に突っ伏して悶えてた。
「もう、からかっちゃ駄目よ柊ちゃん。みさちゃんこれで純情なんだから」
 峰岸に叱られる。
 あれ? 私なんかしたっけ。
 まぁいっか、さぁてホームルームホームルーム。


 昼休みにいつものように弁当を持ってつかさのクラスを訪ねる。
 そこに居たのはいつものメンバー……のはずが、なんか足りないな。
「あれ、こなたは?」
「泉さんなら先程、一年の教室に行くと言ってました」
 と、みゆきが返事をしてくれる。
 なんか肌がツヤツヤしてるのは気のせいじゃないな。いいストレス発散方法でも見つけたのかしらね。
「すぐ戻ってくるって言ってたけど、遅いね」
「そういえばそうですね、道に迷ってるんでしょうか。そういえば私もよく……」
 あー、そういうのは本編でやるからいいや。
 でもそっか、居ないのか……そういやまだ今日は一回も会ってないな。
 クラスが違うんだし、そういう日もあるわよねそりゃ……んー、でもなんかモヤモヤする。
「じゃあちょっと見てくるわ、すぐ連れて帰って来るから」
「あ、私も行こうか?」
「いいわよ、ついでに購買にも寄りたいし」
 一年のクラスに用事って言えば、ゆたかちゃんかな?
 まぁ行けば分かるわよね、善は急げ……って何で急いでるんだろ。


「こなたお姉ちゃんなら、もう行っちゃいましたよ」
 んが、行き違い。はぁ……人がわざわざ足を運んだってのにあの野郎。
「ゆたか……ご飯、食べよう」
「あ、うんっ」
 みなみちゃんに誘われ、ゆたかちゃんもそれに振り向く。
 するとその二人の間に誰かが割って入る。
「自分も一緒していいッスか?」
「あ、田村さん。うんもちろんっ」
 ゆたかちゃんに笑顔で返され、場が和やかに……なりゃしない。
「……邪魔」
「んごぁっ!」
 みなみちゃんのかいしんのいちげき ひよりは1900のダメージを受けた
「や、やめなよ二人ともっ」
 威嚇しあう二人をゆたかちゃんが止めようとするも、効果なし。
「イーんデスよユタカー。放っておいて一緒にLunchにしましょー」
「あっ……」
「パ、パティ!」
 その間に連れ去られるゆたかちゃん。
「ハーイ、口移しで食べさせてあげますヨー。ゴワンゴワンのダインダイ……ふぐらヴぁぁっ!」
 おお凄い。見事にみなみちゃんとひよりのロングホーントレインが決まった。なんだ、仲いいんじゃん。
「ち、ちなみにコナタならさっき屋上のほうに行くの見かけましたヨ……ぐふっ」
 最後に虫の息で、こなたの場所を教えてくれた。
 屋上ね、何してるんだか一体。


 屋上に上がる階段を二段飛ばしで駆け上がる。
 何でだろう、まだ心がソワソワしてる。
 朝からかな……この違和感。
 いやこれは、高揚?
 何を焦ってるんだろ……私。
「あ……」
 屋上に出ると、青いロングの髪に目を奪われた。
 それと同時に鼓動が速くなる。
「あれ、かがみ?」
 私に向こうも気がつく。
 だけどもう一人……こなたの前に、一人の男性。
 見るからに生徒らしいが、私に見覚えはない。
 私と目が合うと、少し気まずそうにして私の隣を抜け階段を下りていった。
「……今の、誰?」
 とりあえず、聞いとくべき……よね?
「同じクラスの人、ちょっと呼ばれちゃってさ」
 呼ばれた?
 屋上に? こんな人気のないとこに? 昼休みに?
「あー、つかさとみゆきさん待たせちゃってるね。戻ろっか」
 と、こなたが私の近くに。
 そのまま私の横を、通り抜ける。
「ね、ねぇ」
 それを……何故か、呼び止めた。
 振り向いたこなたと目が合い、心臓が跳ね上がる。
「んー、何?」
「何の話……だったの?」
 私の心が、揺れているのが分かる。
 理由なんて、分からない。
 何でだろう……こなたの事で頭が一杯だ。
「あー、なんてーの? 付き合ってください的な?」
 ……。
 言葉が、右から左に抜けていく。
 なんだろう、この気持ち。
 胸の奥が……チクチクする。
「こんな人気のないとこに呼び出すなんてやるねー、セバスチャン」
「そ、それで……返事は?」
「まぁあれかな、もうちょっとフラグ立ててくれてたらねー」
 と、笑い出す。
 それに何故か私は安堵を覚える。
 そう……安堵。
 安堵? ああもう変だ。変だ変だ変だ。
 私……変だ。
 だって、それはそういうこと。
 そんなはずない。
 だって、今までずっと普通だったはずよ?
 一緒に笑って、馬鹿な話して……普通だったはず!
 ……。
 ううん、普通じゃなかったな。
 何で今思い出したんだろ……あんな、昔のこと。
「あの、さ……こなた」
「うん? どったの?」
 こなたを引きとめ、少し二人で屋上から校庭を見下ろす。
「ちょっと前だけど……喧嘩したこと、あったわよね」
「あー……あったね、そんなのも」
 気まずそうに苦笑いをみせるこなた。
 喧嘩した思い出なんて、早く忘れたいもの。
 私もそうだった……忘れて、なかったことにした。
 でも心では少し、距離を置いてたのかもしれない。
「ごめん、あれ……私が悪かったわよね」
「ふぇ?」
 こなたから、間の抜けた声が漏れた。
「ちゃんと、謝ってないと思ってさ」
 それは私の嘘から始まった。
 そこから拗れて……拗れて、喧嘩して。
 言い争いの内は可愛いものだった。
 話もしなくなって……つかさが間に入ってようやく、会話するまでになったんだっけ。
 あとはそのしこりを残したまま、今日までの日々を過ごしてきたんだ。
「本当……ごめん」
「……」
 沈黙が、痛い。
 でもこれは……ケジメ。
 どうして今そんな気になったのかは、自分でもよく分からない。
「もう、仕方ないなぁっ」
「!」
 その時、腕に重みを感じる。
 こなたが私の腕に、絡み付いてきたからだ。
「しょうがないから、許してあげよっかな!」
 その笑顔と触れ合う腕に、私の顔がボンッと火を噴く。
 ……。
 ちょっと待て。
 何でそこで私が赤くなる!
「や、やめなさいよっ……こなた」
「んーっ、もうちょっと」
 腕に絡み、甘えるこなた。 なんだろう……それに、不思議なデジャビュを感じる。
 それとあと、心地よい暖かな気持ちも。
 それはまるで、魔法。
 何処からともなく現れた妖精は、私の瞳に妖精王の媚薬を塗っていった。
 それは花の汁から作られた、魔法の媚薬。恋の媚薬。
 それをつけたらもう、彼女しか見えない。
 どうしてだろう。どうして気がつかなかったんだろう。
 この……大切な、気持ちに。こんな、単純な想いに。
「ねぇ、こなた」
「うん?」
 もう一度、名前を呼ぶ。
 瞳が交じり合う。心臓が揺れる。
 私達の手は今、繋がっている。だから後は……言葉を、漏らすだけ。
 今なら、言えるよ……こなた。
「……好き」




「江戸時代ってさ……萌えるよね」
「……はぁ」

 いつもの昼休み。
 いつもの友人からいつもの妄言が耳を通り抜け、口からいつもの曖昧な返事が漏れる。
 とりあえず、おかずを取ろうとした箸を止める。

「昨日の続きですか? 確かに江戸時代も素敵ですね」
「ふぇ? 江戸時代って、平安時代と一緒じゃないの?」
「分かってないなぁーつかさは、江戸時代はね……浪漫なんだよ!」

 皆の声が右に左に飛び交っていく。
 まぁ江戸時代でも平安時代でも何でもいいわよ。
 そんな世界だって、どこかにあったかもね。
 そこの私はどうなんだろう。
 お姫様とかでもいいけど、男になって武士とかもいいかもね。
 どうなってるかなんて分からないわよ? それこそ世界なんて、無限なんだから。

 まぁでも……確かなことは一つ。
 江戸時代だろうと、違う世界だろうと……皆、一緒よ。
 私が居て、こなたが居て、皆が居て。
 だって、そうでしょ?

 私たちの袖はもう……触れてるんだから。



(完)













コメントフォーム

名前:
コメント:
  • スゴすぎて讃辞が思いつかねー!!とりあえず感謝!! -- 名無しさん (2008-11-02 05:24:06)
  • 読み終わったー…超大作GJ!! -- 名無しさん (2008-05-12 05:14:11)
  • みゆきさん‥‥‥‥って、神様の扱いヒドッ!!ボコられてたよ!!? -- フウリ (2008-03-30 23:41:58)
  • ふぅ、年越しに間に合った……
    要望があったのでタイトルの元ネタ等をまとめてみたした
    大分長くなったのでテキスト形式ですんまそん!↓
    ttp://www.geocities.jp/je104049/motoneta.txt

    読んでくれた皆さん感想をくれた皆さん暖かく見守ってくれたみなさんありがとうございます!
    拙い物書きですが、これからもどうぞよろしく! -- ぶーわ (2007-12-31 17:47:18)
  • ゴッドかなたさんの件で避難所で教えられて読みました
    ここにある全ての作品が繋がってる、そう考えさせられる素晴らしい作品でした!
    今後も頑張ってください。 -- 名無しさん (2007-12-27 04:31:42)
  • 素晴らしいの一言に尽きます!大変感動しました。
    一味違ったキャラ達も見れてとても面白かったです。お疲れさまでした。 -- 名無しさん (2007-12-02 11:53:02)
  • 毎回面白く読ませていただきました。
    物語が展開するに連れてどうなるかハラハラしていましたが、
    最後に皆が幸せと希望を手に出来たことに心からの拍手を贈らせてください。
    そして、これからも良い作品を読ませてください:D -- 名無しさん (2007-12-01 14:28:34)
  • いつも早く次読みたいみたいな感じで読んでましたマジ最高でした(≧∀≦) -- 名有りさん (2007-12-01 01:26:45)

|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
メニュー


■検索フォーム
入力した単語を含むページの検索を行います。



  • Counter: 8660
  • today: 2
  • yesterday: 0


更新履歴

2012-05-16

2012-05-15

2012-04-30

2012-04-16

2012-04-11

2012-04-02

2012-04-01

2012-03-25

2012-03-06

2012-03-05

2012-03-04

2012-03-03

2012-02-24

2012-02-23

2012-02-22

2012-02-18

2012-02-16

2012-02-11

2012-02-09

2012-02-07

2012-02-06

2012-02-03

2012-02-02

2012-02-01

2012-01-31

2012-01-30

2012-01-28

2012-01-27

2012-01-26

2012-01-22

2012-01-20

2012-01-15

2012-01-13

2012-01-06

2012-01-04

2011-12-16

2011-11-10

2011-10-11

2011-09-19

2011-09-12

2011-09-06

2011-09-04

2011-09-03

2011-09-02

2011-08-03

2011-08-01

2011-07-31

2011-07-26

2011-07-18

2011-07-02

2011-06-25

2011-06-11

2011-05-10

2011-05-09

2011-05-08

2011-05-06


ここの人気ページ
トップ10 (TotalCount)



前月 2012年5月 翌月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31