夕日が海に落ちていく。
堤防の上の道を、逃げるように歩き去る親友を、ぼくは呼びとめた。
「カッちゃん!」
半分だけ振り向いた、人形のように繊細な小作りの横顔が、黄金色の炎のなかで
シルエットになった。
「タッちゃん」
「どうしたんだ急にやめるなんて。信じられないよ」
カッちゃんは野球部唯一のキャッチャーで、ぼくの相棒だ。彼がいなければ、
ぼくも野球なんか続けられないよ。
「すまない‥‥みんなボクが悪いんだ。ボクのことは忘れてくれ!」
「待て、無理だろう現実問題として!」
カッちゃんは走って逃げようとしたが、その目の前に突然マネージャーの美波が現れ、
腕を組んで立ちはだかった。
そういえばこいつの家はすぐそこだった。
「そうよカッちゃん。逃げたって解決しないわ。タッちゃんに話すのよ」
どういうことだ。美波は何か知ってるのか。
「カッちゃんは高校野球に出られない体になってしまったの」
「なんだって! 高野連の陰謀か!? でもうち甲子園関係ないし」
「見た方が早いわね」
美波は一瞬でカッちゃんの背後に回りこみ、ポケットティッシュの袋を開くように、
彼のワイシャツを、一気に左右に引きちぎった。
細い肩と、スポーツマンとは思えない薄い胸、そこには‥‥
乳首を絆創膏で隠されているけれど、紛れもなく、大きくはないが柔らかそうな
乳房が膨らんでいた。
「そんなばかな!」
「なんてことすんだよ。これじゃ帰れないよ」
「うちに来なさい。あきらめて女の子の服を着るのよ」

二人が着替えている間、美波の部屋の外で、一人で待たされた。
さまざまな妄念が脳裏にぐるぐると渦巻いて、考えがまとまらない。
カッちゃんとは長い付き合いだ。一緒に風呂に入ったこともある。今さら女だなんて、
ありえない。でも‥‥
夕日の光に輝いていたあの乳房。
「入っていいわよ」
ジャージとスパッツになった美波がドアを半分開けた。
部屋の中には、うちの高校の制服を着た女の子が、恥ずかしそうに立っていた。
「カッちゃん‥‥なのか」
「タッちゃん」
適当にバサバサだった髪をとかして、ヘアピンで留めただけなのに、彼は‥‥
いや彼女は‥‥完全に女の子に変貌していた。いや、違う‥‥
「今までが、男に見せかける変装だったのよ」
ぼくの心を読んだように、美波が言った。
「でも、そんなことって。昔、確かに‥‥」
「付いていた?」
「うん」
「ヘルマプロディットって、知ってる?」
ヘルマプロディット。両性具有者。そうだったのか。
珍しくはない、と聞いてはいたけれど、カッちゃんがそうだったなんて。
ぼくがカッちゃんに向き直ると、カッちゃんは顔を上げて、ぼくと目を合わせた。
「黙っててごめん。怖かったんだ。ここ半年くらいで、体がどんどん女になって‥‥」
「体だけじゃないでしょう? もうごまかすのは無理よ」
「‥‥タッちゃん、ボクはタッちゃんが好きなんだ」
「そう‥‥だったのか‥‥」
それだけ言うのがやっとだった。耳の中でゴウゴウと音がする。
「カッちゃんはね、タッちゃんのそばにいたくて、ずっと男の子のふりをしていたのよ」
「美波、もういいよ。タッちゃん、ボク、気持ち悪いだろう? ずっと男友達だったのに。
さよなら、タッちゃん」
走り出した彼女を抱き止めるのに、ぼくは危うく間に合った。
「すると、ぼくは同性愛者じゃなかったんだな」
抱きしめて、耳元でささやくと、カッちゃんの股間がスカートの中で固くなり、
ぼくの同じ部分と触れあった。

「そうそう。上手上手」
信じられない。
カッちゃんが、脚を開いてベッドに腰掛けたぼくの前にうずくまり、美波のコーチで、
ぼくのペニスを舐めている。
「カッちゃん‥‥」
思わず声が洩れた。
「桂って呼んで」
「え」
「男だった時の名前で呼ばれると、ホモみたい」
「そう」
「タッちゃんもっと脚広げて」
美波も割り込んできた。
「バットだけじゃなくてボールも使わないと」
「何てこと言うんだよ」
二人の女の指と舌と唇に玩ばれ、ぼくの腰から下はもう自由がきかなくなっていた。
恥ずかしい。カッちゃんに射精の瞬間を見られちゃう。ぼくが生まれたままの
自分をさらけ出す瞬間を。
「桂」
ぼくはその瞬間の彼女の表情を見るのが怖くて、目をぎゅっと閉じたまま、
思い切り射精した。

桂はスカートの下には何もはいていなかった。
「女物の下着だと入らないのよ」
桂のスカートをめくり上げながら美波が言った。
ぼくと桂は場所を交代し、ぼくが桂の脚の間に顔を突っ込んでいる。
紅潮して汗ばんだ内股から、ひときわ赤いペニスが割れ目を押し広げて反りかえり、
硬く小刻みに震えている。
じっと見ていると、先端に透明な滴が盛り上がり、涙みたいにつーっと流れていった。
滴は、次々に湧き上がってはしたたり落ちた。
「いきなり男の子を舐めるのは抵抗あるでしょ。そっちは私がやるから。
タッちゃんは女の子の方を気持ちよくしてあげて」
言いながら美波は桂をベッドに押し倒し、その上に逆向きにのしかかった。
スパッツの股間に左手を当て、人差し指と中指で開くようにしながら桂の顔に
またがった。それから右手で空中に突き出したペニスを掴み、顔を寄せて、根元に
向かって舌を這わせていった。
ぼくも桂のあそこに密着したら、美波の息がかかるほど顔が接近して、思わず見つめて
しまった。
美波もぼくの視線に気づいて、なぜだか急に真っ赤になった。
「なっ、何見てるのよ!」
「ご、ごめん」
でも意識しないなんて無理だよ。桂の割れ目を舌で探っていると、ときどき美波と
舌先どうしが触れ合うんだもの。
目が合わないように二人とも目を閉じたら、事態はかえって悪化した。
なんだかもうどうしようもない。
何度目かに唇が触れたとき、ぼくらはとうとう舌を絡めてキスをした。
やがて桂のくぐもった喘ぎ声がだんだん高まっていき、湿ったすべすべの太ももが
ぼくの頭を締め付けた。
桂のお尻がベッドから浮いて強張った。同時に、液体が飛んで何かを直撃したような、
ピチャピチャという音がした。

桂の締め付けが緩んで、息を整えているぼくを、粘液まみれの顔を拭った指を
順番に舐めながら、美波がとろんとした目つきで見下ろしていた。
「ねえ‥‥しちゃおうか?」

それからぼくたちは裸になって、何度も何度も愛し合った。
桂の胸の絆創膏を、美波と手分けしてはがし、コリコリの乳首を一個ずつ分けあった。
美波も、桂とぼくに同時に攻撃されて、初めて聞く無防備な声ですすり泣いた。
交代で美波の中に射精した。桂を間にはさんで三人で繋がった。桂の膣内には、
ペニスの付け根の裏側にひどく敏感な部分があって、そこをぼくので突くと、
快感で身もだえしながら絶頂に達した。桂の筒のなかをほとばしる精液の脈動が、
ペニスごしに伝わってきて、ぼくも堪えきれずにいってしまった。

二人がかりで精を吸い尽くされて、ぼくはクラゲのように力なく横たわった。
でも、桂が寄り添って来ると、ほとんど感覚のなくなった下半身に、また何か
熱い流れが走るのを感じた。美波が体を重ねて来て、ぼくと桂のペニスを一度に口に
含んだ。
「タッちゃん、一緒に‥‥」
ぼくと桂は互いの体に腕を絡ませ、唇を貪りあいながら、やがて、美波の口に同時に
放った。
意識が闇の中に堕ちていく一瞬、神様が男と女と両性具有者をこの世に作った理由を、
理解したような気がした。

カッちゃん、いや桂はユニフォームを脱いだ。だけどぼくは野球を続けることにした。
大切な二人と出会わせてくれた素晴らしいスポーツなのだから。
でも、うちの高校の野球部は、マネージャーが二人になった代わりに、プレーヤーは
ぼく一人だけになってしまったんだ。

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最終更新:2007年05月13日 23:52